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2007年3月31日 (土)

B類機器の制御方法をC類機器の制御方法として始めて構成することは、想到容易であるか

特許無効審決を知財高裁が維持(その3): パチンコ遊技機とスロットマシンの技術融合

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

4.特許庁の審決に対するマルホンの反論

4-1 本件発明と引用発明との一致点認定の誤り

4-1-1 本件発明の計数結果は、予め決定されている位置に停止させる目的で使用される。引用発明の計数結果は、3個のリ―ルの停止位置を所定ピッチ分ずらして停止させる目的で使用される(SANARI PATENT 注:停止位置を特定させる目的で使用されるのではないという意味)

4-1-2 本件発明では、リ―ルの停止後に入賞か否かを判定することはない。引用発明では、図柄の並び方が確定した時点で判定が可能になる。

4-2 本件発明と引用発明との相違点判断の誤り(SANARI PATENT 注:想到容易性を否定する論拠を述べている)

4-2-1 本件発明の構成は、パチンコ遊技機やスロットマシンにおいて常識であったフィ―ドバック制御に代えて、フィ―ドフォワ―ド制御(ドラム始動口への入賞時における決定事項に基づいて各ドラムが順次決定された停止位置に停止させられていく)をパチンコ遊技機に始めて適用したものである。

4-2-2 引用発明ではストップボタンが必須の構成要素であるが、本件発明では、そのような構成要素を必要としない。

5.知財高裁の判断

5-1 本件発明と引用発明とは、「基準点の検知時からパルスモ―タの駆動ステップ数を計数し、その結果に基づいて回転ドラムを所定の位置に停止するようにした遊技用電動装置」である点で一致する。

5-2 マルホンが主張する相違点に係る本件発明の4-2-1構成は、リ―ル(ドラム)タイプかCRTタイプかにより、当業者が適宜選択できる事項である。

5-3 「スタ―トレバ―の操作を契機として、乱数、テ―ブルによりリ―ルの停止位置を決定し、決定された絵柄の組合せでリ―ルを停止させる制御」など、マルホンが相違点として主張する数点は、周知技術において実質的に開示されている。

5-4  本件特許発明は、引用技術および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

6.SANARI PATENT所見

6-1 争点を換言すると、

6-1-1 B類機器の制御方法をC類機器の制御方法として始めて構成することは、想到容易であるか。

6-1-2 用語・表現が異なる周知技術について、実質的開示を認め得るか。

6-1-3 当業者の設計事項、適宜選択事項に属する選択については、想到容易と認め得るか。

6-2 知財高裁の判断は、次のように解される。

6-2-1 上記6-1-1について、B類機器とC類機器とが、直上位類のA機器に属する場合は、想到容易性を認め得る。

6-2-2 上記6-1-2および6-1-3については、従来の判例とおり肯定に解する。

6-2 パチンコのイメ―ジとスロットマシンのイメ―ジは、古い手動パチンコに馴染んだ高齢者にとっては、随分違ったものである。パチンコが電子機器として発達し、スロットマシンと融合してパチスロの全盛時代になった現在、類別が急速に希薄になったと思われるが、マルホンの創意は評価したい。

6-3 パチスロ業界の規模は、対消費者売上高で29兆円に達すると推定するが、最近SANARI PATENTに着信した平成18年間の公営競技売上高確報、競輪8622億円、中央競馬2兆8233億円、地方競馬3691億円、競艇9651億円、オ―トレ―ス1090億円、公営計5兆1286億円と比べて、誠に盛大であり、射幸心刺激の適正保持に関する地方公共団体条例への適合と、興趣増進を両立させた特許発明の続出により、輸出を含めて、隆盛を続けるものと期待する。

2007年3月30日 (金)

職務発明対価の妥当額算定の要素に関する知財高裁の今次判断、特に包括的クロスライセンス契約

キャノン職務発明対価補償請求事件(第4回): 特許法35条3項4項について、キャノンと知財高裁の見解の相違

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

7.(承前記事)特許法35条の「相当の対価」に関する東京地裁の判断:

7-1 本件において職務発明者甲は、特許法35条1項所定の職務発明をし、それによって生じた「外国特許を受ける権利」をキャノンに譲渡しているから、これに伴う対価請求については、同条3項4項(相当の対価請求権)が類推適用される。

7-2 キャノンは、「特許法35条は外国特許を受ける権利の帰属に関する法律関係について適用を予定した規程でない」として上記(7-1)対価請求権を否定するが、最高裁判決(平成18年)の趣旨(6-3-2)に照らし、キャノンのこの主張は採用できない。

7-3 また、キャノンは、「上記最高裁判決(7-2)は、使用者等と従業者等との間の職務発明に係る特許を受ける権利の譲渡契約における通常の意思解釈を根拠として、特許法35条3項4項を類推適用するものであって、労使間協議による労働契約によって制定され、法的拘束力ある就業規則として就業者に周知された取扱規程に基づきなされた本件外国特許を受ける権利の承継は、労使対等の立場での特許を受ける権利の譲渡であるから、同条を類推適用する余地はないと主張する。しかし、外国特許を受ける権利を受ける権利を含め法律関係の一元的処理が当事者の通常の意思であり、キャノンの規程も同様である。

  さらに、労使協約に基づく対価の決定であっても、特許法35条4項の対価を十分に確保できると、直ちにみることはできないないから、特許法35条3項4項の類推適用は肯定されるべきであり、これを否定すべき事情を認めるに足りる証拠がないので、キャノンの主張は採用できない。

7-4        キャノンはまた、次のように主張する。

「キャノンの取扱規程は、下記のように、特許法35条3項4項の趣旨に完全に合致し、同規程によって職務発明者甲に支払い済みの対価は、法の「相当の対価」である。

7-4-1      キャノンの扱規程は、労働協約に制定根拠を有し、労働協約により労使協議会の協議事項とされ、従業者の利益保護の上で最適切な労使協議により制定された。

7-4-2      その内容は従業員に周知された。

7-4-3      通常の就業規則以上の法規範性と労働協約性が認められる。

7-4-4      対価の上限がない。

7-4-5      異議申し出ができる。

7-4-6      実績対価等級と対価額の再評価を求め得る。

7-4-7      対価等決定のため、多数上級技術者を含む特許審査委員会を設けている。

  しかし、実際上、支払われた対価が特許法35条4項の「相当の対価」に満たないときは、同条4項に基づき、不足額の支払いを求めることができると解するのが相当である。

8.本件特許発明によりキャノンが受けるべき利益額:

8-1 「特許を受ける権利」が、将来特許を受けることができるか否かも不確実な権利であり、その発明により企業が将来得る「独占的実施による利益」、または、第三者からの「実施料収入による利益」を、承継時に算定することが困難であることから、「実際に受けた利益」に基づき算定することが、合理的算定方法の一つである。

8-2 企業は、職務発明について、特許を受ける権利または特許権を承継しなくても、職務発明について通常実施権を有するから、「その発明により受けるべき利益の額」は、「単なる通常実施権を超えたもの」の承継により得た利益(特許権による法的独占実施権・補償金請求権に由来する利益、第三者からのライセンス料収入等の利益)と解すべきである。

8-3 上記(5-2)の「独占の利益」とは、下記の利益である。

8-3-1 包括的クロスライセンス契約については、別項に詳述する利益

8-3-2 キャノンが自らは実施せず、本件特許発明の実施を他社に許諾し、ライセンス料を得ている場合は、その収入

8-3-3 キャノンが他社に実施許諾せず、自ら独占的実施している場合には、下記の「超過利益」:

8-3-3-1 「超過利益」とは、「超過売上」を得たことに基づく利益である。

8-3-3-2 超過売上とは、他社にこの特許発明の実施を禁止したことに基づいてキャノンが挙げた利益、すなわち、他社に対する禁止権の効果として、他社に実施許諾していた場合に予想される売上高と比較して、これを上回る売上高である。

9.包括的クロスライセンス契約について(以下次回)

2007年3月29日 (木)

本日が提出期限: 知財推進計画06の見直し意見

日本食文化のブランド価値を世界に向けて拡大発信する内閣知財戦略本部構想

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT)

SANARI PATENTは、内閣知財戦略本部に下記意見を送信した(2007-03-28)

 知財推進計画06の見直しについて、「食文化」に関する意見(新たに盛り込むべき事項)を、下記の通り提出(送信)申しあげます。

 (意見)

1.「大学に食関係の学部や学科を設置する」(108ペ-ジ)の次に、「中高校の課程に、食文化に関する知識を涵養する内容を加える」という項目を新たに盛り込まれたい。

2.「日本食文化を海外に普及する」(107ペ-ジ)の内容として、「日本の食文化が、世界諸地域の食文化と融合して発達し、グロ-バルに馴染みやすい多様性を具備していることを、併せて周知させる」ことを加えられたい。

3.「優れた日本の食文化を評価し、発展させる」(107ペ-ジ)の次に、「日本食文化のグロ-バルな普及が、世界各地の環境と嗜好に適応し得ることに資するよう、特許発明(生鮮品供給関係など)、技術・ノウハウの開発を奨励する」という項目を新たに盛り込まれたい。

 (理由)

 ((意見1について) 

1.        繊細な味覚を含む美的感覚の涵養は、年少の時期になされることが重要な要件である。

    現在、中高校でこのような教育を現に実施している例として、私立・鎌倉女学院(創立103年)の課程と行事を掲げる。

1-1  「国際文化理解」および「日本文化理解」の土曜講座として、中学生を対象に、専門家を講師とする次の3つの食文化講座を、平成18度に開講した。 

1-1-1 「世界の食文化1」

    中国人の講師を招き、中国の家庭に伝わる水餃子の作り方を学んだ。

1-1-2 「世界の食文化2」

    小麦粉を使った欧州の食文化をテ―マとして、横浜調理士専門学校でパスタの作り方を学んだ。

1-1-3 「日本の食文化」

    鎌倉の和菓子店主から、和菓子の歴史と特色を学んだ。

1-2  校舎内に本格的な「茶室」を構築し、特修科目として、茶道・自然との融和・懐石料理・薄茶と濃茶に応ずる和干菓子と生菓子等について学んでいる。

1-3  カナダ等の高校と、相互に「ホ―ムステイ」を夏季休暇中に行い、家庭の食文化を相互に学習している。

(意見2について)

2.        欧米とBRICsに続いて、VISTA5(ベトナム・インドネシア・南アフリカ・アルゼンチン)、TIPs(タイ、インドネシア、フィリピン、パキスタン)の経済発展が顕著となるが、日本の食文化は、これらの何れの国の食文化をも摂取し、融合的食文化を形成してきた(和食という呼称が適する)。

    また、例えば焼肉は、グロ-バルに普遍的な食文化であるが、キッコ―マン醤油が米国家庭に広く浸透して、焼肉調味料としての地位を確立するなど、食材を通じて日本食文化が世界に発信されることも奨励すべきである。

 

  (意見3について)

3.        農林水産省の平成19制度予算は、「技術と知財の力による新需要・新産業の開拓」の誉産として、18億円(平成17年度は1億円)を計上しているが、花粉症対策の新食品「べにふうき」(茶)が筆頭に例示されるなど、国内対策を主体として記述され、日本食文化の世界発展という見地が明確でない。

    日本食文化の世界発展のためには、どのような知財開発が現地の環境と嗜好への適合のため必要か、予算の執行において検討・実行する旨を盛り込まれたい。

2007年3月28日 (水)

外国特許を受ける権利の承継について、特許法35条類推適用の妥当性を詳細判示

キャノン職務発明対価補償請求事件(第3回):特許法35条(職務発明)の直接適用と趣旨適用(類推適用)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

6.(承前03-25記事)争点に対する東京地裁の判断:外国特許を受ける権利の承継についての準拠法:

6-1  本件「承継の準拠法は日本法」:「対価は当事者間契約」:

6-1-1 この承継は、日本法人キャノンと、日本に在住しキャノン従業員として勤務していた日本人である職務発明者甲とが、職務発明者甲がした職務発明についてキャノンの取扱規程により日本で行ったものであり、キャノンと職務発明者甲との間には、承継の成立と効力の準拠法を日本の法律とする黙示の合意が認められる。

-1-2 外国特許を受ける権利の譲渡に伴う、譲渡人の譲受人に対する対価請求権の有無、対価の額など、譲渡対価に関する問題は、譲渡の原因関係である契約その他の債権的法律行為の効力の問題として、当事者の意思に従って定められる。

6-2  なお書きとして「属地主義」にも言及:

   なお、譲渡の対象となる特許を受ける権利の諸外国における取扱と効力は、譲渡当事者間における譲渡の原因関係とは別に、特許権の属地主義の原則により、当該特許権の登録を受ける国の法律を準拠法とする。

6-3        特許法35条(職務発明)の適用:

6-3-1        外国特許を受ける権利は、直接適用されない:

    わが国の特許法は、外国特許または「外国特許を受ける権利」について直接規律するものではない。

6-3-2 外国特許を受ける権利の譲渡対価については、趣旨適用される:

    しかしながら、特許法35条は、職務発明における発明者と企業の取引が対等の立場ではなされ難いことにかんがみ、「職務発明に係る権利の 処分時において、企業がその発明の独占実施により得られると客観的に見込まれる利益のうち、同条所定基準による金額の取得が発明者に確保されるようにして、特許法の目的を達成する」趣旨を有する。

6-3-2        この趣旨の適用については、次の理由により、日本特許と外国特許を区別すべきでない。

6-3-2-1           職務発明において、権利承継についての当事者間立場の不対等性は、日本特許と外国特許間で相異がない。

6-3-2-2           特許を受ける権利は、各国ごとに別個の権利として観念できるが、その基となる発明は、共通する一つの技術的創作活動の成果である。

6-3-2-3           職務発明とされる発明については、その基となる雇用関係等も同一であって、これに係る各国の特許を受ける権利は、社会的事実としては、実質的に1個と評価される同一の発明から生じたものである。

6-3-2-4           発明者から企業に承継する時点では、実際上、どの国に出願するのか、出願せずノウハウとして秘匿するのか、出願に対して特許付与されるか、未確定の場合が多く、日本特許を受ける権利と外国特許を受ける権利が包括承継される場合もある。

6-3-2-5           外国特許を受ける権利には、本特許を受ける権利と必ずしも同一概念でないものもあり得るが、これらも含めて、当該発明については企業にその権利があることを認めることにより、発明者と企業間の法律関係を一元的に処理することが、当事者の通常の意思である。

