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2007年4月30日 (月)

Contents of Claim Term: 「ゴ―スト像」の語義は複数あるから、先ずその意義を確定することが必要

Patent on Elimination of Ghost: キャノン職務発明対価補償請求事件(第11回): 「ゴ―スト像を除去する走査光学系」の構成要件

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

  第10回までに述べたように、この事件について考察に値するのは、職務発明対価の在り方よりも、むしろ、包括クロスライセンス契約の企業戦略的意義を精細に実例研究できることである。

 丁度一昨日(4月27日)、公取委は、知財の戦略的活用の活発化に対処し、平成11年7月に策定した「特許・ノウハウライセンス契約に関する独禁法上の指針」を全面改正するとして、「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針案」を発表した。ライセンスの諸形態について、独禁法上の留意点を示しているが、キャノンの場合、オ―プンライセンスポリシ―を基本としているので、この面での問題は全くないと、SANARI PATENTは考える。

  さて本日の記事について、司法における知財分野の特異性は、語義や「用語自体」がイノベ-トないし創造されることである。他の分野では、「法令の第何条に定める何々の定義により」で攻撃防御と判断が進められるが、米国特許商標庁の審査基準(MPEP)が明示しているように、発明は新たな科学思想を創作するものであるから、発明者は、用語自体ないし用語の内容の創造者であることを認められる。

 「創作」にまでは至らないが、多義な用語について、語義の選択が、この判例にも登場する。

20.(承前04-22記事)キャノンの本件特許発明の技術的範囲(要旨)

20-1 本件特許発明の構成要件

 A 光源と、その光源からの光束を線状に結像する第1結像光学系と、第1結像光学系による線像の近傍に偏向反射面を有する偏向器と、その偏向器で偏向された光束を被走査媒体面に結像する第2結像光学系とを備える。

 B 光束の偏向面内において、第2結像光学系はf・θ特性を有する光学系である。

 C 第2結像光学系には平行光束が入射し、光束の偏向面と垂直で、かつ、第2結像光学系の光軸を含む面内において、偏向反射面(A記載)近傍の線像と被走査媒体面(A記載)上の点とが、第2結像光学系を介して共役関係にある走査光学系である。

 D 偏向器(A記載)は、N個の偏向反射面を有する回転多面鏡であり、光束の偏向面と平行でかつ第2結像光学系の光軸を含む面内における第2結像光学系の側面主点と被走査媒体面(C記載)との距離をD,被走査媒体面上において第2結像光学系の光軸から有効走査巾の端部までの距離をWとするとき、光束の偏向面と平行な面内において偏向器(A記載)に入射する光束に対し、第2結像光学系の光軸がなす角度をαを、

    (4π/N)-(W/D)

   よりも小さく選定したことを特徴とする「ゴ―スト像を除去する走査光学系」である。

20-2            A~Cの内容については、キャノンと職務発明者甲間に争いがない。

20-3            本件特許発明の本質が、明らかに、Dにあることについても争いがない。

21.構成要件Dの技術的範囲

21-1 構成要件Dは、「ゴ―スト像を除去する走査光学系」の構成を示すものである。しかし、「ゴ―スト像」という語には、次のように複数の意味がある。

21-1-1 ネガに記録されてしまうような、一つ、もしくはそれ以上のレンズ表面からの像の反射(フレアスポット)

21-1-2 光学器械を通して観察したときによく見かける、光学系の表面反射に起因する、物体の偽りの、また多重の像

21-1-3 フラッシュを使ったときに、ネガ上に時々現れる二次的な像

21-1-4 テレビで、エコ―によって生ずる二次的な像

21-1-5 分光で、回折格子の刻線の不規則性から生ずるスペクトルの偽りの像

21-2 このように、発生原因や事象について複数の意味を有するので、特許請求の範囲の記載のみでは、その意義が必ずしも明確でない。従って、本件明細書における「発明の詳細な説明」の記載を参酌して「ゴ―スト像」の意義を確定する必要がある。

21-3 そこで本件明細書の各記載に照らせば、構成要件Dにおいて除去さるべき「ゴ―スト像」は、「被走査媒体からの拡散反射光が再びレンズを透過して偏向器に入射し、その反射光の一部が再度レンズを透過して被走査媒体上の有効走査巾内の同一位置に結像して発生するゴ―スト像」と解される。

   構成要件Dに示される構成は、被走査媒体からの再反射光に起因する静止ゴ―スト像が、被走査媒体面上における4π/Nという一定の位置に発生することから、角度αをD記載のとおり規定することによって、静止ゴ―スト像を有効走査巾内に発生しないようにするものである。

22.キャノンが主張する代替技術(以下次回)

2007年4月29日 (日)

Fair Trade Guidelines on IP Activities: 公取委が「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針案を発表(4月27日)

Patent-Pool, Cross License etc.: 独禁法上、問題となる可能性について指摘

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

  公取委は、知財の戦略的活用の活発化に対処し、平成11年7月に策定した「特許・ノウハウライセンス契約に関する独禁法上の指針」を全面改正するとして、その案を4月27日に発表した。

 SANARI PATENTは、下記の意見を公取委に送信すると共に、そのコピ―を内閣知財戦略本部にも送信した。   

  記

公正取引委員会(取引企画課)宛

「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(原案)(H19-4-27)

に対する意見    平成19428日   

弁理士 佐成 重範 

1.「対象となる知的財産の拡大」について:

(意見)

   知的財産基本法が定義する「知的財産」の範囲と同一とすることが適切であると考えます。

(理由)

1-1  貴案に引用されている通り、知的財産基本法第10条は、「知的財産の保護および活用に関する施策を実施するに当たっては、その公正な利用および公共の利益の確保に留意すると共に、公正かつ自由な競争の促進が図られるよう配慮するものとする」と定め、公正な利用、公共の利益、自由な競争への配意は、知的財産全般に及ぶべきものと定めております。

1-2  世界知的所有権機関設立条約第2条に定める「知的所有権」の範囲も、知的財産基本法の「知的財産」の定義と内容を等しくすると共に、「不正競争に対する保護」を内包しております。

1-3  新憲法案(自民党第2次案)の第29条第2項も、「財産権の内容は、公益および公の秩序に適合するように、法律で定める。この場合において、知的財産権については、国民の知的創造力の向上および活力ある社会の実現に留意しなければならない」と定め、知的財産権全般について、公益、公序、創造、公正競争による活力の協働が謳われております。

1-4  貴案においても、「本指針では、「技術の利用」と「知的財産の利用」とは同義のものとして用いる」としていますが、貴案が国内外にわたって、わが国の知的財産関係活動の規範となることから、対象および用語の明確が先ず必要であります。貴案の適用を除外する必要が認められる場合には、個別に通達等により措置されることが適切と考えます。

1-5  貴案においては、「著作法に基づくプログラム著作物」、「意匠法に基づく物品の形状に係る意匠」が今次案の対象とされ、著作権法が保護する思想または感情の表現は、対象とならない旨を注記されましたが、著作権法による「表現」は、デジタル化して流通する場合が激増すると共に、環境保全協力の思想を謳ったロゴ、希望を表すキャラクタ―などを含めて、「思想・感情」の表現は、流通適格性を有する場合が圧倒的に多くなり、文化権の財産権化(流通財化)が進行しておりますから、グロ-バルに見ましても、上記除外は適切でないと考えます。

1-6  さらに、最近の知財高裁判決に見ますように、著作権(カタログ)、商標権、商品化権等を一体とするプロパテイ権が、海外市場と米国法人知的財産権をめぐって、わが国企業間の訴訟事件化する現象も発生し、知的財産を総合的に貴案の対象とする必要があると考えます。

1-7  また貴案において、「営業秘密のうちの技術に関するもの」を今次案の対象とすると述べておられますが、内閣知財戦略本部の知財知財推進計画から見ても、営業秘密全体を対象とすることが、政策の一元的整合のため必要と考えます。

2.不当な取引制限の観点からの検討について:

 (意見)

  貴案においては、パテントプール、マルティプルライセンス、クロスライセンスについて、検討の要諦を示されましたが、次の項目を加えていただきたいと考えます。

2-1  国際標準化における「合理的・無差別ライセンス基準(RAND)」、 「製薬業などにおける非代替的リサ―チツ―ルのライセンス基準」など、「合理的」の意義を明確化すると共に、国際電気通信連合(ITU)におけるように、勧告にとどまり標準の強制力を制度化しない場合、法的規格化して実質的に標準が強制される場合を分けて、「標準化関連指針」の要旨として、今次案に加えられることを望みます。

2-2  クロスライセンスについては、特に電子機器においてグロ-バルに締結・運用されつつある包括クロスライセンス契約について、留意すべき点を示されたく存じます。

2-3  以上を通じて、「オ―プンライセンスポリシ―」の採択が、イノベ-ションの見地からも望ましいことを、内閣の総合的立場から明示されたいと考えます。 

(理由)

デファクト国際標準化や世界市場制覇が、多国籍企業や特許力(知財高裁用語)ある企業グル-プによって意図されており、国際標準化関係の貴指針と総合して、RANDやライセンスの適法条件を明示していただきたいと存じます。(以上)

2007年4月28日 (土)

ASAHI Drinks::アサヒ飲料と行政法人の機能性飲料開発・知財高裁4月25日判決

Anti Allergenic Drinks: アサヒ飲料の多角的技術開発進む

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

(この記事に対する修正ご要求は、patent@sanari.nameにメ-ル下さい)

  アサヒ飲料(東証1部)は、野村證券によれば、アサヒビ―ル株比51.1%で、「十六茶」を始め多角的に新味投入し、着実に営業益を続伸。

  抗アレルギ―機能性飲食品の発明について、アサヒ飲料と独立行政法人農業食品技術総研が提起した審決取消請求(訴訟代理人・正林真之弁理士ほか)を、知財高裁判決(4月25日)が棄却した。

 特許庁の審査(拒絶査定)・審決・知財高裁判決の結論が一致したことでは、内閣知財戦略本部の「権利の法的安定性」の路線に即応した外見を呈するが、実質的な問題点を考察すべきである。

1.        新規性、明細書記載要件、判断対象が争点

1-1        経緯

1-1-1アサヒ飲料株式会社(以下「アサヒ飲料」)、独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構(以下「独立行政法人農業食品技術総研」)および生物系特定産業技術研究推進機構(以下「推進機構」)は、「抗アレルギ―効果増強製造法および本法を用いて製造された機能性飲食品」発明について特許出願(2003-01-27)したが、推進機構の解散に伴い独立行政法人農業食品技術総研が、推進機構の「特許を受ける権利の持分」を承継した。

1-1-2アサヒ飲料と独立行政法人農業食品技術総研は、特許庁から拒絶査定(2005-02-01)を受けたため、不服審判請求し、かつ特許請求範囲を補正(2005-08-08)した(以下「本件明細書」)。

1-1-3 特許庁は、「本件審判の請求は成立たない」と審決(2006-06-05)した。

1-1-4 アサヒ飲料と独立行政法人農業食品技術総研は、審決取消を知財高裁に請求し、知財高裁は、H18(行ケ)10335審決取消請求事件判決(2007-04-25)により、請求を棄却した。

1-2 特許請求の範囲(要旨)

   本件出願の特許請求の範囲は、請求項1~8からなり、請求項4の発明(以下「本件発明」は、次の内容である。

EGCG3メチルおよび、EGCG4メチルを含有する緑茶の茶葉の抽出時に、50℃から100℃の高温域で抽出することにより、カテキン類の抽出効率を上げると共に、異性化を促進し、抗アレルギ―活性を向上させる方法」

1-3 審決の内容

本件発明は、引用例発明と同一であり、特許法29-1-3に該当するので特許を受けることができず、また、特許法36-4-1の明細書記載要件を満たさず、特許を受けることができないものであるから、その余の請求項の発明について判断するまでもなく、本件出願は拒絶さるべきものである。

2.        アサヒ飲料と独立行政法人農業食品技術総研の主張

2-1        新規性の認定判断の誤り

2-1-1 審決は、次のの理由で、本件発明と引用例発明とは同一であると判断した。

2-1-1-1 3-O-メチルガレ―トおよび4-O-メチルガレ―トを含有する緑茶の茶葉の抽出時に、50℃から100℃の高温域で抽出する方法である点で一致する。

2-1-1-2

 本件発明が、「カテキン類の抽出効率を上げると共に、異性化を促進し、抗アレルギ―活性を向上させる」と特定しているのに対して、引用例発明にはそのような特定がない点で一応相違しているが、「カテキン類の抽出効率を上げると共に、異性化を促進し、抗アレルギ―活性を向上させる」ことは、50℃から100℃の高温域で茶葉からカテキン類を抽出する結果として、そのような作用が生じるものであり、引用例発明においても50℃から100℃の高温域で茶葉からカテキン類を抽出しているのであるから、同じ結果が生じていることは自明であり、この点は相違点とはいえない。

2-1-2        しかし、上記審決の認定には、以下のとおり誤りがある。(以下次回)

2007年4月27日 (金)

Copy Wright & Trade Mark: 著作権と商品化権:プロパティ権に含まれる権利画定

Contents of Sub-License: 中国ポロシャツ市場をめぐる知財高裁判決(第3回)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

(この記事に対する修正ご要求は、patent@sanari.nameにメ-ル下さい)

 始めに:

   国家公務員法改正案が閣議決定(04-25)され、「特許庁や金融庁などを除けば、(国家公務員に)転職市場で役に立つ技能は見当たらない」(原文)との有識者談がマスコミ(朝日新聞04-25)されたが、知財の国際関係の微妙な実務にも通ずることの重要性を、本件判決は示している。

4.(承前04-26記事)ファ―ストリテイリングとユニクロの主張

4-1 サクラインタ―ナショナルによる「権利の不存在確認請求」の不適法性:

   サクラインタ―ナショナルのこの請求は、現在の法律関係の確認ではなく、過去の法律関係の確認を求めるもので、不適法である。しかも、確認の訴えは、原告の権利または法律的地位に危険・不安が現存し、その除去方法として確認判決が有効適切な場合に認められるものであるのに、サクラインタ―ナショナルは既に2005-12-31にマスタ―ライセンシ―の地位を喪失しているから、キ―ス・ヘリングの著作物等を管理する権限を有せず、その使用を許諾する立場にもない。従って、サクラインタ―ナショナルには、確認訴訟を認めなければならない危険や不安は存在せず、確認の利益はない。

4-2        同じく「確認訴訟における当事者選択」の不適法性:

   サクラインタ―ナショナルは、ファ―ストリテイリングとの関係で請求しているが、ファ―ストリテイリングはユニクロ事業に関する権利義務を吸収分割によりユニクロに承継させているから、当事者選択についても不適法である。

4-3        同じく「提示事実等」の措信困難性:

4-3-1      サクラインタ―ナショナルが検証において提示する釦付きポロシャツが偽造品である可能性も否定できない。

4-3-2      サクラインタ―ナショナルの調査報告書は、サクラインタ―ナショナルが依頼した調査員が、キ―ス・ヘリングの文字が刻印された釦付きポロシャツが中国で販売されていたか否かに関し、中国所在のユニクロ上海中聯店の店長代行等から調査した内容を録音・反訳・翻訳したものとのことである。

