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2006年9月30日 (土)

農産品知財で「美しい国日本」を実現

「農産品輸出を1兆円に」「強い農林水産業に構造改革を」

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

安倍新首相の施政演説(2006-9-29)で、「2013年までに、おいしく安全な日本農産品の輸出を1兆円規模にする」と、目標が述べられたが、既に、安倍新内閣の発足に先立つ自民・公明連合合意(2006-9-25)において、「強い農林水産業への構造改革」が謳われている。一方、農水産省知財戦略本部の始動により、新規予算要求中には、「生活習慣病医薬の開発」や「世界食料需給の安定」に向けて、国家的・国際的意義の革新を伴う、農産品知財の起動が見られる。

 現に、サトウキビ等の農林産業にエタノール生産が加わって、エネルギ-需給を変革し、さらに、遺伝子組換やタンパク合成により食料需給が変革するなど、農工の枠を超えるグロ-バルな変革が実現しようとしている。

 すなわち、

1.        農林水産省の平成19年度予算要求(概況はSANARI PATENT9月19日記事)には、上記世界的視点に立った新規または大幅増額の重要事項が見られる。以下、農林水産省文書では、生物名を全てカタカナ表記しているが、本稿では原則として漢字表記とする。

1-1 「不良環境下で安定生産できる遺伝子組換作物の開発」には、3億円を新規要求しているが、これは「アグリ・ゲノム研究の総合的研究のうち、世界の食料需給の安定に向けた研究の推進」として計画され、「わが国が知的財産を所有している乾燥や塩害等に強い遺伝子を、遺伝子組換技術を用いて作物に導入し、劣悪な環境下でも収量が落ちない小麦等を開発する」ことを目的とする。

1-2 「輸出促進・食品産業の海外展開を支える新技術の開発」には、17億8200万円を新規要求しているが、これは「先端技術を活用した農林水産事業のうち、輸出促進・食品産業等、海外展開に関する研究開発」として計画され、「わが国農林水産物・食品の輸出を戦略的に進める上で、産学官連携による競争的研究資金を活用し、30課題を採択する」ことを目的とする。

1-3 「遺伝子組換のカイコや豚を活用した医薬品、疾患モデル家畜等の開発の加速化」には、10億円を新規要求しているが、先ず、カイコと豚が並べられている理由から理解しなければならない。カイコは、孵化してから25日間で体重が1万倍になり、物質を生産する生物工場としての能力が高い。豚は、食欲旺盛で酒も好み、臓器の大きさもヒトに近いので、生活習慣病の研究モデルとして最適である。

1-4 「食品の流動性等向上のための均一ナノ粒子加工技術の開発」には、3億円を要求(本年度予算は1億2900万円)しているが、これは、「食べ易く消化の良い高齢者・介護用食品の新たな市場開拓に向けて食品の粒子サイズをナノレベル(現在の約1/100)に加工する技術を開発する」ことを目的とする。

1-5 「低コスト高効率なバイオエタノ-ル生産技術の開発」には、15億円を新規要求しているが、これは、「国産バイオエタノ-ルの生産コストを10年間で半減する」ことを政策目標とし、「砂糖黍・甜菜等資源作物の超低コスト栽培法や、遺伝子組換技術利用によるエタノール変換量の飛躍的増加」を目的とする」。

1-6 「グロ-バル化に対応した食品産業を支える研究開発として、不耕起直播栽培技術や衛星情報等を用いた生産費半減体系の確立」には、新規に8億円を要求しているが、これは、稲・麦・大豆等を対象とする。

1-7 「ゲノム等の活用により食用大豆国産100%自給を目指し、大豆ゲノム解読による耐湿性やタンパク含量等のDNAマ-カ-を早急に開発するため、新規に7億円を要求している。

   特に「知的財産」を掲げて、

2.「知的財産の創造・保護・活用」項目の農林水産省予算要求:

2-1 農林水産省は、「知的財産対策関係」と項目を掲げて、平成19年度18億円の予算を要求している。平成18年度の同項目予算の9倍の額である。内容を見ると、

2-1-1 知的財産の創造の促進について(要求額2億3千万円。本年度予算3千5百万円):

   農林水畜産業・食品産業分野の発展に資する知的財産創造のための研究開発を産学官連携で推進し、その成果を国内外で権利化するための情報システムを整備する。

2-1-2 知的財産の保護の強化について(和牛精液流通管理体制の構築事業費等7億9800万円の内数):

2-1-2-1 育成者権について審査期間の短縮、品種保護Gメンの増員、家畜資源保護について遺伝子解析の開発、水際取締強化についてDNA品種識別技術の開発等を行う。

2-1-2-2 アジア諸国等に対して、知的財産権保護制度の整備を働きかける。

2-1-3 知的財産の活用の推進について(新規要求12億6千万円+他項目の内数額):

   新食品・新素材・新品種を用いた産地形成と地域ブランドの確立を支援する。さらに、世界中に日本ブランド農林水畜産品の良さを宣伝する。

2-1-4 知的財産の人材育成と意識向上(新規要求1500万円):

   知財専門家・農林水畜産業者を対象とする。

2-2  上記諸政策の目標は、「研究・生産・流通・消費の各現場で知的財産の活用に対する意識を改革すること」および「日本ブランドを世界に発信すること」である。

3.        所見:

農水産省知財戦略本部で諸企業から実情を聴取した結果を踏まえて、上記予算要求がなされている。この聴取状況については、SANARI PATENT8月28日の記事を参照されたい。

2006年9月29日 (金)

国際標準化型パテントプールとクロスライセンス型パテントプール

多国籍企業型パテントプールと企業グル-プ型パテントプール

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.国際標準化とパテント

  内閣知財戦略本部が、知財推進計画07の「目玉項目」として「国際標準化戦略」を予定していることから、パテントプールが改めて脚光を浴びている。パテントプールには、国際標準化型パテントプール・包括的クロスライセンス契約型パテントプール・企業グル-プ型パテントプールの3類型が考えられるが、最初に、その相違点を明確にしておくべきである。なお、「標準化活動」の定義的なものとしては、公取は、「複数の事業者が共同して規格を策定し、広く普及を進める運動」と述べている。

  上記パテントプールの3類型は先ず、パテントプール形成の意図が異なる。国際標準化型パテントプールは、大企業、特に多国籍企業が世界市場を制覇して国際標準化を獲得するために大企業グル-プの所有特許権を市場制覇の共通の戦略装備とするために形成するパテントプールである。包括的クロスライセンス契約は、国内外の複数大企業がライセンス料の包括的相殺計算を約定して、包括的に複数特許権のクロスライセンス契約を締結するものである。企業グル-プ型パテントプールは、複数企業が相互に特許権ごとにをライセンスし合うことの不便を除き、参加企業の優位性を築くため、対象特許権を限定約定してパテントプールを形成するものである(ライセンス料の相殺は要素としない)。

  わが国の最近の判例に登場した包括的クロスライセンス契約の例は、日米の電子機器メーカー間で形成されているもので、職務発明の対価を算出するためのライセンス料収入をめぐって争われた。このように、包括的クロスライセンス契約は、実質的にはパテントプールであるが、特にパテントプールと称する必要も実益もないし、別組織を設ける必要もない。また、他の二つのパテントプールが公取規制の対象になるのと異なり、独占法問題にはならない。

企業グル-プ型パテントプールは、パチスロ業界のそれが判例として著名である。これは東京都の公安条例が定める「射幸心の過度刺激抑制値に出玉を制限するプログラム特許等をプールするもので、排他性を伴うことから、公取の規制対象となるが、国際標準化といった目的意識は存在しない。

2・国際標準化型パテントプールと公取

2-1                公取は、「標準化に伴うパテントプールの形成等に関する独禁法上の考え方」(2005-6-29)の冒頭に、次のように述べている(要旨)。

「規格の標準化活動や、規格に係る特許等の一括ライセンスのための、パテントプール形成の取組に伴う事業者等の活動について、独禁法上の考え方の明確化が求められている」。

    「情報通信など技術革新が著しい分野では、新製品の市場を迅速に立上げ、需要の拡大を図るため、標準化活動が行われているが、一方、規格に係る技術については多数の特許が取得され、複雑な権利関係の処理が、新製品の市場の迅速な立上げ、需要の拡大を阻害するおそれがあることから、その解決手段としてパテントプールを形成しライセンスする枠組みが利用されている」。

2-2                公取は、「標準化活動自体が直ちに問題となるものではないが、活動に当たって独禁法上問題になる「制限」を次のように例示している。

2-2-1        規格を採用した製品の販売価格等を共同で取り決めること

2-2-2        競合する規格の開発や採用を禁止すること

2-2-3        標準化のメリットを実現するために必要な範囲を超えて、製品の仕様・性能等を共通化すること

2-2-4        特定の事業者の技術提案の採用を阻止する又は技術改良の成果を踏まえた改訂を阻止すること

2-2-5        活動に参加しなければ製品市場から排除されるおそれがある場合に、特定の事業者の参加を制限すること

2-3   そして上記基準の具体的適用をめぐって、必須特許やRAND条件等の困難な諸問題が派生する(その記述は別途)。

3.知財専門家の立場から見た問題点の例示

3-1 一つの製品について、複数の標準を要し、従って、複数のパテントプールが形成されることとなるが、RAND条件によっても、ライセンス料の積み上げが高額に達しコストを圧迫する。

3-2 「標準の連鎖」に関連して、パテントプールの当初参加者が、パテントプールから離脱した上で、自社特許権に基づく差止請求や損害賠償請求を行った場合に、どのような法的対抗が可能か明確でない。

3-3 「必須特許」には、「技術的必須特許」と「商業的必須特許」が考えられるが、公取が「必須特許と非必須特許の抱き合わせ」を問題とする場合に、「商業的必須特許」はどのように扱われるべきか、明確でない。

3-4 必須特許だけでパテントプールを形成することは実際上、困難であり、また、特に、技術開発によって必須特許が必須特許でなくなった場合の取扱が明確でない。

3-5 必須特許性の個別判断者として、業界や業者との利害関係者を排除することが必要とすれば、これらとの受委託を業務とする知財専門家は不適当であり(非第三者性)、公取または所管官公庁が判断するほかないこととなる。

4.所見

  公取の見解も固定的ではない。固定的でないことが適切な場合があると共に、変動的に過ぎれば、法的安定性と標準化の円滑な遂行を妨げる。

2006年9月28日 (木)

イノベ-ションとオ-プン

新内閣の路線と知財戦略(内閣知財戦略本部あて意見案の趣旨)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.イノベ-ションとオ-プンを分かり易く:

1-1 組閣当日(2006-9-26)夜の東京TVWBSに出演した中川自民党新幹事長は、新内閣の路線を、「イノベ-ション→規制緩和・減税」と「オ-プン→FTAETA・対日直接投資」と明示した。減税と消費税増税との関係については、「減税は経済活動活発化を促進する効果ある項目について考え、その成果としての税収増加・行政経費の節減(新幹事長は、放映で表示された金額より更に大幅な節減の可能性を示唆した)の額を見て、消費税問題を検討する」と答えつつも、「消費税増税は減税と反する」と補足して、「成長戦略」が最重点であることをを鮮明にした。

1-2 「イノベ-ション」は、内閣知財戦略本部の知財推進計画06の主要テ-マであり、「オ-プン」も、世界特許への接近がFTAETAと、国際政策の理念を一にすることから、知財専門家にとっては理解し易い路線であるが、中小企業等にとっても分かり易いよう、イノベ-ションとオ-プンの全貌を政府が解説するよう、要望する。

2.イノベ-ションと知財戦略

2-1 内閣知財戦略本部の課題提起

   イノベ-ション戦略との関連で、内閣知財戦略本部は次のように課題を提起している(2006-9-21)。(要旨)

2-1-1 「科学技術基本計画のイノベ-ション創出総合戦略(2006-6)に基づき、イノベ-ションを種から実に育てるため、科学技術戦略の策定・実施において、知財に係る取組を更に実効あるものとすべきではないか」。

2-1-2 「産学連携による研究成果が実用化・市場化に結実するよう、企業のイノベ-ションマネ-ジメントの適正化を進めるべきではないか」。

2-1-3 「研究開発独立行政法人は、イノベ-ションの触媒的機能を果たすべきではないか」。

2-1-4 「経済産業省では、ソフトウェアにおける特許権の権利行使が民法上の権利濫用に該当する場合の明確化に取組んでいるが、さらに、イノベ-ション活動の円滑化のため、知財政策・競争政策における全般的な方策についての検討が必要ではないか」。

2-2 上記課題についての意見(上記2-1の設問順に):

2-2-1 「イノベ-ションを育てるために知財に取組む」のではなくて、イノベ-ションの具体的目的・目標を先ず明確に設定し、これを実現するための手段として知財を開発する」のが、プロイノベ-ションであると考える。換言すれば、知財を開発した結果イノベ-ションが生まれるのではなくて、イノベ-ションを実現できる知財を創造するのである。

2-2-2 企業のイノベ-ションマネ-ジメントは、要するに「経営戦略」であり、既に多くの企業がこの意識をもって経営していると考える。

2-2-3 独立行政法人が「産学」の要請に応じて、円滑に触媒的機能を果たすべきことは当然であるが、逆に産学連携の撹乱要因となっている事例が内閣知財戦略本部委員会の委員発言で指摘されている。ほかにも事例がないか、精査されたい。

2-2-4 ソフトウェア特許権に係る権利濫用の問題は、経済産業省とともに財務省ないし金融庁所管の金融・証券業務において緊急課題である。金融・証券取引の流れが、新しいソフトウェアによって機能する場合が多く、これが他者のソフトウェア特許権に基づく差止請求の容認判決によって機能停止となれば、甚大な国民的損失を来たすからである。大手証券筋から、制度改正の提言もあり、省域を超えた検討が急務である。

3.「オ-プン」と知財戦略:

3-1 今次内閣知財戦略本部の課題提示には、「オ-プン」の語は見られない。しかし、内閣知財戦略本部事務局ホ-ムペ-ジには、日米あるいは日米欧の特許相互承認を「日米特許FTA」「日米欧特許FTA」と称していたから、「自由貿易の特許権版」として理解すべきであると考える。

3-2 FTAが、全ての分野、全ての国域について円滑に進むとは考え難いが、先進国でこれが実現すべきことは、既に知財推進計画06が計画するところである。従って、今次提示の下記課題には、何れも積極的に賛同する。

3-2-1 「日米または日欧特許庁間での特許の相互承認実現に向けたバイ交渉を積極的に推進すべきではないか」。

3-2-2 「国際公共政策と知財政策とが相互に関連し合う分野における議論を深めていくべきではないか」。

4.所見:

  日米・EUEPO加盟国など41国が、特許庁長官級非公式会合(2006-9-24)

で、特許法の統一、特許付与基準の原則的判断基準、グレ-スピリオド(1年)、最初の出願日の承認等を内容とする条約づくりを合意した。このような合意の形成は、特許FTAを促進する影響力をもつと考える(ただし、先願主義を織り込んだ米国特許法改正法案の帰趨は、現時点では不明である)。

2006年9月27日 (水)

産学官連携の現状と課題

大学間の格差・問題の複雑化

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.知財創造における産学官連携について:

  内閣知財戦略本部は、知財推進計画07の策定に向けて、各界の意見を徴するため、知財サイクル専門調査会の「知財創造に関する今後の課題」(2006-9-21)において、課題5項目を掲げたが、その全てが「産学官連携」関係で、創造サイクルにおける「学連携」への依存比重が高過ぎると考える。   逆に言えば、「産」「官」「産産」「産官」の各知的創造に関する今後の課題の提示が、不足していると考えられる。しかし今は、内閣知財戦略本部の提示案に対する意見が求められているので、これに従うこととする。

そこで「学」の現状を見ると、平成18年度学校基本調査(2006-5-1現在)による大学数は744(国立87、公立89、私立568)であるが、知財推進計画06の報告によれば、「大学知的財産本部整備事業」実施機関として知的財産本部が設置された大学数は43(母数の5.8%)、TLO設置大学数は46(6,2%)、「大学教員の発明に対する権利を大学に機関帰属とする原則の採用校数は232(31,2%)に過ぎない。

  また、特許庁の出願等統計2006年版によると、2005年における特許登録件数は、大学数43(5,8%)の特許登録数計301(うち50はTLO利用)で、同年の全国特許登録数計122944の0.24%に過ぎない。

  要するに、産学官連携の一員として、「学」を組み入れる体制が、全国的には未熟である現状と、その原因を究明してから、その余の課題に取組むべきであると考える。

2.大学間の格差:

  2005年における大学の特許登録件数301(上記1)の内訳を見ると、慶大35、名大17、東大16、京大15、東北大12、阪大12、岐阜大10、東海大9、近畿大9、三重大8、広島大8、早大8、東工大7、奈良先端大7、金沢工大7、山口大6、金沢大6、立命館6、日大6、北見工大5、北大5、豊田工大5、神戸大4、岡山大4、東京理科大4、岩手大3、長崎大3、新潟大3、明大3、東京電機大3、神奈川大3、東洋大3、富山大2、鳥取大2、静岡大2、信州大2、佐賀大2、琉球大2、熊本大2、藤田保健大2、関西学院2、久留米大2で、豊橋技術大・徳島大・東京海洋大・島根大・長岡技術大・埼玉大・和歌山大・名古屋工大・東京医科歯科大・筑波大・千葉大・九大・福岡題・日本工大・同志社大・東北工大・東京女子医大・広島工大・大阪産業大・東海女子大・松本歯大・愛知工大・名城大・関西大が、各1件にとどまっている。