7.特許法35条の「相当の対価」(以下次回)

2007年3月27日 (火)

想到容易性立証の段取り: 「先行発明との一致点と相違点」の究明

特許無効審決を知財高裁が維持(その2): 本件発明と引用発明の対比

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

3.(承前0402記事)審決の想到容易性判断

3-1   審査官の特許付与を審判官が無効とした理由は、引用発明からの想到容易性である。想到容易性の結論を導くためには、本件発明と引用発明の一致点と相違点を示さなければならない。審決は、次のように認定している。

3-1-1 引用発明の内容(要旨)

  「次の特徴を有するスロットマシン用リ―ル装置

3-1-1-1           次の構造を有するリ―ル3個を備える。

3-1-1-1-1     外周にシンボルが一定のピッチで配列され、ステッピングモ―タによって駆動される。

3-1-1-1-2     リ―ル枠の外周に突設された遮光片を有する。

3-1-1-2           リ―ルを駆動するステッピングモ―タを備える。

3-1-1-3           パルス発生部から発生されるパルス列をモ―タ駆動回路に供給するモ―タ制御回路を備える。

3-1-1-4           パルスを計数するための基準位置通過検出によりリセットされるカウンタを備える。

3-1-1-5           遮光片の通過を検出するホトセンサを備える(リ―ルの回転位置と、これを回転させるためのステッピングモ―タとの相関を決めるための基準位置の決定に使用される)。

3-1-1-6           2個のリ―ルは基準位置から10パルスごとに、1個のリ―ルはそれから5パルス分ずれた位置で停止される。

3-2             審査官による異同対比

3-2-1      引用発明の「シンボル」「3個のリ―ル」「外周」「ステッピングモ―タ」「基準位置」「遮光片の通過を検出するホトセンサ」「パルス列をモ―タ駆動回路に供給する」「パルスを計数」は、本件発明の「図柄」「3個の回転ドラム」「「表面」「パルスモ―タ」「基準点」「照射光の反射光に応じた検出信号を出力するフォトセンサ」「パルスモ―タに駆動パルスを出力する」「駆動スッテプ数を計数」に、それぞれ相当する。

3-2-2      パチンコ遊技機の回転ドラムと、スロットマシンのリ―ルとは、共に表面に複数種類の図柄を有する。

3-2-3      一致点は、

3-2-3-1           遊技機用電動装置である。

3-2-3-2           表面に複数種類の図柄を有し、1箇所に基準点が設定された3個の回転ドラムを有する。

3-2-3-3           3個の回転ドラムを回転させる複数のパルスモ―タを有する。

3-2-3-4           基準時の検知時からパルスモ―タの駆動スッテプを計数し、その結果に基づいて、回転ドラムを所定の位置に停止させる。

3-2-4      相違点は、

3-2-4-1           引用発明は、ドラム回転の開始と停止について、「2個のリ―ルは基準位置から10パルスごとに、1個のリ―ルはそれから5パルス分ずれた位置で停止される」としている以外、格別の限定をしていない。

3-2-4-2           引用発明は、パルスモ―タの配設位置と駆動方式について格別の特定をしていない。

3-2-4-3           引用発明では、ケ―スと背板について不明である。

3-2-4-4           基準点の検知について、引用発明においては、ホトセンサが検知する遮光片の寸法を活用区別限定せず、また、基準位置決定のためのホトセンサ信号の具体的処理について記載がない。

4.審決に対するマルホンの反論(以下次回)

2007年3月26日 (月)

「世界特許」には「世界特許法」が必要、「世界法」には「(その法域の)世界訴訟法」が必要(内閣本部員はどう考えているか

内閣知財戦略本部知財推進計画の不足の一つは、「世界特許」の理念と構想の討論と合意を省略してきたこと

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

  内閣知財戦略本部は、総合政策の策定機構であるから、論理のステップや用語の定義にこだわっている余裕がない場合も多い。しかし、これらをあまりに粗略にすると、「根のしっかりしない芽生え」と同様、開花が遅れる場合がある。

  最近の内閣知財戦略本部サイクル専門調査会(2007-02-26)の、次の発言は、この意味でここに要約記録し、備忘に資したい。

1.        加藤郁之進タカラバイオ社長

1-1        出願からのみの発想は不可:

知財推進計画07への事務局原案に、「世界特許システムの構築に向けた 取組を強化する」と標題しているが、特許出願のことだけ(SANARI PATENT 注:出願処理の効率化・迅速化を意味している)で世界特許システムの構築といわれても、何か引っ掛かる。

特許というのは、出願・付与すれば完成というものではない。世界的に事業していると、特に米国企業との間に複数の訴訟が惹起される。その原因の大半が、米国の先発明主義に由来する。この場合、米国企業は延々と訴訟を展開するから、日本企業は得るところなく特許手数料等の損失と混乱に帰着するおそれがある。

1-2        特にバイオ:

    わが国企業は上記の戦略が拙劣で、特にバイオ関係が拙劣であるが、出願面だけを統一されても、それだけでは、訴訟・紛争は続く。最先端の医療用タンパク質など。

1-3        世界特許と書くなら、せめて:

    世界特許に伴う訴訟・紛争関係のことまで、このサイクル専門調査会に求めるのは無理としても、「世界特許システムの構築に向けた取組」をいうならば、上記の「出願以外の課題」について、せめて「努力する」との言及を求める。

2.        阿部博之内閣知財戦略本部部員

    上記加藤委員の意見は、非常に重要で深刻である。

3.        久保利弁護士

    世界特許、国際特許、国際戦略等といいながら、国際訴訟戦略にについては、あまりにも検討対象外におかれてきた。

4.        田中信義キャノン専務

    米国では、ある意味では特許庁の審査が非常に甘い。審査品質が非常に緩く、日本では特許付与されないものが、米国では数多く特許される。あとは、当事者間で解決しなさいという基本的な考え方が先ず根底にある。

5.        中山信弘東大大学院教授

    特許固有の問題ではない裁判制度の統合は、おそらく不可能である。欧州で、特許法は統合したけれども、侵害は各国で別である。(SANARI PATENT 注:厳密には、欧州特許法ができ、所定範囲の機能を営んでいるというだけで、EU各国の特許法は、相違点を保有したままで施行されている。)

6.        SANARI PATENT所見

出願の段階に限定して、審査結果の相互承認を行うという志向に、SANARI PATENTは賛成してきた。それは特許付与事務の効率性・経済性を目的とする。

世界特許という概念について、関連事項を含めた検討と明示を欠落したままで出願問題の起点と到達点に「世界特許」を据えたことが、上記議論にエネルギ―を費やす結果となった原因である。

関連して発言された田中キャノン専務の、審査寛厳に関する日米対比も、審査結果の相互承認制度を進める上で、極めて重要な認識である。

2007年3月25日 (日)

特許明細書の日米対比: 内閣知財戦略本部は、わが国明細書構文の独特性と日米調和について、具体的対策の表明が必要

キャノン職務発明対価補償請求事件(第2回): 日本特許と米国特許

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

  

2-2-2(承前03-19記事) 本件外国特許のうち米国特許権1(4993792)(発明者:原告職務発明者、特許権者:キャノン)

2-2-2-1 発明の名称: ゴ―スト像を除去する走査光学系  

2-2-2-2 特許請求の範囲

【請求項1】面走査のための、および被走査有効走査領域内の該面上にゴ―スト像が現われないようにするための走査光学系であって、複数の反射面を有する偏向器、表面に向かって光束を偏向するように配置された前記偏向器の前記反射面の一つの近傍に線状光束を結像する光束入射光学系、および、直交方向において異なる出力を有し、かつ、該偏向器の該一つの反射面と被走査面が、該偏向器により偏向された光束像により形成された偏向平面に対して垂直な平面内で光学的に相互に共役関係にある結像手段を含み、この場合において、Nを前記偏向器の反射面の数、Wを有効走査領域の巾の半分、D を被走査面に隣接する該結像手段の主点と被走査面との距離とするとき、前記結像手段の光軸がが該光束入射光学系の光軸となす角度αは、∣α∣<∣4π/N)―(W/D)、かつ、    ∣α∣<(π/2)を満たす、走査光学系

 【請求項2】前記結像手段がf. θ特性を有する、請求項1の走査光学系

 【請求項3】【請求項4】(略)

2-2-3        本件米国特許権2(5191463) 、本件ドイツ国特許権(略)

3.日米特許明細書の記載

    上記キャノンの本件日本特許(SANARI PATENTがリライト)と本件米国特許の記載を比較すると、本件米国特許には、「被走査有効走査領域内の該面上にゴ―スト像が現われないようにするため」という、課題解決との直結(有用性)が請求項中に明示され、構文の区切りも日本特許明細書の「区切り皆無」的な超長文に比べて明快である。わが国の知財専門家(内閣知財戦略本部事務局の要員を含めて)すら、わが国特許明細書の非日本語的であることに違和感を持ち続けてきたが、内閣知財戦略本部の知財推進計画06が「明細書の文章の平易化・明瞭化を促進する」と計画しているのに、全く進捗していない。

4.本件特許発明の出願経過・特許異議・無効審判の経緯

4-1 出願 1981-10-20、出願公開1983-04-22、手続補正 1990-08-14、公告決定 1990-10-02、出願公告 1991-01-25

4-2 富士写真フィルムが無効審判申立 1994-11-08、同請求不成立審決 1995-08-17、富士写真フィルムが同審決取消請求提起・東京地裁が請求棄却 1997-08-20

4-3 本件特許が存続期間満了で消滅 2001-10-20

5.キャノンの職務発明規程と元研究部部長甲が受けた補償金額

   今次判決は、次のように記載している(要旨)。

5-1  キャノンの「発明・考案・創作に関する取扱規程」は、労働組合との労働契約に依拠し、労使協議を経て制定された(1960-04-01)。本件特許発明の出願補償時の規程は、会社が承継した権利のうち出願手続を終えたものに出願1件当たり1000円以上、登録できたものについて特級5万円以上、から9級1000円までの登録・実績補償、およびとくべ(SANARI PATENT 注:)の効果等に対する表彰を定めていた。

5-2  本件特許発明の登録補償時の規程は、上記の金額を、出願補償4000円、登録補償6000円、実績補償15万円以上~5000円、特別の場合の再評価差額等を定めているが、爾後、規程は数次の改定を経た。

5-3  元研究部部長甲は、上記規程に基づき、出願補償2000円のほか、登録補償として本件日本特許発明6000円、本件米国特許発明1万2千円、本件ドイツ特許発明6000円、実績補償35万円(特級・1級)、表彰50万円、合計87万8千円を受けた。

6.争点に対する東京地裁の判断:(以下「第3回」)

2007年3月24日 (土)

「コンテンツ」(振興法)の呼称を「文化芸術」(振興法)と統一の提案

わが国食文化の海外発信:「しょうゆ」の欧米焼肉市場制覇:ミシェランガイドのアジア全域展開計画

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

   内閣知財戦略本部のコンテンツ専門調査会では、3月9日の会合においても、「ゲ―ムの開発促進のため、著作権の2次的利用に関する障壁を解消すること」「日本ブランド構築のため、分野横断的な取組が必要であること」など、検討が継続されている。下記は、SANARI PATENTが内閣知財戦略本部に送信したコンテンツ関係の意見である。

13(承前03-17記事)

  コンテンツ振興に関する新たな視点として、次の項目を盛り込まれたい。

13-1            日本文化芸術の知財自然親和性・世界文化芸術融合性・庶民的簡素性を対外強調する。また、食材について、「しょうゆ」の欧米焼肉市場制覇の状況に倣う成果を期する。

13-2            デジタル文化芸術からアナログ文化芸術への回帰、デジタル・アナログ融和文化芸術の振興を強調する。

13-3 文化芸術の全分野にわったって、創作と流通が著作権法抵触への危惧によって萎縮することがないよう、明確かつ実際的な著作権処理の手続を、内閣知財戦略本部の調整機能の発揮によって緊急に確立すべきである。

(理由)

  知財推進計画06本編には、「世界トップクラスのコンテンツ大国を実現する」として、「2011年には地上デジタル放送への全面移行となるなど、本格tなデジタルコンテンツ時代が到来する」と書きはじめ、「わが国は、そのような新しいコンテンツ循環社会の広がりを通じて世界トップクラスのコンテンツ大国を目指す」としており、コンテンツ政策発端のデジタルコンテンツ対策の色合いが濃厚である。

  しかし、食文化やファッション文化を知財推進計画に包摂するに至って、コンテンツの語義は「文化芸術」と等しくなり、対外的には、「コンテンツ産業」というよりも「文化芸術産業」と称する方が、厚みの深い通用力を持つと考える。なお、「コンテンツ」は、和製英語という理解が多い。

  近く、ミシェランガイドのわが国全域にわたる展開に続いて、食の品格や接客マナ―を含むミシェランガイドの星付け・認証が毎年再審査をもって行われ、これがアジア全域のも拡大されるから、わが国は、海外への食文化展開と共に、国内の体制を強化することが重要である。

  その前提として、食文化を含めて、日本文化芸術の知財自然親和性・世界文化芸術融合性・庶民的簡素性をわが国民が深く認識し、海外へ発信の基盤を強固にすべきである。

  また、絵画、演劇などへの団塊世代の傾斜等、アナログ文化芸術への回帰や、アナログ文化芸術にデジタル技術を活用する融合文化芸術もグロ-バルに希求されており、デジタルコンテンツに偏しない政策が必要である。

  コンテンツあるいは文化芸術全般を通じて、著作権、著作隣接権の対象は多岐広汎にわたり、例えば、教育・研究用や引用のための善意な著作権物使用についても、著作権法抵触の有無を危惧せざるを得ない。コンテンツ流通促進のための特許発明についても同様である。知的財産権の制度と活用できる内部撞着の問題として、知財推進計画06の見直しにおける盛り込みを強く求める。

2007年3月23日 (金)

シャ―プの化合物半導体発光素子に対する日亜化学工業の無効審判請求不成立審決の取消請求を知財高裁が認容(3月20日判決)

特許庁審決の「相違点認定」対して知財高裁は「実質的相違点とすらいえない」、特許庁審決の「非容易想到性認定」対して知財高裁は「認定の前提自体が誤り」

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

  内閣知財戦略本部は、かねてより、「特許庁の審査官・審判官が統一的かつ安定した特許権の付与を行うと共に、特許庁の判断と裁判所の判断の食い違いの防止に努める」と表明してきたが、先日の標記判決は、特許庁内の意見は結果的に統一されたが、知財高裁はこれを否定したという内容である。