4-3-3       しかし、店長代行が本件プロパティの付された商品の存在を認めた事実は一切なく、サクラインタ―ナショナルが提出した調査報告書には、発言のない文言を括弧書きしたり、また、調査の主法自体、店長代行らの錯誤を利用するものである。

4-3-4       サクラインタ―ナショナルが提出した中国公正証書は、サクラインタ―ナショナルが中国で行った懸賞金募集を端緒に、Lなる者がサクラインタ―ナショナルに提出したポロシャツの購入経緯等について、公証人の面前でLの供述をまとめたとのことであるが、そもそもLなる者が実在するのか(SANARI PATENT 注:この箇所は、中国の公証人に対し非礼のおそれがある)Lなる者の供述内藤が真実であるのか吟味されていない。

4-3-5      上海ユニクロで販売されていたポロシャツを入手して、取替え易い釦についてのみ、日本で販売されているキ―ス・ヘリングのポロシャツの釦と交換した可能性も完全には払拭できない。

4-3-6      仮に、ファ―ストリテイリングの子会社が釦付きポロシャツを中国で販売していたとしても、本件サブライセンス契約は、あくまで著作物のライセンス契約であって、著作物に該当しないものの使用を規律するものではない。

4-3-7      従って、単に標準文字で釦の表面に小さく「KEITH HARING」と刻印されているに過ぎない釦付きポロシャツの販売を、件サブライセンス契約の違反ということはできない。

4-3-8       キ―ス・ヘリングは、あくまで画家であって服飾デザイナ―ではなく、需要者を惹き付けるものはキ―ス・ヘリングの作品であって、氏名そのものが顧客誘引力を有しているわけではない。従って、キ―ス・ヘリングに関して顧客誘引力を有するのは「KEITH HARING」という名称ではなく、キ―ス・ヘリングの著作物である。

4-3-9      キ―ス・ヘリングに関して商標登録がなされていたのは、キ―ス・ヘリングの著作物に関するもののみであって、「KEITH HARING」という名称については、商標登録されていない。

4-3-10  本件サブライセンス契約の締結に先立ち、サクラインタ―ナショナルとファ―ストリテイリング・ユニクロ多の間で締結された覚書も、ライセンス対象を、キ―ス・ヘリングの著作物であるキャラクタ―のみとしている。

4-3-11  上記4-31-10の覚書を前提として締結された本件サブライセンス契約には、「サクラインタ―ナショナルは、ファ―ストリテイリングに対し、サクラインタ―ナショナルが管理するThe Estate of Keith Haringの著作物「KEITH HARING」(以下「プロパテイ」)に含まれる著作権等に基づく商品化権」を本件商品に使用することを各条項に従い許諾する」と定め、著作権のマルC表示が要求されるのみで、登録商標のマルR表示は要求されていない。

2007年4月26日 (木)

Japan in China & in Internet : 「B・C日本企業が、中国で、米国知財権侵害品を販売した」という、A日本企業の主張

Property の概念:: 控訴人サクラインタ―ナショナル、被控訴人ファ―ストリテイリングとユニクロの主張(第2回)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

(この記事に対する修正ご要求は、patent@sanari.nameにメ-ル下さい)

  中国の市場で、日米欧の商標や著作権が侵害されているという問題が外交の課題とされてきたが、今次知財高裁判決の控訴人(日本企業)は、、「被控訴人(日本企業)が、中国市場において、米国企業の商標権・著作権等(プロパティ権)を侵害した」と訴えた。「侵害の故意性が、インタ-ネット時代にどのように立証・反論されているか、概観する。

3.        当事者双方の知財高裁における主張(承前04-24記事)

3-1        サクラインタ―ナショナルが請求した1次・権利不存在確認

3-1-1      キ―ス・エステイトは、本件プロパティについて著作権・商標権を有する。

3-1-2      キ―ス・エステイトは、サクラインタ―ナショナルとの間で、本件プロパティについてマスタ―ライセンス契約を締結した              (2005-12-23)

3-1-3      サクラインタ―ナショナルは、ファ―ストリテイリングとの間で、本件プロパティについてサブライセンス契約を締結した(2002-12-31)

3-1-4      サクラインタ―ナショナルは、中国問題等に関するファ―ストリテイリングの債務不履行を理由として本件ブライセンス契約を解除した(2005-02-04)

3-1-5      ユニクロは、ファ―ストリテイリングから、ユニクロブランドで展開する衣料品・衣料雑貨品の日本国内での企画・生産・販売、中国上海での衣料品・衣料雑貨品の生産管理、ファ―ストリテイリングの海外関係会社の卸売に関する営業を吸収分割により承継し、本件に関するユニクロ義務を承継した。

3-1-6      ユニクロ・ファ―ストリテイリングは、1次解除の有効性を争っているので、本件ブライセンス契約に基づく権利の不存在確認を求める。

3-2  サクラインタ―ナショナルが請求した1次金銭支払

3-2-1      ファ―ストリテイリングとユニクロは、1次解除が有効と知りながら、本件商品を販売した。この販売に係るファ―ストリテイリングとユニクロの利益は13億円余、サクラインタ―ナショナルの利益は12億円余、実施料相当額は、9億円余である。

3-2-2      よってサクラインタ―ナショナルは、ファ―ストリテイリングとユニクロに対し、本件マスタ―ライセンス契約に基づく独占的通常使用権の侵害による損害賠償請求として、または同独占的通常使用権を根拠多するキ―ス・エステイトの著作権侵害、商標権侵害、不正競争防止法違反の損害賠償請求権の代位行使として、上記各金額を請求する。

3-3 2次請求

3-3-1 ファ―ストリテイリングは、2006年度のミニマムロイヤリティを支払  

   わなかったので、本件ブライセンス契約を2次解除した(2005-10-01)。ファ―ストリテイリングとユニクロは、その有効性を争っているので、権利の存在確認を求める。

3-3-2        上記3-2-2と同旨の損害賠償を求める。

3-4               3次、」4次について、上記とほぼ同旨。

3-5               契約違反の重大性(サクラインタ―ナショナルの主張)

    中国における販売許諾許諾地域外で、「KEITH HARING」のロゴ釦を使用した商品をファ―ストリテイリング多ユニクロが販売することは、本件プロパティそのものを付した商品の販売と同様に、契約違反の程度は極めて強い。しかも、同ロゴ釦付きポロシャツが販売されていたことについて、ファ―ストリテイリングとユニクロが把握していなかったことはあり得ないのに、この事実を認めようとせず隠蔽していたことは、重大な背信行為である。

3-6               本件プロパティが付されたポロシャツの販売(同上)

3-6-1      ファ―ストリテイリング発の中国向けのホ―ムペ―ジに、定価59元のキ―ス・ヘリングポロシャツを売価29元に値引きして販売しているとの公告があり、これを見れば、その商品が現在、その値引き価格で店頭販売されていると理解するのが普通である。原判決は、「ファ―ストリテイリングが、サクラインタ―ナショナル主張のような販売を行ったのであれば、ファ―ストリテイリングとユニクロの店頭で販売の条実を確認したり、販売された商品を入手することは、さほど困難なことではないと考えられる」と述べるが。根拠がない。すなわち、問題のポロシャツは春夏物であり、通常8月中旬には販売が終了するところ、サクラインタ―ナショナルがホ―ムペ―ジ画像にに気づいたのは、ほぼ販売が終了する時期であり、かつ、半値以下販売による品薄であった。

3-6-2      原判決は、「中国向けホ―ムペ―ジに本件ポロシャツ画像が価格の記載と共に掲載されている。しかしながらファ―ストリテイリングとユニクロは、中国で本件プロパティの付されていないポロシャツの販売を企画したが、日中間で画像デ―タのやりとりをする際に誤って本件プロパティの付されたポロシャツの画像を送信し、そのまま掲載してしまったという証言は、不自然として排斥できない」と述べている。しかし、拡大画像の送信、品番の整合、仕様書の記載等々から、侵害は意図的に行われたことが明らかであり、原判決のこの点についての判断は誤りである。、

 (以下次回)

2007年4月25日 (水)

IP Headquarters of Tokyo University: 東大の産学連携本部と東大技術移転機構(TLO)

Cabinet IPPolicy Headquarters: 内閣知財戦略本部が示した「大学知財本部と技術移転機構(TLO)一本化」の選択肢

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

(この記事に対する修正ご要求は、patent@sanari.nameにメ-ル下さい)

 始めに:

 標記の選択肢課題が、行政機構の課題、すなわち、大学の知財本部は文部科学省主所管に属し、TLOは経済産業省の主管に属することに淵源しているかどうかは、分らない。東大では、機能が明確に画定されているかも知れない(例えば、プログラム著作権のライセンス業務はどうか)。

  内閣知財戦略本部を含めて、現在73に達した内閣直属の本部や会議のいずれも、行政機構の革新に論及するものはない。換言すれば、標記については、大学が自ら選択するほかない。

  そこで、下記の要約に移るが、SANARI PATENTから内閣知財戦略本部に送信したのも、下記の部分のみである。

    記

  総合科学技術会議の知財戦略専門部会が、329日に、東大の藤田隆史・産学連携本部長を招いて意見を聴いた。

  内閣知財戦略本部では同日3月29日の全体会合、4月17日の有識者本部員会合において、東大技術移転機構(TLO)山本貴史社長が意見を述べた。

  

  内閣知財戦略本部の知財推進計画06には、「大学知財本部・TLOの一本化や連携強化を進める」という計画を立てているが、両氏とも、この選択肢についての言及記録は見られない。

  産学連携本部長の演題は「大学発ソフトウェア移転の課題と提案」、TLO社長の演題は「動き始めた産学連携」であるが、いずれにせよ、全国744の大学のうち、TLOや知財本部を設置している大学は未だ約50に過ぎないから、両氏の意見を全国大学に演繹することはできない。

  地方の大学では、特にバイオ分野について、大学教員がバイオベンチャ―を創業し、または企業と直結して奏功している事例が、毎年開催される野村證券系主催のバイオコンフェレンスで報告されている。この場では、大学知財本部・TLOの語が登場した例に接しない。

1.        東大産学連携本部長の意見(要旨)

1-1        化学系の技術計算ソフトウェアの例を見ても、日本の大学発でデファクト化したソフトウェアは無い。

1-2        構造・流体力学の技術計算ソフトウェアの例を見ても、日本の大学発でデファクト化したソフトウェアは無い。

1-3        大学のソフトウェア技術移転については、次のような隘路がある。

1-3-1        開発リスクの大きさ:

   メ―カ・ベンダ―が手を上げない。特許に比べてソフトウェアは、技術移転に際してて離れが悪く(SANARI PATENT 注:ソフトウェア著作権・プログラム特許についての所見は述べられていないが、ソフトウェアの有償移転が多いことは、企業の財務諸表に、その取得価額が資産計上されていることからも明らかである)、 

1-3-2        大学のソフトウェアは、完成度が不足し、サポ―ト体制を欠く。

1-3-3        大学におけるソフトウェア著作権が絡む産学連携のスパイラルアップのサイクルができていない。

1-4               産学連携共同研究コンソ―シアムにより実用化開発すべきである。

1-5               産業界は、大学にどのようなソフトウェアがあるのか知らない。

2.        東大TLO社長の意見(要旨)

2-1  酸化チタンの光触媒効果応用発明は、東大発であるが、基本特許を日本企  業と東大が押さえ、この技術が国際標準になっている(SANARI PATENT 注:1-11-2の発言と対蹠的である)

2-2  多様な社会問題を技術革新で解決し、知財を抑えることが、日本の競争優位を実現する。そのトリガ―は産学連携の推進である。

2-3  東大は、日米の全ての大学の中で、単体の大学では、2004年の発明開示件数は首位である。

3.        有識者本部員合議における議事概要

3-1  行政からの支援として、大学の外国出願について科学技術振興機構の支援緩和、産学連携交付金の新設、ライセンスや製品化の件数による大学評価を望む。

3-2  大学がストックオプションの権利行使ができることを望む。

4.        学者・業界の産学連携論(出典・日本製薬工業会「カプセル」)

4-1  相沢英孝・一橋大教授: 利益を追求せず、研究成果を公表し、自由に使えるようにすることが、アカデミアの責任であるはずである。知財ブ―ムで、アカデミアを特許権という経済的利益の世界に巻き込んでしまったことが、特許制度の影の部分である(SANARI PATENT 注:相沢氏は産業構造審議会臨時委員)

4-2  秋元 浩・武田薬品常務: 大学のバイオ特許出願が増大し、大学は「特許化されたタネは芽が出る」と考えるが、実用化価値ある特許はごく僅かに過ぎない。特許件数が増えても、研究成果が結実するスピ―ドは変らない。従って、産学連携が飛躍的に増えるわけではないというのが、企業の認識である。

4-3  長岡貞男・一橋大教授: 米国の産学連携では成果物の権利が集約化され、企業か大学の一方が特許を保有するのが一般的だが、日本では、知財権の確保のみに重点がおかれ、誰がどのような条件で保有すれば効率的ビジネスができるかという観点が希薄である。独占的実施が必要な医薬品の共同研究では、自動的に共有という契約にすべきでない。

4-4  中山信弘東大大学院教授: 基本的には、大学の論理(使命)と企業の論理(使命)とは、相容れない。相容れないけれども産学連携してゆかなければならない。それが難しいところである。

2007年4月24日 (火)

Master License of Properties: ユニクロとファ―ストリテイリング対サクラインタ―ナショナル「著作権に基づく商品化権」損害賠償被請求・知財高裁判決2007-04-05

The Estate of Keith Haring関連: サクラインタ―ナショナルはユニクロ・ファ―ストリテイリングに対し約19億円の賠償等を要求

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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  米国のThe Estate of Keith Haring(以下「キ―スエステイト」)は、Keith Haringの遺言により、その財産を管理する団体であったが、サクラインタ―ナショナルは、キ―スエステイトとの間で、Keith Haringが創作した「商品目録記載のイラスト、図柄、文字、デザイン等(以下「本件プロパティ」)についてマスタ―ライセンス契約を締結(2002-12-23)していた。

 サクラインタ―ナショナルは、その後、ファ―ストリテイリングとの間で、ファ―ストリテイリングが本件プロパティを使用すること等を内容とする本件サブライセンス契約を締結(2002-12-31)した。

 サクラインタ―ナショナルは、その後、ファ―ストリテイリングの債務不履行を疑い、2次にわたり(2005-02-042005-10-01)契約解除の意思表示を行い、その有効性等を巡って本件訴訟が提起されるに至った。

 

 その第1事件は、サクラインタ―ナショナルがユニクロとファ―ストリテイリングに対し、サクラインタ―ナショナルが本件プロパティについて有する独占的通常実施権等に基づき、当該著作物と商標の使用差止め、商品の廃棄、損害賠償等を求めた。

 第2事件は、サクラインタ―ナショナルが、ユニクロとファ―ストリテイリングに対して、「ファ―ストリテイリングがサクラインタ―ナショナルの信用を棄却ソンする虚偽の事実を流布した」として、損害賠償等を求めた。

