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2006年11月30日 (木)

農水産省知財戦略本部が育成者権の確立と保護政策案

特許権・商標権と育成者権の画定と併用

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT) 

 SANARI PATENTは、農水産省知財戦略本部の植物新品種に関する中間案について、育成者権と特許権・商標権との関係、および、弁理士・弁護士の活用に関する意見を、下記のように農林水産省に提出した(2006-11-26)

。なお、農水産省知財戦略本部の案は、同省のホ-ムペ-ジに示されている。

             記

1.育成者権と「特許権及び商標権」との関係について:

 (意見)

   「施策のあるべき方向」(Ⅰ-1-(2))の第4項として、「植物新品種を知的財産権として的確に権利化し保護するため、植物新品種の創生に係る物質または方法の発明に特許権を、育成者権と併せて取得し、かつ、植物新品種の名称について商標権を併せて設定することにより、育成者権・特許権・商標権の重畳による権利保護を、積極的に推進するものとする」旨を付加されることが適切と考えます。

 (理由)

   種苗法第21条第1項は、育成者権と特許権とを画定するため、「育成者権の効力が及ばない範囲」の項目として、その第2号に、「登録品種(登録品種と特性により明確に区別されない品種を含む。)の育成をする方法についての特許権者を有する者又はその特許につき専用実施権若しくは通常実施権を有する者が当該特許に係る方法により登録品種の種苗を生産し、又は当該種苗を調整し、譲渡の申出をし、譲渡し、輸出し、若しくはこれらの行為をする目的をもって保管する行為」、第3号に、「前項の特許権の消滅後において、同号の特許に係る方法により登録品種の種苗を生産し、又は当該種苗を調整し、譲渡の申出をし、譲渡し、輸出し、輸入し、若しくはこれらの行為をする目的をもって保管する行為」、第4号に、「前2号の種苗を用いることにより得られる収穫物を生産し、譲渡もしくは貸渡しの申出をし、譲渡し、貸し渡し、輸出し、輸入し、又はこれらの行為をする目的をもって保管する行為」、第5号に、「前号の収穫物に係る加工品を生産し、譲渡もしくは貸渡しの申出をし、譲渡し、貸し渡し、輸出し、輸入し、又はこれらの行為をする目的をもって保管する行為」を定めております。

  

しかしながら、植物新品種の創生と、その加工品の生産につきましては、遺伝子組換特許、プログラム特許、新品種を誘起する新物質の特許、新品種育成装置の特許、加工品製造に係る物質または方法特許等の関連特許権を取得し、「自然法則を利用した高度の創作」という共通性に基づいて、育成者権と併用し、当該植物新品種の品質、独創性、追随困難性を高めることが、確実な権利化のため実質的に有効であり、先進国にふさわしい植物新品種の振興のため重要でありますと共に、これら特許権を育成者権と併用して訴訟力を増強し、対侵害保護に資することが適切と考えます。

また、植物新品種の名称の「識別子権」としての実効性を確保するためには、商標法に基づく地域団体商標を含めて、商標権制度を併用することが、育成者権の対侵害保護のため適切と考えます。

1.        育成者権に係る人材の育成・確保について

 (意見)

「施策のあるべき方向」(Ⅰ-1-(2))の第2項に、「また、弁理士の資格標榜業務として、育成者権に係る業務を加え(弁理士法第4条第3項を改正)、かつ、弁護士の弁理士登録(弁理士法第7条)を促すことにより、国内・国際ともに、育成者権の創造・保護・活用に対する知的財産権法及び司法上の支援が、植物新品種の創生者と植物新品種の加工品の生産者に充分に及ばされるよう、弁理士法改正及びその実効ある運用を行うことが必要である。」ことを加えられることが適切と考えます。

 (理由)

   内閣知財戦略本部及び農水産省知財戦略本部において、知的財産としての育成者権の創造・保護・活用について計画されたところでありますが、知的財産権は、産業分野のいずれかを問わず、創作権・識別子権の諸類型の総合的活用により、国内・国際市場展開を達成する品質・価格・ブランドを取得し、かつ、侵害の可能性と発生に対処する訴訟力を具備することが肝要であり、育成者権も、同様と考えます。

  従って、知財専門家のうち特に弁理士及び弁護士につきましては、その職域の高度専門性にかんがみ、上記意見のように措置され、植物新品種審査官の充実と相俟って、今次貴案の目的(「はじめに」所載)に即応されることが望ましいと考えます。(以上)

2006年11月29日 (水)

バイオベンチャ―の発進拠点; 野村バイオコンファレンスの紹介事例

「カルナバイオサイエンス←オルガノ」、「クリングルファ―マ←阪大」、「デ・ウエスタン・セラピテクス←日本新薬等」

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

6(付番は承前).カルナバイオサイエンス

6-1        会社の自己紹介

「カルナバイオサイエンスは、日本オルガノからスピンオフし、2003年4月に設立した創薬基盤技術型バイオベンチャ―企業である。キナ―ゼ阻害薬(SANARI PATENT 注:キナ―ゼは、蛋白を燐酸化する酵素で、生体内情報伝達物質の一つであるが、プロティンキナ―ゼ、ATMキナ―ゼ、チロシンキナ―ゼ、Rhoキナ―ゼ等、600種に及び、各機能を異にし、また、カルシウム依存性・サイクリン依存性等の異なる特徴を示すので、それぞれの機能の発現・阻害が必要な場合に応じて、多様なキナ―ゼ・阻害剤が開発されてきた)を創薬することを目的として、高品質キナ―ゼ蛋白質の作製、最先端のホモジニアス(SANARI PATENT 注:均質・同質)なキナ―ゼ阻害薬アッセイ系およびキナ―ゼ阻害薬プロファイリングパネルの確立を行い、自社創薬研究を展開すると共に、創薬基盤技術製品・サ-ビスを顧客に提供し、創薬に要する時間の大幅な短縮に寄与する」。

  

上記自己紹介の結びの、「顧客の創薬所要時間の短縮への寄与」は、医薬産業にとって極めて重要と考える。

6-2        経営陣の経歴は、「オルガノ」(4名)、「メルク・ホエイ」、「カネボウ」、「中外製薬」、「司法書士」のほか、アドバイザリ―ボ―ドに、東大、阪大、北大、愛媛大の、計8教授を擁する。

6-3        資本金の拠出は、経営陣、従業員、顧問、ベンチャ-キャピタル、業務連携会社等で、バイオベンチャ―の特徴として、一般の中小企業と異なり、資本金額は高額である。

7.クリングルファ―マ

7-1 会社の自己紹介

  「クリングルファ―マは、阪大発の対癌創薬バイオベンチャ―として、200112月に設立された。現在開発中の創薬シ―ズは、NK4(蛋白質/遺伝子とHGF(蛋白質)である。

7-1-1 NK4: 

     NK4は、肝細胞増殖因子のアンタゴニストとして発見された蛋白質で、癌の浸潤・転移を抑制する。その活性とは別に血管新生阻害作用(癌腫瘍組織の成長を阻害する)をも有し、類のない2機能分子(SANARI PATENT 注:マルチタ―ゲット)である。

   従来の制癌剤は、癌細胞を直接殺すことを目的として開発されたため、臓器不全や免疫力低下を伴ったが、NK4は直接細胞を損傷しないため、副作用が少ない。

7-1-2 NGF

     肝細胞増殖因子NGFは、成熟肝細胞に対する増殖促進因子として、阪大の中村敬一教授が世界に先駆けて発見し、単離・クロ―ニングした。多様な細胞に対して細胞増殖促進、細胞運動促進、抗ポト―シス(細胞死)、形態形成誘導等の生理活性を有する。

7-2        経営陣の経歴

「武田薬品」、「米国Purdue大学・三井物産」、「理学博士・NK4の発見者・阪大大学院医学系研究科助教授」、「和研製薬・田辺製薬」、「HGFNK4発見者・阪大大学院医学系研究科教授」の5名。

8.デ・ウエスタン・セラピテクス

8-1 会社の自己紹介

   社有の膨大なシ―ド化合物の蓄積を利用すると共に、日高弘義医学博士が考案した独自技術による標的蛋白の同定により、有効・安全な新薬開発を行うこと目的として、1999年に設立した。

8-2 経営陣の経歴は、「興和新薬・スタイライフ・日研科学」、「京大助教授・三重大教授・名大教授・デュ―ク大客員教授」、「三和銀行・三菱東京UFJ銀行」、「米国国立予防衛生研究所訪問研究員・三重大病院教授」の4名で

  ある。

6-4        社名デ・ウエスタン・セラピテクスは、Drug Western Therapeutics Instituteの意味で、デ・ウエスタン・セラピテクスが特許を持つ独自技術に由来する。投与された薬が体内の、どの蛋白質と結合して薬理作用を示したかを調べる方法であり、その蛋白質の構造・機能を明らかにすることができる。

2006年11月28日 (火)

京大発バイオベンチャ―とハ―バ―ド大発バイオベンチャ―の対照等

人材・資金源・産学官連携の多様性:今回野村バイオコンフェレンス

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

4(付番は承前). レドックス・バイオサイエンス

4-1        レドックス・バイオサイエンスの自己紹介

200111月に設立されたレドックス・バイオサイエンスは、京都大学ウイルス研究所から生まれた新しい酸化還元制御による抗ストレス蛋白チオレドキシンをコアとする、京大発のベンチャ-である。現代社会の『ストレス』を、知る・防ぐ・直すをコンセプトとした事業戦略で推進してきた。具体的特徴として、京大ウイルス研や京大病院探索医療センタ-と産学連携のもと、医薬品・機能性食品等の分野で企業連携を展開している」。

4-2        経営陣の経歴は、「京大卒・薬学博士、田辺製薬」、「医学博士・小野薬品」、「京大ウイルス研教授」、「和研薬」、「東大情報学環助教授」、「バイオフロンティアパ―トナ―ズ社長」、「京大再生研助教授」ほかに2名で、後記アンティキャンサ―の経営陣構成の多国籍と対照的である。

4-3        京大との産学連携のメリットとして、京大の研究開発戦略の提案を活用できること、京大ウイルス研・医学研の多才・豊富な人材と共にできること、京大病院・探索医療センタ-で医師主導の臨床試験を実施できること、事業連携先・契約先に学問的エビデンスによる保証を示し得ること、新しい産学官連携による大学の知的成果を事業化できることを挙げている。

4-4        産学官連携のうち「官」の支援としては、

4-4-1        チオレドキシン機能性食品(チオレドキシン含有食品・チオレドキシン誘導食品)の開発について農林水産省生研の支援

4-4-2        ストレス計測事業(チオレドキシン測定系の事業化・ストレスモニタ―によるストレス疾患治療のカスタマイズ医療化・ストレスフリ―ライフスタイルの推進と支援)について経済産業省・産総研の支援

4-5 アンティキャンサ―との対比

   SANARI PATENT11-27記事のハ-バ-ド大発アンティキャンサ―と対比すると、人材・資金源・産学官連携先の国際規模に相異が見られるが、レドックス・バイオサイエンスも、Internatiomnal Redox Network

  等を通じてレドックス・バイオサイエンスに関する国際貢献の実を挙げておられる。

5.ベルセウスプロテオミクス

5-1 ベルセウスプロテオミクスの自己紹介

     2001年2月に設立。東大先端科学技術研究センタ-・システム生物医学ラボラトリ―(LSBM)発の遺伝子発現情報や蛋白質発現技術等と、モノクロ―ナル抗体(SANARI PATENT 注:特定の抗原にのみ反応する特異性を有するので、免疫療法の分野で活用される大きな可能性をもつ)の作製に関する匠の技術を融合させて、抗体医薬品の開発を目指す創薬型ベンチャ-である。

5-2 経営陣の経歴は、「商社・米国系投資銀行・バイオベンチャ―」、「特殊免疫研究所」、「同」、「IT企業・米国系投資銀行」の4名。

5-3 産学官連携の諸態様

5-3-1 シミック・グル-プが資本参加。同グル-プ協賛で、動脈硬化マ―カ―の診断キット開発に関する米欧三極会議(東大・ハ―バ―ド大・ミラノ大)を開催82005-10)

5-3-2 厚生労働省医薬基盤研「ゲノム抗体創薬による癌と生活習慣病の統合的診断・治療法の開発」プロジェクトに参画

5-3-3 富士フイルム等から計11億円の資金調達

5-3-4 経済産業省NEDO(SANARI PATENT 注:新エネルギ―・産業技術総合開発機構:独立行政法人)「新機能抗体創製技術開発」プロジェクトに参画

5-3-5 中外製薬と肝臓治療用シ―ド抗体に関する契約締結

 

2006年11月27日 (月)

バイオベンチャ―の経営の種々相「公益とリスクと採算と」:「国際的産学官連携」と「バイオベンチャ―間連携」

「ベンチャ-性とビジネスモデル性」:「役員5名は、弁理士・弁護士・薬博・理博・農博のセット」等

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        開発分野のベンチャ-性とビジネスラインの採算性:

1-1        バイオ産業は、次のように地球環境保全のバイオエネルギ―供給のためにも、著増する世界人口に豊富な食材を供給するためにも、その急速な発展が世界市民の要望するところであり、また、医療・保健や地域産業振興による福祉の実現を担う広大な前途を有している。

1-2        しかし、現実にバイオ産業を担う個々のバイオ企業のとっては、バイオビジネスは資金規模・競争関係・技術革新等、ベンチャ-性に富み、従って、ビジネスの採算性が同時に要求される事業分野である。このため、国際的産学官連携の強固な基盤を構築することが、先ず志向される。

1-3        今次野村バイオコンファレンス(2006-11-20)に経営トップが参加・プレゼンテ―ションしたバイオベンチャ-8社は、いずれも上記2つの要素を同時充足させて、短期に今日の地位を築いたモデル的企業である。

1-4        しかし、8社の環境と戦略はそれぞれ独自性を示し、その対比研究のもとでコンファレンス参加者がみずから裨益してゆくことが、主催者の趣旨に合致し、ひいては、わが国の知財戦略に資することとなる。

2.        ディナベックの場合:大型遺伝子医薬品を生み出す先端的ビジネスモデル:

2-1  役員構成は、経歴で見ると「東大卒理学博士・協和発酵」、「中国浙江大学卒・日本東京農工大農学博士」、「学習院法卒・東京国税局」、「東大薬学博士・特許庁審査官弁理士」、「京大法卒・弁護士」の5名で、所要の機能を高度に具備した観がある。

2-2  企業価値を定礎する四つのビジネスライン

2-2-1 遺伝子医薬品の直接販売・ライセンス等

    九州大学病院、北京医薬集団有限公司、千葉大、国立長寿医療センタ-、エ―ザイ等々と、研究・ライセンス・販売提携

2-2-2 創薬、創薬支援サ-ビス

    多くのバイオベンチャ―の資源(遺伝子、疾病関連遺伝情報等)とディナベックのベクタ―技術を結合する。

2-2-3        販路を持つバイオ事業会社との業務提携

医学生物学研究所と、バイオについての包括業務提携契約を締結している。

バイオ事業会社と、組換えベクタ―の供給、抗体の作製、遺伝子機能解析キット・タンパク発言キット、診断薬の開発販売等について協力関係を結んでいる。

2-2-4        中国バイオ事業

     ディナベックの中国における事業展開力を活かして、独自事業を行うと共に、わが国企業等の中国進出を支援している。すでに医学生物学研究所との合弁会社を北京に設立し、抗体製造拠点として整備しつつある。

3.        アンティキャンサ―の場合;成立済み特許80件、学術論文400件

3-1 The Leading Technology for in VIVO Imagingをもって任じ、基幹技術として、マウスモデル、小動物の全身映像化、遺伝子工学、細胞生物学、微生物学、生化学、幹細胞を掲げる。

3-2 マネ―ジメントチ―ム7名は、「ハ―バ―ド大学卒・理学博士・カリフォルニア大学医学部教授」、「京大卒・農学博士・塩野義製薬」、「エ―ル大学卒・カリフォルニア大学教授」、「前ハルピン医科大学分子生物学科教授」、「大連医科大学卒・前キングリ―製菓副社長」、「中国吉林大学理学部卒」、「米国科学アカデミ―会員・マサチュ―セッツ工大教授」で構成され、国際性・学際性に富む。

3-3 商業的パ―トナ―として塩野義・ミカラ等、共同研究大学等としてハ―バ―ド・マサチュ―セッツ・カリフォルニア・NDアンダ―ソンがんセンタ-・東大・阪大・京大・北里大・金沢大・岡山大・テキサス大・フォクッスチェ―スがんセンタ-・コ―ルドスプリングハ―バ―研究所・スロ―ンケタリングがん研究所等を挙げている。