1.        シャ―プの特許発明(本件特許発明)の要旨

  次の特徴を有する化合物半導体発光素子

1-1        絶縁基板上に、少なくとも、発光層と、この発光層の下端面に接合配設されたn型第1導電型導電層とを有する。

1-2        このn型第1導電型導電層の一部領域に立設され、少なくとも1^1の発光層を含む発光素子本体を備える。

1-3        この発光素子本体の側面を直接包囲する絶縁層を備える。

1-4        この絶縁層を配設できる基板上の領域を備える。

1-5        発光素子本体から舌状に接続したn型第1導電型導電層(1-2)の導電層上の露出部分に第1の電極を備える。

1-6        発光素子本体(1-3)の上方に、第2の電極を備える。

2.        知財高裁と特許庁との判断の相違点

2-1        特許庁が本件特許発明と引用例の相違点と判断した次の事項について、知財高裁は、下記のように、「実質的相違点とすらいえない」と判断した。

2-1-1        半導体基板に近接する側の半導体層をp型とし、他方の半導体層ををn型とすることが、引用例の発明において必須の構成要件として採用された理由は、素子抵抗を著しく低減するという追加的な目的を達成する点にある。半導体基板に近接する側の半導体層をp型とし、他方の半導体層ををn型とすること自体が、半導体基板上に、活性層を有するダブルヘテロ積層構造を備えた半導体発光ダイオ―ドにおいて必須でないことはもとより、そのような半導体発光ダイオ―ドにおいて、表面の面積が限定された活性層を有し、その全体またはその大部分を発光領域とするものにおいても、必ずしも必須であるとはいえず、取捨選択することが可能なものというべきである(SANARI PATENT 注:知財高裁は、この点について、「これを相違点とした審決の認定自体が誤りである」としている)

2-1-2        審決が、「技術水準を参酌すれば、本件特許発明の『舌状』という用語(1-5)は、『ある部材を基部と見立てて、それから薄く付き出た層の形状』を示すことが理解できる」としたことに誤りはないと認められるが、「舌状」とは、断面非対称形にはみ出している形状を示すものであるというシャ―プの主張は、本件特許発明の要旨に基づかないものであって、採用することができない。

2-1-3        引用例に記載された「発光素子本体から舌状に接続した第1導電型の導電層」を適用し、本件特許発明の構成とすることは、当業者が容易になし得る。

2-2               特許庁の審決における他の事由に関する判断について、知財高裁が判断するまでもなく、審決には結論に影響を及ぼすべき誤りがあるから、取消さるべきである。

3.        SANARI PATENT所見

    内閣知財戦略本部は、審査基準の改定や、特許庁と裁判所の情報交換の一層の促進を計画しているが、米国のMPEPにも述べているように、「発明者は、新規着想に関する用語と語義の創案者である」から、このことをも考慮した対応が望まれる。

2007年3月22日 (木)

知財サイクル専門調査会・阿部博之会長「国際標準化等について下坂スミ子弁理士のご指摘は非常に大きな原案修正」:内閣本部の検討例とその考察

「『大学知財の対信託会社信託』と『大学TLO構築』の選択肢」、「企業にとっての国際標準化」など

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 内閣知財戦略本部サイクル専門調査会(2007-02-26)における検討状況例を要約し考察する。

1.大学について「人材の流動化」と「人材の活用」の相違の有無

1-1 検討内容

   現在、43大学について、知財本部整備事業による審査円が行われ、特  許管理の要員がかなり入ってきたが、この分野は、企業と大学の双方を知る者が必要であり、整備の段階が進んだ大学で培った知識を持つ人材が、未整備の大学に流動して、その知識を活用する体制を望む趣旨である(前田裕子東京医科歯科大学助教授)(坂井昭子医薬分子設計研究所社長)。

1-2 SANARI PATENT所見

1-2-1 全国大学数744のうち、知財本部設置大学が43に過ぎないのであるから、「人材の流動化」と言っても「人材の活用」と言っても、規模が相対的に小さい。しかし、規模の拡大に重点をおくと、またここで人材の絶対数不足が顕在化する。またしても、知財専門家の量的増大が課題となる。

1-2-2 ひとつの対策としては、企業に倣って、大学間のM&Aを促進することである。学部の吸収でもよい。

1-2-3 かって日本企業の優位性の基盤を「終身雇用」に帰したドラッガ―が、近著では、日本の今後の優位の条件を人材の流動化に見出しているようである。しかし、現実には、わが国の人材の企業間流動は急進しない風土であるから、企業や大学におけるM&Aによる人材流動の促進が実際的である。

1-2-4 内閣知財戦略本部や文部科学省の政策としては、大学の特許活用について、「信託会社の活用」を選択肢とすべきである。例えば、山梨大学は、三菱UFJ信託銀行に、その保有特許(おそらくノウハウも)を信託し、三菱UFJ信託銀行がその取引先企業にライセンスする体制を採ったと報じられている。他の大学にも波及する模様である。既存の人材、コスト、ライセンス先の全てにおいて、新たに知財本部やTLOを構築するよりも、大学経営上は遥かに得策で、基盤が強いという結果が出る可能性がある。

2.企業にとっての国際標準化

2-1 検討内容(その一部)

   企業や大学の関係者には、国際標準化が複雑化する中、その全体図が見え難く、どうやったらいいか分からないという声もある(久保利英明弁護士)。

企業における国際標準化は、国際標準の獲得自体が目的ではなく、国際標準を活用して自社に有利にビジネスを展開するためには、何を対象とし、どのレベルまで標準化するか、またはしないか、そのために有利な標準化のスキ―ムは何か。デジュ―ルかフォ-ラムか、あるいは自社の知財をどのように活用すべきであるかなど、研究開発戦略、知財戦略、事業戦略の総合的判断が必要である(事務局藤田次長:原案修正の意図表明において)。

2-2 SANARI PATENT所見

   国際標準化等については、上記のほか、下坂スミ子弁理士の意見(吉野浩行本田技研相談役等も賛同)について、内閣の同専門調査会・阿部会長から、「特に下坂先生の御指摘は非常に大きい修正ですので、これについて、ほかの委員の先生方からも御意見をいただきたい」との発言があり、極めて注目すべき検討内容であるので、稿を改めて考察したい。

2007年3月21日 (水)

発明者であるか、発明者でないか、大塚製薬職務発明対価請求事件3月15日知財高裁判決(合成系研究者と生物系研究者の立場)

技術的思想の創作行為に現実に加担したことの認否、広義の用途発明と狭義の用途発明

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

  標記事件の原審(東京地裁)原告・控訴審控訴人「甲」(以下「元研究部部長甲」は、原審被告・控訴審被控訴人「大塚製薬」対して職務発明の対価1億円の支払いを請求したが、「元研究部部長甲は発明者でない」という判決理由で、棄却された。元研究部部長甲は、大塚製薬徳島研究所の新薬研究1部主任研究員・新薬研究3部部長・応用研究部部長を経て、大塚製薬の育薬研究部血栓血管研究所所長・医薬第1研究所応用研究部部長・薬効開拓研究所兼医薬営業本部学術支援担当部長という要職を勤めてかたことが、判決にも示されているが、本件発明の「発明をした者」には該当しないとして、特許出願の発明者は「乙および丙」とされている。

  今次判決(2007-03-15)には、複数の争点が含まれているが、ここでは、「発明者であるか、ないか」について、知財高裁の判断を考察する。

1.        本件発明(要旨)

1-1 発明の名称: テトラゾリルアルコキシカルボスチリル誘導体

1-2 発明の内容: 血管拡張作用を併せ持つ抗血小板薬として開発された本件誘導体に係る物質発明およびこれらの化合物の特定の性質を専ら利用する物の発明(用途発明)である。

2.「本件発明の発明者」についての争点に関する知財高裁の判断(要旨)

2-1 発明とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいい、特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。

2-2 従って、発明者と認められるためには、当該特許請求の範囲の記載に基づ  

 いて定められた技術的思想の創作行為に現実に加担したことが必要であり、仮に、当該創作行為に関与し、発明者のために実験を行い、デ―タの収集・分析を行ったとしても、その役割や行為が発明者の補助をしたに過ぎない場合には、創作行為に現実に加担したということはできない。

2-3  本件発明は、物質発明および用途発明(当該物質の特定の性質を専ら利用する物の発明)であるが、本件の用途発明は、既に存在する物質の特定の性質を発見し、それを利用するという意味での用途発明ではなく、物質発明に係る物質についてその用途を示す「物質発明に基づく用途発明」であり、その本質は、物質発明の場合と同様に考えることができる。

2-4  元研究部部長甲は、本件発明に係る化合物に関し、生物系研究者として、その生物活性測定およびその分析等に従事していたものの、当該化合物の合成そのものを担当していたのがAやBらの合成系研究者であることは、当事者間に争いがない。

2-5  従って、元研究部部長甲が「本件発明の技術的思想の創作行為に現実に加担した者」といえるかどうかは、

2-5-1        本件発明に係る化合物の構造の研究開発に対する貢献

2-5-2        生物活性の測定方法に対する貢献

2-5-3        本件研究に対する目標の設定や修正に対する貢献

  以上を総合的に考慮し、認定さるべきである。

3.        SANARI PATENT所見

  上記2-5-3の考え方に基づく認定は、原審と控訴審を併せて、詳細に述べられており、知財専門家は両判決を熟読することが必要である。

  冒頭に元研究部部長甲の経歴を判決文によって記載したのは、単なる「発明者のために実験を行い、デ―タの収集・分析を行った」ことよりも重要な貢献を、一般人は想定するのではないか、と考えたからである。

  なお、「発明」の定義は、米国特許商標庁の審査基準(MPEP)には、発明日に関するインタ―フェアランス手段に関連して、着想・実施化、勤勉(reasonable diligence)の3要素の把握として、示されていると考える。

2007年3月20日 (火)

リ―スとレンタルのイノベ-ション即応知財戦略:: 興銀リ―スのM&Aなど現況報告

東芝テックやイ―ストマンコダックのレンタル関係特許公開

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

  イノベ-ションの加速で、電子機器等の更新が益々高速化し、金融戦略の変動と相俟って、リ―スとレンタルの経営における比重が高まってゆく。先日SANARI PATENTに着信した興銀リ―ス株式会社の業績にも、既にその反映が見られる。

1.        リ―スとレンタル

1-1        特許関係文献では、「レンタル」に「リ―ス」と「レンタル」を含めているよであるが、興銀リ―スは、次のように区別している。

1-1-1      リ―スは、「利用目的は、長期・継続的な使用」「対象物件は、利用者がメ―カ・販売会社から選択する設備等の物件」「利用者は、特定の1社」「契約期間は、比較的長期」「中途解約は、原則不可」

1-1-2      レンタルは、「利用目的は、一時的な使用」「対象物件は、レンタル会社の在庫の中から利用者が選定」「利用者は、不特定多数」「契約期間は、1年未満の短期間が中心」「中途解約は、可能」

1-1-3      上記のように一応の分類はできるが、両者の中間に多様な形態が発生し、経済の変動に、機敏に適応していくと考える。

2.        興銀リ―スが示すリ―スの機能(要旨)

2-1        物件(機械設備)の導入時に多額の資金が不要である。

2-2        資産管理事務から解放され、省力化が可能である。

2-3        リ―ス料として全額損金処理できる。

2-4        毎年の固定資産税納付、保険契約関係事務をリ―ス会社が実施する。

2-5        物件の適法廃棄をリ―ス会社が実施する。

2-6        設備機器の経済的陳腐化に対応するリ―ス期間設定が可能である。

2-7        上場会社は、リ―ス残高等をバランスシ―トの脚注にオフバランス脚注記できる。

3.        レンタル関係特許公開の事例

3-1        イ―ストマンコダックの事例

3-1-1      発明の名称: 電子書き込み可能ディスプレイへの書き込み用ドッキングステ―ション

3-1-2      課題: サイズが異なる各種のコンテナに提供された書き込み可能ラベルに利用できるラベルライタを提供する。

3-1-3      解決手段: レンタル商品の表面に配置された電子書き込み可能返却備忘タグの読取と書込を行うドッキングステ―ションにおいて、レンタル商品または返却備忘タグが位置決め機能を有することなど。

3-2  東芝テックの事例

3-2-1 発明の名称: 電子機器、プログラム、記憶媒体およびレンタル運用方法

3-2-2 課題: 電子機器をレンタルした場合に、レンタル先におけるその電子機器の消耗品についての出費を抑えることができる電子機器、プログラム、記憶媒体およびレンタル運用方法を提供する。

3-2-3 解決手段: 処理制御に伴って各種の消耗品を使用する電子機器の消耗品の消費量を検出し、デ―タ記憶部に記憶し、報知要求に応じて報知することなど。

4.        興銀リ―スの現況

    野村證券によれば、興銀リ―スは、みずほ系の総合リ―ス企業にとして信用リスク・金利リスク管理を厳格化し、M&Aにも積極的である。資産増効果が大きく、業務の多様化も奏功している。

5.        興銀リ―スのM&A

興銀リ―スの最新情報によれば、同社の顧客基盤の特色を活かして、「顧客基盤の拡充に繋がるもの」「事業領域の拡大に繋がるもの」「連結収益の向上に繋がるもの」として、資産買収9社109億円のほか、日産自動車グル-プから日産リ―スを買収などの数年前の実績に続いて、ここ2~3年に、東芝グル-プから東芝ファイナンスの株式20%取得、第一生命グル-プから第一リ―スを買収、東日本銀行グル-プから東日本リ―スを買収、東邦銀行グル-プから東邦リ―スの株式28%を取得している。

6、SANARI PATENT所見

    機器やビジネス方法革新の急速化と信用供与方法の多様化に伴い、リ―ス・レンタルの機能もイノベ-ションに即応し、堅実企業に集約されつつ発展するものと考える。M&Aには、対象企業のリ―ス・レンタル関係のノウハウ・特許権を、新たに吸収することとなる効果も考えられる。

2007年3月19日 (月)

