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2006年10月31日 (火)

和牛の遺伝子特許、遺伝資源保護、地域団体商標、水際対策

農水産省知財戦略本部の具体的検討進む

 標記について内閣知財戦略本部あてにSANARI PATENTは、次のように要望した(2006-10-30)

知財推進計画07についての和牛関係要望

2006-10-30 弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 全国民関心の的である和牛関係の遺伝子特許および地域団体商標制度活用について、知財推進計画07に具体的計画のご登載を、下記現況所見を付して要望申しあげます。

 記

 内閣知財戦略本部の知財推進計画06は、「家畜の遺伝資源の保護に関する検討会」の「設置」を計画したが、すでに「和牛に関する遺伝子特許」、「地域団体商標制度等の表示制度の総合的活用」について、具体的な方策を導出しつつある。

 なお、本年4月中の地域団体商標登録出願374件には、宗谷黒牛・北海道オホ―ツク網走和牛・仙台牛・米沢牛・彩の国 夢味牛・能登和牛・能登牛・飛騨牛串・飛騨牛乳・松坂肉・松坂牛・近江牛・京都肉・神戸肉・神戸牛・神戸ビ―フ・但馬牛・三田牛・東伯和牛・いずも和牛・宮崎和牛・鹿児島黒牛・沖縄和牛・石垣牛等が見られたが、第1回の登録(2006-10-26)には、いずれも入っていない、5月以降も、上州牛・千屋牛等の出願が見られる。

  

1.        和牛遺伝資源保護対策の現状

1-1        農林水産省行政における問題意識は、次のように述べられている(同省「家畜の遺伝資源の保護・活用の在り方について」(2006-8)。

1-1-1        和牛を構成する4つの品種は、わが国固有の肉専用種であり、生産者等の品種固定・育種改良の努力により肉の質量ともに優れた産肉特性を有し、わが国の貴重な財産である。

1-1-2        19971998年には、米国に和牛の生体128頭、精液1万3千本が輸出され、その遺伝資源が豪州に渡り、外国種との交配により交雑種等が生産されてきた。さらにそれらがわが国に、牛肉または子牛として輸入されているが、2005年には子牛の輸入頭数が和牛の交雑種以外のものを含めて2万5千頭に達し、国内生産に影響を与えかねない。

1-1-3        種苗法においては育成者権が設定され、新品種保護のための国際条約(UPOV)が存在するが、家畜の場合、精液の段階では形質が未確定である(均一性の欠如)。また、精液だけでは産子能力は不明で、同能力の牛の増産は困難である(安定性の欠如)。従って、育成者権の設定に至っていない。

2.        和牛における知的財産制度の活用

    現在、農林水産省は、次のように対策を検討している。

2-1        和牛の遺伝子特許等の戦略的取得

    和牛の増体や肉質等の経済形質に係る遺伝子の塩基配列とその機能解明を進める。これにより遺伝子育成法等の技術を開発できれば、新規性、進歩性、産業上の利用可能性等の特許要件」を満たすことができる。

2-2        この特許を戦略的に利用すれば、国産和牛肉の国際競争力をさらに強化できる。従って、全国の研究機関が連携して戦略的に特許を取得する体制を構築する必要がある。

2-3        急速な解析技術の発達により、海外においても家畜の遺伝病や有形形質に関する遺伝子の機能解析が進められており、国際競争が激化している。

2-4        従って、わが国においては、全国の研究機関が連携し、和牛に固有の遺伝子(うま味・香り・サシ等)の塩基配列の解析と機能解明を効率的に進めるべきである(研究方針・優先事項の共同決定、サンプルデ-タの共有)。

2-5        和牛特有の遺伝子解析と、遺伝子に関連する生産技術を併せて特許取得することは、海外での権利侵害に対する有効な保護手段となる。

2-6        畜産団体・研究機関等が連携して、これまでの知的財産を集積すると共に、取得された遺伝子技術等の特許権については、独占禁止法に抵触しないよう配慮しつつ、開発者同士で融通し合うパテントプールを構築するなど、知的財産を国全体で戦略的にマネジメントする取組が必要である。

2-7        また、知的財産の活用については、一部の利益に留まることがないよう、広く生産者・国民の利益に資するよう留意する。

3.        DNA識別による和牛の保護と活用について

3-1        現在、DNAマ―カ―を利用した品種鑑別技術により、和牛肉と、種々の交雑種牛肉のおれぞれについて、極めて高い確率で識別が可能になっている。この技術により、次のことが可能になる。

3-1-1        牛肉トレ―サビリティ法を補完し、国内の適正な牛肉流通に資すること

3-1-2        和牛肉・和牛子牛と輸入牛肉・輸入子牛を峻別すること

3-1-3        和牛肉輸出の際、確実な品種証明手段として、「攻めの農政」に活用すること

3-2               今後は、海外から和牛として輸入される牛肉・子牛を、水際で確実に品種鑑別できるよう、簡易・迅速・安価な識別技術を確立するよう取組む。

4.「和牛」表示の厳格化について

4-1 現在、和牛表示に関するル―ルは、全国食肉公正取引協議会が公取の認可を得て定める規約において規定され、黒毛和種・褐毛和種等について表示されている。現行制度の大きな問題点は、消費者が、和牛表示を国産表示と一致すると誤認していることである。

4-2 従って、上記規約の見直しと併せて、家畜改良増殖法に基づく家畜登録制度・牛トレ―サビリティ制度・和牛統一マ―クの作成等、諸制度の総合的活用が必要である。

4-3 さらに、本年4月から施行された地域団体商標制度を活用することも有効な手段の一つである。

   この場合、消費者の意見を良く聞き、生産管理方法や肉質に一定の基準を定めることにより、品質を保証し、地域団体商標に対する信頼を高めることが必要である。

2006年10月30日 (月)

地域団体商標制度に52地域ブランドが先発(残余後発322~600に関心)

先発は、高崎だるま、江戸甘味噌、小田原蒲鉾、岐阜提灯、雄琴温泉、京人形、大阪欄間、有田みかん、長崎カステラ、石垣の塩など

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

  地域との結びつきと、周知性が地域ブランドの要素であるが、地域の呼称や結び付きが多様であること、インタ-ネット販売で全国周知が簡単になったこと、農林水畜産品の新品種開発や工場栽培が全国均一環境を創出することなど、地域ブランドの前途には問題が多いが、一方、欧米の食卓で、醤油や納豆や豆腐の地域ブランド名が馴染まれつつある現状を、尊重しなければならない。

1.        特許庁「地域団体商標に係る登録査定について」(2006-10-27)

1-1        特許庁審査業務部商標課・地域団体商標推進室は、次のように発表した。

1-1-1        平成18年4月1日に施行された地域団体商標制度に対する出願は、半年間に約600に達したが、4月中に出願された374件のうち52件について地域団体商標登録すべき旨の査定をし、出願人に通知した。

1-1-2        近年、特色ある地域づくりの一環として、地域の特産品等を他の地域のものと差別化を図るためのブランドづくりが全国的に盛んになっている。改正前の商標法では、地域名と商品名のみから成る商標は識別力がないとか、特定の者の独占に馴染まない等の理由で、図形と組合せる場合や全国的知名度を獲得した場合を除いて、商標登録を受けることができなかった。

1-1-3        改正法では地域団体商標制度による登録要件が次のように定められている。

地域と商品名または役務名から成る商標で、次の要件に該当すること(SANARI PATENT 注:厳密な限定列挙ではないと解する)

1-1-3-1           団体の適格性(事業協同組合・農業協同組合等、組合であって、構成員資格者の加入の自由があること)(SANARI PATENT 注:来年4月1日施行の改正商標法で、団体商標の主体が広く「社団」に拡大されたが、地域団体商標の主体までは拡大しないので、NPOや中間法人の団体商標との競合等が問題化する可能性がある)

1-1-3-2           地域名と商品または役務とが密接な関連性を有すること(商品の産地・役務の提供地・主要原材料の産地等)

1-1-3-3           出願人がその商標を使用したことにより、出願人の商標として一定限度(例えば隣接都道府県に及ぶ)周知性を獲得していること(SANARI PATENT 注:冒頭に述べたようにインタ-ネットやケイタイ販売での周知性が問題になる)

2.        本年4月中出願の322件への関心

2-1 「先発52件に入らなかった322件」への関心と、「4月中には出願に至らなかった約230件」への関心

2-1-1 今次登録査定に至らなかった喜多方ラ―メン、結城紬、草加せんべい、新潟県産コシヒカリ、佐渡産コシヒカリ、山中温泉、諏訪味噌、信州諏訪味噌、三ケ日みかん、八丁味噌、名古屋コ―チン、京料理、祇園団子、京漬物、博多人形、久留米はんてん、関サバ等々については、地元での所要の調整等をまって措置されるものと推察する(取下げや却下の約10件を除く)。

2-1-2 「宮崎牛」と「宮崎和牛」、「三田肉」と「三田牛」、「神戸ビ―フ」と「神戸肉」は、共に今次登録に入らなかったが、「小田原蒲鉾」と「小田原かまぼこ」は共に今次登録に」は入った。「普及性」に起因すると解説する向きもあるが、普及性に加えて、SANARI PATENTの推察では、出願者が共に「小田原蒲鉾水産加工業協同組合」であることによるのではないか。

2-1-3 4月に、八丁味噌協同組合が「八丁味噌」出願を3件、愛知県味噌溜醤油工業協同組合が「愛知八丁味噌」「愛知八丁赤だし」を出願しているが、共に登録に至っていない。「草加せんべい」は草加煎餅協同組合他の出願で、「他」の統合が課題かと推進するが、今次登録に至っていない。

3.        SANARI PATENT所見

    地域団体商標制度の制定(前々回商標法改正)を審議した国会において、審査基準の詳細な整備が要望されたが、対象の多様性が著しく、また生産の環境も変動するから、誠に困難な課題を含む。歴史的保守性に根ざした制度でもあるから、今後の審査過程を経て、新時代での機能をも担う新旧架橋の地域ブランドの特質と核心と役割とが、明確に認識されて支持されてゆくと考える。

2006年10月29日 (日)

「損害残部請求の信義則違反性」と「設計図複製権侵害の構成要件」

住友石炭が勝訴:知財高裁判決10-24

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

  異議申立により特許を取消された特許権者が、権利の濫用を理由として取消の取消を訴求し、不法行為についての損害賠償と、予備的請求として設計図著作権の侵害に対する損害賠償を求めたが、知財高裁は特許権者の請求をいずれも棄却した。その判断理由は、信義則その他、懇切に説明されている。制度自体の問題(異議申立制度の構成、機械設計図の複製の要件等)をめぐって、特許権者側には異存もあろうかと考えるが、「知財高裁の判断理由」は、各事項とも熟読に値する。

1.        経緯

1-1        本件知財高裁訴訟の原告・イ―・ビ―・ル―ムは機械設計を業とし、被告・住友石炭は放電焼結機等の製造等を業とする。

1-2        イ―・ビ―・ル―ムの「放電焼結装置」特許発明に対し、住友石炭が異議申立し、特許庁は本件特許を取消した(2001-7-4)

1-3        イ―・ビ―・ル―ムは、この取消決定の取消を東京高裁に求めたが、東京高裁はこの請求を棄却した(2003-4-9)。本件取消決定は、上告不受理決定等により確定した(2003-10-9)

1-4        関連訴訟としてイ―・ビ―・ル―ムは、本件特許異議申立が不法行為に当るとして住友石炭に対し損害賠償請求(15億円の損害の一部請求)すると共に、本件特許取消決定の無効確認を東京地裁に求めた(東京地裁平成18年(ワ)4428663111210)。

1-5        東京地裁は、この請求を棄却・却下した(2006-6-308-31)

1-6        イ―・ビ―・ル―ムは、次の請求を知財高裁に提起した。

1-6-1        主位的請求として、「特許異議申立が権利の濫用に当ること」を理由とする損害賠償請求

1-6-2        予備的請求として、著作権侵害を理由とする損害賠償請求

1-7               知財高裁は、平成18年(ワ)17644 損害賠償請求事件判決(2006-10-24)において、イ―・ビ―・ル―ムの訴えを、いずれも却下した。

2.        争点に対する知財高裁の判断

2-1        主位的請求について

2-1-1      一個の金銭債権の数量的一部請求は、その債権が存在し、その額が一定額を下回らないことを主張して、限度内の金額を請求するものであって、債権の特定の一部を請求するものではないから、債権の全部について審理判断することが必要である。従って、原告(イ―・ビ―・ル―ム)が、一部請求判決確定後に残部請求の訴えを提起することは、債権全部について紛争が解決されたという被告(住友石炭)の合理的期待に反し、特段の事情がない限り、信義則違反として許されない。

2-1-2      前訴においても、本件異議申立が権利の濫用に当るか否かが主な争点となり、イ―・ビ―・ル―ムは主張・立証を尽くしているから、当事者間の公平を害する特段の事情もない。

2-1-3      仮にイ―・ビ―・ル―ムの主位的請求を判断するとしても、住友石炭の特許異議申立は、平成15年改正前特許法113条柱書前段により、法定期間内であれば利害関係の有無を問わず何人も申立できるものであり、適法であって、権利の濫用に当らない。

2-1-4      もっとも、イ―・ビ―・ル―ムは、異議申立が、取消理由がないのになされたとして、これを権利の濫用と主張するものであるが、特許異議申立は、特許庁自ら特許処分の適否を再審査して特許に対する信頼性を高めることを目的とし、仮にその申立に係る特許に取消理由がないなど瑕疵がない場合であっても、翻ってその申立自体が違法にはならない。

2-2 予備的請求について

2-2-1      本件において主位的請求および予備的請求は、共に不法行為に基づく損害賠償請求であるが、主位的請求は特許異議申立、予備的請求は著作権侵害を理由とし、実体法上の関連性を欠くから、イ―・ビ―・ル―ムが主張する併合態様の要件を欠く。

2-2-2      しかし念のため予備的請求について判断すると、本件設計図は放電プラズマ焼結機の設計図であるが、創作的に表現されたものであることを認めるに足らず、著作権上保護される著作物ではない。

2-2-3      イ―・ビ―・ル―ムは、本件設計図に基づいて機械を製造する行為を複製権侵害であると主張する。しかし、著作権法において複製とは、印刷・写真・複写・録音・録画その他の方法により有形的に再生することをいい、建築に関する図面に従って建築物を完成する行為と異なり、機械に関する図面に従って機械を完成する行為は、複製権侵害行為として規定されていない。

3.        SANARI PATENT所見

    米国特許法の改正をめぐって、同国内で異議申立制度の導入が有力に唱えられ、わが国の平成15年特許法改正と対蹠的な観を呈したが、特許付与の的確・安定・迅速を共に充足する制度構成には、複数の選択肢が考えられ、今後も検討され続けるであろうと考える。

  著作権法上、建築物と機械とで、複製権の要件が異なる制度とされているが、その合理性についても再検討すべきであろう。

 

2006年10月28日 (土)

「命名権」の知的財産権性と、その政策的重要性:

識別子法・コンテンツ施設資金調達・学術発見奨励等における命名権の位置づけ:

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

  命名権ビジネスが多くの分野に拡大しているが、広義の命名権には営業的命名権と学術的命名権が含まれ、いずれも知的財産権に属すると解する。その創造・保護・活用に関する適切な方策は、識別子権間の相互干渉の調整(当該施設名と他商品・他社名等との類似混同等)、ライブコンテンツ振興資金の調達(演技場等の命名権販売)、3セク施設財務難切抜けのための命名権競売と建設公費負担との不調和)、スポ―ツ奨励(球場の命名権等)、学術的発見者の名誉保護(保護団体財務のための種名等命名権の販売)等のため緊要である。

 なお、命名権の流通は、市営バス停名等にも波及しているが、種苗法に基づく育成者の品種命名権の流通に波及すると、地域ブランドの地域関連性に影響を及ぼす可能性がある。

1.命名権の定義

  文化的な創造対象・自然的発見対象に対して命名する権利を命名権という。文化的な創造対象としては、文化施設・競技イベント・コンテンツキャラクタ―等があり、自然的な発見対象としては、新たに発見された生物・元素・天体等がある。  なお、人名の命名権は、原則として親権に属し、知財権の範囲外にある。

