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2007年5月31日 (木)

President of TOSHIBA Speaks on NAND Flush Memory 西田厚聡(あつとし)東芝社長が、NAND型フラッシュメモリの微細化・超多値化について詳述

Electro-Device Occupies 50% of TOSIBA Profits 東芝の3分野、デジタルプロダクツ・電子デバイス・社会インフラ

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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1.        総合電機メ―カの体格プロポ―ションの変遷

1-1  総合電機各社それぞれに、代表的製品など、体格の特徴を想起してきたが、イノベ-ションの急進展で、その認識を適時修正してゆくことが必要である。

1-2  東芝の西田厚聡社長は昨日、東芝の「利益ある持続的成長」路線を説明したが、電子デバイスがその牽引力として主力を演じ、特にNAND型フラッシュメモリが「Leading Innovation」東芝の現況を象徴しているように、SANARI PATENTは理解した。

1-3  西田社長の説明(2007-5-30 帝国ホテルにて)の要点

1-3-1 NAND型フラッシュメモリ(SANARI PATENT 注:NOR型と比べて高密度集積が容易で大容量化に適し、書込速度が速い。東芝が先行開発)について、東芝は、他社に先行した微細化/製品化の加速を遂行してある。すなわち、微細化は「回路を形成する配線幅を縮小する製造技術であるが、配線幅の縮小は、製品のコスト削減に寄与する。

1-3-2 特に56ナノメ―タ化加速については、本年1月に量産を開始し、本年度第3四半期に50%超の当初計画であったのに、第2四半期に50%を超え、第4四半期には85%に達する見込みである。

1-3-3 並行して、超多値化技術(チップ上のセル、すなわち単位素子に、より多くの情報を記録する技術を開発しており、3ビット/セル、4ビット/セル技術の確立と市場の創出を行っている。

1-3-4 300ミリウエハ(SANARI PATENT 注:半導体基板)を使ったNAND型フラッシュメモリ製造棟の相次ぐ増設により、生産効率は急速に向上し、単位コストを急減し得る。

1-4 東芝は、研究開発費を売上高の5.3%計上し、本年度から3年間で、約1800億円増額するが、研究開発費の40%強を、NAND型フラッシュメモリを含む電子デバイスに投入する。

1-5 営業利益の構成において、電子デバイスが約半ばを占める。

2.経済誌の電機メ―カ経営指標における東芝

2-1 証券上場企業で電気機器に分類される社数が数百に達するから、総合電機、ケ―タイ、家電、部材、半導体など、事業内容を類別して指標評価することが適切とも考えられるが、東洋経済社は、上場315電気機器企業の指標ランキングを試みている。指標は、売上高営業利益率改善度、最終利益の対総資産比率、有利子負債の対株主資本改善度、設備投資増加率、研究開発費増加率、売上高増加率で構成され、3月時点では、1位・大日本スクリ―ン製造(半導体・液晶製造装置)、2位・イビデン(ケ―タイ配線基盤)、3位・安川電機(ロボット、サ―ボモ―タ、インバ―タ)、4位・東京エレクトロン(半導体製造装置)、5位・カシオ計算機(デジカメ)、6位・日本電産(精密小型モ―タ)、7位・浜松ホトニクス(光電子倍増管)、8位・横河電機(工業計器)などに続いて13位に東芝が掲げられている。

2-2 東芝は、総合電機メ―カのうちでは、各指標とも高得点で、研究開発費の増加率は高いが営業収支の損失率が一層高くなった他の総合電機メ―カ数社と対照的である。指標は長期的に考察すべきであるが、東芝以外の赤字総合電機メ―カにおける経営戦略と技術開発戦略の乖離については、別途の考察を要する。

2007年5月30日 (水)

Innovation of Agriculture: 改正種苗法と「植物の新品種の保護に関する国際条約」

Protection of New Varieties of Soybean, Rice-plant, Corn, Chrysanthemum 

「東アジア植物品種保護フォ―ラム」設置の提唱

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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  衆議院農林水産委員会は、5月10日に種苗法改正法案を可決したが、その際の質疑応答を要約する(SANARI PATENT関連記事May24

1.        アジアにおける植物新品種登録制度

1-1  農産知財の保護について、特にアジアにおける植物品種登録制度については、品目が未だ極めて少なく、また、わが国で登録されたものが海外でしっかり認知されていない現状にある。水際対策をいかに強化するか。

1-2  わが国の品種を海外で作付けして日本に輸出するというような事業に対応して、アジア各地域でいわゆる植物新品種の育成者権を、国際的統一基準により保護すべく、UPOV条約(SANARI PATENT 注:「植物の新品種の保護に関する国際条約。保護対象はイネ、トウモロコシ、大豆、落花生、馬鈴薯、綿、茶、トマト、キュ―リ、キャベツ、葡萄、バラ、菊など)に基づく措置等を講ずる。

  この条約に現在は、アジア諸国のうち日本、中国、韓国、シンガポ―ル、ベトナムが加盟しているが、他の国の加盟も促す。

  今後は、東アジアにおける品種保護制度の共通基盤を先ず構築すべく、わが国のインシアチブのもとで、東アジア植物品種保護フォ―ラムの設置を提唱する。

2.        DNA鑑定

2-1  都道府県の農業試験場がDNA鑑定を行っているが、農業改良普及員(SANARI PATENT 注:商工会の経営改善普及員のモデルになった制度)との連携などが必要ではないか。

2-2  知財戦略において、育成者権等の専門的知識を有する者などを含めて千人程度、今後3年間で育てることとしている。品種保護Gメンも増員する。

3.        日本からの農産品輸出

3-1        農産知財の国際保護確立について、輸出を含めて、どう取組むか。

3-2        平成18年には、わが国の農産物輸出は17年に対し13%の大幅増を示した。海外の日本食ブ―ム、アジアの生活水準向上による。米も中国に輸出できることになった。鹿児島から香港に向けて、牛肉の輸出も再開する。フランスでも、日本食の真価を広めている(SANARI PATENT 注:「日本食の認証という言葉が誤解を受けたことも反省)

4.        UPOV(植物品種保護国際同盟)の現状

4-1        わが国は1982年に参加したが、国際体制として現状はどうか。

4-2        UPOV(SANARI PATENT 注:The International Union for the Protection of New Varieties of Plants))は現在、世界の加盟数63で、共通の原則に従って品種保護制度を整備している。わが国は年間1500万円をUPOVに拠出すると共に、新品種の審査基準の作成、DNA技術応用に協力している。

5.        SANARI PATENT所見

人口30億人超のアジアを始め、世界人口の増加(途上国のみでなく、米国も、昨年末に人口3億人を超え、2042年に4億人に達すると推計されている)と生活水準の向上に伴う食品・バイオエネルギ―供給の見地からは、農林知財として最も重要な主題(Subject Matter)は、遺伝子組換動植物の開発であると考える。

わが国でも、遺伝子組換動植物の食用については、実証を欠きつつ安全性の疑問が絶えないが、農林水産省は、装飾用の花やバイオエネルギ―から定着させる方針(近く新検討会設置)のようで、その知財成果は極めて注目される。

  

2007年5月29日 (火)

For Motion Picture Industry 本年8月末に「映画盗撮防止法」施行・著作権法の一部改正

Movie Theater must Protect Itself 複製権の対象除外規定から「映画館等での複製」を除外する議員立法

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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  映像産業の振興は、内閣知財戦略本部の知財推進計画中、コンテンツ政策 の重要な課題であるが、「映像産業」には、映画、TV放送、ゲ―ム、アニメ(マンガ・コミックの動画化を含む)等を包含し、その中核としての映画産業の多様な振興政策が計画されてきた。

 

 しかし、映画の盗撮防止については、政府の措置に先立って、国会議員立法による映画盗撮防止法(映画の盗撮の防止に関する法律)が第166回国会で5月23日に可決成立し、8月末施行の段取りとなった。なお、提案者は、衆議院・上田勇経済産業委員長である。

 著作権法の改正が主要な内容であるから、文化審議会との関係などから見ても、異例の経過であるが、映画産業の「産業」性により、盗撮防止のための措置(映画館の努力義務)などが経済産業省の主管であることが国会審議過程で明示されたことを、SANARI PATENTは、コンテンツ振興法(同じく議員立法)の場合よりも明快であると考える。

 昨年は、「ダ・ヴィンチ・コ―ド」「硫黄島からの手紙」「ケド戦記」「武士の一分」など主要な作品について日本の映画館で盗撮が行われ、映画業界に大きな被害を与えたと推測されている。

 わが国の映画館については、盗撮被害が年間約180億円と推定される。

1.        映画盗撮防止法の目的

法の第1条(目的)は、「この法律は、映画館等における映画の盗撮により、映画の複製物が作成され、これが多数流通して映画産業に多大な被害が発生していることにかんがみ、映画の盗撮を防止するために必要な事項を定め、もって映画文化の振興および映画産業の健全な発展に寄与することを目的とする。」と定めた。

2.        盗撮の定義

次のように定めた。

第2条1項3号(盗撮の定義)映画館等において観衆から料金を受けて上映が行われる映画(映画館等における上映に先立って観衆から料金を受けずに上映が行われるものを含み、著作権の目的になっているものに限る)について、当該映画の映像の録画または音声の録音をすることをいう。

3.複製権の例外の例外

著作権の内容として複製権があり、例外的にその対象外として、私的な複製、自分の個人的な利用のためにコピ―することが認められている。今次映画盗撮防止法は、さらにその例外として、すなわち、私的な複製であっても複製権による禁止を受ける複製として、「映画の盗撮」を法定した(現行著作権法第30条1項の適用除外対象と定めた)。

4.経済産業省の対応

録画・録音機器の持込禁止、持込の検査、預かりなどの対策を講ずること、観客に、盗撮の発見・防止の協力を求めること、従業員に対する対応マニュアルを作ること、監視システムを構築することなどを考えている。

5. SANARI PATENT所見

   中高生がケ―タイでちょっと撮るのも、罰則条文のみからは、上限10年懲役の親告罪該当と法定されたが、法の目的から、現行犯的取扱はされないと考える。三脚を立てて盗撮する光景も放置される場合があったようであるが、これは、「恐い怖い筋」の資金源との旨が国会答弁されている。

  なお米国など、同様趣旨の映画盗撮防止制度を有する国の防止ノウハウを参考とすべきである。

2007年5月28日 (月)

METI Study for Inventiveness: 電子ショッピングシステム知財高裁5月24日判決における進歩性要件

Patent for e-Shopping Bonus Mechanism 容易想到性審査基準の適用例: 経済産業省・特許庁の「進歩性」検討状況

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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  特許庁に対する審決取消請求事件の知財高裁判決が相次いでいるが、日米欧共通の課題である「発明の進歩性」(米国特許方法では「非自明性」)に関する判断がその核心をなしている。

  

  標記知財高裁判決は、Xら3名が「電子ショッピングシステム」発明について共同出願し(H12-6-29)、補正を経て、拒絶査定を受けた(H16-3-15)ので、特許庁に不服審判請求し(H16-4-15)、特許庁は、「本件審判請求は成立たない」と審決した(H18-11-29)

    Xらは、知財高裁にこの審決取消を請求したが、知財高裁はこの請求を棄却した(19-5-22)

 

1.進歩性判断の事例として

1-1 上記経過において、審決が認定した「本願発明と従来技術」の主要な相違点は、次の諸点である。審決は、これらの相違点があっても、本件発明は、従来技術から容易に想到でき、特許性を欠くとした。

1-1-1 このシステムによるショッピングの特典の内容が、本願発明では「割引」、従来技術では「ボ―ナスポイント発行」である。

1-1-2 処理手段が、本願発明では「サ―バ」と明記、従来技術では明記せず。

1-1-3 本願発明では「処理手段が売上額累計・特典条件充足判断・特典付与の手段を有する」が、従来技術では「処理手段が来客者の人数計算に関する」。

1-2 原告は、上記について相違点の認定が不十分ないし不適切と主張し、従来技術からの容易想到性を否定した。

2.知財高裁の今次判断(要旨)

2-1 原告は、「特許請求の範囲の中の特定の記載は、その全体の記載の中で解釈すべきものであるから、本願発明の『予め設定した条件を満足する』は、その特許請求の範囲に記載された特定の条件を満足することを意味すると解するべきである」と主張するが、従来技術の「売上合計額が目標に達する」は、本願発明の「予め設定した条件を満足する」に相当するということができる。

2-2 従来技術の「処理装置が売上金額を累計し、その類型額が購入条件テ―ブルに格納されている予め設定したボ―ナスポイントを発行する条件を満足し

たときは、処理装置が購入者に対してボ―ナスポイントを発行する点数管理システム」から、当業者ならば、本願発明を容易に想到することができる(SANARI PATENT 注:この「容易に想到できる」という判断の論理構成が日米で現時点の課題になっている)

3. 経済産業省・特許庁における進歩性判断基準の検討状況

3-1 発明の進歩性判断の検討は、経済産業省においてどの程度進んでいるか、本年4月4日の経済産業省産業構造審議会知的財産政策部会(部会長・中山信弘東大大学院教授)の段階では、経済産業省の報告は次のように述べている。

3-1-1 進歩性とは、発明が、先行技術から見て、当業者が容易に思いつく(発明することができる)程度のものではないことを意味し、その発明が特許を受けるためには、進歩性があることが要求される(SANARI PATENT 注:非容易想到性を意味する)

3-1-2進歩性の判断については、国内外において議論が高まっており(SANARI PATENT 注:進歩性という用語自体が国際的に統一されていない。例えば、米国では非自明性・Un-obviousness)、特許庁は、平成18年度に、個別事件の事例研究を行うと共に(SANARI PATENT 注:要するに、審決取消請求事件等の知財判例の解析を主内容とする)、国際的な制度・運用の調査研究を行った。

3-1-3 わが国内における問題意識としては、「日本における進歩性の判断が欧米と異なるため、進歩性判断の一層の国際調和が必要であるとの声や、特許庁・裁判所の進歩性判断が厳しくなっているのではないかとの指摘がある。しかし、このような指摘は、進歩性判断のどの点を問題にしているのか明らかでない(SANARI PATENT 注:少なくとも、特許庁の審査と審決、特許庁と知財高裁における判断の相違を問題としている)。ただし、次のような指摘が注目される。

3-1-4 審決の進歩性判断の説示については、充分な論理構成を示していない事例がある。さらに、適切とはいえない論理づけを行っており、出願人・請求人の納得感を得られていない事例もある。

   出願明細書の不備等、出願人・請求人側の問題で進歩性が認められなかった事例もある。

3-2 米国では従来、CAFC(連邦巡回控訴裁判所)において採用されてきた進歩性判断の手法(SANARI PATENT 注:グラハム基準等)が、進歩性の低い特許を認める原因になっているとして、産業界等から批判があり、現在、その是非が連邦最高裁で審理中である(5月に入って、この件についての進捗が見られる。SANARI PATENTMay26:「米国特許商標庁の対応」ご参照)。

3-3 英国では、UKPO(英国特許庁)が、「進歩性のレベルが経済に与える影響が強い」との認識のもとに、進歩性について産業界に対する調査をしたが、現在のレベルは妥当という結論を得ている。

2007年5月27日 (日)

Patent Claim for Golf Club Head 特許庁が有効審決したダイワ精工の本件考案を、知財高裁は無効と判決(2007-5-22)

ゴルフクラブのイノベ-ション: 構造・素材・デザインの全てに知財を凝縮

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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グロ-バルに多角的知財開発が活発なゴルフクラブ関係業界であるが(今次知財高裁判決の裁判所判断には、ゴルフクラブ関係の米国特許も引用されている)、野村證券によれば、ヨネックス(東証2部)の特色は、「圧倒的シェアのバドミントンとテニス・ゴルフが3本柱のメ―カ。プロ選手との契約を促進」。ダイワ精工(東証1部)の特色は、「釣具は世界トップ。ゴルフ・テニスなど総合スポ―ツメ―カを志向」。

1.        知財高裁が、特許庁審決の取消請求を認容(判決5月22日)

1-1  経緯

被告ダイワ精工(訴訟代理人:鈴江武彦弁理士、 河野哲弁理士ほか)が有する「ゴルフクラブ用ヘッド」実用新案登録について、原告ヨネックス(訴訟代理人:一色健輔弁理士、青木康弁理士)が無効審判請求したところ、特許庁は、この請求は成立たないと審決したため、ヨネックスが特許庁の審決の取消を知財高裁に求め、知財高裁は、ヨネックスの請求を認容した。