 第3事件は、「ファ―ストリテイリングが本件サブライセンス契約について更新の意思表示をして(2005-04-28)、当該商品販売の継続を宣言し、被許諾者の地位保有の仮処分決定を得たこと」により、2006-01-01以降に他社とサブライセンス契約を締結を締結するための営業活動等を行うこと(SANARI PATENT 注:「サクラインタ―ナショナルが行うこと」)が不可能になったとして、主位的には損害賠償、予備的には

ユニクロとファ―ストリテイリングに対する本件サブライセンス契約に基づくミニマムロイヤリティの支払いを求めた。

 なお、野村證券によれば、ファ―ストリテイリング(東証1部)は、カジュアル衣料店「ユニクロ」を展開。持株会社。中国で委託生産のほか、海外戦略を加速。

1.        原審・東京地裁H17364620463の判決(2006-03-17)

ファ―ストリテイリングには、本件サブライセンス契約の継続を困難とするような背信行為等は認められないとして、サクラインタ―ナショナルの請求をいずれも棄却した。

2.        サクラインタ―ナショナルの本件控訴提起

2-1        上記第2事件を除き、第1、第3事件について提起した。

2-2        サクラインタ―ナショナルの請求(要旨)

2-2-1      サクラインタ―ナショナルは、ファ―ストリテイリングと本件サブライセンス契約を締結していたが、中国問題等に関するファ―ストリテイリングの債務不履行を理由として、契約を解除した(2005-02-04)ので、ファ―ストリテイリングとユニクロに対し、契約に基づく権利不存在の確認を求める。

2-2-2      契約解除日以降、ファ―ストリテイリングが本件プロパティを付した商品を販売し、サクラインタ―ナショナルの著作権(複製権)・商標権を侵害し、不公正競争防止法違反をしたので、ファ―ストリテイリングとユニクロに対して、損害賠償等を求める。

2-2-3      上記2-2-1の解除が無効としても、サクラインタ―ナショナルは、ファ―ストリテイリングによるライセンス料の債務不履行を理由として契約の第2次解除をした(2005-10-01)ので、ファ―ストリテイリングとユニクロに対して、権利不存在の確認を求める。

2-2-4      上記2-2-3の第2次契約解除日以降、ファ―ストリテイリングが本件プロパティを付した商品を販売し、サクラインタ―ナショナルの著作権(複製権)・商標権を侵害し、不公正競争防止法違反をしたので、ファ―ストリテイリングとユニクロに対して、損害賠償等を求める。

2-2-5      第3次、第4次解除について、上記各項とほぼ同様。

3.        当事者双方の知財高裁における主張(以下次回)

2007年4月23日 (月)

Cabinet IP Policy Headquarters 内閣知財戦略本部有識者本部員4月17日会合議事

: Those Having Superior Insights into Creation, Protection & Exploitation of IP: 「知財推進計画07」の重点を策定・SANARI PATENTは意見送信

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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1.        新陣容有識者本部員第1回会合(4月17日)議事概要(要旨)

    武田薬品・長谷川社長、東芝・岡村会長、角川・角川会長ら10名の有識者本部員が、2007年度第1回会合で、知財推進計画07の重点を検討した(案として)。

1-1 「イノベ-ションの創造」と「日本の魅力の発信」に貢献する。

1-2 計画項目を選択・深耕する。

1-3 5部構成として重点事項を明確にする。

1-4 科学技術振興機構(JST)の外国出願支援制度を改正する。

1-5 産学連携交付金を新設する。

1-6 大学の知財活動評価指標にライセンス率・製品化率を加える。

1-7 PCT出願の選別人材を育成する。

1-8 大学にsトックオプションを認める。

1-9 特許庁への情報提供制度の活用を促進する。

1-10 医療分野の特許保護を明確にする。

1-11 世界特許制度の調和を推進する。

1-12 中国から第三国への模倣品・海賊版輸出に対策を要する。

1-13 コンテンツの流通を促進するため著作権制度の在り方をさらに検討する。

1-14 家電やファッションなど海外で生産される日本オリジンのブランド品についても、日本との関わりを表示し、世界の消費者にアピ―ルする。

2.        SANARI PATENT意見

    上記について内閣知財戦略本部に、下記意見を送信した。

                      平成19421日

 内閣知財戦略本部事務局あて

   弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

   有識者本部員会合(4月17日)議事についての意見

1.「医療分野の特許保護」について

1-1 議事概要

   医薬の組合せ(コンビネ―ション)による投薬方法などの新しい治療方法については、欧米では特許になっても日本ではならない可能性がある。

1-2        意見

特許審査基準・第3章 医薬発明―2特許要件―2-1「産業上利用することができる発明」として、「二以上の医薬の組合せや投与間隔・投与量等の治療の態様で特定しようとする医薬発明も、「物の発明」であるので、「人間を手術、治療又は診断する方法」に該当せず、「産業上利用することができる発明」に該当する」と定められたので、議事概要の「など」の範囲の明確化と、欧米の特許法(欧州については欧州特許法とEU各国特許法)間の医療関係特許性規定の異同に着眼した対応策を示されるよう、要望する。

2.「特許審査・審判の迅速化」について

2-1 議事概要

   審査の迅速化と審査の質の担保を両立させることが大切。権利具体的不安定だと訴訟に耐えられない。

2-2  意見

特許無効審判の請求が容認されず、知財高裁で特許無効が判示された事例(例えば、カルソニックカンセイがデンソ―のワイヤレス車両制御システム特許を無効と主張した事件について有効審決を4月10日知財高裁判決が取消)など、審査・審決・判決の間に、特許性認否の相違する判決も続出している。知財推進計画06の「特許庁における判断の、裁判所の判断との食い違いの防止に努める」計画を、「進歩性の判断基準の一層の客観化と明確化」の計画と共に、実施されることを要望する。

3.「世界特許システム」について

3-1 議事概要

   制度調和の絶好の機会に来ており、米国の先発明主義から先願主義への移行が是非とも実現するよう、日本政府も後押ししてほしい。

3-2        意見

   知財推進計画06は、法制度の調和が実際上、到達に時日を要することから、審査結果の相互承認、さらには、事務局案ではあるが、「日米特許FTA」のわが国先行実施の利点を強調している。先行実施は、早期に実現して、その利点を享受すべきであるが、先発明主義のみならず、ディスカバリ―制度や陪審員制度など、製薬業界等が現に米国で難渋している「制度不調和」への対策を、知財推進計画が明示されるよう、要望する。

2007年4月22日 (日)

License-back Contract:  ほとんど全ての競合会社との間でライセンスバック契約が締結され、各契約内容の個別検討が困難

Assessment of Patent Power: キャノン職務発明対価補償請求事件(第10回):「特許力」の算定方法を判示

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

  原告・職務発明者甲が、「発明の対価」の明確な算定基礎を訴求しているのに対して、今次判決は、「個々の特許の価値を考慮することは、多数の包括クロスライセンス契約における極めて多数の特許の中から、それぞれ重要とされる特許を抽出してその貢献度を考慮し、交渉能力の高低等の数値化が困難な事情を判断することが必要となり、その審理に多大の時間と費用を要することとなるから相当でない」としている。特許法35条(職務発明)の条文を、米国特許法と同様に削除するか(わが国産業界で要望が強かった)、同条に基づく契約に予め定めるべきでか、内閣知財戦略本部において検討を再開すべきである。

18.(承前0410記事)今次判決における実施料率の算定

18-1 キャノンの各相手方とのライセンス契約における、各相手方の個別の特許力を具体的に考慮検討することは、その審理に著しい負担を要するから、いくつかの相手方との間における実施料率の平均値をもって有償部分の標準的実施料率とし、無償部分については、個々の特許力を考慮せずに、保有特許数の総和が特許力を示すものとして、算定することとする。

18-2 上記の考え方に立つと、ほとんど全ての競合会社との間でライセンスバック契約が締結され、各契約内容を個別に検討することが困難な本件においては、「いくつかの相手方との間における実施料率の平均値」と、「この平均値÷(キャノンの対象特許件数―相手方の対象特許件数の平均値)」との和によって、無償部分を反映した「修正実施料率」を算定することが相当である。

18-3 そこでキャノンのとライセンス契約の実施料率の平均は、LBPについて2.21%、MFP等について2.61%と算定されるが、相手方からキャノンが実施許諾された基準期間内の登録特許の平均件数は、LBPにつき905件、MFP等につき1685件である。

16-4 一方、キャノン保有の基準期間内の特許の件数は、LBPにつき1万1642件、MFP等につき1万6324件である。以上から計算すると、キャノンが基準期間内において保有していた、LBPおよびMFP等に関する全ての特許の標準包括クロスライセンス料率は、LBPについて2.40%、MFP等について2.91%と認められる。

19.職務発明者甲(原告)の主張

19-1 職務発明者甲は、実施料率を明らかにするため、各相手方との間におけるライセンス契約書の文書提出命令を求める。しかし、各契約における実施料率は、キャノンおよび第三者である相手方の重要な営業秘密であるから、代替的な方法が存在するのであれば、それを採用することが相当である。キャノンは、協力の得られた相手方との間の実施料率の平均値を公証人の面前で計算し、これを基づく基に修正実施料率をを主張立証している。その会社のシェアは、生産シェアにおいてLBPは64.94%、MFP等は74.33%を占めるから、他の事情も総合して、本件においては文書提出命令による必要はない。

19-2 また職務発明者甲は、キャノンと相手方との特許力の差異を検討するに際し、その保有特許件数の差のみに基づく算定は妥当でないと主張する。しかし、個々の特許の価値を考慮することは、多数の包括クロスライセンス契約における極めて多数の特許の中から、それぞれ重要とされる特許を抽出してその貢献度を考慮したり、交渉能力の高低等の数値化が困難な事情を判断することが必要となり、その審理に多大の時間と費用を要することとなるから相当でない。

2007年4月21日 (土)

Amendment of Patent Claim: 明細書訂正の許容要件、CPUと受信装置

Calsonickansei(NISSAN gr.) vs. Denso(TOYOTAgr.): ワイヤレス車両制御システム特許(第2回)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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  明細書の訂正は、権利関係に実質的影響を及ぼす内容である場合があるから、内容の明確な理解のもとに、訂正の認否が決定されなければならない。カルソニックカンセイ(日産自動車系)の主張(5-1)を、審決理由(4-1)と総合して考察する必要がある。

4.(承前0420記事)審決(本件訂正を認める。本件特許を無効とすることはできない)の理由(要旨)

4-1 デンソ―の本件特許発明が、「受信装置にはCPUが設けられていない」(前記3参照)のに対して、刊行物発明1~3は、受信装置(高周波ユニット)がCPUを有しているか否か、いずれも不明である。しかし、デンソ―が追加提示した刊行物4には、「受信装置にはCPUが設けられている」ものが記載されているから、これとは逆に「受信装置にはCPUが設けられていない」ものを想到することは、下記の顕著な効果に鑑みれば技術的に困難性があるといわざるを得ない。

  すなわち、本件特許権発明によれば、システムスタンバイ状態での消費電流は大きく低減される。また、受信装置にCPUを設ける必要がないから、受信装置全体が小型になり、インパネ等に容易に設置することができる。

4-2  本件請求項2、3(前記2参照)に係る特許発明は、本件特許発明(SANARI PATENT 注:訂正後の請求項1)の構成を全て含み、さらに限定事項を付加したものであるから、本件特許発明が4-1により進歩性を有するものである以上、本件請求項2,3に係る特許発明も本件特許発明と同様の理由により進歩性を有することは明らかである。

5.カルソニックカンセイが主張する審決取消事由(要旨)

5-1 審決の「訂正の容認」の誤り

   訂正事項である「受信装置にはCPUが設けられていない」は、受信回路・復調回路等の回路を設けている受信装置に、「CPUが設けられていない」という発明特定事項を付加することで、受信装置を上位概念から下位概念に限定した限定的縮減(いわゆる内的付加)に相当するから、実質上特許請求の範囲を変更するものではないとして、本件訂正を認めたが、次の理由により誤りである。

5-1-1 訂正前には「受信装置にはCPUが設けられていない」との限定がされていないから、訂正前における受信装置のCPUの機能は、本件特許発明における制御装置のCPUが果たすように変更された。換言すれば、制御装置のCPUは、本件訂正の前後において、その機能が変更され、その結果、本件特許発明は、実質上特許請求の範囲を変更するものであって、許容されるべきものではない。

5-1-2 訂正前の特許請求の範囲は、「受信装置にはCPUが設けられていない」ことを構成要件としていないから、受信装置にCPUが設けられている場合を含んでいる。ところが、当初明細書の発明の詳細な説明ないし実施例を参照すると、当初明細書に開示された発明は、「受信装置にはCPUが設けられていない」ものに限られる。そうすると、訂正前の特許請求の範囲の記載は、「特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載した諸のであることを規定するH6改正前特許法36-5-1に違反し、無効理由がある。

5-1-3 特許権の侵害に係る訴訟において、その特許が無効審判により無効にさるべきものと認められるときは、特許権者は相手方に対しその権利を主張できない(特許法104-3-1)から、訂正前は、実際上権利を行使できないものであったが本件訂正を認められると、この無効理由が解消し、特許権者が権利を行使できることになる。すなわち、本件特許発明を実施する第三者は、訂正前には権利の行使を受ける可能性がなかったのに、訂正前には権利の行使を受ける可能性があることになるから、このような場合、訂正が特許請求範囲の縮減であっても、H6改正前特許法120-2の「実質上特許請求の範囲を変更するもの」として、訂正を認めるべきでない。

5-2 審決の「相違点認定」の誤り

5-2-1 審決は、デンソ―(トヨタ自動車系)の本件特許発明と刊行物発明1との相違点として、本件特許発明が「受信装置にはCPUが設けられていない」(構成要件)のに対して、刊行物1発明は、「受信装置(高周波ユニット)がCPUを有しているか否か不明である点」であるとした。しかし、刊行物1発明も、そのフロ―チャ―ト等から考えて、「受信装置(高周波ユニット)がCPUを有していないこと」は明らかである。

5-2-2 審決は、刊行物4発明には、「受信装置にはCPUが設けられている」ものが記載されているから、これと逆に、「受信装置にはCPUが設けられていない」ものを想到することは容易でないと判断した。しかし、車両制御システムにおいて、単一のCPUによってCPUとしての全ての機能を果たすようにしたものは、刊行物4発明に示されている。

5-3 単一のCPUをどこに配置するかは設計事項に相当し、また、受信装置にCPUを設けないことによる「消費電力低減、受信装置全体の小型化」のような一般的効果は、当業者が予測できないような格別な効果ではない。(以下次回)

2007年4月20日 (金)

Calsonickansei(NISSAN gr.) vs. Denso(TOYOTA gr.): ワイヤレス車両制御システム特許における特許性

Wireless Car Control System 2007-04-10知財高裁判決 平成18(行ケ)10404審決取消請求事件(請求認容)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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 原告カルソニックカンセイ(東証一部)は、野村證券によれば株主構成において日産自動車が40.7%。被告デンソ―(東大名証一部)は、野村證券によれば国内最大の自動車部品メ―カ―で、トヨタ系である。

 ワイヤレス車両制御システムは、カ―ナビとの総合制御システムとして、自動車業界における技術開発の核心となっている。

 

1.        概要

1-1  デンソ―は、「ワイヤレス車両制御システム」特許(3434934)(以下「本件特許」)の特許権者であるが、カルソニックカンセイは、本件特許について無効審判を請求し、デンソ―は明細書訂正(以下「本件訂正」)を請求した。