 慶大の安西塾長(塾頭)が、内閣知財戦略本部関係委員として、慶大のライセンス料年間収入が2億円というような発言をされるため、他大学も類似と誤認し易いが、慶大のライセンス料収入額は、全国大学計の3分の1を超えると推定され(注:SANARI PATENTで推定)、特異な優秀例と考えざるを得ない。

3.新組織の未熟に伴う教授・大学・企業間の軋轢:

  東工大のA教授が、東工大と連携企業を被告として東京地裁に出訴した特許出願関連事件は、平成18年3月23日の判決により、書面主義の不履行という形式的理由でA教授の敗訴に帰したが、産学連携における共同出願。共同ライセンス、大学内発明関連複数部門の脈略の不備、企業の思惑の変動等が重畳して、学内および産学紛争を惹起したものと考える。教授・企業の直接連携の方が、双方の便益にも、技術開発の促進にも、適するという考え方も猶根強い(SANARI PATENT 注:判決内容はSANARI PATENT4月15日記事ご参照)

4.大企業の立場からの産学連携の問題点:

   問題点の指摘者と指摘事項が多いが、ここにはキャノンの田中知的財産法務部長の発言要旨をCIPOweb-site(2006-7-13)により考察する。

4-1        産学連携を企業が改めて考えるのは、研究・開発におけるパラダイムシフト(時代規範の転換)による。すなわち、自前主義からオ-プンイノベ-ションやオ-プンコラボレ-ションへの転換による。

4-2        従来、研究者は、知的財産権よりも論文発表を重視する傾向があったが、この意識改革が必要である。

4-3        しかし、知的財産権を偏重して、シ-ズ型の基礎研究が希薄になる弊害が発生してはならない。

4-4        大学と企業における権利帰属問題や大学特許の不実施補償問題等で、以前よりも連携しづらくなったという声が産学双方にあると思う。

4-5        連携対象としたい研究や特許権を十分に理解し、応用的なハンドリングをなし得る人材を欠く場合には、軋轢が深刻になることもあり得る。

5.所見:

   前項4の田中氏は、「これらの問題は時間をかければ解決がつく」と述べられた。しかし、その「時間」中に、解決の具体策の考究と実践の集積があることを前提とすることは当然で、表題の「今後の課題」も、このような「考究と実践結果」を内容とすることを要望する。

2006年9月26日 (火)

「知的創造サイクル対策の進捗状況」

内閣知財戦略本部2006-9-21案の新規性の程度

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        着実ながら問題を孕む段階:

  内閣知財戦略本部サイクル専門調査会(2006-9-21)は、知財推進計画07の原案を作成しつつあるが、その骨子としての「知的創造サイクルに関する進捗状況と今後の課題」(2006-9-21)は、制度整備が一段落したばかりの時期であることから、今後の実施拡大を期する着実な、しかし、問題を孕む内容になったと推察される。

  表現としては、実施成果を数値で示しても、母数との関連で見ると実施が緒について早々であることを示すこととなる項目も多い。これは、内閣知財戦略本部の今後の活動に対する期待の大きさを示すものである。

2.        制度的・体制的整備の進捗状況:

  知財推進計画06の取組実績として次のように述べている。

2-1        大学毎の「国際的な産学官連携ポリシ-(仮称)策定の必要性が指摘された(SANARI PATENT 注:国内の産学連携に、新たな問題が発生しつつあるが、別途)

2-2        「特許・論文情報統合検索システム」の整備を進めている。

2-3        「ライフサイエンス分野の知財保護・活用検討プロジェクト」が発足した。

2-4        特許審査迅速化の目標件数が定められた。

2-5        特許取下げ時の審査請求料全額返還が開始された。

2-6        企業のグロ-バル出願率・特許査定率の上位200社数値が公表された。

2-7        弁理士特許事務所の特許査定率等が高位なものを公表した(SANARI PATENT 注:米国に倣い、各弁理士みずから公表することが望ましい)

2-8        先使用権制度とノウハウ保護について、管理ガイドラインを公表した。

2-9        和牛の遺伝子特許の戦略的取得等について中間とりまとめを行った(SANARI PATENT 注:農水産省知財戦略本部の活動を強調すべきである)

2-10    特許審査ハイウェイの試行が開始された。

2-11    三極特許庁会合の内容について提案した。

2-12    知財関連国際公共政策会議を準備した(SANARI PATENT 注:知財関連国内公共政策を公表されたい)

2-13    模倣品・海賊版対策アクションプランを決定した。

2-14    模倣品・海賊版拡散防止条約(仮称)構想を推進した。

2-15    外為・貿易法に基づく模倣品・海賊版輸入規制の可能性を検討している。

2-16    知財侵害被疑品の税関取締の厳格明示について通達した。

2-17    インタ-ネットオ-クション対策を強化した。

2-18    消費者の模倣品・海賊版容認対策につき検討した。

2-19    特許審査迅速化・効率化行動計画(2006-1-17)の実施に着手した(SANARI PATENT 注:成果を逐次公表されたい)

2-20    ライセンス契約の独禁法上の指針の改訂を準備している。

2-21    知財の価値評価手法を検討している(SANARI PATENT 注:2年前に確立される筈であった)

2-22    知財信託の活用事例を公開した。

2-23    日本政策投資銀行で知財担保融資を増加した(SANARI PATENT 注:実態は企業価値ないしプロジェクト融資と考えるが、業務方法書による将来収益現価評価手法を用いることとしている)

2-24    知財使用料の源泉地国課税軽減のための条約改正相手国を増加した。

2-25    知財駆込み寺を設置した(SANARI PATENT 注:正確には「標示」の段階)

2-26    特許出願等料金軽減対象を拡大した(SANARI PATENT 注:しかし、米国のような簡明な制度にまで至らない)

2-27    中小企業に対する先行技術調査支援事業を行っている。

2-28    職務発明制度について中小企業に対する相談会を行なっている(SANARI PATENT 注:大企業の予ねてよりの要望である特許法職務発明規定自体の削除による米国法との同一化に、なぜ至らないのか)

2-29    知財人材育成推進協議会が発足した。

2-30    特許庁のe-ラ-ニング研修を外部に開放した(SANARI PATENT 注:JST方式が最良)

2-31    新司法試験制度が開始された(SANARI PATENT 注:1000名合格を評価すべきである)

3.        進捗状況のうち「(制度等改正ではなく)実績の成果」として注目される項目(内閣知財戦略本部資料の記載順による):

3-1        弁理士特許事務所毎の特許査定率の公表(平均より高い特許事務所のみ):

   米国の特許弁護士(US Patent Attorney)と特許代理人(US Patent Agent)が合計約3万人現存するほか、弁護士100万人が商標出願人(US Trade Mark Agent)の登録資格と知財弁護士としての知財専門家活動能力を潜在させていることを考えると、米国において、特許事務所、弁護士ごとに、みずから特許取得実績数やその具体例(特許付与証書の映像)をweb-siteで広報していることの、競争効果と、ユ-ザ-(顧客)の便益効果が大であると考える。3-1の表題は、わが国弁理士各自の広報欠如を特許庁が補ったと理解すべきであると考える。

3-2        農林水畜産業の知財保護強化:

農水産省知財戦略本部が設置され、精力的に活動していることが先ず高く評価されるべきであると考える。農林水産省内外の現役要員・現場要員

で構成されているので、実績に直結すると期待される。

3-3        特許審査ハイウェイの試行開始:

   本運転への速やかな移行が切望される。

3-4        知財駆込み寺:

   とにかく、全国約3000の商工会・商工会議所に「知財駆込み寺」が設置された(正確には「標示された」段階と考える)。駆込みとその処理の実績は、これからの報告にまつ。

3-5        知財担保融資の漸増:

    日本政策銀行としては、その存在価値を示す契機であるが、業務方法書を公開し、担保価値評価の方法、他の企業価値との包括評価に基づく融資であることを、明示することが望ましい。また、知財担保融資の銀行側リスクについて明示することが、その原資の性格上、当然である(同行の収支決算を含めて)。

3-6        新司法試験制度の成果:

   内閣知財戦略本部の標記資料の記述は部分的に過ぎないが、知財推進計画04以来強調されてきた弁護士要員数の増加が、新司法試験合格者(2006-9-21発表)数1009人に達したことにより、かなり進捗した。米国の弁護士数水準には全くほど遠いが、従来に比べ、知財弁護士・弁理士登録弁護士の給源が増加し、地域・中小企業に対する知財専門家活動浸透の端緒が見えてきたと評価すべきだあると考える。                                                                              

4.        今後の課題について:

  内閣知財戦略本部は、すべて疑問形ない質問形で提示したので、別途、各位と共に検討いたしたい。

2006年9月25日 (月)

「国際標準総合戦略の検討」(9-21内閣知財本部)の疑問点

知財推進計画07での取組体制

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        知財推進計画07の骨格をどうするのか:

  内閣知財戦略本部の知的財産推進計画策定は、昨年来、サイクル・コンテンツ両専門調査会の検討結果をまとめて、本部の会議で承認する体制になっている。

  ところで、9月21日のサイクル調査会では、「国際標準総合戦略とその他の課題」を検討している。SANARI PATENTは、「知財推進計画07は、『これまでの制度整備の実効を収める』段階への転換計画であると共に、基本的知財戦略体制の再構築いかんを検討する計画であるべきだ、というのが、大方の意見である」と考える。

  国際標準総合戦略は、この基本的知財戦略体制検討の一環として発案されたと解するほかないが、基本的知財戦略検討の対象(基本戦略の全体構想と体系)の案を示さずに、「国際標準総合戦略」が単独出現した観がある(後記)。

2.「国内標準化」の前に、なぜ「国際標準化」か:

  今、一般国民の関心を集めているのは、DVDプレヤ-の「ブル-レイとHD」の2方式対立等、国内標準化である。「ブル-レイとHD」については、松下等と東芝等とが対抗して譲らない。消費者にとっては、選択肢と業者競争の便益があるが、一方が敗北すれば敗北者側の消費者の損失は大きい。PCプリンタ-のインクカ-トリッジその他、国内標準化をしないために消費者が便益を喪失している分野は多い。これを差置いて国際標準化になぜ飛ぶのかの説明を、先ずすべきである。

3.「失礼感」もある課題提起:

   国際標準総合戦略の検討課題のトップに、「産業界の意識を改革し、国際標準化への取組を強化する」と掲げ、先ず、「経営者の意識を強化する」としている。国際標準化の関係分野は多岐にわたるが、電気・電子系ひとつをとっても、分野によって標準化に関する温度差・風土差は著しく大きい(例えば、受電コンセントの形状は国際標準化に遠いことや、国内電力サイクルの東西相違は僅少な不便で受忍されているが、新世代ケイタイのグロ-バルな使用は、基本要素の国際標準化なしには全く成立しない)。

  電気通信、特に国際通信の分野では、今後展開するケイタイのグロ-バルな番号共通性を含めて、世界市場における実力制覇を国際標準化により確認してゆくことが経営の要諦であり、KDD,NTT,NEC等の経営者の意識は従前から、ここに集中されてきた。ゆえに、標記の失礼感を、このような分野の方々については抱きたくなる。

 「国際標準総合戦略の検討課題」の説明段階に至ると、この資料が、電気通信分野に理解を及ぼしていないにではないかと、一層疑問になる。すなわち、同資料は次のように述べている。

1995年のWTO/TBT協定の発効以後、諸外国における国際標準化への戦略的取組、先端技術分野を中心とした事前標準の広がり、知的財産を含む国際標準の増加、デジタル化の進展による産業構造の変化など、国際標準化を取り巻く環境は、めまぐるしく変化している」。

  これだけの記述では、国際標準化を最も必要とし、国際標準化活動が既に70年余に及ぶ国際電気通信連合会(0nternational Telecommunication Union)の事業を、極端にいえば、記述外としていることになる。

4.「検討課題」の「疑問形」:

 そして、上記項目の検討課題の記述を見ると、次のように緩慢な疑問形で表現され、、「めまぐるしい変化」意識に即応していない感がある。立案者は、断定的表現をもって、なすべきことの確信と根拠を示していただきたい。

4-1 「政府は、企業の経営者層を対象に、国際標準戦略に関する閣僚等主催の懇談会やシンポジウムを開催し、具体的な事例を挙げて、経営者の国際標準に関する理解の増進を図るべきではないか」。

4-2 「政府は、国際標準のビジネスへの影響を記載した、国際標準化に関する成功及び失敗事例集を作成し、その重要性の啓蒙に努めるべきではないか」。

4-3 「経団連などの産業界は、経団連内部における様々な活動を通じ、企業の経営者や幹部に対する啓蒙活動を強化すべきではないか」。

5、順序の逆転:

 上記の4-1から4-3を見ると、先ず、4-2の内容となるべき成功事例・失敗事例を「政府」は十分に把握しているのか、疑問に感ずる(電気通信については把握できていると考える)と共に、十分把握できているならば、これを最初に示した上で、4-14-3に及ぶのが順序と考える。

 閣僚(4-1)の理解程度は疑問であり、また、4-3の「経団連」については、例えば、キャノンの国際標準化必要度と、KDDIの国際標準化必要度とは、質的にも緊要度においても異なることの、明確な認識が先ず必要と考える。

6.「知的創造サイクルに関する進捗状況と今後の課題」(内閣知財本部サイクル調査会2006-9-21)との関連:

   「2006年度の進捗状況」の項にも、「今後の課題」の項にも、「国際標準化についての記述がない。知財推進計画06において、ある程度の進捗を計画していたのであるから、当然その成否と、国際標準化に関する「今後の課題」は別途検討する旨の記述があるべきであると考える。

7.「国際標準化の検討課題」資料のその他の内容:

  10数目に及ぶので、逐次、各位と共に検討いたしたい。

2006年9月24日 (日)

内閣知財戦略本部にコンテンツ対策意見提出

内閣・各省庁に「文化・コンテンツ振興本部」設置を提案

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

昨日、内閣知財戦略本部にコンテンツ対策のSANARI PATENT意見を下記のように提出した。内容の一部は9月21日の記事と重複するが、重要事項であるので再掲した。

    記

内閣知財戦略本部事務局御中   平成18年9月23日

                弁理士 佐成 重範(さなり しげのり)

貴本部にて募集されました「コンテンツ振興についての意見」を、下記の通り提出申しあげます。

         記

(意見)

コンテンツ振興対策の立案と実施の最適体制を樹立するため、内閣知財戦略本部の所掌から「コンテンツに関すること」を独立させて「文化・コンテンツ振興内閣本部」を設置するとともに、関係各省庁に、「文化・コンテンツ振興本部」を新設し、各省庁の総力を、各所管する文化・コンテンツ分野の振興に結集することを提案いたします。なお、「文化・コンテンツ」という呼称は、内閣知財戦略本部・知的財産推進計画の「コンテンツ」、文化芸術振興基本法の「文化芸術」、および、「コンテンツ振興法」の「コンテンツ」(内容は三者ほとんど同一と考えます)を包含する仮称であります。

(理由)

1.         コンテンツは、文化芸術を内容とする知的財産として、経済財の側面を有するとともに、文化芸術の精神価値としての、文化財の側面を有し、両側面は多くの場合に並存いたしますが、対策の主たる目的(第一次的目的)は「経済利益の最大化」と「文化価値の全世界普及」というように異なりますから、「知的財産戦略」から分離して「文化・コンテンツ振興」政策を樹立・実施することが適切と考えます。

2.         例えば、文化庁は文化芸術を所管しておりますが、文化芸術振興基本法(2001-12-7公布)は「文化」の定義規定を置かず、「芸術」については、同法8~12条により、「メディア芸術とその他の芸術」、「伝統芸能とその他の芸能」、「生活文化・国民娯楽・出版物・レコ-ド等」の各項目が法定されております。なお、同法可決時の衆議院の付帯決議で、「これら定義における具体的列挙は例示であり、身体文化(武道、相撲等)も芸術に含むこと」などが確認されております。

一方、2004年に制定された「コンテンツの創造、保護及び活用に関する法律」は、コンテンツの定義を次のように定めました。

「この法律において『コンテンツ』とは、映画、音楽、演劇、文芸、写真、漫画、アニメ-ション、コンピュ-タゲ-ムその他の文字、図形、色彩、音声、動作若しくは映像若しくはこれらを組み合わせたもの又はこれらに係る情報を電子計算機を介して提供するためのプログラムであって、人間の創造的活動により生み出されるもののうち、教養又は娯楽の範囲に属するものをいう」。

 上記1-1の「メディア芸術」は、「映画、漫画、アニメ-ション及びコンピュ-タその他の電子機器等を利用した芸術」と定めており、「芸能」は、講談、落語、浪曲、漫才、歌唱、能楽、歌舞伎等」と定めておりますから、芸術とコンテンツは内容においては同義と考えられます。