2.        命名権の歴史

  グロ-バルに見ると、スポ―ツ大会等にスポンサ―の名称を冠する「冠行

事」の命名権販売が、20世紀に入ってビジネスとして生成したが、1990年代後半に至り、メジャ―リ―グ新球場建設費調達等のビジネスの一環として、施設に企業名を付する権利が命名権として、財産権の一角を占めるに至った。野球以外のスポ―ツ種目についても、欧米諸国のスポ―ツ施設者の命名権販売収入と、命名権購入企業の広告効果の利益が合致して、重要な権利化した。

3.        命名権の知的財産権性

3-1        WIPOの知的所有権性

世界知的所有権機関設立条約は、知的所有権の定義を定め、「(前略)商標、サ-ビス・マ―ク、商号その他の商業上に表示に関する権利、不正競争に対する保護、並びに、産業、学術、文芸又は美術の分野における知的活動から生ずる他のすべての権利をいう」としているから、前項1の命名権がこれに該当することは明らかである。

3-2        知的財産基本法の知的財産権性

   知的財産基本法は、知的財産権の定義を「知的財産に関して法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利をいう」と定めているから、同法知的財産の定義と併せて、命名権が知的財産権性を有することは明らかである。

4.        学術的命名権

    未知の生物、元素、天体等の発見については、命名権が発見者に与えられることが国際的・学界的ル―ルである。しかし、次の例のように、このような学術的命名権が売買対象となる場合もある。禁止論も出そうである。

米国野性動物保護協会(WCS)Mr.R.Wallaceが南ボリビアでサルの新品種を発見(2004)し、命名権を得たが、WCSの資金に当てるため命名権をオンラインオ―クションに付し、カナダのオンラインカジノGolden Palaceが落札して同カジノ名をもって命名し、宣伝効果を得たと伝えられたが(world news.com)、このように、学術的命名権も営業的換価価値を持つ場合がある。

   

5.        命名権規制論

営業的命名権について、規制必要論も散見される。例えば、「公共的地理案内図(駅や街頭の公共的掲示図)の表示が、命名権行使によって誤表示になる」、「目標的建物の所在地表示が企業名や商品名表示に急変し、求訪者が迷う」、「公費による3セク施設が命名権売却により企業所有の観を呈するのは適切でない」など。

学術的命名権についても、前項4の新サルの学名まで、ラテン語とはいえGolden Palaceというカジノ名が付されたことに違和感を持つ向きもあろう。

新品種の育成者権に基づく命名権が流通するときは、地域ブランドの地域表示と隔離するおそれがある。

6.        SANARI PATENT所見

    内閣知財戦略本部の知財推進計画06には、ライブエンタ―テイメント振興のため、「2006年度も引続き、ホ―ル・劇場・映画館等の集積化などに向けた関係者の取組を奨励する」(p.104)と計画されているが、特に地方公共団体・3セク・独立行政法人等の公的資金によるコンテンツ施設は、命名権販売による収入に依存する動向が顕著である。

   福岡Yahoo!JAPAN(5年間25億円)や福岡サンレイクゴルフクラブ(3年間8千万円)等は、福岡のオリジンと所在を示しているが、渋谷公会堂のC.C.Lemonホ―ル化(5年間区に4億円)や、

調布市

東京スタジアムの味の素スタジアム化(5年間12億円)等は、地縁と直結しない。

   上記は命名権に関する派生現象の一部に過ぎず、庶民感情をも考慮に入れた命名権の知的財産政策が示されるよう、望まれる。「何ら問題ない」として、むしろ積極的に命名権の流通を促進することも(対価が十分であることに留意しつつ)、勿論、一つの選択肢である。

2006年10月27日 (金)

農林水産省「植物新品種の保護の強化と活用の促進検討会の案」(2006-10-26)

内閣知財戦略本部・知財推進計画06の農林水産分野重要事項対応

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 BRICsの巨大人口の生活向上や欧米の嗜好変化が、農林水畜産品のグロ-バルな需給分布に影響し、植物新品種・水畜産物新品種をめぐる知的財産権の創造・保護・活用・評価への関心が高まっている。工業製品と異なる局面、例えば、侵害品国際流通の水際対策についても、植物新品種の場合は、気流による花粉や種子の越境伝播が、後述の「意図しない」侵害容疑を結果する場合があるが(カナダ・米国の農場間の実例)、標記案には、そこまでは触れていないようである。

1.        農水産省知財戦略本部の活躍

  同本部の標記検討会が、中間とりまとめ(案)を策定した(2006-10-26)

 「育成者権の取得と権利行使を容易にするための方策」、「個人・中小企業に対する侵害対策への支援策」、「DNA技術開発の促進・水際制度等に関する総合支援策」、「意図せぬ権利侵害を防ぐための制度の普及啓発、適正な契約の定着促進の方策」、「海外での権利取得に対する支援策」、「海外での育成者権の戦略的な行使方策」の6章から成る。

2.        知財推進計画06との脈略

 同計画は、地域ブランドの活用も含め、農林水産分野における知的財産の保護を強化するとして、次のように計画している。

2-1        植物新品種の保護制度を、より使いやすく実効性の高いものとする観点から、権利行使の容易化に関する制度整備など、種苗法および関連する品種保護対策の在り方について、2006年度から多面的に検討し、必要に応じ制度を整備する。

2-2        農業者が自家増殖を行うに当って育成者権者の許諾を必要とする植物の範囲の拡大について、2006年度以降も引き続き関係者による定期的な検討を行い、許諾契約の普及等の環境整備を行いつつ、農林水産省令指定対象植物を追加するなど必要など整備を行う。

2-3        収穫物およびその収穫物を原料とした加工品について、侵害品の判定を容易にするためのDNA品種識別技術の開発に関し、2006年度から、対象品目数を増加すると共に、開発されたDNA品種識別技術の標準化を支援する。

2-4        農業者等が種苗の増殖や譲渡に当って意図せずに権利侵害してしまうことを防ぐため、2006年度も引き続き、民間作成の登録品種表示マ―ク(PVP)の普及を支援する。

2-5        海外においてわが国育成の品種が無断で栽培され、さらには、その収穫物が日本へ輸出される事例も生じている一方、海外での権利取得やその活用が進んでいないことを踏まえ、2006年度から、諸外国における品種保護制度に関する説明会の開催、情報提供の充実などを通じ、海外における育成者権の積極的な取得・活用を促進する。

2-6        家畜の遺伝資源の保護を検討する。

3.        育成者権の権利付与の現状と対策

3-1        植物品種登録件数が2005年度に1110件に達したが、この制度を活用しようとする育成者権者の意識の高まりと、植物新品種に対する農業生産者・消費者のニ―ズの多様化から、品種登録出願は逐年増加している。

3-2        品種登録審査は農林水産省が行い、現状では出願から出願公表までに7月、登録までに3.2年を要している。審査の過程で、独立行政法人種苗管理センタ-が栽培試験を実施している。

3-3        わが国と海外との審査協力による審査デ-タの相互利用は、未だ行われていない。

3-4        国内の審査体制を拡充強化すると共に、EU・アジア諸国等UPOV同盟国との審査協力のため、栽培試験方法・審査基準の調和・審査の国際標準化を急ぎ、審査デ-タの相互利用を図る。

4.        侵害対策支援業務の現状と対策

4-1        国内での育成者権侵害にほか、桜桃・菊・カ―ネ―ション等、登録品種の種苗が違法に海外に持ち出され、その収穫物が違法に輸入される侵害事例が発生している。

4-2        独立行政法人種苗管理センタ-による品種保護Gメンの全国配置、DNA品種識別等を強化する。

4-3        登録品種である旨の表示の法制化を検討する。

5.        DNA技術開発の促進

5-1        農林水産省のプロジェクト研究等により、稲・小麦・インゲン豆・小豆・苺・桃・梨・りんご・茶・イグサ・椎茸等の品種識別が可能になった。

5-2        DNAマ―カ―の開発、DNA識別技術の国際的共有等を図る。

5-3        DNA鑑定書の提出による税関での侵害品輸出入差止を強化する。

6.        SANARI PATENT所見

  知的財産権は、特許庁の所管に属する権利と、その他の権利に分かたれ、後者の権利の社会経済的・国際流通的重要性が、世界の人口分布と所得変動によって急速に増大している。特に、農林水畜産業に係る知的財産権は、文化面のコンテンツ知的財産権と並んで、生活面のグロ-バルな変動を支持するものである。

2006年10月26日 (木)

「安倍内閣イノベ-ション」即応、経産省特許審査改革の加速

「イノベ-ション促進のための特許審査加速プラン」(2006-10-20)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

   はじめに:

  安倍演説のカタカナのうち、指導理念の地位にあるのが「イノベ-ション」であるが、適切な訳語がない。マスコミは「技術革新」と括弧書きしているが、「技術革新」は、全くの旧来語で、新しくない。

 技術革新の語を用いるならば、「技術革新の革新」、すなわち、技術革新の目的と方法の革新でなければならない。例えば、技術進歩累積型の特許権ではなく有用性・ニ―ズ充足型の特許権、先端技術特許権と並んで底辺業態の生産性変革型特許権、さらに、社会構造の革新を含めてこそ、イノベ-ションを掲げる価値があると考える。さて各省・各界はどう対応しつつあるか。

1.        経済産業省の即応

1-1        標記プラン発表の冒頭に、「安倍内閣の基本方針を踏まえ、新たな特許行政の基本方針である『イノベ-ション促進のための特許審査改革加速プラン』を4分野・20項目にわたり、まとめました」と述べている。

1-2        さらにその本文には、「新内閣の基本方針」と題して、次のように述べている。

「安倍晋三内閣総理大臣の所信表明演説(2006-9-29)では、経済成長に貢献するイノベ-ションの創造に向けた取組を推進する方針が示された。研究開発の成果を迅速に権利として保護することはイノベ-ションの促進に必須の条件であり、知的財産の創造・保護・活用の好循環(知的創造サイクル)を加速させることの必要性は一層高まっている」。

2.        イノベ-ションへの即応

    経済産業省の「新たな特許行政の基本方針」として、次のプランが掲げられている。

2-1        グロ-バルな権利取得の促進と知財保護の強化

2-1-1        外国特許庁との協力

2-1-1-1           特許審査ハイウェイの更なる展開

2-1-1-1-1        米国との本格開始を目指す。

2-1-1-1-2        平成19年春から、韓国との特許審査ハイウェイ実施を予定する。

2-1-1-1-3        欧州・英・独・加・豪等の各特許庁との早急な実現を図る。

2-1-1-1-4        今年度中に「外国特許庁のサ―チ・審査結果の利用ガイドライン」を策定する。

2-1-2                      国際的な制度のハ―モナイゼ―ションを推進する。

2-1-2-1               特許制度の実体的調和

先願主義への統一を含む実体的特許法条約の条文案(2006-9)について、東京で開催される先進国会合(2006-11)において合意を目指す。

2-1-2-2               三極間出願様式の統一

2-1-3                      アジア等における模倣品対策の強化

2-1-3-1               模倣品・海賊版拡散防止条約の早期実現

2-1-3-2               先進国(豪・スイス等を含む)との経済連携協定(EPA)における高度規定の追及

2-1-3-3               官民合同模倣品対策ミッションの派遣拡大

2-1-3-4               企業の模倣品対策の支援拡充、消費者の啓蒙、日仏共催の模倣品対策フォ-ラム開催

2-2                             特許庁の審査迅速化

2-2-1                      審査官一人当りの年間処理件数(請求項ベ―ス)は、2005年度1137項。20101400項目標。20061300項の見込み。

2-2-2                      一請求項当りの審査直接コストは2005年2万7千円。2010年度2万2千円目標だが、2006年度は2万3千円の見込み。

2-2-3                      審査官の増員は、2006年度110人、2007年度149人要求。研修時間は大幅に短縮。 

2-3                             企業における戦略的知財管理

2-3-1                      特許庁長官・特許技監と企業トップとの意見交換

2-3-2                      戦略的発明管理ガイドライン(事例集)を産業構造審議会がまとめ、公表する(本年度中)。

2-3-3                      経済産業省大臣と産業界の懇談会を平成19年度初頭に開催する。

2-3-4                      審査官端末一般公開

2-4                             地域・中小企業の知財活用に対する支援の強化

3.        SANARI PATENT所見

3-1 特許審査ハイウェイを含めて、おおむね従来政策の続行で、フォ-ラム等の予定に若干目新しい観があるものの、そのイノベ-ションへの寄与いかんは、フォ-ラム等に適格者が選ばれ、「イノベ-ション」の概念自体の革新を構想すると共に、即時にこれを実施の段取りに持ち込むための原動力となる能力を有する者であることが必要である。

   知財専門家としては、安倍内閣発足に即応して、標記プランが作成されたことを銘記し、期待に沿って行動すべきであるが、特に、当面の課題として、「出願・審査請求項構造の改革に必要な専門的助言」に努めなければならない。

3-2        しかし、このような行動のみからは、真の意味のイノベ-ションは創生されない。 「審査官を大幅に増員する」のみではなく、「審査官の増員が要求より抑制されても、審査の滞貨を増大させない出願・審査構造の革新的構築」を、イノベ-ションの大潮流のもとで、実現を図るべきである。

3-3         例えば、「新規性」と「有用性」のみで特許性を判断し、「自然法則」、「進歩性」を要件から軽減すれば、「従来技術調査受託機関」の民間増設と、その調査結果の原則的認容をもって新規性を判断し、また、発明の実用性の判断をもって有用性を判断し得る。さらに「自然法則要件」を外すことにより、プログラム特許における煩雑な擬制を不要化し、「米国特許法」との制度調和を画期的に進捗させ得る。国際競争力の見地からは、「有用な結果の産出可能性を確認できる新たな人為」の全てに、特許性を認める米国特許法に同化すべきである。

3-4        内閣知財戦略本部や産業構造審議会の会議では、無審査主義の提案までなされたのであるから、上記を「飛躍的」とは考えないでいただきたい。

2006年10月25日 (水)

ロッテ対グリコの知財高裁判決(10-18)

「ポスカム」販売の比較広告とグリコサイエンス論文

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 はじめに;

 学術論文実験に依拠した比較広告の不正競争性が争われ、その実験の再現に関する鑑定を実現し得なかったため(依拠側に帰責)、比較広告・比較表示の差止請求は知財高裁により認められたが(東京地裁は認めなかった)、論文実験依拠について故意・過失がないとして、損害賠償・謝罪広告の請求は、知財高裁によっても認められなかった事例である(東京地裁も認めなかった)。

 

1.            経緯

1-1        ロッテは、「江崎グリコ(以下「グリコ」)の商品ポスカムの販売広告(以下「本件比較広告」)中の比較表示(以下「本件比較表示」)が、不正競争防止法所定の品質等誤認表示および虚偽事実の陳述流布に当たる」として、本件比較表示の使用差止め・謝罪広告・損害賠償を求めた。

1-2        東京地裁は、ロッテの請求を全て棄却した。その理由は、「本件比較広告は、「TRENDS IN GLYCOSCIENCE AND GLYCOTECHNOLOGY誌掲載論文(以下「TIGG論文」)記載の合理的な実験(以下「D2-3実験」)とその再実験に準拠している」ことである(平成15年(ワ)156742004-10-20判決)。

1-3        ロッテ(訴訟代理人:久保利英明弁護士等)は、知財高裁に控訴し、知財高裁は、平成17年(ネ)10059号 広告差止等請求控訴事件判決(2006-10-18)において、「グリコは、本件比較広告・本件比較表示をしてはならない」と判決すると共に、グリコ(訴訟代理人:升永英俊弁護士等)に対し謝罪広告・10億円余の損害賠償・仮執行宣言を求めるロッテの請求を棄却した。

2.争点

2-1 D2-3実験は合理的か。

2-2 本件比較表示を含む広告宣伝は、不正競争防止法の「虚偽事実の陳述流布」・「品質等誤認表示」に当たるか。

2-3 ロッテが請求する「差止・損害賠償・謝罪広告」は可か。

3.知財高裁の判断

3-1 D2-3実験において、脱灰深度IDにより再石灰化効果を評価したこと自体は、不合理的であるということはできない・

3-2 D2-3実験におけるヒト唾液浸漬法自体が、試験方法として不適切であったと認めることはできない。

3-3 D2-3実験の撮影条件自体は、不適切であったと認めることはできない。

3-4 知財高裁は、D2-3実験の再現実験の実施を必要と考え、本件比較広告の虚偽性について立証責任を負うロッテの申出に基づき、鑑定の具体的実施方法の検討をロッテとグリコに求めたが、グリコが鑑定人に関する条件に固執したので、知財高裁は鑑定を断念した。グリコは、D2-3実験の合理性について、必要な立証を自ら放棄したものと同視すべきものであり、D2-3実験の合理性はないといわざるを得ない。