キャノン職務発明対価補償請求事件(第1回): 今次判決は356ペ-ジにわたる詳論:ゴ―スト像を除去する走査光学系

東京地裁判決2007-01-30:平成15(ワ)23981 職務発明補償金請求事件: 請求10億円、判決3352万円

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

  標記判決で東京地裁は、「被告キャノンは、原告職務発明者対し、3352万円(SANARI PATENT 注:請求は10億円)およびこれ対する平成15年11月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え」と命じた。

制度としては、内閣知財戦略本部の発足当時、実業界の要望として、特許法35条を削除し、米国と同様に企業・従業者間の契約に委ねる法制とする意見が有力であったが、結局、35条を現行法文のように改正して、更に検討することとしてきた。

  知財推進計画06は、更に現制度の維持に傾き、次のように述べている。

 「2006年度から、中小・ベンチャ-企業に重点を置いて、職務発明制度の理解を図るべく、手続事例集も活用しつつ、説明会の開催など普及啓発活動を推進する。」

  一方、実際上、職務発明に関する補償請求事件判決が続出しているのは、大企業に関するものである。特に最近(1月30日)東京地裁判決が示されたキャノン事件は、判決文が356ペ-ジに及び、綿密な検討を要する。

  この事件の意義を把握するため、争点を先ず要約する。

1.        争点

1-1  職務発明により生じた外国の特許を受ける権利の承継についての準拠法および同承継についての特許法35条の適用の有無

1-2  キャノンの取扱規定に基づく職務発明の承継は、オリンパス事件最高裁判決の射程範囲外か。

1-3  本件各特許発明(本件日本特許および本件外国特許の総称)によりキャノンが受けるべき利益の額

1-3-1        キャノンの包括的クロスライセンス契約と利益の額の算定方式

1-3-2        本件各特許発明の技術的範囲と代替技術

1-3-3        本件各特許発明の重要性と他社製品等における本件各特許発明の実施割合

1-3-4        キャノンが包括的クロスライセンス契約において本件各特許発明により得た利益の額

1-3-5        キャノンによる本件各特許発明の実施による利益の額

1-4               本件各特許発明についてキャノンが貢献した程度

1-5               本件各特許発明の承継の相当の対価

2.        事実および理由

2-1        原告職務発明者の請求の趣旨

「被告キャノンは、原告職務発明者に対し、平成16年改正前特許法(以下「特許法」)35条に基づき、10億円およびこれ対する平成15年11月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え」

2-2        事案の概要

2-2-1        本件日本特許(特許権者:キャノン、発明者:本件職務発明者)

2-2-1-1           発明の名称: ゴ―スト像を除去する走査光学系

2-2-1-2           特許請求の範囲

   次の特徴を有する「ゴ―スト像を除去する走査光学系」

2-2-1-2-1 次の要素を備える。

2-2-1-2-1-1 光源

2-2-1-2-1-2 この光源からの光束を線状に結像する第1結像光学系

2-2-1-2-1-3 第1結像光学系による線像の近傍に偏向反射面を有する偏向器   

2-2-1-2-1-4この偏向器で偏向された光束を被走査媒体面に結像する第2結像光学系

2-2-1-2-2 第2結像光学系はf・θ特性を有する。

2-2-1-2-3 第2結像光学系には平行光束が入射し、光束の偏向面と垂直で、第2結像光学系の光軸を含む面内において、偏向反射面近傍の線像と被走査媒体面上の点とが、第2結像光学系を介して共役関係にある。

2-2-1-2-4 偏向器は、N個の偏向反射面を有する回転多面鏡である。

2-2-1-2-5 光束の偏向面と平行で、第2結像光学系の光軸を含む面内における第2結像光学系の像側主点と被走査媒体面との距離をD、被走査媒体面上において第2結像光学系の光軸から有効走査巾の端部までの距離をWとするとき、光束の偏向面と平行な面内において、偏向器に入射する光束に対して2結像光学系の光軸がなす角度άを、(4π/N)―(W/D)よりも小に選定する。

2-2-2 本件外国特許(以下・第2回)

2007年3月18日 (日)

「スロットマシンに関する技術をパチンコ遊技機の図柄組合せ表示部に適用することに、格別の支障はない」(知財高裁)

特許無効審決を知財高裁が維持: 内閣知財戦略本部の「特許権安定性」との関係

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

  内閣知財戦略本部の知財戦略は、「知的財産権の安定性を高める」として、「特許性の判断基準を統一する」計画を掲げてきた。その内容は、「個々の審査官、審判官が統一的かつ安定した特許権の付与を行えるよう、審査官、審判官による意見交換を促進すると共に、特許性の判断基準、特に進歩性の判断基準についての一層の客観化と明確化について審査基準の改定等、必要な措置を講ずることである。

 これは今更始まったことではなく、知的財産権の安定性は、権利者のもならず広汎な利害関係者にとっての重要な関心事であるが、他者が取得した知的財産権の無効を成立させることが、自己の知的財産権の安定性を維持するための要件である場合も多い。

 「特許性の判断基準の統一」という表現自体が不十分な表現であって、わが国の審査基準は、一定の対象と時点については、一つしかない。その統一された審査基準を適用した結果が、審査官・審判官・裁判官により異なることを無くすることは、特許性の本質上可能であるのか、可能でないとすれば、心証判断の必然的相違を審査・審判・裁判の審級に委ねることが唯一の体制として動かし難く、知的財産活動はこのような不安定性を前提として営まれるべきであることを先ず確認しなければならない。

 いずれにせよ、審査基準による審査の結果付与された特許権が,審判により無効とされ、知財高裁によってこれが維持されたり、覆えされたりする例は、相変わらず続出しているのであるから、安定性の判断はこれらの事例研究にまたなければならない。

 

 平成17年(行ケ)10810号 審決取消請求事件に対する知財高裁の判決(2007-02-28)も、その一つである。

1.        事案の概要

1-1  株・マルホン(原告)は、「パチンコ遊技機用電動役物装置」特許の特許権者である。株・三共(被告)は、本件特許について無効審判請求し、特許庁は、無効審決した。

1-2  マルホンは、この審決の取消を知財高裁に訴求し、知財高裁は上記判決で、マルホンの請求を棄却した。

2.        特許請求の範囲

次のことを特徴とするパチンコ遊技機用電動役物装置

2-1        ケ―スに、次の回転ドラムとパルスモ―タが取付けられる。

2-1-1      表面に複数種類の図柄を有すると共に、表面の一箇所に基準点が設定された3個の回転ドラム

2-1-2      各回転ドラム内に配設されて各回転ドラムを回転させる3個の2相励磁パルスモ―タ

2-2  背板に、次のフォトセンサおよび制御部が取付けられる。

2-2-1      各回転ドラムの表面の円周上に光を照射し、その反射光に応じた検出信号を出力するフォトセンサ

2-2-2 次の制御部

2-2-2-1パルスモ―タの4ステップ周期で繰り返される4励磁パタ―ンのうち、1パタ―ンを基準励磁パタ―ンとし、回転ドラムがこの励磁パタ―ンによって回転・停止されたときに対向するドラムの位置を基準点とする。

2-2-2-2 この基準点に対して前後2ステップの検出角度に相当するように回転ドラムの表面の円周上に設けられた特定の反射特性を有する部分を備える。

2-2-2-3 パルスモ―タに駆動パルスを出力すると共に、その基準励磁パタ―ンとフォトセンサの論理積に基づいて、基準点を検知する。

2-3 パチンコのドラム始動口に入賞すると、3個のパルスモ―タを始動させると共に、回転速度の指示を行い、かつ、各パルスモ―タの停止を行わせる停止タイマを起動させ、乱数、テ―ブルより各パルスモ―タの停止位置を決定し、この停止位置に基づき各回転ドラムの基準点の検知時からパルスモ―タの駆動ステップ数を計数し、その結果に基づいて回転ドラムを順次停止させる。

3.        特許無効審決の内容(以下次回)

2007年3月17日 (土)

「特許性・商標登録性・意匠登録性の判断基準の統一」をどのようにして実現するのか。平易・明確な明細書モデルを特許庁が示すことを要望。

内閣知財戦略本部の「知財推進計画06見直し」に関するパブコメ(その6)

ケ―タイの画像意匠など、美感の統一、想到容易判断の客観性

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

12.特許性の・商標登録性・意匠登録性の判断基準の統一判断基準の統一について

   特許権・商標権については、最近の審決例・知財高裁判例に基づき、審査基準の数次にわたる改定にもかかわらず、無効審決・審決取消判決等が見られる実状に対処し、特許権・商標権の本質に由来する不安定性の存在を指摘することを、盛り込まれたい。また、意匠権について記述を欠くことは、均衡上も不適切であり、美感等の意匠権の要素に着眼した記述を盛り込まれたい。また、特許権における「当業者」、商標権における「需要者」、意匠権における「消費者」の定義の国際的統一についても言及されたい。

  また、最近は審査基準に判例を多く引用しているが、米国判例も引用されたい(動機付け等に関連して)。

  上記に関連して、「明細書の平易化・明確化」については、モデル明細書を特許庁が示すことを盛り込まれたい。。

  (理由)

  知的財産権の安定性を高めるため、知財推進計画06本編は、「個々の審査官、審判官が統一的かつ安定した特許権の付与を行えるよう、2006年度から、審査官、審判官による協議や意見交換を促進すると共に、特許性の判断基準、特に進歩性の判断基準についての一層の客観化と明確化について、国際的な運用統一の観点も踏まえて検討し、審査基準の改定等、必要な措置を構ずる。また、特許庁における判断と裁判所の判断との食い違いの防止に努める」と計画している。

  しかし、例えば、容易想到性の判断から、心証性を完全に排除できるという前提で検討するのか、当業者の技術水準の国際格差・業界格差や業際乖離を同一と擬制するのか等の考え方も盛り込まれたい。米国特許商標庁の審査基準には、業界格差について規定し、また、わが国の審査基準には当業者複数のグル-プを規定する分野があるが、これらの国際的統一にも言及する必要がある。「自然法則」「高度」「有用性」等、日米特許法間に語の有無が相違し、審査基準においてこれを超克することが必要である。

  また商標について知財推進計画06は、「個々の審査官、審判官が商標権を的確に付与するため、2006年度から、商標の登録要件等の明確化および検討を行う」と計画しているが、2006年度までは検討しなかったような表現であるから、これまでの検討成果をも盛り込まれたい。さらに、地域団体商標、小売商標、種苗法表示との関連にも言及されたい。

  意匠権については、画像意匠をはじめ、国際商品と関係深く、諸国民の美感の主観的相違があることから、審査官、審判官の美感の統一について、計画に盛り込まれたい。

  

2007年3月16日 (金)

模倣品・海賊版に対する総理府の世論調査: 数年来、安価模倣品購入に国民の認容が50%

内閣知財戦略本部の「知財推進計画06見直し」に関するパブコメ(その5)

知財の定額的価値評価方法は、未確立のまま、民間依存に転換

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

10(承前0315記事)模倣品・海賊版対策について

ファッション製品について、既存ブランドに比べて品質面・価格面で競争力ある新ブランドの創造を積極的に表彰することを、盛り込まれたい。

(理由)

10-1   知財推進計画06本編は、「模倣品・海賊版を撲滅するためには、模倣品・海賊版が社会悪であることを国民に広く認識してもらうことが重要であり、消費者基本法に、知財権等の適正な保護が消費者の責務であると規定していることを踏まえ、2006年度も引き続き、国民への啓蒙活動を強化すると共に、学校教育等を通じ適切な消費行動等についての教育を推進する。」と述べている。

   しかし、「社会悪」、「適正」、「適切」の意味が、学校教育(初等・中等教育を含む)対象者に平易に理解・納得できるようにする配慮が見受けられない。このことは、内閣知財戦略本部サイクル専門調査会の委員の発言(SANARI PATENT要約)からも窺える。例えば、

10-1    -1 模倣品・海賊版について、総理府が世論調査を始めてから数年経つが、この調査の始めから今回の総理府調査を含めて、模倣品・海賊版に賛成・反対(SANARI PATENT 注:「賛成」は、調査設計上は「認容」の意味)が綱引き状況である。かなりの啓蒙活動費を使っていると思うが、このまま更に5年間、総理府が世論調査しても50対50のままになりかねない(下坂スミ子弁理士)。

10-1--2 知財推進計画06のように「悪」だというポスタ―を置いても説得力がない。なぜ悪いか、説明を要する。

   第一に、「悪いと思わないということは、極く自然の情である。著名ブランドの会社は安い原価の製品を高く売って暴利を貪っていると普通は考える。本当は安く出来る物をそんなに高い値段で売って、とんでもないことだと皆、内心で思っている。実は、既に出来あっがたデザインは、元来は無償でも出来るだけ多くの人に使ってもらうべきなのだけれども、知的財産権を守らなければ新しいデザインは出てこないから、常識的に言えば、暴利をむさぼる機会を与えているわけである。

   第二に、暴力団の資金源になる場合がある(八田国際基督教大学教授)。

10-2    最近、ルイ・ヴィトンと同種製品で米国系のコ―チのブランド品が流行し始め、「LV」模様と{CL}模様が競争しているようであるが、ブランド間の競争が、「適正・適切」な価格をもたらし、10-1-2の意見の「暴利」感的な反発を緩和することが望まれる。

11. 知財の価値評価について

「知的財産権の価値評価手法の確立に向けた考え方」の内容を内閣知財戦略本部において解説し、普及されたい。

(理由)

 知財推進計画06本編は、「企業等が知財を活用した活動を行うするためには、知財の活用の目的に応じて価値評価を行うことが必要である。2006年度は、「知的財産権の価値評価手法の確立に向けた考え方(中間論点整理)」等を参考にし、民間において信頼性の高い価値評価手法が確立され、知財の活用の目的に応じた評価実務が行われるよう奨励する」と述べている。

 毎年の知財推進計画において、「年度内に知的財産権の価値評価手法を確立する」と述べてきたのを、民間の仕事に移し換えた観があるが、標記「考え方」は内閣知財戦略本部が作成したのであるから、内容の詳細な説明とその普及を、各手法の問題点の開示を含めて、先ず行われたい。

2007年3月15日 (木)

有識者発言事項→知財駆込寺は閑散、小企業が球面印刷分野で世界市場8割超、特許庁HPを使い易く、著作権法上の親告罪の見直しに疑問

内閣知財戦略本部の「知財推進計画06見直し」に関するパブコメ(その4)

有識者→「中小・ベンチャ-企業が良い弁護士を必死になって探す努力が前提」(8-9重要)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