1-2  本件考案の要旨(SANARI PATENT において要約)

1-2-1        請求項1 次の特徴を有するゴルフクラブ用ヘッド

1-2-1-1           少なくとも、フェ―ス部とホ―ゼル部とを異なる部材で形成する。

1-2-1-2           フェ―ス部とホ―ゼル部のシャフト嵌入部とは反対側のホ―ゼル部のフェ―ス部側との間に、使用するゴルフボ―ルの外径曲率より大曲率の凹部を形成する。

1-2-1-3           この凹部に、フェ―ス部とホ―ゼル部との連結部の境界線を位置させる。

1-2-2               請求項は、上記1個である。

2.        特許庁の審決の要点

2-1 本件考案は、ヨネックスが提出した刊行物記載の考案ではない。

2-2 本件考案は、上記刊行物記載の考案に基づいて当業者が極めて容易に考案することができたものでもない。

2-3 従って、ダイワ精工の本件考案を無効とすることはできない。

3.        知財高裁の判断(本件考案は無効)

3-1  特許庁の審決は、争点である相違点に係る本件考案の構成について、「(刊行物技術との相違点は)使用するゴルフボ―ルの外径曲率より大曲率の凹部を形成した点である」と認定したことは明らかである。

3-2  しかし、審決は、ヨネックスが参考資料により主張した「使用するゴルフボ―ルの外径曲率より大曲率の凹部を形成することは周知である」との主張を排斥したものである。

3-3  しかしながら、上記3-2参考資料は、ゴルフクラブ20数種類について、それぞれのフェ―ス部とホ―ゼル部との間の凹部に、ゴルフボ―ルを接着した状態の写真であるが、いずれの写真においても、ゴルフボ―ルの外周面と、フェ―ス部とホ―ゼル部との間の凹部との間に、三日月状の空隙部が形成される様子が示されている。従って、本件実用新案登録出願当時、「ゴルフクラブ(アイアン)において、フェ―ス部とホ―ゼル部との間の凹部の曲率を、使用するゴルフボ―ルの外径曲率より大曲率とすることは、周知技術(SANARI PATENT 注:ないし容易想到技術)であったと認める」。

3-4  その他のダイワ精工の主張も、審決の判断が誤りであるという結論に影響を与えるものではない。

4.        SANARI PATENT所見(証拠資料の提出時期)

今次知財高裁判決において、ダイワ精工が「審判において提出されなかった証拠を、審決取消訴訟において新たに提出して審決取消の理由とすることは許されない」と主張したのに対して、知財高裁が、「当該証拠は、周知技術の存在を裏付ける補強資料として提出されたものに過ぎないから、これを本訴における証拠資料の一部とすることが許されないものではない」と判示していることも、実務上、参考になる。

2007年5月26日 (土)

USPTO’ MPEP( Manual of Patent Examining Procedure): 米国特許審査基準改定の可能性はあるか: 米国最高裁のKRS事件決定に対する米国特許商標庁の対応(2007-5-3)

Requirements for Patentability 新規性・非自明性・進歩性・有用性(米国グラハム基準適用の硬直性は緩和されるか)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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  米国特許法の運用上、特許付与が拒絶される最多理由が、「非自明性」要件を充たさないことである。従って、その認定基準の変更の可能性は、米国産業界の重要な関心事であると共に、グロ-バルな関心事である。

1.今次KSR事件に関する米国最高裁決定(2007-4-30)の重要性と米国特許商標庁の対応(2007-5-3)

1-1 わが国産業界関心の背景に日米特許審査ハイウェイ

わが国内閣知財戦略本部は、「日米欧三極特許庁間の努力により、既に特許審査基準の調和に向けた取組が相当に進んでいる」とし、「日米欧三極特許庁相互に、特許審査に際しサ―チを重複的に行わずに第2庁が速やかに特許付与の諾否を決めることができるよう、審査結果の相互利用を進める特許審査ハイウェイを構築することを知財戦略の基本的な柱としているから、SANARI PATENTは、日米特許庁の特許審査基準の調和、さらには実質的同様化(基幹事項の同一化)を、最優先課題であるべきものと考える。

1-2 日米特許審査基準

  特に、わが国における特許性「新規性・進歩性・産業上利用可能性」と、米国における特許性(patentability)「新規性・非自明性・有用性」との整合は、特許審査結果を相互承認するための基礎をなすものである。

  このうち「新規性」は、「従来技術と同一でないこと」「従来技術と異なること」として、日米の特許審査基準は実質的に同じ内容を定めている。

  今回の事件を契機として再検討課題となるのは、米国の「非自明性」とわが国の「進歩性」の整合性である。

1-3        米国特許商標庁の5月3日付け公報の意義

米国特許商標庁の特許担当次官(Deputy Commissioner for Patent Operations)から技術センタ-運営官(Technology Center Directors)に宛てた覚書「KSRの対テレフレックス提訴に関する最高裁決定」(May 3, 2007 SUBJECT: Supreme Court decisions on KSR Int’l.Co.,v. Teleflex, Inc.) は、米国特許審査基準の改定の可能性を検討するための重要な資料である。

2.米国特許商標庁・5月3日付け公報の内容(要旨)

2-1 米国最高裁は、本年4月30日に、KSR対テレフレックスの「自動車ペダルの電子センサによる位置調節」に関する特許権の有効性を争う訴訟について、巡回地方高裁の判決を認めない決定を示した。

2-2 この決定は、特許性の要件のひとつとして米国特許法103条(SANARI PATENT 注:同条は長文であるが、第1項に、「非新規性の要件が充たされても、当業者にとって、従来技術から請求項の発明が自明ならば、特許を付与しない」という定め方をしている)が定める「非自明性」の判断に関するものである。

2-3 すなわち、従来技術の要素の組合せによって請求項が構成されている場合に、「非自明性」の要件を充足するか否かの判断基準に関するものである。

2-4 米国特許商標庁は、今次最高裁決定を検討中で、近く特許審査に関するガイドラインを示すが、このガイドラインが発出されるまで、次の事項に留意すべきである。

2-4-1 最高裁は、「非自明性」の認定における「グラハム基準」(1966)の存続を再認していること。すなわち、「従来技術の範囲と内容の確認」「従来技術と請求項の差異の確認」「発明時における当業者の技術水準の確認」「2次的配慮事項の評価(SANARI PATENT 注:商業的成功など)」の4基準を再認している(SANARI PATENT 注:4基準の適用の仕方についての見解が、米国特許商標庁、地裁、高裁、最高裁で分かれたのが今次事件)

2-4-2 2-4-2 また最高裁は、「教示」「示唆」「動機付け」の3要素を、「非自明性」の判断において全面的に否定したのでもない(The Court did not totally reject the use of “teaching, suggestion, or motivation” as a factor in the obviousness analysis)

2-4-3 最高裁はしかし、上記2-4-2の硬直な適用(rigid application)を否定(reject)している。

2-4-4 すなわち、最高裁は、「従来技術の組合せによる請求項を、自明性により拒絶しようとする場合には、当業者が従来技術を請求項記載のように組合わせるのは何故かの理由を明示(identify)することが必要である」と述べている。

3.SANARI PATENT所見

  KRS事件は、電子センサによる自動車のアクセル制御機構の調整に関するものであるが、グラハム基準の適用の在り方は、全業種の特許権の法的安定性に影響する。米国で、マイクロソフトその他の大企業が関心を表明している所以である。

2007年5月25日 (金)

Cartoonist Ms.M.SATONAKA as Cabinet IP policy Headquarter Member: マンガ家・里中満智子内閣知財本部員に期待

Web-Cartoon Museum: 日本マンガ(最近は「コミック」も含む)の感性を世界のウエブに発信する構想 

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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 近く決定される内閣知財戦略本部知財推進計画06審議の主役は、本年3月にほとんど全員新任された10名の有識者本部員であることが期待されるが、その中でも、マンガ家・里中満智子内閣知財本部員は、予ねて世界歴史に対する考察も深く、その著作のテ―マと内に対するグロ-バルな関心・興味が注目されてきた。5月23日のNHK全国TV「その時歴史は動いた」においても、

奈良の大仏建立時代を支配した女帝の明晰と宮廷勢力の葛藤について明快な解説と所見を披露し、学識の深さに聴視者を感嘆させたと考える。

 コンテンツ政策についてSANARI PATENTは、デジタルコンテンツへの偏向を牽制する発言を繰り返してきたが、マンガは、アニメにデジタル化すると共に、マンガ本のアンログコンテンツとして全世界に普及し、日本的ファッションや美感のソフトパワ―を世界に発信している。

 すでに知財推進計画06は、「日本のマンガやアニメの貴重な資料の収集と、海外からの視察者等への一元的な情報提供」などを計画したが、マンガ家・里中満智子内閣知財本部員の内閣知財戦略本部における本年度当初発言を以下に要約し、その実現に期待したい、

1.        マンガサミットの拡大

1-1  東アジア5地域(日本・韓国・中国・香港・台湾)のマンガ家達に呼びかけて、1996年から、「文化交流」「感動の共有」「著作権」をキ―ワ―ドとして、合同の展示会や研究会を開催してきた。参加国は26に達している。

1-2  第8回は本年香港で、第9回は来年、京都で開催する。

1-3 わが国では全てマンガ家達が資金調達しているが、他国、特に中国・韓国では、「マンガビジネスによる経済効果」と「世界にマンガ文化を発信する中心地になりたい」という国の政策によるところが大きい。

1-4 わが国ではNPO組織にして努力しているが、運営は苦しい(SANARI PATENT 注:デジタルコンテンツとしての面では経済産業省が措置するかも知らないが、著作権としては文部科学省の所管で、同省の文化芸術政策が大いに期待される)

2.        ウエブマンガ資料館の構想

2-1 日本ではマンガが著しく発展し、世界中の若者が日本でマンガ家になることに憧れている。日本のマンガの発展と多様性は、日本人の感性が築けあげた誇り高い文化である。

2-2 しかし、わが国には未だマンガ資料館がない。デジタルの次代であるから、ウエブ上で「日本マンガ資料館」を構築し、世界中に配信したい。それはわが国の感性をPRする機会であり、文化遺産というべき過去のマンガを活かす取組でもある(SANARI PATENT 注:「文化庁にも協力いただける予定」と付言されたが、協力が実現すれば、デジタルコンテンツとIT活用への文化庁の助成として、画期的慶賀事である)

3.        SANARI PATENT所見

  週間文春531日号についての朝日新聞広告(2007-5-24)で、「気をつけろ、(小学生が読むマンガ)少女コミック、物凄い性描写(近親・調教など)」が注目された。内閣知財戦略本部と文部科学省も、購読かつ注目されたい。

2007年5月24日 (木)

Brands of Agriculture Products: 育成者権強化の種苗法改正法成立

IP Strategy Headquarters of Agriculture Ministry: 北海道「きたのおとめ」の事例など

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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種苗法改正法案は、参議院先議を経て5月11日に衆議院で可決成立した。特許権が百年余の歴史を経たのに対し、種苗法に基づく育成者権は、法的に確立されてから約10年の若年知財権である。弁理士としては、工業所有権という呼称に慣れて、農産の知財権に没入してこなかった感があるが、昨年、地域団体商標制度の発足により、農産品に関する地域団体商標登録に数多く関与することとなったのに引続いて、今次改正種苗法により種苗権が「農産製品」に及ぶこととなったから、その製造工程や製造方法に関連して特許権との関係上も、益々密接な関与の機会を得ることとなる。

既に内閣知財戦略本部の知財推進計画06は、「植物新品種の保護の多面的な検討」「育成者権者の許諾を必要とする植物の範囲の拡大」「加工品について侵害品判定を容易にするためのDNA品種鑑別技術の開発」などを計画しているが、近く決定される知財推進計画07において、政策がさらに増強されると考える。

この機会に、5月10日の衆議院農林水産委員会における質疑応答を要約しておく。

1.        今次改正の主眼

1-1        特許法・著作権法等との比較を含めて、改正種苗法の主眼は何か。

1-2        平成10年と比べて、育成者権出願件数は878件から1290件、登録件数は784件から1235件、育成者権の譲渡件数が15件から106件と、活発化している。

問題化事例としては、北海道の小豆登録品種「きたのおとめ」の収穫物を、平成16年に、中国から違法に輸入・販売しようとした団体に対し北海道庁が警告文書を出した結果、その団体がその品種およびこれを用いた「あん」の輸入を自粛した事例がある。

2.        水際対策の実施件数

2-1        水際対策の事例はあるか。

2-2        隠元豆、苺、イ草、桜桃、あん、カ―ネ―ション、エリンギ、輪菊、小豆など10件ほどである。

3.        今次改正の主要点

3-1        改正法により、何を重点とするか。

3-2        「育成者権侵害に対する罰則を強化し、故意の権利侵害を防ぐこと」「仮に侵害を受けても円滑な損害回復ができるよう、訴訟上の救済を円滑にすること」「虚偽の品種登録表示の禁止など、表示を適正化すること」である。

4.        農林水産省の知財対策

4-1        農林水産省の知財戦略本部は、どのような方向性か。

4-2        農林水産省の知財とは何かを先ず考えた。植物新品種、動物等の遺伝資源(SANARI PATENT 注:農産品における遺伝子組換知財についての言及が望まれる)、ノウハウ、機能性食品の製造技術、地域ブランド、農村の景観などである。

知財本部では、品質、食味、産地、つくり方などの差別化を最初になすべきであると考える。

 戦略としては、今次種苗法改正による権利侵害対策、知財の創造・活用のため知財の取扱方針(この6月中にまとめる)策定である。

2007年5月23日 (水)

Bridgestone Tire Design ブリジストンの意匠権主張、知財高裁の判断(2007-5-15判決)

Similarity of Design 意匠権の機能の複合性とグロ-バル性: 創作権と識別子権、ファッションと機能、美感と実用、ブランド・プロパティの構成要素

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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  改正意匠法が施行され、意匠権の存続期間が特許権と同じく20年間に延長されると共に、「意匠の定義を見直して、物品(SANARI PATENT 注:例えば、ケ―タイ)がその機能を発揮できる状態にするための操作の用に供される画像であって、その物品に表示されるものを保護対象的にする」「意匠権の使用に輸出を含む」「意匠権侵害の罰則を大幅に引き上げる」「意匠権の類似範囲を明確化し、登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする」などの実施に至った。

  

商品流通のグロ-バル化は、言語障壁や学力格差無しに認識可能な識別子である意匠権の国際的重要性を著増させると共に、創作権として機能性・ファッション性等を発揮し、特許権・商標権・ブランド・コンテンツ・文化芸術著作権・カタログ著作権などとの総合的権利の中核たる重要性をもつ。

  特に自動車タイヤのように生命身体の安全性にも直結する商品において、識別機能は、極めて重要であり、ブリジストンがその意匠について詳細に主張したことは、企業責任を全うしようとする行動と考えられる(SANARI PATENT 注:ブリジストンは、そのタイヤ基盤技術「ド―ナツ」等についての情報を同社HPに示している)

  先日(平成19年5月16日)の知財高裁判決は、ブリジストンの主張を認めなかったが、知財高裁の判断を以下に要約する。

1.        ブリジストンは、本願意匠と引用意匠は、具体的態様が異なると主張するが、知財高裁は、具体的態様が共通すると認める(凸凹部のブロックの態様について)。

2.        ブリジストンは、内側帯状部のブロックの形状について、本願意匠と引用意匠には顕著な差異があると主張するが、知財高裁は、基本的形状において共通し、「特許庁の審判理由の全てが適切ではないが、これは審決の結論に影響するものではない」と判断する。

3.        ブリジストンは、外側帯状部の切り欠きについて、基本的構成態様の差異であると主張し、「この切り欠きの有無は、自動車用タイヤの需要者にとって、本願意匠と引用意匠が使用目的・機能においてタイプの異なるタイヤであることを感受させる視覚的差異であり、意匠全体の基調を決定付ける基本的な差異として認めるべきである」と主張するが、知財高裁は、「意匠とは、物品および物品の部分の形状・模様・色彩・これらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものであり、使用目的・機能の違いが直ちに意匠の骨格である基本的構成態様の差異となるものではない」として、ブリジストンの主張を採用しない。

4.        ブリジストンは、本願意匠と引用意匠の具体的態様の対比において、内側帯状部の各ブロックの形状が異なると主張するが、知財高裁は、「基本的な形状は共通する」としてブリジストンのこの主張を採用しない。