3-5 ロッテが行ったヒト歯を用いた実験の結果の信頼性を直ちに肯定することはできず、これを根拠として、D2-3実験の不合理性を明らかにすることはできない。

3-6 本件比較広告がD2-3実験と乖離しているとするロッテの主張は、失当である。

3-7 従って、本件比較広告が不正競争防止法2条1項14号、同13号に該当する理由は、その唯一の根拠であるD2-3実験の合理性の欠如(SANARI PATENT 注:論文実験の方法は不適切でないが、再現実験が欠如)に尽きる。

3-8 上記により、ロッテは、本件比較広告の差止を請求できる。

3-8 本件比較広告が不正競争防止法2条1項14号、同13号に該当するとしても、その点につきグリコに故意・過失あったことを直ちに認めることはできない。従って、ロッテからグリコに対する損害賠償・謝罪広告の請求は、理由がない。

4.SANARI PATENT所見

   内閣知財戦略本部の委員等として、またコンテンツ振興弁護士グル-プ組成など、知的財産の開発・活用を含めて御活躍中の久保利弁護士ほか弁護士各位の精緻な論及の成果として、知財高裁の説得力に富む判決が得られたことを評価したい。ロッテ・グリコ両大手の訴訟品格も高く、双方の企業品格が維持された。

2006年10月24日 (火)

高砂熱学と計装工業会が著作権事件に勝訴:知財高裁10-19

会社が業界主催講習の講師として社員を派遣した場合

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 はじめに:

  特許法35条(職務発明)が、職務発明について特許を受ける権利を発明者に帰属させた上で、企業等の通常実施権を法定しているのに対し、著作権法15条は、企業等の発意に基づく職務著作の著作者を企業等とすると定めている。そこで、勤務時間外に講習教材として社員が作成した資料の著作権帰属等が問題となる。

 標記判決は、著作権は社員に帰属するが、その複製(変更を含む)を黙示的にその社員が許諾したとして、社員から企業等に対する損害賠償請求を棄却した事例として、著作権の諸要素に関する判断要件を吟味すべきである。

1.        事案の要旨

1-1        標記知財高裁事件の控訴人Xは高砂熱学工業の元従業員であり、被控訴人は「高砂熱学工業(以下「高砂熱学」)および日本計装工業会(以下「計装工業会」)」(以下「高砂熱学・計装工業会」)である。

1-2        Xは高砂熱学在職中に、計装工業会主催の「計装士技術維持講習」の講師を勤めた。

1-3        Xは、上記講習の教材として、「空調技術の最新動向と計装技術」に係る資料(以下「本件資料」)を作成した。

1-4        Xが講師を勤めないとき、高砂熱学の社員ABは、本件資料の写し及び補正資料を作成し、計装工業会は、これをを受講者に配布した。

1-5        Xは、1-4の高砂熱学・計装工業会の行為は、Xの著作権(複製権・口述権)および著作者人格権(氏名表示権・同一性保持権)を侵害したとして、損害賠償等を求めた。

1-6        原判決(東京地裁)は、高砂熱学・計装工業会が1-4の行為についてXの黙示の許諾を得ていたとして、Xの請求を棄却した(平成17年(ワ)1720)。

1-7        Xは、これを不服として、その取消と損害賠償の支払等を求め、知財高裁に控訴した。

1-8        知財高裁は、平成18年(ネ)10027号 損害賠償等請求控訴事件判決(2006-10-19)において、Xの請求を棄却した。

2.        争点

2-1        本件資料の著作者はXか、高砂熱学か。

Xは勤務時間外の自己著作と主張し、高砂熱学は次のように主張した。

Xは、東京地裁が『高砂熱学の発意がある』(SANARI PATENT 注:職務著作、すなわち、著作権の高砂熱学帰属を認めること)などと、誤った認定をしている」と主張するが、高砂熱学が社外用務を承認し、それをXに伝えることをもって高砂熱学の判断がなされたと解するのが相当であり、本件資料が高砂熱学の発意によるとした東京地裁の認定は、正当である」。

2-2        本件資料の複製を、Xは高砂熱学・計装工業会に許諾したか。

2-3        高砂熱学・計装工業会は、Xの口述権を侵害したか。

2-4        高砂熱学・計装工業会は、Xの氏名表示権を侵害したか。

2-5        高砂熱学・計装工業会は、Xの同一性保持権を侵害したか。

2-6        Xは、高砂熱学・計装工業会に対し、不当利得返還請求権を有するか。

3.        知財高裁の判断

3-1 本件資料の作成経緯・内容等について検討すると、計装工業会から高砂熱学に講師の派遣を依頼してきたこと、講習の内容についての責任は、計装工業会が負うとされてきたこと、本件資料には高砂熱学の著作名義は付されず、講師名Xが付されていることなどから、本件資料が職務著作であるとの高砂熱学・計装工業会の主張は採用できない。

3-2 ABが使用した資料は、全体として本件資料の複製物と認められる。資料作成等、講習開催準備に際してのXAB、高砂熱学、計装工業会間の連絡・応答の経緯から見て、Xは、複製を黙示的に許諾したものと解する。

3-3 上記3-2の許諾により、Xの「口述権を侵害された」との主張は前提を欠く。

3-4 本件資料の表紙にXの名が記載されているのは、講師名としてである。氏名表示権が、「著作者名を表示するかしないかを選択する権利」であるという側面から見た場合、本件資料については、Xの氏名を著作者として表示しないことを選択しているものと解する。

3-5 本件資料は高砂熱学の職務著作とはならないが、Xが自己の業務とは別に全く私的に作成したものではない。従って、職務著作ではなくて、Xが著作者ということになるものの、必要に応じて変更・追加・削除を加えることを含めて、複製を黙示的に許諾しているものと解する。

3-6 本件資料について、著作権および著作者人格権の侵害が、上記の理由により認められないから、高砂熱学・計装工業会が法律上の原因なく利益を受けたということはできない。

4.        SANARI PATENT所見

  今次判決は、平たく言えば、「職務著作権の企業帰属性は認めないが、黙示の複製権許諾を認め、社員から企業への損害賠償請求を棄却した判決」である。

多くの業種にわったて、業界団体による講習会開催が盛んな折から、社員を講師派遣する場合における資料作成の著作権処理の問題点が詳細に網羅された判決として、検討する価値がある。

2006年10月23日 (月)

韓国P.K.KIM&ASSOCIATES特許事務所

三星電子、LG電子、三星SDI、東部アナム半導体

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        韓国IT企業の知財活動の活況

 韓国のP.K.KIM特許事務所の最新News Letterを受信した2006-10-21)

1-1        本年度第1四半期の韓国IT企業の特許登録件数が7926件に達し、同期の韓国全特許登録件数2万6277件の30.2%を占めるに至った。

1-2        企業別には、三星電子(日本法人は日本サムスン)2415件、次いで、LG電子1855件、三星SDI536件、東部アナム半導体465件であった。

1-3        IT企業の業種別では、情報通信機器製造業7403件、情報通信サ-ビス業347件、ソフトウェア176件であった。

1-4        IT企業の企業規模別では、大企業6824件、中小企業1102件であった。

1-5        企業別トップの三星電子の日本法人・日本サムスンは、本月11日から、同本社所在の六本木ティ―キュ―ブで、年初に他界した韓国の天才芸術家・白南準氏の「時は三角形」の展示を開催している。ソウルに生まれ、東大卒、京都賞受賞に至る芸術を、三星電子の15型液晶ディスプレイ72台で、天才の時間観念をもって表現するなど、技術顕示と市場親近の経営ノウハウが優秀である。

2.        韓国国勢の伸長

  P.K.KIM特許事務所を始め、活発かつ革新的な知財活動(特許庁審査官の在宅インタ-ネット勤務など)に牽引されて、韓国国勢の進展は著しい。

  IMF等の国際機関の数値により、若干の対比を試みる。

  ご注意! 実数は、IMF等の複数機関により、また、%にはSANARI PATE算定の項目もあります。従って、数値間に若干の不整合があります。

           日本    韓国

年央人口(百万人)

 2000         126.9    47.0

 2004          127.8   47.1

2005     127.8   47.8

  05/00増加%    0.7    1.7

名目DGP(10億米$)

 2000     4648  511.66

 2004     4588  679.67

 04/00増減% -1.29  +32.84

一人当り名目GDP(米$)

 2000    36649   10938

 2004    35922   14267

 04/00増減% -1.98   +30.4

実質経済成長率(%)(2004)

         3.7     4.6

鉱工業生産指数2004(2000=100)

       100.5   126.1

失業率2004(%) 4.7     3.7

消費者物価指数2004(2000=100)

                98.1   114.7

輸出FOB10億米$)

 2000    479     172 

 2004    566     254

 04/00増加%   18.16   47.67

輸入CIF10億米$)

 2000        380     160

  2004    455     224 

  04/00増加% 19.74   40.0 

国際形状収支(100万米$)

 2000   119660  12251

 2004   172060  27613

 04/00増加% 43.79  125.39

2006年10月22日 (日)

フジクラと日立電線:知財高裁判決2006-10-18

「光ファイバケ―ブル」発明の特許性

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

  はじめに:

 ADSLに続いて光ファイバケ―ブルの利用が急速に拡大しているが、光ファイバケ―ブルは、石英ガラスのコアを覆うプラスチックのクラッドで構成され、コアの屈折率がクラッドより高く設計されることにより、光が全反射現象による高速デ-タ電送機能を営む。このような材質と機能から、光ファイバケ―ブルの接続端部近傍の曲率の最適数値が、一つの技術課題となる。

 余談であるが、途上国では、銅線ケ―ブル、またこれを利用するADSLより先に、先進国の経済協力(ODA)により、光ファイバケ―ブルの敷設が先行する例もある(後発利益)。銅線の盗難が一因といわれている。なお、耐酷暑・耐酷寒・耐地圧力等の課題もある(ITUで、これら耐性の国際標準化も進めている)。

 下記は、主として曲率ないし曲率半径に関連して記述した。

1.        経緯

1-1        フジクラは、発明「光ファイバケ―ブル」について特許出願し、設定登録された(2002-12-8)

1-2        日立電線は本件特許について無効審判請求し(2004-8-30)、特許庁は無効審決した(2005-3-28)

1-3        そこでフジクラは、知財高裁に、1-2審決の取消請求を提訴し、また、特許庁に対し訂正審判を請求したが(2005-7-8)、知財高裁は、1-2審決を取消す決定をした(2005-8-1)

1-4        特許庁は再審理し、本件訂正を認めず、本件発明についての特許を無効とする旨、審決した(2006-3-29)

1-5        知財高裁は、平成18(行ケ)10204号 審決取消請求事件判決(2006-10-18)において、フジクラの請求を棄却した。

2.        本件訂正前発明の内容(要旨)

2-1        次の構造と特徴を有する光ファイバケ―ブル

2-1-1        多数光ファイバケ―ブルを並列配置してテ―プ状に集合し、端部を一括融着接続する。

2-1-2        接続端部近傍の曲率半径が光ファイバ波長帯λにおいてλ/1.41より大きい。

2-2               次の特徴を有する2-1の光ファイバケ―ブル

2-2-1        1.3μm帯用シングルモ―ド光ファイバにおいて、接続端部近傍の曲率半径が、0.9m以上、かつ、最大許容接続損失値が0.5dB以下である。

2-3               次の特徴を有する2-1の光ファイバケ―ブル

2-3-1 1.55シングルモ―ド光ファイバにおいて、接続端部近傍の曲率半径が、1.1m以上、かつ、最大許容接続損失値が0.5dB以下である。

3.        本件訂正の内容(要旨)

  2-1-2の「λ/1.41」を「λ/1.4」にするなど、誤記訂正する。

4.        フジクラ・日立電線の争点に対する知財高裁の判断

4-1        明細書または図面の記載が誤記として訂正を認められるのは、訂正前記載が誤りで訂正後記載が正しいことが、その明細書または図面の記載や当業者などの技術常識から明白な場合でなければならない。

4-2        フジクラの本件訂正においては、曲率と曲率半径は同じでないにもかかわらず、同一の数値を用い、また、理解不能な曲率半径数値を用いるなど、技術的意義が不明である。

4-3        フジクラの明細書および図面をできるだけ合理的に理解しても、技術的意味が認められない。

4-4        すなわち、「訂正事項の訂正が誤記訂正に当たらない」として訂正を認めなかった審決の判断に誤りはない。

4-5        「λ/1.41」を「λ/1.4」に訂正することは、本件訂正前の明細書および図面に開示されていなかった新たな技術的意義を持ち込むものであって、実質上、特許請求の範囲を変更するものである。(従って、訂正は認められない)

4-6        訂正が認められることを前提とする「審決無効」の主張は、認められない。

5.        SANARI PATENT所見

  フジクラと日立電線と、当業界のグロ-バルな優位企業であり、また、付与された特許発明が無効とされた事件であるから、判決を逐語解読することが必要と考える。                                                                                         

2006年10月21日 (土)

ドコモが勝訴:「個人確認システム特許」の無効理由

無効審決取消請求事件の知財高裁判決10-18

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 はじめに:

 今やケイタイは、IT革新、デジタルコンテンツ振興、文化の国際流通の花形役者であり、知財開発のグロ-バルな競争の場においても、意匠やオープンソースソフトウェアを含めて、華麗な演技を展開しつつある。

 今次知財高裁判決(2006-10-18)に係る「個人確認システム」特許事件も、その発明の内容はケイタイへの適用に限定されていないが、ケイタイを主眼にして開発されている。

 アテンションシステムの標記特許権の無効審判をドコモが特許庁に請求し、特許庁が無効審決し、原告アテンションシステムがドコモを被告として、知財高裁に、この無効審決の取消を請求した事件である。

 平成17(行ケ)10663号 審決取消請求事件判決において、知財高裁は、アテンションシステムの請求を却下した。

1.        本件発明の要旨

1-1        本件特許発明1

  次の構成を有する個人確認システム

1-1-1      自己を呼び出すための呼び出し番号を記憶した記憶手段を有する携帯通信機

1-1-2      前記記憶手段から前記呼び出し番号を読み出すための読出手段と通信手段を有する端末機

1-1-3      前記呼び出し番号と前記携帯通信機の持ち主の暗証コ―ドを関連付けて記憶したコンピュ-タ-

1-1-4      前記端末機の読出手段によって携帯通信機の記憶手段に記憶された呼び出し番号が読み出された後、端末機からコンピュ-タ-に呼び出し番号が送信され、呼び出し番号によってコンピュ-タ-から携帯通信機が呼び出され、携帯通信機から暗証コ―ドをコンピュ-タ-に送信することにより、コンピュ-タ-において呼び出し番号と関連付けて記憶された暗証コ―ドと照合され、照合の結果が前記端末機に送信されるシステム

1-2       本件特許発明2

   次の構成を有する1-1の個人確認システム

1-2-1      コンピュ-タ-に記憶された暗証コ―ドと、携帯通信機から送信された暗証コ―ドとが一致したことに対応して、端末機に金額デ-タが入力され、端末機からこの金額がコンピュ-タ-に送信されるシステム

1-3       本件特許発明3

   次の構成を有する1-1の個人確認システム

1-3-1      コンピュ-タ-に記憶された暗証コ―ドと携帯通信機から送信された暗証コ―ドとが一致したことに対応して、端末機において現金の授受が行われ、この現金の授受に伴う金額デ-タが端末機からコンピュ-タ-に送信されるシステム

2.        本件特許無効審決の理由(要旨)

2-1  本件特許発明1と引用発明1を対比すると、「呼び出し番号」は「電話番号」に、「携帯通信機」は「携帯電話」に、「端末機」は「取引物引渡し装置」に、「暗証コ―ド」は「暗証番号」に、「コンピュ-タ-」は「情報処理装置」に、それぞれ相当し、また、本件特許発明1の「読出手段」と引用発明の「読取手段」は、いずれも、携帯通信機の記憶手段に記憶した呼び出し番号を端末機に入力する「入力手段」である。(引用発明との一致点)