3-4 ホ-ムペ-ジ冒頭に、「Olympus Technology Partnership」「Features of Olimpus OV100 Whole Mouse Imaging System」と掲げ、それぞれ詳細な解説を示している(2006-11-24所見)が目立つ。(以下別途)

2006年11月26日 (日)

日韓中米欧クロスボ―ダ―の知財・資金・販路・人材融合のバイオ企業例

Cangen Biotechnologies,Inc.の構成

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        今回の野村バイオコンファレンス(2006-11-20):

「加速するバイオ・イノベ-ションと資本市場のリンケ―ジ」という副題を付して開催されたが、資本市場のみならず、産学官連携・人材獲得・営業先の全てにわたって日韓米欧の諸資源を融合しつつあるバイオベンチャ-企業の代表的事例として、キャンジェン バイオテクノロジ―ズ(Cangen Biotechnologies,Inc.)CEO・文 哲昭(ムン チォルソ)医学博士のプレゼンテ―ションが注目された。

2.        キャンジェン バイオテクノロジ―ズ(以下「キャンジェン」)の概要:

2-1        米国大学との産学連携、米国法人として設立。大口出資は日本企業。人材は米国官界・韓国医学者等。販路は日韓中米欧等。

2-2        キャンジェンは、200011月に、米国Johns Hopkins Universityとの産学連携で、膀胱がんのマイクロサテライト遺伝子(MSA DNA based technology for bladder cancer)診断に関する対全世界ライセンス契約の締結をもって発足した。Texas州法により会社設立。本社所在地はBethesda, Maryland, USA

2-3          主要株主は、韓国出身の医学博士・文哲昭氏ほか個人と日米韓著名企業(出資時点順に、オリンパス、JSR、大日本印刷、三菱商事、富士フィルム、東京海上日動、米国DEFTA Partners等)。

2-4        主要メンバ―として、上記「文 哲昭John Hopkins University医療研究所教授」、「武市キャンジェンジャパン社長」、「David Sidransky科学諮問委員会委員長(Chair, Scientific Advisory Board)Johns Hopkins University Medical School教授」、「John Morris元米国FDA(Food & Drugs Administration)次官(Duputy Commissioner)(SANARI PATENT 注:米国FDA・食品薬品局は、独立行政機構で、食品衛生法・薬事法に基づく食品・食品添加物・医薬品の)許認可権限を有する。約3千名の毒性研究者を擁し、食品着色剤等の食品付加価値用物質、ホルモン剤・鎮痛剤等の発がん性副作用を有する物質の同定を行い、発がん性物質年報で公表している)。

2-5        グロ-バルな活動拠点として、キャンジェンジャパンは提携先・日本企業及び投資家との連携維持、米国本社は米国FDAの許認可取得・技術の商業化、キャンジェン韓国は韓国における共同開発・韓国FDA許認可取得、キャンジェン中国は中国における共同研究開発を行っている。

3.        多角的・多面的な産学および産産連携をグロ-バルに展開:

3-1        キャンジェンのweb-siteによれは、発がんの早期検出のための分子レベルの診断(Molecular diagnosis of cancer to enhance early detection) と、化学療法に対する感受性の決定(Determination of sensitivity to chemotherapy)を二つのキ―分野として、ビジネスを集中している。

3-2        Our Team」(執行役員会構成員と顧問計14名は、日韓米の産学官マトリクスである(SANARI PATENTの表現)。FDA許認可取得上の便益(ノウハウ: 申請手続・申請実行・評価・承認)も意識されている。

3-3        産学官連携のみならず、産産連携・学学連携・医院間連携も、日韓米欧融合で展開している。John Hopkins大学医療研究所、三星病院、オリンパス、DNP、CreaVaxEDRNRocheHill & NortonQuintile、大日本印刷、東亜製薬(韓国)等々が、研究開発に関するプレゼンにも続出した。

2006年11月25日 (土)

知財基盤ベンチャ-:マザ―ズ市場・大企業からの資金調達について

野村バイオコンファレンスのベンチャ-紹介

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

今回の野村バイオコンファレンス(2006-11-20)においては、バイオ知財を基盤とするCangen Biotechnologies、ディナベック、AntiCancer、レドックス・バイオサイエンス、ペルセウスプロテオミゥス、カルナバイオサイエンス、グリングルファ―マ、デ・ウェスタン・セラビテクス研究所の8社のCEOが各社の近況と展望をプレゼンした。

また、知財ノウハウを基盤とするベンチャ-の資金調達の一手段として、マザ―ズの審査動向が注目されるが、今回の野村バイオコンファレンス)においては、東証の担当者が、マザ―ズの近況について、様々な業態を示しつつ説明した。政府の知財戦略も、業態別策定の段階に在る。

 

1. 先ずマザ―ズ上場企業について東証担当者が解説

1-1 マザ―ズの新規上場会社数と資金調達額は、経済環境の変動を反映して大きく変動している。すなわち、

1-1-1 新規上場会社数は、2000年27、2001年7、2002年8、2003年31、2004年56、2005年37と推移し、2006年は11月初旬現在では35である。

1-1-2 公募・売出しによる資金調達額の1社当たり平均額(単位・億円)も、2000年100、2001年53、2002年22、2003年26、2004年22、2005年35と推移し、2006年は、10月末現在で24である。

1-1-3 本年9月までのマザ―ズ新規上場会社の事業内容を見ると、「ネジ締め付け装置の製造」・「販売、ブログ・検索エンジン等の企画・開発」、「レストランおよび郊外型ショッピングセンタ-の開発・運営」、「不動産業界向けシステム開発」、「中古パソコンの販売・引取回収等」、「総合比較サイト(比較ドットコム)の運営等」、「アセット・マネ―ジメント事業等」、「マ―ケットプレイスによる商品仕入・販売」、「機能性食品の開発・販売」、「不動産流通の仲介・不動産ファンドの構成と運営等」、「生花祭壇の企画・運営等」、「アフィリエイト広告事業等」、「一棟販売用賃貸デザインマンションの開発等」、「半導体パッケ―ジ外観検査装置の開発等」、「オンラインゲ―ムの開発・運営等」、「ITによる成功報酬型広告配信サ-ビス等」、「食品業界企業間電子取引サイトの運営」、「インタ-ネット関連事業及び投資事業」、「インタ-ネットメディア(mixi)及び求人サイト運営」、「デジタルコンテンツ事業及びそれに伴う物販事業」、「インタ-ネット活用の成果報酬型広告事業」、「医薬品・医薬部外品等研究開発の受託」、「低価格ステ―キレストラン多店舗展開」の各社が見られる。

    いずれも、現在、意欲的にチャレンジされつつある知財・ノウハウ戦略の分野であって、マスコミの好適な話題ともされている。

2.         マザ―ズ上場審査の立場から観たバイオ企業(知財管理の複雑性等):

東証の新規上場サポ―ト部の所見が、次のように概説された。

2-1 上場審査の立場は、ベンチャ-育成と投資家保護のバランスを適切に選択することである。バイオ関連企業の育成を図る姿勢は不変であるが、他業種と比較して特異性が高く、ハイリスクな物件に対して、どのような形で資金を提供できるかのバランスを採ることが課題である。

2-2 バイオ関連企業の特徴としては、事業内容の専門性が高く(創薬事業、遺伝子医療、医薬品開発業務受託、治験支援等)、かつ、業容が多岐にわたること、先行投資期間が長期にわたり、研究開発の成功によるハイリタ―ンの期待の一方、高コストを要するリスクビジネスに属すること、環境変化が激しく、グロ-バルな競争が熾烈であること、行政当局の関与度が高いこと、知的財産権の管理が複雑であること等である。(個別企業については別途)

2006年11月24日 (金)

弁理士の量的および質的充実と、専門職種責任の明確化

産業構造審議会弁理士制度小委員会報告書案(2006-11)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 産業構造審議会弁理士制度小委員会報告書案(2006-11)について、SANARI PATENTは特許庁に、下記意見を提出した。

         記

1.「1.弁理士研修制度について」についての意見

(弁護士・審判官・審査官・社内知財専門家の新人研修免除の明記、資格標榜業務に育成者権・司法書類作成の追加等)

1-1  (職責である自己研修の支援として位置づけるべきこと)

意見1-1 研修実績に関する冒頭の記述を次のように改められたい。

案の、「現在、弁理士は資格を取得すれば、その資格は永続的に有効であり、資格取得後の義務的な措置は存在しない」を、「その資格は永続的に有効であるから、弁理士法第3条には弁理士の職責として、『常に業務に関する法令及び実務に精通して、その業務を行わなければならない』と定め、専門的知見の陶冶と出願・契約等の実務に精通する義務を課している。」と改める。

 理由1-1 弁理士法第2条の趣旨は、上記のように特許庁が表明されており(条解弁理士法)、ほとんど全ての弁理士が、同条所定の「専門的知識の陶冶」により先端技術の他分野にわたる開発に即応し、「実務精通」によって年間40万件を超える知的財産権実務を遂行している。

    この自己研修基本条文と、その履行実績を先ず評価し、その評価に立脚1して、補完的に、義務研修を考案すべきである。

1-2 (同上)

意見1-2 「また、」(1.の2行目)以下の記述を次のように改められたい。

案の、「また、日本弁理士会が行う自主研修の充実にも限界がある。そのため、自己研鑽を怠り、不適切な行為を行う弁理士が少ないとはいえないのが現状である」を、「この自己研修義務の履行を支援すべき日本弁理士会の自主研修の充実にも限界がある。」に改める。

 理由1-2 自己研修怠慢を日本弁理士会の限界に帰責するのは、見当違いである。自己研修は弁理士の本来職責(弁理士法第3条標題)であるから、日本弁理士会と特許庁は、第3条違反の弁理士責任を追及する所管責任と」併せて、付帯業務として自己研修の支援を行う立場にあることを明確に認識すべきである。

1-3 (新人弁理士に対する義務研修免除対象の明示)

 意見1-3 弁護士資格者の弁理士新規登録者を免除対象者として明記されたい。審判官・審査官、社内知財専門家についても同じである。すなわち、

    案の、「実務経験を有する者等に配慮するため、研修の免除制度を設ける」を、「弁理士法第7条柱書第2号及び第3号に掲げる者、並びに会社知的財産実務経験を有する者等に配慮するため、研修の免除制度を設ける」に改める。

 理由1-3 小委員会案の「はじめに」に強調されている「強靭な産業競争力」の見地からは、知的財産権の国際的訴訟力および広範化する知的財産の国民生活環境への遍在に対応して、米国の特許弁護士2万3千人に匹敵する量質の陣容を増強することが急務である。米国の特許弁護士(US Patent Attorney)は、米国弁護士(現在約百万人)が特許代理人(US Patent Attorney)資格をも取得して得られる資格であるが、これに相当するわが国の「弁護士・弁理士」併記資格者が極めて僅少であるから、弁護士の弁理士登録を促し、即時全力を法務知財戦略の実務に傾注できるよう、措置すべきである。

    審判官・審査官も、同様である。

    また、社内弁理士と共に、知的財産実務に従事し、弁理士試験に合格した者等も、その実務経験に徴し、義務研修免除対象とし、知的財産戦略の即時実戦遂行に支障がないよう、措置すべきである。

2. 「3.弁理士法に規定する業務」についての意見

2-1 (資格標榜業務に農林水畜産業等の知的財産権関係業務を追加)

 意見2-1  弁理士法第4条第3項の「著作物に関する権利」を、「著作物に関する権利、種苗法に基づく育成者権等、知的財産基本法に基づく知的財産に関する権利」に改めるべきである。

理由2-1-1 農水産省知財戦略本部において、種苗法に基づく育成者権等の知的財産権について特許法に準ずる制度整備が必要とされていることに対応し、品種登録・同定等の知的財産保関係護業務を、弁理士の資格標榜業務とすべきである。

理由2-1-2 資格標榜業務は、「弁理士としての秘密保持義務・利益相反行為禁止のもとで、知財専門家能力を依頼者の便益と保護に資するもの」(特許庁・条解特許法)であるから、知的財産全般に対象を拡大することが、産業の発達と国民の利益に適合する。

2-2 (資格標榜業務に「裁判所に提出する知的財産関係書類を作成すること」を追加)

 意見2-2 弁理士法第4条第3項に、資格標榜業務として、「他人の嘱託を受けて、知的財産に関する訴訟について裁判所に提出する書類を作成すること」を加えるべきである。

 理由2-2 中小・ベンチャ-企業のため、司法書士法第2条第1項第2号の業務のうち、知的財産関係に限定して、弁理士も行うことができるように定めるべきである。「作成」にとどまり「訴訟代理」に至らないが、知的財産が全国民生活に浸透し、簡裁(本院訴訟が約8割)を始め、訴訟書類の作成を弁理士に代行させれば、迅速かつ軽費で本人訴訟を提起・維持でき、中小企業や個人の知的財産紛争における迅速かつ軽費な自己防衛に資する。

2006年11月23日 (木)

三極特許庁会合と日米特許FTA計画

特許審査ハイウェイと内閣知財戦略事務局長提言

 弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

9(付番は承前).三極特許庁会合と日米特許FTAの関係

9-1        今次三極特許庁会合(2006-11-1317)には、JPO,EPO,USPTOのほかWTOもオブザ―バ―として参加したが、その結果は、次のように要約されている(要旨)。

9-1-1        三極特許庁は、次のような認識を共有する。

9-1-1-1           産業・技術・国際的社会経済成長の基本システムとしての産業財産権の役割に対する共通認識に基づき三極協力を行う確約の再確認

9-1-1-2           増大する特許出願対応業務の適時処理と高質な審査手続を三極特許庁とそのユ-ザ-の共通の目標とする認識

9-1-1-3           検索・審査結果の相互利用の推進とその信頼性向上コスト低減・重複作業回避の利点の認識

9-1-1-4           実体特許法・特許付与手続の調和と特許出願様式標準化の利点の理解

9-1-1-5           協力活動実行のためe-ビジネスシステム・検索ツ―ルに関する共通基盤と互換性あるデ―タの開発・テキストコ―ドによる電子書類フォ―マット促進の利益の認識

9-2                      上記認識に基づき、次のように了解する。

9-2-1               ワ―クシェアリング(検索・審査結果の相互利用を最大限可能な範囲まで発展させる)を強化する。

9-2-2               特許審査ハイウェイは、JPO・USPTO間で先行したが、EPOも参加を前向きに検討する。

9-2-3               三極特許庁は、三極を超えて他の特許庁とも特許審査ハイウェイ実施を検討する。

9-2-4               三極特許庁は、出願人の選択により、三極特許庁が限定期間内に順に検索することにより、各庁が各自の文献に重点をおいた検索で相互に補完し」合うという「三極サ―チシェアリング」のUSPTO提案について、高質検索を望む出願人のオプションとして有益と確認した(トライウエイ)。

9-2-5               USPTOは、各庁が自庁への第1出願に重点を置き、第2国出願については第1庁からの検索・審査情報が利用可能な場合にのみ着手するという新たなワ―クシェアリングを提案し、JPO・EPOその可能性を検討する(ワ―クシェアリングの最大化)。

9-2-6               三極協力の基盤が構築されている技術分野を選択し、共通のサ―チテンプレ―トを作成してゆくパイロットプロジェクトの立上げを検討してゆく。

9-2-7               三極特許庁は、検索・審査結果の相互利用促進のため、審査官が他庁の特許出願包袋の内容に電子的にアクセスできる「三極書類アクセスシステム」(TDA)を開発しているが、その有用性を確認した。

9-2-8               三極分類調和を加速する。

9-2-9               出願明細書様式を統一し、出願人・特許庁のコストを削減する。

9-2-10           PCT(特許協力条約)が三極ユ-ザ-により多用されているので、電子化された環境下のPCT手続全体の書類の流れについて検討する。

9-2-11           三極特許庁は、効率的な審査実務に寄与する高質な出願書類の作成支援のため、開示要件、次いで進歩性・非自明性要件について、仮想事例比較研究が重要と認識した。またその結果の出願人・代理人への周知の検討を合意した。

9-2-12           三極特許庁は、対途上国の技術協力に関する情報交換の重要性を確認した。

9-2-13           三極特許庁は、中国文献にアクセスすることの重要性を確認した。

10.SANARI PATENT所見

   三極特許審査ハイウェイよりも日米特許審査ハイウェイの早期実現可能性は高く、日米特許審査ハイウェイの条約化が日米特許FTAであり、荒井内閣知財戦略事務局長提案中の「先行実施」は、わが国の諸般の利益のため、米国の潜在的利益のもとに、日米特許FTAを片面的に先行して実行するものと解する。

2006年11月22日 (水)