 一方、内閣知財戦略本部の知的財産推進計画が定めるコンテンツは、料理、ファッション等をも含みますが、いずれも、上記の「文化・芸術・芸能」に含まれると解されます。

さらに、知的財産基本法の「知的財産」と「文化芸術」の関係につきましては、知的財産基本法による「知的財産」の定義には、「著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの」を含みますから、創造された内容を、経済財(財産)として見る場合は「知的財産」、文化財として見る場合は「文化芸術」と呼称するものと解されます。

次に、対策の実施面から、文化庁の平成19年度予算要求を見ますと、

  1162億5200万円(本年度比15.5%増)を要求していますが、その内容は、内閣知財戦略本部知財推進計画06がコンテンツ振興対策として計画した内容と一致しております。すなわち、文化芸術立国プロジェクトの推進のため、次の予算が要求されております。

 文化芸術創造プランの推進

  「最高水準の舞台芸術公演・伝統芸能等への重点支援等」「日本映画・映像振興プランの推進」「世界に羽ばたく新進芸術家等の育成」「感性豊かな文化の担い手育成プランの推進-子供の文化芸術体験活動の推進」

 「日本文化の魅力」発見・発信プランの推進

  「地域の文化力活性化プランの推進」「日本文化の発信による国際文化交流

の推進」「コンテンツの保護と発信の推進(ここで「コンテンツ」とは、狭義のコンテンツ、すなわち、デジタルコンテンツを意味していると解されます)

文化財の次世代への継承と国際協力の推進

「文化財の保存・整備・活用」「文化財の国際協力の推進」

文化芸術振興のための文化拠点の充実

「新たな文化拠点の整備(平城宮跡保存整備等)」「美術館等活動の推進」

   従って、対策の立案・実施の両面において、かつ、経済財・文化財の両面にわたって、文化・コンテンツ振興内閣本部の総括のもとに、文化・コンテンツ振興文化庁本部が文化庁所掌分野の文化・コンテンツ振興に専任すると明確化することが、政策の整合性(複数法律間の)・効率性・実効性を益々高めると考えます。

   なおこれと共に、「文化庁知財戦略本部」を設置する必要性(文化芸術には、著作物・著作隣接権・デジタルコンテンツ・アナログコンテンツ・ライブコンテンツ・コンピュ-タプログラム等、広汎な内容を包含し、文化財の経済財化に伴い、その知的財産権性が文化芸術全般において益々強く意識されるようになり、同時に、デジタルコンテンツ流通の知財開発と著作権・著作隣接権の相克の調整が新たな様相を展開していますので、文化庁の知財戦略本部が、各省庁知財戦略本部と同時に設置され、経済財としての側面から、文化芸術の振興対策を確立すべきであるとも考えられます)がありますが、両本部を併設すべきか、あるいは統合して、「文化庁・文化コンテンツ振興・知財戦略本部」が構成されるべきかは、文化庁当局のご選択に依存すると考えます。

3.        他の省庁につきましても、文化・コンテンツにはわが国のソフトパワ-たる使命があり、例えば、無償ODAによるNHK放送番組(好評であった「おしん」など)の供与など、「無償」によるわが国文化・コンテンツの普及に国策的意義があります。総務省・外務省に各文化・コンテンツ振興本部が設置され、文化・コンテンツ振興の外交面・分野所管面からの一層強力な推進がなされるよう、期待いたします。

4.         さらに他の省庁の例といたしまして、内閣知財戦略本部の知的財産推進計画では、食材・食品もコンテンツに包括されておりますが、食材・食品の国際流通がグロ-バル化し、育成者権保護や品種管理と文化・コンテンツ振興が密着してまいりますから、農水産省知財戦略本部の活況と、食品流通の国際性の拡大(大豆需給・魚類需給・食肉需給等)とその食文化的特殊性にもかんがみ、文化・コンテンツ振興農林水産省本部を設置されることが適切と考えます。ただし、この場合、二つの本部を併設するか、「農林水畜産文化・知財振興本部」として、食材文化・「美しい田園国日本」を含む統一本部とするかは、農林水産省当局のご選択に依存するところであります。

観光文化・観光知財に関する国土交通省の「文化・コンテンツ振興国土交通省本部」・「国土交通省知財戦略本部」など、その他の省庁につきましても、同様に考えられます。(以上)

2006年9月23日 (土)

野村総研の「特許出願著増と特許制度見直し論」

NRI未来創発フォ-ラム2006(2006-9-21)の成果

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        金融と流通をITが変容し、人がITを変容する:

1-1        人・金融・流通とITの相互変容作用(注:以下SANARI PATENT要約)

   標記フォ-ラムでは、先ず、最近の会社定款変更の顕著な動向を例示しつつ、事業会社の金融事業参入の続出による金融再編の動きを指摘し、また、流通参加者の9割が「メ-カ-・卸・小売」の垂直連携を指向する動きを指摘して、人・金融・流通・ITのインタラクティブな作用による新たな機能の展開を予見した。

 例えば、ファミリ-マ-ト・イオン等が銀行代理業に参入、理研ビタミンが保険代理業に参入、クレディセゾンが証券仲介業に参入し、ITが、在来・新規両業務を有機的に結合していることなどが例示された。 

 知財専門家としては、これら企業のブランドが意味するものの変容等を的確に把握する必要があると、SANARI PATENTは考える。

1-2 さらに、内閣知財戦略本部関係委員・慶応大学・国領二郎教授が、「創発」の語義を、「多くの要因や多様な主体が絡み合いながら、相互に影響しあっているうちに、ある時にエネルギ-の向きが一定方向にそろって、当初は思いもよらなかった結果がポンと現出することをいう」と示され(SANARI PATENT 注:野村総研は「未来創発」という用語を使っているが、その英訳は後記5参照)、人の創発エネルギ-がITを変容しつつ社会を再構築してゆく、と予見された。

2.野村総研の知的資産とリスク意識

2-1 標記フォ-ラムで、野村総研の知的資産に関する多くの資料が提示された。

2-1-1 NRIグル-プの重点マネ-ジメント項目は、「品質管理」「研究開発」「知的財産権管理」「情報セキュリティ管理」「危機管理」および、「対環境配慮」である。

2-1-2 証券・金融・流通分野における特許取得を強化している。

2-1-3 NRIグル-プの特許出願件数は2005年度121件で、2001年度の61件に比し倍増している。

2-2 知的財産に関するリスクとして、「慎重な取組にもかかわらず、NRIグル-プの製品およびサ-ビスが他者の知的財産権を侵害した場合、損害賠償請求を受ける可能性があるほか、情報システムの使用差止の請求を受け、サ-ビスを停止せざるを得なくなるなど、事業遂行に重大な影響を受ける可能性があります」とも述べている。

3、特許制度見直し論

3-1 SANARI PATENTで注目するのは、「ソフトウェアの法的保護とイノベ-ションの促進の調和」について、経済産業省が委員会を設けて検討中であり、野村総研・井上純一知的財産部長が、その委員として参加されていることである。

3-2 上記3-1の委員会は、「ソフトウェアに係る知的財産権に関する準則案」(2006-6-13)において、次のように案を提示している。

3-2-1 「ソフトウェアに係る特許権の行使(差止請求等)に対して民法の「権利濫用」規定は適用されるか」

 「考え方」として、「以下のような特許権行使は。権利濫用と認められる可能性がある。

3-2-1-1           権利行使者の主観において加害意思等の悪質性が認められる場合

3-2-1-2           権利行使の態様において、権利行使の相手方に対して不当に不利益を被らせる等の悪質性が認められる場合

3-2-1-3           権利行使により、権利行使者が得る利益と比較して、著しく大きな不利益を権利行使の相手方および社会に対して与える場合

4.野村総研誌の「特許制度見直し論」

   ITソリュ-ションフロンティア(2006-10)において野村総研知的財産部の河野尚士弁理士は、次のように述べている(要旨)。

「ソフトウェア特許に関して権利濫用の問題が論じられるのは、『特許が存在すれために相互運用性が阻害されてはならないこと』および、『「ソフトウェア技術開発の特異性として、ソフトウェアは、多数の開発者が外部リソ-スを有効に使いながら、開発を進める場合が多いこと』による」。「ソフトウェア技術が急速に発展し、その特許件数も増大する趨勢のもとで、特許制度を見直すべき時期に際会している」。

5.所見

  野村総研が、「未来創発」(Dream up the Future)を説きつつ、2-2のリスクに対処する制度対策を、上記4の提言で講じている慎重な構えに表敬すべきである。

2006年9月22日 (金)

コンテンツ振興の現状を反省する諸意見

わが国ソフトパワ-の主役たり得るために

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        内閣知財戦略本部コンテンツ専門調査会(発言順)

1-1        知財推進計画07の策定に向けて、企画グル-プが会合(200609-6)したが、出席者の発言には、コンテンツ振興の「お囃子」の舞台裏の実態を反省する有益なものが多い、

1-1-1        国際比較すると、2000年には日本は世界コンテンツ市場の11,7%を占めていたが、2004年には98%まで減少している。

1-1-2        海外収支を見ると輸入超過であって、ゲ-ムのみは輸出が輸入より多いが、その他の分野では輸入の方が多く、かつ、輸出自体も減少している。

1-1-3        放送分野の水準は、先進7国の平均ぐらいである。

1-1-4        音楽関連市場が1996年をピ-クに減少し、レコ-ド(CD等)生産も減少している。

1-1-5        映画の輸出金額は、映画輸入金額の1割である。

1-1-6        デジタルコンテンツの海外展開について、米国の海外市場比率17%に対し、日本のそれは3%に過ぎない。

1-1-7        コンテンツ産業に属している音楽産業・ゲ-ム産業・映画産業の現状は、若々しい青春期にあるのではなくて、既に成熟期に達しているのではないか。個々の業界は非常に苦しい問題を抱えていて、伸び率を達成できない状況にある。対策としては、大規模投資による市場制圧作品の創出、海外市場の開拓、競争関係を経て大コンテンツ企業集団の形成、NHK改革、デジタル録画機能の重視などが考えられる。

1-1-8        toP(個人間デジタルコンテンツ交換)が、合法化の道を選び始めた。わが国は時代の読みを誤っていないか(SANARI PATENT 注:ファイル交換システムを意味している)

1-1-9        アニメ関連の株式公開企業8社の決算発表のうち、6社がダウンしている。1998年以降、アニメバブルは大幅な縮小傾向にある。

1-1-10     アニメの使用対象は拡大し、アニメ業者の数は増加しているので、良い状況と悪い状況が混在している。

1-1-11    アニメのハイビジョン対応に制作費が3割増加し、弱者がそのリスクを負担しつつある。

1-1-12    アニメ業界の待遇が悪いという定評のため、人材が流入しない。

1-1-13    米国・中国・韓国が3Dアニメに注力しているのに、わが国は従来得意とした2Dに固執している。

1-1-14    映画配給業界の寡占化が進み、中小規模の作品が支援されにくい。

1-1-15    著作権の流通を円滑にすべきである。

1-1-16    著作・出版・映画・演劇等、創作に淵源する利益の配分を適正に考えるべきである。

1-1-17    一般的に、権利者製作者、要するに著作権者、著作隣接権者を含めてのソフトと、ハ-ドとの間に溝が横たわっている。

1-1-18    ゲ-ムソフトの中古品問題等、利用者、法律専門家の壁、業界のエゴがあって、結果的に疲弊してゆく。アニメやゲ-ムビジネスが明るかったのは数年前までである。

1-1-19    ケイタイソフトの急増の影響に注目すべきである。

1-1-20    コンテンツの流通が不自由という不満が多いが、ボトルネックが何かを究明しなければならない。

1-1-21    ソフトの提供をダイナミックにする環境を考えないと、ダイナミックな創出もできない。法制度を見直すべきである。

1-1-22    わが国の映画人口は、1960年代の11億人が、1億7千万人に減った。

2.        所見

  発言委員は、荒川ACCESS社長、牛尾ウシオ社長、岡村東芝会長、角川(書店)会長、金丸フュ-チャシステム社長、久保小学館センタ-長、久保利弁護士、国領慶大教授、重延テレビマン会長、原田NHK理事・依田ギャガ会長であるが、知財推進計画06の策定におけるパブコメでは、「内閣知財戦略本部関係委員の構成自体が、『コンテンツを利用する一般国民の意見』を知るには不十分ないし不適当である」という意見も見られた。国民全般の意見が、パブコメ処理において、最高度に表明・尊重されるべきである。

2006年9月21日 (木)

文化庁のコンテンツ予算

平成19年度文化庁予算要求

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        文化芸術とコンテンツ:

1-1        文化庁は文化芸術を所管するが、文化芸術振興基本法(2001-12-7公布)は「文化」の定義規定を置いていない。「芸術」については、同法8~12条により、「メディア芸術とその他の芸術」「伝統芸能とその他の芸能」「生活文化・国民娯楽・出版物・レコ-ド等」の各項目が法定されている。なお、衆議院の付帯決議で、これら定義における具体的列挙は例示であり、身体文化(武道、相撲等)も芸術に含むことなどが確認されている。

1-2        一方、2004年に制定された「コンテンツの創造、保護及び活用に関する法律」は、コンテンツの定義を次のように定めた。

「この法律において『コンテンツ』とは、映画、音楽、演劇、文芸、写真、漫画、アニメ-ション、コンピュ-タゲ-ムその他の文字、図形、色彩、音声、動作若しくは映像若しくはこれらを組み合わせたもの又はこれらに係る情報を電子計算機を介して提供するためのプログラムであって、人間の創造的活動により生み出されるもののうち、教養又は娯楽の範囲に属するものをいう」。

1-3 上記1-1の「メディア芸術」は、「映画、漫画、アニメ-ション及びコンピュ-タその他の電子機器等を利用した芸術」と定めており、「芸能」は、講談、落語、浪曲、漫才、歌唱、能楽、歌舞伎等」と定めているから、芸術とコンテンツは内容において同義と考える。

1-4 一方、内閣知財戦略本部の知的財産推進計画が定めるコンテンツは、料理、ファッションを含むが、上記1-2の文化・芸術・芸能に含まれると解される。

2.知的財産基本法の「知的財産」と「文化芸術」

   知的財産基本法による「知的財産」の定義には、「著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの」を含むから、創造された内容を、経済財(財産)として見る場合は「知的財産」、文化財として見る場合は「文化芸術」と呼称するものと解される。

2.        文化庁の平成19年度予算要求:

    1162億5200万円(本年度比15.5%増)を要求しているが、その内容は、内閣知財戦略本部知財推進計画06がコンテンツ振興対策として計画した内容と一致している。すなわち、

2-1        文化芸術立国プロジェクトの推進

2-1-1 文化芸術創造プランの推進

  「最高水準の舞台芸術公演・伝統芸能等への重点支援等」「日本映画・映像振興プランの推進」「世界に羽ばたく新進芸術家等の育成」「感性豊かな文化の担い手育成プランの推進-子供の文化芸術体験活動の推進」

2-1-2 「日本文化の魅力」発見・発信プランの推進

  「地域の文化力活性化プランの推進」「日本文化の発信による国際文化交流

の推進」「コンテンツの保護と発信の推進(SANARI PATENT 注:ここで「コンテンツ」とは、狭義のコンテンツ、すなわち、デジタルコンテンツを意味していると解する)

2-1-3        文化財の次世代への継承と国際協力の推進

「文化財の保存・整備・活用」「文化財の国際協力の推進」

2-1-4        文化芸術振興のための文化拠点の充実

「新たな文化拠点の整備(平城宮跡保存整備等)」「美術館等活動の推進」

3.        所見:

  文化芸術には、著作物・著作隣接権・コンテンツ(デジタルコンテンツ・アナログコンテンツ・ライブコンテンツ)・コンピュ-タプログラム等、広汎な内容を包含し、文化財の経済財化に伴ない、その知的財産権性が文化芸術全般において益々強く意識されるようになった。同時に、デジタルコンテンツ流通の知財開発と著作権・著作隣接権の相克の調整が新たな様相を展開している。従って、文化庁の知財戦略本部が、各省庁知財戦略本部と同時に設置され、経済財としての側面から、文化芸術の振興対策を確立すべきであると考える。

(一方、高松塚古墳石室壁画の飛鳥美人や白虎の、管理不全による壊滅・損傷のニュ-スを悲しみつつ)。

2006年9月20日 (水)

知的財産推進計画の軌跡と方向性

各省庁知財戦略本部による実施体制の提案

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        知財推進計画07策定の段取り

1-1        内閣知財戦略本部の現在の機構では、知財推進計画07の原案作成は「知的創造サイクル専門調査会」(サイクル調査会)と「コンテンツ専門調査会」(コンテンツ調査会)の合意を経て立案される形を採っている。

1-2        サイクル調査会は、明日(2006-9-21)開催されるが、議題として、「国際標準総合戦略」および「知的創造サイクルに関する課題」を掲げているから、国際標準化戦略、および、「知財推進計画06決定に際して今後の課題とされた事項」の検討が期待される。