2-2  本件特許発明1と引用発明の相違点は次の3点であるが、いずれも引用発明から、当業者が容易に想到し得たことである。

2-2-1        呼び出し番号を記憶手段から「直接」読み出すことにした点

2-2-2        コンピュ-タ-から携帯通信機を呼び出すようにした点

2-2-3        携帯通信機から暗証コ―ドをコンピュ-タ-に送信し、コンピュ-タ-において、呼び出し番号と関連付けて記憶された暗証コ―ドと照合するようにした点

2-3  同様に、本件特許発明2および3についても、容易想到性が認められる。

2-4  本件特許発明1と、引用発明2を対比しても、「呼び出し番号」は「PH番号」に相当するなど、一致している。

   相違点としては、「端末機から携帯通信機を呼び出すこと」に代えて、「コンピュ-タ-から携帯通信機を呼び出すこと」にした点などがあるが、いずれも容易想到性が認められる。

3.        知財高裁の判断(要旨)

3-1        審決が「『呼び出し番号』を電話番号と解釈することに何の支障もない」と認定したこと、および、このことを前提として本件特許発明1と引用発明1の一致点を認定した点に、何ら誤りはない。

3-2        「入力手段」について、審決が、抽象化すべきでないものを抽象化したということはできない。

3-3        引用発明1に、引用発明2の「コ―ルバック方法および交換システムを適用することにつき、当業者にとって格別の困難性があるとはいえない。

3-4        アテンションシステムが主張する本件発明の各効果は、格別顕著なものということはできない。

4.        SANARI PATENT所見

  アテンションシステムの発明に本件特許を付与した特許庁審査官は、「当業者」の立場において「想到困難性」を認め、本件特許を無効とした特許庁審判官および知財高裁裁判官は、同じく「当業者」の立場において「想到容易性」を認めた。

  短絡的に表現すると、「固定電話等の従来技術における個人確認システム」から「ケイタイにおける個人確認システム」への着想が、想到容易であるか否かの判断の相違ということになるが、知財専門家としては、容易想到性を認めることの寛厳が、ケイタイの発達に及ぼす影響にも想いを及ぼしたい。

2006年10月20日 (金)

特許庁の拒絶査定維持審決を取消す(IBM側勝訴)

有機発光素子用カプセル封入材発明:知財高裁判決10-11

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 はじめに:

  IBMから、「有機発光素子用カプセル封入材としてのシロキサンおよびシロキサン誘導体」発明の特許を受ける権利を承継したトッポリ―・オプトエラクトロニクス・コ―ポレ―ション(以下「トッポリ―」)が特許拒絶査定に対して不服審判を請求し、請求不成立の審決を受けたので、知財高裁にその取消を求め、認容された事件である。

1.        経緯

1-1        IBMは、「有機発光素子用カプセル封入材としてのシロキサンおよびシロキサン誘導体」発明の特許を出願した(1996-7-10)

1-2        トッポリ―は、IBMから、上記発明の特許を受ける権利を承継した(2004-9-29)

1-3        次の行為は、特許庁がIBMに対し、またはIBMが特許庁に対して行い、知財高裁への訴訟提起はトッポリ―が行った。

1-3-1        拒絶査定(2002-4-11)

1-3-2        審判請求(2002-7-16)

1-3-3        手続補正(2004-8-6)

1-3-4        拒絶理由通知(2004-8-6)

1-3-5        審判請求不成立審決(2005-6-7)

1-4               トッポリ―は、1-3-5審決の取消を知財高裁に求め、知財高裁は、平成17(行ケ)10717号 審決取消請求事件判決(2006-10-11)により、トッポリ―の請求項を認容した。

2.        本願発明の要旨

    次の特徴を有する有機発光素子

2-1  一方が陽極として働き、他方が陰極として働く2つの接触電極と、この2電極間に電圧を印加した場合に電界発光により光が発生する有機領域を有する。

2-2  発光部分がシロキサンで覆われ、このシロキサンが2-1の光の経路内に配置された光学要素を含む。

2-3  この光学要素は、レンズ・回折格子・ディフュ―ザ・偏光子・またはプリズム、あるいはこれらの任意の組合せから成り、2-2のシロキサンに埋め込まれるか、2-2のシロキサン中に形成されるか、または2-2のシロキサンのポケット状の部分内に配置される。

3.        争点と知財高裁の判断

   特許庁は、審決の理由を、拒絶理由の引用によっているが、要するに、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるといもものである。

   これに対し知財高裁は、次項4のように、特許庁の「本願発明と引用発明との一致点の認定に対する誤り」を指摘し、この誤りは特許性についての判断に決定的影響を及ぼすものであるとして、特許庁の拒絶査定およびこれを維持する審決を、取消すべきものと判断した。

4.        本願発明と引用発明の一致点認定に関する知財高裁の判断(特許庁の認定を誤りであると判断した事項について)(抜粋)

4-1                引用発明に開示されたシロキサンの保護膜を、真空環境下におけるプラズマ重合法以外の方法により形成して、引用発明のオ―バ―コ―ト層に代わる平坦化膜に使用することが、当業者に容易になし得ると認めることはできない。

4-2                引用発明において光を基板とは反対側から取り出すような構成とした場合には、光散乱部を光の経路内に配置するためには、光散乱部の上に有機発光素子を形成するのではなく、有機発光素子の上に光散乱部を形成することになるから、少なくとも平坦化を目的としてオ―バ―コ―ト層を設ける必要はなくなるものと推認され、そうであれば、基板上に有機発光素子、光散乱部を埋め込んだオ―バ―コ―ト層を順に配置する構成となるとの特許庁の主張は、直ちに採用し得るものではない。

4-3                引用発明1のオ―バ―コ―ト層に換えて引用発明3のシロキサンを用いることは、当業者といえどもこれを容易になし得ると認めることはできない。

5.        SANARI PATENT所見

    特許権の法的安定状態に至る過程の、制度構成の適否について、今後も検討の継続を要するものと考える。

2006年10月19日 (木)

最高裁の論理構成:日立製作所の上告を棄却

職務発明の対価:「外国の特許を受ける権利も含む」

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 はじめに:

 わが国特許法の職務発明に関する規定については、職務発明規定を設けない米国特許法との対比や、職務著作を企業帰属とするわが国著作権法との均衡等をめぐって、今後の検討に俟つところであるが、今次判決は、わが国現行法の解釈および今後の検討の双方にわたって重要であるので、「外国の特許を受ける権利」の問題に局限して、最高裁判決の論旨を記録しておく。

1.        事件:

1-1  平成16(受)781 補償金請求事件 平成181017日判決  最高裁第3法廷 日立製作所の上告を棄却

1-2  原審 東京高裁 平成14(ネ)6451  平成160129

2.        最高裁の判断(要旨)

2-1        本件譲渡契約(SANARI PATENT 注:日立製作所と元同社社員Yを当事者とする「レ―ザ―光を利用して情報を記憶媒体に記録再生する装置・方法」に関する発明について特許を受ける権利の譲渡契約)に基づく特許を受ける権利の譲渡対価に関する問題については、その対象となる権利がわが国及び外国の特許を受ける権利である点において渉外的要素を含むため、その準拠法を決定する必要があるところ、日本法人である上告人(SANARI PATENT 注:日立製作所)と、わが国に在住して日立製作所の従業員として勤務していた日本人である被上告人Yとが、Yがした職務発明について、わが国で締結したものであり。日立製作所とYとの間には、本件譲渡契約の成立及び効力の準拠法をわが国の法律とする旨の黙示の合意が存在すると認められるから、法令7条1項により、その準拠法は、外国の特許を受ける権利の譲渡対価に関する問題を含めて、わが国の法律である。

2-2        特許法35条3項にいう「特許を受ける権利」には、わが国の特許を受ける権利のみならず、外国の特許を受ける権利が含まれるから、Yは日立製作所に対し、外国の特許を受ける権利についても、同条3項に基づく同条4項所定の基準に従って定められる相当の対価を請求できる。

2-3        特許法35条3項・4項は、職務発明の独占的な実施に係る権利が処分される場合において、職務発明が雇用関係や使用関係に基づいてなされたものであるために、その発明をした従業者等と使用者等とが対等の立場で取引することが困難であることにかんがみ、その処分時において、その権利を取得した使用者等がその発明の実施を独占することによって得られると客観的に見込まれる利益のうち、同条4項所定の基準に従って定められる一定範囲の金額について、これをその発明をした従業者等が確保できるようにして、発明を奨励し、産業の発展に寄与するという特許法の目的を実現することを趣旨とすると解すべきところ、権利の承継について両当事者が対等の立場で取引することが困難という点は、その対象がわの特許を受ける権利である場合と外国の特許を受ける権利である場合とで何ら異ならない。

2-4        特許を受ける権利は、各国ごとに別個の権利として観念し得るが、その基となる発明は、共通する一つの技術的創作活動の成果であり、さらに、職務発明については、その基となる雇用関係も同一であって、これに係る各国の特許を受ける権利は、社会的事実としては、実質的に1個と評価される同一の発明から生ずるものである。

2-5        その発明をした従業者等から使用者等への特許を受ける権利の承継については、実際上、承継の時点において、どの国に出願するのか、出願しないでノウハウとして秘匿するのか、出願に対し特許が付与されるか、確定していない場合が多く、わが国の特許を受ける権利と共に外国の特許を受ける権利が包括的に承継される場合もある。このような多様な場合を含めて、その発明については、使用者等にその権利があることを認めることによって、両当事者間の法律関係を一元的に処理するというのが、当事者の通常の意思と解される。

3.        SANARI PATENT所見

    最高裁の判断は、巧みな論理構成のようにも見えるが、2-5の「当事者の通常の意思であると解される」という「解釈」は、若干、専断的な感をもつ向きがあろう。従来の、訴訟例・和解例や準拠法理論から、外国の特許を除外する前提で契約してきた、とすることが使用者等の意思であった、という発言もあり得る。マスコミ(例えば、朝日新聞2006-10^-18)が、日立製作所知財本部長の「誠に遺憾」という記者会見発言を伝えた内容にも、この辺の曖昧さが局在するとも考えられるが、抜本的制度改正を、少なくとも検討すべきであると考える。なお、最高裁の論旨を一貫する見地からは、2-2の特許法解釈のみに依拠すべきで、2-5の「当事者の意思」に論及しない方が妥当であったと考える。

2006年10月18日 (水)

WIPOの特許2次統計解析

出願数優位を評価する諸角度

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        人口百万人当たり特許出願件数

  WIPO(世界知的所有権機構)は、2004年の世界知財統計を公表(2006-10-16)したが、2次統計のいくつかを見る。

 人口100万人当たり年間特許出願件数とその順位は、次のようにグラフで表示された。

日本       2884

韓国       2189

米国        645

ドイツ       587

オ―ストラリア   479

ニュ―ジ―ランド  402

フィンランド    385

デンマ―ク     347

ノルウェ―     335

英国        320

スウェ―デン    308

イスラエル     227

スイス       217

ロシア       160

世界平均      148

シンガポ―ル    147

オランダ      134

カナダ       125

イタリ―      111

ベラル―ス     108

ウクライナ      86

ハンガリ―      75

スペイン       67

ポ―ランド      62

チェッコ       61

中国         51

ベルギ―       50

アルゼンチン     26

ブラジル       21

タイ         11

トルコ         7

インド         7

メキシコ        5

2.        GDPとの対比

  上表の順位を、仮に、国民の特許出願意欲の優位順と評価するとして、それは、国内総生産の順位とどのように乖離しているか、国際通貨基金による2005年数値によって見比べる。単位は、米ドル)。

米国     12兆4388億7300万ドル

日本      4兆7990億6100万

ドイツ     2兆9066億5800万

英国      2兆2950億3900万

フランス    2兆2162億7300万

中国      1兆8431億1700万

イタリア    1兆8364億0700万

スペイン    1兆1203億1200万

カナダ     1兆0984億4600万

ロシア       7554億3700万

インド       7494億4300万

ブラジル      7320億7800万

韓国        7207億7200万

メキシコ      7145億3000万

オ―ストラリア   6924億3600万

オランダ      6293億9100万

ベルギ―      3878億4000万

スイス       3846億4200万

スウェ―デン    3838億1600万

台湾        3451億0500万

トルコ       3402億6300万

オ―ストリア    3183億4300万

ポ―ランド     3122億5700万

ノルウェ―     2856億0400万

サウジアラビア   2848億9500万

インドネシア    2840億0720万

デンマ―ク     2659億3400万

ギリシャ      2306億8400万

3.        SANARI PATENT所見

 特許出願件数において、わが国優位の程度が高いが、他国との特許出願数優位格差が、国の経済規模や経済成長率の格差と、どのように相関するか、多様な角度からの考察を要する。その結果は、知財政策の最も基本的な要素と考えるべきである。

2006年10月17日 (火)

経済財政諮問会議と知財戦略

「持続的」成長の基盤としての知財戦略

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 はじめに:

  ホワイトハウス型とか官邸主導型とか言われる安倍新内閣の政策機構として、経済財政諮問会議は重要な地位を占めるが、その有識者メンバ―の、マスコミにおける活発な発言も、並行的に大きな影響力を及ぼすと考える。

 安倍総理の国会所信表明演説(2006-9-29)には、「知財」の語は聴かれず、「創造」の基盤としてこれに包含されていると考えるが、安倍新内閣初回の経済財政諮問会議(2006-10-13)でも、「知財」の語は、経済産業大臣の発言にのみ一箇所見受けられ、全般的基盤として全分野に包含されているものと解する。

1.        有識者議員4名の共同意見(2006-10-13)(要旨)

1-1        伊藤隆敏(東大)・丹羽宇一郎(伊藤忠)・御手洗冨士夫(キャノン)・八代尚宏(国際基督大)の4議員は、「創造と成長に向けて」と題し、次のように述べた。

1-1-1        戦後の高度成長をもたらしたわが国の経済システムには、制度疲労を起こしている例や、現実とのミスマッチが温存されている例があり、せっかくのわが国の高い潜在力が生かせず、国民の真のニ―ズに応えきれていない。(SANARI PATENT 注:知財法の基本的構成に「制度疲労」がないか、別途、内閣知財戦略本部において検討課題とすべきである)

1-1-2        こうした岩盤のような構造的な問題に深く斬り込み、新たなステ―ジへと引き上げていくことが、「成長なくして日本の未来なし」の含意である。

1-1-3        今後5年間で「新成長経済への移行期」を完了するものとし、前半の2年間を新成長経済に向けての「離陸期間」と位置づけ、潜在成長率を高めるための改革に大胆に取組むべきである。

1-1-4        最先端産業の強化のみならず、裾野の広い従来型の企業や産業においても、情報通信技術等のイノベ-ションにより生産性を高める具体的施策が求められている。(SANARI PATENT 注:イノベ-ションは、先端開発イノベ-ションと底辺底上イノベ-ションから成り、格差の固定を解消する)

1-1-5        世界、特にアジアを中心とするグロ-バル市場と、優れたヒト・モノ・カネを自由に往来させ、それをわが国の成長に取り込んでいく具体的施策が求められる。

1-1-6        政府が民間の経済活動の足枷にならないよう、規制改革の続行と歳出削減が求められる。

1-1-7        「政府が資金の使途を決める時代」から、「資産が市場で効率的に運用されて国富を生み出す時代」に転換すべく、政府系金融機関改革、特別会計改革、独立行政法人改革を徹底すべきである。(SANARI PATENT 注:知財担保融資など、政府系金融機関が標榜している業務を、民間民有機関が引き取るべきである)

2.        尾身議員

2-1        財務大臣の立場もあり、国民負担率の国際比較を示した。

日本37.7%、米国31.8%、英国47.1%、カナダ47.2%、ドイツ53.3%、イタリア59.9%、フランス60.9%、スウェ―デン71・0%と先ず示し、潜在的国民負担率(国民負担率に、財政赤字対国民所得比を加算)を、日本43.9%。米国38.3%、英国51.2%、カナダ47.2%、ドイツ58.4%、イタリア63.9%、フランス66.5%、スウェ―デン71.1%と示した。(SANARI PATENT 注:総合国際競争力でわが国より劣る国と比較しても意味がない。特に、人口が東京都の半ばにも満たないスウェ―デンを強調するのは誤りであり、米国との対比により政策決定すべきである)