5.        ブリジストンは、ブロックの連携態様について、違いを主張するが、知財高裁は、「引用意匠の上下のブロック間の溝も、ブロックの形状および縦溝の幅に比べるとき、ブリジストン主張もようにやや広幅の溝といえるものでない」などと判示し、ブリジストンの主張を採用しない。

6.        ブリジストンが主張するその他の差異について、知財高裁は、「取引者・需要者に強く印象付けられ、その注意を強く惹くものとまで断定することはできない」とし、「本願意匠と引用意匠は、類比判断を左右する要素において共通しているものであるから、意匠全体として類似するものというほかない」として、ブリジストンの主張を認めない。

2007年5月22日 (火)

Innovation of Innovation: 経済産業省(産業構造審議会)「イノベ-ション創出の鍵とエコイノベ-ションの推進」中間報告(200-4-24):; 意見期限・明後日

METI Promotes Eco-Innovation: イノベ-ションの内容、標準化スキ―ムの多様性、ノウハウ秘匿の具体的方策についてSANARI PATENT意見を提出

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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  安倍内閣発足時の総理就任演説のキ―ワ―ドは、「美しい国」と「イノベ-ション」であった。イノベ-ションは、生産性の革新により格差解消の経済基盤構築と、生活環境・感性の高質化とを同時に達成するものであるから、経団連の「希望の国」起動力でもある。

  経済産業省の、「ぜひ忌憚のない御意見をいただきたく」という表現を正直に受けとって、SANARI PATENTとしては、次のように意見を送信済みであるが、「イノベ-ションの内容は、そのままエコイノベ-ションであるように」、すなわち、「イノベ-ション=エコイノベ-ション」として、別立てを用いず日本発のエコイノベ-ションサミットなどを希求する趣旨である。

意見Ⅰ イノベ-ションの内容について

1-1 意見の概要

   新しいイノベ-ションとして「エコイノベ-ション」を別立てせず、エコイノベ-ションを内包する「イノベ-ション」の在り方を立案すべきである。

1-2 意見および理由

1-2-1 イノベ-ションの簡潔・明確な定義を、先ず述べるべきであるが、「社会経済の改革を実現する技術革新」とすることが望ましい。このうちには、エコイノベ-ションが当然内包されるから、別立てすることは煩雑かつ無用である。(SANARI PATENTとしては、科学技術会議の定義は生硬と考える。経団連は、狭義のイノベ-ションとして技術革新、広義のイノベ-ションとして社会経済のイノベ-ションと考えているようであるが、広義のそれに一本化する方が分かり易い)

1-2-2 案に、「新しいイノベ-ション」として「エコイノベ-ション」が、「環境重視・人間重視の技術革新・社会革新」であると述べているが、このような理念ないし目的は、今後推進すべきイノベ-ションの全てに内包されていなければならない。

1-2-3 案に、「循環利用・多段階型ビジネスモデルの創出」、「モノ売りから機能売りへ」、「感性価値の創造」等々、エコイノベ-ションの特徴として記述しているが、何れも現に追求され、今後のイノベ-ション全般で総合的に実現しょうとしているところと何ら異ならない。

意見Ⅱ 国際標準化について

2-1 意見の概要

  「デファクトからデジュ―ルへの転換」および「経営と標準化の乖離」の記述は、「多様な国際標準化のスキ―ムの推進」および「一部経営~」とする。

2-2 意見および理由

2-2-1 標準化の目的とその形成過程は多様であり、一律に方向性を規定することは適切でない。近く策定される内閣知財戦略本部の知財推進計画07原案においても、「多様な国際標準化スキ―ムの戦略的活用を推進するなど、企業の国際標準化への自主的な取組を強化する」と明示している。

2-2-2 ITUを中心とする国際標準化は、数十年の歴史を経ているが、知財と市場制覇の能力を発揮した企業ないし企業群の提案が標準化されている。デファクトが基礎となってデジュ―ルが構築されることは明白である。従って、国際電気通信の分野では、数十年来、経営と標準化は密着しており、全産業一律に「乖離」と評することは妥当でない。

意見Ⅲ ノウハウについて

3-1意見の概要

  「デファクトからデジュ―ルへの転換」および「経営と標準化の乖離」の記述は、「多様な国際標準化のスキ―ムの推進」および「一部経営~」とする。

3-2意見および理由

3-2-1 標準化の目的とその形成過程は多様であり、一律に方向性を規定することは適切でない。近く策定される内閣知財戦略本部の知財推進計画07原案においても、「多様な国際標準化スキ―ムの戦略的活用を推進するなど、企業の国際標準化への自主的な取組を強化する」と明示している。

3-2-2 ITUを中心とする国際標準化は、数十年の歴史を経ているが、知財と市場制覇の能力を発揮した企業ないし企業群の提案が標準化されている。デファクトが基礎となってデジュ―ルが構築されることは明白である。従って、国際電気通信の分野では、数十年来、経営と標準化は密着しており、全産業一律に「乖離」と評することは妥当でない。

2007年5月21日 (月)

Eco-Innovation Related Patent Claim: 発明の明確性のポイント: 明細書の複数の図を総合することによる知見

Elements of Patentability::アサヒ飲料と独立行政法人の出願について知財高裁4月25日判決(第2回)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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  経済産業省の「エコイノベ-ション」が、サッミット洞爺湖(2007-7)の標語になり、機能性日本茶の評価が、グロ-バルに高まることも予想される(エコイノベ-ションについては、明日記載)

  機能性飲食品の多様化・高度化が、日米欧・BRIICS(BRICs+Indonesia+South Africa)の経済発展各地域の特色を発揮しつつ活発で、関連特許出願も増加中である。日本茶の一例についての考察を継続する。

 経済産業省が唱導する「エコイノベ-ション」の端緒になるかとも考える。

2-1-2(承前Apr28記事)アサヒ飲料と独立行政法人農業食品技術総研が主張する「審決の同一性認定の誤り」

2-1-2-1 引用例1には、具体的な抽出温度範囲について一切記載がなく、「抽出温度は特に限定されるものではなく、通常は室温~常圧下で溶剤の沸点の範囲が作業上都合がよい」との漠然とした記載である。「茶の抽出に用いられる水」は、一般に室温から沸点の範囲にあるから、引用例の「室温から沸点」という文言は、「茶の抽出に用いられる水」の全温度範囲を指すもので、温度の規定にはならない。

2-1-2-2 また、当業者の技術常識では、本件発明の下限値50の水と、引用例の「室温の水」が異なることは明らかである。

2-1-2-3 審決は、引用例の実施例の「沸騰蒸留水」という文言のみで、抽出温度範囲が一致すると認定した誤りがある。

2-1-3 同じく「作用の不一致」についての認定の誤り

2-1-3-1 本件発明の抽出時間は「3~5分」であるが、引用例では「10分から6時間の範囲が好ましい」としている。熱異化性は可逆的で、一定の時間・温度を超えると平衡状態に達することは当業者の常識であり、抗アレルギ―活性が抽出時間の経過と共に、線形的に上昇するとは限らない。

2-1-3-2 抽出が一定時間を超えると、メチル化カテキンが分解し、抗アレルギ―活性低下の可能性がある。

2-1-3-3 本件発明では「緑茶」と「茶葉」の用語を使い分け、「緑茶」は「緑茶飲料」である。引用例の抽出条件では、飲料としてそのまま用いることができないことは明らかである。

2-1-3-4 従って、本件発明における熱異化性反応を理解するに当たり、時間のパラメ―タは熱のそれと同程度に重要であるのに、抽出温度の1点のみの一致を理由として、作用の同一を自明とした審決の判断は、当業者の技術常識に反し、誤りである。

2-1-4 同じく「明細書の記載要件の判断の誤り」

2-1-4-1 審決は、「本件明細書等を参酌しても、カテキン類の異性化が促進されることが確認されていない」から、「当業者が本件発明を実施できる程度に明確・十分に記載されず」、従って、本件出願は特許法36-4-1の記載要件を満たしていないと判断した。

2-1-4-2 しかし、審決の判断には、次の点を看過した誤りがある。

2-1-4-2-1 本件明細書の図2、図3を総合すれば、高温域で抽出することによりカテキン類の異性化が促進されることが示唆されている。

2-1-4-2-2 また、検量線にも示されている。

2-1-4-2 特許庁は、「本件明細書の図2について、「温度上昇に伴いEGCG3メチルとGCG3メチルの抽出量が増加したものと考えられ、このデ―タによっては、異性化が促進されているとは認められない」と認定している。

2-1-4-3 しかし、本件明細書の図2と図3を総合すれば、高温域における抽出によりカテキン類の熱異性化が促進されることが示唆されている。また、図2と図3を基に作成した検量線にも、「本件発明における50℃~100℃の高温域抽出により、緑茶の抵アレルギ―成分であるカテキン類の熱異性化が促進されること」が示されている。

2-1-4-4 従って、特許庁が図2記載のデ―タから得られる知見のみで、「熱異性化が促進されるとはいえない」とした認定判断は誤りである。

2-1-4-5 特許庁は、「異性化後のEGCG3メチルとGCG3メチルの含有量が異性化前のものと比べて変化することを確認できることが不可欠であるのに、本件明細書の図2と図3からは、これが不明である」と主張する。しかし、図2と図3には各温度におけるカテキン類の抽出量が記載されているから、上記変化は、当業者が容易に推測できる。

2-1-5 同じく「判断の遺脱」(以下次回)

2007年5月20日 (日)

What is Textile Industry ? 経済産業省「繊維産業の展望と課題:技術と感性で世界に飛躍するために-先端素材からファッションまで-」に対する意見

Co-Existence of High-Tech & Poverty: 目次にも「斜陽産業のイメ―ジ」「産地の疲弊」「人材・投資の繊維産業離れ」と「ハイテク」「世界に雄飛」の混在

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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  経済産業省は標記案を公表(2007-4-16)して、本日(5-20)期限で意見を公募した。近年における中央官庁の一般的流儀で、政策案をパブコメに付し、8月末期限の来年度予算要求の根拠とする意図も推察される。従って、タオルなどの産地の疲弊を連想する「古い紡績・染色・加工」産業としての政策融資確保の結論が大きな柱になっている。換言すれば、中小零細企業型の旧来産業としての繊維産業である。

 一方、東証一部の繊維産業欄に現に名を連ね、または同欄出身の東レ・帝人・三菱レ・クラレ、旭化成、東邦テナクス等々、合成繊維・半合成繊維でわが国戦後国民生活の基盤を築き、進んでハイテク繊維の華麗、最新世界航空機体素材の過半を制する炭素繊維の重要性をもたらしている繊維産業界が併存している。

 従って、SANARI PATENTは、下記の意見を経済産業省に送信した。

   記

案の該当箇所1.

 4ペ-ジ1行目(繊維産業の意義と発展の方向性)

意見内容1

  次のように、冒頭記述として、案の対象を画定されたい。

 「繊維産業には、伝統産業から最先端産業まで、素材から最終製品まで、機能性からファッション性まで、と多様な要素が含まれ、その外延が質的にも量的にも益々拡大しつつあるが、多様な業態と技術に対応する課題の摘出と対策の実施が必要である。

  すなわち、「天然繊維の紡績・織布・染色・縫製・小売に至る伝統的繊維産業における国際競争力・中小企業対策」、「石油化学工業の一環としての合成繊維、航空機体等の必須材料としての炭素繊維や、情報産業高度化のインフラ素材としてのガラス繊維(グラスファイバ・光ファイバ)、先端医術に用いる微細繊などの技術開発と知財創造」、「国際的ソフトパワ―としてわが国コンテンツのグロ-バルな発信の一環としてのファッション振興」、「不織布・紙・合成フィルム衣料等の非繊維形状の製品と繊維形状製品の総合的振興」を、案の対象とする。」

理由1

  案には、「繊維産業は衰退産業というイメ―ジが強く」など、伝統的中小企業繊維産業への金融対策を意図した記述が目立つ反面、炭素繊維を繊維産業の先端性の例示として掲げるなど、案の対象意識の分散が目立つ。冒頭に、繊維産業の概念、類型、業態種別、技術分野の分岐と融合を明示し、案の対象を画定することが適切である。

案の該当箇所2

  23ペ-ジ「知的財産権の強化」

意見内容2

  案は、「日本の繊維素材・ファッション・ブランドを世界へ発信していくために」として、模倣品・海賊版対策のみを記述しているが、意見内容1(これは、案の「むすび」や炭素繊維例示に即応したものであるが)のように、繊維産業の概念を発展的に画定することに対応して、次のように改められたい。

  「合成繊維、特に炭素繊維・光学繊維などの高機能・多機能繊維の開発と国際競争力強化のため、知的財産権の創造・保護・流通の対策を、この分野の特質の多様性(航空機分野では世界市場シェアの過半、高機能・多機能繊維では国際競争の激化など)に即応しつつ、強化する必要がある。

   また、繊維産業製品には、ファッションを始め、諸国の文化芸術の精華と現代性・未来性が象徴されるという重要な側面があるので、わが国コンテンツ産業の振興とグロ-バルな発信の一環として、意匠権・商標権・デザイン権・著作権の総合的創造・保護・流通対策を強化することが必要である。例えば、意匠権をグロ-バルに保護するためには、その設定要件としての「美感の新規性」について、審査基準の国際調和を要する。

  模倣品・海賊版対策は、FTA締結等のあらゆる機会を活用して、一層強化する。」

2007年5月19日 (土)

KEITAI Website sues: 営業秘密侵害に対する損害賠償請求に大阪地裁判決(2007-5-10): ケ―タイウェブサイト構築プログラムの営業秘密性

IP Program for Love-Call: ケ―タイウェブサイトの起業をめぐる問題と営業秘密性の認定

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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  ケ―タイの複合機能化が日進月歩の環境下で、ケ―タイウェブサイトを活用する起業も活発である。反面、ケ―タイウェブサイト運用会社を退職した社員に対して、営業秘密をめぐる訴訟が提起される局面も増加するが、本月10日の大阪地裁判決「損害賠償請求事件」は、元社員Aに対する900万円余の損害賠償(対ケ―タイウェブサイト運用会社)を命じた。

  加害の構成要件、被害額算定方法について、大阪地裁の判断を要約する。

1.        イ―プランニングの業務

1-1  原告・イ―プランニングおよびマテリアルは、いずれもケ―タイウェブサイトの「出会い系サイト」を運営している。イ―プランニングは、出会い系サイト運営に必要なソフトウェア((以下「本件プログラム」)を自社開発し、これをインタ-ネットサ―バ上に構築して出会い系サイトを経営すると共に、本件プログラムにつき、同種サイト運営業者を対象としてライセンス供給を行ってきた。原告マテリアルは、イ―プランニングの関連会社で、代表者は、イ―プランニングと同一である。

1-2  被告は、イ―プランニングの元社員Aである。

1-3  本件プログラムは、イ―プランニングが設置していたインタ-ネットサ―バコンピュ-タ内に格納され、インタ-ネットを通じてケ―タイ等のインタ-ネット接続可能な端末からsクセスし、動作するものである。

1-4  また、上記インタ-ネットサ―バコンピュ-タ内で動作するデ―タベ―スソフトウェアにおいて管理されるデ―タベ―スの内には、イ―プランニングらの出会い系サイト利用顧客についての情報(メ-ルアドレス、入金額、ポイントなど)が含まれている。

2.        本件プログラムの秘密性

2-1  本件プログラムにアクセス・編集する権限は、イ―プランニングらの代表者等に限定され、他の従業員は、本件プログラムが保存されているインタ-ネットサ―バに対しては、ウェブプラウザを通じて本件プログラムの結果をダウンロ―ドする限度でしかアクセスすることができなかった。

2-2  また、本件プログラムに保存されている領域にアクセスするためのIDおよびパスワ―ドを保有していたのは、イ―プランニングらの代表者等に限定されていた。従って、本件プログラムは、秘密として管理されていた。

3.        本件プログラムの有用性・非公知性

本件プログラムは、ケ―タイ向け出会い系サイトを構築することを前提として設計され、これを用いれば多くの時間と費用を要せずに出会い系サイトを構築できるから、有用性のある非公知の情報である。

4.        本件プログラムの営業秘密性

    上記2および3により、本件プログラムは営業秘密に該当する。

5.        本件顧客情報の営業秘密性

    本件顧客情報については、元社員Aがイ―プランニングを退職する際に、その守秘義務を合意しており、また、競合他社にとっては出会い系サイトへの乗換勧誘により、これに応ずる確率が高い顧客に関する情報として有用性の要件も満たし、かつ非公知の情報であるから、営業秘密に該当する。