「日米特許FTA計画の効用」と「日本先行実施の効用」

WTO,EPA,TRIPS,ASEAN,日米欧三極の多角的知財戦略と日米特許FTA

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 内閣知財戦略事務局長の「日米特許FTAを結ぼう」発言(SANARI PATENT 11-21記事)は、二つのパ―トから成っている。一つは「日米特許FTAの効用」であり、一つは「日本の先行実施の効用」である。FTAは二国間あるいは複数国間の国際協定であるから、合意の成立が実施の前提であることが通常であるが、特許制度の特殊性から、先行実施が可能であるし、それがわが国にとって国益にも適するという発言と解する。

「日米特許FTAを結ぼう!」と言いながら何故「先行実施」を強調するかといえば、その答えは、内閣知財戦略事務局長の発言中の「アメリカとの交渉に時間がかかるようであれば」という言葉に語られていると解する。すなわち、およそ日米FTAの成立は、それほど簡単ではないが、その特定分野である日米特許FTAについても同様であるとすれば、どうするかという問題である。そこで日米特許FTAを理解する前提として先ず、日米FTA全般を理解するため、共同通信の最近の報道(要旨)を引用する。

5(付番は承前).日米FTAの当面困難性と日米特許FTAの特異性:

   ワシントン発2006-11-10共同は、「日米自由貿易協定は当面困難。米通商代表などが韓国などを優先」と題して、次のように報じている。

「シュワブ米通商代表は9日、日本の産業界が締結を求めている日米FTAについて、韓国やマレ―シアなど既に交渉中の相手国を優先するため当面は、具体的な検討は難しいとの認識を示し、日本は乗り遅れたとの見方を示唆した」。

6.わが国外務省のFTA戦略:

   外務省の広報では、数年来、FTA戦略の重要性をPRしてきたが、必ずしも日米FTAを最優先とするものではなかったと解する。例えば、外務省「日本のFTA戦略」(要旨)(2002-10)は、次のように述べている。

6-1         「経済グロ-バルの進展に対応して、自由貿易体制の維持強化が重要であるが、WTOでカバ―されていない分野における連携強化の手段としてFTAを結ぶことは、対外経済関係の幅を広げる意味が大きい」。

6-2         米国・EUは、地域経済貿易網の構築と、WTO交渉の双方を踏まえた政策を追求しており、わが国としてもWTO・FTA両方の動きを強化する必要がある。

6-3        FTA推進による具体的メリットとして、経済上は輸出入市場の拡大、制度の調和等をもたらし、政治上はFTA交渉の結果をグロ-バルな外交的影響力の拡大に繋げる。

6-4        わが国の市場開放による痛みを伴わずにFTAの利益は確保できないが、国際競争力強化のため必要である(SANARI PATENT 注:日米特許FTAの先行実施は、わが国が専ら受益する結果になると、内閣知財戦略事務局長は説明された)

7.相手国別基本方針

   外務省の上記資料は、次のように述べている。

7-1        米国とのFTAは、農林水産物の取扱等、困難な課題があるが、当面は、相互承認等の特定分野 (SANARI PATENT 注:何の相互承認か、記載されていない)における枠組み作りや規制改革対話等を通じた関係強化が有益である。

7-2        EUについても同様。

7-3        中国については、日中韓プラスASEANを中核とする東アジア連携との観点からFTAの可能性を踏まえ、諸般の動きを総合判断する。

7-4        韓国については、深い経済的相互依存関係と、両国財界人からの包括的EPA・FTA(SANARI PATENT 注:経済連携協定)を目指すべしとの共同提言を踏まえ、早期交渉を目指す。

7-5        ASEANについては、ASEAN全体との経済連携強化を視野に入れつつ、個別連携の取組を急ぐ。

8.知財推進計画06との整合:

    知財推進計画06には、「日米特許FTA」という用語は未だ登場していないが、内閣知財戦略事務局長の「日米特許FTAを結ぼう」提言が、知財推進計画06の「知財の国際的保護および協力の推進」計画の具体化方策であることは、明らかである。

 ただし、上記知財推進計画06計画の7項目のうち、直結しているのは、6番目の「FTA/EPA等を活用する」計画よりも、1番目の「世界特許に向けた取組を強化する」計画である。FTAの語が掲げられているのは第6項であるが、次のように述べている。

「FTA/EPAや投資協定などの二国間・複数国協定の交渉の機会において、交渉相手国の知財制度の整備や特許におけるいわゆる修正実体審査の制度上または運用上の受入などを促し、わが国産業界の要望に沿った「知財権の貿易関連の側面に関する協定」(TRIPS)等の規定以上の保護が達成さ れるよう、2006年度も引続き積極的に働きかける」。

  第1項1号の「世界特許システムの構築に向けた取組を強化する」の内容は、日米欧三極間の実質的特許相互承認制度の実現を、ステップを明示して計画したものであるが、内閣知財戦略事務局長の今次提言は、この計画に基づき、日米間の特許相互承認制度を「日米特許FTA」という協定の形式で実現することを提案し、かつ、その利益をわが国が早急に享受するため、協定の形式的成立を待つことなく、わが国側が先行実施することを提案した。

2006年11月21日 (火)

内閣知財戦略本部事務局長の「日米特許FTAを結ぼう!」提言

三極特許庁会合の合意(2006-11-17)、EPA,特許審査ハイウェイとの関連

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 内閣知財戦略本部事務局長は、官邸web-siteリンクの同事務局ホ-ムペ-ジにおいて、「日米特許FTAを結ぼう!」と呼びかけている。実益に富む提案と考える。

 知財専門家はもとより、わが国政官民関係者がこの呼びかけを理解し、これに呼応することの、国家的・グロ-バル的な意義は、非常に大きい。

 官庁のホ-ムペ-ジにふさわしく、「このコ―ナ―の記事は、私見に基づくものであり、知財戦略本部事務局の公式な見解を示すものではありません」と注記しているが、その内容は、内閣決定の知財推進計画06「知的財産の国際的保護および協力の推進」計画の具体化そのものであることに、先ず注目すべきである。

1.        内閣知財戦略事務局長提言の要旨;

1-1  わが国企業も米欧企業も、世界各地に工場建設・製品輸出を進めている。

   このため各国特許庁に外国人出願が増加、審査が遅延し、出願人にとっては同一発明を外国出願するコストが増加している。

1-2  スポ―ツの世界記録認定と同様、審査基準を統一し、世界特許を実現した  いが、第1歩として日米特許FTAを結び、特許の相互乗り入れを始めることを提案する。具体的には、日米いずれかの特許で一定件数の特許取得実績を有する企業が、日米双方に出願した発明で、日米いずれかで特許を取得した場合、他の特許庁は、MSE(修正実態審査)制度による簡易な補充審査で特許を付与する仕組み構築する。

1-3  日米特許FTAの早期実現のためには、わが国がこの方式を先行実施すればよい。わが国企業が日米双方に出願した場合でも、米国の特許審査が早いのが現状だから、米国の審査結果を簡易な補充審査で受け入れるのである。米国特許商標庁を、わが国特許庁の先行技術調査外注先に実質的に加える効果がある。

1-4  出願企業にとっては低コスト、わが国特許庁にとっては補充調査により審査の質を維持しつつ審査を迅速化でき、ライバル企業には、審査請求の制度が残されるので、現状より不利にならない。

2.        キ―ポイント3項目を内閣知財戦略事務局長が指摘:

  同局長はさらに、「日米特許FTA案に対して予想される批判とこれに対する考え方」を次のように示した。

2-1 「特許法制と審査基準の統一が先ではないか」という予想批判について:

   日米欧特許庁間の比較分析では、実際上ハ―モナイゼ―ションが進み、特許法制と審査基準は、総合的に見て約90%は同じという見方をしている日本企業もある。残部の統一には時間を要するから、補充審査でカバ―する方が現実的である。

2-2 「米国の審査は信用できない」という予想批判について:

   一定件数以上の特許査定のある日本企業が、費用と時間をかけて米国に出願したものに限定しているので、出願レベルが高く、米国の審査のブレ補充審査でカバ―できる。

2-3 「わが国が一方的に先行実施するのは不利ではないか」という予想批判について:

   先行実施でこの方式を実施できるのは実質的に日本企業のみであり、日本企業にとってメリットが大きい。例えば、わが国での年間特許査定件数が100件以上の出願人は約170社であるが、そのうち米国企業は約5社に過ぎず、」一方的に導入して得するのはわが国である。

3.        内閣知財戦略事務局長の結論:

「いずれにせよ、経済のグロ-バル化は進み、特許の海外出願は増え続ける。世界特許を究極の目標として、特許相互乗り入れの先行実施を始める時機が来ている」。

4.        SANARI PATENT所見:

    特許制度の対象は、米国では、「有用な新しい着想で、独占権付与に値する確実な成果を得られるもの」として法定され、わが国では、「自然法則を利用した技術的思想のうち高度なものについて、新規性・進歩性・産業上利用可能性から見て独占権付与に値するもの」として法定されている。要するに、社会に役立つ独創で独占権に値するものを保護するのであるから、辿る道は別でも到着点は同様という側面が多い。

   以下、数日、日米特許FTA構想を項目ごとに検討し、その早期実現を期待したい。

2006年11月20日 (月)

特許庁の進歩性審査基準と今次東洋紡関係知財高裁判決

東洋紡・特許庁・知財高裁の各論理構成

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

10(付番は承前)今次知財高裁判決の全体構成

10-1        原告東洋紡は、次のように主張した。

10-1-1        審決は「要旨変更である」としたが、「要旨変更ではない」。

10-1-2        審決は「要旨変更だから、明細書の記載要件を満たしていない」としたが、「要旨変更ではないから、審決は前提を欠く」。

10-1-3        審決は「進歩性がない」としたが、「進歩性がある」。

10-2               被告特許庁は、次のように主張した。

10-2-1        訂正明細書の記載について、実質的に同じ意味内容であっても、別異の表現に変更することは、審判請求の基礎である補正を申立ている事項の同一性を変更するものである。(SANARI PATENT 注:「要旨の変更である」という意味)

10-2-2        従って、原告の10-1-2の主張は、失当である。

10-2-3        従来技術との対比で、特許庁審決の認識に誤りはない。(SANARI PATENT 注:「進歩性が認められない」という意味)

10-3               知財高裁は、次のように判断した。

10-3-1 「要旨変更ではない」

10-3-2 従って、特許庁審決の10-2-2の主張は、前提を欠く。

10-3-3 進歩性は、認められない。

11.特許法関係条文の要旨

 29条2項: 通常の技術者が、従来技術(公知公用発明・頒布刊行物記載発明・公衆ネット利用可能発明)に基づき容易に発明できたときは、その発明は、特許を受けることができない。

 36条6項2号・3号: 特許請求の範囲の記載は、明確・簡潔でなければならない。

 126条1項ただし書、3項、4項: 特許権者は、請求範囲の減縮・誤記誤訳の訂正・不明瞭記載の釈明を目的とするものに限り、明細書・請求範囲・図面訂正の訂正審判を請求することができる。

   この訂正は、最初明細書等記載事項の範囲内でしなければならない。

   また、この訂正は、実質上特許請求範囲を拡張・変更するものであってはならない。

 131条の2: 審判請求書の補正は、その要旨を変更するものであってはならない。 

12.進歩性審査基準の適用

   今次知財高裁判決は、補正審判に係る争点について、東洋紡の主張を認めたが、特許要件に係る争点について、特許庁の主張を認め、結局、東洋紡の請求を棄却した。

   そこで、現行審査基準の進歩性に関する記載のうち、今次判決に係るものの要旨を摘記する。

12-1        規定の趣旨

    通常の技術者が容易に発明することができたものについて特許権を付与することは、技術進歩に役立たないばかりでなく、却ってその妨げになるので、付与対象から排除する。

12-2        進歩性判断の考え方

     具体的には、請求項の発明と引用発明を認定した後、論理付けに最も適した一つの引用発明を選び、請求項の発明と対比して、両者の一致点・相違点を明らかにした上で、引用発明や従来技術の内容および技術常識から、請求項の発明に対して進歩性の存在を否定し得る論理の構築を試みる。

12-3        論理付けの観点

     種々広範な観点から行うことが可能である。例えば、請求項の発明が、引用発明からの最適材料の選択・設計変更・単なる寄せ集めに該当するか、あるいは、引用発明の内容に動機付けとなり得るものががあるかを検討する。

12-4        論理付けの具体例

     論理付けができた場合は、請求項の発明の進歩性は否定されるが、その具体例を示す。

12-4-1        一定の課題を解決するために、公知材料中からの最適材料の選択、数値範囲の最適化・好適化、均等物による置換、技術の具体的適用に伴う設計変更等は、当業者の通常の創作能力の発揮であり、相違点がこれらの点にのみある場合は、他に進歩性の存在を推認できる根拠がない限り、通常は、その発明は当業者が容易に想到できたものと考えられる。

12-4-2        発明者および特定するための事項の各々が機能的・作用的に関連せず、発明が各事項の単なる組合せ・寄せ集めである場合も、前項同様である。

12-4-3        動機づけとなり得るものとしては、技術分野の関連性、課題の共通性、作用・機能の共通性、引用発明の内容中の示唆がある。

12-5        顕著な効果

     引用発明と比較して有利な(SANARI PATENT 注:知財判決で常用される「顕著な」と同義と解する)効果が明細書等の記載から明確に把握される場合には、進歩性の存在を肯定的に推認するのに役立つ事実として、これを参酌する。

13.SANARI PATENT所見

    米国特許法には特許要件として「有用性」・「明確な成果」があり、「進歩性」という用語がないから、米国特許商標庁の審査基準においては「商業的成功」が特許性立証の二次的要素となる(わが国におけるより強力に)。出願者以外に商業的成功を収めた者がいないことは、容易想到でないことを推認させると解すること、商業的成功は発明により社会的利益をもたらしたとされることによると考える。

  東洋紡の金属板ラミネ―ト用フィルムと、これを用いた製缶の優秀性が今次判決によって一層顕著・詳細に、その技術的根拠と共に明示され、商業的成功の増大が予想されると共に、知財高裁・特許庁・東洋紡の精緻な解明のご努力に感服させられる。

2006年11月19日 (日)

発明の容易想到性判断:製缶品質等向上の金属板ラミネ―ト用フィルム

知財高裁・東洋紡特許取消審決取消請求事件判決の解析

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 17~18日の記事に述べたように、今次判決の内容は、大別すれば二つの項目、すなわち、「補正が訂正審判請求書の要旨の変更に実施的に当たらないとして、本件補正は認められないとする審決の判断は誤りである」と説示し、東洋紡の主張を認める項目と、「本件補正発明は進歩性を欠くとする」特許庁の主張を認める項目とから成っている。本日の記事は、昨日の前者項目に続いて、後者項目に関する。

 先ず、上記2項目による知財高裁の中間判断と、結論判断を併記する。

中間判断:

「補正事項jに係る補正は、本件審判請求書の要旨の変更に該当せず、補正事項jが審判請求書の要旨の変更に当たるとして本件補正を認められないとした審決の判断は誤りというべきであるが、審決は、本件補正が認められるとしても本件補正発明1,2は進歩性を欠くと判断し、原告(東洋紡)はこの判断は誤りであると主張しているので、進んで検討する」。

結論判断:

「以上のとおり、原告(東洋紡)の主張する審決取消事由1(本件補正の許否の誤り)には理由があるが、本件補正が認められるとしても、本件補正発明1,2は進歩性を欠くとの審決の判断は正当であるので、原告の請求は棄却されるべきである」。

8(付番は承前) 進歩性に関する争点

8-1        フィルムを金属板に貼り合わせた後の製缶工程で生ずるピンホ―ルと、フィルムの製造段階で生ずるピンホ―ルとについて、前者の閉塞から後者の閉塞を想到することは容易か。

8-2        直径0.1mmというピンホ―ルの孔径は、臨界的意義を有するか。

8-3        フィルム面積の限定は、単なる設計事項か。

8-4        フィルム原料ポリエステル樹脂中の水分量の限定は、想到容易であるか。

8-5        熱可塑性フィルム製造の際、フィルタ―機能を導入することは想到容易であるか。

8-6        フィルムの熱収縮率について、縦横双方の測定は、想到容易であるか。

8-7        訂正発明は、ラミネ―ト缶におけるピンホ―ルを完全になくし、ラミネ―ト缶におけるピンホ―ル検査を不要とする顕著な作用効果を奏するものであるか。

8-8        補正発明2について、補正発明1と異なる審決の違法性が認められるか。

9.上記争点に対する知財高裁の判断

9-1 金属板にラミネ―トされたフィルムにピンホ―ルが存在することが金属板の腐食防止にとって好ましくないことは、周知の事項である。

9-2 当業者であれば、錆の発生を防ぐため、製造コストや品質面で許容し得る範囲内で、ラミネ―ト加工前のフィルムに存在するピンホ―ルの直径を小さくしようとすることは当然である。従って、ピンホ―ルの径の下限の設定は、当業者が適宜なし得る事項の範囲内に過ぎず、ピンホ―ルの孔径が臨界的意義を有するとは認められない。