2-2        19年度予算は、徹底した歳出削減を実施する。

3.        甘利議員

 経済産業大臣の立場もあり、次のように課題を示した。

3-1        課題の柱として、次の4項目を挙げた。

3-1-1        イノベ-ションを創造する施策の強化

3-1-2        成長の原動力として、アジアのダイナミズムの取り込み

3-1-3        成長を担う人材の育成、教育現場での産学連携など(SANARI PATENT 注:知財実務を大学課程に産学連携で組み込むべきである)

3-1-4        中小企業・地域の活性化など(SANARI PATENT 注:安倍総理の「美しい国日本」を活用して、「美し国」『うましくに』を加え、日帰りバス地方観光美食旅行が流行し始めた。民間の知恵が先行している)

3-2               上記柱の3-1-1の1項目として、「持続的な経済成長の基盤をなす知財戦略」が掲げられた。(SANARI PATENT 注:「知財の効果は「持続的」であって、必ずしも「即効的」ではない)

2006年10月16日 (月)

ポイントシステムのプログラム(ソフトウェア)特許要件

「拒絶査定維持審決の取消請求事件」知財高裁判決(9-27)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 はじめに:

  ポイントシステムが生活のあらゆる分野に浸透している。顧客の吸引と囲い込み、顧客情報の集積、営業利益率の向上を、コンピュ-タシステムにより精確に達成する意図のもとに、ポイントシステムそのもののイノベ-ション競争が、企業間・企業グル-プ間の勝敗を決定する要素ともなりつつある。

 ポイントシステムに関する特許の成否を決定する要素の一つが、わが国では、「自然法則の利用」という特許要件の文言である。このことは、米国特許法と対比して極めて顕著な相違点である。

1.        今次知財高裁判決の経緯

1-1        原告Xら(以下「X」)は、発明「ポイント管理装置および方法」につき特許出願し(2000-10-19)(以下「本願」)、拒絶査定(2003-2-17)を受け、審判請求すると共に、手続補正した。

1-2        特許庁は補正を却下し、「本件審判請求は成立たない」と審決した82005-8-2)

1-3        Xは、この審決の取消を知財高裁に請求し、知財高裁は、平成17年(行ケ)10698号 審決取消請求事件判決(2006-9-27)において、Xの請求を棄却した。

2.        本願特許請求の範囲

2-1        次の手段を有することを特徴とするポイント管理装置

2-1-1        ユ-ザ-のポイントキャンペ―ンごとのポイントアカウントを用いて、ポイントキャンペ―ンごとの累積ポイントを記憶する累積ポイント記憶手段

2-1-2        ユ-ザ-の識別情報と、ユ-ザ-が入力した記号列とを含む送信情報を、ネットワ-クを介して受信するステップ

2-1-3        ユ-ザ-の識別情報に基づき決定されるユ-ザ-の、記号列に基づき決定されるポイントアカウントに関して、累積ポイントを記憶手段の累積ポイントに、所定ポイントを加算する手段

2-2               上記2-1のポイント管理装置を用い、次のステップを有することを特徴とするポイント管理方法

2-2-1        ユ-ザ-の識別情報と、ユ-ザ-が入力した記号列とを含む送信情報を、ネットワ-クを介して受信するステップ

2-2-2        上記受信に対応して、ユ-ザ-の識別情報に基づき決定されるユ-ザ-の、記号列に基づき決定されるポイントキャンペ―ンデ-タベ-スの累積ポイントに所定ポイントを加算するステップ

3.        審決の理由

3-1        本件補正はいずれも、特許法17条の2第4項(補正要件)に反する。

3-2        本件発明は、自然法則を利用した技術的思想の創作とは認められないから、特許法29条柱書の「発明」に該当しない。

4.        発明該当性

    本稿では、冒頭に述べた見地から、「発明該当性」に関する主張を考察する。

4-1 Xの主張(要旨)

4-1-1 本願発明は、仮に何らかの人為的な取り決めを前提としても、全体としては2-2のステップを実行することにより所期の目的を実現するものであり、自然法則を利用した技術的思想の創作たる「発明」に該当する。

4-1-2 発明の実現が、コンピュ-タ-によるか、コンピュ-タ-を用いない機械によるかは、その発明の成立性を決定しない。コンピュ-タ-により実現可能であるという考え方には合理的理由がなく、産業の発達上も問題である。コンピュ-タ-を利用せず、トランジスタやICシ―ケンス回路を用いて、論理回路により、ポイント管理装置を形成する場合には発明の成立性を否定するということは、不合理である。

4-1-3 コンピュ-タソフトウェア特許に関する審査基準の趣旨は、数学的または経済的ル―ル等は、特許制度による独占を許すべきでないので、コンピュ-タ-の利用による自然法則利用の外観を有しても特許性を排除することにのみある。

4-2 特許庁の主張(要旨)

4-2-1 本願発明においてポイントを管理する行為は、ポイントアカウントデ-タベ-スにアクセス可能な端末装置等を用いることにより、人間(キャンペ―ン管理者等)がデ-タベ-スの内容を表示画面で参照して行うことも、技術的不合理や矛盾なく解釈可能である。「受信する」行為、「加算する」行為も、同様である。

4-2-2 本件請求項でハ―ドウエア資源として用いられている「アカウントデ-タベ-ス」は、単に処理対象の蓄積ポイントを記憶しているだけであり、また、「ネットワ-ク」は送信経路を特定しているだけであり、前者はデ-タベ-スの通常の利用態様に過ぎず、後者も特段の技術的意味を持つものと認められない。

4-2-3 従って、行為の主体を人間とする解釈では、本願発明は、専ら、ポイント管理事業者が、アカウントデ-タベ-スやネットワ-クを道具として用いて、どのような手順で、複数のキャンペ―ンに関するユ-ザ-のポイント管理業務を実行するかという人為的取り決めを特定したものであり、全体として、自然法則を利用した技術的思想の創作とは認められない。

4-2-4 コンピュ-タ-がポイント管理を行う場合についても、ソフトウェアの情報処理として把握できる程度の具体的な処理手順は、本願発明において把握できない。すなわち、使用目的に応じた特有の情報処理装置の動作方法が構築されているものとはいえない。

5、知財高裁の判断(要旨)

   本願発明の各行為を人間が実施することもできるのであるから、本願発明は、「ネットワ-ク」、「ポイントアカウントデ-タベ-ス」という手段を使用するものではあるが、全体としてみれば、これらの手段を道具として用いているにすぎないものであり、ポイントを管理するための人為的取り決めそのものである。

   従って、本願発明は、自然法則を利用した技術的思想の創作とは認められない。

6.        SANARI PATENT所見

6-1        特許庁の審決、知財高裁の判断は、コンピュ-タ-ソフトウェア関連発明に関する現行審査基準および判例に即するものである。なお、コンピュ-タ-ソフトウェア特許と、プログラム特許、ビジネス方法特許等との明確な画定はない(語義上)。

6-2        米国特許法と米国特許審査基準が、自然の法則利用を要件としていないことと対比して、イノベ-ションにおける両者の得失を再考すべきである。

6-3        トヨタの「カンバン方式特許」の特許性との対比も、改めてなすべきである。

2006年10月15日 (日)

広域関東圏知財戦略本部の活況

関東経済産業局所管地域一都十県

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        弁理士と関東経済産業局

1-1        弁理士6784人(2006-8-31)のうち5364人、すなわち、79.1%が関東経済産業局の所管都県の分布している。全国8経済産業局の産業活動比重は、極く大まかに見て、関東40%、近畿25%、中部15%で、この計が80%を占め、残り20%を5経済産業局が分担しているから、弁理士の分布が、関東経済産業局において高いことは自然であるが、自然以上に高率と見る向きも多いのではないかと思われる。

1-2        企業の中枢管理機能が、知財戦略を含めて東京都に集中していること、特許庁を始め、知財関係諸機関も東京都に集中していることが、弁理士の 65.5%(4445人)を東京都に分布させ、十県(茨城・栃木・群馬・埼玉・千葉・神奈川・新潟・長野・山梨・静岡)に分布する弁理士919人を合わせて、上記5364人に達している。

1-3        日本弁理士会の関東支部は、関東経済産業局に比べて、長野・静岡・新潟が他支部に属することから、弁理士分布数は5262人で、対全国比は

77.6%である。

1-4 関東に分布する弁理士の大多数は、インタ-ネット・アクセスポイント等により、全国企業の知財相談、委嘱業務に応ずることを公告しており、また、いわゆる知財キャラバン隊を結成して、地方の需要に応じ、更に全国府県の知財活動に参加しているから、特許事務所の所在にかかわらず、弁理士の活動は全国に分布していると考える。

2.        広域関東圏知財戦略本部

2-1        関東経済産業局技術企画課特許室を事務局とするこの戦略本部は、同局管内の自治体・公的支援機関の担当者・中小企業者・大学有識者で構成し、地域における知財の取組の在り方を検討し、平成18年度広域関東圏知財戦略推進計画(2006-4-27)を策定している。

2-2        広域関東圏は、1-2記載の一都十県であるが、「知財に対する意識の格差が大きく、全般的に知財への取組が整備されていないのが現状である」と見ている。また、「自治体・公的支援機関により知財活動に対する支援が実施されているが、各機関間の連携が十分でなく、効率的な運営が行われているとは言えない状況にある」と指摘している。

2-3        このため同本部は、具体的には次のように計画している(要旨)。

2-3-1        自治体・公的支援機関との意見交換を進め、相互に情報交換並びに連携の取組を進めるための環境を整備する。

2-3-2        地域において個別に実施されていた国や自治体・公的支援機関の普及・啓発に取組むべく、相互に情報を共有し、自治体・公的支援機関と連携しつつ、地域の取組に即した事業を実施する。

2-3-3        専門家による支援活動の強化により、地域ニ―ズを集約し、企業等が必要とする情報を提供する。

3.        SANARI PATENT所見

日本弁理士会関東支部は、その隣接支部と連携しつつ、広域関東圏知財戦略本部の事業に、直接的・間接的に参画しつつある。

2006年10月14日 (土)

知財人材の類型別強化に関する課題

国際戦略人材・イノベ-ション人材・法曹人材

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.内閣知財戦略本部の課題提起(その4)

1-1        国際的な知財専門人材育成の取組強化について

「知財を活用して国際的な産学官連携や企業の事業展開を進めるため、国際的に戦える知財専門人材の育成確保に関する官民の取組を強化すべきではないか」・

1-2        イノベ-ション創出を支える知財人材育成の強化について

「第3期科学技術基本計画において、科学技術関係人材の育成が謳われているが、イノベ-ション創出を支える知財人材の育成を更に強化すべきではないか」。

1-3        知財に強い法曹の養成について

2006年度より知財法を選択科目とする新たな司法試験が開始された。今後も司法試験における知財法の選択者の拡大、法科大学院における理系出身者の増加、法曹に対する知財教育を行う場の充実などを図り、知財に強い法曹を養成すべきではないか」。

2.上記課題に対するSANARI PATENTの意見

2-1 国際的知財専門人材について

   産学官を通じて、国際市場の開拓と制覇、標準化国際会議、科学国際学会等への関係者参加により、参加者の「国際的知財人材」としての知見の蓄積は着実に行われていると考える。例えば、国際電気通信連合の標準化会議は、毎月数件世界各地で開催され、諸国の政府・企業から寄与文書(contribution)の提出による提案・討議がなされると共に、交渉経過の報告・検討会が、日本ITU協会の主催により毎月公開で開催され、産学官とも参加している。SANARI PATENTも勿論、参加してきた。

 問題はこのような取組が十分でない分野や職域があることであり、ITU等の事例に準ずる取組を拡大する必要がある。

2-2 イノベ-ション創出の知財人材について

   第3期科学技術基本計画(SANARI PATENT 注:2006年度から2010年度までの5年間を対象として文部科学省が科学技術基本法に基づき策定し、2006-3-28閣議決定した)は、「イノベ-ションを生み出すシステムの強化」について次のように述べている。

  「大学や公的研究機関等で生み出される優れた基礎研究の成果をはじめとする革新的な研究開発の成果をイノベ-ションに次々と効果的につなげていくため、産学官が一体となって、わが国の潜在力を最大限発揮させるべく、イノベ-ションを生み出すシステムを強化する」。

  「イノベ-ション創出を狙う競争的研究を強化するため、イノベ-ション思考の目標設定や研究進捗管理等を行う責任と裁量権あるプログラムオフィサ―を置くなどにより、マネジメント体制を強化する」。

  「イノベ-ションは、新たな融合研究領域から創出されることが多いが、そのような領域は経済社会ニ―ズに基づく課題解決に向けた積極的な取組により効果的に形成される。このため国は、産業界の積極的な参画を得て。わが国が世界を先導し得る先端的な融合領域に着目した研究教育拠点を大学等において重点的に形成する」。

  イノベ-ション創出の知財人材は、上記計画の実行に参加する要員を確保することにより、計画の実行に伴う知見の蓄積により養成されることが適切と考える。

2-3 知財に強い法曹の養成について

2-3-1  知財の機能が、生活機器、コンテンツ、インタ-ネットシステムを含めて国民生活の全領域で作用し、それらの国際流通も活発化することから、知財を含む法律関係の適正な形成と維持は、いわゆる知財専門法曹やエンタメロ―ヤ―に専属する領域ではなく、法曹界全体が関与すべき職務である。従って、弁護士の弁理士登録を促進すると共に、弁理士未登録弁護士、簡裁知財訴訟単独訴訟代理権を持つ司法書士を含めて、知財案件への関与を全国にわたり促し、知財に強からしめることが適切である。

2-3-2 特に司法書士は、2003年度の弁護士法改正(専権規定ただし書の改正)と司法書士法の改正(業務規定)により、認定司法書士(現在約1万人)は、知財事件を含めて簡裁単独訴訟代理権を有し、全国に散在することから、法曹の一環として、地域ブランド、著作権、著作隣接権、ファイル交換、コンテンツ流通、インタ-ネット販売等、広義の知財問題が絡む訴訟や和解について、活躍を期待し育成すべきであると考える。なお、付記弁理士は、簡裁知財事件についても単独訴訟代理権を有せず、この不均衡を是正することは、流通の地域拡散にも資すると考える。

2006年10月13日 (金)

アイスクリ―ムに紅隼人(ベニハヤト)商標は無効

種苗法品種登録と商標権の関係:知財高裁判決9-27

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

はじめに:

美しい国づくりを目指して、農水産省知財戦略本部を始め、地域農林水畜産業振興の意気込みが盛んであるが、既に九州の

指宿市

で、サツマイモの新品種・紅隼人(ベニハヤト)が20年ほど前に誕生し、カロチンポテトと呼ばれるほど多量のカロチン(SANARI PATENT 注:体内でビタミンAに変換する)を含み、オレンジ色の菓子(羊羹・クッキ―など)の原料としても、著名になった。

  なお、種苗法に基づき、紅隼人(ベニハヤト)は1986-11-26に品種登録されている。  

1.今次判決に至る経緯

1-1 Xは、本件商標「紅隼人」を、指定商品:第30類「アイスクリ―ム」について出願し(1997-8-4)し、設定登録された(1999-3-19)

1-2 ユ―シ―シ―上島珈琲㈱(以下「上島珈琲」)(訴訟代理人・

北村

修一郎弁理士ほか)は、1-1商標の無効審判を請求し(2002-7-8)、特許庁は次の理由(要旨)のよって、この商標無効の審決をした(2006-4-7)

「同商標を、その指定商品中、『ベニハヤトを使用したアイスクリ―ム』に使用した場合、これに接した取引者・需要者は、商品の原材料・品質を表示したものと理解し、商品の識別標識とは理解しないものと判断するのが相当であり、また、『紅隼人(ベニハヤト)を使用しないアイスクリ―ム』にこの商標を使用すると、商品の品質について誤認を生ずるおそれがある。従って、この商標は商標法3条1項3号と4条1項16号に違反する」。

1-3        Xは、この無効審決の取消を知財高裁に求めた。

1-4         知財高裁は、平成18年(行ケ)10229号 審決取消請求事件判決(2006-9-27)

  において、Xの請求を棄却した。

2.Xの主張(要旨)

2-1 種苗法と商標法は独立した制度であり、種苗登録されていても、商標登録が無効になるものではない。しかし、種苗法4条1項は、「出願品種の種苗に係る登録商標と同一または類似のものであるとき」は品種登録を受けることはできないと定める。紅隼人(ベニハヤト)の品種登録より前に、日本酒類販売の紅隼人登録出願があり、従って、品種登録は無効である。無効な品種登録に基づいて本件商標を無効にすることはできない。