6.        元社員Aら(元社員Aとその共同不法行為者)の行為は、不正競争防止法2条1項5号に該当する。また、民法719条1項前段に該当する。

7.        大阪地裁による損害賠償額の算定

7-1  イ―プランニングは、元社員Aらが無断で本件プログラムにより4つの出会い系サイトを運営し、約1175万円の売上を得たから、得ベかりし利益として初期導入ライセンス料約600万円、ランニングロイヤリティ約235万円(売上の2割)の損害を受けた。

7-2  マテリアルが主張するセキュリティのための新たなソフトウェアの購入費用については、原状回復の限度を超える損害を主張するものであり、相当因果関係のある損害と認めることはできない。

7-3  弁護士(2名)費用は、83万円限度が相当である。

2007年5月18日 (金)

NAGOYA evades TOKYO Court: 在名古屋の小会社は、在東京裁判所の対大会社訴訟を拒み得るか:伊藤忠商事らを相手とする在地方訴訟追行方法の判示

IP System for IP Lawsuit: 伊藤忠商事らを相手方とするロイヤル(名古屋)の「移送申立却下決定に対する抗告事件」知財高裁が抗告棄却決定(H19-4-11)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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  知財訴訟で、東京等から遠隔地にある企業が、訴訟追行にどのような方法を用い得るか、今次知財高裁決定の判示が参考になる(後記3-2)

  今次事件は、伊藤忠商事らよりも規模が格段に小さいと自称するロイヤル(名古屋)が、訴訟追行上の不利等を理由として、管轄の移送(東京から名古屋へ)を抗告したが、知財高裁がこれを棄却した事件である。その理由の適否は、2年余前の知財高裁設置における「地方便益論」の経緯をも顧みて検討しなければならない。

1.        知財高裁機能の東京一極と地方需要対策

1-1 知財高裁が平成17年4月に発足してから2年余を経過し、当初の4部制に加えて5人合議制の特別部も設置され、年間約600件の知的訴訟を処理している。

1-2 知財高裁新設に先立つ平成15年改正において既に、東京地裁と大阪地裁の専門部を実質的に特許裁判所として機能させることとしたが、その際、全国各地域の企業等の便益については、次のように政府側の考え方が示されていた。

1-2-1 特許庁の審決に対する取消請求訴訟は、従来から、東京高裁が管轄してきた。

1-2-2 侵害訴訟については、制度上、全国何れの裁判所にも提起できるが、知財権を扱う裁判所の体制も、弁護士の体制も、全国に整備することは人的資源の効率上困難であるから、通常の管轄規定のほかに、東日本については東京地裁、西日本については大阪地裁にも競合的に管轄権を認めてきた。

1-2-3 これをさらに進めて、東京・大阪を知財の専属裁判所的にするに当たっては、電話会議システムやテレビ会議システムの利用のほか、「特別の必要がある場合」には、便宜な裁判所に移送できる仕組みを、例外的に確保すれば足りる。

1-3 知財高裁制度についても、上記1-2-3の考え方が踏襲されている。

2.        今次知財高裁決定の概要

2-1  経緯

ロイヤルと伊藤忠商事らとの間の東京地裁・平成18年(ワ)26725号商標権侵害差止等請求事件(基本事件)について東京地裁がした移送申立(基本事件を名古屋高裁に移送する)却下決定(平成19年(モ)121号事件(原決定)に対するロイヤルの抗告について、知財高裁は、これを棄却した。

2-2  ロイヤルの主張

2-2-1 東京地裁に係属中の基本事件については、民事訴訟法17条(第一審裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、当事者・証人の住所等の事情を考慮して、訴訟の著しい遅滞を避け、または当事者間の衡平を図るため必要と認めるときは、申立または職権で、訴訟を他の管轄裁判所に移送することができる)により、名古屋地裁に移送すべきところ、ロイヤルの移送申立を却下した原決定には、次の理由により、誤りがある。

2-2-1-1 ロイヤルと伊藤忠商事らとでは、企業の力量に大きな差があり、基本事件を東京地裁で審理する場合のロイヤルの負担は、これを名古屋地裁で審理する場合の伊藤忠商事らの負担に比べて格段に重い。これを看過した東京地裁の移送申立却下は、正義衡平の理念に反する。

2-2-1-2 基本事件(2-1)は、ロイヤルが伊藤忠商事らに対し名古屋地裁に提起した別件訴訟よりも遅く提起されたものであるから、原決定(2-2-1)の「二重起訴」該当に関する判断は誤りである。

3.        知財高裁の判断

  基本事件について移送を必要とする事情を認めないとして、次の理由を判示している。

3-1  ロイヤルは、名古屋の本店・支店のほか、東京・大阪・福岡・札幌支店を有する資本金4億9800万円、従業員170名の株式会社で、東京地裁での訴訟追行に支障があるとは、認められない。

3-2  ロイヤルないしその訴訟代理人の出頭については、下記により、東京地裁での審理がロイヤルにとって負担大とまでは認められない。

3-2-1      基本事件の審理に際し、弁論準備手続に付した上で、争点・証拠を整理できる(民事訴訟法168)。

3-2-2      音声の送受信による同時通話で、弁論準備手続期日における手続ができる(同204)。

3-2-3      当事者または証人尋問は、映像等の送受信による通話で行うことができる(同)。

3-3 二重起訴に関するロイヤルの主張は、原決定の結論に影響を及ぼさない(特許権等の知財権侵害訴訟の分野において、先に提起された訴えが消極的確認訴訟であって、自らに対する給付訴訟が他の管轄裁判所に提起されることを妨げる目的でされたものである場合には、先に提起された消極的確認訴訟を濫用的な訴えとして却下し、後に提起された給付訴訟を進行するという欧州諸国の判例も引用)。

2007年5月17日 (木)

Concerning Patent Attorney E: 関与弁理士の有無について豊田中央研究所と旧職員Aの各主張

Know-how for finding True Inventor: 豊田中央研究所職務発明対価請求事件の経過(第4回)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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 原審原告の旧職員Aと、原審被告の豊田中央研究所とが、技術的・特許法的主張を精緻に述べているが、弁理士関与の有無についても、両者の主張内容は対峙している。知財専門家として関心が持たれるところである。

1-7(承前Apr14記事) 豊田中央研究所の主張: 豊田中央研究所がF を「真の発明者」としているのに、出願当時、「旧職員Aを発明者として認定した理由」、Fが「自己が発明者と主張しなかった理由」、および、「豊田中央研究所が旧職員Aに実績補償金を支払った理由」

1-7-1 豊田中央研究所は、本件届出書が提出された平成元年当時、届出書冒頭に記載された「社内発明考案者欄」「他社共同発明考案者欄」に記載された者をもって発明者と認定していた。補償金の支払いに関して、その変更は原則として行わなかった。豊田中央研究所は、このようなポリシ―に基づき、発明考案委員会においても、AおよびBを発明者と認定した。

1-7-2 しかし本件では、特許出願書類の作成過程において、特許技術担当者であるF により、発明性ある実質的なアイディアが提案され、本件特許発明において特許性を有する数値限定が具体化され、発明として完成したものであることから、発明考案委員会が認定した発明者と、特許法35条3項に基づき相当の対価を受けるべき発明者が乖離するという特殊な事情が存在している。

1-7-3 一方Fは、平成元年当時、本件特許発明の発明者が自己との認識を有してはいたが、以下の理由でこれを表明しなかった。

1-7-3-1 本件特許発明の完成前に、既に発明考案委員会において発明者が認定されていたこと(1-7-1)から、未だ入社11年目で豊田中央研究所における影響力や立場が強くなかったF にとって、豊田中央研究所の決定を覆すような表明を行い得なかった。

1-7-3-2 旧職員Aが、病気で長期休職が続き。その後は専門外の作業に配属されるなど、「発明者がAでなくF」と、Aに告げるにしのびない状態であった。

1-7-4 豊田中央研究所が「発明者がFである」との認識に至ったのは、本件特許発明が創作された経緯について、多数の関係者から事情聴取して後である。

1-7-5 豊田中央研究所は旧職員Aに対し、平成13年から1611月まで、毎年1回実績補償金名目で金員を支払ったのは、平成元年当時の発明考案委員会における認定に従ったものに過ぎない。この実績補償金金員の支払いは、客観的には特許法35条3項に基づく対価の支払いに当たらず、発明者の認定を左右するものではない。

1-8 旧職員Aに対する豊田中央研究所の反論:

1-8-1 弁理士Eは、本件特許発明に関して、旧職員Aと直接面談したことすらない。

1-6-2 旧職員Aが主張する内容のうち、液体の微粒化、膜状分裂に関するもの等は、公知となっていた。

1-6-3 仮にFが本件特許発明の単独発明者ではないとしても、本件特許発明は、B,F,旧職員A3名の共同発明であり、そのうち、共同発明者としての旧職員Aの寄与度は、1%に過ぎない。その理由は次のとおりである。

1-6-3-1 旧職員Aが本件特許発明の特徴として掲げたものは、旧職員Aが本件特許発明の研究開始時と主張する昭和60年より約2年前にBにより具体化されたものに過ぎない。

1-6-3-2 旧職員Aは、本件特許発明の完成のため様々な実験を行ったと主張するが、具体的にどのような実験を行ったか、明らかでない。豊田中央研究所が把握している本件特許発明に関する旧職員Aの関与は、上司の勧めに応じて本件届出書を作成したこと、および、Bから教示されたことを確認するため、Bが開発した。

1-6-3-3 Fは、特許出願書類の作成過程において、旧職員Aが作成した発明考案届出書の記載内容を大幅に修正し、数値限定に特徴を有する本件特許発明を完成させたもので、その寄与度は大きい。

1-6-3-4 旧職員A、B、Fの寄与度を対比すると、Bは、公知技術の範囲を超えるものではないものの、ファンスプレ―ノズルを設計・試作するなどして、扁平・扇形の噴霧を実現する燃料噴射弁を具体化している。Bがこれを旧職員Aに教示し、旧職員AがBに実験結果を再確認して本件届出書の作成に至ったことから、Bの寄与度は、旧職員Aのそれより大である。Fは本件特許発明の創出における最大の功労者であり、寄与度は極めて大きい。

 従って、共同発明者間における旧職員Aの寄与度は、限りなくゼロに近く、1%を超えることはない。

1-7 対価額の算定(以下次回)

2007年5月16日 (水)

Sorting Know-how from Patent: 特許出願選別の一要諦

Fundamental v. Frontier 特許庁が知財戦略の成功例と失敗例集を更新(第3回)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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13.(承前May8記事)小さくても価値あるアイデアを出願しなかった失敗:

  「当社は、基本的特許創出活動を推進している。技術者・研究者の視点からすれば高度とは言えないアイデアであっても、事業を行う限り必然的に使う技術、もしくは、他社も使わざるを得ない技術は、貴重な財産であると認識して出願する活動である。この背景には、最先端技術のみ追求している研究者からすれば、ちょっとした工夫に過ぎないと思われた発明が、業界で標準的に使用される技術的になった失敗経験があった。」

14.発明者が特許取得を意識しない発明の発掘を怠り失敗:

  「当社のある製品は、シェア100%の独占状態を続けてきたが、他社が、その製品の画期的新製法を開発し、特許出願しつつ新規参入した。当社も急遽その新製法の改良技術を開発し、クロスライセンスを持ちかけたが、基本特許を取得されてしまっており、ライセンス交渉においても不利な立場におかれる結果的になった。クロスライセンスを締結できた段階でシェアを10%奪われ、今後さらにシェアを奪われる可能性がある。他社が特許出願する前から、当社も新製法についても認識はあり、発明として完成していたことが後から判明した。しかし、当社はシェア100%の独占状態に安住して、この事業について発明発掘を」積極的に行わず、他社の新規参入を想定しなかったための失敗である。計画的発明管理の重要性を思い知った。」

15.充分な先行技術調査を発明提案書作成前に発明者に義務付けないと効率低下:

  「最初から発明提案書の作成に手間をかけさせてしまうと、その労に報いるという観点から、特許出願しないという選択をしにくくなってしまう。」

16.選択せずに特許出願することの無駄:

  「当社で実施する可能性のある発明について、できるだけ漏れなく全件出願していたが、特許権を取得する意味が明確でなかった。当社の競争力向上の源泉となる特許権のみ取得する目的で出願することとし、無駄な出願が減った。」

  「社員の評価指標として特許出願件数を採択したことには、欠陥があった。」

17.SANARI PATENT所見

   今次特許庁資料で、ノウハウ秘匿選択(特許出願しない)の観点を列挙し、その総合的検討を重要としたことは、実益に富む。項目を要約する。

17-1        発明の実施事業から、発明の内容が漏れない場合

17-2        競合他社が独自に開発することが著しく困難と判断される場合

17-3        特許権を取得しても、他社による侵害の発見が困難である場合

17-4        発明に係る製品の市場がニッチ市場で、他社の関心外である場合

17-5        開示により発明の価値を、著しく損なう場合

17-6        共同開発他社や製品納入先との関係で、秘密保持すべき場合

17-7        進歩性などの特許要件で、拒絶査定の可能性がある場合

17-8        先使用権を適切に確保できる場合

  なお、特許出願の別案として、2年ほど前(2005-4-1)から、実用新案権について、存続期間の10年まで延長、登録料低減、訂正許容範囲の拡大、登録に基づく特許出願の許容が定められたことを指摘していることは、懇切な配慮である。

2007年5月15日 (火)

Land of Hope & Beauty 御手洗経団連会長の「希望の国」と安倍総理大臣の「美しい国」におけるIPとIT: フランス経団連会長の知財権発言(BerlinのG8にて)

USIP Strategy 2007-2012」とわが国知財戦略計画の対比: 米国の「インタ-ネット活用、在宅審査、大学過程に審査官養成」

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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1.        「成長重視」による経団連の「希望の国」

1-1  年初来、経団連が強調している「希望の国」構想で、最も説得力に満ちた要所は、「わが国が直面する大きな分岐点」、すなわち、「弊害重視」と「成長重視」の、二手に分かれた道の何れを歩むと決断するかの選択である。

1-2  経団連は、次のように説明している(要旨)。

1-2-1      弊害重視派は、所得格差の拡大等の不均衡を、税・社会保障による所得再配分や公共事業の拡大により是正することを主張する。

1-2-2      成長重視派は、改革を徹底し、成長の果実により弊害を克服することを主張する。

1-2-3      折衷的な主張もあるが、いずれを重視するかで結果は大きく異なる(矢のすぐ傍らおお通り過ぎるか、的に当たるか)。

1-2-4      経団連は、基本的に成長を重視する。その理由は、グロ-バル化の質的・量的急進と少子高齢化の進行に対処するためには、成長の果実を取得することが必要だからである。

1-2-5      科学技術による「狭義のイノベ-ション」と、社会経済の体制を革新する「広義のイノベ-ション」を、共に進める。

1-2-6      成長重視により、「精神面を含む豊かな生活」「機会均等・公正競争の社会」「世界の尊敬・親近を得る国柄」が達成され、「希望の国」が約束される。

2.        経団連の「希望の国」における知的財産

2-1  豊かな生活を、物質面と共に精神面で充実するため、文化・芸術・思想・学芸などの分野における創造性・豊饒性を培う。

2-2  知識や技能を最大限に活かし、公正なル―ルにより競争し、そこで発揮された努力・創意・リ―ダ―シップが正当に報いられる社会とする。

2-3  多様なメディア、特に情報通信技術を活用した情報発信を、世界に向けて活発化する。

2-4  科学技術を基点とする狭義のイノベ-ションは、研究開発・技術革新から、高付加価値の製品・サ-ビスを創出して、産業構造を高度化するプロセスである。

2-5  世界に誇れる知的財産制度・システムの構築、国際標準化戦略の課題に取組む。

2-6  経済社会のイノベ-ションをもたらす多くの基本特許(未利用資源開発等)を生み出す。

2-7  生産性向上のため、情報通信技術を高度に活用する(部門内最適化から全体的最適化へ)。

2-8  テレワ―ク、ホ―ムオフィスを発達させる。

3.        米国の[知財戦略2007-2012]と、わが国の「知財推進計画07」

3-1 わが国の知財推進計画07は、本月中に成案に至るかと予想されるが、米国の[知財戦略2007-2012]と対比して、次の2点が、知財権付与体制の国際競争力の見地から、注目される。