1-3        コンテンツ調査会は、今月6日に企画ワ-キンググル-プを開催し、「コンテンツをめぐる問題点」を検討すると共に、「コンテンツの振興その他のコンテンツに関する事項」についてパブコメ募集を公報している。パブコメの内容は多岐多数にわたり賛否両論が予想されるので、上記6日の論点を、パブコメ結果により総合調整して原案作成に至ることが期待される。

2.        国際標準総合戦略について

2-1        上記1-2の「国際標準総合戦略の策定」については、既に、知財推進計画06に次のように計画されている。

「経済のグロ-バル化に伴い、国際標準の産業競争力に与える影響は格段に大きくなっているにもかかわらず、これまでのわが国の取組は他の先進諸国に比べ立ち遅れている。わが国の国際標準化活動を抜本的に強化すべく、2006年度中に、先進国及び近隣諸国の標準化戦略を分析し、その結果を踏まえ、わが国全体としての国際標準総合戦略を策定し、実行に着手する」。

しかし、2006年度は結局、実行の「着手」にとどまるので、「策定」を2006年度中に遂行することが当面の課題とされるはずである。

2-2        さらに知財推進計画06は、「技術標準に関する知的財産権の取扱いル-ルを整備する」として次のように計画している。

2-2-1        技術標準の策定・普及を妨げる必須特許の権利行使に対処する。

2-2-2        パテントプールに関する環境を整備する。

3.「知的創造サイクルに関する課題」について

3-1 知財推進計画06は、内閣知財戦略本部第14回会議(2006-6-8)の冒頭において全員異議なく可決されたが、この可決に続いて、「今後の知財戦略」について有識者委員の意見が次のように述べられたので、これらが当然、今後の課題として検討されるはずである。

3-2 安西本部員(慶大)の意見

3-2-1 デジタル時代に即応する知財制度が未整備である。デジタル時代の特徴は、個人が多様なコンテンツを創造できること、および、ネットワ-クによって世界中でコンテンツを共有できることである。

3-2-2 デジタル時代の知財制度は、権利保護と活用促進のバランスを根本的に見直して構築しなければならない。

3-2-3 慶大では、デジタルメディアコンテンツ統合研究機構において、韓国の延世大学、中国の清華大学等々と連携し、メディア融合政策等を研究しているが、国際的産学連携でデジタル時代の法制度の確立を国際的に先導したい。

3-3 角川本部員(角川書店)の意見

3-3-1 コンテンツジャパン(CJ)マ-クを実効あらしめる対策が必要である。上海あたりでも海賊版にCJが付されているので、制度の認識は海外に普及してきたと考えるが、ニセモノに付されている。

3-3-2 映画の劇場内盗撮は、日米共通の問題で、撲滅対策の法制化が必要である。

3-4 川合本部員(理研)の意見

3-4-1 基礎的研究が即社会的利用に直結することは多くはないが、結びついて顕著な結果を生む場合にも注目すべきである。例えば、重イオンビ-ム発生超大型加速装置は、113番目の元素発見をわが国がなし遂げたという成果のほか、植物の品種改良に多大の実益を収めている。

3-4-2 南アフリカ共和国の研究機関と共同で、作物の品種改良にも応用しようとしている。

3-5 久保利本部員(弁護士)の意見

3-5-1 IPマルチキャスト放送(インタ-ネットのシステムを使った放送)を早急に発達させるよう、多様なネックを除去することが先ず必要である。

3-5-2 さらに、放送と有線通信の区別を、制度としてどのように定めるか、技術の進歩に制度が遅れないよう計画すべきである。

3-6 下坂本部員(弁理士)の意見

3-6-1 特許電子図書館の機能の充実、出願ソフトへの中小ベンチャ-企業支援の機能など、制度利用者の側に立ったキメの細かい改善を積極的に進められたい。

3-6-2 模倣品・海賊版拡散防止条約の提唱を実らせると共に、模倣品の個人所持や個人輸入の問題にも一層取組む必要がある。

3-6-3 人材育成について、数の増加と共に、質の向上に配意されたい。

3-7 中山本部員(東大)の意見

3-7-1 知財関係の多くの法改正がなされ、これからはその収穫期に当たる。

3-7-2 アジア等の人材育成のための留学生受入について、具体的な対策を整備

する必要がある。

3-7-3        実効性を挙げるには、これから、細かい問題を一つずつこなしてゆかなければならない。

3-8               野間口本部員(三菱電機)の意見

3-6-1        出願審査請求の構造改革の提案(経済産業省)を契機として、知財活動の質の問題に取組むことといたしたい。

3-6-2        産学官連携による国際競争力の強化を一層進めたい。

3-7               御手洗本部員(経団連)の意見

3-7-1        知財戦略はイノベ-トジャパンの中核と考える。

3-7-2        知財推進計画06をフェイズ2の初年度と考える。

3-8               森下本部員(阪大)の意見

3-8-1        バイオインキュベ-タのような中小ベンチャ-企業の知財開発対策を強化すべきである。

3-8-2        中小ベンチャ-企業の知財中に、国際的価値あるものもあることを認識されたい。

3-9               安倍本部員(学術会議)の意見

   わが国の大学数が700に達すると思うが、その75%は大学としては力が弱い。これらをト-タルとして知財創造の母体とする対策が望まれる。

3-10           各省大臣から知財対策の現況報告あり。内閣総理大臣からは謝辞あり。

4.所見

   中山本部員の発言に即して「実効性の確保」を現段階の課題とし、各省庁所管分野の特殊性に対応しつつこれを促進するためには、農水産省知財戦略本部の顕著な成果にかんがみ、各省庁に知財戦略本部(分野別制度の検討・改正・実施)を設け、内閣知財戦略本部がその総括と、「制度の基本的検討・知財政策構造の改革」を立案する体制を樹立することが適切と考える。なお、経済産業省については、産業構造審議会知的財産部会が、実質的に経済産業省知財戦略本部の機能を営んでいる観もあり、特許審査迅速化本部との一体化も一応考えられるが、産業構造審議会は、各省庁所管業種の全てを含む産業構造の審議機構であるから、農林水畜産業・製薬業・造船業等と並列する経済産業省所管業種については、経済産業省知財戦略本部を別途設け、所管各業種の特質に対応する実施の促進を図ることが、上記に整合すると考える。

2006年9月19日 (火)

グロ-バルな経済変動の主役・農林水畜産業

平成19年度農林水産省予算要求の知財戦略

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        食品・バイオエネルギ-の国際需給著変への対応:

  BRICsを始め、人口巨大な生活水準向上国における高級食品・高級エネルギ-需要量の著増によって、食品とエネルギ-生産の技術革新が全世界緊急の課題となった。タンパク質合成、遺伝子組替動植物、バイオエネルギ-の開発は、関連知財の創造・活用によってのみ、国際競争力を備えつつ、内外の需給に即応し得る。

  平成18年に発足した農林水産省知財戦略本部は、既に顕著な検討成果を示し、課題の具体的解決方策が立案されつつあるが、当面、平成19年度の予算要求に、その反映を見るべきである。

2.        農林水産省予算要求の構成:

平成19年度2兆7783億円(対18年度13.4%増)を要求しているが、このうち、公共事業費1兆2千億円と食料安定供給費8361億円を除いた額、9332億円が知財戦略を含む一般事業費である。

  その骨格を見ると、「特に農林水畜産業は、『攻め』の視点に立って、新たな可能性を追求すべきである」として、次の7項目(大項目)を掲げている。

2-1        東アジア市場全体を見据えた食品産業戦略構想の推進

2-1-1 東アジア主要都市と東京・地方都市のネットワ-ク構築

2-1-2 技術開発

2-1-3 貿易保険制度・融資制度などの総合的・有機的活用

2-2        技術と知財の力による新需要・新産業の開拓

2-2-1        新需要創造のためのグランドデザインづくり

2-2-2        新需要創造に取組むフロンティアの育成

2-2-3        成分保証システムや分別管理システムの確立

2-2-4        新食品・新素材創出のための研究開発の推進と実用化に向けた研究開発の支援

2-2-5        新需要創造に向けた既存施策の活用

2-3               輸出倍増対策の強力な推進

2-3-1        輸出倍増対策

2-3-2        輸出倍増緊急条件整備

2-3-3        輸出振興のための生産・流通・加工技術の開発促進

2-3-4        公共・非公共事業、融資の総合的・有機的活用

2-4               知的財産の創造・保護・活用

2-4-1        知的財産の創造の促進

2-4-2        知的財産の保護の強化

2-4-3        知的財産の活用の推進

2-4-4        人材の育成・意識の向上等

2-5               革新的技術の開発と普及

2-5-1        国民生活の向上に資する研究開発

2-5-2        グロ-バル化に対応した農林水産業・食品産業を支える研究開発

2-5-3        先進的な技術の普及・定着

2-6 農林水産分野の国際協力の推進

2-6-1 アジア地域の食品安全・動植物検疫関連の人材育成等総合的支援

2-6-2 東アジア食品産業活性化戦略の推進

2-6-3 地域漁業振興への協力

2-6-4 アジア食料安全保障情報整備強化に向けた支援

2-6-5 循環型水資源有効利用手法の開発等

2-7 「攻め」の農政をサポ-トする統計調査の実施

2-7-1 わが国食品産業の海外への進出状況、輸入も含めた食品産業全体の構造の把握

2-7-2 調査のアウトソ-シング

3.所見:

   「食品産業」を「工業製品」と置き換えると、経済産業省政策の文面と同一の観があるし、知的財産関係の記述は、内閣知財戦略本部知財推進計画と鏡面対称体の観がある。

   他方、農林水畜産業の独自の課題が存在することは、農水産省知財戦略本部の検討により、具体的に明確化されつつある。

   知的財産問題は各省庁に分属しているのであるから(例えば、電気通信の国際標準化は総務省)、各省庁に知財戦略本部を設置して知財戦略を一層強力に実行し、内閣知財戦略本部がこれらを統括する新体制を、この際、樹立すべきであると考える。

2006年9月18日 (月)

カブコムの知財報告書06

先端サ-ビス業のビジネス方法とブランド戦略

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        カブコム(カブドット、コム証券)知財報告書の特徴:

1-1        先端分野の製造諸企業の知財報告書06が、質量ともに内容を充実しているのに比肩して、先端サ-ビス分野の諸企業の知財報告書も、多様性を誇りつつある。

1-2        サ-ビス業のうちでも、ビジネス方法が最先端的なカブコムの知財報告書06の特徴は、次のように見受けられる(要旨)。

1-2-1        知財権に対するカブコムの考え方について、次のように述べた(要旨)。

1-2-1-1           技術資産の淵源について:「カブコムは、開業当初からオンライン取引システムを自社開発してきたわが国随一のオンライン証券会社であり、多様な新技術を活用した先駆的サ-ビスを提供してきた」。「カブコムのこのようなサ-ビスは、顧客の多様な要望に応ずるために生まれたアイデアに、カブコムのシステム技術が融合して創生されたものであり、新規性・実用性において価値の高い技術資産と考える」。

1-2-1-2           ブランド価値の蓄積について:「カブコムが創生したユニ-クなサ-ビスに親近感あるネ-ミングを行い、認知度の向上を通じてブランド価値を蓄積している」。

1-2-2               カブコムの特許戦略について、次のように述べた(要旨)。

1-2-2-1           リスク管理追求型について:「コアコンセプトである『リスク管理追求型』強化のためのサ-ビスと、その技術開発に基づく特許出願に重点を置く」。

1-2-2-2           出願の具体的内容について:「リスク限定取引の独自発注方式」、「情報システムと発注システムの即時連動システム」、「預かり資産の効率的管理システム」等を、出願の対象分野とする。

1-2-3               主要特許権について次のように例示した(要旨)。

1-2-3-1 特許第3719711号。三菱東京UFJ銀行との共同特許権。発明の名称「コ-ルセンタ-間の通話中継方法」。二事業者により運用されるコ-ルセンタ-間で、顧客が電話をかけ直さずに通話可能とする通話中継方法。

1-2-3-2 特許第3734168号。発明の名称「発注条件を自動設定する売買注文処理システム及び売買注文の処理方法」。発注時点では未確定である始値等の価格を監視し、条件付注文に応ずる自動売買を執行する。

1-2-3-3 特許第3754009号。発明の名称「訂正条件を自動設定する売買注文処理システム及び売買注文の処理方法」。発注時点では未確定の他の注文の約定価格等を監視し、W指値(SANARI PATENT 注:指値の一方式。カブコムの登録商標)における訂正条件と指値を自動設定する。

1-2-4 カブコムのブランド戦略については、次のように述べている。

1-2-4-1 サ-ビスマ-ク戦略について:

   「カブコムの社名(標題参照)に用いられている「カブ」「kabu」を冠したサ-ビスマ-クで新サ-ビスを展開し、これら自体をコ-ポレ-トブランドに育てる。

1-2-4-2           商標登録について:

「カブドットコム証券」「カブナビ」「カブコ-ル」「リレ-注文」「カブボ-ド」「ゆうゆう決済」「W指値」「KabuVenus」「プラマイ指値」「ワンショット手数料」など。

2.        所見

  カブコムの総合口座数は本年8月に51万を超え、昨年同期に比べ倍増に近く、ネット取引の全般的拡大基調に乗じて、また独自の開発努力によって、増勢を続けると予想される。物品のインタ-ネット販売には対面・現物販売とのハイブリッド販売とのメリット差もあり得るが、証券取引においては、無事故・精確の実績があれば、店舗経費不要の競争条件と、独自技術の双方により、極めて有利な営業を、グロ-バルに展開できると考えられる。ビジネス方法特許の花形といえよう。

2006年9月17日 (日)

OIN(Linux関連特許管理会社)にNECが出資

NEC目的の発表(9-14)とわが国OSS推進政策

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        内閣知財戦略本部のOSS(オープンソースソフトウェア)政策:

1-1 「イノベ-ション促進のため知的財産活用の円滑化を図る」ことが、知財推進計画06の主要課題の一つであるが、そのため「産業界における自主的対応を促進する」項目として、次のように計画している。

  「オープンソースソフトウェアを活用したビジネスの更なる円滑な発展を図るため、2006年度には、OSSを活用してシステム構築を行う際のベンダ-やユ-ザ-のリスクの所在を明確にし、リスク回避・低減の解決策を提言した「ビジネスユ-スにおけるOSSの法的リスクに関する報告書を周知し、企業における活用を図るとともに、必要に応じ改訂を行う」。

1-2   内閣知財戦略本部が引用した上記報告書(独立行政法人・情報処理推進機構)は、その冒頭に、次のように述べている(要旨)。

「OSSは、特定企業の支配を排し、OSSをビジネスに活用しようとするユ-ザおよびベンダに大きなメリットをもたらす反面、オープンソースコミュニティによる開発、ディストリビュ-タによる配布等、従来の商用ソフトウェアとは大きく異なる開発・流通・保守形態をとっている。一部には、この点を取り上げて、OSSの法的リスクを誇大にいう論調もある。これを放置すれば、業界におけるOSSの採用が進まないおそれがある。その対策として。本調査が、OSS利用拡大の一助となれば幸いである」。

2.        NECの今次発表の意義を考える:

2-1 LinuxJavaと共に、オープンソースソフトウェアの太宗であるが、このたびNECが、「Linux関連特許管理会社への出資」を発表(2006-9-14)したことは、前項1の背景から考えて意義深い。すなわち、NECは次のように述べている(要旨)。

2-1-1 「NECはOIN(Open Invention Network:本社米国ニュ-ヨ-ク市:Linuxに関する特許を買い取り、無償で提供する特許管理会社)に出資することとした」。

2-1-2 「OINは、Linuxの革新・発展・普及のため、IBMNovellPhilipsRed HatSonyが出資し、Linuxオペレ-ティングシステムに関連する重要な特許の、購入・維持、Linuxオペレ-ティングシステム・Linuxアプリケ-ションに対して、特許を行使しないことに同意した企業等への、保有特許の無償提供を行っている」。

2-1-3 「NECは、Linux事業を、2005年度の約3100億円から2008年度には約5700億円に伸長させたい。OINの活動は、Linux開発者にとって、OIN保有特許活用により技術革新を自由に進めることができると共に、ユ-ザにとっては、ソフトウェア特許に関する懸念の軽減に役立つことから、Linuxの発展に寄与するところ大と考える。従って、OINへの出資・役員派遣が適切かつ必要と決定した」。

3.所見:

   NECは上記2の発表において、「NECは、オープンソースソフトウェアの普及・促進のため、Linuxの国際的コミュニティであるOpen Source Develop Labsや日本OSS推進フォ-ラムなどに積極的に参加している」と付言しているが、上記1の内閣知財戦略本部計画に引用された調査報告の実質的立案・起草者は、日本OSS推進フォ-ラムである。この調査報告書はかなり長文で、内閣知財戦略本部が意図する「その周知」にまで至っていないのではないかと危惧するが、Windowsの比重が高いわが国に対して、例えば中国はJavaの普及が急速であり、同報告書の理解(改訂版を含めて)は必須である。

2006年9月16日 (土)

平成19年度政府予算要求に見る知財戦略

特許庁と中小企業庁の重点要求

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        特許庁

1-1        特許特別会計で1274億円(対18年度7.4%増)を要求しているが、重点を次の4項目としている。

1-1-1        世界最高水準の迅速・的確な特許審査の実現(682億4千万円)