0-3 フィルムの面積は、フィルムの生産量や用途に応じて適宜決定できる設計事項である。

9-4 フィルム原料ポリエステル樹脂の水分量を所定値以下とすることは、刊行物に記載されている。

9-5 フィルタ―の使用についても同様である。

9-6 熱収縮率について、縦横一方向の従来技術があるから、両方向への想到は容易である。

9-7 ピンホ―ル検査不要化の効果は、刊行物記載の発明から想到容易な構成自体から得られる自明な作用効果である。

9-8 補正発明2について主張された審決取消事由は、いずれも補正発明1について主張された事項と同一である。

2006年11月18日 (土)

金属板ラミネ―ト用フィルム特許に関する訂正審判

東洋紡の審判取消請求事件の争点その1

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 知財高裁判決は、前半で東洋紡の主張を認めたが、後半で特許庁の主張を認めた。前半の判決要旨は、「特許法第131条の2第1項の立法趣旨」から、「要旨変更該当性の実質的判断」を説示したことである。

5(付号は承前).知財高裁が判断を示した争点:

5-1        本件補正の拒否について、判断の誤りの有無

5-2        補正発明1の進歩性について、判断の誤りの有無

5-3        補正発明2について、判断の誤りの有無

6.本件補正拒否の判断の誤りの有無について:

  知財高裁判決は、その結論において、東洋紡が主張する審決取消事由1「本件補正の拒否の判断の誤り」には理由があるとしている。

6-1        特許庁の主張

補正事項j(SANARI PATENT 注:争点補正事項中の群呼称)により、訂正明細書に存在していた「検出部電極と検出部ロ―ラ―との隙間・印加電圧・走行速度の所定値において、検出される」との文言が削除され、訂正事項jは、内容的に別の訂正事項に変更されることとなるから、補正事項jは、審判請求書の要旨を変更するものと認められる。東洋紡は補正事項jのうちの訂正明細書の補正は、誤記の訂正を目的とするとしているが、上記括弧書のような長文を誤記と認めることはできない。

また東洋紡は補正事項jは訂正事項fに係る記載を削除する補正に伴うものであると述べているが、jとfは互いに別の訂正事項であるから、それぞれが補正の要件を満たす必要がある。

以上の通りであるから、他の補正事項について検討するまでもなく、本件補正は認められない。

6-2        東洋紡の主張

    特許庁の審決は、6-1記載の文言削除により、訂正事項jは内容的に別の訂正事項に変更されることになるとの理由から、本件補正を却下した。

   しかし審決は、補正事項fについて明確な判断を示していないが、訂正事項jと訂正事項fとは互いに別の訂正事項であるから、それぞれが補正の要件を満たす必要があると説示しているので、訂正事項fは補正の要件を満たすと判断している。訂正事項jは、特許請求の範囲における訂正事項fに対応する発明の詳細な説明を訂正するものであるから、訂正事項fと一体の訂正である。補正事項fが訂正請求書の要旨を変更するものでないのであれば、補正事項jも訂正請求書の要旨を変更しないものとして認められるべきである。

6-3        知財高裁の判断

6-3-1 本件訂正は、審判請求書とこれに最初に添付した訂正明細書を6-3-1-1のように補正するものである。

6-3-1-1 補正事項f(訂正事項fについての補正)について:

  補正事項fおよびjは、いずれもピンホ―ルの直径測定方法を限定する記載を削除することを実施次のように的な内容とするものである。いかし、ピンホ―ルの直径は、いかなる測定方法により測定しようとも、本来的には寸法が変るものではないので、同記載は、単なる文言の言い換えに過ぎず、技術的に格段の意味がある特定ではない。

6-3-1-2           特許法131条の2第1項の趣旨

   この規定の趣旨は、審判請求人が、審判が進んだ段階で、理由の要旨を拡張・変更すると、実質的な審理のやり直しをせざるを得ず、審理が遅延・長期化することに照らし、審判請求書の補正が要旨の変更と当たる場合は、これを許さないとしたものである。

6-3-1-3           従って、要旨の変更に当るか否かは、単に請求の趣旨や理由が変更されたかどうかを形式的に判断するのではなく、補正前の訂正事項と補正後の訂正事項の内容を対比検討し、訂正審判における審理の範囲がその補正により、実質的に拡張・変更されるかどうかに基づいて判断すべきである。

6-3-2 そうすると、訂正事項jが審判請求書の要旨の変更に当たるとして、本件補正を認められないとした特許庁の審決の判断は誤りというべきである。

7.SANARI PATENT所見

   特許法126条1項は、次のように定める 

「特許権者は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面の訂正をすることについて訂正審判を請求することができる。ただし、その請求は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。

 ⅰ 特許請求の範囲の減縮

 ⅱ 誤記または誤訳の訂正

 ⅲ 明瞭でない記載の釈明」

     特許庁の審決は、訂正審判請求の内容が「要旨の変更」に該当し、上記ⅰ、ⅱ、ⅲのいずれにも該当しないと判断したものであるが、知財高裁は、「実質的に判断して」要旨の変更に該当しないとし、6-3-2のように判断した。

2006年11月17日 (金)

東洋紡「金属板ラミネ―ト用フィルム」特許に関する審決取消請求事件

「要旨変更に該当性」の実質的判断

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

争点に対する知財高裁判断は、訂正の要旨変更性について東洋紡の主張を認め、発明の進歩性について特許庁の主著を認めた。

1.        経緯

1-1 東洋紡は、「金属板ラミネ―ト用フィルム」特許を出願し              (1997-3-24)、設定登録された(2001-11-9)

1-2 特許異議決定(2004-12-22 )により、1-1特許の請求項1~4特許が取消された。

1-3 東洋紡は、1-2の決定の取消訴訟を提起した(2005-2-10)

1-4 東洋紡は、訂正審判を請求した(2005-5-10)(以下「本件訂正」)。

1-5 東洋紡は、手続補正した(2005-7-13)(以下「本件補正」)

1-6 特許庁は、「本件審判の請求は成立たない」と審決した(2005-8-18)

1-7 東洋紡は、1-6の審決の取消を知財高裁に求め、知財高裁は、平成17年(行ケ)10706号 審決取消請求事件判決(2006-10-25)において、東洋紡の請求を棄却した。

2.        発明の内容

2-1        本件補正後の請求項1,2に記載された発明(以下「補正発明」)

2-1-1        次の特徴を有する「ポリエステル系樹脂を含む金属板ラミネ―ト用フィルム」

2-1-1-1           フィルム原料として水分率所定値以下のポリエステル系樹脂を用いる。

2-1-1-2           フィルム状成型のためこの樹脂の溶融工程中の少なくとも1ケ所以上に孔径所定値以下のフィルタ―を導入して金属板ラミネ―ト用フィルムを得る。

2-1-1-3           このフィルム全体に、直径が所定値以上のピンホ―ルが存在せず、フィルムを所定温度で所定時間・加熱処理後の縦横収縮率が各所定%以下であり、フィルム面積が所定値の範囲内である。

2-1-2               少なくとも片面の表面濡れ張力が所定値以上である2-1-1記載の金属板ラミネ―ト用フィルム

2-2 本件補正前、本件訂正後の請求項1,2に記載された発明(以下「訂正発明」)

2-2-1 次の特徴を有する「ポリエステル系樹脂を含む金属板ラミネ―ト用フィルム」

2-2-1-1 上記2-1-1-3の「フィルム全体に」の次を、「検出部電極と検出部ロ―ラ―との隙間・印加電圧・走行速度を所定値に設定し、検出部電極と検出部ロ―ラ―の間にフィルムを走行させて検出される直径所定値以上のピンホ―ルが存在せず」と改める。

2-1-3               2-2-2 少なくとも片面の表面濡れ張力が所定値以上である2-2-1記載の金属板ラミネ―ト用フィルム

2-2                      本件訂正前の請求項1~4に記載された発明

2-2-1 少なくとも金属にラミネ―トされる部分に存在する直径所定値以上のピンホ―ル数が所定値以下、所定温度・所定時間熱処理後の縦横収縮率が所定%以下であることを特徴とする金属板ラミネ―ト用フィルム

2-2-2 熱可塑性樹脂がポリエステル系樹脂である2-2-1記載の金属板ラミネ―ト用フィルム

2-2-3 少なくとも片面の表面濡れ張力が所定値以上である2-2-1または2-2-2の金属板ラミネ―ト用フィルム

2-2-4 水分率を所定値以下に調整した原料から造られる2-2-12-2-22-2-3のいずれかの金属板ラミネ―ト用フィルム

3.        審決の理由

3-1        本件補正は、審判請求書の要旨変更に当たるので認められない。

3-2        本件訂正は許されない。すなわち、

3-2-1        請求項1に係る訂正事項fは、「特許請求の範囲の減縮」・「誤記の訂正」・「明瞭でない記載の釈明」のいずれとも認められない。

3-2-2        訂正事項jも、3-2-1と同じ。

3-2-3        本件訂正後の請求項1,2は、簡潔でなく、発明が明確でない。

3-2-4        訂正発明1,2は、当業者が容易に発明できたもので、独立特許要件を充足しない。

3-3               仮に本件補正が認められる場合であっても、補正発明1,2は、3-2-4と同じ理由で、独立特許要件を備えていない。

3-4               結論として、「以上の通りであるから、本件訂正は、特許法126条ただし書き、同条5項に適合しない。仮に、訂正検出要件が訂正前のピンホ―ル要件を減縮するのであれば、同条3項、4項にも適合しない。また、仮に本件補正が認められるとしても、本件訂正は、特許法126条5項に適合しない。

4.        SANARI PATENT所見

    49ペ-ジにわたる詳細な判決であり、冒頭に記した知財高裁の判断の解析を、逐次試みることとする。

2006年11月16日 (木)

ケイタイ産業の将来・総括

経済産業省・有識者懇談の発言補遺

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

  13~15日の記事で、経済産業省がケイタイ産業政策立案のため、有識者と懇談した内容を考察したが、発言記録を若干補遺する。

1.        大山永昭東京工大教授

    ケイタイには、個人の契約情報を機器から分離するためのSIMチップが導入されているが、電子署名・電子認証にまでは対応していない。

(SANARI PATENT 注:SIMチップが導入されているのは、GSM方式ケイタイである。Subscriber Identification Module。第3世代ケイタイについては、USIM Universal Subscriber Identification Moduleが開発されている。)

2.        中村 勉NEC常務

    ケイタイの情報セキュリティを評価すると、移動体通信のネットワ-クでは、通信そのものをハッカ―に攻撃された例は、世界でも一例もない。問題はコンテンツの出入り口にあるサ-バ―の管理である。ギャランティなネットワ-クサ-ビスと、低価格低品質ネットワ-クサ-ビスというように、情報セキュリティサ-ビスのレベルごとに対応が異なってくる。例えば、ケイタイではHSDPAが新たにサ-ビスインする。これはシンクライアント的利用が可能なサ-ビスだから、情報漏洩は減少する(SANARI PATENT 注:HSDPAは、3.5世代技術と呼ばれる高速ダウンリンクパケット接続方式 High Speed Downlink Packet Accessである。無線接続の伝送効率を向上し、ビットコストを低減できるとされている。シンクライアントシステムは、中村氏所属のNECでは、「顧客統合ソリュ―ションシステム」と称してきたが、端末側にはデ-タ、アプリケ―ションをおかず、サ―バ―側にアクセスして処理する形態であるから、情報漏洩の減少に繫がるとされている)

3.        松本雅史シャ―プ副社長

    ケイタイ用電池として、燃料電池の開発を進めている。米国ではライタ―すら航空機に持ち込めないが、将来、ケイタイ用燃料電池のアルコ―ル燃料を持ち込めるか等の問題が生ずる。今後の研究テ―マである。

4.        経済産業省側

4-1 「アセアン+6」とケイタイ

    アセアン+1でアセアンに日本を加え、アセアン+3で中国・韓国を加え、アセアン+6でインド・ニュ―ジ―ランド・オ―ストラリアを加えるが、アセアン+6の人口は31億人、経済規模は9兆ドルに達する。この16国が多様な分野で協調してゆく上で重要な役割を果たす一つの分野がケイタイである。経済産業省は、OECDの東アジア版を提唱し、19年度予算要求に10億円を計上している。

4-2        僻地医療とケイタイ

    北海道広域や、小笠原等の離島の医療に、ケイタイ活用の技術的研究が必要である。

5.        SANARI PATENT所見

  移動通信システム等の電気通信行政は、総務省の所管に属するから、第4世代移動通信システムの実現など、同省の電気通信行政の動向にも即応するケイタイ技術の開発が必要である。

 総務省は、2010年実現を目指して、100Mbit/sの高速デ-タ伝送が可能な第4世代移動通信システムを計画している。この伝送速度は、第2世代の1万倍、第3世代の50倍で、高速移動中でも高画質な動画像を送受信できるとしている。

2006年11月15日 (水)

ケイタイとデジタル家電の共通のプラットフォ―ムが国際セ―ルスポイント

キャリアとの関係、第4世代展望(経済産業省のケイタイ有識者懇談会補遺)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 昨日までの記事に十分登載できなかった有識者発言を、以下に収録します。

1.        大山永昭東京工大教授

  ケイタイの重要な課題は、国際競争力の強化・規格の共通化・新しい活用方法の三項目に集約できる。

 規格の共通化は、ユ-ザ-から見れば当然のことで、海外に赴くときなど、機種ごとの充電器を持参する不便を除く必要がある。

 地上デジタルTV受像機の場合と同様に、ベンダ―は、国内キャリアしか見ておらず、国内キャリアは、国内市場しか見ていない。その結果、わが国のケイタイ端末が海外で通用しなくなっている。

 これからのケイタイ産業は、キャリアのビジネスモデルの内でのみ進んでゆくのではなく、ベンダ―は国内にとどまらず海外と提携し(SANARI PATENT 注:海外のキャリアおよびメ―カ―と解する。従って、知財面の提携をも含む。)またキャリアも、海外のケイタイ産業を注視する必要がある」。

2.        中村 勉NEC常務

  「ケイタイ産業について、台数ベ―スで世界シェアが少ないとか、国際競争力が弱いとか指摘されるが、ケイタイ関係機器全体の市場としては、ケイタイ部品・材料メ―カ―が世界市場で高いポジションを占めていることから、金額ベ―スでは十分潤っている。セットメ―カ―が何故、世界市場で高いポジションを獲得できないかといえば、国内市場で収支を自足・満足していること、および、言語の問題があるが、ユ-ザ-の視点を重視しつつ、わが国の世界的に優秀な技術をどのように活かすか、考えるべきである」。

3.        大石久和国土技術研究センタ-理事長

  「高齢者・障害者が社会参加できる仕組みを、国土交通省・経済産業省共同で検討しているが、そのインフラの一つとしてケイタイによる位置情報を考えている。このシステムは、外国人観光客に対する外国語での案内にも活用できる」。

4.        藤元健太郎ディ―フォ―ディ―ア―ル社長

  「第3世代になると、ハ―ドウェアよりも、キャリアやピロバイダが提供するコンテンツの市場が拡大する。グ―グルのような新ビジネスを開拓する人達がコンテンツ産業をリ―ドする。新サ-ビスの創造には特定キャリアに依存しない技術・サ-ビスが必要である。海外に進出する場合にも、iモ―ドのような特定キャリアに依存しない形で展開できるようにすべきである」。

5.        櫛木好明パナソニックモバイルコミュニケ―ションズ社長

「わが国は第3世代ケイタイを世界に先駆けて開発し、第4世代の開発に入っている。今後5年間に世界のケイタイ産業が非常に大きな変貌期にあることは、わが国にとって好機である。グロ-バルに、ケイタイが単なる電話からゲ―トウェイに変貌し、さらに高機能化が進む入り口に立っている。わが国のケイタイ産業が飛躍するため、グロ-バルな共通化のコンソ―シアムやアライアンスをしっかり組んでゆくべきである。

 さらに国際競争力を向上させるには、わが国が強い競争力を持つ材料・部品産業とセットメ―カ―を繋ぐことが重要である」。

6、竹内敏晃日本電波工業会長

   「ケイタイ用の受動電子部品では、日本メ―カ―は世界シェアを6割以上占める。部品メ―カ―が強いのは、国外にも目をむけねばならぬ環境にあったからである。

  第3世代以降については、日本独自の方式に固執さず世界に目を向けて、その中で日本の強さを発揮する方法を考えるべきである。

  ケイタイのプラットフォ―ムをデジタル家電でも共通に使用する傾向があるが、そのプラットフォ―ムはメ―カ―独自のもので、共通性がない。世界標準となる第3世代に準拠したケイタイのプラットフォ―ムがデジタル家電のプラットフォ―ムと共通であることをセ―ルスポイントとして世界市場に切り込んでゆく戦略が有効である。問題は、共通のプラットフォ―ムづくりである」。