1-2  特許庁は、「訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。」と審決した(2006-07-28)

1-3  カルソニックカンセイは、この審決の取消を知財高裁に求め、知財高裁はこれを認容した(2007-04-10判決)

2.        特許請求範囲の記載・本件訂正前:(要旨)

【請求項1】 次の特徴を有するワイヤレス車両制御システム

2-1-1 「送信装置」「車両内の互いに離れた位置に設けられた受信装置」「制御装置」を有するワイヤレス車両制御システムである。

2-1-2 送信装置からの変調制御信号の受信回路、および、その復調出力回路を設ける。

2-1-3 外部信号に応じ受信回路・復調回路への給電を開始・停止する電源制御回路を設ける。

2-1-4 単一のCPU(SANARI PATENT 注:Central Processing Unit:中核処理装置)により実現され、給電開始指令信号を電源制御回路に発した後、復調回路からの入力制御信号を識別し、識別結果に応じた駆動信号を出力した後、給電停止指令信号を電源制御回路へ発する信号識別回路を設ける。

2-1-5 駆動信号を入力して所定の車載機器を作動させる駆動回路を設ける。

2-1-6 信号識別回路へ電源を常時供給する電源供給回路を制御装置に設ける。

【請求項2】次の特徴を有する請求項1のワイヤレス車両制御システム

2-2-1 受信状態検出回路を、受信装置に、さらに設ける。

2-2-2  信号識別回路は、検出された受信状態が悪い場合、即時、給電停止指令信号を発する。

【請求項3】次の特徴を有する請求項2のワイヤレス車両制御システム

受信状態検出回路で検出された受信状態が悪い場合、復調回路からの制

御信号の出力を禁止する信号出力禁止回路を、受信装置に、さらに設ける。

【請求項4】次の特徴を有する請求項1~3のいずれか1つのワイヤレス車両制御システム

   信号識別回路は、さらに、マニュアル操作スィッチの操作信号に応じて駆動信号を出力する。

3.        特許請求範囲の記載・本件訂正後:(要旨)

  前項請求項1を削除し、4を新たな請求項1とした上で、その内容を次のように変更した。

 【請求項1】2-1-6の末尾の「設ける」を「設け、信号識別回路は、さらに、マニュアル操作スィッチの操作信号に応じて駆動信号を出力するものであり、受信装置にはCPUが設けられていない」

4.        審決(本件訂正を認めた上で、本件特許を無効とすることはできない)の理由(要旨)(以下次回)

2007年4月19日 (木)

Novelty for Patentability:「一致点と相違点の認定」に関する最近の知財高裁審決取消請求事件判決

Faster Binding Bolt: 平成18年(行ケ)10285審決取消請求事件・知財高裁判決2007-03-06(案内ボス部付ボルトとその製造方法)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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     汎用の構造材料であるボルトについて、締め付けの高能率化によるメリット追求を課題とする着想は貴重である。

  ボルトに関する発明をめぐって、原告・メイド―が特許拒絶査定に対し不服審判を請求し、認められなかったので、知財高裁にこの審決の取消を請求したが棄却された。結論において、侵害・審決・判決の判断が一致した事例である。

1 「本願補正発明」の内容:

次の特徴を有する案内ボス部付ボルト:

1-1  ねじ部が設けられた軸部の先端部に、軸部の径および雌ねじの内径よりも小さい径で、かつ、先端面から凹状部分を形成した円柱状の案内ボス部が形成されている。

1-2  案内ボス部の軸部側部分周面にはガイド溝が設けられている。

1-3  案内ボス部の外径は、ボルトを組み込む雌ねじの内径よりも若干小さく設定されている。

1-4  案内ボス部の外周には、ねじ山が設けられていない。

2.審決の要旨

  本願補正発明は、刊行物発明および周知事項に基づき当業者が容易に発明できるから、特許法29条2項により特許を受けることができない。

2-1        一致点:

上記1-1、1-2の「溝」を除く部分、1-3

.2-2 相違点

2-2-1      本願補正発明は、案内ボス部に「先端面から凹状部分を形成した」のに対して、刊行物発明では、案内ボス部の先端面に凹状部分を形成したものでない。

2-2-2      本願補正発明は、ガイド手段が「ガイド溝」であり、「案内ボス部の外周には、ねじ山が設けられていない」のに対し、刊行物発明では、ガイド手段が「案内ねじ山」である。

3.メイド―が審決取消を求める理由

3-1 審決は、一致点の認定を誤っている。

   「刊行物発明の案内ねじ山の外径」は「本願補正発明の案内ボス部の外径」に相当すると認定したが、「本願補正発明の案内ボス部の外径」は、「刊行物発明のパイロットの外径」に相当する。

3-2  審決は、刊行物発明の「ガイド手段」も、溝により形成され、実質上は「ガイド溝」と相違しないとしたが、外径の設定において異なる。

3-3  審決にいう「ガイド手段」は、「ボルトの雌ねじに対する傾きを修正する手段」を意味するが、この意味での「ガイド手段」の主役は、本願補正発明では案内ボス部であり、刊行物発明ではパイロット部である。

3-4  本願補正発明のボルトは、刊行物発明のボルトに比べて、遥かに円滑に組込の修正が行われ、特に大量生産においてインパクトレンチを使用したボルトの螺着締め付けに極めて有利である。

3-5  本願補正発明の「ガイド溝が設けられ」「案内ボス部の外周にはねじ山が設けられていない」との事項は、当業者が容易に想到できるものではない。

4.知財高裁の判断(要旨)

4-1 上記3-1の一致点の認定について、刊行物発明の構成を精査すれば、「案内ねじ山の谷径等の意味にかんがみ、審決の判断に誤りはない。

4-2 上記3-2の認定について、ボルトの斜め組込を効果的に修正するための溝でガイドすることに、相異はない。

4-3 本願補正発明の「かじり」を起こすことがない点についても、周知のボルトも同様の構成を有し、当業者が予測できない格別顕著なものではない。

4-4 案内ボス部の外径と雌ねじの内径の関係について、両発明の実質同様性を認めないメイド―の主張は失当である。

  

2007年4月18日 (水)

Amendment of Patent Attorney Law: 4月10日参議院経済産業委員会が弁理士法改正に付帯決議

多岐にわたる決議内容: 倫理観・実務能力・条約・名義貸し禁止・単独知財訴訟代理検討・地方中小企業への弁理士サ-ビス

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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1.        決議4項目に広汎な内容:

1-1        弁理士登録前実務実習等について

1-1-1        弁理士は、知的財産専門職である。

1-1-2        実務能力・倫理観の資質を担保する。

1-1-3        弁理士試験の一部免除は慎重にすべきこと、論文試験に条約を含めるべきこと。

1-2               弁理士の名義貸し禁止について

1-2-1        補助員の業務のガイドラインを整備する。

1-2-2        その他、禁止規定の適正な運用により、禁止事態を生じさせない。

1-3               弁理士の単独訴訟代理権等について

1-3-1        特定侵害訴訟代理制度の在り方を引き続き検討する。

1-3-2        弁理士の一人法人制度を検討する。

1-4               地方中小企業の弁理士活用について

1-4-1        大都市圏以外でも弁理士サ-ビスが十分受けられるようにする。

1-4-2        このため政府と日本弁理士会が連携する。

2.        参議院議員委員の主要発言(4月10日)

2-1        小林温委員

2-1-1      特許審査を早くすることが大事だからといって、莫大な行政コストを掛けることは適当でない。「民間でできることは民間で」というスロ―ガンのもとで、民間の活力を活用することが必要である。

2-1-2      中小企業にとって、特許出願の手続は煩雑でコストも高い。

2-1-3      わが国の年間特許出願40万件のうち、中小企業は4万件程度で、企業数が99%を占めるのに、知財開発が低い。特許庁は審査にとどまらず、応援されたい。

2-1-4      弁理士の所在が大都市に偏っている。

2-2  広野ただし委員

2-2-1      弁理士数が今後も年間600人増加すれば、あと5年ほどで1万人になるが、その先の目標を要する。

2-2-2      審査官OBや弁護士の弁理士登録者について、実務研修における一部免除というようなこともいわれているが、公平公正に、しっかりした理由をもって措置すべきである。

2-2-3      条約を論文試験の対象とすべきである。

2-2-4      実務修習制度に基づく指定期間は、東京だけでなく地方に必要であり、独占的でなく、日本弁理士会競争含めて2,3指定する方がよいのではないか。

2-2-5      理由の単独知財訴訟代理を指向して、著作権、種苗法、不正競争防止法、ADR関係の弁理士活動を促進すべきである。

2-2-6      地域振興のため地域ブランド制度を大いに活用すべきである。関連して、

   海外からの原産地表示不十分なものに対処すべきである。

2-2-7      弁理士の一人法人も、積極的に認めるべきである。弁護士については認められている。

2-2-8      弁護士・弁理士のユ-ザ-としては、単独委任が経済的でもあるから、対象を限定して、弁理士に単独訴訟代理権を認めることが望ましい。

2-2-9      標準報酬の定めの廃止、および、業務停止等の懲戒処分と、日本弁理士会への強制加入制度との独禁法上の関係を示されたい。

2-3 松あきら委員

2-3-1      国際的な特許訴訟の増加など、国際化に対応できる弁理士を育成すべきである。

2-3-2      国際間知財紛争への対処には、弁護士と弁理士の協力が必要である。わが国では、法律・技術のいずれかに知識が偏る学制・資格になっている。

2-3-3      弁理士に対する報酬が、不当に低額または高額という声を聞くが、弁理士の社会的役割の認識に立って、不当な手数料が強制されない仕組みを作ることが肝要である。

2-3-4      特許の開放、ノウハウの活用、ブランドの普及など、特許権のみでない知財戦略が必要である。

2-3-5      パテントトロ―ルについて、イノベ-ション阻害等の見地から対応すべきである。

2-4  鈴木陽悦委員

2-4-1      今次改正で見送られた問題もあるようである。

2-4-2      弁理士に関する情報公開を充実すべきである。

2-4-3      弁理士の地域分布が偏っている。

3.        SANARI PATENT所見

3-1  弁護士の弁理士登録促進、知財検定制度の拡充、知財アドバイザ―の民間資格認定など、法務・技術両面にわたる知財専門家・協力者の、全国・各分野における遍在(「偏在」の逆)が要望されているが、検討も対策も十分には示されていない。

3-2  研修の重点である「弁理士倫理」について、双方代理の法律関係の精査(法抵触の有無が講師弁護士にも断定できないケ―スが増える)、特許査定・実用化の見込みの対依頼者表明の要否など、「倫理」の内容自体を明確にする必要がある。

3-3  認定司法書士は、知財を含めて簡裁単独訴訟代理権を有するが、その活用の可能性(地域における著作権・種苗関係など)、および、弁護士の弁理士登録促進による知財法務へのユ-ザ-アクセスの便益を、鋭意検討・実現すべきである。

3-4  研修について、e-ラ―ニングに重点指向する考え方(谷義一前弁理士会会長)に、分散する地域受講者の研修効率と、限定数の適格講師活用のため、全面的に賛同する。

2007年4月17日 (火)

Doctrine of Equivalents: 用語と均等論に関する最近の知財高裁判決

乾燥装置・乾燥方法発明に関する知財高裁2007-03-27判決:平成18年(ネ)10052特許権侵害差止等請求控訴事件

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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  用語の解釈と均等の成否は、構成要件該当性の有無を左右するもので、判示の累積が、その判断を明確にしてゆく。標記は、その最近の事例である。

1.        概要

1-1        経緯と争点

1-1-1 「乾燥装置」「回転巻上羽根を有する乾燥装置」「乾燥物の乾燥方法」に関する特許権(以下「本件各特許権」)を有するXおよびX から本件各特許権について独占的通常実施権の設定を受けているオカドラ(以下「オカドラら」)が、共立工業に対し、「共立工業各物件が本件各特許権の発明の技術的範囲に属する」等と主張し、約7000万円の損害賠償等を求めた。

1-1-2 東京地裁は、次の理由でオカドラらの請求を棄却した(平成18年4月26日判決)

1-1-2-1 本件各特許発明の「複数枚の基羽根」にいう「複数枚」とは、最下段に複数枚の基羽根が配設されていることを意味すると解釈される。しかし、共立工業が製造販売する乾燥装置は、最下段に1枚の羽根しか有しない(構成要件不充足)。

1-1-2-2 最下段に複数枚の基羽根が配設されていることは、本件各特許発明の本質的部分であり、これを充足しない装置・方法が本件各特許発明と均等とすることはできない(均等論不成立)。

1-2 オカドラらが知財高裁に控訴し、知財高裁はこれを棄却した。

2.        知財高裁の判断

オカドラらの主張と共立工業の反論を対比し、特に、最高裁判例と特許法70条2項の解釈に論及しているが、最高裁判例の見方については、「オカドラらが引用するフェノチアジン誘導体事件最高裁判決は、審決取消訴訟に関するもので、特許請求項の範囲の記載がそれ自体極めて明瞭である事案であり、本件について参考にならない」と判示している。

2-1        オカドラらの主張(要点):

    東京地裁の「複数枚」の解釈は、次の理由で誤りである。

2-1-1      本件各特許発明の技術的範囲は、特許法70条1項に基づき、字義通りに解釈されるべきであり、みだりに他の要件を付加することは許されない。東京地裁の判決は、「最下部の基羽根が複数枚であることの要否など羽根の設置場所および具体的態様等については、特許請求の範囲の記載からその内容具体的一義的に明らかであるとはいえない」などとした上で、特許請求の範囲に記載のない解釈を行った。

2-1-2       特許法70条2項の「特許請求の範囲に記載された用語の意義の解釈」の名のもとに、このような解釈具体的なされるのであれば、発明の詳細な説明と別に特許請求の範囲を記載する意義はなくなる。またそもそも、本件各特許発明の全体を通じて「最下部に複数枚」という趣旨の条祭は存在しない。

2-1-3      「最下部の基羽根が複数枚であること」が本件各特許発明の必須の要件でないことは明らかであるのに、東京地裁の判決はこの点について何ら判断を示していない。

2-2  共立工業の反論(要点):

    本件各明細書において実施例として記載されているのは、最下段を含む各段の同一水平面内に複数の基羽根を配置したものだけであり、当該同一水平面内の複数の羽根の枚数や長さを異にしたり、基羽根を配置した段の数を異にした構成が何通りか示されているが、同一水平面内に配置した基羽根の数が1枚である構成の実施例は、一つとして記載されていない。

2-3  知財高裁の判断(要点):

2-3-1      本件各特許発明の出願当初の明細書(当初明細書)の記載によれば、構成要件の「複数枚」が、最下段に複数の基羽根を配置したものであることを意味すると解釈すべきである。

2-3-2      当初明細書の「発明の詳細な説明」には、乾燥槽底部の最下段の基羽根が複数枚でhないことが窺われるような発明については全く記載がない。

2-3-3      本件各発明の特許請求の範囲に基づいて、本件各発明の技術的範囲を解釈するに当たり、本件関係各明細書の許請求の範囲以外の部分の記載および図面を参酌する必要があることは明らかである。