1-1-2        グロ-バルな知財権利取得の促進と模倣品対策の強化(29億7千万円)

1-1-3        地域・中小企業の知的財産活用に対する支援(38億8千万円)

1-1-4        知的創造サイクル活性化のための環境整備(151億8千万円)

1-2 いずれも各界関心の的であるが、内容の詳細と実施態様が問題である。

1-1-1 について、

1-1-1-1 先行技術調査の登録調査期間を増大し外注件数(平成22年度24万件)と「対話型報告」を拡大する(SANARI PATENT 注:対話に、テレビ電話の整備が必要と考える)

1-1-1-2 ユ-ザ-への情報提供を飛躍的に向上する。

1-1-1-3 重要技術分野の文献をデ-タベ-ス化する(SANARI PATENT 注:既に概要のデ-タベ-ス化はある程度進んでいる)

1-1-1-4 平成20年度までに、任期付審査官500人を確保する。

1-1-2について、

1-1-2-1 「特許審査ハイウェイの対象を拡大する」、「日米欧主導で国際的制度調和を推進する」、「途上国の審査体制構築を支援する」。

1-1-2-2 「アジア進出企業に相談・情報提供事業を行う」、「侵害発生国の知財庁と取締機関の職員の能力向上を支援する」、「模倣品対策キャンペ-ンを実施する」。

1-1-3について、

1-1-3-1 地方経済産業局の地域知財戦略本部でセミナ-・相談事業を拡大する」、「中小企業・個人の特許出願について先行技術調査を支援する」、「知財駆け込み寺との連携を拡充する」、「地域知財専門家を育成する」、「地域団体商標制度を普及する」。

1-1-4について、

1-1-4-1 「特許電子図書館で特許公報の全文検索を可能にする」、「産業界・大学の知財専門家に、審査官のノウハウを伝授する」。

1-1-4-2 知財ポ-トフォリオの形成、出願・審査請求内容の事前チェックの徹底、一元的社内責任体制の構築等、出願・審査請求構造の改革を、産業界に促す。

2.中小企業庁

2-1 中小企業全般対策費として、対策中小企業庁の一般会計予算で1493億円(平成18年度1204億円)、財務・厚生労働両省計で518億円、財政投融資で1兆5729億円を計上しているが、重点を次の3項目としている。知財対策はこれら全ての中枢をなすべきであるが、そのような表現では記載されていない。

2-1-1 地域の応援:地域中小企業の活性化

2-1-2 企業の応援:中小企業の発展と再生の支援

2-1-3 ヒトの応援:起業・再起業促進や中小企業人材の支援(SANARI PATENT 注:「ヒト」という書き方は、生物学的で奇異な感じがするが、中小企業庁では意に介さないようである)

2-2 下記により具体化するが、各項目とも、例えば、地域ブランド製品など、知財サイクルの活発な循環と、ノウハウの開発が起動力となるべきである。

2-1-1について、

2-1-1-1 地域資源活用企業化プログラムの創設:

  「地域資源を活用する事業展開を支援する」、「全国・世界に通用する地域発ブランドを育成する」

2-1-1-2 まちづくりの推進と商店街の振興:

「中心市街地を活性化する」、「地域コミュニティを支える商店街を振興する」。

2-1-2について、

2-1-2-1 ものづくり中小企業の高度化支援:

   「ものづくり基盤技術の研究開発を支援する」、「ものづくり人材を育成する」、「海外事業展開の環境を整備する」、

2-1-2-2           政策金融改革の的確な実現と中小企業金融の充実・円滑化:

   「中小企業金融公庫・国民生活金融公庫等の統合による新金融機関における中小企業者の利便性を確保する」、「不動産担保・個人保証に過度に依存しない融資を促進する」、「中小企業金融公庫の証券化支援業務の対象中小企業を拡大する」、「流動資産担保保証制度を創設する」、「信用保証協会の運営基盤を強化する」

2-1-2-3 中小企業再生と事業承継の支援:

   「事業再生を支援する融資制度を拡充する」、「事業承継資金融資制度を創設する」。

2-1-3について、

2-1-3-1 起業・再起業の支援:

   「再挑戦支援のための融資・保証制度を創設する」、「定期的財務報告等を前提として本人保証免除制度を創設し、また、第三者保証人の非徴求を徹底・拡大する」。

2-1-3-2           小規模・零細事業者の支援:

  「小規模事業者新事業全国展開支援事業を拡大する」、「シニアアドバイザ-事業・創業人材育成事業・JAPANブランド育成支援事業・再チャレンジ支援窓口事業を行う」、「女性・OBを中小企業支援に活用する」、「若者と中小企業のネットワ-クを構築する」(SANARI PATENT 注:特許庁・先行技術調査機構・中小企業・女性やOBにインタ-ネット網が構築され、所在を問わず、考案や資料のネット上の授受が練達に行われることが前提と考える)

3.所見

   中央の大企業は自助能力を豊富に有するから、地域対策・中小企業対策・知財対策が「要支援対象対策」として融合することに、今後のわが国発展政策の起点が置かれるべきである。

2006年9月15日 (金)

超多機能化するケイタイの知財戦略

ドコモの具体例:High Speed Downlink Packet Access

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.知財界におけるケイタイの比重

  先般の国会で意匠法改正法案が審議可決された際、政府答弁において、最近の商標登録出願件数中、ケイタイ関係が断然トップを占めていることが示された。ハ-ド・ソフト両面において、また、ケイタイショッピングの多様な形態が続出して流通システムの一大変革を現出しつつある現在、ケイタイ関係企業知財戦略は、特にビジネス方法に関する知財専門家共通の関心事である。先ずドコモについて考察する。

2.ドコモの具体例

2-1 役員構成

  知財担当役員が経営トップ層に位置することを、内閣知財戦略本部の知財推進計画06は期待しているが、ドコモでは、本年6月19日の役員異動で、代表取締役副社長・津田志郎氏が知財担当として、国際事業本部長を兼ねると共に、知的財産部・情報システム部・経営企画部等を委嘱されている。

2-2        企業理念

  「ドコモは、『新しいコミュニケ-ション文化の創造』に向けて、個人の能力を最大限に生かし(SANARI PATENT 注:普通、「活かし」と書くが)、お客様に心から満足していただける、よりパ-ソナルなコミュニケ-ションの確立をめざします」と述べている。サラリと書いているようだが、ケイタイの本質と指向を考えた表現と思われる。

   具体的に知財戦略と直結する表現としては、在来の、「マルチメディア化・ユビキタス化・グロ-バル化の三つを軸とする」、「個人同志確実にアクセスできる」、「個人単位でのコミュニケ-ションができる」、「いつでもどこでも誰とでも、自由にコミュニケ-ションが楽しめる」、「パ-ソナルアクセスのためのマナ-が生まれる」に加えて、「生活空間が限りなく広がる」ことが、実感を増している。

2-3        中長期的経営戦略

  上記の具体的戦略として、「高速パケット通信技術であるHigh Speed Downlink Packet Accessシステム」、「音声通信を中心とする通信インフラから、iモ-ドに代表されるITインフラへの拡大」、「情報家電の遠隔操作」「自動車向けテレマティクス」「赤外線通信・QRコード・非接触ICチップ等による外部とのインタ-フェイス機能」、「モバイルマルチメディアサ-ビスと商取引を連携させるリアル連携」、「W-CDMA方式の第三世代ケイタイシステムによる国際ローミングサ-ビス」(SANARI PATENT 注:ITU国際標準化最大の課題)等を挙げている。

  これらは、関連業界における知財戦略との整合を必須要件とするから、企業戦略を超えるわが国産業戦略の核心をなし、かつ、それが二次産業間よりも多業種三次産業と二次産業間(その適例は3-2)、また、ITU国際標準化と直接関連して、総務省所管の日本ITUの戦略に結びつくところに、重大な知財戦略的意義が見出せる。

  また、「マルチ決済システムの高い拡張性」という側面から見ると、構築したシステムの波及が、業際的にも、地理的にも、将来にわたって大きく見込まれる。

3.ドコモと提携企業が本月発表した新ビジネスモデル例:

3-1 三井住友カ-ドに「iD」を標準搭載(2006-9-7発表)

  ドコモと三井住友カ-ドは、ドコモのサイフケイタイでのみ利用可能であった非接触ICクレジット決済「iD」を、2007年1月からクレッジット一体型カ-ド(VISAMasterCardiDが1枚で利用できるクレッジットカ-ド)に対応させる。

3-2  JR東日本・ららぽ-と・NTTデ-タ・ドコモのマルチ決済システム(2006-9-7発表)

  JR東日本とドコモが提供する共通インフラを、ららぽ-と各店舗で使用可能とする決済システムであって、Suika電子マネ-とケイタイクレジットの両決済サ-ビスを利用できることになる。

4.        所見

4-1 国の知財戦略の柱であるコンテンツ振興において、ドコモFOMAHigh Speed Downlink Accessは、最大3Mbps(将来的には14Mbps)(従来の約10倍)高速のダウンロ-ドを可能とし、コンテンツの高度化と流通の拡大(入力音楽のスピ-カ出力等)を起動するところ広汎と考える。

4-2 さらに従来のmovaを含めて、小売商業を例にとっても、ケイタイの展示機能が三次元随意になり、また、購入者の映像にファッションの選択肢を随意にサプライできるなど、店頭販売のメリットを超える便益性があり、更には、店頭でケイタイを活用する工夫もあって、流通におけるケイタイの機能は、関連知財(ビジネス方法特許やブランドを含む)の開発と共に、顕著な拡大性を発揮すると考える。

2006年9月14日 (木)

「知財推進計画の変容」と「知財専門家の変容」

知財推進計画07で変容できるか?

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.知財推進計画06までの「成果」は、「制度と機構」:

   内閣知財戦略本部の知財推進計画06には、「成果編」として、「多岐にわたる成果が得られた」としているが、それは、「知的財産基本法の施行後に様々な制度改革が進展した」結果であって、制度が改正され機構が改変された件数は多数に上るものの、改正・改変による実質的成果は、ほとんど説明されていない。若干説明されていても、その実質的比重は極めて軽微である。

  例えば、「成果編」の真っ先に、「43の大学で知財本部が設置された」とあるが、全国500を超える大学の8.3%に過ぎない。また、「大学の特許取得件数がこの3年間に2.5倍に増えた」とあるが、2005年に至っても、国内全大学の特許登録件数は301件であって、同年の全国計122,944件(出願は427,078件)の0.24%に過ぎず、「元数が極微の倍率」を示したに過ぎない。

  知財専門家の動向も、特許弁護士の母体である米国弁護士数100万人(知財推進計画05による)の50分の1に過ぎないわが国弁護士数は、著増の兆しを見せない。

また、SANARI PATENTの推計と解析によれば、本年7月末の弁理士6782名のうち、都心4区(千代田・中央・港・新宿)に3292名が分布し、全国数の48.5%を占めている。2005年4月末には、全国6168名のうち2987名が都心4区に所在していたから、当時の48.4%から集中率は微増し、この15ケ月間の全国増加数614名の49,7%が都心4区に分布したことになる。

SANARI PATENTは、「弁理士の活動は、サイバースペ-スを活用して、サイバーパワ-として全国的・国際的に総合力を発揮しつつ展開されることが、長期的には理想的である」と考えてきたから、この傾向をむしろ評価する。しかし、当面、地方の中小企業の需要を満たすことはできていない。その原因は主として、国の中小企業対策予算が、中小企業を支援する知財専門家の養成費と活動費にほとんど投入されていないことにあると、SANARI PATENTは考える。

2.知財推進計画07をどうするか:

   今や、国政全般に新たな展開が期待され、米国では知財戦略新5ケ年計画案が公表されて、特許・商標ともに出願の累年著増を想定しつつ電子化の徹底等を計画している状況のもとで、知財推進計画07が従来の知財推進計画の補完的な計画であることから、踏み出すことが望まれる。

各省が公表した平成19年度新政策に即応することは、最小限度の要件である。すなわち、これを例示すれば:

2-1        経済産業省

2-1-1        成長の起爆剤となる技術革新等イノベ-ションの加速化

2-1-2        アジア等、海外の活力(ダイナミズム)の取り込み

2-1-3        ITとサ-ビス産業の革新

2-1-4        地域・中小企業の活性化

2-1-5        「人材立国」の実現、安全・安心社会の構築など経済・社会基盤の整備

2-1-6        資源・エネルギ-政策の戦略的展開

2-2               特許庁

2-2-1        世界最高水準の迅速・的確な特許審査の実現

2-2-2        グロ-バルな権利取得の促進と模倣品対策の強化

2-2-3        地域・中小企業の知的財産活用に対する支援

2-2-4        知的創造サイクル活性化のための環境整備

2-3               中小企業庁

2-3-1 地域中小企業の活性化(地域を応援)(「地域資源活用企業化プログラム」の創設、まちづくりの推進と商店街の振興)

2-3-2 中小企業の発展・再生の支援(企業を応援)(ものづくり中小企業の高度化支援、政策金融改革の的確な実現と中小企業金融の充実・円滑化、中小企業再生の推進・事業承継の支援)

2-3-3 起業・再起業促進や中小企業で働く人材の支援(人を応援)(起業・再起業の支援、小規模・零細事業者に対する支援、女性・OB人材・若者を活かした事業展開の支援)

3.所見

3-1  上記2-3-3の「OB人材」の活用ひとつを採って見ても、審査官・弁護士・弁理士等の故郷引退人材を、サイバースペ-スを活用して知財戦略に参加させることは容易である。米国や韓国は、インタ-ネットによる審査官の在宅勤務を拡充しようとしている。

3-2 「制度と機構」の整備から「実施へ」という転換を唱導する内閣知財戦略本部委員もいるが、「制度と機構」の基本的変革は、むしろこれからである。

3-3 一方、「実施」への転換も急務であり、そのためには、各省庁に設ける知財戦略本部(始動した農林水産省知財戦略本部の活動が極めて実質的)を総合調整する機能を内閣知財戦略本部が発揮すべきであると考える。

3-4  比喩的に換言すれば、わが国知財戦略の道具と装置の整備は従来システムの補正をもって進んだが、これによる製品の本格的生産はこれからということである。 知財戦略の「道具と装置の基本的変革」と「各分野の製品製造の総合調整」の二つを、内閣知財戦略本部が所掌し、各省のが知財戦略本部が各知財戦略の成果品を本格的に生産する「実施体制」を、知財推進計画07で革新的に顕示されたいということである。

2006年9月13日 (水)

大塚製薬・会社側が勝訴

職務発明対価請求・東京地裁判決9月8日

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        職務発明対価制度の多様性

  わが国特許法の職務発明対価制度は、先般の改正においても同法第35条として残存し、米国特許法が職務発明に関する条文を設けず当事者間契約に委ねているのと、著しい対照を示し続けている。わが国産業界は、おおむね米国型を妥当とし、改正を期待しているとSANARI PATENTは推測しているが、その帰趨は現在なお不透明である。

  中国特許法では職務発明は会社帰属、欧州は多様な定めをしているが、わが国においても、職務著作の著作権は、著作権法上、会社帰属とされ、創作権内部で整合を欠いたままである。

2.        今次・大塚製薬職務発明対価事件

2-1         平成17年(ワ)第14399号・職務発明対価請求事件の東京地裁判決(2006-9-8)は、原告甲(大塚製薬の元従業員・部長級)の大塚製薬に対する職務発明対価請求(1億円+α) を棄却した。

2-2         甲の請求理由:

   大塚製薬が有していた米国特許権「テトラゾリルアルコキシカルボスボスチリル誘導体およびそれを含有する医薬成分」(本件特許権)(SANARI PATENT 注:高血圧症や狭心症の原因の一つとされる血小板凝固の拮抗剤等として用いられる)に係る発明について、甲は、大塚製薬在職中に発明者の一人であったから、その対価を請求する。

2-3         大塚製薬の主張:

2-3-1        外国の特許を受ける権利については、特許法35条3項の適用はない。

2-3-2        甲は本件特許権の共同発明者ではない。

2-3-3        大塚製薬の発明考案取扱規定に該当しない。

3.        東京地裁の判断(要旨)

3-1        争点2-3-1について:

   特許を受ける権利の承継については、「承継の効力発生要件・対抗要件等の法律関係」と「承継合意の成立・効力、対価等の法律関係」とは、法的性質が同一でないから、その準拠法についても、前者は各国特許法、後者は契約の国際規律に準拠すべきである。

   後者については、日本法への準拠について当事者間に異議がないので、前者、すなわち、争点2-3-1について以下に判断する。

   わが国特許法には、外国の特許を受ける権利の承継に基づく対価請求権の規定がないのみならず、外国の特許発明や外国の特許権に関する規定も全くない。また、特許法35条と同様に、33条・34条もわが国の特許を受ける権利のみを対象とする。

   さらに、特許権の属地主義原則から、「特許権に対して無償の法定通常実施権を設定すること」は、わが国の特許権についてのみなし得ることであり、外国の「特許を受ける権利」「特許権」を含まない。