8(承前03-14記事)中小・ベンチャ-企業による特許庁ホ―ムペ-ジの活用について

   本年初来のサイクル専門調査会で提起された「特許庁ホ―ムペ-ジの十分な活用」等について、計画を盛り込まれたい。

 (理由)

   次の発言(要旨)は特に重要と考える。

8-1  中小・ベンチャ-企業に対する多様な支援制度が熟知・活用されるために、特許庁のホ―ムペ-ジを分かり易くし、中小・ベンチャ-企業支援策一覧表に直ぐ飛べるようにすることが望まれる(板井昭子株式会社医薬分子設計研究所社長)。

8-2  知財に関する知識・取組方の企業間格差は、大企業間によりも中小・ベンチャ-企業間において極めて大きい。例えば、在東京の中小・ベンチャ-企業でも、特許出願イコ―ル特許化と思っている人も多数のようであるから、その格差を把握した上で、審査のプロセス、出願費用の説明を始め、諸般の施策を講ずべきである(同)。

8-3  中小・ベンチャ-企業のうちでも、規模別に見ると、従業員の生活保障のため研究開発費の計上が困難な中企業よりも、特許に長じた従業員を持つ小企業に、活発なイノベ-ション活動が見られる(例えば、球面印刷の分野で世界シェア8割以上の鈴木総業)。施策の規模別立案も必要である(前田裕子東京医科歯科大学助教授)(SANARI PATENT 注:大企業化したベンチャ-発企業の例としては堀場製作所の自動車排気成分精密測定装置の世界シェア8割超、在外法人21、外国人社員が6割等)

8-4  中小・ベンチャ-企業の産学連携イノベ-ションについて、大学側に助成予算を配賦すると共に、中小・ベンチャ-企業側に助成予算を配賦し、大学と連携する手段も講ずべきである(同)。

8-5  知財駆け込み寺が全然使われていないのではないか。ワンsトップサ-ビス、クイックサ-ビス、フルセットウエルバランスの3要素を具備すべきである(妹尾堅一郎東大教授)。

8-6  中小・ベンチャ-企業と大企業の中間にある中堅企業に対する支援を整備すべきである(同)。

8-7  中小・ベンチャ-企業に対する自治体のバラマキ少額助成は、役に立たない()

8-8  中小・ベンチャ-企業について、政府や地方自治体が予算を投入して関与することが適切な場合と、不適切な場合がある。コストパ―フォ―マンスも考えなければならない(八田達夫国際基督大学教授、久保利英明弁護士)

8-9  弁護士としてできるだけの情報を出したいとは思うけれども、そのために日弁連として人を抱え場所をつくるというわけには、なかなかいかない。弁護士事務所に飛んで行って交渉するなり、もっと安くとお願いしてみたり、いい知恵を出させてみたり、競争させてみたりという原点を押さえた上での協力でなければ、根っこが抜けたものになる(久保利英明弁護士)。

9.著作権法とコンテンツ流通の調整について

   知財推進計画06重点編には、「IPマルチキャスト放送の積極的活用を図るため」の、著作権法改正、「コンテンツビジネスが拡大するよう」視聴者利便の確保と著作権の適切な保護、「コンテンツの再利用を通じた創作活動促進のため」の著作権管理事者の協力、著作権者の所在情報提供体制の充実等を掲げているが、具体的な進捗状況を示すと共に、「著作権法における親告罪規定の見直し」について結論を明示されたい。

  (理由)

   中山信弘東大大学院教授の次の発言(2007-01-26)(要旨)に注目する。

  「著作権法における親告罪の見直しについて、疑問を呈する。いずれは文化審議会の著作権分科会で議論するが、重要な問題である。特許権と異なり、著作権には創作主義が採用されており、創作すればそれだけですぐ権利が発生するので、何が著作権かよく分からないという面がある。そのような状況において非親告罪化(SANARI PATENT 注:内閣知財戦略本部の議事録には「親告罪化」とあるが、誤記と解するので訂正した)すると、どういう問題が起こるか、十分検討しなければならない。」

2007年3月14日 (水)

大学数744のうち大学知財本部を設置した大学数43、TLO設置大学数47: IPDL、本月26日から出願人提出書類も参照可能に

内閣知財戦略本部の「知財推進計画06見直し」に関するパブコメ(その3)

全国に散在する中小企業・ベンチャ-起業者の便益とIPDL

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

5(承前03-13記事) 総合的な取組について:

   知財推進計画06総論において「総合的な取組」が掲げられたので、その遂行実績を示されたい。

 (理由)

   「知財政策の立案に当たっては、法律的な分析だけでなく、科学技術や文化芸術の振興、経済成長、企業活動への影響を多面的に分析し、総合的な政策を遂行する」と計画され、内閣知財戦略本部の最も本質的な機能として、その成果が期待されたところである。性急に実績を求めることは、必ずしも適切でないが、内閣知財戦略本部が好まれる「ドッグイヤ―」「マウスイヤ―」(毎年知財推進計画の使用語)の見地からも、本年度の遂行状況を、「総合的」に焦点を絞って示されたい。

   例えば、コンテンツ振興法の「コンテンツ」(教養・娯楽のデジタル・アナログ・ライブコンテンツ)、文化芸術振興法のメディア芸術、知財推進計画06のコンテンツ(日本食、ファッションを含む)の総合政策、ITプログラム活用(納税電子申告の利用率0.3%、インタ-ネット特許出願の個人・中小企業本人出願における利用率不明)の総合政策などにおける人的同定(認証)手続の証券会社並み簡便化など。特に「出願ソフトの中小企業支援機能」の実績を示されたい。

6.全国各地の知財戦略説明会における意見聴取について

   知財推進計画06総論に、「内閣知財戦略本部は、広く国民からの意見を不断に求め、地域における取組を活性化させる忌憚のない意見を聴く(SANARI PATENT 注:原文は「聞く」)ため、全国各地において、知財戦略に関する説明会やシンポジュ―ムを開催してゆく」と計画されているが、「忌憚のない意見」と対策を時宜に適して示されたい。

  (理由)

    これらの成果を予め知ることにより、今次パブコメの内容も、より実際に即応したものとなし得る。

7.産学官連携について

    大学の知財機構具備率が低いことに対する所見を示すと共に、大学知財本部とTLOの一本化、特許料減免案、国際出願支援の成果、特許・論文統合検索システムの整備・利用状況、国際的産学官連携に関する知財推進計画06重点編計画の進捗状況を数値をもって示されたい。

  (理由)

    平成18年末の大学数744(短大を除く)のうち、大学知財本部を設置した大学数43(2005-04時点)、TLO設置大学数47大学(2006-04時点)で、各5.8%、6.3%に過ぎない。なお、大学の特許取得件数は2005年の年間で379件に過ぎず、全国の0.2%に満たない。

8.産業財産権情報の利用環境の整備について

    全国に散在する中小企業・ベンチャ-起業者がインタ-ネット端末から利用できる措置を早急に講じられたい。

 (理由)

    知財推進計画06重点編に、IPDLと工業所有権情報・研修館の項目を別掲して計画していますが、このこと自体が、全国に散在する中小企業・ベンチャ-起業者にとっては分かりづらい。既に平成1610月1日にIPDLは工業所有権情報・研修館に移管されているから、両者を含めてIPDLと呼称し、URL・アドレスも一本化されたい。

    また、本月26日から、「特許・実用新案の公報テキスト検索において、米国特許明細書および米国公開特許明細書の和文抄録をキ―ワ―ド等から検索できる」「特許・実用新案の審査書類照会において、特許庁からの発送書類に加え、出願人からの提出書類も参照可能になる」が、地方所在の端末から照会・活用するのに便利であるよう、操作の普及について言及されることが必要である。

2007年3月13日 (火)

イノベ-ションにおける知財の機能の検証、知的財産権と他の価値とのバランス

内閣知財戦略本部の「知財推進計画06見直し」に関するパブコメ(その2)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

2(承前3-11記事)イノベ-ションにおける知財の機能の検証について:

  知財推進計画06総論が指摘した標記検証の必要性に対し、検証の経過と計画を盛り込まれたい。

 (理由)

  知財推進計画06は、イノベ-ションの語義について科学技術基本計画のそれを引用して、「科学的発見や技術的発明を洞察力と融合し発展させ新たな社会的価値や経済的価値を生み出す革新」としているが、生硬で一般に馴染み難いのみならず、本末を転倒している。

  内閣知財戦略本部の定義としては、「新たな社会経済価値を産生する技術革新」と簡明に定め、「発明の進歩性が累加して技術革新がもたらされる」のではなく、「新たな社会経済価値を産生する有用性ある知財の創造」を知財政策の目的として明確に認識すべきである。

  このことは、わが国の特許要件の「進歩性」よりは、米国の特許要件の「有用性」を日米制度調和において選択し、日米特許審査結果の相互承認を促進する効果をもたらす。このことは、わが国国際競争力の強化に直結する。

  なお、わが国特許要件の「進歩性」が、「有用性」と離隔している例は、例えば、朝日新聞が年余にわたり連載してきた「休眠特許」の具体的記事に数多く示されている。

3.知財文化の国際志向について:

   「知的財産文化」意味を述べると共に、分野別に現状の評価と政策を計画されたい。

  (理由)

  知財推進計画06総論の記述は、「知的財産文化を国内志向から国際志向に変える」という標題のもとに、「日本の知財文化は内向きだと言われる。特許出願は国内中心であり、コンテンツビジネスも国内市場中心であり、企業の国際ブランド戦略も不十分である」から、「全ての知財関係者が知財文化の変革を競争力の問題として捉え、国際化を進める必要がある」と結んでいるが、あまりにも粗雑である。

  知財の結晶である諸製品・素材(自動車用の薄板鋼板など)や諸コンテンツの多くが、世界市場における占有率を有し、かつ高めつつあることは内外の認識するところであり、国際性豊かな分野やブランドに関する企業努力を評価すると共に、特許出願等の「知財文化」が国内志向に偏していることの、少なくとも大局的な原因考察を表明されるべきである。

4.知的財産権と他の価値とのバランスについて:

   知財推進計画06が「他の価値」と称して挙げているのは、「自由」「公益」「競争制限」の3項目である。総論には「バランスのとれた知財制度」と「独禁法等の適切な強化」が必要、と述べるにとどまり、重点編にも本編にも対応する記述がないが、課題を例示されたい。

  (理由)

  知財推進計画06は単に「バランスに留意する」としているが、自民党の憲法改正案の第29条は、「財産権の内容を公共の福祉に適合させること」について、知的財産権については「特に」留意するという「特段留意」を定めており、バランスへの関心は高まる。

  コンテンツの流通における著作権処理、特許医薬品の汎用、先端医療への方法への特許性付与案、標準化に伴うRAND条項など、主要な課題についての例示と方向性の明示(医療方法に特許性を認める場合には、独占権の制限を法定するなど)が必要である。

2007年3月12日 (月)

内閣知財戦略本部の「知財推進計画06見直し」パブコメ(その1)

世界特許の理念、日米特許制度調和と審査結果相互承認の実施状況報告の付加を要望

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

  本月29日を期限として、内閣知財戦略本部が「知財推進計画06」の「見直し」についての意見を公募している。段取りとして新しい試みのように見受けられるが、「知財推進計画07」の「策定」についての意見を公募するのと、どのように異なるのか、分からない。「新たに盛り込むべき政策事項」について「巾広く」意見を求めるというのみで、内閣知財戦略本部ないしその事務局の原案の提示はないが、本部と事務局のホ-ムペ-ジを参考にして、という説明から察すると、原案の輪郭はそれらから把握されたい、ということかと解する。

  SANARI PATENTは、次の要旨の意見を提出する。

1.        日米特許制度の調和と日米審査結果相互承認の整合について:

   知財推進計画06本編の第2章「知的財産の保護」第7節「知的財産の国際的な保護および協力を推進する」第1項は、「世界特許システムの構築に向けた取組を強化する」として、「日米欧三極特許庁間で特許の相互承認の実現を図る」、「日米欧三極特許庁の出願明細書の記載様式の統一を進める」、および、「特許制度の国際的な調和を促進する」計画を掲げている。

 

  上記項目に関し、「新たに盛り込むべき政策事項」として、次の事項を要望する。

1-1 「世界特許」の理念と構想を、総論および重点編に明示されたい。

  (理由)

   日米欧、特に日米間の特許審査ハイウェイ構築のための協議は既に進められ、世界経済および先端技術における両国の地位、主要特許権の保有と出願の著増等の情勢に対処する現実的な対策として、その一層迅速な推進が要望される。

   しかし、これらの対策は、「世界特許の実現に向け、まずは日米欧三極特許庁間で特許の相互承認の実現を目指す」ものであり、知財推進計画06本編の各論において、始めて「世界特許」の語が出現する構成とされている。

   換言すれば、知財推進計画06の「総論」および「重点編」には、「世界特許」について言及せず、実務対策が到達目的とする「世界特許」の理念が示されていない。事後補完的ではあるが、この際これを内外に明示し、発展途上国等における産業政策の一環としての特許政策(属地主義)との調和についてのわが国の立場をも宣明すべきであると考える。

1-2  日米特許FTA早期実現のため、わが国がこの方式を先行実施する計画を、明確に盛り込まれたい。

(理由)

 知財推進計画06では「三極特許審査ハイウェイ」と呼称し、FTAの語を用いていないが、内閣知財戦略本部事務局においては、「日米特許FTA協定」の早期締結を唱導してきた。内容は同一で、日米欧のうち、欧州特許庁と欧州諸国特許庁の二重構造下にある日欧よりも日米間の締結の先発を実際的としたものと解する。

 さらに、日米間の正式の協定締結に先立ち、わが国が米国特許商標庁の審査結果を承認する「先行実施」案は、同事務局の下記説明(要旨)に示されているとおり、現実に即応する適切な案であり、知財推進計画06を見直して新たに盛り込むべき事項と考える。すなわち、

1-2-1  わが国企業も米欧企業も、世界各地に工場建設・製品輸出をグロ-バルに進めている。

1-2-2 このため各国特許庁に外国人出願が増加、審査が遅延し、出願人にとっては同一発明を外国出願するコストが増加している。

1-2-3 スポ―ツの世界記録認定と同様、審査基準を統一し、世界特許を実現したいが、第1歩として日米特許FTAを結び、特許の相互乗り入れを始めることを提案する。具体的には、日米いずれかの特許で一定件数の特許取得実績を有する企業が、日米双方に出願した発明で、日米いずれかで特許を取得した場合、他の特許庁は、MSE(修正実態審査)制度による簡易な補充審査で特許を付与する仕組みを構築する。