3-1 -1 米国では、知財専門家の在宅ないし地域アクセスポイントにおけるインタ-ネット交信機能による執務を強力に推進することを、重点計画としている。

3-1-2        米国では、知財権付与業務のコスト効率を明示して重視している。

3-2               上記を敷衍すると、

3-2-1 United States Patent and Trademark Officeの「2007-2012 Strategic Plan」は、基本方針(Guiding Principle)として、品質(quality)、適時性(timeliness)、透明性(transparency)と共に、コスト効率(cost effectiveness)を掲げている。これは、USPTOMissionに掲げる国際競争力にも関連する。

3-2-2 USPTOの「2007-2012 Strategic Plan」は、「テレワ―クを拡張し、地域特許庁オフィスを設ける」と計画している。

3-2-2 同じく、大学に、審査官候補訓練を期待している。

3-2-3 同じく、電子出願の促進を計画している。

3-2-4 同じく、USPTOの健全な業務機能をモニタ―するため、電子的に統合した戦略・財務・作業の管理情報をディスプレイする方法を開発している。

 

4.        SANARI PATENT所見

4-1  多機能ケ―タイに流れるメロディは益々美しく、「美しい国」ぶりを発信するコンテンツ計画に、安倍総理の熱意が披瀝されたが(前回内閣知財戦略本部会議)、さらに、広義のイノベ-ションに直結する知財サイクルへの具体的戦略が、「希望の国」を実現する知財推進計画07を要望する。

4-2  なお、ベルリンで開催されたG8ビジネスサミット(2007-4-25)において、フランス経団連のパリゾ会長が「知財について国際的なレベルでの対策の必要性」を強調する一方で、「行過ぎた保護は、イノベ-ションを妨げるとして、知的財産権保護に対する取組は、大胆かつ慎重であるべきであると発言したこと」が注目される。これは、知財権と他の価値とのバランスという大きな課題の一環でもある。

2007年5月14日 (月)

Questions on Mechanical Strength: ヤング率と曲げ強度に一定の相関関係があるか

Examination of Patentability: 京セラ・ニコンの審決取消請求事件知財高裁判決(第3回):審決の判断の不相当点も指摘

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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  審査・審決・知財高裁判決が、共に特許性を否定した事例であるが、京セラ・ニコンの主張に対する各段階の対応の微差が注目点である。

5.(承前Apr.21記事)知財高裁の判断

5-1 京セラ・ニコンの主張に対する知財高裁の評価:

  「京セラ・ニコンは、相違点に係る容易想到性について、審決に、判断の誤りがあると主張すると共に、本件補正発明と刊行物の一致点・相違点の認定の誤りがあると主張する。

   しかし、本件の実質的争点は容易想到性であり、他の主張は、その主張自体からみても、失当として排斥されるべきものであるか、または審決に違法を來たさないことが明らかな主張である。そこで、先ず容易想到性について判断し、他の主張については補足的に判断する。」

5-2        相違点に係る容易想到性の判断の正誤について:

5-2-1 「京セラ・ニコンは、審決の次の判断は誤りであると主張する。

5-2-1-1 コ―ジェライトが緻密になり高強度化されれば、半導体露光装置における支持部材として有用であることは、当業者にとって自明であり、コ―ジェライトを主体とする低熱膨張セラミックスに、希土類元素の定量を添加することによって、緻密質な高強度の低熱膨張性のコ―ジェライトセラミックスを得られることは周知である。

5-2-2-2 本件補正発明においては、ヤング率に数値限定を加えているが、比較例の唯一のヤング率が、実施例の下限値の近傍値とは認められず、数値限定の臨界的意義を見出すことができない。(SANARI PATENT 注:着眼点が何かによって、臨界的意義が異なるのではないかという疑問が残る)

5-2-2 「上記5-2-1の京セラ・ニコンの主張に対する特許庁の否定は正しく、その認定に基づく審決が、容易想到性を判断したことに誤りはない。」

5-3 一致点認定の誤りについて

5-3-1  京セラ・ニコンは、審決が、「機械的強度に優れる点で、本件補正発明と刊行物発明が一致する」と認定したことは、「本件補正発明におけるヤング率の設定と、機械的強度に優れることとが同義でないから、誤りであると主張する。

5-3-2  確かに、ヤング率と曲げ強度は、測定方法が異なる別の指標であり、両者に一定の相関関係各があるとまでは認められないこと、また、本件補正発明の請求項に、「機械的強度に優れた」との記載がないこと等を考慮すると、審決が両発明について「機械的強度に優れた」ことを一致点として掲げていることは相当でない。

5-3-3  知財高裁→しかし、審決は、支持部材の成分の相違点を認定した上で、同相違点についての容易想到性を判断しているのであるから、審決が「機械的強度に優れた」ことを一致点として掲げていることは、審決の判断の違法性の有無に影響を与えない。

5-4 相違点の看過について

5-4-1  京セラ・ニコンは、次のように主張する。

5-4-1-1 本件補正発明においては、支持部材が、コ―ジェライトを主体とするコ―ジェライトセラミックスからなるのに対して、刊行物発明では、支持部材が、サイアロン結晶粒子(SANARI PATENT 注:例えば、窒化珪素を主成分とし、アルミナと窒化アルミニウムを添加焼結して得る)からなる点で実質的に相違する。

5-4-1-2 本件補正発明の課題の一つが、高速移動に基づく振動に由来する位置決め精度の低下を有効に回避することであるのに対して、刊行物発明は、その支持部材が、コ―ジェライトを主体としない複合セラミックス焼結体を提供することにある点で相違する。

5-4-2 知財高裁→5-4-1-1については、審決も、相違点として認定した上で、相違点の判断をしているから、結局、審決に、5-4-1-1の相違点看過の誤りはない。

    また、5-4-1-2については、請求項に記載された事項に基づくものでないから、京セラ・ニコンの主張は、主張自体が失当である。

6.SANARI PATENT所見

   知財高裁の判断のように「容易想到性」が明らかであるならば、本件補正発明によると同様の製品が何故他社から発売されなかったのかなど、容易想到性の判断自体の緻密化を要するのではないか。

コ―ジェライト、複合セラミックス焼結体、サイアロン結晶粒子、窒化アルミニウム、京セラ、ニコン

Questions on Mechanical Strength: ヤング率と曲げ強度に一定の相関関係があるか

Examination of Patentability: 京セラ・ニコンの審決取消請求事件知財高裁判決(第3回):審決の判断の不相当点も指摘

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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  審査・審決・知財高裁判決が、共に特許性を否定した事例であるが、京セラ・ニコンの主張に対する各段階の対応の微差が注目点である。

5.(承前Apr.21記事)知財高裁の判断

5-1 京セラ・ニコンの主張に対する知財高裁の評価:

  「京セラ・ニコンは、相違点に係る容易想到性について、審決に、判断の誤りがあると主張すると共に、本件補正発明と刊行物の一致点・相違点の認定の誤りがあると主張する。

   しかし、本件の実質的争点は容易想到性であり、他の主張は、その主張自体からみても、失当として排斥されるべきものであるか、または審決に違法を來たさないことが明らかな主張である。そこで、先ず容易想到性について判断し、他の主張については補足的に判断する。」

5-2        相違点に係る容易想到性の判断の正誤について:

5-2-1 「京セラ・ニコンは、審決の次の判断は誤りであると主張する。

5-2-1-1 コ―ジェライトが緻密になり高強度化されれば、半導体露光装置における支持部材として有用であることは、当業者にとって自明であり、コ―ジェライトを主体とする低熱膨張セラミックスに、希土類元素の定量を添加することによって、緻密質な高強度の低熱膨張性のコ―ジェライトセラミックスを得られることは周知である。

5-2-2-2 本件補正発明においては、ヤング率に数値限定を加えているが、比較例の唯一のヤング率が、実施例の下限値の近傍値とは認められず、数値限定の臨界的意義を見出すことができない。(SANARI PATENT 注:着眼点が何かによって、臨界的意義が異なるのではないかという疑問が残る)

5-2-2 「上記5-2-1の京セラ・ニコンの主張に対する特許庁の否定は正しく、その認定に基づく審決が、容易想到性を判断したことに誤りはない。」

5-3 一致点認定の誤りについて

5-3-1  京セラ・ニコンは、審決が、「機械的強度に優れる点で、本件補正発明と刊行物発明が一致する」と認定したことは、「本件補正発明におけるヤング率の設定と、機械的強度に優れることとが同義でないから、誤りであると主張する。

5-3-2  確かに、ヤング率と曲げ強度は、測定方法が異なる別の指標であり、両者に一定の相関関係各があるとまでは認められないこと、また、本件補正発明の請求項に、「機械的強度に優れた」との記載がないこと等を考慮すると、審決が両発明について「機械的強度に優れた」ことを一致点として掲げていることは相当でない。

5-3-3  知財高裁→しかし、審決は、支持部材の成分の相違点を認定した上で、同相違点についての容易想到性を判断しているのであるから、審決が「機械的強度に優れた」ことを一致点として掲げていることは、審決の判断の違法性の有無に影響を与えない。

5-4 相違点の看過について

5-4-1  京セラ・ニコンは、次のように主張する。

5-4-1-1 本件補正発明においては、支持部材が、コ―ジェライトを主体とするコ―ジェライトセラミックスからなるのに対して、刊行物発明では、支持部材が、サイアロン結晶粒子(SANARI PATENT 注:例えば、窒化珪素を主成分とし、アルミナと窒化アルミニウムを添加焼結して得る)からなる点で実質的に相違する。

5-4-1-2 本件補正発明の課題の一つが、高速移動に基づく振動に由来する位置決め精度の低下を有効に回避することであるのに対して、刊行物発明は、その支持部材が、コ―ジェライトを主体としない複合セラミックス焼結体を提供することにある点で相違する。

5-4-2 知財高裁→5-4-1-1については、審決も、相違点として認定した上で、相違点の判断をしているから、結局、審決に、5-4-1-1の相違点看過の誤りはない。

    また、5-4-1-2については、請求項に記載された事項に基づくものでないから、京セラ・ニコンの主張は、主張自体が失当である。

6.SANARI PATENT所見

   知財高裁の判断のように「容易想到性」が明らかであるならば、本件補正発明によると同様の製品が何故他社から発売されなかったのかなど、容易想到性の判断自体の緻密化を要するのではないか。

コ―ジェライト、複合セラミックス焼結体、サイアロン結晶粒子、窒化アルミニウム、京セラ、ニコン

Questions on Mechanical Strength: ヤング率と曲げ強度に一定の相関関係があるか

Examination of Patentability: 京セラ・ニコンの審決取消請求事件知財高裁判決(第3回):審決の判断の不相当点も指摘

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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  審査・審決・知財高裁判決が、共に特許性を否定した事例であるが、京セラ・ニコンの主張に対する各段階の対応の微差が注目点である。

5.(承前Apr.21記事)知財高裁の判断

5-1 京セラ・ニコンの主張に対する知財高裁の評価:

  「京セラ・ニコンは、相違点に係る容易想到性について、審決に、判断の誤りがあると主張すると共に、本件補正発明と刊行物の一致点・相違点の認定の誤りがあると主張する。

   しかし、本件の実質的争点は容易想到性であり、他の主張は、その主張自体からみても、失当として排斥されるべきものであるか、または審決に違法を來たさないことが明らかな主張である。そこで、先ず容易想到性について判断し、他の主張については補足的に判断する。」

5-2        相違点に係る容易想到性の判断の正誤について:

5-2-1 「京セラ・ニコンは、審決の次の判断は誤りであると主張する。

5-2-1-1 コ―ジェライトが緻密になり高強度化されれば、半導体露光装置における支持部材として有用であることは、当業者にとって自明であり、コ―ジェライトを主体とする低熱膨張セラミックスに、希土類元素の定量を添加することによって、緻密質な高強度の低熱膨張性のコ―ジェライトセラミックスを得られることは周知である。

5-2-2-2 本件補正発明においては、ヤング率に数値限定を加えているが、比較例の唯一のヤング率が、実施例の下限値の近傍値とは認められず、数値限定の臨界的意義を見出すことができない。(SANARI PATENT 注:着眼点が何かによって、臨界的意義が異なるのではないかという疑問が残る)

5-2-2 「上記5-2-1の京セラ・ニコンの主張に対する特許庁の否定は正しく、その認定に基づく審決が、容易想到性を判断したことに誤りはない。」

5-3 一致点認定の誤りについて

5-3-1  京セラ・ニコンは、審決が、「機械的強度に優れる点で、本件補正発明と刊行物発明が一致する」と認定したことは、「本件補正発明におけるヤング率の設定と、機械的強度に優れることとが同義でないから、誤りであると主張する。

5-3-2  確かに、ヤング率と曲げ強度は、測定方法が異なる別の指標であり、両者に一定の相関関係各があるとまでは認められないこと、また、本件補正発明の請求項に、「機械的強度に優れた」との記載がないこと等を考慮すると、審決が両発明について「機械的強度に優れた」ことを一致点として掲げていることは相当でない。

5-3-3  知財高裁→しかし、審決は、支持部材の成分の相違点を認定した上で、同相違点についての容易想到性を判断しているのであるから、審決が「機械的強度に優れた」ことを一致点として掲げていることは、審決の判断の違法性の有無に影響を与えない。

5-4 相違点の看過について

5-4-1  京セラ・ニコンは、次のように主張する。

5-4-1-1 本件補正発明においては、支持部材が、コ―ジェライトを主体とするコ―ジェライトセラミックスからなるのに対して、刊行物発明では、支持部材が、サイアロン結晶粒子(SANARI PATENT 注:例えば、窒化珪素を主成分とし、アルミナと窒化アルミニウムを添加焼結して得る)からなる点で実質的に相違する。

5-4-1-2 本件補正発明の課題の一つが、高速移動に基づく振動に由来する位置決め精度の低下を有効に回避することであるのに対して、刊行物発明は、その支持部材が、コ―ジェライトを主体としない複合セラミックス焼結体を提供することにある点で相違する。

5-4-2 知財高裁→5-4-1-1については、審決も、相違点として認定した上で、相違点の判断をしているから、結局、審決に、5-4-1-1の相違点看過の誤りはない。

    また、5-4-1-2については、請求項に記載された事項に基づくものでないから、京セラ・ニコンの主張は、主張自体が失当である。

6.SANARI PATENT所見

   知財高裁の判断のように「容易想到性」が明らかであるならば、本件補正発明によると同様の製品が何故他社から発売されなかったのかなど、容易想到性の判断自体の緻密化を要するのではないか。

2007年5月13日 (日)

Questions on Mechanical Strength: ヤング率と曲げ強度に一定の相関関係があるか

Examination of Patentability: 京セラ・ニコンの審決取消請求事件知財高裁判決(第3回):審決の判断の不相当点も指摘

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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  審査・審決・知財高裁判決が、共に特許性を否定した事例であるが、京セラ・ニコンの主張に対する各段階の対応の微差が注目点である。

5.(承前Apr.21記事)知財高裁の判断

5-1 京セラ・ニコンの主張に対する知財高裁の評価:

  「京セラ・ニコンは、相違点に係る容易想到性について、審決に、判断の誤りがあると主張すると共に、本件補正発明と刊行物の一致点・相違点の認定の誤りがあると主張する。

   しかし、本件の実質的争点は容易想到性であり、他の主張は、その主張自体からみても、失当として排斥されるべきものであるか、または審決に違法を來たさないことが明らかな主張である。そこで、先ず容易想到性について判断し、他の主張については補足的に判断する。」

5-2        相違点に係る容易想到性の判断の正誤について:

5-2-1 「京セラ・ニコンは、審決の次の判断は誤りであると主張する。

5-2-1-1 コ―ジェライトが緻密になり高強度化されれば、半導体露光装置における支持部材として有用であることは、当業者にとって自明であり、コ―ジェライトを主体とする低熱膨張セラミックスに、希土類元素の定量を添加することによって、緻密質な高強度の低熱膨張性のコ―ジェライトセラミックスを得られることは周知である。

5-2-2-2 本件補正発明においては、ヤング率に数値限定を加えているが、比較例の唯一のヤング率が、実施例の下限値の近傍値とは認められず、数値限定の臨界的意義を見出すことができない。(SANARI PATENT 注:着眼点が何かによって、臨界的意義が異なるのではないかという疑問が残る)

5-2-2 「上記5-2-1の京セラ・ニコンの主張に対する特許庁の否定は正しく、その認定に基づく審決が、容易想到性を判断したことに誤りはない。」

5-3 一致点認定の誤りについて

5-3-1  京セラ・ニコンは、審決が、「機械的強度に優れる点で、本件補正発明と刊行物発明が一致する」と認定したことは、「本件補正発明におけるヤング率の設定と、機械的強度に優れることとが同義でないから、誤りであると主張する。