3-2        争点2-3-2について:

   発明者とは、特許請求の範囲に基づいて定められた技術的思想の創作行為に現実に加担した者をいうから、補助・助言・資金提供・命令等の行為をした者を含まない。従って、事実に即し、甲は発明者でないと判断する。

3-3        争点2-3-3については、上記により、判断を要しない。

4.        所見

  知的財産推進計画においては、職務発明については再考が予定されていたと解するので、特許制度の国際調和や、わが国技術者の地位の米国並み接近にもかんがみ、検討の再開を要望する。(内閣知財戦略本部に送信済み)。

2006年9月12日 (火)

JST(独立行政法人 科学技術振興機構)のe-ラ-ニング

知財専門家の質的量的な向上と拡大に寄与

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        JSTの現況

1-1        JST(Japan Science and Technology Agency)は、科学技術庁所管の独立行政法人であるが、社会技術研究開発センタ-・研究開発戦略センタ-・戦略的創造事業本部・産学連携事業本部・情報事業本部・中国総合研究センタ-・日本科学未来館・研究成果活用プラザおよびJSTサテライトという多角的な機構を擁し、本年度国庫支出金が1027億8千万円に達することに徴しても、わが国知財戦略展開のため、知財専門家が密着して提携すべき機構であることは明白である。

1-2        JSTの本年度収入総額は、上記1-1の国家予算に加えて、業務収入1043500万円等が予定され、総額11339800万円を計上し、本年度支出としては、新技術の創出に資する研究588億3千万円、新技術の企業化開発210億800万円、科学技術理解増進75億9100万円、科学技術情報の流通促進128億4400万円等で、この支出項目からも、知財専門家の職務と密接不可分な機構であることが認識される。

1-3        職員471名であるが、研究者等を約3000名擁している。

2.        JSTe-ラ-ニング

2-1 SANARI PATENTも積極的に参加しているJSTe-ラ-ニングは、現在、ライフサイエンス、情報通信、電気電子、機械、ナノテクノロジ-材料、化学、映像型、社会基盤、安全、総合技術監理、技術者倫理、および、科学技術史の課目をもって構成されている。

2-2 各課目ともバ-ジョンアップ励行されて、先端分野のe-ラ-ニングとして最適であるが、課目として最近追加されたのは、「映像型」である。これはSANARI PATENTの推測によれば、今年度施行の「ものづくり技術振興法」に対応している。

「映像型」課目の目的は、「強化層形成を目的とした金属表面処理について基本的な知識を修得すること」である。内容は、表面処理の必要性とその選び方、自動車部品への浸炭の適用、切削工具への窒化チタニュ-ム皮膜の適用、および、新しい皮膜の研究開発である。 

3.        「情報通信」のJSTe-ラ-ニング実例

3-1 最近バ-ジョンアップされた「コンピュ-タア-キテクチャ」・「デ-タ構造とアルゴリズム」、および従来の、「移動通信の基本技術」・「ソフトウェア工学」・「情報セキュルティ」・「情報ネットワ-ク」・「情報管理」・「情報ネットワ-クと社会」・「ナノテクノロジ-と情報通信」をもって構成されている。

3-2 テストの一例として、「命令セットに関する説明として誤りがあるものを一つ選べ」という問には、選択肢として、「機械語命令には、命令コ-ドとオペランド指定部が含まれる」「命令は、固定長命令と可変長命令に分類できる」「オペランド指定部には、レジスタや主記憶に格納された変数や定数といった、命令で使用するデ-タを指定する」「オペランド指定部のアドレス数が多いほど、プロセッサのロジックが簡潔になる」の4項目が示され、「正解」すなわち「誤りがあるもの」は4番目の選択肢であるが、「オペランド指定部のアドレス数が少ないほど、プロセッサのロジックが簡潔になる」理由が、学修者回答に対する正否判定において示される。

4.        JSTにおける知財制度コ-スの新設案

  JSTe-ラ-ニングに、知財制度課目が加える案も出ているが、知財専門家全てが、その内容とバ-ジョンアップに関心をもつような課目であることが望ましい。

   内閣知財戦略本部の知財専門家12万人計画においても、弁理士はその1割程度に過ぎないとSANARI PATENTは推測する。 従って、少なくともこの12万人全てが、JSTe-ラ-ニングを、「技術知識」として修得することが、知財専門家とその志望者の質向上と量拡大の能率から、必須と考える。

   発明協会等においても、知財専門家の新資格制度を考案し、資格試験を実施する構想があると聴くが、年間千人程度の優秀な合格者が確保できれば、弁理士の立場からは、優秀な特許事務所員の確保ができて、出願処理件数の増加を可能とする一方、特許の本人出願率(現在約15%)、商標の本人登録率(現在約35%)を発明者に対して助言する機能をこれらの合格者が地方各地で発揮し、弁理士急増の要求を緩和し得る結果も予想されると、SANARI PATENTは考える。

2006年9月11日 (月)

旭化成「知財報告書06」(1157KB)の国際知財戦略

Growth Action2010」の事業ポ-トフォリオを展開

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 

1.        内閣知財戦略本部の知財推進計画における知財報告書:

1-1        知財推進計画06は、「知財に関する情報開示による企業価値の向上を促進する」という項目を掲げ、「知財報告書の作成企業が100社を超えるよう普及啓発を行う。その際、知財報告書を年次報告書と共に継続的に発行すること、様々なメディアや電子媒体を活用し、広く一般に利用し易く提供すること、投資家向けの説明会を開催すること等、効果的な情報開示の方法について企業に対する啓発を行う」ことを計画している。

1-2        上記1-1知財報告書計画が知財推進計画に初登場した2004年度に、既に旭化成は、知財報告書04版(2004-3月期)を開示しているが、04版の516KB、次いで05版の792KBに比べて、今次06版(2006・3月期)は1157KBと、ボリュ-ムを拡大すると共に、内容の精密・高度化により、積極的な企業戦略とその成果を示した。

2.        旭化成知財報告書20063月期の要注目点(要旨):

2-1        蛭田旭化成社長のメッセ-ジ

2-1-1         世界的に知財経営への関心が益々高まり、特に東南アジア戦略の重要性・国際競争の激化・情報のボ-ダレス化・産業構造の知価産業型へのシフトなど、旭化成グル-プの事業環境は大きく変動している。

2-1-2         これに対処して、2006年度を初年度とする「Growth Action-2010」を策定し、高成長追求事業の中核として、高機能ケミカル、エレクトロケミカル、医療・電子部品のグロ-バルな展開等を目指し、知財網の戦略的構築を遂行してゆく。

2-2                保有特許の状況

2-2-1         国内特許3600件(2005-12末現在)を保有するが、実施中が1574件(44%)で、前期の1479件(40%)に比し、「実施中」の比率が増加した。

2-2-2         外国特許は、前期4077件が今期4082件に増加したが、アジアの比率が28.7%から33.9%に増加している(SANARI PATENTにて解析))

2-2-3         最近3年間の「国家褒章等、発明の公的受賞」としては、「リチウムイオン二次電池の開発(わが国のほとんど全部の電池メ-カ-とライセンス契約)、高感度薄膜ホ-ル素子技術の開発(この特許を用いたホ-ル素子事業の世界シェアは70%以上)、シリカタイヤ用官能基付加油展SBRの開発(省燃費・耐磨耗性能に優れ、国際競争力に期待)等、23件(SANARI PATENTにて合算)に及ぶ。

2-3                ライセンス活動の方策

知財の確保・蓄積は、原則として自社事業実施のために行うが、戦略上ライセンス活動を推進すべしと判断する場合には、積極的にこれを実施している。例えば、

2-3-1         旭化成ファ-マは、ライセンスアウト活動として、創薬・探索研究により見出され特許出願を済ませた薬理活性物質の有効性・安全性を臨床試験により短期間中に証明し、新規医薬品として全世界に販売するため、いち早くライセンスアウトを目指す活動を行っている。なお、薬理活性物質に関するライセンスイン活動も行っている。

2-3-2         旭化成ケミカルズは、環境有害物質を含まない樹脂として、ノンホスゲン法ポリカ-ボネ-ト樹脂製造技術について、ロシア、韓国を始め、グロ-バルにライセンス活動を行っている。

2-3-3         旭化成のイオン交換膜法食塩水電解システム(水銀・アスベスト等を用いない)の技術ライセンス先は17国に及び、その生産能力の累積値は世界のトップシェアを占めている。

2-3-4         旭化成ケミカルズのシクロヘキサノ-ル(ナイロン66等の原料)製造技術を、中国等の企業にライセンスする。

2-4                旭化成グル-プのセグメント別知財戦略

2-4-1         ケミカルズセグメント:

事業戦略・研究開発戦略・知財戦略の三位一体により、

2-4-1-1           触媒技術・有機合成技術における高収率性とコスト競争力により、アクリロニトリル(世界第2位の製造能力)、スチレンモノマ-(世界第1位の製造能力)等について優位性を更に高める。

2-4-1-2           ポリフェニレネ-テル樹脂・ポリオキシメチレン樹脂(世界第2位の生産能力)、ポリカ-ボネート樹脂(ホスゲンを使わない)の評価を更に高める。

2-4-1-3           水処理ろ過膜、リチウムイオン二次電池用セパレ-タ-、イオン交換膜、微結晶セルロ-ズ、感光樹脂等における世界的優位を更に高める。

2-4-2      ホームズセグメント:

2-4-2-1           コア技術を重点としてシェルタ-技術241件、住ソフト技術122件、シミュレ-ション技術41件の特許出願のほか、意匠216件を登録出願し、中古住宅流通についてはビジネスモデル特許の出願を進めている。

2-4-2-2           二世帯住宅等の新たなニ-ズに応じて、諸技術を結集する。

2-4-3      ファ-マセグメント:

2-4-3-1           新規構造の医薬品候補物質を見出し、積極的に海外にも導出することを基本方針とする。整形領域、中枢神経領域、泌尿器領域等に重点をおいている。

2-4-3-2           旭化成ファ-マが、旭化成メディカル(膜・吸着材による分離技術をコア技術とする)、および、旭化成アイミ-(コンタクトレンズ)を100%子会社としている。

2-4-4      繊維セグメント:

2-4-4-1           PTT繊維に450件、ポリケトン繊維について、80件の特許を出願中である。

2-4-4-2           保有商標数は、国内2655件、外国815件である。

2-4-5      エレクトロニクスセグメント:

2-4-5-1 電子デバイス(LSI・半導体センサ-)と電子材料(半導体材料・基板材料・ガラスクロス・プラスチック光ファイバ-)の両領域について独自技術とノウハウを結晶させてゆく。

2-4-5-2 半導体材料の技術では、感光性ポリイミドの組成開発技術をコアとし、基板材料の技術では、感光性レジストの組成開発技術、および、コ-ティング技術をコアとしている。

2-4-6 建材セグメント

   コンクリ-ト系建材では、軽量気泡コンクリ-トパネル、基礎杭では、コンクリ-ト杭・鋼管杭、断熱材では、フェノール樹脂発泡断熱材の成型・施工技術をコア技術としているが、更に、高機能建材(繊維強化セメント系屋根材等)・海洋資材等の高付加価値分野を開発し、特許出願を進めている。

2-4-6      ライフ・リビングセグメント

2-4-6-1 ソリュ-ション提供型の高付加価値製品を創出し、高収益事業の構造を形成する。例えば、新規機能性フィルム、包装システム、易開封技術、生分解ポリマ-。なお、新緩衝設計技術が実用段階に入った。

2-4-6-2 生産現場に密着して培ってきたノウハウ・経験を活かすと共に、機能製品エンジニアリング、画像センシング、シミュレ-ション・ネットワ-ク技術の分野において、戦略的特許網を構築する。

3.        所見

  全世界投資家とのIRについては、旭化成web-siteも、日米両国語により充実しており、例えば、旭化成メディカルのweb-siteは、個人投資家の医学知識涵養のためにも、親しみ深い。これら各セグメントの旭化成web-siteでは、バ-ジョンアップも励行され、平素親しむことが、個人投資家にとっても徳用である。

2006年9月10日 (日)

日本知財学会の社団法人化(8-22文科省認可)

マイクロソフト系団体等の協賛研究の発表

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        社団法人化の意義

1-1        学会や親睦集団は、任意団体(ないし「法人格なき社団」)が多く、財務等の権利義務帰属が不明確(代表者個人名で処理など)であり、従って、公的・半公的助成の対象になり難い場合も多い。

1-2        従来、一般的に言って、目的重複しつつ濫立された官製社団法人に対する所管官庁の監督が必ずしも適切に行われなかったり、天下りや、複数官庁共管に伴う弊害が発生する場合もあったが、学会については、その自主的運営が適切ならば、社団法人化のメリットは大きいと考える。すなわち、定款認可基準が統一されているから、役員の責任は明確に規定されると共に、対文科省の報告義務が、社会的信用をいっそう高め得ると考える。

1-3        特にこのたび社団法人化した日本知財学会は、文部科学省の専管法人として、「学」の自由を基調とすると共に、特許庁(経済産業省)、総務省(電気通信の国際標準化)、文化庁(文部科学省・著作権)、農林水産省(種苗法・畜産遺伝子)、厚生労働省(食品・薬品)等、全省庁・全分野にわたる知財の学会として、総合性・中立性を発揮できると期待される。

2.        内閣知財戦略本部の学会計画

    知財推進計画06には、「学会を活用すると共に、知財に関する研究を支援する」という項目を掲げ、「日本知財学会などの関連する学会等への審査官や弁理士等の参加を奨励すること」、「2006年度には、自然科学系・経営系等の学会が、知財に関する分科会等を設け、学会の知財に関する理解を深めること」を計画している。

3.        日本知財学会の最近の実績

3-1        本年6月の年次学術研究発表会は、「未来志向の知財学:技術と経営と政策の、『はざま』を超えて」と副題し、早稲田大学大久保キャンバスで開催された。

3-2        SANARI PATENTの佐成重範弁理士は、上記副題に即応して、「知財制度の内部撞着」(Inner Contradictions of IP Systems)と題して講演し、「知財制度の形式的整備にもかかわらず、諸般の内部撞着(具体例を講演中に列挙)が発生するのは、『知財権者の独占利益の確保』と『社会性・公益性の確保』の両立に、撞着の要因を孕むと共に、知財構成要件の多様な設定方式(法定のほか、審査基準による「産業上利用可能性」の拡大など)、新規性・進歩性の基準改正、有用性と進歩性など特許性の国際的な表現の差異を始め、多様な要因と内外環境の変動により発生する」と指摘し、「合理的な学理と政策的妥協の双方を機能させつつ当面の課題を乗り切りつつ、その経験を、制度改正におけるキメ細かい配慮に結びつけなければならない」と結んだ。

3-3        協賛団体も多様であったが、例えばマイクロソフト系団体協賛セッションにおいては、隅蔵康一・日本知財学会理事・政策研究大学院大学助教授が、「遺伝子関連特許の保護と流通」と題して講演し、「最近になって、遺伝子関連特許の活用に関する仕組みづくりについて、国内外で新たな進展があった」として、次のような動きを報告し、今後の課題について講演した、

3-3-1 OECD2005-12会合において、遺伝子関連分野におけるアンチコモンズの障害を解消するための特許管理手法が検討された。

3-3-2 OECD2006-2理事会において、「遺伝子関連発明のライセンスガイドライン」が採択された。

3-3-3 総合科学技術会議・知財戦略専門調査会の「大学等における政府資金を原資とする研究開発から生じた知財権についての研究ライセンスに関する指針」がまとめられた(2006-3)。

3-4 学理と実務を結ぶ日本知財学会にふさわしい研究発表の例としては、筑波大学大学院の星野 豊氏の「信託法理論から見た知財信託の特徴と問題点」を挙げることができる。同氏が指摘するように、「知財信託の特徴は、知財管理の合理化と適正化を図る手段である」と認識されながら、一方において、知財専門家の間にも、「弁理士専権業務を侵すのではないか」といった、表現上は知財法秩序擁護ながら、士業者擁護目的に受け取られかねない発言もあった。

    先ず信託法理を十分に理解することが必要であり、上記講演は、この意味で有益である。

4.        所見

    上記年次発表会の要約集は518ペ-ジに360名(延べ員数)の講演要旨を掲載し、高密度に先端的な内容を圧縮している。学会・実業界・知財専門家の幅広い参加が、内閣知財戦略本部の「融合型人材」輩出計画にも、寄与するところ多大と考える。

2006年9月 9日 (土)

住友石炭が勝訴・知財損害賠償判決8-31

特許無効と権利の濫用・特許権不争条項の有無

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        親近会社間の知財訴訟の発端:

1-1        平成18年(ワ)第11210号損害賠償請求事件の東京地裁判決(2006-8-31)は、親密な契約関係にある会社間の知財訴訟として、知財法律関係の多様性を示す一例と考える。

1-2        原告イ-・ビ-・ル-ムと被告住友石炭は、かねてより両社間の取引基本契約前文に、「原告被告間における請負又は物品の売買取引に関し、相互の利益を尊重し、かつ信義誠実の原則に従った契約の履行を確保するため、この取引基本契約を締結する」旨を定めている(1994-1-14契約)。