1-2-4 わが国企業が日米双方に出願した場合でも、米国の特許審査が早いのが現状だから、米国の審査結果を簡易な補充審査で受け入れるのである。米国特許商標庁を、わが国特許庁の先行技術調査外注先に実質的に加える効果がある。

1-2-5 出願企業にとっては低コスト、わが国特許庁にとっては補充調査により審査の質を維持しつつ審査を迅速化でき、ライバル企業には、審査請求の制度が残されるので、現状より不利にならない。

1-2-6 日米特許FTA案に対して予想される批判とこれに対する考え方は、次のとおりである。

1-2-6-1 「特許法制と審査基準の統一が先ではないか」という予想批判について:

   日米欧特許庁間の比較分析では、実際上ハ―モナイゼ―ションが進み、特許法制と審査基準は、総合的に見て約90%は同じという見方をしている日本企業もある。残部の統一には時間を要するから、補充審査でカバ―する方が現実的である。

1-2-6-2「米国の審査は信用できない」という予想批判について:

   一定件数以上の特許査定のある日本企業が、費用と時間をかけて米国に出願したものに限定しているので、出願レベルが高く、米国の審査のブレ補充審査でカバ―できる。

1-2-6-3 「わが国が一方的に先行実施するのは不利ではないか」という予想批判について:

   先行実施でこの方式を実施できるのは実質的に日本企業のみであり、日本企業にとってメリットが大きい。例えば、わが国での年間特許査定件数が100件以上の出願人は約170社であるが、そのうち米国企業は約5社に過ぎず、一方的に導入して得するのはわが国である。

1-2-6-4 いずれにせよ、経済のグロ-バル化は進み、特許の海外出願は増え続ける。世界特許を究極の目標として、特許相互乗り入れの先行実施を始める時機が来ている。

2007年3月11日 (日)

ビジネスモデルにおける広義の知的財産

不二家のAIB,富士電機のリテイルシステムなど

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 ビジネス方法特許という独占性・公開性の権利のみでなく、ノウハウ、資格、認証、認可等の総合活用によるビジネスモデルの開発が、企業の競争力の要めとなる。その具体例を考察してゆく。

1.        株式会社CIJの「オフシ―ナミ―ゴ」

CIJの昨年後半期(12-31)中間報告が着信した。野村證券によれば、CIJ(東証1部)は、独立系ソフト開発企業で、OS周辺で高い技術力を有し、NTTデ―タと日立製作所向け売上が約4割である。

    CIJが発売するビジネスモデル関連製品として、「オフシ―ナミ―ゴ」の特徴についての同報告を要約する。

1-1 「システム会社として、情報セキュリティに関する相談が多くなった。ITベンダ―の都合で、過剰な機能と高価格なセキュリティ製品の購入を余儀なくされ、実務上の満足を得ていない場合が多い。そこでCIJは、「オフシ―ナミ―ゴ」を開発した。」

1-2 「オフシ―ナミ―ゴは、オフィスのアミ―ゴ(仲間)として親しみ易い電子化を実現した。時刻証明、秘密分散アルゴリズムの機能を備える。

1-3 「時刻証明は、電子デ―タが「いつ」の時点で存在し、それ以降、改ざんされずに証拠性を保っていることを第三者的に証明できる仕組みである。「オフシ―ナミ―ゴ」では、財団法人日本デ―タ通信協会が創設したタイム・ビジネス信頼・安心認定制度において認定第1号を取得しているアマノタイムビジネスのタイムsタンプサ-ビスを利用することができる。」

1-4 「秘密分散方法は、電子デ―タを意味のないデ―タに分割して、その断片からは元のデ―タの復元は勿論、一部の推測もできない強秘匿性の暗号アルゴリズムである。」

2.        日本リテイルシステムや富士電機のリテイルシステム

食品の賞味期限問題が拡大した折柄、東京TV(2007-03-02)等が、商品ごとに賞味期限の切迫と改訂価格を表示するなど新たなリテイルシステムを、富士電機のそれを引用して解説したが、日本リテイルシステム社のHPは次のように述べている(要旨)。

2-1 「マ―ケット・コンサルティングによる経営戦略の分析からシステム開発を進め、独創的な戦略提言型の情報システムを実現する。特に電子決済システムを得意分野とし、「生活の24時間化」「情報通信のネットワ-ク化」など、顧客が当面する複雑・膨大な問題解決に貢献する。」

2-2 「オペレ―テイングシステムやデ―タベ―スに使用するソフトウェアは、各顧客の現場ニ―ズと主張を反映させてカスタマイズすると共に、独立系企業としてのメリットを活かし、メ―カや機種のいかんを問わず、全国ネットによる保守サ-ビスを実施する。」

3.        不二家が活用するAIB(American Institute of Baking) システム

    東京TV(2007-03-02)は、不二家がAIBシステムを採用して、消費者の信用のもとに、ペコチャン製品の製造を開始する旨を報じた。

3-1  米国製パン技術研究所が開発したAIB食品安全システムの内容は、製造・出荷過程における安全性へのリスク要因を排除するため、従業員の規範や清掃作業(SANARI PATENT 注:東京TVが実施例の実況を放映した)など5項目で構成し、わが国では日本パン技術研究所が指導している。

3-2  山崎製パンは2000年に導入しており、みずほ銀行の仲立ちにより山崎製パン・不二家の提携が成立して、AIB準拠の信用のもとにペコチャン製品の製造が再開されることは、広義の知財戦略の事例として考えたい。

4.        SANARI PATENT所見

スポット人材派遣(ケ―タイ活用)や、コンビニのセルフレジなども、新ビジネスモデルが身近に展開されてゆく分野と考える。

2007年3月10日 (土)

「日本食文化」は、内閣知財戦略本部知財推進計画07でどのように計画されるか。諸国食文化を融合混和する「和食文化」の発信をSANARI PATENTは提唱

内閣知財戦略本部における辻料理学館 辻 芳樹理事長(内閣知財戦略本部コンテンツ専門調査会委員)の意見:日本人の自然観と日本食、等

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

  食文化が内閣知財戦略本部の対象になる理由は、日本ブランドの要素であることと、コンテンツ産業の要素として採択されたことである。知財推進計画06においても、食文化は、コンテンツの章で計画され、日本ブランドとしての重要性が強調されている。

1.        知財推進計画07の食文化計画案

  食文化について、知財推進計画07はどのように計画すべきか、「日本ブランド(食、地域ブランド、ファッション)に係る課題について」(2007-03-08 内閣知財戦略本部)に、その原案が示された。SANARI PATENTは次のように要約した。

1-1  日本食を日本ブランドとして、その発信を戦略的に拡大するためには、海外の日本食レストランを活用した情報発信が重要である。

1-2  この場合、世界諸地域で好まれる食は異なるから、各地域に根ざし取組を進めることが望ましい。

1-3  また、日本食の背景にある日本文化、風土、自然観を併せて紹介することが望ましい。

1-4  日本食を提供する海外のレストラン等を活用して、日本の料理技術の講習会等を行う。

1-5  海外において、日本食に関係ある団体等(現地の業界、現地の料理人、独立行政法人国際観光振興機構など)のネットワ-ク化を促進し、日本食の普及・発信について情報交換・技術交流を行う。

1-6  日本産農産物の輸出促進は日本食文化の海外発信にも大きく貢献するから、輸出阻害要因の是正、統一的マ―クの活用による安心かつ容易な選択を可能にする日本産農産物のブランド化を図る。

1-7  海外の日本食レストランでは、魚の生食など衛生面に関する日本食特有の調理技術が十分に活かされていない事例も散見されるので、これら特有技術の伝承により日本食のブランドイメ―ジを普及する。

1-8  各国と、食衛生基準に関する情報を交換する。

1-9  懐石料理、郷土料理、季節料理、近代料理など、ライフスタイルの変化による日本食の変遷とその背景をなす文化の発展について、国民の理解を深める。

1-10            地域の伝統的な食文化を発信する。

1-11            キッコ―マン茂木友三郎会長を会長とする「食文化研究推進懇談会」等による食文化フォ―ラムの開催等、民間主体の食文化事業に期待する。

2.        辻 料理学館会長の意見(2007-03-08)SANARI PATENTが要約)

2-1  日本食のブランドについては、ヘルシ―というイメ―ジが先行しているが、このイメ―ジは「食」を機能的に捉えたものであり、必ずしも日本食の背景にある豊かな風土や文化を想起させない。むしろ、そのような背景から切り離されたブランドが世界に先行している。

2-2  日本食の発展には、自然的と共生する日本人独特の自然観が関わっている。日本食の普及に、この日本文化の発信を託すれば、日本そのもののイメ―ジを高め、かつ、これを永続させ得ると考える。

3.        SANARI PATENT所見

3-1 内閣知財戦略本部は、「日本食」の概念について、「日本食は、懐石料理のような高度に洗練された料理から、カレ―やラ―メンのように日本で独自の進化を遂げた庶民的な料理まで、幅広い概念を含み得るが、日本ブランドとしての日本食を考えるときは、日本の魅力の発信に貢献する食を広く捉え、それぞれのレベルにおいて拡大を図ることが望ましい」と述べている。

3-2 外国人は、訪日・駐日の際にわが国の食文化に馴染む場合が多いと考える。

日本のレストランの魅力の一つは、日米欧・アジアを始め全世界の料理の多様な組合せ(配意された混和、例えば、幕の内弁当)であると考える。これを「和食」と総称し、わが国の世界融和文化のブランドの一つとすることをSANARI PATENTは提唱する。

 

2007年3月 9日 (金)

イノベ-ションの新展開を起動するビジネス方法の開発: 野村ホ―ルディングス今次四半期報ほか

米国インスティネット社買収によるビジネスノウハウの即時取得と知財シナジ―効果等

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

電子マネ―の多様化(JR,ドコモ、トヨタ、コンビニ、ビックカメラ等)とそれらの融合の同時進行、ポイント・マイルのマネ―化、異業種コラボレ―ション等、消費者に直結する分野を含めて、ビジネス方法の革新を起動する新たな知的財産の開発は極めて活発し、かつインタ-ネットを通じてグロ-バル化(対違法性の国際協調も)している。

昨年来のイノベ-ション強調の時流からは、どう見るべきか。

1.        イノベ-ションを起動するビジネス方法の革新

1-1 「イノベ-ション」には冗長な定義もあり、また単に「技術革新」と括弧 書される場合もあるが、「技術革新」自体は歴史の流れと共に発現してきたので、いまイノベ-ションを唱えるのは「新たなイノベ-ション」を主張するのでなければ意味がない。何が「新たな」であるか、物的技術の革新も多岐多様にわたるが、これらを含めて、21世紀の革新を起動するのは、ビジネス方法の革新であると考える。

1-2 特許庁の「審査方針」として、始めて「ビジネス方法特許」の用語が用いられたのは、「ビジネス方法特許に関する対応方針」(2000-07)においてである。この対応方針は次のように述べている。

1-2-1 最近の情報技術の急速な発展と普及により、企業内の業務処理方法に留まらず、取引形態、さらには事業形態そのものが大きく変貌しようとしている。それと共に、情報技術を駆使したビジネス方法に関する特許の出願が増加傾向にある。

1-2-2 このいわゆる「ビジネス方法特許」については、従来特許権に馴染みの薄かった業界にも広汎に影響を及ぼし得ることから、マスコミによる報道を含め、多大な関心が寄せられてきた。

1-2-3 特許庁においては、「ビジネス方法特許」がソフトウェアに関する特許の一環として、どのような基準のもとに認められるかについて、これまでも様々な機会を捉えて情報の普及に努めてきたが、このたびコンピュ-タ-・ソフトウェア関連発明の審査基準を改訂するに当たり、産業界・出願人への一層的確な情報の提供を図るため、「ビジネス方法の特許」に対する総合的な取組の方針を定め、公表することとした。今後とも、各国特許庁等との連携強化を図りながら、この分野における知的財産権の適切な保護を図ることとする。

2.        現在のビジネス方法の展開動向

    

  3月に入って着信した諸企業の事業報告書に、その一端を見ることができる。

2-1        野村ホ―ルディングス株式会社(野村證券)

   野村ホ―ルディングスは、従来の年2回事業報告・配当を、毎四半期・年4回の事業報告・配当に改めたが、2006年度第3四半期の報告書が着信した。その要旨を見ると、

2-1-1        海外ビジネスの現場では、3つの大きな流れが急速に強まっている。

2-1-1-1           ヘッジファンドやプライベ―ト・エクィティファンドなどの新たな投資主体が大きな影響を与えている。

2-1-1-2           世界中のあらゆる投資商品にデリバティブが組み込まれ、現在では、金融商品の組成に不可欠の要素となっている。

2-1-1-3           BRICsに加えてベトナムや中東諸国などエマ―ジング市場が先進諸国からの投資の受け皿として急速に拡大している。

2-1-2      米国エ―ジェンシ―ブロ―カ―大手のインスティネット社を買収した目的は、次の諸点である。

2-1-2-1           ヘッジファンド等の機関投資家は、総合的執行能力が高い証券会社に注文を集中する動きを加速している。従って、欧米の投資銀行との競争力を高めるためには、高度な金融技術を駆使した質の高いサ-ビスを提供することが不可欠である。

2-1-2-2           このような競争力を短期間で構築するためには、当該システムを具備する他企業を買収することが得策である。

2-1-2-3           インスティネット社は、自ら開発した執行管理システムにより、世界31国、50超の取引市場に電子アクセスが可能であり、高度なIT技術を駆使して株式委託注文を執行している。

2-1-2-4           この買収により野村グル-プは、従来からの強みである「投資家への質の高いリサ―チ情報の提供に加えて、執行に関するあらゆるニ―ズに応える最適なソリュ―ションを提供する体制を整え得る。

2-1-2-5           今後、電子取引が飛躍的に拡大する欧州およびアジア等のエマ―ジング市場を含む国際市場において、野村グル-プおよびインスティネット社の高度ビジネスシステムと顧客基盤のシナジ―効果が、ビジネスの拡大と新たな成長をもたらす。

2-2      アスクル株式会社(野村證券によれば、電子機器によるビジネス・医療等   用品の受注、スピ―ド配達の草分け。東証一部)