2006年11月14日 (火)

ケイタイ分野のオピニオンリ―ダ―

経済産業省が新政策策定のため御意見拝聴

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 

 国民生活の高度化指標は、様々な見地から選択されるが、高機能情報機器の対人口普及率から見れば、わが国は、低年齢層を含むケイタイ利用率において、世界の首位に列すると考える。

 その一層の発展を経済産業省が推進するに際し、オピニオンリ―ダ―と目される有識者数名を招いた。

1.        わが国ケイタイ産業の特徴:

1-1        中村維夫ドコモ社長の意見

    日本のケイタイ産業の特徴は、ベンダ―数が多く競争が激しいこと、端末のライフサイクルが非常に短いこと、端末が著しく高機能化していること、従って端末の価格が高いことである。メ―カ―の努力にも拘わらず、高機能化のため価格が低下せず、キャリア(SANARI PATENT 注:NTT等の通信事業者)が国内ベンダ―と共同開発し、リスクをシェアしている。

  また欧州を中心として(SANARI PATENT 注:規格が近似しているから欧州を)、海外のキャリアと提携し、端末の共同調査を行っている。わが国ケイタイ産業の競争力向上のためには、グロ-バル規模でのプラットフォ―ムの共通化により、端末のコストを低下させたい。

1-2        考察

   わが国の電気通信関連事業が、NTT・KDDIの国内需要高度化に重点をおく経営に誘導されて、ケイタイ産業も、キャリアのビジネスモデルの内で知財開発を進めてきた。

「その結果、日本のケイタイ端末が海外で通用しなくなっている」という発言もみられるが、キャリア・機器メ―カ―ともに、ITU国際標準化活動に積極的に参加してきたことも事実であり、むしろ、海外のケイタイ需要が高機能化指向を強めることが望まれると、SANARI PATENTは考える。

2.        ケイタイメ―カ―の国際競争力

2-1        安部忠彦富士通総研取締役の意見

   わが国のケイタイメ―カ―の国際競争力を論ずる場合、世界シェアのみに着眼するのは妥当でない。競争している土俵(韓国では優遇税制もあるので、そこまで考慮して競争力を論ずる必要がある)、基本特許の数、利益率等も考慮する必要がある。

  また、海外に進出するためには、ユ-ザ-の文化まで考えることが必要で、この意味で、コンテンツとのスクラムが重要性をもつ。

  ケイタイ端末のわが国内開発は、高機能・高価格にならざるを得ないので、海外市場拡張には何らかのインセンティブが必要であるが、例えば、ODAで海外のキャリア基地局を整備すること、クアルコムの特許に対応できるような最先端技術に対する国の支援を強化すること等が考えられる。

2-2        考察

   経済産業省の平成19年度予算要求には、経済成長戦略枠として3千億円を確保し、この内に、コンテンツ・アプリの面におけるケイタイとの関係・連携を踏まえつつ、コンテンツ国際カ―ニバル開催等の経費が組まれている。           中国の上海万博も、わが国コンテンツを世界に広げる好機と考えられており、それはケイタイにとっても大きな舞台と想定されている。

  ちなみに、わが国コンテンツ産業は、現在13.5兆円の経済規模を有するが、2015年には20兆円規模となり、農業の現在9兆円と比べても、大きな経済力となることが想定されている。

2006年11月13日 (月)

諸分野の有識者が見るケイタイの将来

わが国コンテンツとケイタイのスクラムによる世界市場展開

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 ケイタイとそのコンテンツは、特許権・意匠権・著作権等の知財と、超微細技術・希元素素材、また、アナログ・ライブ・デジタルの創作が凝集した人智の結晶であるから、このたびケイタイの将来について経済産業省が広く意見を公募するに際しても、諸分野の有識者の意見を大臣以下が詳細に拝聴している。事項別に、その内容を要約・考察する。

1.        ケイタイとコンテンツのスクラム

1-1        小川善美インデックスホ―ルディングス社長の意見:

私達は現在、ケイタイ・インタ-ネット上で全世界にコンテンツを配信している。ケイタイは、コンテンツ配信の重要なプラットフォ―ムであり、ケイタイが世界シェアを獲得することは、コンテンツの世界シェア獲得のため重要である。ケイタイの発展に不可欠な先端技術に対し、オ―ルジャパンで支援すべきである。

1-2        考察

   わが国ケイタイの多機能性と、わが国コンテンツの先進性・斬新性(オタク・多神教・新型ゲ―ム等)は、共に質的に全世界の評価を得ているが、世界市場におけるシェアは、機数・金額的ともに低い。スクラム( 注:これはSANARI PATENTが用いた用語で、小川社長の発言にはない)を組んで進展すべきである。しかし、世界市場低シェアの原因として、ケイタイ・コンテンツそれぞれに特有の問題があることは、別の有識者の発言で補完される。

2.        ケイタイの世界シェア

2-1        松本雅史シャ―プ社長の意見

ケイタイ機の世界シェアは、わが国ベンダ―全体でも10%未満である。しかし、見方を変えれば、今まで第2世代の競争の土俵は、欧州が提唱したGSM(SANARI PATENT 注:Global System for Mobile Communications)の世界であった。一方、これからの第3世代の広帯域CDMA方式(SANARI PATENT 注:Code Division Multiple Access:符号分割多重接続方式)では、わが国上位3社で30%を超えるシェアを持つ。世界市場が第3世代に移行しつつある今こそ、わが国の強みを活かすチャンスである。

 また、わが国メ―カのと海外メ―カ―の製品を比べると、品質・安全性ともにわが国が遥かに優れている。しかしその分、開発コストが高額になり、高機能化が高価格化の原因になっている。世界市場に進出するためには、国内のように高機能一辺倒でなく、世界の市場ニ―ズに適合する必要がある。

 さらに、わが国では、キャリア(SANARI PATENT 注:NTT・KDDIのような通信事業者・オペレ―タ―)の指導を受けてメ―カ―のレベルが向上してきたという経緯があるが、海外では、ベンダ―主導の商品をキャリアが受け入れているという状態である。わが国の仕組みが海外でも巧みに通用するよう、メ―カ―とキャリアの連携で世界市場を拡大したい。

2-2        考察

    ケイタイは、第一世代のアナログケイタイから第二世代のデジタルケイタイを経て、IMT2000規格(国際電気通信連合:ITU)準拠の第三世代デジタルケイタイに移行しつつある。しかし、ITUの第三世代国際標準化は、拡張規格ないしはファミリ―規格と称する複数規格の総称であり、実質的に一本化した国際標準化ではない。従って、この複数規格間に、熾烈な国際競争が展開されてゆくこととなった。

   SANARI PATENTは、この競争の帰趨が結局は、市場制覇のデファクト国際標準化に帰着すると見ている。平たく言えば、多国籍企業や、国境を超えた企業集団の、力づく(技術・販売力)の国際競争である。

2006年11月12日 (日)

情報セキュリティ政策における基本的・優先的課題:経済産業省が案を公表(2006-11-08)

知財戦略は、情報セキュリティといかに関連すべきか(上記課題案の記載に欠如)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 経済産業省商務情報政策局(情報セキュリティ政策室)によれば、情報セキュリティに対する企業の意識改革は依然として十分には進んでいない。このため経済産業省は、産業構造審議会情報セキュリティ政策会議を新設して本月2日に第1回会合を開催したが、先ず標記課題について、広く意見を求めることとし、課題案を公示した。その内容を要約し考察する。

 案文に「知財」の語が見当たらないことを奇異に感ずるが、別途検討したい。情報セキュリティのための知財創造、その国際標準化、その特許権制限等が、課題として登場すべきである。

1.        公示案の要約

1-1        情報セキュリティに内閣調整機能の発動

   2000年に始まり、次のような経過を経ている。

  2000

    不正アクセス行為の禁止等に関する法律施行

    電子政府情報セキュリティ基盤技術開発事業発足

    内閣官房に情報セキュリティ対策推進室設置

    暗号技術評価委員会発足

    電子署名及び認証業務に関する法律施行

  2001

    電子政府の情報セキュリティ確保アクションプラン策定

    セキュリティ評価・認証制度創設

  2002

    内閣官房に緊急対応支援チ―ム設置

    情報セキュリティマネジメントシステム適合性評価制度創設

  2003

    情報セキュリティ管理基準・監査基準策定

    情報セキュリティ総合戦略策定

  2004

    電力サイバ―テロ対策等促進事業発足

    脆弱性関連情報届出制度創設

  2005

    企業の情報セキュリティガバナンス研究会発足

  2006

    内閣官房に情報セキュリティセンタ-設置

    情報セキュリティ政策会議を内閣に設置(IT戦略本部)

1-2        三つの戦略

1-2-1        しなやかな「事故前提社会システム」の構築(高回復力・被害の局限化)

1-2-2        「高信頼性」を強みとするための公的対応の強化

1-2-3        内閣機能強化による統一的推進

1-3               情報セキュリティの危機

1-3-1        情報セキュリティが企業価値に与える影響が潜在的に巨大化している。

1-3-2        経済的利得を目的とした危険性の高い脅威が増大している(オンライン詐欺等)

1-3-3        無差別的攻撃に加え、特定の者を対象とする攻撃が増加している。

1-4               企業の情報セキュリティの未熟

1-4-1        わが国企業の情報セキュリティ対策の現状は、ウイルス対策ソフトやフザイアウォ―ルの導入等、初歩的対策を主とし、セキュリティポリシ―の策定率は増加しているが、セキュリティ監査といった高度な対策は未だ不十分である。

1-4-2        大手企業のほとんどのWebサイトに脆弱性が発見されるなど、新たな脅威に対して対策が及んでいない。

1-5               情報セキュリティの環境変化

1-5-1        情報家電の急速な変容・ユキビタス指向が急進している。

1-5-2        Web2.0市場が急拡大している。

1-6               今後の検討課題

1-6-1        優先的・重点的に検討を行うべき分野はどこか。

1-6-2        上記分野において、対応が不十分な課題は何か。

1-6-3        技術・社会の変化に対応して出てくると考えられる新たな課題は何か。

2.        考察

2-1        今次経済産業省公示案は、「論点1」として、次のように述べている。

「内閣官房を中心として国・自治体・重要インフラ等に係る情報セキュリティ対策が統一的に推進されることを踏まえれば、経済産業省が優先的に検討すべき分野は、企業・個人に係る情報セキュリティ対策及び全体を支える基盤等ではないか」。

 この記述のように、内閣官房と経済産業省の担当分野を画定すること自体が適切でない。国・自治体・重要インフラの全てが、情報分野の企業の受託によって構築され保守管理されていることは、電子政府機能・重要インフラ機能(特許庁や東証等の機能も含めて)の構築と保守を受託する電子産業企業の個別受注状況を見れば、明白である。

また、情報セキュリティ技術の高度化に伴い、情報セキュリティのアウトソシングが一群の情報セキュリティ企業に委託して行なわれる傾向が進んでいる。

すなわち、企業に係る情報セキュリティの課題を緊急に解決することと、公的情報セキュリティを確保することとは、不可分の課題である。

2-2        公示案は、論点2として次のように述べている。

「優先的・重点的に検討すべき分野において、対応が不十分な課題は何か。例えば、企業については、企業がさらされている情報セキュリティ上のリスクは何か、個人については、情報セキュリティは個人の活動の中でどのように位置づけられるべきか、など」。

 例示を含めて設問自体がやや抽象的であるが、最近の具体的発生事例を引用して、類型化することが実戦的である。例えば、みずほ証券が東証に損害賠償請求している情報処理機構の欠陥事件も、広く情報セキュリティの概念に含めて、東証およびそのシステムを設計した企業の情報セキュリティの課題として対処すべきである。

 同様に、個人の情報セキュリティについても、IDやパスワ―ドをフィッシュされたとか、銀行カ―ドの紛失なくして預金を引き出されたとか、具体的事例について、広義に情報セキュリティの課題とすべきである。

2-3        公示案は、論点3として次のように述べている。

「優先的・重点的に検討すべき分野において、技術・社会の変化に対応して出てくると考えられる新たな課題は何か」。

 公示案は6項目を例示しているが、いずれも適切な指摘であり、SANARI PATENTにおいても、逐次検討を進めたい。

2006年11月11日 (土)

食材知財論、参議院農林水産委員会で活発

WIPO事務局長が、植物新品種保護国際同盟の事務局長を兼務

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 今次第165回国会の参議院農林水産委員会は、1026日から本格審議を開始したが、先ず谷 博之委員の「知財権問題」質疑と、松岡利勝農林水産大臣の答弁を要約する。

1.        質疑応答

1-1        韓国産のイチゴについて:

1-1-1 (質疑)地域の創意工夫で、4ヘクタ―ル超の「認定農業者」、あるいは個々の小農家が集落という形でまとまって営農してゆくという農業経営政策の方向性は理解できるが、ここでは具体的にイチゴの問題を取り上げる。実は栃木はイチゴの産地として福岡その他の優秀なイチゴ産県と競っているが、実は韓国産のイチゴの品種は、その9割が日本のイチゴだといっていることは、周知のこととなっている。

  そこで知財権の問題が関わってくるが、実はこの育成者権者に対するロイヤリティが全くない。つまり、日本のイチゴの苗を勝手に持って行って、向こうで安価な労働力を使って栽培し、そして安いイチゴが逆に日本や他国に輸出されるという現象になっている。栃木からも韓国に事実確認のため赴いたが、なかなかこれが、結果的には明確には分からなかったが、こういう現象は依然として続いている。

 UPOV条約(SANARI PATENT 注:The International Union for the Protection of New Varieties of Plants:内容は後述)に韓国も加入しているが、イチゴは未だ保護対象になっていない。従って、上述したことが韓国側ではできるわけだが、わが国イチゴ栽培者は大きな不利を受けつつあるので、育成者権保護の充実を一日も早く実現すべきである。

1-1-2 (応答)日本で苦労を重ね、技術・財政投資もして開発した成果を、安易に海外に持ち去られ、栽培されて日本に売られる事態が幾つかあって、国際的にも解決すべき問題であるに拘わらず、WTO交渉の場でも利害関係から順調には進まない。

  例えば、WTOのGIという地理的表示の問題にしても、EUは熱心に主張するが米国は反対する。

  イチゴのほか、牛肉にしても、例えば上海で和牛といって、または神戸牛といって売られている。種苗法・関税定率法の改正など、対策にしっかり取組む。

1-2 農家の協力創造に対する国レベルの対処について:

1-2-1 (質疑)中小企業庁が特許侵害の現地調査に補助金を出しているが、農林水産省も同様に支援スキ―ムを早急に整備すべきである。栃木の「とちおとめ」というイチゴの、韓国との問題についても、国レベルで対処すべきである。

   著作権・特許権に比べて、農業分野の知財保護は、非常に遅れているが、農家の人々の協力に成る創造については、同様以上の保護をすべきである。

1-2-2 (答弁) 経済産業省の中小企業知財対策も大いに参考にする。なお、品種保護について、18年度には、つくばのGメンを4名から10名に増やした。

2.        植物新品種保護国際同盟に関する国際条約(以下「UPOV」)

2-1 同盟の目的:

加盟国60国(2006-4)1968年に発効した条約により設立。植物新品種の育成者権の保護により、良質(耐病性等)・多様な新品種の育成を振興・普及し、農業の発展に資する。

2-2 活動内容:

2-2-1 品種審査の調和:

    植物新品種の審査に関して加盟国内の調和の達成のためのガイドラインを作成し、条約解釈等の法律的問題を検討・勧告する。

2-2-2 審査協力の推進:

    行政手続の調和、情報交換など。

2-2-3        活動規模:

    200607予算は約5億8千万円。スタフ11名のうち日本人1名。

3.        SANARI PATENT所見

  知財専門家の条約知見を、UPOVに拡大する必要がある。しかし、その加盟国数は、上述したように、国際連合加盟国数192国の3分の1に満たない。かつ、その拘束力が現在は、韓国等のイチゴに及ばず、国産イチゴの国内市場のみならず、海外市場をも侵食されていることも事実であると考える。いわゆるニセモノの品質が「低品質」である場合は表示の不正を直ちに詐欺罪で問責できるが、「高品質」である場合、その抜本的解決は、わが国農村振興の達成を大前提として、国産イチゴが品質だけでなく生産コストにおいても、生産の規模・施設の創意を含めて、「高品質・極力低価格」を期し得る創造を成し遂げることに俣たなければ容易でない。食材知財創造の価値も究極的には、電子製品等と同様に、広く国民・世界市民の生活に極力低価格をもって浸透することによって、評価されるからである(知財権の究極目的論)。