1-3        イ-・ビ-・ル-ムは、後記2-3-1の補正を経て、「放電焼結装置」特許権(特許番号第2640694号・1997-5-2登録)を取得したので、1-2の契約に基づき、住友石炭に対して本件特許権の実施権設定を申し込んだ。

1-4        一方、住友石炭は、本件特許に対し異議申立し(1998-2-13)、特許庁は容易想到性等の理由をもって本件特許の取消を決定し(2001-7-4)、この決定は確定した(2003-10-9)

2.        住友石炭に対し損害金15億円の一部を請求:

2-1        イ-・ビ-・ル-ムの本訴請求は、「本件特許について取消理由がないにも拘わらず、特許異議を申立てた住友石炭の行為は、権利の濫用であり、不法行為が成立する」という理由(2-3)に基づく。

2-2        そしてイ-・ビ-・ル-ムは、「住友石炭が、本件特許権の範囲に含まれる放電プラズマ焼結機の生産販売により少なくとも15億円の利益を挙げることにより、イ-・ビ-・ル-ムに同額の損害を及ぼした」として、その一部等の支払いを求めた。

2-3        上記2-1の、「本件特許について取消理由がない」とするイ-・ビ-・ル-ムの主張の理由は、次の通りである。

2-3-1 「本件取消決定の理由は、1995-3-14付の補正は、明細書または図面の要旨を変更するものであり、本件特許の出願日は1005-3-14とみなされるから、この日前の公知刊行物に記載された発明により想到容易である、というものである」。

2-3-2 「しかし、補正前の明細書に明らかに示唆するものと解することができる記載の補正は、要旨変更に該当しない(1964-6-2東京高裁判決)。 従って、1995-3-14付補正は要旨変更に該当せず、本件特許取消の理由は存在しないから、本件異議申立は、権利の濫用として許されない」。

3.        東京地裁の判断(要旨):

3-1        平成6年改正特許法は、申立期間内であれば、利害関係の有無を問わず、何人であっても特許異議を申立できるとした。かつ、職権で証拠調べできること、特許権者・異議申立人が申立てない理由についても審理できると規定したから、当事者提出の主張・証拠に拘束されず特許庁の判断がなされた。

3-2        住友石炭とイ-・ビ-・ル-ムが1-2の基本契約の条項を定めていても、この契約において、特許権の不争条項を特に設けたといった事情もないから、異議申立権を濫用したとはいえない。

3-3        よって本件異議申立が権利の濫用として、イ-・ビ-・ル-ムに対する不法行為であるとのイ-・ビ-・ル-ムの主張は理由がないから、他の点について判断するまでもなく、その請求を棄却する。

4.        所見:

    わが国特許法における異議申立制度への評価が変遷し、構造的改革を経てきたこと、さらには、米国特許法改正については異議申立制度の新設が立案されるなど国際調和上の制度課題でもあることを考えると、制度変遷の「はざま」に置かれた当事者の立場にも、適切な配慮が望まれるが、心情と法理は混同できないことも、認めなければならない。

2006年9月 8日 (金)

京セラの静電潜像現像用トナ-特許

特許取消決定取消請求を知財高裁は棄却8-31

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.経済的背景と主要論点

   電子写真装置の小型化・軽量化がこの分野の継続的課題とされてきた産業的背景のもとで、京セラの本件発明内容は、次項2のトナ-組成と画像定着方式であるが、これに対する特許付与について、異議申立に対する特許庁の決定と、この決定に対する今次知財高裁判決は、この特許付与を無効とした。

   主要な論点は、従来技術と本件発明の異同点に関する見解の相違、従来技術からの想到容易性の有無の判断、本件発明の産業的効果の評価などである。

2.本件発明(要旨)

  下記2-1の成分と工程で製造され、2-2の画像定着方式に使用されることを特徴とする静電潜像現像用トナ-。

2-1         軟化点が120を超え140以内となるポリエステル系樹脂を主バインダ-成分とし、融点が90~110のフィシャ-トロピシュワックス1~5重量%と、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等の低分子量ポリオレフィンとからなるワックスとを配合したト-ナ成分を溶融混練した後、粉砕・分級した粉砕トナ-である。

2-2         この粉砕トナ-により形成したトナ-像を、クリ-ナ-パッドを付けない加熱定着ロ-ラに接触させて紙に定着する方式に使用する。 

3.経緯概要

3-1 京セラは、「静電潜像現像用トナ-」特許(2003-2-14設定登録。特許第3398196号)の特許権者である。

3-2 この特許に対し異議申立があり、特許庁は、「請求項1に係る特許(前項2)を取消す」と決定した(2005-7-8)

3-3 京セラは、この特許取消決定取消を知財高裁に請求したが、知財高裁は、平成17(行ケ)10665号・特許取消決定取消請求事件判決(2006-8-31)をもって京セラの請求を棄却した。

4.争点と知財高裁の判断(抜粋)

4-1 引用発明の認定について

   京セラは、「引用発明では離型剤として、本件発明に係る熱可塑性樹脂よりも融点が低いワックスを一義的に用いていない」と主張するが、引用発明の実施例等に徴して、引用発明は「離型剤として、熱可塑性樹脂よりも融点が低いワックスを含有すること」が一義的に明確である。

4-2 京セラは、「引用発明に、加熱定着装置の定着温度等に応じて、軟化点が

  90℃~150℃のポリエステル樹脂を適宜使用できることが示されていることは認めるが、軟化点が『120℃を超え140℃以内』に限定されていないから、特許庁の無効決定が、『この相違点は実質的な差異ではない』としたのは誤りである」と主張するが、一般的に、数値範囲を最適化または好適化することは、当業者が通常行うべきことであるから、従来技術に対して数値限定を加えることにより、特許を受けようとする発明が進歩性を有するというためには、その数値範囲の選択が当業者にとって想到容易といえないことが必要であり、これを基礎付ける事情として、その数値限定の臨界的意義が明細書に記載され、技術的意義が明細書に明確に記述されていることを要すると解すべきである。

4-3 京セラは、「軟化点が120℃を超え140℃以内であるポリエステル樹脂バインダ-に使用するワックスとして、融点がバインダ-の軟化点より低い90~110℃のフィシャ-トロピシュワックスを用いることは当業者が容易に想到できるとした特許庁無効決定の判断は誤りである」と主張するが、引用発明にはこれらの事項が開示されていると解される。また、本件発明においてフィシャ-トロピシュワックスの含有量を1~5重量%の範囲に設定したことにより、本件発明が予想外の効果を奏したとも認められない。

4-4 京セラは、「特許庁の無効決定は、加熱定着ローラに補助的な装置を設けないようにするという大きな課題が、本件発明により始めて解決されたという産業的意義を無視している」と主張するが、本件出願前から、電子写真装置の小型化・軽量化は求められ、この周知の課題について本件発明の、「トナ-により形成したトナ-像を、クリ-ナ-パッドを付けない加熱定着ロ-ラに接触させて紙に定着する方式」は、当業者にとっては自明の使用方法に過ぎない。

5.所見

   数値限定による請求項について、必要記載事項を明確に示したことは、この判決の一つの特徴であるが、その内容は、従来から知財専門家が説示してきたところを厳格化したものである。これらの事項を、審査基準等で明示することが適切である。

2006年9月 7日 (木)

「メモリ制御装置」特許無効審決の取消請求

知財高裁が請求認容(特許有効)判決(8-31)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        無効でなく有効である理由

 原告エルジ-セミコンの請求を認容した知財高裁の判断理由は、次の2点である。

1-1        特許庁の審決は、従来技術と本件発明の相違点を誤認している。

1-2        特許庁の審決は、本件発明の非容易想到性について、容易想到と誤認している。

2.        事案の概要:平成17年(行ケ)第10677号・審決取消請求事件

2-1        エルジ-セミコンは、「メモリ制御装置」特許出願(2001-9-6)について、拒絶査定(2003-2-20)を受けたので、これを不服として審判を請求した(2003-11-4)

2-2        特許庁は、「本件審判の請求は成立たない」と審決した(2005-4-25)。

2-3        エルジ-セミコンは知財高裁に審決の取消を請求し、知財高裁は、「審決を取消す」と判決した(2006-8-31)

3.        本願発明の要旨

次の特徴等を有する「メモリ制御装置」

3-1  システムバスにより電気的に結合されたリクエスト側・応答側の各エ-ジェントを有し、デ-タの記憶・検索のための所定の構造をもつデ-タ処理システムにおいて使用される。

3-2  所定のリクエスト検出手段を有する。

3-3  リクエスト検出手段に応答して読み出し・書き込みアクセスを行い、所定の信号を含む機構の送出手段を有する。

3-4  メモリへのアクセス完了を検出し、3-3の送出手段の動作を停止させる手段を有する。

3-5  所定のペ-ジモ-ド形式のメモリアクセスが、非順次のコラムアドレスを含めて、転送可能な構成である。

4.        争点と、知財高裁の判断(要旨)

4-1  原告エルジ-セミコンは、本願発明と引用発明とは、アクセス終了の構成が全く異なり、引用発明からの想到は容易でないと主張する。特許庁は、引用発明のうちに、送出動作の開始制御だけでなく、停止制御も示唆されているので、想到容易と主張する。

  知財高裁は、引用発明の「送出の終了」は、特定のニブルモ-ドでのアクセスの一応の終了を意味するもので、メモリに対するアクセスの完了を意味しない、すなわち、特許庁の審判は、本願発明と引用の相違点を誤認しているので、被告特許庁の、この点に関する主張は採用できない、と判断した。

4-2 エルジ-セミコンは、「引用発明のニブルモ-ドと通常のペ-ジモ-ドとは、機能・構成等において異なり、単に高速アクセス可能の共通性のみで、両者の置換が想到容易とはいえない」と主張する。被告特許庁は、想到容易と主張するが、知財高裁は、「引用発明に接した当業者が、そこで採用されている特定のニブルモ-ドアクセス方式をペ-ジモ-ドアクセス方式に変更して本願発明の構成に至ることは、想到容易とはいえない」、と判断した。

5.        所見

   想到容易判断と非想到容易判断と、特許権の有効無効が分岐するところであるが、説得力ある説明をいずれがなし得ているか、評価すべきである。

訴訟当事者にとっては、訴訟力の優劣が決め手になる場合と、客観的に正当な結論が導かれる場合と、双方の結果である場合とが、考えられようが、今後はそれらが従来にも増して、国際的な舞台で争われることになる。

2006年9月 6日 (水)

長瀬産業等の特許無効審決の取消請求を棄却

「現像原液の希釈装置」知財高裁判決(8-31)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        特許無効審決の実績

 特許無効審判の請求件数は、2005年に343件、請求成立が211件、請求不成立が114件、取下・放棄が54件であった(時系列を異にし、内数ではない)。

 標記事件は、特許無効審判請求とその請求成立とが、上記2005年の各件数に算入されており、2006年に、知財高裁段階で無効が維持された事案である。

2.        本件の経緯

2-1        原告・長瀬産業等は、「現像原液の希釈装置」特許(2090366)の特許権者である。被告・ケミテックは、本件特許を無効とする審判を請求した(2005-3-31)

2-2        特許庁はケミテックの請求を認容し、従来技術から想到容易として、本件特許を無効とする審決をした(2005-10-31)

2-3        長瀬産業等は、この無効審決の取消を知財高裁に請求し、知財高裁は、平成17(行ケ)10835号・審決取消請求事件判決(2006-8-31)により、長瀬産業等の請求を棄却した。

3.        本件明細書の特許請求範囲(要旨)

3-1        次の特徴等を有する現像原液の希釈装置

3-1-1        ホトレジストを用いて微細加工を行う加工用設備に管路を介して所望濃度の現像液を送給するための現像原液の希釈装置である。

3-1-2        アルカリ系現像原液と純水との混合手段、この混合液の強制攪拌槽、攪拌混合液の導電率の連続的測定手段、測定導電率に温度補償し基準温度における導電率を演算する温度補償手段、温度補償装置手段からの出力信号によるアルカリ現像液・純水流量の制御手段、および、混合液の貯留槽を備える。

3-2               前記3-1の現像原液の希釈装置であって、混合手段がラインミキサである装置。

3-3               前記3-1の現像原液の希釈装置であって、攪拌槽に外筒と内筒を備え、混合液を両筒間に強制循環させることを特徴とする現像原液の希釈装置

3-4               前記3-1の現像原液の希釈装置であって、導電率測定手段に、測定液を定温に保つ温度調節手段の付設を特徴とする現像原液の希釈装置

4.        知財高裁の判断(抜粋)

4-1        長瀬産業等は、「本件発明に用いる現像液は、小数点以下3桁の濃度管理を要求される」と主張するが、明細書等には、精度に関する記載がない。

4-2        また、4-1の長瀬産業等の主張は、根拠の記述に欠けると見られる。

4-3        現像液の溶媒としての水に純水を用いることは、当業者が当然考慮すべき事項である。

4-4        本件出願前、「添加剤の影響により、導電率ではホトレジスト現像液の濃度の精確な測定はできない」と認識されていたことを裏付ける証拠は見出せない。

4-5        長瀬産業等は、「本件発明は、当業者の予想に反する実験結果の確認による」と主張するが、当業者の予測に反する新たな知見ということはできない。

4-6        本件発明による特別の効果は、認められない。

5.        所見

  「当業者」という別人格が実在するのではなく、特許審査の審査官、審決の審判官、裁判の裁判官が、「当業者」としての判断を行う、という構造が特許法の基礎をなしている。「当業者」として判断する実在人は、特許出願が経る課程ごとに異なるから、判断に相違があり得るのは当然で、また、相違があり得ることに制度の意味がある。相違をなくそうとする努力も、当然継続されるべきである。出願書類全体を総合して、長瀬産業等の主張を再読・確認することが、知財専門家にとって有益と考える。

2006年9月 5日 (火)

ポリウレタンフォ-ム特許取消決定の取消請求事件

知財高裁請求棄却判決(2006-8-31)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

  

  家具等の材料として汎用されるポリウレタンフォ-ムについて、所定粒度の炭素粉を分散させることにより、優れた防臭性・吸湿性を与え、かつ、反発弾性率・所定%以下の低反発性を具備することにより、良好な使用感を具備させることを顕著な効果とする下記発明に関する判決である。

1.「炭素粉を含有した低反発性ポリウレタンフォ-ム」

1-1 原告・㈱高嶋は、標記発明の特許権者であるが、異議申立による特許庁審理の結果、「この特許を取消す決定」(2005-8-6)がなされたので、高嶋は、その決定の取消を請求した。知財高裁は、平成17年(行ケ)10674号・特許取消決定取消請求事件判決(2006-8-31)をもって、高嶋の請求を棄却した。

  棄却の理由は、「本件発明は、引用発明等の従来技術に徴して、想到容易であり進歩性を欠く」こと等(明細書記載の不備)である。

1-2        本件特許の請求項は次の通りである(要旨)。

1-2-1        請求項1.次の特徴を有する低反発性ポリウレタンフォ-ム

1-2-1-1           イソソシアネ-ト成分と、炭素粉と、所定粘度値に調整されたポリオ-ル成分から形成される。

1-2-1-2           このポリオール成分は、所定の官能基数、水酸基価を有する2種のポリオ-ルの混合物である。

1-2-2 請求項2.次の特徴を有する低反発性ポリウレタンフォ-ム

1-2-2-1 イソシアネ-ト成分と、所定粒径の炭素粉が均一に分散された所定粘度のポリオ-ル成分とから形成される。

1-2-2-2 このポリオール成分は、所定の官能基数、水酸基価を有する2種のポリオ-ルの混合物である。

1-2-3 請求項3.次の特徴を有する低反発性ポリウレタンフォ-ム

1-2-3-1 イソシアネ-ト成分と、所定粘度のポリオ-ル成分と、所定粒径の炭素粉が同時に混合されて形成される。

1-2-3-2 このポリオール成分は、所定の官能基数、水酸基価を有する2種のポリオ-ルの混合物である。

1-2-4 請求項4.請求項1~3記載の低反発性ポリウレタンフォ-ムであって、

  その炭素粉が木炭およびカ-ボンブラックであることを特徴とする低反発性ポリウレタンフォ-ム

2.知財高裁の判断

   ダウ・ポリウレタン日本㈱、三井武田ケミカル㈱等の実施例と比較して、進歩性を認めがたいとすると共に、次のように指摘した。

2-1 本件明細書には、低反発性に優れ、良好な使用感を得るという本件発明の目的や効果の記載がない。

2-2 実施例に示されたもの以外については、本件明細書に、点加圧戻り時間の調整に関する具体的記載がない。

2-3 点加圧時間なるものは、当業界でも慣用されていると認めるに足る証拠がない。

2-4 低反発性や使用感の効果は、本件発明の効果とはいえない。

3.所見

   特許庁の審査で特許付与され、異議申立により特許庁の審理で特許取消され、知財高裁は特許取消を維持した。権利の安定性は動いたが、的確性の確保を志向する制度目的は、この段階において履行されている。

2006年9月 4日 (月)

米国知財戦略新5ヶ年計画案における商標対策

商標行政の質と速度の最適化、電子化の徹底等

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 

  わが国2005年の商標登録出願数は135,776件であったが、米国のそれは325,000件で、米国経済の商品化活動・ブランド活動の旺盛さを示している。しかも、米国特許商標庁は、2012年に至る標記計画期間(至・2012年)中の商標登録出願数が、年率6~8%で増加すると予測し予算等を計画している。

1.        「米国憲法上の根拠条文の相違」から始めて:

1-1                米国特許商標庁(USPTO)の知財戦略新5ヶ年計画案(2006-8-24)は、知財戦略を構成する「特許権と商標権」の二つの柱の憲法上の淵源の相違(特許権・著作権は憲法第1条第8節第8項、商標権は同第3項)を、次のように分説した。

1-1-1        特許権と著作権は、米国憲法上記項の「著作者および発明者に一定期間それぞれの著作および発明に対し独占的権利を保障する」(駐日米国大使館の訳文)に基づき、米国特許商標庁の所管とされた(18世紀末)。

1-1-2        上記米国特許商標庁の所管は、19世紀に至り、上記1-1の条項、すなわち、「通商条項」(諸外国との通商および各州間およびインディアン部族との通商を規定する)(駐日米国大使館の訳文)に基づき、商標権の登録に及ぶとして、拡張(expand)された.