2-3-4      最下段に複数の基羽根を配置したものであることは、本件各発明の本質的部分に当たるというべきであるから、これを充足しない共立工業の装置・方法が、本件各発明と均等であるということはできないと解する。

3.        SANARI PATENT所見

    均等論の適用要件は、「特許発明の非本質的部分」「作用効果の同一性・置換可能性」「侵害時における置換容易性」「非・公知技術水準」「禁反言非該当」の5つと解されるが、この第1要件に該当しないと判示された。米国において、均等論そのものの弾力性が見られることにも留意すべきである。

2007年4月16日 (月)

Discovery in US Infringement Suit: 製薬業界が直面する米欧特許紛争

  Cabinet IP Headquarter: 新陣容の有識者本部員を迎えた内閣知財戦略本部会合(3月29日)の注目発言(第2回)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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3-8 長谷川本部員

3-8-1 安倍総理のイニシアチブによるイノベ-ション25で、製薬産業は戦略産業のトップン位置づけられている。

3-8-2 武田製薬は、1兆3千億円の売上で、売上利益の7割を海外で稼いでいるが、それでも世界では15番目に位置する。

3-8-3 省をまたがるライフサイエンス予算の集中・効率的投下が必要である。

3-8-4 米国のNIH(National Institute of Health)は、3兆円の年間予算、わが国は3省庁合わせて3500億円程度である。

3-8-5 新薬創出力あるバイオベンチャ-を育成すべきである。米国のFDA(Food & Drugs Administration)で承認される新薬の5割はバイオベンチャ-がオリジンであるが、わが国で、要素技術をもつバイオベンチャ-を買収しようと考えても、なかなか見つからない。

3-8-6 米欧多の特許紛争が多い。特に米国に、先願主義の受入を働きかけるべきである。

3-8-7 米国で、ジェネリックメ―カ―から難癖に近い挑戦を受けている。

3-8-8 米国の特許訴訟におけるデジスカバリ―の制度については、本当に必要なもののみを裁判所が認める制度に改めてもらわないと、日本の企業に対する悪用も考えられる(SANARI PATENT 注:Discoveryの法的機能は、証拠の収集であり、訴訟当業者から要求された相手方が、自己支配下にある事実・証拠を示す義務を負う)

3-8-9 米国の陪審員制度については、原告・被告のいずれかが請求すれば拒めないが、最終的に賠償問題を決着させる局面で、素人の陪審員の判断に日本企業が妥協せざるを得ない局面がある。

3-8-10 わが国の特許制度については、国際標準化への覇権を競う欧米企業と、戦略的に対抗する視点が必要である。例えば、医療関連行為が産業として認められていないのは日本だけである(SANARI PATENT 注:精確には、医療関連行為の中核的分野)

3-8-11リサ―チツ―ルの権利保護と活用のバランスについても、日米欧の標準にズレがある。

3-8-12 わが国製薬業界特有の問題として、臨床試験・薬事審査期間の長期化が特許保護期間を侵食している。

3-9 三尾本部員

3-9-1 コンテンツの海外への流通を促進すべきである。問題点は、エイジェントの不足等。

3-9-2 地域活性化のため、地方公共団体がキパ―ソンとして活動すべきである。

9-3 産学連携のため大学関係者の意識が重要である。

3-9-4 知財弁護士活用のため、メ―リングリストを活用する。

3-10 山本本部員

3-10-1 酸化チタンによる光触媒効果を利用する発明は東大発であるが、基本特許をわが国企業と東大が取得し、国際標準化している。

3-10-2 東大は、2004年において、日米全大学中、発明開示件数が首位である。

1.        SANARI PATENT所見

4-1        知財制度の基本的検討を、米国等との対比において進めることが要請される。

4-2        電子機器と薬品など、知財政策の課題を分野ごとに検討する必要がある。

4-3        コンテンツのグロ-バルな展開を、著作権・特許権・意匠権・商標権等の総合、および、著作権法、電気通信法等の法体系の新たな構築により進めるべきである。

2007年4月15日 (日)

New Members of Cabinet IP Headquarter: 新陣容の有識者本部員を迎えた内閣知財戦略本部会合(3月29日)の注目発言

Copy Right Problem (Public Domain, Blog etc.): デジタルコンテンツの流通とグロ-バル発信に制度問題が緊急

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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   中山信弘東大大学院教授は、3月29日の内閣知財戦略本部会議で、「知的財産法の分野で今後、最も注目を浴びるのはデジタルコンテンツの扱いで、その中心となる法制が著作権法である」として、もっぱらその抜本的な対策を強調し、安倍総理大臣の同会議における挨拶も、冒頭に日本マンガが世界の「憧れ」という感慨に始まるなど、マンガ家本部員の新任と相俟って、知財専門家も一層視野を広げる必要を感ずる。

  コンテンツは、その創造・流通・活用・保護の全領域にわたって、特許権を基盤とする技術革新により支持されると共に、著作権と特許権との相克現象も見られるところである(マルチユ―スのメディア開発、キャラクタ―の多角活用、映画のゲ―ム機器化、音楽ネット配信方法の多様化、諸分野企業のコンテンツ利用、ブログコンテンツの展開、パブリックドメインの流動、ユ―チュ―ブのフィルタ―技術など)。

 このような情勢を背景として、先ず新陣容における有識者本部員の発言に注目したい。

1.        新陣容有識者による知財推進計画07案の作成

1-1  内閣知財戦略本部の10名の有識者本部員のうち、留任は中山信弘東大大学院教授のみで、相沢益男東工大学長、岡村正東芝会長、梶山千里九大総長、角川歴彦角川会長、佐藤辰彦弁理士、里中満智子漫画家、長谷川閑史武田薬品社長、三尾美枝子弁護士、山本貴史東大TLO社長の9名が新任された。

1-2  弁護士が加わったこと、機器畑のほか薬品畑の実業人が異質な知財分野について発言すること、グロ-バルに好まれる日本コンテンツとしての漫画家や東大TLO社長が新任されたことなど、イノベ-ション路線の知財政策発言が期待される。

1-3  有識者本部員の会合を経て、5月31日予定の内閣知財戦略本部で、知財推進計画07の内定ないし決定に至ると予想される。

2.        安倍総理大臣の発言

2-1        先般のメディア芸術祭で、日本のアニメ・マンガが、いかに世界の人たちから憧れをもってみられているか、実感した。

2-2        シンガポ―ルの首相と先般会談したときにも、シンガポ―ルの若者がアニメやマンガの技術を学ぶ機会を日本で提供してもらえないかという話があった。

2-3        一方、特許の国際収支が黒字に転じ、昨年は過去最大の5470億円、前年比66%増となった。

2-4        知財に裏打ちされたイノベ-ションを進めたい。

3.        有識者本部員の発言中、新規事項

3-1        相沢本部員

3-1-1        大学の知財活動について、基本特許に重点を志向する、

3-1-2        国際紛争に対処する。

3-2        岡村本部員

3-2-1        経団連で、国際標準化に関するアクションプランをまとめる。

3-2-2        コンテンツを通じて「美しい国・日本」の国際評価を高める。

3-3        梶山本部員

3-3-1      地方の知財振興に関する実例として、佐賀の唐津のイカを新鮮なままで長距離輸送する技術開発と、地元にとどめて観光誘致の有力手段とする 選択肢がある。

3-3-2      地方について、諸般のバランスが必要である。

3-4 角川本部員

3-4-1 世界を意識し、世界に通用する業界になるよう、ビジネスモデルを構築し、TV番組の2次利用契約促進のための契約ル―ルを策定する。

3-4-2 JAPANコンテンツフェスティバルを経済産業省に、メディア芸術祭を文化庁に開催願う(SANARI PATENT 注:外国人には、内容の相違の有無が分からないかも知れない)

3-4-3 国際的なプロデュ―サ―を育成する。

3-4-4 人・モノ・カネのグロ-バルな相互交流を行う。

3-4-5 食材の輸出促進、海外料理人に対する技術教育を行う。

3-4-6 デジタルコンテンツの大バンドル時代に対応する。通信の世界では、NGN(Next Generation Network)時代である。

3-4-7 例えば、小説「時をかける少女は、映画・アニメ・コミック・ゲ―ム・文庫・音楽と、デジタルマスタ―化され、一体となったサ-ビスが展開されている。

3-4-8 わが国では、光グァイバ―を流れるコンテンツの量が貧弱である(SANARI PATENT 注:ダ―クファイバ―)

3-4-9 Web2.0にふさわしいデジタルITライトを、デジタルIT著作権法の新規立法により実現すべきである(政治力で)。

3-5 佐藤本部員

3-5-1 知財戦略は未だ道半ばで、更なる基本政策、特に知財の創造・活用・人材について、重点施策の深堀と実行が必要である。

3-5-2 地域の産業振興について、具体的施策の増強を要する。

3-6 里中本部員

3-6-1 中国・韓国では、コンテンツに対する国の支援が強力である。

3-6-2 マンガ資料館を作り、日本人の感性を世界に発信したい。

3-7 中山本部員

3-7-1 現在の著作権法は19世紀の産物で、ITは念頭にない。昨年のIPマルチキャスト放送についての改正は、パッチワ―クに過ぎない。

3-7-2 著作権法はベルリン条約に拘束され、改正が容易でないが、困難を打開すべきである。

3-8 長谷川本部員(以下次回)

2007年4月14日 (土)

The Inventor is A or F? 発明者同定の過程(特許性の所在:燃料噴霧角)

Human Relations at Innovation : 豊田中央研究所職務発明対価知財高裁判決までの経過(第3回) 

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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  特定の社内組織や人的関係のもとで、特定の特許発明がなされ、発明者名が公報された後に、「真の発明者」を同定(identify)する必要が生ずる場合がある。本件も、その典型的なケ―スとして、参考にする価値が高い(職務発明問題のみならず広汎に)。

1-5-7(承前04-13記事)豊田中央研究所の主張における「Fの技術的推論」:

1-5-7-1 Fは、いすず4BB-1型ディ―ゼルエンジンが、空気振動の補助で噴霧を燃焼室内に分散させるものであり、ホ―ルノズルの1孔当たりの一般的なが15度程度であったことから、4孔合わせると、全体のが60度程度になるとの公知事実に基づき、単筒エンジンにおいて空気振動の補助なく良好な燃焼を確認していた。

1-5-7-2 またFは、噴射角40度において良好な燃焼を得るためには、空気振動の補助が必要であるとの技術的知見を得ていた。

1-5-7-3 Fは、スリット状噴孔から噴射される扁平で扇形の噴霧についても、空気振動の補助なく良好な燃焼を得るためには、噴霧全体の噴霧角を少なくとも60度程度以上とする必要があると推論したが、この推論については、1985年の内燃機関コンピュ-タ-シュミレ―ション国際会議において発表された技術論文において、その妥当性が裏付けられた。

1-5-8 同じく、Fが数値限定を具体化し、発明として完成させた経緯について:

   Fは、長年のディ―ゼルエンジン研究で培った技術的知見に基づき、噴霧角および噴霧粒径に影響する箇所は、針弁と弁座部によって構成される弁開閉手段とスリット状噴孔の外周壁側の外端とを連絡する燃料流路のうち、流路断面積が最も絞られているスリット状噴孔の内周壁側の内端であることを直感し、内端の寸法諸元(L1W の比)によって数値限定すべきであると考えた。

1-5-9 F は、この着想に基づき、研究を進め(SANARI PATENT 注:その内容は、東京地裁判決中に豊田中央研究所の主張として詳述されている)、本件特許発明において特許性を有する部分である「L14.5×W」との数値限定を具体化し、発明として完成させた。

1-6 豊田中央研究所の主張における「旧職員AFとの出願業務上の交流」

1-6-1 旧職員AF が実施した先行技術調査の結果、噴孔がスリット状のノズルを内燃機関に適用したものが公知であることが判明し、F ha旧職員Aに対して、「特許出願し、権利化するためには噴孔のスリットの形状を数値限定によって明確にする必要がある」と助言した。

1-6-2 Fは、旧職員Aが発明考案届出書の作成経験がなかったため、あらかじめ特許課で用意してある記載見本を旧職員Aに提供すると共に、公知技術の特許公報を参考にして記載するよう助言した。

1-6-3 Fは、本件出願明細書の作成過程における数値限定の具体化に際して、旧職員Aとブレインsト―ミング等を行ったことはなく、旧職員Aから情報提供を受けることもなかった。

1-7 上記にもかかわらず、豊田中央研究所が平成元年当時、豊田中央研究所が旧職員Aを発明者として認定した理由、Fが「自己が発明者」と主張しなかった理由、および、豊田中央研究所が旧職員Aに実績補償金を支払った理由(以下次回)

2007年4月13日 (金)

Conception & Reduction to Practice: 発明者の認定基準

USPTOMPEPとわが国審査基準: 豊田中央研究所・職務発明対価事件(第2回)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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  原審原告・旧職員Aが、本件特許発明の発明者はAのみであると主張したのに対して、原審被告・豊田中央研究所は、F であると主張している。

 米国特許商標庁の審査基準には、わが国には存在しないインタフェレンス手続に関連して、発明者の同定(認定)に関する詳細な定めがある。

 わが国の審査基準にも、冒認出願拒絶等の関係から、同様な定めがある。これらとの整合性を考えつつ、豊田中央研究所と旧職員Aの主張を対比する。

1-5 (承前記事)豊田中央研究所の主張

1-5-1 本件特許発明の発明者は、豊田中央研究所特許課における本件特許発明についての特許技術担当者であったFである。

1-5-2 発明者の認定基準について:

   発明者とは、発明において特許性を有する部分について着想を得て、これを具体化した者であり、単なる補助者、助言者、資金の提供者、命令を下した者、着想により当業者にとって自明程度のことを具体化したに過ぎない者は、発明者ではない。(SANARI PATENT 注:この項の記述は、審査基準の記述に準拠している)

1-5-3        発明者認定における特定の段取り:

従って、先ず、発明における特許性を有する部分を特定し、この部分について着想を得てこれを具体化した者を特定し、この特定を行った者を発明者と認定することが妥当である。

1-5-4        本件特許発明における特許性を有する部分:

本件特許発明において特許性を有する部分は、「噴霧弁内端の幅W、その内端の長手方向に沿った長さL1L144.5×Wであるとの数値限定に存し、本件特許発明は、いわゆる数値限定発明に属するものである。

1-5-5        特許性を有する部分を具体化したのはF

   旧職員Aが作成した本件届出書(豊田中央研究所あて)には、1-5-4の数値限定について何らの開示も示唆もない。Fは、出願明細書の作成段階において、本件届出書に記載されている技術内容が公知技術の単なる組合せであり、また、その数値限定が無意味であり、あるいは設計事項に過ぎず、特許性を有しないことが判明したことから、F自身の研究により培った技術的知見に基づき、本件届出書に記載の技術的課題解決の手段として、噴孔の形状に関する新規性・進歩性を備えた発明を考案することができないか、検討を重ね、数値限定に至ったものである。従って、本件特許発明において特許性を有する部分を具体化したのはFである。

1-5-6        豊田中央研究所社内における経緯:

本件届出書に記載された技術内容は、燃料噴射弁というエンジンに関するものであったことから、当時、豊田中央研究所の特許課においてエンジン関係の発明考案を担当していたFが、旧職員Aからの先行技術調査依頼、本件届出書の審査等において特許技術担当者となった。そして、知財部門および発明考案委員会において、内製(特許出願に必要な願書と添付書類の作成を、社外の特許事務所に外注することなく、社内の従業員が作成し、特許出願すること)により特許出願することが決定された後、Fは、特許技術担当者として本件特許発明の特許出願に必要な願書および添付書類を作成することになった。

 F が作成した書類について、発明者として記載された旧職員AおよびB、特許技術担当者の責任者であるGおよび弁理士Eからの修正はなかった。

1-5-7 Fの技術的推論について:(以下次回)

2007年4月12日 (木)

Identification of Inventor  (株)豊田中央研究所の旧職員Aが、職務発明対価50億円余請求事件の知財高裁判決に至る経過

Advice by Patent Attorney:「燃料噴射弁」関係特許:トヨタグル-プ関係の職務発明対価請求事件に知財高裁判決(3月29日)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

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   自動車等の燃料噴射弁のイノベ-ションに係る職務発明について、豊田中央研究所の旧職員Aが、対価として50億円余を請求し、発明者認定、弁理士の助言、トヨタグル-プにおける本件特許発明の実施等をめぐる弁論が、東京地裁を経て知財高裁で展開された。先ず原審の内容を理解する必要がある。

1.        原審の概要

1-1  豊田中央研究所の旧職員Aは、特許法35条に基づく職務発明対価として、豊田中央研究所に対する90億円余の請求を東京地裁に提起し、東京地裁は、「平成16年(ワ)27028職務発明対価請求事件判決(2007-03-09)において、「豊田中央研究所は旧職員Aに対して、55万円余の支払いを命じた。

1-2  豊田中央研究所は、次のように主張した。

1-2-1        旧職員Aが発明者であることを争う。

1-2-2        仮に発明者であるあるとしても、相当対価を支払済みである。

1-3               豊田中央研究所が有する「本件特許権」

1-3-1        発明の名称「燃料噴射弁」、特許番号2609929

1-3-2        特許請求範囲の記載(要旨)

    次の特徴を有する燃料噴射弁

-13-2-1 「弁体に設けた弁孔に摺嵌された針弁」「この針弁の先端部が当接する前記弁孔の弁座部」「この弁座部に連通するサック部」「このサック部に連通し、、かつ、弁体先端に開口すると共に、噴射弁外周壁側に外端を有し、噴射弁内周壁側に内端を有するスリット孔」からなる。

1-3-2-2 前記内端の幅Wと、この内端の長手方向に沿った長さL1が、「L14.5×W」である。

1-4 旧職員Aの主張

1-4-1 旧職員Aは、本件特許発明を実質的には一人で完成させた。その基礎である知見を述べれば、旧職員Aは静岡大学において、豊田中央研究所と関係が深い豊田工業大学の元学長Cに師事していた。Cは、従来型噴射弁である渦巻噴射弁の学問的研究を初めて行い、旧職員Aはその後もCに師事した。そして、豊田中央研究所に就職した際のトヨタ自動車における研修において、学会誌掲載・特許出願等の業績を挙げた。

1-4-2 本件特許発明の本質は、従来型と根本的に異なる全く異質のものである。

1-4-3 一方、担当弁理士Eが、権利の下限をどの当たりにしようかと旧職員Aに相談し、権利を広くするよう助言したことから、旧職員Aも、実験結果から幾分範囲を広げても権利化できるのであれば、それで良いと考えた。そこで、E弁理士と相談し、実験結果を外挿して噴霧角60度を下限とすることを了承した。E弁理士からは、さらに、W(1-3-2-2)の臨界的上限に関しても、特許性の裏付けとして助言され、旧職員Aはこれを了承した。

1-4-4 形式的にはもう一人の発明者とされているBは、当時、他の研究室に属していたものの、旧職員Aと年齢も近く、実験装置の使用方法を尋ねやすく、時には実験の若干の手伝いをしてもらえた。そのため、Bも共同発明者とされている。しかし、本件特許発明の実質的な真の発明者は旧職員Aのみである。

1-5 豊田中央研究所の主張(以下次回)

2007年4月11日 (水)

Commercial Successの視点はどうか。容易想到性に京セラ・ニコンの反論

 Functions of Ceramics: 京セラ・ニコンの審決取消請求事件知財高裁判決(3月30日)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

(この記事に対する修正ご要求は、patent@sanari.nameにメ-ル下さい)

4.(承前0409記事)審決に対する京セラ・ニコンの主張:

4-1 審決における一致点認定の誤り:

  「機械的強度に優れたという点で一致するとした認定は誤りである。

  本件補正発明における『ヤング率が130GPa以上』という構成は、『機械的強度に優れた』との」特性を指すものではない。すなわち、ヤング率(縦弾性率)は変形のしにくさを示す値であって、本件補正発明のようにヤング率が大きいことは、応力に対する弾性変形が小さいことを意味するから、曲げ強度などの破壊しにくさを示す値を高くすることが、当然にヤング率を高めることを意味するものではない。

   本件補正発明のコ―ジェライトセラミクス(SANARI PATENT 注:高性能セラミクスの一種で、マグネシウム・アルミニウム・珪素の酸化物を含むものなど)のように、本質的に多孔質であるために低強度であるものを、焼結助剤により緻密化しても、その高強度化には限界がある。刊行物記載のサイアロン複合セラミック焼結体のような曲げ強度は得られず、本件補正発明のヤング率をさらに高めても曲げ強度が刊行物記載強度以上にはならない。」

4-2        審決における相違点の看過

4-2-1「本件補正発明では支持部材がコ―ジェライトセラミクスであるのに対し、刊行物発明ではサイアロン複合セラミック焼結体で、本質的に相違する。

4-2-2「また、本件補正発明の 課題の一つが、高速移動による位置決め精度の低下回避であるのに対して、刊行物発明の課題は大負荷に耐える低熱膨張係数の複合セラミック焼結体を提供することである。」

4-2-3「ヤング率の数値限定の臨界的意義の存在について、審決はこれを認めないが、実験の結果、ヤング率130GPaには、振動停止時間について臨界的意義が認められる。」

4-3        容易想到性の判断の誤り

4-3-1「刊行物によれば希土類元素の所定量添加により、コ―ジェライトセラミクスの緻密化によって強度が増大するが、刊行物から予測される支持部材として有用なレベルには至らない。従って、コ―ジェライトが緻密になり高強度化すれば半導体露光装置における支持部材として有用であることが、自明であるとはいえない。」

4-3-2「また、コ―ジェライトは強度がかなり低いため、本件出願前には、実際に使用されることはなかったことに照らせば、緻密質な高強度の低熱膨張性のコ―ジェライトセラミクスが得られることが周知であったとはいえない。」(SANARI PATENT 注:「実際に使用されることはなかった」ことは、米国特許商標庁の「Commercial Success」を特許性判断の要素として重要する考え方からすれば、容易想到性を否定ないし疑問とする有力な証左となるはずである。容易想到であれば、他社が商品化したはずだからである。)

4-3-3「刊行物からは、支持部材としてヤング率の高い材料を用いるべきことは明らかでない。

5.知財高裁の判断(以下次回)

2007年4月10日 (火)

Types of Canon License: 無償包括クロスライセンス、有償包括クロスライセンス、ライセンスバック付き有償包括クロスライセンス

Value of Patent Power::キャノン職務発明対価補償請求事件(第9回): ライセンスバックの意義、実施料率設定の基準、契約当事者双方の「特許力」

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

(この記事に対する修正ご要求は、patent@sanari.nameにメ-ル下さい)

  東京地裁判決で「特許力」とは、「対象特許の総和(SANARI PATENT 注:判決は「数の総和」と明示していないが、ここでは先ず「数」の総和を意味し、価値による評価補正は後述されている)や有力特許の数・価値・交渉能力の高低などの様々な要因を総合考慮して決定される」。

15.(承前04-08記事)キャノンのライセンス契約の種類

15-1 無償包括クロスライセンス契約:

    キャノンと相手方の双方が、相互に特許等を実施許諾し、かつ、実施料の支払いを行わない契約である。無償包括クロスライセンス契約を締結する相手方は、対象製品の分野において極めて強い競争力を有するごく少数の相手方に限られている。

16-2        有償包括クロスライセンス契約

キャノンおよび相手方の双方が相互に特許等を実施許諾すると共に、相手方からキャノンに対してバランス調整金が支払われる。

16-3 ライセンスバック付き有償包括クロスライセンス契約

    キャノンが相手方に対し一方的に特許等を実施許諾し、相手方のキャノンに対する実施料の支払いのみが行われるのが本来の目的であるが、キャノンが相手方の特許等(原則としてキャノンが実施することが想定されていない)を万が一侵害することを避けるための保証として、相手方の特許等の実施許諾を無償で受ける(ライセンスバックを受ける)ものである。無償包括クロスライセンス契約の相手方とライセンスバック契約の相手方とでは、各々の保有特許件数に顕著な差異があり、ライセンスバック契約の相手方が保有する特許件数は、少ない相手方ではキャノンが保有する特許件数の約1%、多い相手方でも約15%程度に過ぎない。

16.キャノンのライセンス契約における実施料

16-1 キャノンのライセンス契約における実施料は、原則として、相手方または相手方の関連会社から第3者に対して譲渡された際の譲渡価格の合計に、実施料率を乗じて決定される。

16-2 対象製品の標準小売価格(リストプライス)に実施料率を乗じて決定する場合もあるが、10-1の譲渡価格との価格差に応じて実施料率は低く設定される。

16-3 実施料率は、概ねキャノンが有する特許等と、相手方が有する特許等との特許力の差の相違によって生ずるが、キャノンの場合、ライセンスバック契約の実施料率の平均は、LBP(レ―ザ―ビ―ムプリンタ)について2.21%、MFP等について2.61%である。

17.実施料率の算定

17-1 包括クロスライセンス契約の無償部分を考慮した修正実施料率:

    キャノンは、本件特許発明を、ほとんど全ての競合会社との間でライセンス契約の対象としている。そして、キャノンのライセンス契約の多くはライセンスバック契約であって、キャノンが実施料を支払うことはなく、名目的に相手方の特許の実施許諾を受けて包括クロスライセンス契約としているものである。

17-2 ライセンスバック契約における均衡

ライセンスバック契約は、有償部分(相手方からキャノンに対して実施料を支払う部分)と無償部分とに分けて考えられる。有償部分(具体的には実施料率の定め)は、契約の相手方ごとに異なる数字となっている。これはキャノンと各相手方との特許力の差異によるものと考えられる。契約の対価性の原則に照らせば、無償部分においては、キャノンが相手方に許諾した特許等と、キャノンが相手方から許諾を受けた特許等が均衡しているものと考える。(以下次回)

2007年4月 9日 (月)

Semiconductor Exposure Device: 京セラ・ニコンの審決取消請求事件知財高裁判決(3月30日)

「半導体露光装置」特許出願拒絶査定に対する審決(拒絶維持)取消請求を棄却: Novelty of Conception

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 内閣知財戦略本部は、特許の法的安定性について、特許庁(審査・審決)・地裁・知財高裁の特許性認否の一致を望む立場を表明しているが、標記判決(以下「今次判決」)は、審査・審決・知財高裁判決の結論が一致したケ―スである。

 刊行物発明との一致点・相違点についての認識の正誤と、容易想到性の認否が争点となっている。

1.        事案の概要(補正の経緯は省略)

1-1  京セラ・ニコンは、発明「半導体露光装置」につき特許出願(1997-08-29)(以下「本件出願」)し、特許庁は拒絶査定(2003-10-16)したので、京セラ・ニコンは、これを不服として審判請求した。

1-2  特許庁は、この審判請求は成り立たないと審決(2006-04-07)した。

1-3  京セラ・ニコンは、この審決の取消を知財高裁に請求し、知財高裁は、平成18年(行ケ)10234審決取消請求事件判決(2007-03-30)により、京セラ・ニコンの請求を棄却した。

2.        本件補正発明の内容

  次の特徴を有する半導体露光装置

2-1  支持部材上に載置された半導体ウエハ(SANARI PATENT 注:薄い基板)に対して、微細パタ―ンを形成するための露光処理を施す露光装置である。

2-2  支持部材は、次の要件を満たすセラミクスからなる。

2-2-1        コ―ジェライトを主体とする。

2-2-2        Yまたは希土類元素を、酸化物換算で3~15重量%、含有する。

2-2-3        10~40における熱膨張率が0.7×10▔⁶/℃以下であり、ヤング率が130GPa以上である。

3.        審決の内容

3-1  結論:

本件補正発明は、刊行物記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができる(従って、却下すべきである)。本願発明も、当業者が容易に発明できたものである(特許を受けることができない)。

3-2  理由:

3-2-1 本件補正発明と刊行物との一致点:

  「支持部材上に載置された半導体ウエハに対して、微細パタ―ンを形成するための露光処理を施す露光装置において、この支持部材が、低熱膨張率であり、機械的強度に優れたセラミクスからなる半導体露光装置」であること。

3-2-2        本件補正発明と刊行物との相違点:

  「本件補正発明の内容の2-2-3対して、刊行物発明の内容は、「20~30の常温域における熱膨張率が1.5×10▔⁶/℃以下であり、また、緻密で曲げ強度の大きい複合セラミック焼結体からなる」としていること。

4.        審決に対する京セラ・ニコンの主張:(以下次回)

2007年4月 8日 (日)

キャノン職務発明対価補償請求事件(第8回):Laser Beam PrinterとMulti Function Printer

Open License Policy から Inclusive Cross License へ: World Marketにおけるその意義 

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

  東京地裁判決(2007-01-30)の356ペ-ジにわたる内容を読解するためには、「基準期間」という概念を精確に把握する必要がある。

  このキャノン職務発明対価事件における「基準期間」は、本件特許発明の特許公開時である昭和58年4月22日から、満了時である平成13年10月20日までの期間である。日米独の本件特許発明の期間に対応して、4期に分けて考察される。

13.(承前記事)キャノンのライセンスポリシ―

13-1 キャノンは、1970年代中ごろから、LBP(SANARI PATENT 注:レ―ザ―ビ―ムによる静電方式プリンタ)を含む電子写真技術の登録特許および特許出願について、他社へのライセンス供与を開始し、1989年には、重要技術であるカ―トリッジおよびジャンピング現像(SANARI PATENT 注:デジタルエンジンの採用による高解像度・高速現像)についても公開することを発表するなど、開放的ライセンスポリシ―を採用してきた。

13-2 本件各特許発明を含むLBP等の技術をライセンスするキャノンのライセンス契約は、LBPおよびMFP(SANARI PATENT 注:多機能周辺電子機器)等の製造販売を行うほとんど全ての他社を相手方として締結されている。

13-3 LBPおよびMFP等のそれぞれにおいて、キャノンを含めた全世界市場における、「キャノンライセンス契約の主要相手方、および、キャノンライセンス契約の相手方から製品の供給を受けている企業」の製造台数または販売台数のシェアは、著しく上昇した。

13-4 キャノンのライセンス契約は全て、対象製品において実施可能な登録特許および特許出願を包括的に実施許諾する包括クロスライセンス契約であり、契約締結以前の特許の実施についても、相互に免責している。