5-3-2  確かに、ヤング率と曲げ強度は、測定方法が異なる別の指標であり、両者に一定の相関関係各があるとまでは認められないこと、また、本件補正発明の請求項に、「機械的強度に優れた」との記載がないこと等を考慮すると、審決が両発明について「機械的強度に優れた」ことを一致点として掲げていることは相当でない。

5-3-3  知財高裁→しかし、審決は、支持部材の成分の相違点を認定した上で、同相違点についての容易想到性を判断しているのであるから、審決が「機械的強度に優れた」ことを一致点として掲げていることは、審決の判断の違法性の有無に影響を与えない。

5-4 相違点の看過について

5-4-1  京セラ・ニコンは、次のように主張する。

5-4-1-1 本件補正発明においては、支持部材が、コ―ジェライトを主体とするコ―ジェライトセラミックスからなるのに対して、刊行物発明では、支持部材が、サイアロン結晶粒子(SANARI PATENT 注:例えば、窒化珪素を主成分とし、アルミナと窒化アルミニウムを添加焼結して得る)からなる点で実質的に相違する。

5-4-1-2 本件補正発明の課題の一つが、高速移動に基づく振動に由来する位置決め精度の低下を有効に回避することであるのに対して、刊行物発明は、その支持部材が、コ―ジェライトを主体としない複合セラミックス焼結体を提供することにある点で相違する。

5-4-2 知財高裁→5-4-1-1については、審決も、相違点として認定した上で、相違点の判断をしているから、結局、審決に、5-4-1-1の相違点看過の誤りはない。

    また、5-4-1-2については、請求項に記載された事項に基づくものでないから、京セラ・ニコンの主張は、主張自体が失当である。

6.SANARI PATENT所見

   知財高裁の判断のように「容易想到性」が明らかであるならば、本件補正発明によると同様の製品が何故他社から発売されなかったのかなど、容易想到性の判断自体の緻密化を要するのではないか。

2007年5月12日 (土)

Doctor International Patent and Trademark Office, TAIWAN: 台湾・博士国際専利商標事務所の体制に注目(日米とアジア諸国にわたる知財問題を契機として)

Polo-Shirts at Shanghai Market: 中国ポロシャツ市場をめぐる知財高裁判決(第4回)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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   FTA(自由貿易協定)の締結交渉が、日米アジア諸国間で進捗し、知財問題も積極的活発化する折柄、Taipei, Taiwan, Republic of Chinaに本拠を置く「博士国際専利商標事務所」から、最新情報の送信に接した。そのメンバ―は、「東京工大化学の博士課程卒」の鄭氏、「日中翻訳と商標業務に熟練」した林氏、「米国大学で機械工学博士号を取得」した陳氏、「同じく化学博士号を取得」した鄭氏、「ドイツ大学で電子博士号」を取得した謝氏、「同じく生物博士号を取得」した黄氏等々、知財の創造と流通のグロ-バル化」に極めて適合し、かつ、手数料金表も明細かつ精確にサ-ビス意図を表明している。

   今回が第4回のわが国知財高裁ポロシャツ事件判決は、米国著作権をめぐる商標権等の「プロパティ権」、上海市場、日本著名企業と、わが国知財専門家が登場要素であるが、上記のような国際性の具備が、知財専門機構に益々求められてゆくと考える。

   ファ―ストリテイリングとユニクロの、サクラインタ―ナショナルに対する反論は、前回記載の事項に続いて、契約解除の根拠を欠くことなど、多くの「事実」の提示により行われたが、知財高裁はどのように判断したか。

5(承前Apr.27記事)知財高裁の判断(要旨)

5-1        基礎的事実関係

5-1-1      控訴人・サクラインタ―ナショナルは、衣料用繊維製品等の販売、衣料品等の輸出入・販売、および関連業務を目的とする。

5-1-2      被控訴人・ファ―ストリテイリングは、衣料品等の販売等を目的とし、被控訴人・ユニクロは、ファ―ストリテイリングからユニクロブランドで展開する衣料品および衣料雑貨品の日本国内における企画・生産・販売、中華民国上海における衣料品等の生産管理並びにファ―ストリテイリングの海外子会社・関連会社の商流過程における衣料品等の卸売に関する営業と権利義務を吸収分割により承継した。

5-1-3      The Estate of Keith Haring(キ―スエステイト)は、Keith Haringの遺言によりその遺産を一時的に管理する団体であり、Keith Haring Foundation Inc.に遺産を順次移転する。遺産には、デザイン・イラスト・図柄・写真・文字の著作権・商標権が含まれる(本件に係る目録・一覧表記載のものを、判決文において、Keith Haringの著作物である「本件プロパティ」と呼称)。

5-1-4      サクラインタ―ナショナルは、キ―スエステイトから、本件プロパティについて使用等の許諾を受け(2002-12-23)(本件マスタ―ライセンス契約)、ファ―ストリテイリングとの間で、下記主内容のサブライセンス契約を締結した(2002-12-31)

5-1-4-1           第1条 サクラインタ―ナショナルは、ファ―ストリテイリングに対し、サクラインタ―ナショナルが管理するキ―スエステイトの著作物に含まれる著作権等に基づく商品化権(SANARI PATENT 注:ここを緻密に読むことが必要)を、2003-1-1から2005-12-31まで、本契約によりファ―ストリテイリングが製造・販売する商品に使用することを許諾する。

5-1-4-2           第2条 年間ミニマムロイヤリティは、1億円(以下略)

5-1-4-3           第4条 ファ―ストリテイリングは、プロパティを衣料品全般、帽子、靴下、バッグ・ポ―チ、タオル、ハンカチ・バンダナにのみ使用できる。

5-1-4-4           第5条 本商品の販売地域は日本国内のみに限定する。

5-1-4-5           第6条 本商品の生産地域は全世界とする。(以下次回)

2007年5月11日 (金)

Cost for License: 実施料収入を得るための費用の取扱についての考え方

Revenue by LBP-MFP Patent License: キャノン職務発明対価補償請求事件(第14回):

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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   今回は、レ―ザ―ビ―ムプリンタ(LBP)や多機能プリンタ(MFP)等におけるキャノンのライセンシ―のシェア、また、キャノンがライセンス契約を締結するために要した費用についての考え方が示される。

 なお、LBP関係の特許公開では、キャノンのそれらのほか、松下電器産業の「LBP用ガラス成型用型」、「LBP用ガラスレンズ成型用型」、鐘淵化学工業の「LBP用多極一体型マグネットロ―ル」、「LBP用長尺樹脂ボンド磁石の磁場配向押出製法」などが注目される。

 また、MFP係の特許公開では、キャノンのそれらのほか、リコ―の「画像形成システム」、「ストレ―ジシステム」、カシオ電子工業の「印刷物の配布管理システム」などが注目される。

16.(承前May10記事)MFP等について:

16-1 MFP等の全他社譲渡価格(譲渡価格は、標準小売価格の約50%と認める)は、例えば、第3期について5兆2991億円と算定される。

16-2 全ライセンシ―の全他社に占めるMFP等のシェアは82.44%である。従って、キャノンの全ライセンシ―におけるMFP等の譲渡価格は、例えば、第3期については4兆3686億円と算定される。

17.キャノンが得た独占の利益

17-1 キャノンが得た独占の利益は、特許権の禁止効に由来する。この禁止効は、日本特許については1983-04-22(出願公開日)から2001-10-20(権利消滅日)まで、ドイツ特許については1083-05-05(公開日)から2002-10-19(権利消滅日)まで、米国特許については1991-02-19(登録日)から権利消滅日まで働く。

17-2 キャノンの全ライセンシ―の本件特許発明を実施した製品の譲渡価格は、計算式「キャノンの全ライセンシ―における譲渡価格*本件特許発明の場所的効果が及ぶ割合+件特許発明の全ライセンシ―における実施割合」によって、以下のように推認される。

17-2-1 LBP

   例えば、第3期については、1兆9421億円(4兆5012億円*84.79%*(56.54%*90%))、第1期から第5期までの小計は2兆5813億円である。

17-2-2        MFP等

   例えば、第3期については、3兆1379億円(4兆3686億円*88.10%*(90.59%*90%))、第1期から第5期までの小計は4兆8707億円である。

17-3               実施料率

17-4 「キャノンライセンス契約中の実施料率の平均から算定された標準包括クロスライセンス料率は、LBPについて2.40%、MFP等について2.91%であること」、「基準期間内におけるキャノン保有日本特許が、LBP8009件、MFP等1万2349件であること」「その2分の1、すなわち、LBP4005件、MFP6175件が算定対象となるキャノン保有特許件数であること」から、実施料率は、LBP0.018%(2.40%÷4005*30)、MFP0.014%(∵2.91%÷6175*30)と評価することが相当である。

18.費用控除についての考え方

18-1 キャノンは、「実施料収入全額が『使用者が受けるべき利益』に該当するものではなく、多数の相手方とキャノンライセンス契約を締結し、これらの変更・更改や相手方の履行を管理し、実施料相当額を受けるまでには、キャノンがライセンス契約の対象技術を開発するための研究/・開発費や一般管理費など、キャノンが負担した費用が存在するから、これを控除する必要がある」と主張する。

18-2 確かに、キャノンが主張するものは、キャノンライセンス契約締結における費用と解することも可能である。しかし、これらの要因は、特許法35条4項の「相当の対価」算定の際には、「発明がされるについて使用者が貢献した程度」を判断する際の重要な要素として考慮するのが相当である。

19.キャノンが本件特許発明により得た利益額

19-1 LBPについて:

   4億6464万円(2兆5813億4402万円*0.018%)

19-2 MFP等について:

   6億8189万円(4兆8706億6785万円*0.014%)

(以下次回)

2007年5月10日 (木)

Inclusive Cross License:Value of LBP related Inventions: キャノン職務発明対価補償請求事件(第13回)

Estimation of License Fee:「標準包括クロスライセンス料率/契約対象特許数*30件=本件特許発明の実施料率」という認定に基づく計算:

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

13.(承前May2記事)本件特許発明の実施料率の算定

13-1 LBPについて:

   キャノンのライセンス契約における標準包括クロスライセンス料率(2.40%)/4005(ライセンス対象特許数)*30(SANARI PATENT 注:本件特許発明の重要性に基づく評価計数)によって、0.018%と算定する。

13-2        MFP等について:

   同様の算式で、0.014%と算定する。

13-3        日本特許・米国特許・ドイツ特許とも、実質的に同一の特許発明であるから、同率と認める。

14.キャノンの全ライセンシ―による本件特許発明の実施割合

14-1 全ライセンシ―による本件特許発明の実施割合については、本件特許発明が出願公開された昭和58年から存続期間が満了した平成13年10月までに十数年の期間があり、ライセンシ―先も十数社に及ぶため、その実施状況を逐一検討することは、著しい時間的・経済的コストを要する。

14-2 キャノンは、対象分野の世界シェアで1位を占める(2001年の全世界生産台数のうち、LBPは59.08%、MFPは29.01%)ことから、キャノンにおける実施状況は、業界内での実施状況を相当程度反映していると考えられる。

14-3 上記14-1および14-2により、キャノンの譲渡製品中に占める本件特許発明の実施割合を基礎として、全ライセンシ―における本件特許発明の実施割合を推認することが相当である。

14-4 しかしながら、キャノンが三星電子に調査した機種に、本件特許発明実施が確認されなっかったこと、そのほかのキャノンのライセンシ―による実施状況は不明であること、ライセンシ―においては、自社開発技術や公知の代替技術・競合技術があれば、自社開発能力の維持発展やライセンス契約更新時の交渉力維持のため、それらの技術を使用する傾向があることから、キャノンライセンス契約の相手方企業においては、キャノンよりも、本件特許発明の実施割合が低くなると推認され、これら全ての事情を総合すると、その実施割合は、キャノンの実施割合の90%と認める。

15.キャノンが包括クロスライセンス契約において本件特許発明により得た利益額の算定:

15-1 キャノンの全ライセンシ―による本件特許発明の実施品の譲渡金額:

15-1-1 キャノンの全ライセンシ―による本件特許発明の実施品の譲渡金額は、

  「キャノンの全ライセンシ―による譲渡価格合計額」(キャノン以外の全他社の譲渡価格合計額*全ライセンシ―のシェア)に、「本件特許発明の実施品の割合」(本件特許権の効力が及ぶ地理的範囲内に含まれる製品の割合*全ライセンシ―の譲渡製品中に占める本件特許発明の実施割合)を乗じて算定する。

15-1-2  キャノンが相当対価を請求する期間は、本件特許発明の有効期間に応じて分割する。例えば、第3期(本件各特許が有効な期間)は、1991-02-19(本件米国特許1の登録日)から2001-10-20(本件日本特許の権利消滅日)までである。

15-1-3  LBPについて、全他社譲渡価格は、為替レ―トの各年平均値、実売価格に対する譲渡価格の比率を係数化して算定することによって、例えば、第3期については、4兆9361億円と認められる。

15-1-4  LBPについて、キャノンの全ライセンシ―の全他社に占めるLBP販売シェアは、91.19%である。

15-1-5  以上によれば、キャノンの全ライセンシ―におけるLBPの譲渡価格は、例えば、第3期については4兆5012億円と算定される。(以下次回)

2007年5月 9日 (水)

Patentability on Non-Obviousness: Supreme Court of the US: 特許付与基準の変更可能性を含むとされる米国最高裁2007-4-30・KSR判決(第4回)

Patent on Electronic Acceleration Pedal: アクセル特許要件としての「自明性」認否論争

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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 始めに:

  わが国では、大型連休明けからやっと、米国最高裁「電子センサ―による位置調節可能自動車ペダル(アクセル)」特許の無効訴訟判決」(4月30日)について、論評が始まったが、米国マスコミの直訳的な紹介も多く、理解を妨げる翻訳も見受けられる。

 例えば、「今回の判断で、裁判官たちは、現在の基準を緩和するように求めた」、「下級裁判所による過去の判決の修正を求める」などの表現(ないし翻訳)は、「緩和」や「下級」の意義が不明である。「自明」とはやや違う着想にも特許性を認めることを「緩和」というのか、「自明」として拒絶査定を容易にすることを「緩和」というのか。また、本件の「下級裁判所」には、米国の地方裁判所と巡回高等裁判所を含み、前者が「無効」とし、後者が「有効」と判決し、最高裁が「無効」指向の判決をしたケ―スであるから、どちらの方向への修正を求めるのか、必ずしも明らかでない。米国内でも、立場の相異による賛否の相違と濃度差が見られるようである。

 わが国の内閣知財戦略本部は、ひたすら、特許庁内と各審級裁判における特許権の法的安定性を志向し、判断基準の精確と安定を計画しているが、米国において、それが大いに揺れているのが、今次判決である。

3.(承前May5記事)米国特許商標庁の特許審査基準における「自明性」:

  米国特許商標庁による特許付与は、MPEP(Manual for Patent Examining Practice)に基づくから、米国特許商標庁のMPEPに対する理解と、米国連邦地方裁判所のそれとは異なったが、巡回高等裁判所は地方裁判所のそれを認めなかった。

  そこで先ず、MPEPの「新規性」「非自明性」に関する記述を見る((抜粋・要約)

3-1 MPEP 2141.02 「従来技術と請求項との相違点」(Differences between Prior Art and Claimed Invention

3-1-1 請求項を「その全体として」考察しなければならない(The Claimed Invention as a Whole must be Considered)

  米国特許法第103条に基づき従来技術と請求項との相違点を認定する場合の問題点は、相違点それ自体(differences themselves)が自明であったかではなく、請求項全体(claimed invention as a whole)と従来技術との相違が自明であったかということにある。

  着想が従来技術による理解と期待に反する場合、この着想を有用化することは、当業者にとって自明でない(Because that insight was contrary to the understanding and expectations of the art, the structure effectuating it would not have been obvious to those skilled in the art)

3-1-2      複数工程による製品について、始めの複数工程が従来技術であっても、それらからの自明性が限定されている場合には、これらを組合せて次の新しい工程を着想することは、当業者にとって、その発明がなされた時点においては自明でない(Due to the admitted unobviousness of the first steps of the first steps of the claimed combination of steps, the subject matter as a whole would not have been obvious to one of ordinary skill in the art at the time the invention was made)

