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« 「メモリ制御装置」特許無効審決の取消請求 | トップページ | 住友石炭が勝訴・知財損害賠償判決8-31 »

2006年9月 8日 (金)

京セラの静電潜像現像用トナ-特許

特許取消決定取消請求を知財高裁は棄却8-31

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.経済的背景と主要論点

   電子写真装置の小型化・軽量化がこの分野の継続的課題とされてきた産業的背景のもとで、京セラの本件発明内容は、次項2のトナ-組成と画像定着方式であるが、これに対する特許付与について、異議申立に対する特許庁の決定と、この決定に対する今次知財高裁判決は、この特許付与を無効とした。

   主要な論点は、従来技術と本件発明の異同点に関する見解の相違、従来技術からの想到容易性の有無の判断、本件発明の産業的効果の評価などである。

2.本件発明(要旨)

  下記2-1の成分と工程で製造され、2-2の画像定着方式に使用されることを特徴とする静電潜像現像用トナ-。

2-1         軟化点が120を超え140以内となるポリエステル系樹脂を主バインダ-成分とし、融点が90~110のフィシャ-トロピシュワックス1~5重量%と、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等の低分子量ポリオレフィンとからなるワックスとを配合したト-ナ成分を溶融混練した後、粉砕・分級した粉砕トナ-である。

2-2         この粉砕トナ-により形成したトナ-像を、クリ-ナ-パッドを付けない加熱定着ロ-ラに接触させて紙に定着する方式に使用する。 

3.経緯概要

3-1 京セラは、「静電潜像現像用トナ-」特許(2003-2-14設定登録。特許第3398196号)の特許権者である。

3-2 この特許に対し異議申立があり、特許庁は、「請求項1に係る特許(前項2)を取消す」と決定した(2005-7-8)

3-3 京セラは、この特許取消決定取消を知財高裁に請求したが、知財高裁は、平成17(行ケ)10665号・特許取消決定取消請求事件判決(2006-8-31)をもって京セラの請求を棄却した。

4.争点と知財高裁の判断(抜粋)

4-1 引用発明の認定について

   京セラは、「引用発明では離型剤として、本件発明に係る熱可塑性樹脂よりも融点が低いワックスを一義的に用いていない」と主張するが、引用発明の実施例等に徴して、引用発明は「離型剤として、熱可塑性樹脂よりも融点が低いワックスを含有すること」が一義的に明確である。

4-2 京セラは、「引用発明に、加熱定着装置の定着温度等に応じて、軟化点が

  90℃~150℃のポリエステル樹脂を適宜使用できることが示されていることは認めるが、軟化点が『120℃を超え140℃以内』に限定されていないから、特許庁の無効決定が、『この相違点は実質的な差異ではない』としたのは誤りである」と主張するが、一般的に、数値範囲を最適化または好適化することは、当業者が通常行うべきことであるから、従来技術に対して数値限定を加えることにより、特許を受けようとする発明が進歩性を有するというためには、その数値範囲の選択が当業者にとって想到容易といえないことが必要であり、これを基礎付ける事情として、その数値限定の臨界的意義が明細書に記載され、技術的意義が明細書に明確に記述されていることを要すると解すべきである。

4-3 京セラは、「軟化点が120℃を超え140℃以内であるポリエステル樹脂バインダ-に使用するワックスとして、融点がバインダ-の軟化点より低い90~110℃のフィシャ-トロピシュワックスを用いることは当業者が容易に想到できるとした特許庁無効決定の判断は誤りである」と主張するが、引用発明にはこれらの事項が開示されていると解される。また、本件発明においてフィシャ-トロピシュワックスの含有量を1~5重量%の範囲に設定したことにより、本件発明が予想外の効果を奏したとも認められない。

4-4 京セラは、「特許庁の無効決定は、加熱定着ローラに補助的な装置を設けないようにするという大きな課題が、本件発明により始めて解決されたという産業的意義を無視している」と主張するが、本件出願前から、電子写真装置の小型化・軽量化は求められ、この周知の課題について本件発明の、「トナ-により形成したトナ-像を、クリ-ナ-パッドを付けない加熱定着ロ-ラに接触させて紙に定着する方式」は、当業者にとっては自明の使用方法に過ぎない。

5.所見

   数値限定による請求項について、必要記載事項を明確に示したことは、この判決の一つの特徴であるが、その内容は、従来から知財専門家が説示してきたところを厳格化したものである。これらの事項を、審査基準等で明示することが適切である。

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