2006年11月10日 (金)

オ-プンイノベ-ションのもと、リニア型イノベ-ションモデルからノンリニア型イノベ-ションシステムへ(産学連携の基盤)

産業構造審議会産業技術分科会意見公募完了(2006-11-6)、産学連携の新方策立案へ

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 安倍総理のカタカナ演説が著名である以上に、経済産業省が先日意見公募を完了(2006-11-6)した「産業構造審議会産業技術分科会の産学連携に関する中間まとめ」(以下「中間案」)は、カタカナに誘導されている。従って、先ずカタカナの意味を再確認したい。

オ-プンイノベ-ション:

  企業が、内部のアイデアだけでなく、外部のアイデアをも活用し、それを市場投入する際にも、内部と外部の両者を見据えて選択する、という前提に基づくパラダイム(SANARI PATENT 注:考え方の枠組み)である。 

リニア型イノベ-ションモデル

  基礎研究から応用研究を経て開発・事業化に至る従来型の企業内部型の段取りのタイプである。

ノンリニア型イノベ-ションシステム

  企業が、外部の研究資源をも活用して開発・事業化に至る企業外部利用型のシステムである。

1.        中間案による「産学連携の現状」

1-1        産学連携を取り巻く環境の変化

   オ-プンイノベ-ションが進展する中で、企業は研究開発のツ―ルとして産学連携を明確に位置づけ、一方、国立大学は法人化に伴い、産学連携による研究成果の社会還元が、教育・研究と並ぶ三つの役割の一つとして位置づけられた。

 また、先端的・融合的分野においては、企業の研究開発も、高度化・複雑化した技術的課題に対して、基礎科学のレベルまで立ち返った研究が求められる等、産学の距離が変化した。

1-2        企業の研究における外部委託の拡大

   イノベ-ションの短寿命化や態様の変化により、企業の自前主義が成立しなくなると共に、リニア型イノベ-ションモデルが継続できなくなっている。

従って、企業はノンリニア型イノベ-ションシステムへの変化が求められ、特に大学の基礎研究に対する期待が増大している。

1-3        海外研究機関等との連携

    企業から外部への研究資金の流れは、対海外研究機関が対国内大学の約2.5倍である。その差は年々拡大している。わが国企業は、海外の大学が国内のそれより優れた点として、大学側に企業ニ―ズを踏まえた提案能力があること、大学が法人格を有し、責任ある契約を柔軟に締結できること(SANARI PATENT 注:法人格は、わが国の大学も全て有することとなっている。問題はその熟成度である)、事務部門や他学部の教授等の学内人的資源の横断的協力体制が構築されていることが挙げられている。

1-4        TLOと知財本部

    平成10年にTLO法制定以来、42のTLOが承認され、これらのTLOの支援を受けている大学数は約170に至っている      (2006-9-30現在)。また、平成14年に大学の教員が生んだ特許を大学の機関帰属にする文部科学省方針が出され、平成15年度から大学知財本部が設置開始されて現在43を数える(SANARI PATENT 注:現在、全国大学数は約750に達するから、比率としては随分少ない数字ともいえる)

   ロイヤリティ収入は、平成17年度にTLOが8億4千万円、大学が6億円である(SANARI PATENT 注:大学の収入は、TLO経由と非経由との合算と推測する。慶応大学全体で2億円以上のロイヤリティを得ていると推定されるから、大学間格差は、顕著である)

1-5        米国との対比

   米国の産学連携は1980年に発足し、年間1200億円を超えるロイヤリティを得ている。ただし格差も大きい。

   産学連携を地域経済や医療への貢献(Orphan Dragへの貢献等)を示す意味で行う大学、ITソフト分野で技術革新が高速のため特許取得のメリットが乏しいとして原則公開にする大学等、多様性も見られる。

2.産学連携の評価と課題

2-1 国立大学法人化後の産学連携

2-1-1 平成16年4月の国立大学法人化直後には、共有特許に係る不実施補償、共同研究の間接費負担、情報管理など、産学間の考え方の隔たりが大きかった。

  しかし、その後の各大学における技術移転体制の整備、業務の定常化など運営面が改善し、一部の問題を除いて産業会からの評価は、急速に向上している。

2-1-2 これは産学双方が契約交渉において、互いの事情を踏まえつつ柔軟に対応する取組を進めた結果であるが、企業側からはなお、大学からビジネスの常識に反する要求があるとか、契約に係る調整能力を欠くとかの苦情も残存している。

2-2 産学連携の諸態様

2-2-1 東大では、研究の成果に重点を置き、共同研究に入る前の段階で企業との間で徹底的に議論し、双方が合意できる共同研究計画を策定するプロセスをとる。

3-2-2 大学が、組織としての役割として産学連携を位置づけることにより、「組織間組織」の理念が進展している。京大と、通信・電機・化学・電子デバイスのメ―カ5社による組織間連携が、折り畳めるディスプレ―や高効率太陽電池等の具体的成果を挙げている。

2.        SANARI PATENT所見

上記(要旨)の現状評価は、東京工大の教授が提起した対大学・企業訴訟判決(2006-03-23東京地裁)などを見ると、やや楽観的に過ぎる観があり、さらに大局的には、TLOや知財本部の設置率自体が著しく低いことにも触れていない。

さらに、大学教授と地域中小・ベンチャ-企業者との個人的連携の評価も試みていない。

従って、詳細な対策の検討は、日を改めることとする。

2006年11月 9日 (木)

弁護士・行政書士・司法書士の知財業務に関するパブコメ要旨

内閣知財戦略本部ホ-ムペ-ジ「知財サイクル」中に公表(2006-10-25)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        パブコメ(意見募集)の経緯

    内閣知財戦略本部は、知財推進計画07の策定を控えて、知的創造サイクル推進のための検討課題につき、各界の意見を官邸ホ-ムペ-ジにより公募したが、9月22日から10月13日に至る間に7団体や個人から寄せられた意見の要旨を、官邸ホ-ムペ-ジに公表(2006-10-25)した。

   内容が広汎にわたるので、ここには、標記人材関係のパブコメについて、その要旨を考察する。

2.        意見の要旨と考察

2-1        弁護士について

2-1-1        パブコメ

弁護士知財ネットに「中小・ベンチャ-企業」カテゴリ―を作り、得意取扱分野を明示すべきである。

2-1-2        考察

    弁護士知財ネットのホ-ムペ-ジには、「日弁連としては、弁護士知財ネットからの依頼により、研修の講師を各地に派遣する等の必要な支援を行う」と明示されているので、日弁連の「過疎地公設弁護士事務所」を通じ、中小・ベンチャ-企業が需要分野の弁護士サ-ビスを受けるル―トが開かれていると考える。加えて弁護士知財ネットは、「各地域の実情や利用者のニ―ズに合致した活動を独自に展開してゆく」と宣言しているので、中小・ベンチャ-企業の要請と結びつけることが可能である。

    知財が、コや食材・ファッションを含めて生活と産業の全分野に浸透している現在、弁護士全てが知財弁護士として、米国の弁護士百万人(うち特許弁護士2万3千人)の数は別として、活動が期待される。

2-2               行政書士について

2-2-1        パブコメ

    弁護士・弁理士に加え、契約書作成および契約代理が認められている行政書士の情報も拡充すべきである。

    また、特許庁への特許等の譲渡登録の代理権が認められていることから、知財に詳しい行政書士の育成にも取組むべきである。

2-2-2        考察

    行政書士法の現行法は、平成17年7月26日法律87号で、平成18年5月1日に施行されたが、第1条の2および第1条の3第2号により、「他の法律により制限されているものを除き、「契約その他に関する書類を代理人として作成すること」ができるが、知財の範囲が特許庁所管外にも、育成者権、著作権等、広汎化しており、「官公署に提出する書類の作成」という業務の外延は拡大しつつある。

    一方、弁理士法第4条の工業所有権の手続に関する業務の規定は、工業所有権に係る手続の円滑化の重要性が平成12年前文改正の前後で特段の事情の変更がないことから、改正されていない。従って、パブコメの「また」以下の意見については、「特許等の」の「等」の内容と併せて、限界を明確に認識する必要がある。 

2-3               司法書士について

2-3-1 パブコメ

    知財訴訟を含む簡易裁判所の単独訴訟代理権を有する認定司法書士が1万人に達し、さらに全国に分散していることから、認定司法書士の活用を検討すべきである。

2-3-2 考察

    「法廷に立つ司法書士」と題して、朝日新聞論説委員室は、次のように述べた。

「司法書士は3年前から、弁護士と同様に、簡裁民事裁判や和解交渉の代理人ができるようになった。日本司法書士会連合会によると、こうした代理人業務は昨年、約14万件にのぼった」。

    地裁の民事訴訟件数が年間約16万件、うち原告・被告とも本人訴訟である件数は20%強であるが、簡裁のそれは年間30万件を超え、約80%が本人訴訟であった。

    3年前までも、司法書士は訴訟書類の作成はできたから、実質的に本人訴訟を支持してきたと見られる。

   知財高裁設置を可決した国会においても、電気通信による訴訟手続が強調されると共に、司法書士の単独訴訟代理権の活用が政府答弁されたから、パブコメの意見は、検討に値すると考える。

2006年11月 8日 (水)

経済産業省が弁理士制度について意見を公募(2006-11-03公示)

弁理士試験制度、外国出願関連業務、不正競争防止法業務、単独訴訟代理権、水際代理権、特許事務所補助員等

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        意見のキ―ポイント

  行政庁が意見を公募し、多くの国民が意見を述べることは、行政訴訟制度の事後救済に比べて遥かに建設的であり、先ず公募の周知が必要である。かつ、行政庁が意見を公募する行政目的を明示し、これを意見のキ―ポイントとして応募がなされることが、公募の目的達成に必要である。

 そこで今次公募の目的を、経済産業省公示案(以下「公示案」)の記述により要約し、考察する。

1-1        基本認識

1-1-1        公示案

     経済のグロ-バル化。情報化・少子高齢化の加速により、国富の源泉が従来の「ものづくり」から技術・ブランド・デザイン等の「情報」へとシフトしている。

1-1-2 考察  

「シフトしている」という用語は、「ものづくり」振興の方策を誤解させる惧れがあるから、「拡大している」と改めるべきである。

1-2 基本認識その2

1-2-1 公示案

     わが国が国際競争力を維持するため、知財制度の重要性が高まっている。

1-2-2        考察

     国際競争力の比較基準を示していない。「低コスト」を基準にするなら、特許査定率や弁理士費用の妥当性にも踏み込むべきである。

    また、国際的イコ―ルフッティングの立場から国際競争力を論ずる場合は、弁理士業務周辺の弁護士等業務についても、米国の弁護士百万人・特許弁護士2万3千人等の評価について検討すべきである。

1-3               基本認識その3

1-3-1        公示案

     弁理士のり量的拡大の維持および資質の向上と責任の明確化に向けた方策について検討を行ってきた。

1-3-2 考察

     「量的拡大の維持」という用語は、「これまで量的拡大した結果の維持」とも読めるし、「これまで通りの逐年拡大の維持」とも読めるから、知的財産推進計画の「知財人材倍増計画」との整合や、弁理士志願者の思案、地方弁理士需要に応答するためにも、「量的拡大の維持」の内容を明示すべきである。

    公示案は、「量」については、検討の内容に含めて、直接的記述を全く行っていないと見られる。 

     

2.        弁理士研修制度について

2-1  今後の検討

2-1-1 公示案

    2種類の義務研修を導入するが、具体的研修内容を、検討してゆく。

2-1-2 考察

現在、義務的研修は、公認会計士のみに導入されているが、他の士業については、例えば、弁護士法第2条の「事務精通等、職責の根本基準」規定に基づく自己研修等、および、これを怠った場合の懲戒で担保してきた。

 少なくとも、公示案の諸所に見られる「検討」を、極めて十分に行わないと、過渡的不便発生(弁理士需要者にとっても)の惧れがある。

2-2 研修対象者

2-2-1 公示案

研修義務者は、新規登録者と既登録者とする。

2-2-2        考察

    弁護士の弁理士登録について、「新規登録」に含めるのか、明示していないので、字句上は、含まれると解するが、弁護士の弁理士参入を促進する十分な措置が必要である。

3.        懲戒制度について

3-1        公示案

    行政庁・日本弁理士会による懲戒・処分の効率性・実効性について検討する。

3-2        考察

   冒頭の「国際競争力」のもかんがみ、米国と比べると、米国には日本弁理士会に相当する機構がなく、米国審査基準には、「米国特許商標庁は、特許弁護士の報酬等について干渉しないが、不当に高額な対価を依頼者に要求したような場合は、干渉する」旨を定めている。

    公示案の両建制度の実際透明度が高く、国民の信頼に応えることが必要であるから、公示案の「懲戒・処分基準の公示」は、現時点で、早急に実施すべきである。

 

2006年11月 7日 (火)

携帯電話機産業の課題と方策(経済産業省案を公示2006-11-02):機器の機能と企業連携の質的変容

国内出荷4432万台、世界出荷2億2550万台(2005)の内外シェア

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 平成19年4月1日施行の意匠法改正の主眼の一つが「ケイタイの表示画面デザイン」意匠であることに象徴されるように、ケイタイは、知財戦略の諸分野において主要な地位を占めている。ケイタイの機能を構成する特許権、これを戦略とする機器の国際標準化、また、電波周波数管理を核心とする電気通信の国際標準化(ITUのパテントポリシ―)等、知財政策における内容の多岐・濃密と、外延の広さは、他製品の多くを上回る観がある。

 ケイタイは、電気通信機器産業行政と電気通信行政の双方の対象であるが、経済産業省は、このたび、「携帯電話機産業の将来の在り方に関する課題と方策について」と題して、同省の関係有識者懇談会の議論整理結果を示した(2006-11-02)。その内容に基づいて、携帯電話機産業(以下「ケイタイ産業」)の将来政策について考察する。

上記したように、広義のケイタイ産業には、ケイタイ機器産業とケイタイ電気通信産業の両者が含まれるが、ここでは対象をケイタイ機器産業に限定する。

1.        ケイタイ機器メ―カ―の現況

1-1        ワンセグ受信やICカ―ドなどケイタイの高機能化・新サ-ビス対応が進み、国際競争も激化しているので、ケイタイメ―カ―の開発における連携や規格の共通化、新サ-ビス実現の取組みなどの方向性を策定する必要がある。

1-2        国内メ―カ―は現在11社(松下・富士通・NEC・シャ―プ・三菱電機・ソニ―エリクソン・東芝・三洋電機・京セラ・日立・カシオ)が、海外メ―カ―の参入(ノキア・モトロ―ラ・サムスン・LG電子・パンテック)を迎えて、国内市場で競争を激化している一方(国内出荷シェアは2005年4432万台のうち、パナソニック17.0%、NEC16.5%、シャ―プ16.0%、東芝12.5%)、世界市場におけるプレゼンスは低く、全社合計しても1割程度のシェアを占めるに過ぎない(世界出荷シェアは、2005年8億2550万台のうち、ノキア32.1%、モトロ―ラ17.7%、サムスン12.5%、LG6.7%、ソニ―エリクソン6.2%、その他のわが国ほか24.9%)。

1-3        国内市場は、「端末のライフサイクルが極めて短い」、「端末の高機能化は他国より格段に進んでいる」、「市場規模に比してメ―カ数が多いなどの点で特異な市場であり、この特異性が結果的に国際市場での不利要因になっている(SANARI PATENT 注:ここでの経済産業省の記述と、後記3での経済産業省の記述が、共に不完全と思われる。両者を総合して理解することが必須である)

1-4        また国内キャリアが市場確保のため販売促進費用を負担し、高機能端末開発のため共同研究開発の形でメ―カ―とリスクシェアし、メ―カ―がキャリアに依存する体質の一因となっている(シェアはNTTドコモ55.6%、au25.9%、ソフトバンク16.3%、Tu-Ka2.2%)。

1-5        研究開発コストの削減等のため、松下とNEC,富士通と三菱、日立とカシオ等で共同開発が組まれてきたが、さらに,コア・デバイスや基本ソフト共通化の連携が活発化している(松下・NEC,ドコモ・シャ―プ・富士通・三菱・ルネサス)。

2.        ケイタイの機能・コンテンツの現況

2-1        電話・メ-ルからインタ-ネット(iモ―ド等)・カメラ・音楽プレヤ―・ゲ―ム・ナビ・PCサイトビュ―・TV受信(ワンセグ)・サイフへと多機能化が進んでいる。