1-2  わが国の弁理士は、特許権・商標権等について専権業務を包括法定されているが、米国では、特許代理人・特許弁護士・商標代理人がそれぞれ別の制度に依拠していることも、上記の歴史に淵源すると考える。

2.        「商標登録の的確性・迅速性達成」のための最適化計画:

2-1 「Optimize Trademark Quality and Timeliness」と題してUSPTOは、先ず対策の現況(2005/2006)を次のように述べた。

2-1-1 商標登録がオンラインで完結できるよう、システムを電子化した結果、登録出願と補完書類提出の90%以上が電子化された。

2-1-2 ペ-パ-出願には高額な手数料、電子出願には定額な手数料を設定した。

2-1-3 商標審査は、ペ-パ-書類を電子化したものを含め、全て電子処理している。

2-1-4 商標の登録申請およびその審査等の資料は全て、オンラインでアクセスできる。

2-1-5 商標関係の在宅可能業務を大幅に拡大する。

2-1-6 ファストアクションに至る期間および審査待ち期間を、2005年に比べて2006会計年度には、各1ケ月以上短縮する。

2-1-7 ファイナルアクションの欠陥率(Final Action Deficiency Rate)を、2005年末に比べて2006会計年度には1.4%減少する。

2-2 米国知財戦略新5ヶ年計画案による商標戦略:

2-2-1 ファ-ストアクションに至る期間を3ケ月以内に維持し、別段の事情ある場合以外は処理待ち期間を極力短縮する(2008年までに1ケ月短縮)。このため、用途ステ-トメント審査の大部分を商標スペシャリストに委ねる。

2-2-2 オンライン装備の充実により、審査の的確性を高める。

2-2-3 ファイルの電子管理と作業の電子制御機構を2009会計年度末までに整備する。

2-2-4 双方向の書類交換をなし得るオンライン電子施設を2010年までに構築し、かつ高度化する。

3.        所見:

  日米間で、電子化の競争が見られるが、その内容・質、利用可能者の範囲   (中小企業が使用できるか等)を見極めないと、優劣を論じ難い。

  また、電子化は、商標のグロ-バル化に対応できないと、国際的意義が希薄になる。商標問題を全世界の視野から考えて長期計画を立案する要があり、この課題は、単なる処理迅速化の課題より根が深い。

  なお、識別子権の分野では、グロ-バルな電子化に成功したのが汎用トップレベルドメインネ-ムのシステムである。これには紛争解決も含むが、WIPO等をも活用している。

2006年9月 3日 (日)

薄膜トランジスタ特許請求項に記載の有無

特許庁の特許拒絶維持審決を取消:知財高裁判決8-31

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.「薄膜トランジスタ」特許出願:

1-1 原告・半導体エネルギ-研究所は、発明「薄膜トランジスタ」につき特許出願したが、特許庁が拒絶査定(2001-8-23)したので、これを不服として審判請求した。

1-2 その審理係属中、半導体エネルギ-研究所は、請求範囲を補正したが、特許庁はこれを却下し、拒絶理由を通知した(2004-11-11)

1-3 半導体エネルギ-研究所は、さらに2回にわたり補正したが、特許庁はこれらを却下し、「本件審判請求は成立たない」と審決した(2005-9-28)

1-4 半導体エネルギ-研究所は、この審決の取消を知財高裁に求めた。

1-5 知財高裁は「平成17年(行ケ)10767審決取消請求事件」判決(2006-8-31)において半導体エネルギ-研究所の請求を容認し、特許庁の審決を取消した。

   

2.薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor)

     薄膜トランジスタは電界効果トランジスタ(MOSFET)の一種で、液晶ディスプレイに広く応用されている。二酸化シリコン絶縁層の上部層(チャネル層)に水素化アモルファスを用いる場合、作動の閾値電圧が経過時間・ゲ-ト電圧・温度により変化し、不安定であること等が問題とされてきた。

3.        半導体エネルギ-研究所の「薄膜トランジスタ」発明の特徴:

  シリコン膜を十分に結晶化させるため、予めニッケルの濃度を所定値よりも高めにして結晶性半導体膜を作製し、作製後に所定値を超えるニッケルを除去して、含有ニッケル濃度を所定範囲内にすることにより、結晶化の低温・短時間化を可能にすると共に、薄膜トランジスタの特性および信頼性の劣化を防止するものである。

4.        本件補正後の請求項(SANARI PATENT要約):

4-1        請求項1.次の特徴を有する薄膜トランジスタ。

4-1-1 基板上に形成されたニッケルを含む結晶性半導体膜と、その上の形成されたゲイト絶縁膜と、その上に形成されたゲイト電極を有する。

4-1-2 結晶性半導体膜に含まれるニッケルの濃度はA下限値~B上限値である。

4-1-3 B上限値は、ニッケルの一部を除去することにより実現される(SANARI PATENT 注:B値を超えるニッケル部分が除去されて、残存ニッケルの濃度はAないしBの範囲にセットされる)

4-2 請求項2.次の特徴を有する薄膜トランジスタ。

4-2-1 4-1-1と同。

4-2-2 4-2-2と同。

4-2-3 結晶は、基板に平行な方向に成長して成る。

5.        特許庁の拒絶審決の理由。

 「本件補正は、当初明細書に記載した事項の範囲外で、新規事項を追加するものである」(SANARI PATENT 注:すなわち、記載事項の範囲・内容の解釈が争点となった)

6.        知財高裁の判断(抜粋):

6-1 「補正後の請求項には、薄膜トランジスタを構成する結晶性半導体膜がニッケルにより結晶化されたものであり、ニッケル濃度はA~Bであること、上限値はニッケル除去工程によりAを超えないことが記載されている。」

6-2 「ニッケル濃度がB未満の場合についてはニッケル除去工程を行うとの記載はなく、ニッケルの濃度範囲が」A~Bであることに照らして、補正後の請求項は、ニッケル除去工程を要しない場合をも含む。」

6-3 「従って、本件補正発明のニッケル濃度下限値がニッケル除去により得られる値である」という特許庁審決の認定は誤りである。」

6-4 「これに対する被告特許庁の、ニッケル除去工程を必須のものと前提しての主張は、採用できない。」

7.        所見;

  米国知財戦略新5ヶ年計画案の「特許付与の欠陥率」の考え方では、「欠陥」に算入されることになる。しかしSANARI PATENTは、このような法的不安定性を、知財制度に内在するリスクとして、リスク評価・リスク対策を行うことが、企業の知財戦略の核心と考える。

 

2006年9月 2日 (土)

中間事業報告書等、異業種3社の知財戦略

キャノン・アスクル・日興コ-ディアル

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 最近流行のIR(投資家関係)重視で、期末報告書のほか4半期報告など、投資家に中間報告を送付する会社が増加している。また、5月決算の会社の報告書も続々到着するが、様々な業種のうち、標記3社について、多様な知財戦略を見る。

1.        キャノン

1-1        平成181月1日から6月30日までの中間報告書が送付された。先ずその取締役名簿を見ると、御手洗会長、内田社長の次に、専務取締役として田中稔三経理本部長および田中信義知的財産法務本部長が掲げられ、トップ陣容の構成により、経営戦略の重点は極めて明確である。

1-2        内閣知財戦略本部の知財推進計画06は、「CIPO(最高知財責任者)等の設置を促す」という項目を設け、「企業において、経営トップが自ら技術・研究開発部門や知財部門を主導し、特許、意匠、ノウハウ、ブランド、コンテンツ等の知財戦略の策定・実行について統一的な見地に立った経営戦略を推進するため、2006年度から企業におけるCIPOや知財担当役員の設置を奨励する」としているが、キャノンはこれに、遥かに先行している。

1-3        キャノンの平成18年上半期連結売上高は約2兆円で、前年同期比11.2%増、連結税引前純利益は3410億円で前年同期比20.2%に達した。

オフィスイメ-ジング部門では、デジタルネットワ-ク複合機のカラ-対応高速機、高画像処理能力の中速機、コンピュ-タ-周辺機器部門では高密度プリントヘッド技術や高発色染料インク・純正写真用紙組合せによる他社製品との差別化、ビジネス情報機器部門では、文書の電子化需要加速に対応するドキュメントスキャナ-、カメラ部門では、携帯性・機動性・高画質に富む一眼レフ、光学機器等では、半導体用露光装置、液晶用露光装置、放送局用高倍率ズ-ムレンズ、Xで線デジタルカメラ、無散瞳眼底カメラ等が、豊富な先端特許権と秘匿ノウハウの巧みな組合せ(秘匿適格工場立地を含む)と価格政策(プリンタとカ-トリッジの価格バランス等)により、好業績を支えていると考える。

1-4        上記1-1の田中信義知的財産法務本部長は、キャノンの知財戦略について 例えば産学連携については、次のように語っている(日経BP-CIPO2006-7)(抜粋)。

1-4-1 「現時点において企業が改めて産学連携を重視する背景には、主に研究・開発におけるパラダイムシフト(時代規範の転換)がある。いわゆる「自前主義」からオ-プンイノベ-ションやオ-プンコラボレ-ションへの転換である」。

1-4-2 「わが国企業は、研究・開発から製品化の全てを行っている場合が多かった。しかし現在は、他社や大学の技術や特許と融合させて画期的な新製品の開発や市場の開拓を目指す戦略的なアライアンスが重要な経営課題として浮上し、しかも、パ-トナーはグロ-バルに存在する」。

2.        アスクル

2-1 「競争力を持った次世代ビジネスモデルへの変革による新たな価値創造の実現」を掲げるアスクルは、「9期連続の増収増益達成」を報告した。アスクルは、受注にFAX等を使うオフィス関連用品配達サ-ビスの草分けとして著名であるが、このFAXビジネスモデル自体は、産業界全体としては、今や、インタ-ネット受注、特にケイタイ受注のビジネスモデルによって置換されつつある。従って、アスクルは「進化するアスクル」を企業理念としている。

2-2 SANARI PATENTが観察するところでは、アスクルは、上記のようなIT利用等の新ビジネスモデル専一というより、カタログモデルや対面販売モデルを併用する「ハイブリッドモデル」を新たに開発していると見受けられる。なお、アスクルでは、インタ-ネット経由の受注がこの5月期には、全売上高の47.1%に達している。

2-3 ハイブリッドビジネスモデルの一環として、「医療材料専門カタログ」の創刊(2006-11)や、アスクルコンシェルジェデスクの始動(2006-11)が注目される。

3.        日興コ-ディアルグル-プ

3-1        第1四半期報告書は、当期純営業収益が前年同期比29%増に達したとしている。

3-2        国際的に見て、証券業界はビジネスモデル特許の在り方を主導してきたが、投資業務全般のノウハウについても、本年6月、日興コ-ディアルはシンプレクス・インベストメント・アドバイザ-ズを連結子会社として、不動産投資関連商品の提供ノウハウをも強化している。

3-3        瑣末なこととも見えるが、日興コ-ディアルでは、株主優遇制度を、株主総会議決権行使株主に限定適用している。産業界全般にM&A対策も絡んで、個人株主の比率の増大と、関係の緊密化を実現するため、株主優遇の措置を設ける会社が増加しているが、日興コ-ディアルの方法は、広義のビジネスメソッドと考えられる。

    なお、同じく証券業界で野村ホ-ルディングスは、株主配当金支払いを毎四半期ごとの年4回に改めたが、これも株主定着に資すると考える。

2006年9月 1日 (金)

パブリックドメインとパテントの双方保護

米国特許商標庁の役割意識

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.「パブリックドメインの保護」は米国特許商標庁の責務:

1-1 米国特許商標庁(USPTO)新5ケ年計画案(2006-8-24)には、「USPTOは、知的財産権の付与とパブリックドメインの保護を管轄する」(Congress established a system for holding the agency(USPTO) responsible for granting or recognizing intellectual property rights and protecting the public domain)と明示し、両者の境界線を適切に判断してパテントを付与することにより、パブリックドメインの活用を確保することを、その責務の一つとして顕示している。

1-2 わが国内閣知財戦略本部の知財推進計画06は、パブリックドメインを、「知的創作物について一般公衆が自由に使える状態」と解説しているが、「状態」というより、「一般公衆が自由に使える知的創作物」と定義し、「知財権が付与されている知的創作物」と区分することが適切と考える。後者の定義が、上記1-1の米国特許商標庁のパブリックドメインの含意と、整合・調和すると考える(2-1参照)

  

2.通称「パブリックドメイン」の3つの意味:

   パブリックドメインと呼ばれている領域には、次の3つの意味が混在している。明確に使い分けるべきである。

2-1 第一に、知的創作物ではあるが、排他的知財権の付与には値しない、またはその付与による独占が公益に反すると評価して、知財権を付与せず、その結果、一般公衆が自由に使える知的創作物。

2-2 第ニに、知財権が付与されていたが、権利の存続期間が満了した結果、一般公衆が自由に使える知的創造物。

2-3 第三に、現に知財権が付与されているが、知財権者の意思により、一般公衆が自由に使える状態におかれている知的創造物。

3.経済産業省がいうパブリックドメイン:

上記1-2の知財推進計画06は、経済産業省所管の項目として、「2006年度から、既存の知財権制度の利用を前提に、各企業等が保有する知財権についてパブリックドメインを構築し、当該ドメインを活用したイノベ-ションの向上を図るなど、産業界における自主的な対応を促進する」と計画している。具体例や補足説明を欠くので、やや了解しにくいが、上記2-3の類型のみが想定され、そのことが、上記1-2の知財推進計画06の定義に反映していると考える。

 要するに、わが国では従前のプロパテント意識がそのまま強く残存し、パブリックドメインと対峙させる意識が、米国特許商標庁ほど明確化していないように受け取られる。 もっとも、知財推進計画06は、「知財権とそれ以外の価値とのバランスに留意する」という項目を設け、「知財権の強化は、知識社会化とグロ-バリゼ-ションの必然的な流れである反面、公正かつ自由な競争、学問・研究の自由、表現の自由、公共の利益など現代社会が有している基本的価値と抵触する可能性があり、バランスのとれた知財制度を目指す必要がある」と述べているので、パブリックドメインの保護を、その一環として読取ることも可能としているのかも知れない。しかし、知財推進計画0がが、プロパテントをイノベ-ションの中核に位置づけているという印象は否めず、イノベ-ションのために、プロパテントとプロパブリックドメインを均等に対置するに至っていないように、少なくとも外観上は見られる。

4.パブリックドメイン派によるプロパテント派への攻撃:

   米国では、公共パテント財団(Public Patent Foundation)、電子フロンティア財団(Electronic Frontier Foundation)、ウェブ国際標準化コンソ-シアム(World  Wide Web Consortium)等のいわゆるパブリックドメイン派が、米国特許商標庁に対する特許再審査請求等の方法で、プロパテント派を攻撃している例が多く見られている。

  米国特許商標庁が再審査請求を承認した最近の例(2006-6-10公表)としては、公共パテント財団がMicrosoft保有の特許権「File Allocation System(SANARI PATENT 注:交換ファイルシステムの一つ)について請求したものがあるが、従来の再審査例では、クレ-ムの縮小ないし無効に至った場合も多い模様である。

  上記のような攻撃への対策としては、積極にライセンス契約を締結する方向への知財戦略転換も見られる。

5.所見:

   パテントとパブリックドメインの境界の画定は、特許要件(特許性)の具体的認定を伴い、著作権については、思想表現の創造性の具体的認定を伴うから、権利の設定段階と訴訟段階で、経済産業政策・文化芸術政策が深く関与すべき課題である。パブリックドメインとパテントとの融和対策としては、ライセンスの積極的供与、自主的パブリックドメインの設定、許諾権の対価請求権化(新たな制度を要する)等が考えられる。知財推進計画07では、このような課題を真正面から取り上げるべきであると考える。米国では現に、わが国企業の特許権についても、米国特許商標庁に対する再審査請求が申立てられる可能性があり、国際標準化との関連を含めて、グロ-バルな視点から注目すべきである。

 

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