2-2 上島珈琲は、「紅隼人(ベニハヤト)を原料に加えていないアイスクリ―ムに使用すると、商標法4条1項16号に違反すると主張するが、商品の品質の誤認のおそれが大きいのではなく、アイスクリ―ムにはJIS所定事項が記載され、かつ、本件商標の指定商品は野菜とは明確に分類されているから、消費者が誤認してはならないのである。

3.上島珈琲の主張(要旨)

3-1 本件商標がアイスクリ―ムに付された場合、取引者・需要者は、紅隼人(ベニハヤト)の文字はそのアイスクリ―ムの原材料の一つを表し、さつまいもの一種である紅隼人(ベニハヤト)を原材料の一つに加えたものと認識するにすぎない。従って、本件商標は、商標法3条1項3号に該当する。

3-2 紅隼人(ベニハヤト)を原材料に加えていないアイスクリ―ムに本件商標が使用される場合は、取引者・需要者は、そのアイスクリ―ムは紅隼人(ベニハヤト)を原材料の一つに加えたものと認識するおそれがあるから、商標法4条1項16号に該当する。

4.知財高裁の判断(要旨)

4-1 上島珈琲の主張(3-1,3-2)の趣旨を、認容する。

4-2 審決が紅隼人(ベニハヤト)の品種登録について認定をしたのは、紅隼人(ベニハヤト)がさつまいもの新品種の一つであり、取引者・需要者にそのことが広く知られていたことを基礎付けるためであり、紅隼人(ベニハヤト)が種苗法に基づいて品種登録されていることから、本件商標登録を無効としたものではない。

4-3 Xが紅隼人(ベニハヤト)の品種登録が無効である根拠として挙げる商標は、その登録日が紅隼人(ベニハヤト)の品種登録より後(1988-3)であるから、この品種登録を無効とする根拠にならない。

4-3 工業標準化法に基づく表示義務と、商標法の登録要件とは、異なる趣旨・目的に基づく。

5.SANARI PATENT所見

5-1 訴訟代理人による上島珈琲の主張は、整然と構成され、本年4月に施行された地域ブランドの団体商標制度に関連しても、また、地域農林水畜産業振興に伴い今後発生の可能性ある同種問題についても、参考価値が高いと考える。

5-2 農水産省知財戦略本部の検討経過に見るように、同じく知的財産権ではあるが、育成者権と、特許権・商標権等の工業所有権とは、成立基盤を異にする側面も多い。これらの接点・融合点を明確に認識することが必要である。

2006年10月12日 (木)

エ―ザイ対大洋薬品工業:胃潰瘍治療剤のPTP

不正競争行為差止等請求控訴事件:知財高裁判決(9-28)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        経緯

1-1        エ―ザイは、「大洋薬品工業が販売する胃潰瘍治療剤『セルベックスカプセル50mg』(以下「大洋薬品工業胃潰瘍治療剤」)が、エ―ザイの販売する胃潰瘍治療剤と、カプセルおよびPTPシ―トの色彩及びPTPシ―ト(SANARI PATENT 注:PTPは「Press Through Package」:錠剤・カプセル剤包装の主流)の色彩構成が類似し、大洋薬品工業による大洋薬品工業製胃潰瘍治療剤の販売が、不正競争防止法211号の不正競争行為に該当する」として、大洋薬品工業胃潰瘍治療剤の販売等差止・廃棄・損害賠償を請求した。

1-2        原審東京地裁は、エ―ザイの請求を棄却した。

1-3        エ―ザイはこれに対し知財高裁に控訴し、「大洋薬品工業の行為は民法709条の一般不法行為にも該当する」として同一請求を予備的請求として、追加した。

1-4        知財高裁は、平成18年(ネ)第10009号 不正競争行為差止等請求控訴事件判決(2006-9-28)において、エ―ザイの控訴を棄却した。

2.        カプセル及びPTPシ―ト

    エ―ザイが主張する「エ―ザイ胃潰瘍治療剤のカプセル及びPTPシ―トの色彩構成」は、緑・白2色の組合せから成るカプセル及び銀地に青で文字等が書かれたPTPシ―トという色彩構成である(以下「エ―ザイ色彩構成」)。

3.        知財高裁におけるエ―ザイの主張(要旨)

3-1        患者も、不正競争防止法における「需要者」である。

   患者は、医療用医薬品の選択権を有し、処方医薬品が告知なく先発品から後発品に変更されれば、復元を求める場合もある。

3-2        色彩構成も、商品等表示である。

   東京地裁は、色彩や色彩構成は本来的に商品の出所表示目的を有するものではないこと等を理由として、「エ―ザイ色彩構成の商品等表示該当性の判断基準としては、その色彩が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有していることを要する」と判断した。

   しかし医療用医薬品の場合、患者は、カプセル及びPTPシ―トの色彩等で識別する。

3-3         エ―ザイ胃潰瘍治療剤色彩構成のエ―ザイ独占は妥当である。

  エ―ザイ胃潰瘍治療剤色彩構成をエ―ザイが独占しても、他事業者の不利益は、カプセル形態の胃潰瘍治療剤に限定される。フリ―ライドされるエ―ザイを保護すべきである。

3-4         顕著性の判断対象範囲は胃潰瘍治療剤中とすべきである。

医療用医薬品の種別ごとに市場が存在するから、顕著性は胃潰瘍治療剤の中において判断すべきである。

3-5        顕著性の判断時期は、商品等表示性の獲得時期とすべきである。

   エ―ザイ胃潰瘍治療剤色彩構成は、昭和59年に発売後、平成9年に後発品出現までエ―ザイが独占したから、遅くとも平成9年には表示性を有し、その後も高いシェア―を持続している。

3-6        大洋薬品工業の模倣の程度は、デッドコピ―であり、患者の誤認を惹起し、患者の自己決定権を侵害している(不法行為)。

4.        知財高裁における大洋薬品工業の主張

4-1        不正競争防止法において、商品等表示性が認められるためには、現実の商取引の現場において、識別機能をもつものでなければならない。

4-2        医療用医薬品については、薬事行政上、PTPサイ―ト等に商品名の和文記載が要求され、色彩構成に識別機能を期待していない。従って、その特別顕著性を論ずる意味がない。

4-3        患者は医療用医薬品の取引に関与しないから、不正競争防止法上の需要者になり得ない。

5.        知財高裁の判断

5-1        色彩または色彩構成が商品と結合して出所表示機能を有し、「商品等表示」に当たるためには、その色彩または色彩構成をその商品に使用することの特異性など、顕著な特徴を有し、かつ、その使用継続性の程度、需要者の着目度合いを考慮して検討しなければならない。

5-2        エ―ザイ胃潰瘍治療剤色彩構成における顕著な特徴の有無は、医療用医薬品全体を同種商品として検討すべきである。

5-3        小野薬品工業、ゼリア新薬工業等の製品と対比し、また、エ―ザイ胃潰瘍治療剤色彩構成の独占が希釈されたことからも、顕著な特徴を有するとは認められない。

5-4        患者が需要者に該当する場合もあり得るが、胃潰瘍患者が、エ―ザイ胃潰瘍治療剤色彩構成によって、他の胃潰瘍治療剤または医療用医薬品一般から、エ―ザイ胃潰瘍治療剤を識別していることを認めるに足りる根拠はない。

5-5        大洋薬品工業の胃潰瘍治療剤販売jは、不正競争防止法の不正競争行為に当たらないから、大洋薬品工業が専らエ―ザイに損害を与えることを目的としてその胃潰瘍治療剤を販売しているなどの特段の事情がない限り、一般不法行為を構成しない。

6.        SANARI PATENT所見

    いわゆる医薬特許権満了の集中時期を迎え、また、薬局等の医薬品販売対象の拡大、後発医薬品(ジェネリック医薬品)の低廉な供給等が国民の利益に適すると考えられている折柄(公取も、後発医薬品関係の発言を行った(2006-10-11)、エ―ザイの主張を全面的には否定せずに結論を導出した知財高裁の判断を熟読し、エ―ザイ・大洋薬品工業双方の主張を再読すべきである。

2006年10月11日 (水)

大日本印刷対凸版印刷(大日本印刷の進歩性論に注目)

特許無効審決取消請求事件 知財高裁判決10-04

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        経緯

1-1        原告・大日本印刷(訴訟代理人:牛久健司弁理士・井上正弁理士ほか)は、特許番号2599945号「透過型スクリ―ン」の特許権者である。

1-2        被告・凸版印刷(訴訟代理人:武田稔弁護士・小栗久典弁理士ほか)が、特許庁に対し、上記特許の無効審判を請求し、特許庁が無効審決をしたので、大日本印刷は、同審決の取消を知財高裁に請求した。

1-3        知財高裁は、平成17年(行ケ)第10493号 審決取消事件判決(2006-10-04)において、大日本印刷の請求を棄却した。

2.        本件発明(要旨)

次の構成および特徴を有するプロジェクションTV用透過型スクリ―ン:

2-1        構成: 次の基板から成る。

2-1-1        フレネルレンズ基板より観察側に配置され、光拡散作用をもつレンチキュラ―レンズ基板(SANARI PATENT 注:フレネルレンズは、光学的には凸レンズあるいは凹レンズの効果を持つが、形状は平板状のレンズであって、レンズの軽量化・コンパクト化に効果を発揮している。レンチキュラ―レンズは、表面に凹凸を有し、両眼視差により立体感画像を得るレンズである)

2-1-2        レンチキュラ―レンズ基板(2-1-1)より光源側に配置され、フレネルレンズ形状をもつフレネルレンズ基板(2-1-1)

2-2               特徴: 次の特徴を有する。

2-2-1        フレネルレンズ基板(2-1-1)は、紫外線硬化樹脂により成形されている。

2-2-2        レンチキュラ―レンズ基板(2-1-1)に紫外線吸収作用をもたせた。

3.        本件特許無効審決の理由(発明の内容について)(要旨)

3-1        従来技術(引用発明1および2)と対比すると、

3-1-1        引用発明2に係る後面投影型スクリ―ンもプロジェクションTV用透過型スクリ―ンの概念に属するものであり、引用発明1と技術分野を同じくするものであるので、引用発明1における「光拡散物質で構成されたレンチキュラ―レンズ」の経時性を改良する目的で引用発明2のレンチキュラ―レンズを使用することは、当業者が容易いなし得たものである。

3-1-2        紫外線硬化樹脂により成形された樹脂製品が紫外線により劣化することは、本件出願時に当業者に知られていた課題であり、引用発明1におけるレンチキュラ―レンズに引用発明2の紫外線吸収剤を添加したレンチキュラ―レンズを適用して得た構成によって、紫外線硬化樹脂で成形されたフレネルレンズへの紫外線が減少し、劣化が防止されることも、当業者が容易に予測できたものである。

4.        大日本印刷の主張(無効審決取消請求理由)(要旨)

4-1        本件発明が解決する課題は、本件出願前には存在せず、引用発明に記載されていない。しかるに特許庁の無効審決が、進歩性判断において、発明の構成のみを重視し、本件特許発明がその構成を採用するに至る動機となった課題が何であるかは問題でないとする判断手法自体が、誤りである。

4-2        発明の進歩性の判断においては、当業者のレベルで、その出願時を時的基準として、その発明が解決を意図した課題、目的達成のため採択された技術的手段(構成)、その構成により奏することができる特有の作用効果の各点につき、その予測性・困難性を考察すべきであり、そのいずれかの段階において予測性がない、すなわち、困難性があると認められるときは、その発明に進歩性を認めるべきである。

4-3        審決には、進歩性判断において、個別の誤りがある。

5.        知財高裁の判断

5-1        本件特許発明は、引用発明1および2に基づいて当業者が容易に発明することができたというべきであって、無効審決の判断に誤りはない。

5-2        大日本印刷は、「発明の構成は、目的・課題や作用効果とともに把握されねばならない」として、引用発明1に2を組み合わせることにより「レンチキュラ―レンズ基板に紫外線吸収作用をもたせた」構成が得られるとしても、それが、本件特許発明と同一の課題の解決として導かれたものでなければ、本件特許発明の進歩性を否定できないと主張する。しかし、他の課題によるものであれ、引用発明1,2を組み合わせること自体に動機等のいわゆる論理付けがあり、かつ、この組合せにより本件特許発明の課題の解決に係る効果が、当業者に予測可能であるならば、本件特許発明は、「引用発明1,2に基づき当業者が容易に発明できたもの」というべきである。

6.        SANARI PATENT所見

    最近、進歩性の判断における厳格性の推移や、米国における新規性・有用性基準との比較検討が極めて活発である。大日本印刷の主張と、知財高裁の判断を十分対比研究することが必要と考える。

2006年10月10日 (火)

倒産確率計測装置・審決取消請求事件・知財高裁判決10-04

みずほ第一フィナンシャルテクノロジ―の請求を棄却

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        経緯

1-1        みずほ第一フィナンシャルテクノロジ―とX(以下「みずほFTら」は、「倒産確率計測装置」(出願時名称は「倒産確率及び回収率の計測システム」)発明について特許出願(以下「本件出願」)したが、拒絶査定(2002-10-04)を受けたので、不服の審判請求をした。

1-2        特許庁の審理中、みずほFTらは「本件補正」(2004-07-26)及び「最終補正」(2005-08-15)をしたが、特許庁は「本件審判の請求は成立たない」と審決した(2005-06-06)

2.本願発明の内容(要旨)

   次の手段を備えることを特徴とする倒産確率計測装置

2-1        国債明細入力手段(国債市場価格・ク―ポンの属性情報を含む)

2-2        社債明細入力手段(社債市場価格・発行企業の業種ウエイト・社債格付けを含む)

2-3        上記2-12-2による入力情報のデ-タ変換処理・出力手段

2-4        国債の価格体系計測手段(2-3により変換されたク―ポンの時系列デ-タに基づき国債理論価格を算出し、市場価格との差額を算出して、この差額を用い、複数国債間の相関パラメ―タを算出して、国債価格体系の最適値を出力する)

2-5        期間構造算出手段(2-4による最適値デ-タに基づき、国債市場価格の平均値を表現する平均割引率関数の最適関数を定め、国債割引率の期間構造のデ-タとして出力する)

2-6        上記2-5のデ-タの記憶手段

2-7        社債の現在価値計測手段(社債明細・発行企業明細・国債割引率期間構造デ-タに基づく社債の理論価格の算出、社債の理論価格と市場価格の誤差デ-タの算出、社債の属性・倒産確率・回収率と割引率の関係の算出、誤差デ-タ値の縮小による倒産確率期間構造の最適化、最適化回収率と倒産確率期間構造に基づくパラメ―タにより計測する)

2-8        期間構造・回収率算出手段(格付けと業種を組み合わせたカテゴリ―ごとの倒産確率の最適化期間構造に、発行企業の業種ウエイトを乗じたデ-タに基づき、個別企業の倒産確率の期間構造のデ-タを得て出力する)

3.        特許庁の「請求不成立審決」の内容(理由)

3-1        みずほFTらが行った最終補正は、当初明細書・図面記載事項の範囲外である。

3-2        本願発明は、特許を受けようとする発明が明確でない。

3-3        当業者が発明を実施できる程度に明確・十分に記載されていない。

4.        みずほFTらの上記3に対する反論(要旨)

4-1 「一般最小2乗法」とは、本願発明が属する金融工学分野はもとより、数値解析・統計学・計量経済学の分野では、常識に近いほど一般的な手法である。本願発明においては、さらに一般化して、確率的な擾乱項の共分散行列に、非対角成分を導入するものである」。(「不明点はない」と主張)。

4-2 理論価格と市場価格の差額を用いて複数国債間の相関パラメ―タを算出することは、当業者が容易に実施できるよう記載している」。(「発明は明確に記載」と主張)。

4-3 特許庁の主張によれば、実施例の範囲を超えるいかなる広がりをも、特許請求の範囲に認めないこととなる。例えば、発明の詳細な説明に「ねじ」が記載されている場合、特許請求範囲の「締結手段」が、根拠なく不明瞭であるというのに等しい。

4-4 回帰分析の分野においては、単なる最小2乗法、一般化最小2乗法、最尤法などの手法が知られており、精度の優劣と計算の複雑度の差があっても、いずれの最適化の手法をも利用できるものである。