3-1-3      発明が全体として自明であったかどうかを認定するためには、先ず発明全体を詳細・明確に記述しなければならない。そのためには、請求項に文言をもって記述された内容のみでなく、主題とその詳細な説明に本来的に含まれている着想の固有の特性に着目しなければならない(In determining whether the invention as a whole would have been obvious, we must first delineate the invention as a whole. In delineating the invention as a whole, we look not only to the subject matter which is literally recited in the claim in question, but also to those properties of the subject matter which are inherent in the subject matter and disclosed in the specification)

4.SANARI PATENT所見

   上記の極めて少ない抜粋を見ても、「主観的」という言葉を避けて「定性的」と呼ぶにしても、原告・被告・第三者・審査官・審判官・地裁・高裁・最高裁それぞれが、as a wholeinherentについて、ニュアンスの異なる概念をもつ可能性が容易に想定される。今回は問題にしないが、用語の定義自体が知財法では先ず争点的になるという、特殊な法域である。

3-1-4      (以下次回)

2007年5月 8日 (火)

Success & Failure by IP Division: 知財部の発言を重視すれば成功したであろう事例、および、知財部発言により失敗した事例

To be Licensee or To be developer: 共同研究開発における失敗: 特許庁が知財戦略の成功例と失敗例集を更新(第2回)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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  研究開発の共同化は、知財の相乗・組合せ効果による効率性をもたらし、参加事業者にとっても国策上からも好ましいという概念が先行するが、知財権の帰属を含めて、成果の配分という段階において、戦略失策の結果を見る場合も多い。

 企業の力関係、契約の整備、被ライセンスと開発の選択など、事業戦略と知財戦略の総合の適切が、グロ-バル経済の進展下で決定的に重要課題であることを、今次事例集は改めて示している。

7.(承前5-6記事)共同研究開発の打合せ中に示した当社の発明を、相手方が勝手に出願:

 「打合せ前に、秘密保持契約を締結しておいたのに、このような結果になったのは、秘密保持契約の対象技術を明確にしていなかったためである。事後的に協議すると共に、賠償の交渉もしたが、相手方は、双方が持ち寄った技術であるとして譲らず、話合いは平行線を辿ることになった。どちらの発明・技術であるかを、事後的に証明することの困難性を痛感した。

  この事件以来、秘密保持契約の対象技術を明確にするため、具体的には、打合せ中に使用する資料と、その場で出た話のメモ(その場でプリント機能付きホワイトボ―ドに書き、日付と共に残す)(SANARI PATENT 注:日本弁理士会関係会議では、重要な会議におけるそのプリントを、打合せ参加者に即時配布する場合もある)を秘密保持契約の対象として明確化している。打合せ終了後に事後的に取交わす覚書では、内容に追加削除が求められることがあり、意味がない。必ず、その場で秘密保持契約の対象技術を記載したメモを取交わす。」

8.特定の顧客(メ―カ―)と共同開発・共同出願したため、その技術を使った製品の他のメ―カ―への販売が困難化:

 「従って、顧客であるメ―カ―や顧客になり得るメ―カ―との共同開発を避け、単独で特許出願できるようにしている。仮に顧客メ―カ―との共同開発し、共同出願することになった場合においても、一定の優先期間後は他社に販売できる契約とする。」

9.中小企業である当社が大企業と共同開発・共同出願したが権利放棄:

 「当社より大きな企業との共同出願の場合には、持分を五分五分にしても販売ル―トや製品の量産体制で負け、市場では五分五分でないのに特許権の維持管理経費は均分負担になる。」

10.ライセンスを受けず、知財部が設計変更を目指して失敗:

 「自社開発技術製品化の方向性を検討中に、知財部は、他社特許の分析結果に基づき、他社からライセンスを受けずに設計変更することを提案し、この設計変更に想定外の長期を要したため、製品化に至るまでに技術が陳腐化について、結果として事業成果を得なかった。設計変更に係る開発費が無駄に帰し、多少のライセンス料を支払っても、ライセンスを受けた方が良かったと考えた。」

11.他社にロイヤリティを支払うことは悪であるという社内風潮の誤り:

 「他社に特許のロイヤリティを支払うことは、直接的には支出を生む行為であるために、また、事業部としては、製品における自社特許率が重要と考えるために、悪であるという社内風潮があった。しかし、ロイヤリティを支払っている製品群の利益率は、そのロイヤリティを差し引いても、開発コスト低減による効率化によって、社内の平均利益率より高いのが実状であった。」

12.米国企業には負けず、中国・韓国企業のため苦境に:

 「当社は従来から、アライアンスなどを含めて米国企業に技術供与し、安定した関係にあったが、近年、中国・韓国企業にも米国企業に対すると同様の技術供与を開始したところ、中国・韓国企業は米国企業と異なり、できるだけ多くのノウハウを必死に吸収し、激しくキャッチアップして、自社の技術的優位性が危うい状況に至った。事業戦略を失敗したと反省し、ノウハウの外部的提供を制限する方針に転換した。」

2007年5月 7日 (月)

Nifty、Yahoo、Google、&、NEC: ニフティ、グ―グル、ヤフ―、および、NEC

Innovators of Cyberspace: サイバースペ-ス高度化を起動する大物たち(その例示)(昨日本欄「特許庁が知財管理実例を更新」にもGoogle Ad

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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1.        Web検索がサイバースペ-スの主役に:

1-1  知財の高度開発が、企業や国の発展と命運を決定し、サイバースペ-スの高度化が知財開発の成否を決定することは、疑問の余地がない。

1-2  従って、SANARI PATENTも、ニフティの一般HPとブログHPの2メメディアを併用しているが、このいずれにも、さらには、特許庁、内閣知財戦略本部、日本弁理士会(プロバイダ・ニフティ)等々のどのホ-ムペ-ジを開いても、グ―グルのWeb検索画面が登場して、検索を待機している。

1-3  日本弁理士会には、米国特許制度やバイオの自主研修グル-プが会員相互の情報交換を活発に行っているが、そのシステムはヤフ―に依存している。

1-4  マイクロソフトとヤフ―の連携は、その帰趨が未だ見えないが、いずれにせよ、サイバースペ-スを制する大勢力であり、サイバースペ-スのグロ-バルな優越性が決定的なものとなるに伴って、世界的影響力を具備することが想定される。

2.        グ―グルAd.とNEC

2-1  昨日5月7日のWeb検索SANARI PATENT記事には、毎日付帯しているグ―グルAdのトップに、NECが位置していた。これをクリックした読者は、早速、貴重な技術情報を得たはずである。「貴重」という意味は、例えば、注目特許の概要は特許庁の電子図書館で直ぐ閲覧できるが、その内容よりも多角的な情報を、上記クリックで即時入手できるからである。

2-2  SANARI PATENTの連日の記事に付帯するグ―グルAdは、連日、顔ぶれを新たにしている。従って、ここには、昨日登場したNECのAd.を学習する。

3.        NECのイノベ-ションマ―ケトプレイス

  その内容を抜粋・要約すると共に、所見を付記する。

3-1-1        サイトの自己紹介

  「当サイトは、NECが知財を有償提供することを目的として、その概要をご紹介する検索サイトです。特許出願、知財戦略、知財管理などに関する多彩な情報も掲載します。」

3-1-2        所見

    「当サイトのご利用は、日本国内のみに限定させていただきます」と注記しているのは、国際時流を反映したものかと、推測する。

3-2-1 特許情報ピックアップの例

    次の特許について示している。

3-2-1-1 特許の名称

    配線の温度上昇シュミレ―ション方法

3-2-1-2           カテゴリ―

特許、半導体

3-2-1-3           適用製品・サ-ビス領域

LSI設計法

3-2-1-4           本特許の概要

2次元熱解析および1次元近似式を使った配線の温度上昇のシュミレ―ション方法

3-2-1-5           発明の効果

配線の温度上昇は、大規模集積回路での不良精密配線を生ずるボイド(SANARI PATENT 注:ここでは「空孔」)によるもので、このシュミレ―ションでは、3次元シュミレ―ションの代わりに、配線の交線で2次元熱解析を行う。

3-2-1-6           解決された問題

    大規模集積回路での配線信頼性テストの問題は、特にボイド部分の配線のエレクトロマイグレ―ション(SANARI PATENT 注:印加電圧等に対する電子的信頼性損傷)に関して、テストの周囲温度をどのように決定するかである。ボイド部分の配線温度は局部的に上昇するからである。従って、この発明の目的は、解析時間を短縮できる配線温度上昇シュミレ―ション方法を提供することである。

     これにより、メモリの容量や、計算に使うディスク容量を節約し、より単純な解析モデルを得て、モデルの構築を容易にする。

3-2-1-7           特許分類・IPC番号・Fタ―ム

3-2-1-8           ライセンス条件

非独占通常実施権

3-2-2               所見

   特許電子図書館で検索(2007-5-6)すると、上記NEC特許を含めて5件出力される。例えば、日立製作所の「半導体装置とその製造方法」は、「密集して形成されたSOI構造の発熱トランジスタ素子に接続される多層構造の配線を有する半導体装置において、製造コストを増大させることなく、配線の温度上昇の防止が可能な半導体装置を実現すること」を課題としている。

   

   NECの「多層配線構造の半導体集積回路」の課題は、「配線で発生した熱を実装基盤まで効率よく逃がすことにより、配線の温度上昇を防止して、エレクトロマイグレ―ションの発生を抑え、信頼性の向上を実現する多層配線構造の半導体集積回路を提供すること」である。

   松下電子工業の{半導体装置}の目的は、「金属配線の温度上昇を防止し、金属配線に断線が生じないようにすること」である。

   グ―グルAd.が、SANARI PATENT読者の実用に役立つことを確信する。

2007年5月 6日 (日)

JPO suggests IP Strategy: 知財戦略の成功例と失敗例集を更新

Status of IP Specialists: 知財部員の発言力発揮が企業の損失を防ぐ

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

(この記事に対する修正ご要求は、patent@sanari.nameにメ-ル下さい)

  知財戦略事例集の更新を、特許庁が4月24日に発表したが、失敗事例は一般的には、積極的に語る企業が少なく、その意味で注目すべき資料と考え、以下に要約する。各項の見出しは、SANARI PATENTが付した。

1.        事業部の「コスト削減」が知財部の「技術課題克服」に優先して転落:

  「当社は、業界初の製品により市場をリ―ドしていたが、知財部では、この製品の新たな技術課題に気付き、この課題を克服できれば付加価値を高め得るので、研究開発を提案した。しかし、事業部はコスト削減の技術開発や営業力強化に注力し、その間、当社を追随する競合2社が相次いで、その技術課題を克服した機構を開発し、かつ、その機構に係る基本技術から改良技術までの特許群を構築してしまった。その新たな機構が顧客ニ―ズとなり、当社はライセンス料を支払う立場になり、この市場におけるシェア1位の リ―ダ地位から転落した。(その後、さらに新たな機構の開発により回復)。」

2.        特許分析の不備による研究開発テ―マ決定の不備:

  「自社他社の特許分析が充分できていない分野もあったため、分析結果を 反映せずに研究開発テ―マが決定されることがあった。(現在は、研究開発テ―マ提案の条件として特許分析を課している。)」

3.        開発方針決定に知財部が不関与のため失敗:

  「研究開発について、事業部門が独自に開発の方向性を決定し、開発を進めたが、他社特許権に関する検討がおろそかになっていたため、開発が完了に 近づいた段階で、他社の特許権取得を知り、自社でも独自開発したのに、その他社にライセンス料を支払いつつ事業を進めることになった。」

4.        知財部員の消極性による危機寸前:

  「当社では、事業部に知財部員が担当者として常駐し、開発テ―マの決定に関与できる体制になっているのに、常駐知財部員が受身で作業する傾向があったために、開発開始後に、偶然に他社の重要特許に気付くという有様となった。この開発テ―マは、知財部が関与せず(SANARI PATENT 注:知財「部」としては、の意味と解する)開発方針が決定されたものであったが、開発の方向性を修正して他社特許を回避できたものの、気付かずに開発を続行していたら、多額の損失を来たしていた。

5.        強い他社特許に対応する開発方針転換を進言せず失敗:

  「後発メ―カ―は、既に構築されつつある特許群の網をぬって、隙間を狙って製品開発しなければならない。結局、完全に特許群をくぐり抜けることは難しく、競合他社から警告を受けるに至ったが、これは、新規事業参入を上層部が先行決定したためである。

  このため、事後対策として海外に知財部員を派遣するなど、海外文献も徹底的に調べて公知資料により交渉し、なんとか事業を継続したものの、厳しい他社特許の制約のもとであることから、現在はその事業から撤退している。知財部が、別の事業戦略・研究開発戦略を提案すべきであったが、知財部の発言力が弱い風潮であった。」

6.        共同研究開発に伴うトラブル発生:

  「自社ノウハウなど防衛のため、相手方と秘密保持契約を結ぶなどしていても、実際には、相手方が当社の許諾なく当社のノウハウを実施例に記載して特許出願し、トラブルが発生した。

  従って、共同研究開発を行う場合には、それまでに自社が有していた知財を明確にし、これを証明する関係書類をまとめて袋閉じにし、確定日付を取得しておく。共同研究開発を結ぶ前には、相手方の知財管理体制も確認する必要がある。(以下次回)

2007年5月 5日 (土)

Supreme Court of the US: 特許付与基準の変更可能性を含むとされる米国最高裁2007-4-30・KSR判決(第3回)

Patent on Electronic Acceleration Pedal: 特許要件の「自明性」認否論争

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

(この記事に対する修正ご要求は、patent@sanari.nameにメ-ル下さい)

始めに:

  KRS事件として米国最高裁の判断が内外各界から注目されてきた判決が4月30日に示された。米国連邦地方裁判所では、電子アクセルペダルに関するTELEFLEX所有の特許が「自明性」の理由で無効とされたが、米国連邦巡回裁判所がこれを覆して、「自明性」を否定し、特許を有効とした。KSRは、TELEFLEXから、特許権侵害をもって提訴されており、米国最高裁に上告した。

米国最高裁は、「米国連邦巡回裁判所の判決は米国特許法第103条および自明性に関する最高裁判例に反する」と判示し、事件移送命令(certiorari)を発した。

  SANARI PATENTが性急に要約すれば、地裁が特許無効、高裁が特許有効、最高裁が特許無効という段階にあるが、自明性による特許性の判断が揺れたこと自体が大問題である。

  この事件の帰趨に対する関心は、特に昨年来、日米欧三圏共に高まってきていた。わが国特許庁は、知財推進計画06の「統一的安定的な特許権の付与がなされるよう、進歩性判断(SANARI PATENT 注:米国特許法では進歩性という用語が用いららず、非自明性がこれに見合っていると解されている)の一層の客観化と明確化について、国際的な運用統一の観点も踏まえて検討すべきである」との指摘に対し、本年3月30日に、「進歩性等に関する各国運用の研究報告」を公表したが、今次米国最高裁判決によってこれを補完すべきことは明らかである。

 英国特許庁でも、進歩性判断のレベルが経済に与える影響が大であるとして、進歩性判断に関する意見を公募するなどの行動を示している。

 もちろん、米国では産業の各分野にわたって、自明性判断基準の変動が特許権の安定性を左右するとの認識から、関心は極めて高く、マイクロソフトやシスコシステムなどの申立書提出などが報道されてきた。

 また、米国電子フロンティア財団(EFF)は、オ―プンソ―ス環境促進の立場から、米国最高裁の今次判断に強い関心を表明してきた。

 今後、日米欧三極特許庁会合の「審査実務比較研究」の対象になることは当然ながら、実務から制度に遡る比較研究が必要と、SANARI PATENTは考える。

1.        米国最高裁2007-4-30KSR判決(5-4記事の5を更新)

1-1  米国最高裁は、「KSR International Co.,Petitioner v.TELEFLEX Inc.et al」事件の判決要旨を4月30日に即日発表したので、SANARI PATENTは、これに基づき5-3および5-4記事に所見を述べたが、米国最高裁の判決本文が着信したので、稿を改めて記述する。判決本文は、本件特許の技術的意義についても、判決要旨(Syllabus)よりも一層、一般の理解に適する記述をしている。

1-2  速報の副標題は「Syllabus」であったが、判決には、「Opinion of the Court」と副標示されている。

2.        米国最高裁判決に至る「経緯」(要旨)

2-1 Teleflex Incorporatedとその子会社Technology Holding Company(以下「Teleflex」と総称)は、KSR International Company(以下「KSR」)が特許権を侵害したとして提訴した。