2-2        全ケイタイ契約数に占めるインタ-ネット契約数の割合は、80%を超えた。

3.        ケイタイ機器メ―カ―の海外進出の展望

3-1        世界市場におけるわが国、メ―カ―のプレゼンスが低位である理由として、次の諸点が指摘される。

3-1-1        通信方式が、世界の主流は欧米提案の第2世代GSM、わが国は独自のPDCと、相違している。

3-1-2        ニ―ズが、世界市場の単機能・低価格、わが国の高機能・高価格と、相違している。

3-1-3        市場開拓力が、世界市場ではメ―カ―の自力、わが国では国内キャリア依存傾向と、相違している。

3-2               第2世代と異なり第3世代では、国際的に規格が統一され、技術・品質・安全性の優れた日本製品が世界共通の場で競争でき、わが国の優位点を活かす好機である。わが国の部品産業やデジタル家電産業は、世界的にも強い競争力を持ち、これを活かし得る(SANARI PATENT 注:経済産業省の記述には、「機器メ―カ―とは対照的に」とあるが、機器メ―カの競争力が弱いように読まれる惧れがあるので、ここでは伏せておいた)

3-3               採るべき方策

3-3-1        海外市場に眼を向ける。

3-3-2        海外キャリアと連携する。

3-3-3        国内で、機器のメ―カ―間・関連事業者間の連携を強化する。

4.        先端技術開発と国際標準化の推進

4-1        基盤特許取得のための研究開発に対する支援を、オ―ルジャパンの視点から国が行う。

4-2        わが国発の先端技術のグロ-バル規格化(SANARI PATENT 注:国際標準化と同義と解する)のため、デジュ―ル分野におけるグロ-バル規格策定に官民一体で取組む(SANARI PATENT 注:なぜデジュ―ル分野に限定したのか、ここでは説明がない)

5.        ケイタイの安全性・利便性の確保

6.        ケイタイの新しい活用方法の開発(医療・福祉・観光)

7.        SANARI PATENT所見

    経済産業省は、「今後さらに検討を深める」と結んでいるので、上記5および6を含めて、各位と共にさらに検討したい。

2006年11月 6日 (月)

官邸ホ-ムペ-ジに知財サイクル創造・意見公募結果を公表

特許庁・裁判所における進歩性判断基準の統一要望など(10-25)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 内閣知財戦略本部は、知財推進計画07の策定に向けて、サイクル・コンテンツ両専門調査会の案に、標準化戦略を加え、かつ、新内閣が強調するイノベ-ションへの即応を基調とする原案を構想中と推察される。

 しかし、策定の前提として、広く国民の意見を徴すべきことは当然であり、従来通りパブコメ(Public Comment)手続を進めてきた。今回も多種多様な意見が出現したことは、これまた当然であるが、知財推進計画の成案を得る過程において、それらの調整がどのようになされたか、国民に理解できるよう示されることが望まれる。

 先ず、パブコメの注目すべき事項を順次考察する。

1.        特許審査の判断基準の統一について:

  三つの見地からのパブコメが提出されている。

1-1        特許庁と裁判所の判断基準の統一要望

1-1-1        パブコメの要旨

    特許庁および裁判所における進歩性の判断基準が統一化されることを望む。

1-1-2        考察

    この要望は、妥当な面と、妥当でない面を同時に持っている。これは「合理的な矛盾」とでも称すべき、特許制度の本質に根ざすものである。

    今次パブコメには「進歩性」のみが示されているが、結果的に統一を欠いているのは、進歩性に限らず「新規性」、「産業上利用可能性」、「従来技術との同一性」、「容易想到性」、「用語の定義」等々、特許制度の、さらには知財制度の全面にわたって数多く経験されてきたところであり、また今後も経験され続ける必然性がある。

    この「必然性」は、特許制度が特許要件該当性の判断を「当業者の想定」、「実質的同一性」、「動機付け」、「着想阻害」、「想到の容易性」など、審査・審決・裁判の権限者の主観に依存する要素が、いかに精緻に審査基準を定めても、残存することに起因する。主観に差異があることは、これまた必然的で、国民ないしは国際社会がほぼ納得する審級制度を経ることにより特許制度を維持するほかない。

    従って、上記パブコメに対しては、判断基準の形式的統一は法令および特許庁の審査基準で達成されていることを前提として(司法権でこれを修正する場合は別)、法令および審査基準の精緻化に不断の努力をなすべきことを、知財推進計画07において示されることを要望する。

1-2               日米欧三極の判断基準統一化の要望

1-2-1        パブコメの要旨

    将来的には、日米欧三極において進歩性の判断基準等を統一化し、審査結果の相互承認を実現すべきである。

1-2-2        考察

    現在進行中の特許審査ハイウェイ構想は、審査基準、さらにはその根拠である特許法制の三極間相違を差し置いて、審査結果の結果的同一を実現すること、それによって、審査の重複を除去しようとするものである。出願者の立場からは、サ-ビスの良い国の特許庁で高速低廉に特許付与を受けることにより、自国を含めて付与国以外の国の特許を別途審査なく受け得るので、知財戦略上の経済性を享受できる。欧州諸国の特許庁では、「特許庁間競争になる」として既存秩序の危殆を案ずる向きもあると伝えられているが、グロ-バルに知財開発の促進を図り世界市民の利益を増進するという大義名分からは、反対の余地がほとんどない。

   そこでパブコメの「判断基準(SANARI PATENT 注:審査基準と同義と解する)統一化の提案は当然出てくるが、審査基準の根拠である特許法制度の相違がかなり著しい現状のもとでは、審査基準の統一を達成する基盤を欠くと考えざるを得ない。しかし、部分的に、同業者や従来技術の定義を同一にすることは可能な事項があり、統一化に、早急に着手すべきである。

1-3               小売役務商標登録基準明示の要望

1-3-1 パブコメの要旨

    2007年4月から導入予定の小売役務商標制度について、早急にその判断基準を明示すると共に、産業界への十分な事前説明会を実施すべきである。

1-3-2        考察

    小売役務商標の制度化に際しては、役務商標としての小売業の商標とその他の現行商品商標との出所混同を避けるための審査、多様な類似関係をどのように考えてゆくのか、あるいは小売業の登録の在り方とか、どういう範囲の業態を認めることが適切かについて、国会でも慎重に審議された。その際の多くの政府発言を踏まえて、国民生活に直結する重要性に対処し、理解しやすい基準の明示・普及が必要である。

2.        イノベ-ション促進のための知財活用について

  「知財権の独占性」と競争政策等との調整について、パブコメされている。

2-1        イノベ-ション阻害行為抑制の要望

2-1-1 パブコメの要旨

    イノベ-ションの促進を妨げる行為について、権利濫用法理適用の検討のみならず、競争政策における方策や、著作権の行使についても検討を進めるべきである。

2-1-2 考察

    このパブコメは、三つの内容を含んでいる。

    第1に、特許権の独占性によるイノベ-ションの阻害可能性であるが、現行法上は、裁定による強制実施権制度がこれに対応する。しかし、その発動の事例がわが国では皆無である。

    第2に、特許権の独占性が競争を阻害する場合があり、現在、公取の対象分野である。

    第3に、著作権処理の合理化が、コンテンツの創造・活用のため必要であり、文化審議会で結論を急ぐべきである。

2-2        知財政策のバランスについての要望

2-2-1 パブコメの要旨

   過度なプロパテント政策や競争政策は、研究開発意欲を殺ぐことになりかねないので、バランスのとれた知財政策・競争政策を採るべきである。

2-2-2        考察

   わが国の科学技術基本計画(第3期)は、イノベ-ションの定義を「科学的発見や技術的発明を洞察力と融合して発展させ、新たな社会的価値や経済的価値を生み出す革新」と表現し、知財推進計画06は、これを受けて、「現行の制度や商慣行が知財の活用を妨げ、ビジネスの芽を摘んでいないか、再利用を通じた優れた創造活動を阻害していないか、発明者や創作者にビジネスの収益が適切に還元されることを阻止していないか、などを検討するとしている。「知財の活用を妨げ」という字句を入れたために、「過度なプロパテント」の概念が消去された観があるが、真正面から、「過度」の意味に取組むべきである。

2-3        ソフトウェア特許に関する要望

2-3-1 パブコメの要旨

    ソフトウェアのイノベ-ション阻害の課題については、既存の法制度で対応可能であり、知財政策および競争政策の変更は不要である。

2-3-2  考察

経済産業省において検討中の課題であり、中間答申は出ているが、結論を早期に導出すると共に、そのバ-ジョンアップの励行を期待する。

3.        SANARI PATENT所見

  今次パブコメの内容は多岐にわたるので、各位と共に逐次考察したい。

2006年11月 5日 (日)

イノベ-ション・ス―パ―ハイウェイ構想、国際的イコ―ルフッティング確保

佐藤ゆかり衆議院議員・甘利 明経済産業大臣質疑応答事項の問題点

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

衆議院経済産業委員会におけるイノベ-ション検討の進捗に対応して、知財推進計画07策定に関し、SANARI PATENTは、内閣知財戦略本部に次のように要望した。

知財推進計画07への要望(内閣知財戦略本部あて)

   2006-11-4   佐成 重範

 衆議院経済産業委員会において、昨月下旬から、イノベ-ションス―パ―ハイウェイ、国際的イコ―ルフッティング等、知財戦略に直結ないし波及可能性ある次の事項が討議されておりますが、(1)「国際的なイコ―ルフッティングの確保」の具体的内容として、米国の知財専門家人口規模(弁護士百万人を母体とする特許弁護士2万3千人等)とのイコ―ルフッティング指向を包含すべきか、(2)イノベ-ションス―パ―ハイウェイ構想に特許審査ハイウェイ構想はどのように同期してゆくべきか、(3)世界特許接近体制における、出願者による諸国特許庁の選択にどのように対応するか、(4)医療機器等の審査遅延による福祉阻害にいかに対処するか、(5)テレワ―ク増加計画に基づき、テレワ―クによる在宅審査体制を考えるか、など、知財戦略に波及ないし演繹される可能性の見地から、知財専門家に関連深い事項を、下記のようにまとめてみましたので、知財推進計画07の御策定に際し、知財専門家の対処の在り方をもお示しくださいますよう、要望申しあげます。

     記

衆議院経済産業委員会のイノベ-ションス―パ―ハイウェイ構想

新内閣によるイノベ-ションのイノベ-ションと国際的イコ―ルフッティング

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 イノベ-ションという用語は「従来用語」であるから(「従来技術」と同様)、新しくはない。新内閣への期待は、イノベ-ションの内容と実行のイノベ-ションである。

 例えば、1025日の衆議院経済産業委員会では、どのようにこの期待に向かっての討議がなされたか、質疑応答の結果を要約する。

1.創造的破壊から新成長の創造へ:

「美しい国、日本」の国家像のの中で、「未来に向かって成長するエネルギ―を持ち続ける国」という表現で、技術革新と経済改革により、成長の源泉をダイナミックに創造する在り方が示された。悪しき古き慣習を壊して、良き伝統を残す「創造的破壊」の前内閣を継いで、新内閣の改革は、「残された良き伝統の上に新たな成長の芽を創ること」である。

2.イノベ-ションによる需要拡大:

前政権で、構造改革やIT化など、供給側の改革がなされたが、人口減少など需要側の問題が需給ギャップを発生させている。

しかし、サプライサイドの改革とディマンドサイドの問題は密接に絡んでいるから、イノベ-ションが進めばそこに新しい消費を起こし得る。供給サイドが発展すれば所得転嫁されて消費の増大につながる。例えば、ケイタイの余波で縮小した産業の部分もあるが、ケイタイによるイノベ-ションは、消費市場を質的量的に拡大した。

  さらに、市場そのものの拡大、すなわち、物理的国境の限定を超える経済国境の拡大は質量ともに可能であるから、供給側から働きかけて消費側を拡大することもあり、また消費側自体が拡大することもあるという、縦・横・斜めの多元双方向で経済規模を拡げてゆく。

3.国際的イコ―ルフッティングの確保:

グロ-バル経済における国際競争力強化のため、イノベ-ションの加速が必要であるが、国内の規制や税制が国際的なイコ―ルフッティングの確保を妨げ、国際競争力を阻害している面がある。例えば、情報通信分野の規制が市場の分断を惹起し、税制が成長戦略に軸足をおいていない。従って、国際的な商品は国際的な観点で考え、企業結合を見直す、また、減価償却制度を主要国並みにすること等を検討している。

  イノベ-ション的医療機器が審査遅延のため活かせない現実も、改革により改善したい。

4.企業が国を選択する:

 国が企業を選択する時代は去り、企業が国を選択する時代になっている。企業の選択エリア、経済国境が拡大し、企業にとって魅力的な国であることが重要であるから、イコ―ルフッティングの確保が重要な要素である。

5.        情報伝達システムのイノベ-ション:

経済産業省は、研究開発と市場との好循環を目指す政策として、イノベ-ションス―パ―ハイウェイ構想を進めているが、市場での最終需要動向・その把握に基づく技術革新へのヒントなど重要な情報を、系列関係・下請関係等のソフトな共有の仕組みの変動(減衰)に対応しつつ、川上産業に伝達する適切な仕組みが必要である。

    

6.        情報共有体制の構築:

イノベ-ションス―パ―ハイウェイ構想を推進するため、「科学と技術と事業」をつなぐ双方向の知の流れを円滑にすることが重要である。産学官連携による基礎研究と応用技術・異分野の多様な技術等の「知の融合の場」を構築すること、具体的には、人・物・金・知恵・わざ(スキル)が双方向で流れ合う、視野の広い仕組みを構築することが主眼である。換言すれば、情報共有の制度の再構築である。

7.        特許・国際標準化にも言及:

特許・国際標準化等のイノベ-ション活動を取り巻く外部環境の整備について、優先的に取組む。

8.        少子高齢化時代の活用:

少子高齢化時代は、新たな成長のチャンスを提供する可能性をも併有する。マイナス要因としてだけでなく、プラス思考で対処する。

9.        テレワ―ク在宅勤務の推進:

在宅労働人口倍増計画を樹立し、テレワ―カ―の勤務環境を改善する。

10.地域産業クラスタ―:

地域対策として公共事業型は、その公共事業を実施している間は良いが終わると足を引っ張る面もある。地域産業クラスタ―構想により、地域中小企業のノウハウやアイデアを結集し、地域産学官連携で、かつ各省所管事項連携で、地域の産業クラスタ―を構築してゆく。

11.SANARI PATENT所見

    上記は、佐藤ゆかり衆議院議員(元産業構造審議会委員)と経済産業省大臣・副大臣間の質疑応答(2006-10-25)の要約であるが、内閣知財戦略本部あてに冒頭で要望した事項のような、知財専門家関連事項が、大きな重要性を持つと考える。

2006年11月 4日 (土)

住友重機「多軸レ―ザ加工装置及びレ―ザ加工方法」特許権

日立ビアメカニクス先願発明との同一性(実質同一性)知財高裁判決10-30

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.該当条文と審査基準

1-1  標記事件は、 特許法29条の2該当性に関するが、現行の審査基準は、この規定の趣旨を次のように述べている。

 「明細書または図面に記載されている発明は、特許請求の範囲以外に記載されていても、特許掲載公報の発行または出願公開により、一般にその内容は公表される。従って、たとえ先願の特許掲載公報の発行または出願公開前に出願された後願であっても、その発明が先願の明細書または図面に記載されている発明と同一である場合には、特許掲載公報の発行または出願公開をしても、新しい技術を何ら公開するものではない。このような発明に特許を付与することは、新しい発明の公表の代償として発明を保護しようとする特許制度の趣旨からみて妥当ではないので、後願を拒絶すべきものとした」。

1-2 「同一性」について、審査基準は次のように述べている。

 「請求項に係る発明が他の出願の当初明細書等に記載された発明または考案と同一である」とは、請求項に係る発明の発明特定事項と、他の出願の当初明細書等に記載された発明または考案(引用発明)の発明を特定するための事項に相違点がない場合、または相違点はあるが、それが課題解決のための具体化手段における微差である場合(実質同一)をいう」。

2.本件事案の経緯

2-1 住友重機は、「多軸レ―ザ加工装置及びレ―ザ加工方法」特許を出願し(2000-6-28)、その設定登録を受けた(2003-8-22)

2-2 これに対し、第三者から特許異議申立がなされたので、特許庁は審理の上、本件特許権を取消すと決定した(2005-6-27)

2-3 住友重機は、その取消訴訟を提起するとともに、旧請求項2、3の削除と旧請求項1の変更等を内容とする訂正審判請求(本件訂正)をなし、特許庁は、この請求は成立たないと審決した(2006-1-17)