5.        知財高裁の判断

5-1        本願明細書には、一般化最小2乗法以外の回帰分析の手法や、実施例に示された以外の相関構造について、全く示されていない。従って、一般化最小2乗法以外の回帰分析の手法や、実施例に示された以外の相関構造を構成として含む本願発明は、明確でないというべきである。

5-2        特許請求の範囲に記載された上位概念による構成が明確であるためには、当業者が、公知技術や周知技術を参酌して、適宜実施できる程度に具体的に記載されている必要がある。

5-3        本願明細書には、記載関数以外のキャッシュフロ―関数、一般化最小2乗法以外の回帰分析の手法、記載以外の相関構造についても記載していない。

5-4        「倒産確率の期間構造の最適化されたものを求める」処理が、具体的にどのような処理を意味するのか、不明である。

5-5        上記の判断により知財高裁は、平成17年(行ケ)10704 審決取消請求事件判決(2006-10-04)において、原告みずほFTらの請求を棄却した。

6.        SANARI PATENT所見

知財関係業務で直接、回帰方程式を用いる例としては、予想収益の現価還元によるブランドや特許権の定額的価値評価等がある。これらの場合も、現価率の選択やリスク率の参入方法の選択が、評価価額に著しい影響を及ぼし、決定的に妥当な評価方式を樹立するに至らない。

 知財高裁が不明瞭とする点も、国債・社債の価値評価方式にインプットする諸係数値の選択肢について、確定値が見出せないことに起因すると考える。

 みずほFTらの緻密な相関式設定と、新分野特許開発のご努力には、深く敬意を表し、金融・証券の分野にも知財権が拡大することを期待する。

2006年10月 9日 (月)

各種学会の活用と支援

国際知財流通・オ-プンイノベ-ション等

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.内閣知財戦略本部の課題(その3)

同本部のサイクル専門調査会は、人材育成のための課題の一つとして、次のように述べている。

「知財に係る人材の充実を図るためには、豊かな経験や知識を備えた優れた人材が数多く参入することが望まれる。幅広い人々が知財と接し、知財へ誘引する機会を増やすべく、自然科学や経営系等の学会において知財に関する分科会等、知的財産に関する理解を深める場の設立を奨励すべきではないか」。

2.SANARI PATENT考察:

学会を類別して上で、日本知財学会と研究技術計画学会の例を見る。

2-1        知財に関する総合的学会、知財の各分野に関する学会、知財を含む学会の三つの類別が考えられるが、そのいずれも発展することが必要である。

2-2        先般、社団法人成りした日本知財学会は、正式名称に「知的財産」ではなく「知財」を用いたことにも先導性が現れており、立法府・行政府とも、これに倣うことが望ましいが、更に、本年11月には「国際知財流通の現在と将来」シンポを開催し、先ず「オ-プンイノベ-ション時代のコ―ポレ―トの研究開発戦略と知財」をテ―マとしている。

2-3        「国際知財流通」という単語も、グロ-バルインタ-ネット時代にふさわしい現代語であるが、今般、安倍首相が所信表明(2006-9-29)において、「イノベ-ションの力とオ-プンな姿勢により、日本経済に新たな活力を取り入れます」と述べたのに先立って、イノベ-ションとオ-プンを合成したオ-プンイノベ-ションを論ずる結果となったもので、まさに学が政治を先導する観がある。

2-4        また研究技術計画学会は、本年10月の大会において、「イノベ-ション創出に向けた「目的基礎研究」(SANARI PATENT 注:この用語もイノベ-ション的用語である)から応用・実用化研究への橋渡しに関するケ―ススタディ」、「日本の医工連携イノベ-ションの推進」、「学際コミュニケ―ション論」、「産学連携活動の評価のあり方に関する検討」、「産のシ―ズからの産学連携」、「産学連携の国立私立比較」、「液晶TVにおける日韓競争における暗黙知」、「半導体産業における標準化戦略の300mmシリコンウェファの例」、「戦略的標準化人材育成プログラム」「特許クレ-ムの主題分析方法」、「知財の科学技術研究に与える影響に関する米国科学振興協会AAASのパイロット調査」など、サイクル専門調査会の提示課題に」即する内容の発表が予定されている。

3.SANARI PATENT所見

   知財専門家の多くが複数の学界(専門分野と総合・学際)に所属し、発言機会を増加して融合・交流に資することが望まれる。

2006年10月 8日 (日)

大学・知財研修機関連携の前提

大学課程に知財実務が欠落→特許明細書作成能力なし

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.内閣知財戦略本部の課題提起その2

  内閣知財戦略本部は、課題その1(SANARI PATENT10月7日記事)に続いて次のように述べている。

  「知財人材育成を体系的に行うためには、大学等の教育機関と研修機関が互いの役割を認識した上で連携することが重要である。しかしながら、その前提となる教育機関同士が連携する場が不足しており、研修機関から教育機関へ働きかけにくいという指摘がある。このため、知財教育に関し、教育機関の連携のためのこれらが集う場の設置などを検討すべきではないか」。

2.SANARI PATENT考察:大学の知財本部設置の普及が先決

   知財本部を設置している大学、例えば、東京医科歯科大学では、研修機関としても充実している日本弁理士会・知的財産政策推進本部委員等の弁理士を10数名招聘して知財研修を行い、かつ知財本部のホ-ムペ-ジを用いて研修内容を説明しつつ、企業職員等の学外参加おも認め、もって知財人材教育に寄与している。

 問題はこのような知財本部の設置が、前国744大学のうち43大学(5.8%)に過ぎないことである。すなわち、平成18年度学校基本調査(2006-5-1現在)による上記大学総数(内訳は国立87、公立89、私立568)に対し、知財推進計画06の報告によれば、「大学知的財産本部整備事業」実施機関として知的財産本部を設置している大学数は上記のように極めて少数にとどまる現状である。知財の範囲の広域性について認識不足のためとも考える。

大学の知財実践活動も、特許庁の出願等統計2006年版によると、2005年における特許登録件数は、特許登録大学数43(大学総数の5,8%)の特許登録数計301(うち50はTLO利用)で、同年の全国特許登録数計12万2944件の0.24%に過ぎない。

TLOは47(2006-3-31現在)設置されたが、大学総数の6.3%に過ぎない。TLOはライセンス料等で組織経費を賄ってゆかなければならない立場にあるから、顧客獲得のための域内他大学との連携は見られるが、学内分担としては、知財本部に研修を委ねることとなる。実は、知財本部とTLO等の職務分担自体が、内部の教授にすら明確でないことが一因となって、訴訟が発生したとも推察される事例もある(東工大教授対東工大事件)。

上記の現状を先ず適正化し、研修機関との連携を全国の及ぼすことが適切である。

3.SANARI PATENT所見

 知財立国を掲げるならば、科学実験と共に、技術知識・知財実務・知財法概論が、大学4年間の課程に適切な比重を占め、学士は全て知財人材でなければならない。この基盤を欠くと、全ての提案が砂上の楼閣に帰すると考える。

 現に、先端学術用語を用いて卒業論文や学位論文が制作できるのに、特許明細書を作成できない在学生・卒業生・修士等が多いことを、奇異に感ずることが先ず必要である。明細書の構文を「平易かつ常識的に」して、本人出願ができるように、という配慮に先立って(「平易に」という提案の当否自体が問題であるが)、学術用語を用いる能力があれば特許明細書の記述は可能であるという大学教育を施すことは、知財振興、国際競争力強化のため必須である。

2006年10月 7日 (土)

知財人材育成の広域機関:放送大学と科学技術振興機構

多様な人材多数を効率的に育成可能な全国ネット機構

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.内閣知財戦略本部の課題提起その1

   内閣知財戦略本部は、そのサイクル調査会で知財戦略の課題を提起(2006-9-21)し、広く意見を求めているが、「人材の育成と国民意識の向上」については、六つの課題を提起している。課題の第一、「研修機関の情報交換および相互協力」については、次のように述べている(要旨)。

「知財関連の各研修機関では、それぞれの設立目的に応じた独自の研修を行っているが、他研修機関との間では、カリキュラムの相互利用や講師の相互派遣等の協力はあまり行われていない。今後、知財人材総合戦略に基づき、多様な人材を効果的に育成するためには、研修機関同士が連携を深め、情報交換および相互協力を行う必要があるのではないか」。

2.放送大学・同大学院と科学技術振興機構

上記の課題に即応できる機構として、各特別法と国費投入により設立・整備・維持されている標記両者は、異なる設立目的を維持しつつ、知財人材の育成に最も効率的に寄与できる協力基盤を有していると考える。

2-1        放送大学は教育学部単科大学であるが、六つの専攻コ―スを有し、特に「自然の理解専攻コ―ス」、「産業と技術専攻コ―ス」、「社会と経済専攻コ―ス」は、TV放送・面接講義・学習センタ-での科学実験・レポ―ト添削・卒業論文発表等、学士課程が完備している上に、大学院の設置により、先端分野の研究が可能となった。学部の実験にも、例えば、22年前の開学当初から、「ウニの卵巣からDNAの抽出」という項目があったが、DNAの二重螺旋構造の解明が1953年であるから、弁理士のうちでも50歳を超えた年配の各位は、DNA抽出のご経験はほとんど無いと推察される(現在、高校では生徒の毛髪を教材として、毛根からDNAを抽出し、電気泳動解析まで実験させている。その様子はNHK3Chの高校講座でも見られる)。大学施設の見学も、東大理学部の科学実験室は、例えば、青酸カリガスの充満した大パイプが張り巡らされ、「安定時間極微少元素」の実験等を実感できた。

2-2        放送大学の教授は、東大等の定年退官者と、いわゆる生え抜き教官のほか、全国に散在する特殊技術専門科学技術者や現役教授をTVに動員することが随時可能であり、教育人材の層は極めて厚くかつ広い。

2-3        放送大学のラジオおよびTV講義は、現在はほぼ全国で視聴可能であり、自然系以外でも、欧米の裁判所制度、法曹制度、弁護士制度等のTV講義は、米国最高裁判事のインタ―ビュ―やドイツ知財裁判所の紹介等を含めて、また、民法・民事訴訟法・刑事法や会計学のTV講義を含めて、知財人材育成に適する課目選択が可能である。

2-4        次に独立行政法人・科学技術振興機構(JST)のe-ラ―ニング(同機構での名称は、「Webラ―ニング」または「技術者Web学習システム」)は、現在はライフサイエンス、情報通信、電子電機、機械、ナノテクノロジ―材料、化学、映像型教材、安全、環境、社会基盤、総合技術監理、科学技術史、技術者倫理で構成されている。

    「映像型教材」には、「強化層形成を目的とする金属表面処理」、「リサイクルのためのマテリアル粉砕」、「キャビテ―ション起因の機械の破壊」、「薬毒物の分離精製技術」、「超高真空を作る技術」等、動画中心の教材が豊富に用意されている。また「化学」は、キラル(SANARI PATENT 注:鏡像不整構造体:非対掌体)、クラスタ―、計算化学、伝熱、流動、膜分離、蒸留、制御の各コ―スで構成されている。

  「情報通信」のコンピュ-タ-ア―キテクュア―コ―スは、命令セット、諸メモリ―、仮想記憶、割り込み、演算、プロセス制御、ベクトル、並列処理で構成され、自己診断テストとその再テストおよび正解解説や新語解説を付帯した音声および動画による講義(これは各科目とも)である。

3.SANARI PATENT所見

上記の放送大学・科学技術振興機構のe-ラ―ニングシステムは、全国各地で随時活用できるから、両国費機構の連携による知財人材育成効果の相乗が期待される。これは座学・対面学習に比べて、対象可能人数と地域において、また、随時反復可能性において優れている。

2006年10月 6日 (金)

今次弁護士新人1144人の東京集中と知財人材総合戦略

今次弁護士会登録者が2人以下の地域が13

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.地域格差対策との不整合

1-1 asahi.com2006-10-05報道は、日弁連のまとめで判明した状況として、次のように述べた(要旨)。

1-1-1 今月初、司法修習を終えて弁護士登録した1144人のうち、579人が東京に登録(登録総数の50.6%)、大阪の128人、愛知の55人、横浜の48人と合算すると810人で、登録総数の70.8%に達する(比率はSANARI PATENT算出)。

1-1-2 一方、栃木・福井・富山・山形・旭川の弁護士会には2人、岩手・秋田・徳島・高知の弁護士会へは1人しか登録せず、山梨・函館・釧路・鳥取の弁護士会への登録は零であった。

1-1-3 上記1144人は、今次司法修習終了者1386人の82.5%に当たる(比率はSANARI PATENT算出)。その他は裁判官・検事等を志望する。

2.知財戦略にける弁護士の重要性

2-1 知財に依存する製品・サ-ビス・コンテンツの国際流通と、国民生活末端までの浸透が急進する現在、著作権を始め、知財問題を多少とも含む法律問題が著増することは必至であるから、法秩序維持のため、弁護士の活動が益々重要になる。

  従って、内閣知財戦略本部の知財推進計画06は、「2006年度から、『知財人材育成総合戦略』を実行し、人材の増加、広域化を図る」と計画した。

2-2        上記「知財人材総合戦略」(2006-1-30)は、5章62ペ-ジにわたるが、弁護士については、次のように述べている。

2-2-1        米国の弁護士登録者数が約100万人であるのに対して、わが国の弁護士数は約2万人に過ぎない。

2-2-2        米国の特許弁護士(弁護士資格に加えて特許出願代理人資格も取得した者)だけでも3万人に達する。

3.対策の帰趨

上記1のasahi.comは、「2007年には新法試験の合格者が加わって、司法修習終了者数が約2500人(SANARI PATENTで合算)に増える見通しであるので、日弁連では、地方の弁護士を増やす活動を進める」と報じている。

4.SANARI PATENT所見

   弁理士についても、内閣知財戦略本部の上記人材総合戦略は、質を保持しつつ人数の増加と地方での活躍を必要としていることは周知の通りであり、地域格差是正に向けて、弁理士の適切な対応が求められていると考える。

2006年10月 5日 (木)

教育基本法改正と知財

「教育再生基本計画」に「知財創造性」を期待

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.教育基本法改正案の「創造性」重視

1-1        安倍首相の所信表明演説(2006-9-29)と、これに続く両院本会議での代表質問・答弁によって、教育基本法改正が新内閣の主たる公約とされたが、この改正案、遡っては現行教育基本法の全条文を熟読していない向きが、かなり多いように推察される。

1-2        知財専門家の一員としては、知財重視の基本的国策が、改正案にどのように表現されているかを確認し、賛否の意見を持つことが適切と考える。

1-3        教育基本法の現行法にも改正案にも、「知的財産」という語は出現していない。しかし、先ず法の前文において、改正案が、「創造性を備えた人間の育成」を謳ったことは高く評価すべきであると考える。現行法の前文にも「創造」という語は見出せるが、対比して熟読すると、改正案のそれが「知的財産」の概念と密着していることが読取れると考える。すなわち、「文化の創造」に加えて、「創造性」が別掲されている。

1-3-1    現行法前文の該当箇所:

「普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす教育を普及徹底しなければならない」。

1-3-2    改正前文案の該当箇所:

「豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成を期するとともに、伝統を継承し、新しい文化の創造を目指す教育を推進する」。

2.条文構成の改正

2-1 現行法第2条「教育の方針」を「教育の目標」と改め、「創造性を培い」、「職業及び生活との関連を重視し」の語が加えられた。

2-2 第3条として、「生涯学習の理念」が加えられた。

2-3 第7条として「大学」が加えられ、「大学は、学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、深く真理を探究して新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする」と定めている。

   また、同条第2項に、「大学については、自主性、自律性その他の大学における教育及び研究の特性が尊重されなければならない」と定めている。

3.SANARI PATENT所見

3-1                教育の各分野について、現行法は、学校教育、社会教育、政治教育、宗教教育の各条文を設けており、改正法案は、これに、家庭教育、幼児期教育の各条文を加えているが、いずれも知的財産に関する条文を設けるには至っていない。

3-2                 しかし、改正法案は、第17条として、「教育振興基本計画」(所信表明では、別途、「教育再生」という語が用いられた)の条文を新設しているから、少なくともこの基本計画において、知的財産教育の教育全分野にわたる重要性が強調さるべきである。

2006年10月 4日 (水)