13-5 キャノンの本件特許発明は、全ての本件ライセンス契約に含まれていると共に、ほとんど全ての本件ライセンス契約において、対象特許群のうち、実施許諾から除外されている特許等(除外特許等)がある。

14.キャノンの包括クロスライセンス契約における「除外特許等」

    除外特許等を定める趣旨と内容は、一様ではない。

14-1        趣旨

14-1-1  対象製品におけるキャノン製品の差別化に有意義な技術に関する特許等を相手方への実施許諾対象から除外する趣旨

14-1-2  相手方が同様の意義を有する特許等をキャノンへの許諾対象から除外する際に、均衡上、キャノンも除外する趣旨

14-2            内容

14-2-1  相手方によって異なる。

14-2-2  実施許諾対象から除外されてはいないが、実施料率において別の取扱をする(SANARI PATENT 注:用語としては無理があるが、今次判決は、このような特許等も除外特許等というとしている)

14-3            除外特許等は、技術分野を特定して定められるが、除外特許等多されることが多い分野は、次の分野である。

14-3-1  帯電工程における接触帯電方式

14-3-2  現像工程におけるジャンピング現像方式

14-3-3  定着工程におけるサ―フ定着方式(SANARI PATENT 注:キャノンではオンディマンド方式と称している)

 感光体におけるアモルファスシリコン系感光体関係技術

15.キャノンのライセンス契約の種類(次回)

2007年4月 7日 (土)

知財人材情報のウェブサイト設立促進を内閣知財本部が内定:SANARI PATENTは「団塊の知財人材活用」にも注目

知財推進計画07における人材育成計画の強化::学会の活用についてSANARI PATENTは「政策学会の活用」にも注目

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        新陣容の内閣知財戦略本部が知財推進計画07案を検討(3月29日):

1-1  有識者本部員の更新(04-24記事)により、弁護士・製薬業界など新たな要員10名が編成され、「知的創造サイクルの推進方策」(2007-02-26: 知的創造サイクル専門調査会決定:産業界委員にキャノン田中信義専務、本田技研吉野浩行取締役相談役ほか)をベ―スとして、知財推進計画07が策定されつつある。

1-2  その「人材育成」計画は、次のように構成されている。

1-2-1        研修機関間の情報交換および相互協力の促進

1-2-1-1           企業の知財部員・弁理士・審査官が議論し合う場など、相乗効果を発揮できる連携体制の構築を促す。

1-2-1-2           各研修機関が連携して、人材情報に関する多様な情報を発信するウェブサイトを設立し、各機関の研修情報の掲載など、知財人材に関する総合的な情報発信を促す。

1-2-2      学会の活用

1-2-2-1           自然科学等の学会において、知財の分科会等の設立を促す。

1-2-2-2           知財系の学会において、知財人材の育成に関する研究を促す。

1-2-3      子供の頃からの知財教育の推進

1-2-3-1           創造性を育む教育と組み合わせた知財教育の充実を促す。

1-2-3-2           家庭・地域・教育機関などを含む社会全体が協力し、成長の段階に応じた適切な教育が実施されるよう、環境の整備を促す。

2.        SANARI PATENT所見

2-1        知財人材活用の視野を、より広大に:

団塊世代の話題がすこぶる活発であるが、社内弁護士(弁護士は、全て弁理士登録資格を法定されている)や社内弁理士の定年退職後の活用はもとより、企業知財部門の団塊世代定年退職者を、組織的に活用することが望まれる。人材派遣のパソナ(東証一部上場)等が益々活躍する場と考える。

 実例として、団塊より3年ほど先輩の知財従業員の場合が、読売ウイ―クリ―(2007-03-11)に、次のように紹介されている(要旨)。

2-1-1      有能な派遣社員を描いたTVドラマ「ハケンの品格」が高視聴されている。

2-1-2      化学メ―カ―の研究所で特許業務を担当してきたK.Hさん(63歳)は、定年退職後、都内の国立大学の知的財産を扱う部署で、3年ほど勤務している。

2-1-3      メ―カ―在職時は、香料が専門だったが、大学では分野が多岐にわたる。新たな勉学を要するが、新知識の獲得・経験の活用・大学の自由という理想的利点を享受していると、K.Hさん自身も満足である。

2-1-4      パソナ等は、団塊世代の有能な定年退職者を対象とする専門分野の事業拡大をも図っている。

2-2  学会の活用の視野も、より広大に:

   内閣知財戦略本部の原案は、「自然科学等の学会」および「知財系学会」 を掲げているが、知財立国の基本政策の研究が先ず必要である。

    例えば、「研究・技術計画学会」は、「科学技術政策分科会」を設けているが、日米欧の特許法制度の政策的対比、イノベ-ション政策における特許制度の在り方、知的財産権と他の価値との均衡」など、政策課題を研究する学会の一層の活発化が望まれる。

2007年4月 6日 (金)

武田薬品工業・長谷川閑史社長の「新薬創出力強化と知財戦略」(2007-03-29)

知財推進計画07に、わが国製薬工業界独自の知財問題をどのように重点化できるか(米国制度へのスタンダ―ド化など)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

  内閣知財戦略本部の有識者本部員の更新によって、武田薬品工業・長谷川閑史社長が新任されたことは、産業分野で電子機器等の分野に偏していた構成の変革として、その発言が知財推進計画07策定上、直接反映するよう、期待する。

1.内閣知財戦略本部(3月29日にて長谷川武田薬品社長(同本部員新任)の演述要旨:

1-1 製薬産業の新薬創出力強化について:

1-1-1 製薬企業は、生き残りに必死である。

1-1-1-1 自ら新薬を創出できなければ、生き残れない。このため、「選択と集中」「最低限必要な規模」を確保しなければならない。

1-1-1-2 グロ-バルに展開するほどの大手企業ですら、売上の3割ないし4割は導入品や買収品tいう現状である。

1-1-2 政治・行政に次のサポ―トを望む。

1-1-2-1 関係省庁にまたがるライフサイエンス予算を集中・効率的に投入すること。

1-1-2-2 新薬創出の要素技術を有するバイオクラスタ―・バイオベンチャ-を育成すること。

1-1-2-3 イノベ-ションを促進する研究開発税制と薬価制度を樹立すること。

1-2 知財面で産業が困っていることについて:

1-2-1 米・欧での特許紛争

1-2-1-1 米国の先発明主義

1-2-1-2 ジェネリックメ―カ―からの激しい挑戦

1-2-1-3 Discovery制度・手続((SANARI PATENT 注:米国特有)

1-2-1-4 陪審員制度

1-2-2 わが国の特許制度を米・欧スタンダ―ドに近いものにし、わが国企業が米・欧で戸惑わないようにすることが必要

1-2-3 臨床試験・審査期間の長期化(SANARI PATENT 注:米国のそれとの対比と解する)が特許保護期間を侵食していることに、要対応

2.SANARI PATENT所見

2-1 内閣知財戦略本部の有識者委員(今次更新後、長谷川武田薬品社長のほか、相沢益男東京工大学長、岡村正東芝会長、梶山千里九大総長、角川歴彦角川会長、佐藤辰彦弁理士、里中満智子漫画家、中山信弘東大大学院教授、三尾美枝子弁護士、山本貴史東大TLO社長の10名)によって、産業分野の大きな特異性を反映できることとなった。

2-2 キャノン・三菱電機(更新前・本部員)のエレクトロニクス分野が、千件・万件の特許群を対象とする包括クロスライセンス契約により、国内外の大企業と知財戦略連合を結成し、デファクト国際標準化への市場制覇を目指すのと、製薬業界の知財戦略は、全く様相を異にする。

2-3 日本製薬工業会が唱導したDAND条項も、ITU等のDAND条項と名称が同一なので、混同しやすいが、製薬については、リサ―チツ―ルに限定され、本質を異にする。

2-4 知財推進計画06は、日米欧の特許審査結果の相互承認を実務制度として優先実施する計画を示している。長谷川本部員の意見は、法制度の変革を主張するものである。

2-5 上記について、知財推進計画07に、内閣知財戦略本部の計画を示すことが望まれる。(以上)

   

2007年4月 5日 (木)

レ―ザ―ビ―ムプリンタや多機能高度周辺機器の複合特許件数は各数万件

キャノン職務発明対価補償請求事件(第7回):「提示特許」と「代表特許」の意義および対価算定上の相違点

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

  多数特許の複合製品を主体とするエレクトロニクス等の分野では、デファクト標準化の戦略をも視野に入れた国際・国内の包括クロスライセンス契約が益々重要な機能を営む。今次東京地裁判決は、包括クロスライセンス契約に関する「提示特許」「代表特許」の語義を示したが、今後、常用されると考えるので、ここに備忘しておく。すなわち、

  「提示特許」とは、「包括クロスライセンス契約の条件の決定において提示された特許」である。提示特許のうち、相手方製品との抵触性および有効性が確認された特許である。

  「代表特許」とは、「提示特許のうち、相手方製品との抵触性および有効性が確認された特許」である。

12(承前記事).キャノンにおける包括クロスライセンス契約

12-1 キャノンが保有していたLBPおよびMFP等関係の特許権(SANARI PATENT 注:LBPは、レ―ザ―ビ―ムプリンタ:Laser Beam Printer:ドラムをレ―ザ光で帯電させ、トナ―を静電付着させる。MFPは、Multi Function Peripheral:複数機能を具備する複合周辺機器で、キャノンの製品例ではimage Runnerなど ) は、本件特許発明の特許公開時(1983-04-22)から満了時(2001-10-20)までの期間内に公告・登録された特許、および、公開されて、後に登録された特許の件数が、LBP関係1万1642件、MFP等関係1万6324件に達し、上記期間内の特許出願件数を含めると、上記件数の約4倍という、極めて多数の関連特許を擁することとなる。

12-2 このように極めて多数の関連特許を 対象として包括クロスライセンス契約を締結する場合、その交渉において、多数特許の全てについて逐一、技術的価値、実施の有無などを相互に評価し合うことは不可能であるから、相互に一定件数の相手方が実施している可能性が高い特許や、技術的意義が高い基本特許を相手方に提示し、それら特許に相手方の製品が抵触するかどうか、その特許の有効性・実施品の売上高等について協議することにより、相手方製品との抵触性および有効性が確認された代表特許と、対象製品の売上高を比較考慮すること、および、互いに保有する特許の件数、出願中の特許の件数も比較考慮することにより、包括クロスライセンス契約におけるバランス調整金の有無などの条件が決定される。

12-3 従って、包括クロスライセンス契約は、同業他社の特許権を侵害する危険性を回避し、安定的に製品を製造販売する目的のみならず、相手方が保有する多数の特許に関する調査や評価を経ることなく、継続的なライセンス契約を実現する目的をも有するものである。

12-4 このような包括クロスライセンス契約の目的上、エレクトロニクス業界のように、数千件ないし1万件を超える特許が対象となる包括クロスライセンス契約においては、相手方に提示され代表特許として認められた特許 以外の特許については、数千件ないし1万件を超える特許のうちの一つとして、その他の多数の特許と共に厳密な検討を経ることなく実施許諾に至ったものも相当数含まれるというべきである。このような特許については、その包括クロスライセンス契約に含まれている特許の一つであるというだけでは、相手方がその特許発明を実施していたと推定できないことは明らかである。

12-5 ただし、ライセンス契約締結当時において相手方が実施していたことが立証された特許については、ライセンス契約締結時にその存在が相手方に認識されていた可能性があること、現に相手方が使用していた特許は、特許権者が包括クロスライセンス契約の締結を通じて禁止権を行使しているということができること、何らかの理由により提示特許・代表特許とされなかった場合でも、相手方が実施していたとすれば、公平性と法に趣旨から、代表特許に準じて利益額を算定すべきである。

2007年4月 4日 (水)

暦年決算各社今次「営業報告書」の知財戦略: 旭硝子は「半導体集積回路・銅配線用に画期的平坦化機能のChemical Mechanical Polishing献濁液」を開発

ライオンの導電性カ―ボン、ライオンのタイ・韓国発展、菱食のフ―ドコ―ディネ―ト、白洋舎のマイスタ―制度、GMOインタ-ネットの3領域シナジ―

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

  12月末決算各社の営業報告書が集中着信する時機である。以下要約。

1.        旭硝子

1-1  半導体集積回路の銅配線製造工程において、研磨を行った際に発生する「配線部の凹み」が、ほとんど発生しない画期的な銅配線用CMPスラリ―の開発に成功した。半導体集積回路の製造歩留まりが大幅に向上し、コストを低減する。

1-2  マイクロプロセッサ―やメモリ―などの高性能半導体集積回路の配線用素材については、現在主流のアルミニュ―ムから、より電気抵抗が低い銅への切換が進んでおり、銅配線用CMPスラリ―の市場規模は、年率20%の成長が見込まれる。

1-3  撥水性等の高機能フッ素樹脂フィルムが、北京五輪のメインスタジアムおよび水泳会場「国家遊泳中心」に採用されるなど、生産・販売量の世界市場シェア首位の地位を固くしている。

2.        ライオン

2-1  ブランドマネ―ジャ―と開発部門が中心となって、掃除用洗剤「ルック」の高機能化(細菌除去等)・対象拡大(布製品用等)を実現している。

2-2  オ―ラルケア分野で、歯周病予防等の効能を融合すると共に、韓国では「デントララ」を発売し、タイで先発した「システマ」など、順調に売上を伸ばした。

2-3  ハウスホ―ルド分野では、タイの「バオ」シリ―ズが大幅に拡販した。

2-4  導電性カ―ボンは、電子部品や自動車部品の用途で優れた導電性が評価され、拡販した。

2-5  界面活性剤と脂肪酸窒素誘導体は、東南アジア市場向け輸出が続伸した。

3.        関東天然瓦斯開発

3-1  南関東ガス田は、メタン等の炭化水素を主成分とし、地層水に溶けた状態でガス層を形成している。特に茂原地区は、浅く厚い鉱床、高いガス水比等の優良な特徴を有する。

3-2  この地区の地層水にはヨ―ドが大量に含まれ、現在わが国で生産されるヨ―ドのほとんどが当地区で生産される。ヨ―ドは、世界的にも希少な資源であることから、当社のヨ―ドも大半を欧米に輸出し、医薬品原料、工業用触媒等(SANARI PATENT 注:医用造影剤・β放射線剤など)として巾広く利用されている。

3-3  新しいハス供給源として、東電・東ガスのLNG気化ガスの受入パイプを敷設した。

3-4  国際標準化機構の環境マネジメントシステム規格ISO14001を取得した。

4.        菱食

4-1  消費者ニ―ズの多様化・個性化、少子高齢化、人口減、価格の二極化、安心・安全性徹底などの急激な環境変化に対応し、「提供技術革新」を具現する。

4-2  加工食品・低温食品・フ―ドサ-ビスの専門領域追求から、これらの一体化のもとで高度な商品調達・提供技術のなどにステ―ジアップする。

4-3  メ―カ―や小売業者との縦関係に加えて、食品販売業者がパ―トナ―として連携する横関係の「フ―ドコ―ディネ―ト」機能を構築する。

5.        白洋舎

5-1        ふとん宅配クリ―ニングのネット営業を開始した。

5-2        マイスタ―制度を設け、素材別等の技術を向上する。

5-3        ホテル・工場等へのレンタル事業を、ブランド力により拡販している。

5-4        欧州の最新技術導入に自社技術を加えて、クリスタルクリ―ニングを開発し、繊維保護・紫外線カット等の機能を持たせた。

6.        巴工業

6-1  デカンタ型(比重差・連続)変速遠心分離機や、高速連続炭化装置等の多用途(製造・処理・再利用)多需要(官民需・海外)向け製造と、「輸入品と自社製品」を結合した高機能製品の製造を行っている。