   同社の本年度上期(2006-05-21~11-20)中間報告書において、ビジネスモデルの変革による新たな物流戦略の展開を開示した。その要旨を見ると、

2-2-1      アスクルは今期から、Web革命の本格的進展に対応する次世代ビジネスモデル(新アスクルビジネスモデル)の構築を開始した。すでにアスクルの売上高の過半額がインタ-ネット受注によるが、インタ-ネット注文サイトとして企業一括購買サイト「アスクルアリ―ナ」と、個人向けショップ「ポ―タルアスクル」の両サイトの機能をさらに高度化する。

2-2-2      始動した新大阪物流センタ-(床面積7万3千平方メ―トル)に、これまで培ってきたシステムのノウハウを総合し、「商品販売の実績・予測・在庫情報を、サプライヤ―(製造業者)と共有すること」、「商品の出荷頻度、形状、重量に応じて最適配置したピッキング装置により業務を合理化すること」等を実現しつつある。

3. SANARI PATENT所見

    トヨタのカンバン特許をも再読し、ビジネス方法特許の意義とビジネス方法に関する知財対策を再検討すべきである。一方、ビジネス方法特許の多発による独占力がイノベ-ションを阻害するという見方についての結論を、早期に公表すべきである。

2007年3月 8日 (木)

日本知財学会誌 最新刊: 知財価値評価の実体と課題、営業秘密の「有用性」に関するビジネス・モデルの提案

さらに、知財収益率推定、M&Aにおける知財の簿外資産価値等

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

  日本知財学会の、イノベ-ションに直結する実用性と、学会としての中立客観性を併有する機関誌最新号が、学会会員に配送された。

  現在、わが国の知財政策は、内閣知財戦略本部が統括する体制のもとにあるが、その成果を強調する報告が同本部自身によってなされている反面、実効が挙がっていない政策課題を率直に指摘する発言は極めて乏しく、中小企業等の陳情的要望のみが声高い。

  しかし、日本知財学会誌は、品格の高い表現ながら、内閣知財戦略本部の計画の未達事項をも明確に指摘している。このほか、上記最新号の注目点を以下に考察する。

1.        知財の定額的価値評価について:

実は、知財の価値評価については、用語やその定義も明確にされないまま政策検討が進められて来た。このことについてのSANARI PATENTの所見は後述することとし、先ず東京理科大の鈴木公明助教授と石井康之教授による「知財財産の価値評価 その実体と課題」を見る。この論文は、内閣知財戦略本部の行動の経過について先ず次のように述べている(要旨)。

「知財の経済的意義の拡大と取引態様の多様化に伴い、2007年7月の知財戦略会議「知財戦略大綱」では、知財流通促進のため価値評価手法確立の必要が提起され、2003年7月の内閣知財戦略本部・知財推進計画も重ねて「確立」を強調した(SANARI PATENT 注:しかも平成16年度中に、と期限まで付していた)。」

上記論文はさらに、慎み深い措辞で次のよう述べている(要旨)。

「ただ言葉尻を捉えるわけではないが、知財の「価値評価手法確立」という言葉遣いには、注意を要する側面がある。というのは、知財評価の理論・考え方が整理されておらず、その確立が求められるとの意味合いが込められているとすれば、そこは少し考え直すべき点があると思われる。」

「価値評価手法確立という表現で示される先に、絶対的、あるいは客観的な評価に繋がるアイデアが存在するはずという期待が無意識に意図されているとすれば、これもまた、再考すべきである。」

2.        営業秘密の活用化ビジネスについて:

   内閣知財戦略本部の知的財産推進計画は、営業秘密の漏洩防止対策について、就業規則や労使協定のモデルを作成・提示することに専念してきた観がある。

   

   このことについて、電通法務室の川上正隆企画部長と青山学院大学の菊池純一教授は、「営業秘密の論理 ILCとCBによる秘密情報の管理と活用」において、営業秘密の「活用」の側面を強調した。すなわち、次のように疑問の提起と積極的提案を示している(要旨)。

 「不正競争防止法では、営業秘密を「秘密管理性」「有用性」「非公知性」の3要件で規定している。「秘密管理性」と「非公知性」の基軸で考えるならば、使用しないことが最適な解答とも考えられる。」

 「しかし、「有用性」という要件を加えて考えると、営業秘密の資産ビジネスモデルを構築して、インカム・ロジックのみならずアウトカム・ロジックに基づき、新たな積極的ビジネス・モデルを付加することも選択対象となる。」

 「この場合、ILCシステム(総合的法務支援システム:Integrated Legal Communication)にCBモデル(Confidential Bank Model)を組み込んで、これを構築することが望まれる。」

3.        SANARI PATENT所見

3-1  知財の価値評価については、特許権の技術価値や訴訟力を定性的に評価し記述する定性的価値評価のガイドラインが、平成15年に特許庁によって公表されたが、司法・税務・金融等が求める「知的財産権の価値の金額評価」については、多様な算式が提案されてはいるが、将来収益の推定や、適切な割引現価率の設定は、いずれも条件の仮定を含み、安全率等を乗じて数値を示すものである。定性的価値評価に対して「絶対的価値評価」というような名称を付与したため、益々「絶対性」への疑念を深めることとなった。

   すでに知財推進計画06において内閣知財戦略本部は、政府が定額的価値評価の手法を策定するという立場を採択していない。

   定額的価値評価の限界と、限界内の適用がどのようにあるべきか、今次論説の展開が望まれる。

3-2  営業秘密の有用性を活用するシステムについては、先ず今次論説を精読すべきであり、上記2のSANARI PATENTによる要旨要約は著作者の意図を満たすには短文に過ぎるのであるが、内閣知財戦略本部においても、営業秘密の有用性を積極的に活用する側面に検討が及ぶことを期待して、敢えてここに記述した。

3-3 上記のほか、知財収益率推定、M&Aにおける知財の簿外資産価値等、イノベ-ション下のわが国経済産業界が熟読すべき貴重な論文で集成されている。

2007年3月 7日 (水)

防護商標と防衛特許: 日清食品の国内・世界商標戦略における防護商標

企業戦略・国家戦略における国際市場の防護商標と防衛特許の機能評価

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

   産業財産権の積極的活用を内閣知財戦略本部が強調している。SANARI PATENTは、防護商標や防衛商標は、原則として、「活用されている産業財産権」として評価されるべきものと考えるが、あるいは、防護商標と防衛特許とは別個の視点が必要であるのか(識別子権と創作権の相違)。先ず防護商標と防衛特許についての知財専門家の発言を考察する。

1.        日清食品の商標戦略における防護商標

 日本弁理士会のパテント誌(2007-02)において日清食品の加藤正樹法務部部長は、次のように述べている(要旨をSANARI PATENTがまとめた)。

1-1  商標のうち、語弊の可能性もあるが、重要な商標と重要でない商標とを分けるとすれば、カップヌ―ヌ―ドル、チキンラ―メン、出前一丁というような商標は、食品のみでなく防護商標をできるだけ広い分野にわたって登録し、商標の著名性を維持することが重要である。  

1-2  チキンラ―メンでも、麺類商品のみならば1種類であるが、他の分野にわたると60件ぐらい色々な形で商標権を取得し、ブランドを維持している。全類にわたるのではないが、できるところは全てということである。食品業界はキャンペ―ンが多く、キャンペ―ンの景品で色々名称を使うので、そのためにもやはり広い範囲で権利を取得しておくことは重要と考えている。景品類では商標の使用に当たらないということであるが、米国の会社から商標権侵害の警告を受けた事例もあるので、権利化を広汎にしている(SANARI PATENT 注:活用と防護を分けて考えるとすれば、グレ―ゾ―ンの指摘として注目すべきである)

1-3  世界市場における知財戦略としても、例えばカップヌ―ヌ―ドルは世界約17国に特許を出し、約20国で現地生産しているが、ブランドに係る水面下・訴訟上の紛争に対処する必要がある。

2.        Google検索で現れる防衛特許

    「防衛特許」で検索すると、49,500件ヒットするので、関心度の高いキ―ワ―ドである。内容(SANARI PATENTが要約)は例えば、

2-1 「特許制度の是非論において必ず対象になるのが防衛特許である。法令上の定義はないが、実施予定がない発明を、自社製品と競合する製品を他社が製品化しないように、あるいは類似発明を他社が権利化しないよう取得する特許をいう。」

   「出願後特許公開の段階では、特許付与され得ない範囲まで、出願人の権利として主張されている。すなわち、グレ―な範囲まで防衛される結果となる場合が多い。」

   「防衛特許の取得にはコストを要するが、発明を公開して従来技術化する方法もある。」

  (上記2-1項はNet SecurityHPによる)

2-2 「防衛特許が自社技術をカバ―している場合には、特許によって潜在的な模倣者を排除している可能性がある。他社の参入を阻止しながら自社のビジネス範囲を拡大し、大きな利益を挙げることができる。」

  (上記2-2項は有明国際特許事務所のHPによる)

2-3 「他社が先に特許を取得すると自社が製造できなくなる、ロイヤリティを払うハメになる。従って、他社に特許を取らせない、出願をためらわせるために出願された特許出願を防衛特許という。」

  (上記2-3項は「特許に関する読本」(2006-12改訂)HPによる)

3.        内閣知財戦略本部知財サイクル専門調査会改訂案(2007-2-26)

   企業の出願行動について上記案は、次のように述べている。

 「わが国では、年間40万件以上の特許出願がなされているが、そのうち最終的に特許されるものは約30%に過ぎない。わが国産業の国際競争力を高めるためには、わが国企業が国内における特許出願の件数を競い合う状況を改め、積極的な海外出願の促進を含む戦略的な特許出願を行うようにする必要がある。」

4.        SANARI PATENT所見

上記3の案では、知的財産権の防衛・防護出願が企業戦略・国際戦略において必要な場合があることについて、言及されていない。

2007年3月 6日 (火)

知財開発を起動する元素・金属代替物質開発の巨大なニ―ズ: 世界的な資源制約の壁が出現: モリブデン、タングステン、コバルト、パラジュ―ムも:

現有埋蔵量の数倍の使用量が予想されるCuPbZnAuSnNi、Mnなども: 独立行政法人 物質・材料研究機構が指摘

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

  「必要は発明の母」であるから、貴重自然資源が枯渇すれば知財開発を起動するニ―ズが発生する。独立行政法人 物質・材料研究機構による「2050年までに世界的な資源制約の壁」報告(2007-02-15)は、知財専門家を奮起させる巨大なニ―ズを示唆している。

1.        上記報告の要旨

1-1  現在に至る金属の使用量と経済成長の関連の解析に基づいて、BRICs諸国の高速な経済成長を要素としつつ、2050年までの累積金属使用量を予測した。その結果、2050年までに多くの種類の金属が、現有の埋蔵量では、まかない切れなくなり、埋蔵量の数倍の使用量が予想される金属のあることが判明した。

1-2  2050年までの累積で、現有の埋蔵量の数倍の使用量が予想される金属は、銅、鉛、亜鉛、金、銀、スズ、ニッケル、マンガン、アンチモン、リチュ―ム、インジュ―ム、カリウムである。このうち、銅、鉛、亜鉛、スズ、金は、研究所財政長が一定の段階に達すると一人当たりGDPの増加に対する増加率は減少する傾向が現れるが、BRICs諸国の使用量の増大により、世界全体では有の埋蔵量を超過する。

1-3  銅、鉛、亜鉛、金、銀、スズ、アンチモン、インジュ―ムは、「技術的には採掘可能だが経済的理由などで採掘対象とされていない資源の量」(埋蔵量べ―ス)までも超過する。

1-4  特に金、銀、鉛、スズの累積使用量は、2020年に現有の埋蔵量を超えると予想される。

1-5  資源が比較的に豊富とみなされている鉄や白金も、2050年までには、白金は現有の埋蔵量を超え、鉄も現有の埋蔵量に匹敵する量の消費が予想される。モリブデン、タングステン、コバルト、パラジュ―ムについても、現有の埋蔵量を超える累積消費が予想される。

2.        SANARI PATENT所見

2-1 途上国で、広帯域通信施設を新設する場合に、援助国としては、銅線よりも光ファイバを優先するなどの配慮が必要である(銅線盗難の防止のためにも)。

2-2 累積消費量の現有埋蔵量を超える時点を予測しているが、その時点を待たず、価格の上昇が産業・社会に影響を及ぼす。交通事故・河川災害防止の金属施設の盗難続出は卑近な例である。

2-3 また例えばモリブデンは、高音域における機械的特質に優れ、タングステンより安価で、液晶パネル製造工程等に利用されている。ケ―タイも、希少金属の集積である。総合的対策の早期樹立を要する。

2-4 わが国は、北海道をはじめ、面積狭小の割合から見て資源の埋蔵種類は多かったが、すでに採掘し尽くした種類のものが多い。備蓄が法制化されているが、海底開発、回収と共に、代替物質創出の知財が最重要である。

2007年3月 5日 (月)

「自然法則利用」の特許性要件とプログラム特許審査基準

今次知的創造サイクルの推進方策案の考察(その10)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

13-2-4(承前02-27記事)わが国の特許審査基準における「プログラム」:

13-2-4-1 プログラムと呼ばないプログラム

   請求項の末尾が「プログラム」以外の用語であっても、出願時の技術常識を考慮すると、請求項に係る発明が、コンピュ-タが果たす複数の機能を特定するプログラムであることが明確な場合は、プログラムとして扱う。

   ただし、

(1)プログラム信号列またはデ―タ信号列として特許請求された場合は、「物の発明」か「方法の発明か」が特定できないので拒絶される。

(2)「プログラム製品」や「プログラムプロダクト」として特許請求された場合は、技術的範囲が不明確な用語を用いているために拒絶されるが、発明の詳細な説明中に、当該用語が持つ意味から逸脱しない範囲で当該用語の定義を記載することにより、その技術的範囲を明確にしている場合はこの限りでない。

(3)請求項の末尾が「方式」または「システム」の場合には、「物」のカテゴリ―を意味する用語として扱う。

13-2-5        プログラムそのものが機能を備えることはあり得ない:

わが国審査基準が掲げる次の事例は、わが国の特許制度に立脚した判断を示しているが、米国審査基準においても、「製品」該当性・「知覚可能な成果性」の要件から、審査結果は同一になると考える。SANARI PATENTは、この意味で、日米の制度は相違していても、審査結果は同一であり得るという見方をしている。すなわち、事例として、