2-5 住友重機は、この審決の取消を求めたが、知財高裁は、平成18年(行ケ)10085号 審決取消請求事件判決(2006-10-30)において、住友重機の請求を棄却した。

3.特許庁の審決の理由

   本件訂正発明は、日立ビアメカニクスが本願より前(2000-1-12)に出願し本願より後(2000-9-26)に出願公開された「レ―ザ加工方法及び加工機」発明(先願発明)と同一である。

4.特許庁の審決(一致点の認定)に誤りないとする知財高裁の判断

  (括弧内は、判断のキ―ワ―ドとしてSANARI PATENTが付加)

4-1 先願明細書におけるビ―ム分配整形装置のレ―ザビ―ム伝播を振り分ける機能は、先願発明の内容として明示していなくても、「実質的には」本件訂正発明の内容を含む。

4-2 住友重機は、各レ―ザパルスというときは、多くのレ―ザパルスから選択された一つ一つのレ―ザパルスの全体を意味し、一つのレ―ザパルスが分割して得られるレ―ザパルスの一部分は、もはや各レ―ザパルスと呼ぶことはできないとし、先願発明には特定機能のビ―ム分配整形装置が記載されていないと主張する。しかし、矩形に整形されたレ―ザビ―ムも、矩形に整形されたレ―ザパルと呼ぶことができる(SANARI PATENT 注:従って、「実質的には先願発明に記載されている」)

4-3 先願発明が、パルスレ―ザビ―ムの複数のパルスが一方の走査光学系を通して加工対象物上の同一箇所に照射されている期間に、他方の走査光学系を駆動してビ―ムの照射位置を次に照射する位置に移動させておくとの「技術思想を有する」ことは、明らかである(同上)。

4-4 審決が本件訂正発明と先願発明との共通点を抽出した文言をもって本件「訂正発明の技術的範囲を認定」したものとすることはできない。

4-5 審決の説示には「必ずしも正確ではないものもあるが」、「当業者であれば先願発明の記載自体から当該態様の発明を把握できる」ことは、何ら左右されない。

4-6 パルス波形の前後両端を遮断することによって矩形波に整形することは、従来周知の波形整形技術であるから、振り分け光学系においてかかる波形整形技術を持たせるか、特定光軸の光軸に沿って振り分けるかは、実施に際して当業者が適宜選択し得る「具体化手段の微差にすぎない」(SANARI PATENT 注:同一性の要件を欠くということはできない)

4-7 先願発明における振り分け光学系が音響光学素子を用いたものに限定されないことは、明らかである(同上)。

5.SANARI PATENT所見

   住友重機は、上記1-2の「たとえ」以下に該当すると、審決および知財高裁は判断したものと解される。住友重機に特許が付与されたのであるから、一旦は「先願発明と同一ではない」と判断されたわけである。日立ビアメカニクスの先願発明の公開に先立つ住友重機の出願であり、住友重機の知的創造自体は、高く評価される。先願主義で画一整理し、かつ同一性判断を実質同一性による結果としては、知財高裁の判断に至らざるを得ないと解すべきであろう。

2006年11月 3日 (金)

「釣場の状況に応ずるモ―タ出力の制御」等、「魚釣用電動リ―ル特有の課題」

ダイワ対シマノの特許無効審決取消請求事件知財高裁判決(10-30)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

   魚釣用電動リ―ル等の高度技術が、わが国釣具業界の国際競争力を優位に展開させている。ダイワ精工(以下「ダイワ」。東証1部)とシマノ(東証・大証1部)は、共に釣具を含むスポ―ツ用品の高度技術開発を、最近問題の安全性機能を「顕著な効果」として展開している。特許登録された内容と、その進歩性等否定の知財高裁判断を十分に対比し、判断要素(下記3中、括弧書き)の参考にしたい。

1.        経緯

1-1        ダイワが有する「魚釣用電動リ―ル」特許(2002-4-5設定登録)について、シマノが無効審判請求し、特許庁は、進歩性の欠如等を理由として無効審決した(2006-1-24)

1-2        ダイワがこの無効審決の取消を知財高裁に求め、知財高裁は、平成18年(行ケ)10098号 審決取消請求事件判決(2006-10-30)において、ダイワの請求を棄却した。 

2.        本件発明の内容

    次の特徴を有する魚釣用電動リ―ル

2-1         電動リ―ル本体に回転可能に支持されたスプ―ルを巻取り駆動するスプ―ル駆動モ―タを備える。

2-2         このモ―タの出力を調節する調節体を、リ―ル本体に設ける。

2-3         モ―タのON/OFF電源スイッチを設けることなく、リ―ル本体に設けた単一のモ―タ出力調節体の連続的変位操作により、モ―タ出力を巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減するモ―タ出力調節手段を設ける。

2-4         モ―タ出力調節体は、その調節位置を巻上げ停止状態の出力ゼロ状態に一度戻さないと、モ―タを再駆動しないよう設定されている。

3.        争点に対する知財高裁の判断の要素(括弧書き)

3-1  ダイワは、引用発明のスピニングリ―ルでは、手動ハンドル内方の、高速回転ロ―タ近くに手指が接近しないよう設計する必要があるから、甲引用発明のモ―タ出力調節手段の構成を乙引用発明の両軸受型リ―ルにそのまま適用することはできず、「阻害原因」が存在すると主張する。しかし、乙引用発明には、本件発明と同様、高速回転ロ―タがないから、ダイワ主張の「阻害原因は存在しない」。

3-2  釣糸巻上げ用モ―タの回転速度の調節をモ―タ調節体により行う技術は、スピニングリ―ルでも両軸受型リ―ルでも共通の技術であることは明らかであるから、甲引用発明を乙引用発明に適用してみようとすることは、当業者であれば「容易に思いつく」。

3-3  例えば、魚がかかると電機制御による回収を停止し、魚を疲れさせるために手動制御に切り替えるなど、キャスティングを行った時の様々な要請に対して好適な対応をするという甲引用発明の目的は、乙引用発明のような魚釣用電動リ―ルにおいても同様に達成すべき目的であることは、当業者にとって明らかでありから、乙引用発明に甲引用発明を適用する「動機付けが存在」する。

3-4  ダイワは、2-4の構成が周知であり、安全性は当業者が当然考慮する「設計的事項」に過ぎないとした審決の判断は誤りであると主張するが、一般に停電復帰時等に電動機が不意に起動する事態は危険であるから、安全性に配慮し、一度停止位置に戻した後でなければ電動機が起動しないよう設定することは、本願出願時において当業者に「周知の技術」であった。

3-5  ダイワは、本件発明のモ―タ出力調節体により、モ―タの再起動時に変速ショックを伴わず実釣時の問題点を効率的に回避できるという「特別顕著な作用効果」が期待できると主張するが、ダイワの主張は、「訂正明細書の記載に基づかないもの」であり、失当というほかない。

4.        SANARI PATENT所見

4-1        ダイワは、釣具の世界トップ企業(野村證券・東洋経済・四季報2006-4

   集)で、電動リ―ル等の新商品で好調が続き、米国での販路を拡大し、台湾・香港の子会社も業務を伸長している。本件特許に関する知財高裁判決も踏まえて、優れたノウハウ等の知的財産力を発揮してゆくものと考えられる。ゴルフ・テニスなどを含む総合スポ―ツメ―カを志向し、韓国等でも快調の模様である。

4-2 シマノは、自転車用駆動・ブレ―キ部品の総合メ―カ―として高シェア―を占め、海外比率が高く、釣具、特に磯釣の新製品が内外市場で好調と見られるが(同上)、研究開発費への注力が注目される。

4-3 世界的に優位なわが国の釣具業界において、クロスライセンス等による国際競争力の一層の増強体制に進むのか、注目される。

2006年11月 2日 (木)

パチスロ機:「三共」(東証1部)の特許取消決定取消請求を棄却

「遊技機」特許について知財高裁判決(2006-10-30)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 合併や新機軸で最近は、社名の変更が多く、すでに製薬の「三共」は「第一三共」となって東証・大証・名証の各1部に属するが、パチスロ機の「三共」は登記社名で、「SANKYO」の社名表示の方が著名である。野村證券・東洋経済四季報(2006No.4)によれば、「三共は、開発力に定評あり、無借金。射幸性が高い旧基準機2機種に加え、新基準機も好調。パチンコ機はレトロタイプが予想通りの人気」。

(SANARI PATENT 注:パチスロ機は高度電子機器として多数の特許権を基盤とする。このため業界のパテントプ―ルも早くから形成され、公取の研究対象ともされた。上記「射幸性」の程度も、都公安委員会等により規制される場合があるので、遊技の魅力(判決用語では「興趣性」)と適度射幸性の同時充足が、特許考案の一要素である場合もある)。

1.経緯

1-1 三共は「遊技機」特許の特許権者である(設定登録2003-7-4)。

1-2 特許異議申立に対し、特許庁は、「特許を取消す」と決定した(2005-9-30)

1-3 三共は、この決定の取消を知財高裁に請求し、知財高裁は、平成17年(行ケ)10797 特許取消決定取消請求事件判決(2006-10-30)において三共の請求を棄却した。

2.本件発明の要旨

2-1 次の機能および特徴を有する遊技機

2-1-1 複数種類の識別情報を可変表示可能であり、打玉が打ち込まれる遊技領域に設けられた始動領域に打玉が進入したことを条件として、表示結果を導出表示する可変表示装置を含む。

2-1-2 この表示結果が、予め複数種類定められた特定の表示態様のうちのいずれかになった場合に、遊技者にとって有利な特定遊技状態(SANARI PATENT 注:いわゆる「大当たり」等)に制御可能である。

2-1-3 次の手段を有する。

2-1-3-1 数値情報更新手段

2-1-3-2 前記2-1-2の特定遊技状態が発生する場合に、どの特定表示態様を表示結果として導出表示するかを事前に決定する手段であって、始動領域への打玉の進入時に、数値情報更新手段から数値情報を抽出し、これを用いて導出表示する表示態様を事前決定する表示結果事前決定手段

2-1-3-3 可変表示装置の表示結果が、予め定められた「特別の」表示態様になった場合に、可変表示装置の表示結果が特定の表示態様となる確率が向上した確率変動状態に制御可能にする確率変動手段

2-1-4 前記2-1-3-3の確率変動手段は、次の機能およびステップを含む。

2-1-4-1 表示結果が特定の表示態様になった場合には、それが「特別の」表示態様であるか否かに拘わらず、特定遊技状態に制御している最中は、通常確率時の状態に制御する。

(以下省略)

3.特許庁が特許取消決定した理由

   本件発明は、引用発明と周知技術に基づいて、当業者が容易に想到できる。

4.知財高裁の判断

4-1 三共は、確率向上制御に上限がない場合を前提として引用発明との相違を主張するが、特許庁の決定は、上限がある場合を前提として認定しているのであるから、三共の主張は決定を正解せずに認定の誤りをいうもので、失当である。

4-2 確率向上時に制御する確率を一定にするか。変化させるか、同一の確率判定ステップを用いるかどうかなどは、当業者であれば、遊技機の興趣性等を考慮して必要に応じ適宜選択できる事項である。

(以下省略)

5.SANARI PATENT所見

   三共と特許庁の主張および知財高裁の判断は、36ペ-ジにわる詳細なもので、その的確な解析は、関係各位の判決熟読に委ねるほかないが、国内ではパチスロ営業売上が各種公営賭金競技の年間売上合計額(約10兆円)を上回り、国外へは電子機器輸出産業の一環でもあることから、関係特許の進歩性に、知財専門家として十分な理解をもつべきである。

2006年11月 1日 (水)

「一村一品の知財戦略」と「一都市一知財戦略型」

横浜市

の「横浜型知財戦略」と「各政令都市型知財戦略」

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 大分県で1880年度に開始された一村一品運動は、県知事が発案した県振興の知財戦略であったが、県内各市町村がそれぞれの知財戦略を発揮し、県内143品目から始まって全国、さらにはタイ国首相の国内各地知財戦略に採用されるなど、「地域振興の知財戦略が地域特性を持つべきこと」を示した。

 村から大都市に眼を移すと、政令都市の人口トップである横浜の「横浜型知財戦略」が先ず注目される。その内容を見る前に、先ず全国政令都市を概況する。

 政令都市、正確には政令指定都市の制度は1956年に始まったが、その後、1994年に創設された「中核都市」も政令で指定され、1998年に創設された「特例市」も同様であるから、この3者は「広義の政令都市」である。

 ここでは人口50万人以上で一定の行財政能力等を指定要件とする「狭義の政令都市」を「政令都市」と呼んで、それらの知財戦略の地域特質を考察する。

 なお、政令都市は現在15都市であるが、来年4月には新潟・浜松が指定されて17都市になることが、すでに閣議決定され、富山・岡山など、これに続く志望市がある。

1.        横浜の人口増勢

1-1        平成1810月1日現在で推計された同市人口は、360万2263人に達し、次のような増勢を示している。

平成13101日 3,461,545  100

平成14101  3,496,927  101.02

平成15101  3,527,295  101.90

平成16101  3,555,473  102.71

平成17101  3,579,133  103.40

平成18101  3,602,263  104.07

1-2        現在の政令都市15を人口順に列記する。平成1710月1日現在。

 横浜   357万9133人

 大阪   263万3685人

 名古屋  220万2111人

 札幌   186万8357人

 神戸   151万9878人

 京都   147万0541人

 福岡   139万1146人

 川崎   130万6021人

 さいたま 117万4986人

広島   115万1943人

仙台   102万5714人

北九州  100万0136人

 千葉    91万8364人

  堺     83万3409人  

 静岡    71万5406人

  横浜の平成18年初から9月末の人口動態を見ると、出生2万4516人、死亡1万7903人、市外から転入12万6811人、市外へ転出11万6337人で、社会動態・自然動態とも健全な発展性を示している。

3.        横浜型知財戦略の発足

3-1  横浜は、「横浜型知財戦略研究会の中間報告」(2005-11)を公表し、「同戦略推進計画策定の背景と目的」、「知財に関する横浜の現状」、「横浜の地域資源」、「市内企業の知財に関する現状」、「横浜型知財戦略の基本的な考え方」、「施策の方向性および具体的支援策」、「知財戦略推進の在り方」を詳述して、市民の創意を結集した。

3-2  横浜の地域資源については、次のように指摘している。

3-2-1        製造業の3類型別(基礎素材型・加工組立型・生活関連型)では、加工組立型(一般機械・電気機械・情報機器・電子部品・輸送機械・精密機械)が最大の割合を占める。

3-2-2        製造業事業所の3割近くが自社研究開発・受託研究開発を行い、かつ、その所在は市の東北部に集積している。

3-2-3        資本金3億円以上の製造業企業では85%が研究開発を実施しているが、1000万円未満では17%である。一般機械・電機・精密・食料品企業の研究開発が盛んである。

3-2-4        政令都市のうち、IT(コンテンツ・ソリュ―ション・ハ―ドウェア)の従業者数は、大阪が13万5千人で第1位、横浜が10万人で第2位であるが、ハ―ドウェアでは、大阪3万人に対し横浜は5万人で第1位である。

3-2-5        横浜は、バイオ関連産業について、国際研究開発拠点として整備を進め、横浜サイエンスフロンティアを含む臨海部に数多く立地している。

3-2-6        理工医系9大学、法学経営学系7大学、映像系1大学(東京芸術大学映像研究科)、情報系3大学が立地している。例えば、東京工大の生命理工学部。

3-2-7        民間企業や大学の研究機関が、鶴見・港北・都筑・戸塚・臨海南部に集約されている。

3-2-8        横浜のTLOは、特許出願数と保有件数において国内第1位の比率を占める(全国TLOの、出願20%、保有44%)。

3-2-9        横浜に、弁護士555人(2005-1-1)、弁理士220人(2005-2-28)が立地している。

3-2-10    t横浜に、法律事務所が264、特許事務所が44所在する(平成16年事業所・企業統計調査)

3-2-11    居住地基準で、知的資産を生み出す創造的人材、特に科学技術者の割合が高い。

4.        横浜18年度予算に「横浜型知財戦略推進事業費」2700万円

4-1        公民連携の知財支援組織として、㈱知財支援マネジメント機構を設立する。

4-2        中小企業・中堅企業への支援事業を実施する(施策の方向性としては、知財の価値評価、経営戦略化支援、知財移転・流通の促進支援、知財担保融資の仕組みの検討等)。

4-3        普及啓発事業を実施する。

5.        SANARI PATENT所見

   都市の規模・特質・立地等に基づく各都市型の知財戦略を策定することが実効的と考える。

    知財支援マネジメント機構は本年10月20日に営業を開始したが、当初資本金5千万円は、上記4の事業費から1000万円のほか、㈱ベンチャ-ラボ、横浜関連金融機関・大企業が出資し、将来1億円に増資予定の由である。

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