6-2  ニッチで高付加価値な商品の輸入、これから派生した国内製品販売、海外製品の海外販売(中国・電子材料等)において、高度の技術を発揮している。

6-3  ナノセッション法により、多種物質をナノサイズまで微細化する技術の保有社・米国Primetとわが国における総販売代理店契約を締結し(2006-10)、インクジェット・燃料電池・化粧品等の分野に寄与している。

7.大倉工業

7-1 IT機器の修理品回収・配送における緩衝の高度化と操作性向上、事後 廃棄容易材料化のため、当社のウレタンフィルムで代替し新構造とした梱包材料を、大手物流に拡販した。

7-2 合成樹脂部門の各開発・製造拠点単位で取得してきたISO9001を統合し、営業・スタフ部門も含めた事業部門全体に認証取得範囲を拡大した。

8.        GMOインタ-ネット

8-1  次の3領域のワンストッププロダクトサ-ビスによる事業シナジ―を創出する。

8-1-1        ネットインフラ事業(インタ-ネット活用支援事業)

8-1-2        ネットメディア事業(インタ-ネット集客支援事業)

8-1-3        ネット金融事業  (インタ-ネット金融事業)

8-2-1      ネットインフラ事業は、ドメイン登録、レンタルサ―バ―、セキュリティ、インタ-ネットショッピングサイト構築、クレッジット決済を支援する。

8-2-2      ネットメディア事業は、検索、ブログポ―タル、掲示板、RSS/Feed管理、壁紙サイトのサ-ビスを行う(SANARI PATENT 注:RSSはRDF Site Summary: RDFResource Description Framework)

8-2-3       ネット金融事業は、ロ―ンクレッジット、インタ-ネット証券事業を行う。

8-3  SANARI PATENT所見

インタ-ネットを制御し、新たな利用法を開発し、生起する諸問題を解決するという、将来性に富むシナジ―事業と考える。

2007年4月 3日 (火)

包括クロスライセンス契約において一方の特許群が相手方より優位であるために発生するバランス調整金額

キャノン職務発明対価補償請求事件(第6回):今次判決の「企業間バランス多様化への対応と、相当対価算定との関係」

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

10・包括ライセンス契約詳論:

10-1            キャノンの本件包括クロスライセンス契約においては、キャノンと相手方との特許間の不均衡が大きいことが多いため、このバランス調整金が大きい比重を占めることとなる(SANARI PATENT 注:キャノンの技術優位のため、バランス調整金収入が大であるという意味)

10-2            包括クロスライセンス契約のうち無償包括クロスライセンス契約の部分については、「使用者等が受けるべき利益の額」の算定方法として、次の2つの算定方法がある。

10-2-1  その発明の実施料=相手方に実施許諾した複数特許発明の実施料総額*その特許発明の寄与率

10-2-2  その発明の実施料=使用者等が相手方の複数特許発明の実施により本来支払うべき実施料*相手方に実施許諾した複数特許発明におけるその特許発明の寄与率

10-3            上記(10-2)算定方法を基本とするが、内容が多様な包括クロスライセンス契約においては、「使用者等が受けるべき利益の額」の立証の困難性を考えると、各事案について、実際に行うことが可能な立証方法が認められるべきである。

10-4            ただし、上記(10-3)の場合でも、包括クロスライセンス契約においては、契約期間内に相手方がどの特許発明等をどの程度実施するかは、互いに不確定であり、契約締結時においては、互いの将来実施予測に基づき互いの特許等を評価し合うことにより契約を締結するから、相手方に実施許諾した複数の特許発明の実施料の額にその特許発明の寄与率を乗じて算定した金額と、キャノンが相手方の複数の特許を実施することにより本来支払うべき実施料の額に、キャノンが相手方に実施許諾した複数の特許発明全体における本件特許発明の寄与率を乗じて算定した金額とが、同じになるとは限らないという不確実性が常に生じ得る。

10-5            算式に不確実性を伴う場合、例えば、一般の損害賠償事件において、民事訴訟法上、「損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨および証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる」が、この趣旨は、本件のような場合にも適用されるべきである。

11.エレクトロニクス業界における包括クロスライセンス契約:

11-1 エレクトロニクスの分野においては、一つの製品に数千にも及ぶ技術が使用される場合もあり、個々の特許権を個別に行使することは、その侵害の有無の調査においても多大なコストを要する。

11-2 また、個々の特許権を個別に行使することとなれば、関係各社が自社の特許をそれぞれ行使し合う結果となり、製品化が事実上不可能となる。

11-3 従って、エレクトロニクス業界においては、互いの特許権をまとめて許諾し合い、製品化し、一社での限定された生産能力を超えて大量に拡販することが合理的である。

12.キャノンにおける包括クロスライセンス契約(以下次回)

2007年4月 2日 (月)

「包括ライセンス契約」および「包括クロスライセンス契約」の諸類型

キャノン職務発明対価補償請求事件(第5回): 包括クロスライセンスにおいてバランス調整金が契約される場合など

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

9.(承前03-30記事)包括クロスライセンス契約

9-1 ライセンス戦略の多様性

   今次東京地裁判決は、ライセンス契約の内容を次のように類別し、その一類別として包括クロスライセンス契約に論及している。すなわち、判示は、次のように要約できる。

9-1-1      特許権者がその特許発明を実施しつつ、他社に実施許諾もしている場合については、その特許発明の実施について、実施許諾を得ていない他社に対する特許権による禁止権を行使したことによる超過利益が生じていると見るべきか否かについては、事案により異なる。

9-1-1-1           特許権者が、その特許について有償実施許諾を求める者には全て、合理的な実施料率でこれを許諾する方針(開放的ライセンスポリシ―)を採用しているか、特定の企業にのみ実施許諾する方針(限定的ライセンスポリシ―)を採用しているか。(SANARI PATENT 注:開放的ライセンスポリシ―は、国際標準化のためのパテントポリシ―おいて必須特許権保有者に対して制度上要請されるので、今後益々重要なポリシ―となる)

9-1-1-2           その特許の実施許諾を得ていない競業会社が一定割合ある場合でも、その競業会社が代替技術を使用して同種製品を製造販売しているか、代替技術とその特許発明との間に作用効果等の面で技術的・経済的に顕著な差異がないか

9-1-1-3           包括ライセンス契約あるいは包括クロスライセンス契約等を締結している相手方が、その特許発明を実施しているか、これを実施せず代替技術を実施しているか

9-1-1-4           特許権者自身がその特許発明を実施しているのもならず、同時に、または別の時期に、他の代替技術も使用しているか

9-2  キャノンの包括クロスライセンス契約と利益の額の算定方式:

9-2-1      包括ライセンス契約により得た利益の額について:

9-2-1-1           特許権者が単数の特許について競業他社とライセンス契約を締結した場合(SANARI PATENT 注:今次判決は、この記述を包括ライセンス契約の項に置いているが、単数であるから、これは包括ライセンス契約に属さず、次項9-2-1-2の導入部をなしている)、そのキャノンにより得られる実施料収入は、その特許に基づいて企業が得る独占利益というべきであるから、これを特許法35条4項の「その発明により使用者が得ることができる利益の額」とみることができる。

9-2-1-2           複数の特許発明がライセンスの対象になっている場合には、その発明により「使用者が受けるべき利益の額」を算定するに当たっては、その発明がそのライセンス契約締結に寄与した程度を考慮すべきである。

9-2-2      包括クロスライセンス契約により得た利益の額について:

9-2-2-1           包括クロスライセンス契約は、基本的には、当事者双方が多数の特許発明等の実施を相互に許諾し合う契約であるから、その契約によって、一方当事者が自己の保有する特許発明等の実施を相手方に許諾することによって得られる利益とは、相手方が保有する複数の特許発明等を無償で実施できること、すなわち、相手方に本来支払うべきであった実施料の支払い義務を免れることである。

9-2-2-2           包括クロスライセンス契約には、上記基本的合意のほかに、相手方に本来支払うべき実施料債務と、相手方から本来受け取るべき実施料債権とを、事前の包括的な相殺の合意により相殺する契約と解することができる。従って、両者が有する特許等の間で均衡を失することが、契約締結時に明らかである場合には、一方から他方にいわゆるバランス調整金が支払われることになる。

9-2-2-3           合理的な取引を行うべき営利企業間の契約として、相互に実施料の支払いを生じさせない無償包括クロスライセンス契約契約においては、相互に支払うべき実施料の総額が均衡すると考えて契約締結したと考えることが合理的であるから、無償包括クロスライセンス契約においては、「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」については、相手方が自己の特許発明を実施することにより、本来、相手方から支払いを受けるべきであった実施料を基準として算定することも合理的である。

9-2-2-4           包括クロスライセンス契約において、契約当事者がそれぞれ有している特許間で均衡が成立していない場合には、一方から他方にバランス調整金が支払われることがあるため、その場合には、そのバランス調整金額を相当対価算定においても考慮すべきである。

10・包括ライセンス契約詳論:(以下次回)

2007年4月 1日 (日)

出光興産の「塑性加工用潤滑油剤」特許権の有効性: 知財高裁3月29日判決は本件特許権を「無効」と判断

昭和シェル石油等が「発明未完成」「新規性欠如」「進歩性欠如」「明細書虚偽記載(権利濫用)」などの争点を提起

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

  標記の「塑性加工」とは、自動車のボディ―や家電機器構造材料である金属等の固体に、圧延・絞りなどの形状・寸法に永久変形を起こす加工である。加工後の製品の表面仕上げの良好・加工工具の寿命延長・その他加工性向上のため、金属と金型間に用いる潤滑油の高性能・高機能化は不可欠であり、わが国産業の国際競争力を支える「見えざる主役」である。

 この重要な製品について、特許庁が出光興産に付与した一特許権が、「進歩性を欠き本来無効である」と判断された。この特許権に基づく出光興産による損害賠償請求等は、東京地裁で棄却され、これに対する控訴も、知財高裁で棄却された(3月29日判決)。

1.        出光興産は、昭和シェル石油等に13億7760万円余の賠償等を請求:

1-1 出光興産は「塑性加工用潤滑油剤」(特許番号128578)(本件特許)の特許権者として、「昭和シェル石油等が製造・販売する物件が本件特許の技術的範囲に属する」ので、昭和シェル石油等対し、「実施料相当額の不当利得返還請求および特許権侵害の損害賠償請求訴訟を、東京地裁に提起し、東京地裁は、出光興産の請求を棄却した(2006-01-25)

1-2 争点は、次のとおりである。

1-2-1 昭和シェル石油等の各製品は、本件発明の技術的範囲に属するか。

1-2-2 本件発明は、特許無効審判により無効とされるべきものか。

1-2-2-1 本件発明は、発明として未完成か。

1-2-2-2 本件発明は、新規性を欠くか。

1-2-2-3 本件発明は、進歩性を欠くか。

1-2-2-4 本件特許は、平成2年改正前特許法36条に違反するか。

1-3 本件特許権は、明細書の虚偽記載により、権利行使が権利濫用に当たるか。

1-4 実施料相当額

1-5 損害の発生の有無およびその額

2.        東京地裁の判断

2-1  東京地裁は、上記争点のうち、1-2-2-3について先ず判断し、「本件発明は引用例から想到容易であり、特許無効審判により無効にされるべきものと判断した。

2-2  従って、東京地裁は、「出光興産は昭和シェル石油等対して、本件特許権を行使することができない」と判断した。

2-3  結論として東京地裁は、「出光興産の請求は、その余の点を判断するまでもなく、何れも理由がない」として、出光興産の請求を棄却した。

3.        知財高裁の判断

   出光興産の控訴に対して、知財高裁判決(平成19年3月28日)は、次の判断を示した。

3-1  知財高裁も、本件発明は進歩性を欠き、本件特許には無効理由があるので、出光興産は昭和シェル石油等に対して本件特許権を行使することができない。その理由は次のとおりである。

2-1-1      特許請求の範囲に、潤滑油剤中のA 成分の含有割合、および、B成分の含有を規定しているが、それ以外の成分の含有を排斥していない。

2-1-2      本件発明と引用例の相違点として出光興産は、B成分の相違を挙げるが、複数の引用例を総合すれば、当業者は、「潤滑油として従来から知られていた引用例甲のαオレフィンは、引用例乙の直鎖オレフィン類に相当する」ことから、「鉱油、ジエステル組成物等を基油として、直鎖オレフィン類を油性剤として添加・混合することは想到容易と認められる。

2-1-3      引用例丙記載の「直鎖オレフィン類に、潤滑油粘度の鉱油、ジエステル組成物を組み合わせることに代えて、引用例丁記載のプリブテン油を組合せ、出光興産が相違点と主張する本件発明のB 成分に想到することは、容易であると認められる。

2-1-4      出光興産は、引用例記載の潤滑油剤の成分である直鎖オレフィンは、基油であって、油性向上剤ではないこと、引用例で用いられているアルキルペンタエリトリト―ルホスファイトが油性向上剤ではなく、極圧剤であることを理由に、引用例の直鎖オレフィンの組合せの相手である「鉱油、ジエステル油」を引用例の「ポリブテン」に代える動機付けは存在しないと主張する。しかし、引用例記載の直鎖オレフィンは、基油として混合される場合のもならず、油性剤としての効果を有するものとして混合される場合があり得ること、また、アルキルペンタエリトリト―ルホスファイトが油性剤に相当することも認定されるので、出光興産の上記主張は採用できない。

2-1-5      出光興産は、引用例Cの潤滑油は直鎖オレフィンを必須成分とするのに対して、引用例Dはアルキルペンタエリトリト―ルホスファイトの1種以上とホスホン酸エステルの1種以上を必須成分とし、各潤滑油は本質的に構造・機能を異にすることなどから、「ポリブテン」に代える動機付けは存在しないと主張する。しかし、引用例の示唆には、「ポリブテン」に代える契機があるといえるから、出光興産の上記主張は採用できない。

2-1-6      出光興産は、鉱油に代替する基油として合成油を選択することは、単純ではない等と主張する。しかし、ポリブテンの潤滑性能は、同一粘度の鉱物油と比較して非常に悪いとの引用文献の記載は、ポリブテンを単体で使用した場合に関するものであって、ポリブテンを組み合わせることの妨げにはならないから、出光興産の主張は採用できない。

2-2 上記各項のほか、出光興産の主張について、当業者の容易想到性を否定する理由は認められず、本件発明は進歩性を欠くものとして、無効理由があり、出光興産は昭和シェル石油等に対して本件特許権を行使できない。

4.        SANARI PATENT所見

  裁判所が進歩性等の特許性を判断し、特許庁による特許付与を無効とした事例が加わわるることとなる。

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