姉歯元建築士登場の違和感

名義貸し禁止規定・弁理士会加入制度の検討

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.産業構造審議会知財政策部会

   弁理士制度小委員会が既に4回開催され、審議が進んでいるが、注目されてきた事項のうち二つについて、事務局による委員発言の要約を見る。

1-1        弁理士事務所の補助員について

1-1-1        他の士業でも、こういった話(SANARI PATENT 注:名義貸し的な行為)はなされており、名義貸しの禁止は明記した方がいいと思う。

1-1-2        わが国では、何か起こってから対処することが多いが、万が一の場合に備えて、名義貸しの禁止について明確な規定を設けておいた方がいいのではないか。

1-1-3        アンケ―ト調査結果にあるようなひどい弁理士・補助員はそれほど多くはないのではないか。

1-1-4        名義貸しの禁止に集約した議論をするのは問題がある。弁理士法の信頼失墜行為禁止規定への違反で足りるか否かも含めて、議論すべきである。

2.弁理士会強制加入制度について

2-1        強制加入制度は、懲戒と表裏一体をなすものである。強制加入制度をなくすと、懲戒が十分にできないおそれがある。強制加入制度を維持しつつ、懲戒をきちんと行っていくのがいいと思う(SANARI PATENT 注:懲戒を医師や不動産鑑定士等の場合と同様に、国が直接行うことの適否の検討は、省かれている)

2-2        強制加入制度は競争制限的であるという指摘があったが、これは、制度改正により(SANARI PATENT 注:意味不明)弁理士の増員をしてきていることで競争的になっているから、平成14年に弁理士会強制加入制度問題を検討した際の「競争的ににすべきである」という指摘は推進されていると思う(SANARI PATENT 注:弁理士間競争の推進を前提として強制加入制度を維持する意見である)

3.姉歯元建築士の登場

   補助員の問題については、次のように発言が記録されている(要旨)。

3-1        特許庁の説明

3-1-1        本来、弁理士の独占業務については、弁理士自身が行う、あるいは補助員を使用する場合でも、弁理士の監督のもとに、付随する業務を行わせるにとどめるべきである。しかし、一部の弁理士は、非弁理士である補助員に実質的な代理業務を行わせているとのアンケ―ト結果がある。

3-1-2        姉歯元建築士のような、名義貸し該当の行為があった場合には、弁理士に対しては、現行弁理士法のもとでは、弁理士法の専権規定違反の幇助犯を構成するものとして措置することとなるため、弁護士と同様に、また改正建築基準法における建築士と同様に、弁理士法にも、直接、名義貸し禁止規定をおくべきかが、課題となる。

3-2 神原貞昭委員(弁理士)

    上記1-1-4後段と同趣旨。

3-3 相沢英孝委員(一橋大学教授)

    独占業務を認められている士業者については、名義貸し禁止を明定すべきである。そうしないと、弁理士専権規定の存在意義が疑問視されることになるから、この点は、明確にする方がよい。

3-4        野坂雅一委員(読売新聞東京本社論説委員)

    姉歯元建築士の場合を見れば分かるように、何か起こってから対応に追われることが多い。弁理士についても、名義貸し禁止を明文化すべきである。

4.所見

4-1        米国のように、米国特許商標庁が特許弁護士・特許代理人・商標代理人の登録を行い、日本弁理士会に相当する機構を規定しない体制、また、わが国内でも、医師会のように強制加入制度でない師業の体制との比較に及ぶと、基本的問題に波及し、過渡的摩擦が著しくなるから、この際は、適切でないと考える。

4-2        名義貸し禁止規定の明定は、弁護士法等との均衡上も、必至と考える。「名義貸し」構成要件に該当性の具体的考究(弁理士の専門表示の要請と関連して、機械専門の著名な特許事務所所長弁理士が、商標専攻の新入弁理士の代理業務に単に連名して受託し、結果的に損害賠償事件等を惹起した場合などは、事柄の性質上、名義貸しには非該当であることが明示されるよう、予め望まれることなど)が必要になってくることも予想される。

2006年10月 3日 (火)

国際標準化と国際競争力

内閣知財戦略本部の次期重点課題

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

内閣知財戦略本部web-siteに、「国際標準総合戦略検討課題案への意見」を公募しているので、この際、各位の活発な発言が期待される。しかし、率直に申して、知財専門家は国際標準化の精細に通じていない、標準化専門家は特許制度の精細に通じていない、という傾向がある。例外の一つは「ITUの国際標準化」の場で、標準化と特許権の双方のベテランが知略を尽くしてきた。

 このような状況を踏まえて、取敢えず、SANARI PATENTの意見(内閣知財戦略本部に提出済み)を下記します。      

   記

内閣官房知的財産戦略推進事務局御中     

平成18年10月1日  弁理士 佐成 重範 

内閣知財戦略本部「国際標準総合戦略の検討課題」への意見 

(意見)

1.検討課題の対象を、次のように2分し、今次検討対象は、1-2に限定することが適切と考えます。

1-1 国際電気通信連合(ITU)が行う「電気通信関係の国際標準化」(以下「ITU国際標準化」と称します) 

1-2 その他の分野の国際標準化(以下「ITU外の国際標準化」と称します)

2.「ITU外の国際標準化」については、知的財産推進計画2006において、「2006年度中に国際標準戦略を策定し、実行に着手する」と計画されていますことから、策定すべき戦略を速やかに公表され、その「実行着手」に伴う検討課題を優先して解決するという段取りを採られることが適切と考えます。

3.「ITU外の国際標準化」については、国際標準化に先立ち、または並行して、国内標準化についての課題を検討し、対策を樹立することが適切と考えます。

4.「電気通信関係の標準化」と「ITU外の国際標準化」とを統合した国際標準化の体制については、知財推進計画08以降の計画において樹立されることが適切と考えます。

5.以上の所見のもとで、貴「課題」が提起された疑問(ご質問)につきましては、いずれも肯定に解すべきものと存じます。

(理由)

1.意見1の理由

   国際標準化の必須性・緊急性は、分野によって様相を異にすると考えます。電気通信の分野では、1865年に万国電信連合が発足、わが国は1879年に加盟し、1932年に国際電気通信連合に発展後も、理事国として、また事務総局長派遣国としても、国際標準化の主要メンバ―たる地位を、既に確立していると考えます。また、わが国の国際電気通信事業者が、経営トップ以下、国際標準化に傾注していることは顕著であります。

  従って、今次貴課題の、「経営者の国際標準に関する理解の増進を図るべきではないか」、「企業は、国際標準化活動の統括部署を設置すべきではないか」、「政府は、多様な国際標準化のスキ―ムについて、ガイドラインを策定すべきではないか」、「企業は、国際的な特許権の取得を積極的に推進すべきではないか}等の設問は、「ITU国際標準化」については全く不要と考えます。

2.意見2の理由

   既に経済産業省「標準化と研究開発・知財を巡る課題」(2004-6)に、事後標準から事前標準への変化」(そのような変化は顕著でない、むしろ逆と考えますが)、「標準化と研究開発・知財の接点」、「デファクト標準とデジュ―ル標準との相互関係」、「デジュ―ル標準とフォ-ラム規格との関係」等について多くの課題が提起されており、その検討結果を確認した上で知財推進計画06の計画中、2006年度内に遂行さるべき内容を達成し、次いで、今次貴課題に取組むことが効率的と存じます。

3.意見3の理由

3-1 国際標準化に先立って、国内標準化については、貴課題に関する問題点をどのように考えておられるのか、国際標準化の体制が未確立な状況(例えば、DVDプレヤ―について、松下等のブル―レイ規格と東芝等のHDD規格)のもとで、直ちに国際標準化に進み得るのか、ご所見を先ず明示されたく存じます。

3-2 この場合、「ITU国際標準化」の対象分野につきましては、日本ITU協会が、電波産業会、(ARIB)、情報通信技術委員会(TTC)および日本CATV技術協会(JCTEA)と共に、国際標準に準拠して国内標準を制定していますので、上記の対象外とされることが適切と考えます。

4.意見4の理由

  「ITU国際標準化」と「ITU外の国際標準化」との間には、対象分野の国際的機能の相違(例えば、「移動通信の変調方式」と「受電コンセントの形状」)、所管省や標準化の歴史の相違(総務省所管の電気通信と厚生労働省所管の製薬工業等とのRAND条項の歴史の相違『製薬については、本年1月に始めて起案』)が著しいので、「ITU外の国際標準化」に関する今次貴課題の回答が成案を得た後に、全分野にわたる総合的戦略を、知財推進計画08において樹立する段取りが適切と考えます。

5.意見5の理由

   提案された措置等のうちには、上述のように、必要が認められない分野もあると存じますが、その他の分野においては、反対すべき項目はなく、積極的に推進すべきものと存じます。

2006年10月 2日 (月)

安倍所信表明演説に見る「中小企業の知恵」・「日本文化産業戦略」

「チャレンジ」「美しい国創りの四つの内容」等

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

  以下は、SANARI PATENTによる所信表明解釈です。

1.「チャレンジ」

  演説(2006-9-29)中に「知財」の語は見当たらないが、「誰に対しても開かれ、誰もがチャレンジできる社会」は、「知財の開発と活用が誰に対しても開かれ、それによって誰もがチャレンジ・再チャレンジできる社会」と考えられる。ただし、米国憲法制定時の知財条項が、他力依存でなく個々人の創造による新国家建設を意気込んだのと一見類似しているけれども、自民党改憲案の知財条項は、特許権の独占性と公益・公共との調整をも趣旨とし、チャレンジにも規律が求められる。

2.「美しい国創り」

   演説原文では、「美しい国づくり」または「美しい国造り」でなく、「創り」で創造を示している。「美しい国」の4つの要素は、次のように示された。

2-1 「文化・伝統・自然・歴史を大切にする国」

   文化は、コンテンツであり、伝統は{Traditional Knowledge(WIPO)}である。

2-2 「自由な社会を基本とし、規律を知る、凛とした国」

知財の独占性への規律と、知財活用の自由の調整が図られる。

2-3 「未来へ向かって成長するエネルギ-を持ち続ける国」

このようなエネルギ-は、知財開発に依存する。米国特許商標新5年計画案は、特許と商標の年間出願件数増加率を6~8%と計画している。

2-4 「世界に信頼され、尊敬され、愛される、リ―ダ―シップのある国」

  ジャパンブランドやジャパンコンテンツが、愛されるソフトパワ―として成長しつつある。

3.「官邸機能の抜本的強化」

  安倍所信表明演説には「21世紀にふさわしい行政機構の抜本的な改革」を併せて強調しているが、演説に先立ちマスコミ(例えば、朝日新聞2006-9-24)が「官邸政策会議(本部を含む)71に膨張」と見出して、いわば官邸自体の機構膨張を指摘する結果となっていることが注目される。

  すなわち、前首相のもとで19回以上開催されたのは7会議(本部)に過ぎず、開催0回も7会議(本部)挙げられていて、内閣知財戦略本部はそのいずれにも挙げられていないが、内閣知財戦略本部については、むしろ、文化・コンテンツ振興本部(安倍所信表明演説の用語を使用すれば「日本文化産業戦略本部」を独立させ、かつ、農水産省知財戦略本部のような省庁別知財戦略本部を各省庁に設けて、知財戦略の実施段階に対処することが適切という意見もあり得る。

4.「イノベ-ションとオ-プンな姿勢」

  SANARI PATENT9月28日記事ご参照。

 「成長に貢献するイノベ-ションの創造に向け、医薬・工学・情報技術などの分野ごとに、2025年までを視野に入れた長期の戦略指針『イノベ-ション25』をまとめ実行する」。

5.テレワ―ク人口の倍増

  「自宅での仕事を可能にするテレワ―ク人口の倍増を目指すなど、インタ-ネット基盤をフルに活用する」。

  米国特許商標庁の新5ケ年計画案には、特許・商標関係のテレワ―ク拡充を、審査業務を含めて述べている(韓国では既に実施)。

6.「中小企業の知恵」

  「全国430万の中小企業の知恵とやる気を活かし、地域資源などを活用

した新商品・新サ-ビスの開発や販売を促進する」。

 知財以上の「知恵」に着目したものと考える。

7.農水産省知財戦略本部関係

  「地方を支える農林水産業は、新世紀にふさわしい戦略産業としての可能性を秘めている。わが国農産品の輸出を2013年までに1兆円規模とすることを目指す」。

  具体的政策は、SANARI PATENT9月30日の記事ご参照。

8.エネルギ-対策

  「原油など資源価格の高騰が続く中、安定的なエネルギ-資源の確保に努める」。

  バイオエネルギ-、オイルサンド等の開発に知財の活用が伴う。

9.所見

  小泉内閣から安倍内閣への移行に、「承継と刷新」の両面が見られるが、知的財産推進計画にも、「承継と刷新」の両面が、この際、必要である。

2006年10月 1日 (日)

司法研修所卒業試験に1483人合格の意義

新司法試験9月合格者は1009人

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        弁護士の知財活動に高まる期待

1-1        最高裁の発表(2006-9-28)によると、このたび司法研修所の卒業試験合格者は、受験者1493人のうち1483人に達した。107人が不合格であったが、97人は追試による合格が見込まれている。

1-2        一方、今年の新司法試験合格者(2006-9-21発表)は、1009人であった。「平成22年度3000人目標」(後記)の3分の1程度である。旧司法試験も、今年から5年間は新司法試験と並行実施され、この11月には約600人の合格が見込まれているから、新旧合わせて約1600人の司法研修所入所が見込まれ、弁護士等法曹の増員がようやく軌道に乗った観がある(上記3000人の半分)。なお、司法制度改革審議会の答申は、「平成22年ごろには、新法試験の合格者数の年間3000人達成を目指すべきである」と述べている(年間500人という状態が数十年続いていた)。

1-3        新旧司法試験については、最高裁判所が次のように解説している(要旨)。

「法曹養成制度の改革により、平成18年度から新司法試験が実施され、その合格者に対する司法研修所修習が行われます。この改革は、国の規制の撤廃・緩和の一層の進展等に伴い、より自由で公正な社会を形成するため、国民の要請に応え得る多数の法曹を養成することを目的とします」。

1-4        法科大学院の格差も明確となり、今次新司法試験合格者数が、中央大学 131人、東大120人、慶大104人、早大12人、日大7人等に対し、熊本大・久留米大等は各1人、神戸学院・東海等は0と発表された(いずれも大学院名)。しかし、上記合格少数大学院も、その存続を賭けて合格者の増大を図るから、法曹の量質ともに向上することが期待される。

2.内閣知財戦略本部知財推進計画の弁護士数

 知財推進計画04で「知財人材12万人計画」が示されたが、要するに当時の知財人材数5~6万人を10年間で倍増以上にするというものである。

弁護士はその現在数2万人を4~5万人にということになり毎年2000人の弁護士の増加を要することになるが、知財推進計画は各知財人材の各倍増と明示しているのでもない。弁護士数の倍増によって知財弁護士も倍増し得るから、技術士・認定司法書士(簡裁知財訴訟単独代理人資格)・知財教育協会や発明協会(案の段階)の知財検定合格者を含めて、弁理士など知財専門家の一体的活動(ライセンス・訴訟・戦略等を含む諸種専門家の協働)を期待しているとも推察される。

    一方、知財推進計画05は、米国の弁護士数は約100万人で、わが国の弁護士現在数2万人は、米国の50分の1に過ぎないことを示している。なお、欧州の弁護士数は、英国8万3千人、ドイツ11万2千人、3万6千人であるから、わが国の人口・経済規模から見て、上記2万人は過少であり、知財法秩序の維持のためにも、著増が望まれると解される。

2.        所見

    米国の特許弁護士(US Patent Attorney)は、弁護士が特許代理人(US Patent Agent)の資格をも取得することによって取得できる資格であるから、訴訟を含む知財人材としては極めて適切である。知財推進計画05には、その現在数2万3千人と、紹介している。なお、米国では特許弁護士のほか、特許出願代理人8千人(SANARI PATENT推定)が活動し、さらに、原則的に弁護士が登録資格を持つ商標登録代理人(US Trade Mark Agent)が、米国特許商標庁に登録されて活動している。

    わが国では弁護士は全て弁理士登録資格を有するので、司法研修所卒業者の1500人への接近は、知財人材の増加の基盤として、知財推進計画の方向性に即するものと考える。

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