請求項に係る発明: 顧客からの受注手段と、在庫調査手段と、在庫がある場合には発送可能であることを顧客に返答し、在庫がない場合は発送不能であることを顧客に返答する手段とを備えたプログラム。

13-2-6        上記の請求項について特許庁は、結びの「手段を備えたプログラム」を、「手段として機能させるためのプログラム」とすれば拒絶に該当しないことを示唆していると、SANARI PATENTは解する。すなわち、特許庁は次のように説明している。

     プログラムはコンピュ-タを手段として機能させるものではあるが、プログラムそのものが手段として機能するものではない。従って、プログラムそのものが機能手段を備えていることはあり得ず、請求項に係る発明を明確に把握することができない。

     なお、請求項に係る発明が、コンピュ-タを、受注手段と在庫調査手段と顧客対応手段として機能させるためのプログラムであれば、コンピュ-タを手段として機能させるものであることが明確である(SANARI PATENT 注:従って、拒絶理由に該当しない)

14.SANARI PATENT所見

    審査基準に掲げられている多くの事例を総合して、大胆にSANARI PATENTの所見を述べれば、わが国の審査基準では、「コンピュ-タが手段として機能すること」を「自然法則の利用」としている。「人がプログラムによってコンピュ-タを操作する」という表現では「自然法則の利用」に該当しない。すなわち、表現の問題である(新規性・進歩性の充足は別問題)。

2007年3月 4日 (日)

台湾の著名特許事務所「台一国際専利法律事務所」発・台湾知的財産庁(The Taiwan Intellectual Property Office)の近況ニュ―ス等

動物・植物特許、その用尽、クロ―ニング

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        台一国際専利法律事務所について(主として同事務所のHPによる):

1-1  所在地は、「中華民国台北の長安東路」で、同様に著名な特許事務所としては「博士国際専利商標事務所」等がある。

1-2  知財専門家である所員200余名を擁し、特許・商標のコアビジネスに加えて、企業に対するコンサルティングと研修プログラムを広範に行っている。

1-3  台湾政府は、台一国際専利法律事務所の専門分野について相談してくる場合が多く、また台一国際専利法律事務所は台湾弁理士会において積極的に活動すると共に、知財業務事務所との国際的ネットワ-クを構築して相互に裨益している。

2.        台一国際専利法律事務所による台湾知的財産庁の近況:

2-1        動物および植物に対する特許権付与に関する特許法改正案

Even though the biotech industry in Taiwan is not as mature as that in North American and European countries(SANARI PATENT 注:日本は引用されていない), the biotech industry is considered as one of the potential to contribute significantly to future economic development and growth. Consequently, Taiwan has actively managed to make more significant achievements in biotech developments and innovation than other countries in Asia to compete in highly competitive markets in the world.

The Taiwan government feels that additional proactive steps are necessary to continue these developments by establishing legal protection of biological inventions and has decided to open its door to animal and plant patents.

2-2        ヒトクロ―ニングの除外

Nevertheless, processes for human cloning, which are contrary to public order, good custom or sanitation, may not be regarded as patentable subject matters based on the explanation of the proposed draft.(SANARI PATENT 注:わが国特許法の公序良俗違反条項に類似することとなる)

2-3 欧州共同体バイオテクノロジ―指令に見合う「用尽」関係配慮

In accordance with Paragraph 1 of Article 56 of the Taiwan Patent Act, the patentee will have the exclusive right to exclude others from manufacturing, making an offer for sale, selling, using or imporing for the foregoing purposes the patented article without his/her prior concent. Further, Subparagraph 6 of Paragraph 1 of Article 57tipulates that the effect of an invention patent right shall not extend to the case where the patented articles manufactured by the patentee of a patent or under the consent of the patentee are put to use or resold after the sale of the patented articles.

However, if the effect of an invention patent with respect to biological material is extinguished when the patented biological material is sold, the wrights and interests of the patentee of the biological material will be injured because of the inherent propagating characteristics of biological material.(SANARI PATENT 注:バイオ特許における用尽の特殊性を論じている)

Hence, with respect to the exhaustion for biological material obtained from the propagation or multiplication of the original original biological material, TIPO has taken account of the European Biotechnology Directive 98/44/EC of the European Parliament and of the Council and incorporated key provisions into proposed Article 57-2.

2007年3月 3日 (土)

経済産業大臣の包括的ライセンス契約保護発言

衆議院経済産業委員会(2007-02-16)で経済産業大臣「新しい特許ライセンス登録制度の創設等」

  

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.経済成長戦略3法案の今次国会提出:

SANARI PATENTは、標記について、知財推進計画07関係の要望を下記のように内閣知財戦略本部に提出した。

    記

産業活力再生特別措置法等改正法案に関する要望 2007-02-28)

 標記法案は、今次第166回国会において近日中に審議開始と理解しておりますが、同法第1条第1項第20号に「特定通常実施権許諾契約」、第21号に「特定通常実施権登録簿」の定義を設け、第2節の第58条から第71条に至る「特定通常実施権登録」の規定を定められますことは、知財推進計画06の「企業のライセンス活動を円滑化する」計画に即応するものとして期待するところであります。

 しかしながら、ライセンス契約には、包括的ライセンス契約、包括的クロスライセンス契約、対海外子会社ライセンスなど、多様な内容のものが含まれ、特に包括的ライセンス契約は、国内外の最有力企業グル-プが世界市場の制覇、国際標準化の取得をも意図して締結する政策的重要性が極めて大であると存じます。また、国内における包括的ライセンス契約には、公正取引関係の問題も見られたところであります。さらに、対在外子会社・在外子会社間のライセンス契約については、本年1月の内閣知財戦略本部知財サイクル専門調査会において複雑な問題が業界から説明されました。

 従って、標記法案の成立と前後する知財推進計画07の策定におきましては、上記専門調査会の現提示案の内容を大幅に拡大し、極力具体的な対標記法案対処を示されますよう、要望申しあげます。

2.前記経済産業大臣発言の要旨

2-1 人口減少下での力強い成長を実現するため、イノベ-ションによる生産性の促進や地域中小企業の活性化を図るため、経済成長戦略大綱関係三法案を国会に提出した。

2-2 具体的には、サ-ビス産業の生産性向上の促進、包括的ライセンス契約を保護する新しい登録制度の創設、中小企業等の事業再生の円滑化、産業技術力の強化等を図るため、産業活力再生特別措置法等を改正する法案を提出した。

2007年3月 2日 (金)

知的創造サイクル推進方策改訂案の論点: 成功例・失敗例公表について加藤タカラバイオ社長、田中キャノン常務(数字の意味)の発言を概ね反映

タカラバイオ加藤郁之進社長は「知財経営における成功例・失敗例の公表」に賛同: 知財評価の「目利き委員会」等

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        知財活用の成功・失敗事例の公表について:

1-1  知的創造サイクルの推進方策改訂案(2007-02-26)は、次のように述べている。

   「企業の知財経営の実践に資するよう、知的財産を幅広い観点から有活用した経営の成功・失敗事例を国内・海外を問わず広く収集し、公表する。また、これらの成功・失敗事例を参考にして、企業の経営層や知財部門が経営戦略を策定し、知財経営を実践するよう企業に対する啓発を行う。」

1-2  先に、タカラバイオ加藤郁之進社長は、次のように発言している(2007-01-26 内閣知財戦略本部サイクル専門調査会)

   「成功例と失敗例を公開することは、非常に面白いと思う。一例として当社の場合、知財の活用としてライセンスインとライセンスアウトの双方が多いが、特許を買い取ることも有効である。

   例えば、ゲノム解析や診断分野に使用されているPCR法(SANARI PATENT 注:ポリメラ―ゼ連鎖反応法)は、ロッシュ社が特許を保有している。PCR法は遺伝子増幅技術であり、遺伝子工学分野の基盤技術の一つであるが、PCR法の欠点は、短い塩基配列しか増幅できないことである。そこで、米国ワシントン大学のバ―ンズ博士が、PCR法の欠点を克服できる新しいLA-PCR法を開発し、当社に売り込みに来た。

   その提示価格はかなり高額であったが、当時はLA-PCR法が未だ普及していなかったので、その知財価値の評価が困難であり、結局その特許を購入した。その結果、PCR法の特許保有者であるロッシュ社もLA-PCR法のライセンスを現在も受けることとなり、当社がLA-PCR法のライセンス供与を行ったのは18社に達して、現在も有効に収益を挙げ続けている。」

   「また、知財評価について、京都には「目利き委員会」というユニ―クな委員会がある。稲森京セラ名誉会長、永森日本電産社長、加藤タカラバイオ社長等が委員となり、ベンチャ-企業の事業プランを知財も含めて評価し、ABCのランク付けを行っている。知財のための知財ではなく、商売をするためにどんな知財を有するのか、その知財を含めた技術力・事業性の水準を観ている。」

   最近の成功例では、ファ―マフ―ズがAランク認定を受け、その後、東証マザ―ズに上場された。

2.        田中信義キャノン常務取締役の発言に要注目:

一方、田中信義キャノン常務取締役は、上記加藤氏に続いて、次のように発言している。

   「成功例・失敗例の公表には賛成するが、そのときに出てくる数字についてどのように考えていくか、ということを押さえておかなければならない。

   具体的には、キャノンの場合、ライセンス収入は、昨年でも二百数十億円あるが(SANARI PATENT 注:慶応大学のそれは約2億円と推定)ライセンス収入が高いことがよいかどうかは、視点によって異なる。ライセンス収入がゼロの方が良いというのは、キャノンのシェアが100%になれば、ライセンス収入はゼロになるはずだからである。他社にシェアを取られているから、その分がライセンス収入になっているわけである。このように、立場によって数字の持つ意味が全く違ってくることを良く理解しておかなければならない。」

   「知財の活用についても、活用するという方向性には賛成するが、企業の場合には、研究開発してから事業化までに10年、20年を要する場合があり、企業は知財を貯めているのであるから、活用率50%では良くないように一概に示すべきではない。」

3.        SANARI PATENT所見

   田中信義キャノン常務取締役の上記発言の趣旨が、知的創造サイクルの推進方策の最終案には明確に表現されることを、強く期待する。石油の備蓄は、法定の義務であり、国費の投入も高額であるが、知財の備蓄も極めて重要であり、「活用」には、「将来活用」を含む旨をこの際に明定することも一案と考える。「強制実施権設定裁定の実績が皆無」という行政に対する検討も、不可欠である。

2007年3月 1日 (木)

新制度「小売商標」(小売等役務商標)審査基準案の修正等状況: 「一店舗」を「一事業所」と修正ほか

本年4月施行の新制度「小売商標」に対する小売業界等の意見に対して、懇切な特許庁応答: 百貨店包装紙への使用など

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

  来る4月1日施行の新制度「小売商標」出願に対する商標審査基準の改正案が示され、多様な意見が特許庁に寄せられたところ、慎重な検討が加えられて、原案の修正を見たことについて、先ず特許庁に敬意を表したい。

  以下に修正の要点を考察する。

1.        百貨店の包装紙

1-1        意見

例えば、百貨店がレジで商品を包装するのに用いている包装紙への使用は、小売役務についての使用になるのか、明示されたい。

1-2        特許庁

    商標の使用態様によると思われるので、個々の事案により判断する必要があるが、小売店が種々の商品を包装する一般的な包装紙に表示している商標も、小売等役務についての商標の使用となり得ると考えている。小売等役務商標に係る商標の使用については、改正法附則の使用に基づく特例の適用を主張するための方法等にも共通することであるから、使用に基づく特例の適用を主張するための手続等に関する省令の動向を踏まえながら、より明確になるよう努める。

2.        「近似」という概念

2-1        意見

2-1-1 審査基準改正案の中に「商標の近似」、「指定商品または指定役務の近似」といった新しい概念を導入することは、混乱を招くので反対する。

2-1-2 「近似」という新しい概念について、詳細に説明されたい。

2-2 特許庁

    明らかに類似する関係を示すことを意図して「近似」の語を用いたが、意見を踏まえ、「近似」の語を用いずに、「同一または明らかに類似」と修正し、その上で例示を注記する。

3.        「取引の実情」を示す説明書・証拠

3-1        意見

拒絶理由を解消するために提出すべき「当該引用商標権者による取引の実情を示す説明書および証拠」とは、具体的にどのようなものであるか、明確にされたい。

3-2        特許庁

引用商標の使用に係る商品または役務と本願商標の使用に係る商品について、例えば、生産部門・販売部門・原材料・品質・用途・需要者層や、役務の提供手段・目的または場所・需要者層・業種または事業者・規制する法律の関連性・役務の提供の用に供する物品の関連性が異なることを、引用商標の商標権者の「取引の実情を示す説明書」等によって、取引の実情の証拠をもとに説明することが考えられる(SANARI PATENT 注:個々のケ―スについて、具体的対応を要する場合もある意味と解する)

4.        「小売」の定義

4-1        意見

    「小売商標」についての定義はされているももの、「小売」および「卸売」そのものについての定義がなされていないため、小売等役務に関する商標出願または商標登録の権利保護において判断が困難な場合があると考えられるので、明確な定義をおくか、基準および具体的な例示を明示されたい。

4-2        特許庁(SANARI PATENT 注:問題の背景を含めて説明している)

    商標法上の役務とは、「他人のために行う労務または便益であって、独立して商取引の目的たりうべきもの」と解されているが、小売業者等が行うサ-ビス活動については、商品を販売するための付随的な役務であり、かつ直接的な対価の支払いが行われていないことなどから、商標法における役務ではないとされてきた。

   しかし小売業者等は、商品の品揃えを充実させ店舗形態の工夫を通じて顧客の商品選択の便宜を図るなど、そのサ-ビス活動と関連してその使用する商標において出所表示機能を獲得していることから、今次改正法においては、役務としての側面から小売業者等が行うサ-ビスを新たに保護の対象とした。

   従って、「小売」および「卸売」の定義は商標法令には規定していないが、例えば、日本標準産業分類によれば、小売業とは、主として「個人用または家庭用消費のために商品を販売するもの」、卸売業とは、主として「小売業または他の卸売業に商品を販売するもの」と規定されている。今次改正における「小売」および「卸売」に関する業務も、原則としてこれと同様に考えている。ただし、商標法上、既に保護対象となっているものは除かれる。

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