 本件特許権は、米国特許6237565B1(SANARI PATENT 注:以下「Engelgau Patent」と呼称している)で、発明の名称は「スロットル(SANARI PATENT 注:自動車エンジンの絞り弁)の電子制御によるペダル位置調節装置」(Adjustable Pedal Assembly With Electronic Throttle Control)である。特許権者はSteven J.Engelgauである。Teleflexは、その独占実施権を有する。

2-2     Engelgau Patentの請求項4は、自動車エンジンのスロットルオを制御するコンピュ-タ-にペダルの位置が電送されるように、位置調節可能な自動車ペダルと電子センサ―を組合わせた機構を記述している。

2-3     Teleflexが、「KSRは、KSRがデザインしたペダルの一つに、電子センサ―を加えることにより、Engelgau Patentを侵害した」として提訴したのに対し、KSRは、「Engelgau Patentの請求項4は、主題が自明であるから、米国特許法103条により無効である」と反論した。(以下次回)

2007年5月 4日 (金)

Adjustable Pedal Assembly with Electronic Throttle Control: 日米欧三極産業界と特許庁の関心

Patent for Automobile’s Speed Control: 米国連邦地方裁判所、連邦巡回控訴裁判所を経て米国最高裁4月30日判決(第2回)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

(この記事に対する修正ご要求は、patent@sanari.nameにメ-ル下さい)

3.(承前5-3記事)テレフレックスらの主張

3-1 ジェネラルモ―タ―ズ(以下「GMC」)向けのKSRの設計を知ったテレフレックスは、「KSRのペダルシステムはEngelgau Patentの請求項4を侵害しているとの訴えを提起した。

3-2 KSRは反論して、Engelgau Patentの請求項4は、米国特許法第103条、すなわち、「発明時点において特許発明が全体として、当業者にとって自明であるときは、特許付与を認めない」に該当し、無効であると主張した。

3-3 米国特許法第103条については、従来技術の範囲と内容、当業者のレベルが定められなければならない。その上で、従来技術と対象請求項の相違が確認されるが、商業的成功、長期間にわったて解決されなかったニ―ズの充足、他社は失敗したことなどの2次的配慮事項(SANARI PATENT 注:米国特許商標庁の審査基準では、このような表現を用いているが、1次的配慮事項とすることが、イノベ-ションに適する)自明・非自明の画定に役立つ場合があり、この配慮を活用することは、自明・非自明の判定という課題に、光明を投ずる。

3-4 自明性判断の課題の、より統一的かつ安定的(uniformity and consistency)な解決に向けて、連邦巡回控訴裁判所は従来、当業者が従来技術を組合せること(SANARI PATENT 注:従来技術を組合せることにより新たな有用性が創造できれば、非自明と判断される。単なる寄せ集め、aggregationには特許性を認めない)が、従来技術(SANARI PATENT 注:刊行物)において教示、示唆、動機付けされているか、を審査するものとしてきた。

3-5 米国連邦地方裁判所は、従来技術と請求項4との間に、僅かの相違しか見出さなかった(SANARI PATENT 注:「少しは見出せた」か「僅かしか見出せなかった」かが重要な分岐点である)      Asano Patentは、「センサ―を用いてペダルの位置を検出し、スロットルを制御するコンピュ-タ-に送信すること」を除き、請求項4の全てを教示している。この「除き」事項も、068 Patentやシボレ―のセンサ―により開示されている。そこで米国連邦地方裁判所は、次のように判断した(SANARI PATENT 注:すなわち、自明と判断した理由である)

3-5-1 電子センサ―と位置調節可能ペダルとを組合せることは、産業界において必然的である。

3-5-2  Rixon刊行物が、このような開発の基礎を示している。

3-5-3 Smith刊行物が、Rixon刊行物の課題としたシャフトの問題を、「センサ―をペダルの固定構造部位に設けること」によって解決することを教示し、Asano Patentのペダルと、ペダル位置センサ―の組合せに導いた。

4.米国連邦巡回控訴裁判所の判断

4-1 米国連邦巡回控訴裁判所は、「米国連邦地方裁判所が充分厳密に自明性存否の判断基準を適用していない」と判断した。すなわち、「従来技術の組合せから請求項4を導くこと」は、非自明と判断した。細説すれば、

4-1-1 Asano patentは、ペダル位置の調節態様のいかんにかかわらず、ペダル押下に要する力が同一であることを主題とする。

4-1-2  Engelgau Patentは、簡単・小型・安価な電子駆動ペダルを主題とする。

4-1-3 Ricson Patentは、磨耗防止を目的として創案されず、Engelgau Patentの着想に寄与するものではない。

4-1-4 Smith刊行物は、位置調節可能なペダルを主題としていない。

(SANARI PATENT 注:米国特許法第103条(抜粋):Conditions for patentability: non-obvious subject matter. A patent may not be obtained if the differences between the subject matter sought to be patented and the prior art are such that the subject matter as a whole would have been obvious at the time the invention was made to a person having ordinary skill in the art in which the invention was made.)

5.KSRの反論(以下「米国最高裁2007-4-30KSR判決」記事に接続)

2007年5月 3日 (木)

Syllabus of Certiorari, Supreme Court of the U.S.: 2007-4-30 KSRインタナショナル対テレフレックスら事件の米国最高裁判決要旨

Patent for Automobile’s Speed Control: 米国連邦地方裁判所、連邦巡回控訴裁判所を経て米国最高裁4月30日判決

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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  米国特許制度における特許要件として、新規性・非自明性・有用性が定められ、わが国の産業上利用可能性・新規性・進歩性に、総合的には見合っているがために、制度の日米調和を後に回しても、日米特許審査ハイウエイが成り立ちつつあると、SANARI PATENTは理解している。

 自動車の速度制御機構に関する特許発明に対する今次米国最高裁の判決要旨(Syllabus)を、上記の見地から考察する。先ずその内容を要約する。

1.        係争対象特許発明の技術的意義

1-1 自動車の速度を制御する定型的機構は、ケ―ブル等によりリンクする変速管弁を運転者がペダル操作することである。しかし、運転者の足下空間に在るペダルの位置は、通常、調節できないから、足下空間が深い自動車を運転する小柄な人は、自身が運転座席で体を動かすという不完全な対応を余儀なくされてきた。発明者達はそこで、ペダルの位置の方を調節できるよう創案し特許取得することを急いできたのである(SANARI PATENT 注:わが国の判決と比べて、一般国民に対する懇切説明度の高さに、改めて感心する)

1-2  Asano Patentは、ペダルの位置を調節する場合に、スロットルの一つは固定したままとし、かつ、ペダル押下のための所要圧力を、ペダル位置調節の在り方いかんにかかわらず不変とするものである。

1-3  これに対して、Redding Patentは、ペダルとスロットルのいずれをも変位させるスライド機構によるものである。

1-4  新式の自動車では、スロットルがコンピュ-タ制御され、機械的リンクでペダルから伝送される力にはよらない。そこでペダルにおける変位をコンピュ-タがデジタルデ―タに変換するため、電子センサ―を要し、この電子センサ―に関する特許も多く公開された。いわゆる936 Patentは、ペダル機構におけるペダル位置の検出が、エンジン機構におけるそれよも好ましく、従って、同Patentは、ペダル機構中のスロットルの一つに電子センサ―を組み込むものである。

1-5  Smith Patentは、コンピュ-タに電子センサ―を接続する導線の摩耗を防ぐため、電子センサ―は、ペダルの足板にではなく、ペダル機構における固定部分に組み込むものである(SANARI PATENT 注:上記各項もように、代表的Patentの要素を先ず列記することも、米国判決の親切さを示している)

1-6  発明者達はさらに、コンピュ-タ制御可能な各様のペダル機構に適用できる電子センサ―モジュ―ルを創案した。068 Patentは、その一例である。シボレ―やリクソンも、モジュ―ル電子センサ―やその組込について、Patentを創案している。

2.        KSRの技術開発

2-1  本件上告人であるKSRが、導線で作動するを備える位置調節可能ペダル機構を開発して976 Patentを取得した後、ジェネラルモ―タズがこの方式tによる位置調節可能ペダル機構の供給を、トラック用として求めた。そこでKSRは、976 Patentがトラックにも適用可能であるように、その設計にモジュ―ル電子センサ―を付加した。

2-2  被上告人であるテレフレックスらは、その保有する「Engelgau Patentの独占的実施権」の請求項4に、軸頭の一つに電子センサ―を組み込んだ位置調節可能ペダル機構が開示されていると主張した。

2-3  Engelgau Patentについて米国特許商標庁は、この請求項4を、「固定スロットルの一つ」という限定に含まれ、Redding Patentと異なるとして、特許査定した。

3.        テレフレックスらの主張(以下次号)

2007年5月 2日 (水)

Valuation of Alternative Techniques: 代替技術の評価による当該発明の評価 

Steps of Valuating Employee’s On the Job Invention: キャノン職務発明対価補償請求事件(第12回):

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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  職務発明に対する適正な対価を算定するためには、その発明の評価が必要であり、そのためには、当該発明に対する代替技術の存否と、代替性の評価が必要である。下記は、この点についてのキャノンの主張に対する裁判所の判断である。

22.(承前4-30記事)キャノンが主張する代替技術

22-1 キャノンは、「再反射光が有害像とならない感光体の使用」(技術A)によって、少なくとも本件特許発明の構成要件Dを充足しないと主張する。しかし、技術Aは、本件特許発明の有用性を完全に喪失させるものではない。

22-2 キャノンは、「被走査媒体上に静止ゴ―スト像が形成されない光学設計」(技術B)によって、少なくとも本件特許発明の構成要件Dを充足しないと主張する。しかし、技術Bは、構成要件Dを充足するものであることは明らかであり、本件特許発明の代替技術に該当しない。

22-3 キャノンは、「非平行光束の構成」(技術C)によって、少なくとも本件特許発明の構成要件Cを充足しないと主張する。技術Cを実施した製品は、本件特許発明の構成要件Cを充足しないと認められ、代替技術に該当する。

23-4 キャノンは、「共倒れ補正光学系の構成」(技術D)は、本件特許発明の構成要件Cを充足しないと主張する。しかし、技術Dは本件特許発明がなされる以前の技術というべきであり、代替技術としてのの価値は低い。

23-5 キャノンは、「ガルバノミラ―の使用」(技術E)は、本件特許発明の構成要件Aを充足しないと主張する。しかし、その代替技術としてのの価値は低い。

25-6 キャノンは、「ダブルパス方式の構成」(技術F)は、本件特許発明の構成要件Aを充足しないと主張する。技術Fは本件特許発明の技術的範囲に属しないものというべきであり、その代替技術に該当する。

25-7 キャノンは、「再反射光の遮光」(技術G)は、本件特許発明の構成要件Dを充足しないと主張する。しかし、技術Gは技術上の問題点を有すると共に、代替技術としてのの価値も高いものとはいえない。

26-8 キャノンは、「隣接面の不使用」(技術H)は、本件特許発明の構成要件Dを充足しないと主張する。しかし、技術Hを用いて製品を製作販売することは現実的でなく、その代替技術としてのの価値は低い。

26-9 キャノンは、「偏光フィルタおよび1/4波長板の使用」(技術I)は、本件特許発明の構成要件Dを充足しないと主張する。しかし、技術Iはし、代替技術として用いるに足りる技術ではない。

26-10 LED方式、CRT方式、および、インクジェット方式は、本件特許発明が前提とするLBP方式とは異なる構成を有する別の種類の製品であるから(SANARI PATENT 注:LEDはLight Emitting Diodes、CRTはCathode Ray Tube)、本件特許発明の技術的範囲に属しない。また、LED方式や液晶シャッタ方式の国内シェアの合計は、LBP方式の3%程度にとどまる。

   従って、上記各方式は、LBP方式において、本件特許発明の実施をせずに、静止ゴ―スト像を除去できうかという観点からすれば、その代替技術に該当しない。

27.本特許発明の対会社収益寄与度

27-1 本特許発明は、静止ゴ―スト像防止の簡便な手段を提供するものであるから、キャノンの製品において相当高率に実施され、キャノン社内で高評価されると共に、ライセンス契約の相手方においても相当高率に実施されているものと推認される。

27-2 一方、LBPおよびMFP等は、多種多数の特許の複合によって商品化が可能であり、独占的利益を発生するから、個々の特許を抽出した場合、代表特許ではない単なる実施特許について、ライセンス契約全体に対して多大な寄与をしているとみることは、相当ではない。そして本特許発明は、他に代替の余地がない必要不可欠な技術ということはできず、代替技術や重畳的に作用する競合技術が複数存在し、静止ゴ―スト像自体は、他の課題を防止する手段によって防止されることもあり、LBPおよびMFP等の製品化において解決のために必ず本特許発明を実施する必要があるというものでもない。

37-3 これらの諸事情を総合的に考慮すれば、本特許発明は、キャノンのライセンス契約における基準期間内のキャノン保有特許(LBPにつき4005件、MFP等につき6175件)のうちの1件に対して30件分の価値を有するものと評価するのが相当である。

2007年5月 1日 (火)

Comment for Cabinet IP Strategy Plan 2007 内閣知財戦略本部知財推進計画07に対する要望

Harmonization of Global IP System: Difference between Aggregation & Combination:  進歩性の判断基準等、本年度計画の月内決定を望む

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

Aggregation は進歩性なく、Combinationは進歩性がある。そこでまた、両者の明確な画定が必要である。

世界情勢の著変に即応して、わが国のイノベ-ションを機敏に展開するため、知財推進計画07の実効性が強く求められている。

本月末には決定に至ることが望まれるが、SANARI PATENTが、従来の要望に付加して要望するのは、下記の事項である。

1.「各国の有用性または進歩性等の判断基準の明確化」として、「特許性の要件の各国制度上の表現の相違」を、判断基準の明確化を通じて調和すべきことを、さらに明確に計画することが必要と考える。

 (理由)

 例えば、米国特許法上の特許要件は、「先発明」のほか、次の4項目である。

(1)新規性(Novelty)

(2)非自明性(Unobviousness)

(3)有用性(Usefulness)

(4)公序良俗違反等の拒絶事由に非該当

 わが国特許法上の特許要件は、「先願」「自然法則の利用」「高度」のほか、次の4項目である。

(1)産業上利用性

(2)新規性

(3)進歩性

(4)公序良俗違反等の拒絶事由に非該当

すなわち、特許付与について、例えば、次のような異同を生ずる可能性があり、また、現に生じていると考える。

(1)わが国では、「医療行為に関する発明」は「産業上利用」の対象外として、特許を付与されないが、米国では付与される。

(2)わが国の新規性は、従来技術との不一致を意味し、米国の非自明性は、わが国の進歩性における「非容易想到性」に接近または同義であるものの、非容易想到性の具体的判断は必ずしも同一ではない。これは、当業者の技術水準、容易想到の主観性、動機付けの有無等の判断の差異によると考える。

(3)米国では、「新規、有用、確認可能な結果」(novel, useful and tangible results)が特許付与の審査基準であり、「商業的成功」(commercial success)がその立証となる。すなわち、他社が実行して商業的成功を得なかったのに、実行して商業的成功を得たことは、非容易想到性の立証として評価される。

 2.「個々の審査官・審判官が安定した特許付与をなし得るよう、意見交換を一層促進すると共に、発明の進歩性や意匠の美感・商標の類似の判断基準をさらに客観化・明確化すべく、運用の国際的統一を踏まえて速やかに検討し、審査基準を改定する。また、裁判所との情報交換を一層促進し、審査・審決と判決の相違を極力防止する」との項目を増強することが必要と考える。

特許権について知財推進計画06が、「2006年度から着手」する旨オ述べていますが、知的財産権の全領域にわたって、審決による審査結果の取消、判決による審決結果の取消が散見されるので、不安定防止対策の加速を求める。

3.日本企業が外国企業よりもビジネスの競争上不利になる危険があることへの制度面の対策を拡大強調し、現に、例えば、製薬企業が米国において、先発明制度、ディスカバリ制度、陪審制度等による多様多岐な苦難を喫していることへの対処を強調すべきであると考える。内閣知財戦略本部有識者の関係発言を明文化すべきであると考える。

  既に知財推進計画06に、「海外における権利行使、海外・ライセンス活動を円滑化する」として、「企業等が、適切に権利行使を行い、ライセンス交渉や訴訟提起等の活動が円滑に実施できるよう、2006年度から、権利者の海外における権利行使等の事例等を調査し、情報提供を行う」と計画しているが、経済産業外交交渉による、さらに強力な、政府としての支援を実行することを計画することが必要と考える。

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