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2006年8月31日 (木)

オープンソースソフトウェアに米国最高裁登場

内閣知財戦略本部「そのシステム構築に伴うリスクの所在」

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        米国電子フロンティア財団の対最高裁申立(2006-8-23

1-1 オープンソースソフトウェアに関する論議が、標記申立を契機として、わが国でも一層高まると予測される(SANARI PATENT 注:オープンソースソフトウェアは、「プログラム内容が公開され、利用・改変・複製・配布が自由とされているソフトウェア」)

  米国電子フロンティア財団(Electronic Frontier Foundation)が、市民的自由の擁護を掲げて、CAFCCourt of Appeals for the Federal Circuit :米国連邦区巡回裁判所)(SANARI PATENT 注:わが国では、知財高裁がこれを模したと理解している向きもあるが、CAFCは知財判決が多いものの、制度は異なる)のソフトウェア特許権に関する判決を破棄するよう、米国最高裁に申立書を提出したことが、わが国でも広く報道された(IT-media)。申立の内容は、オープンソースソフトウェアに不利な特許基準により、オその開発が脅かされるとするものである。

1-2 わが国の審査基準の用語でこの申立の主旨を換言すれば、「CAFC判決によれば、新しいソフトウェアが、従来ソフトウェアから想到容易であることが、事前に書面で示されている場合には、新規性・進歩性を欠くとして特許性を認めない」、逆に表現すれば、「事前に書面で示されていなければ、非想到容易として特許性が認められる」可能性が大となるから、パブリックドメインに属するソフトウェアについても特許権が主張され、その結果、オープンソースソフトウェアの開発を阻害する、という主張と解される。

2.内閣知財戦略本部知財推進計画06の記述

  「知財の円滑・公正な活用の促進」の項に、「産業界の自主的対応の促進」として、「パブリックドメインの構築とその活用によるイノベ-ション」を掲 げ、次のように述べている。

「オープンソースソフトウェアを活用したビジネスの更なる円滑な発展を図るため、2006年度には、オープンソースソフトウェアを活用してシステムを構築する際のベンダ-・ユ-ザ-のリスクの所在を明確にする」(要旨)。

3.所見

  ソースソフトウェア問題を含めてソフトウェア特許全般の政策提示が望まれる。経済産業省の「ソフトウェアの法的保護とイノベ-ション促進に関する研究会」は、中間論点整理を公表(2005-10-11)したにとどまっているが、オープンソースソフトウェアを含めた論点の整理を早急に公表されることを望む。

 なお上記中間論点には、次のような指摘が見られる。

3-1        特にソフトウェア分野においては、「発明の上に発明が積み重ねられる」、すなわち、異なる発明が密接不可分に連続・連携することによって、イノベ-ションの成果物が構成される場合が多いという特色があり、このようなソフトウェアの特色を勘案したアプロ-チにより、継続的なイノベ-ションを促進する制度環境を整備することが、真の意味でのイノベ-ションにつながる」。

3-2        ソフトウェア産業には、次の5つの特色がある。

3-2-1        イノベ-ションが累積的な形で発生する。

3-2-2        バイオやハ-ドウェア産業に比べて資本コストが低い。

3-2-3        技術変化が高速で製品ライフサイクルが短い。

3-2-4        著作権による保護やオープンソースソフトウェアを含め、代替的イノベ-ション促進手段がある。

3-2-5        特許による保護の在り方が歴史的に変化に富む。

  上記3-1および3-2-4の視点から、オープンソースソフトウェアを含めたソフトウェアに関する総合的知財戦略の樹立が望まれる。

  

2006年8月30日 (水)

米国特許審査新体制計画案(2007~2012)

米国特許商標庁発表2006-8-24

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.「米国のイノベ-ションと国際競争力のために」

1-1  米国特許商標庁がこのたび公表した「米国特許政策が世界をリ-ドし続けるための新5ケ年計画案」は、「米国のイノベ-ションと国際競争力の一層の強化を目的とする特許権および商標権出願の高質・適時な審査(High Quality, Timely U.S.Patent and Trademark Reviews)の実現を標榜し、わが国内閣知財戦略本部の知的財産推進計画と方向性を一にしていると考える。

1-2 上記「高質」の「質」とは、「確実性・コスト合理性・アクセス容易性」の総合を意味している(Quality=Certainity+Cost-Effectiveness+Accessibility)

1-3 同案は、「意欲的な次期5ケ年計画」(Ambitious Goals for Next 5 Years)と名付けているが、年次は2007~2012である。

2.「有能な審査官の大幅増員」と「代替的審査システム」

2-1 上記案の「米国知財戦略2007~2012」は、知財戦略目標として次の項目を掲げた。

2-1-1 特許付与の質と時点の最適化(Optimize Patent Quality and Timeliness)

2-1-2 商標登録の質と時点の最適化(Optimize Trademark Quality and Timeliness)

2-1-3 米国の国内外みおける知財の保護と活用の改善(Improve IP protection and Enforcement)

2-2 同案は、先ず「概要」として次のように述べている。

2-2-1 特許について

2-2-1-1 期限と予算の制約のもとで、確保すべき「特許の質」を定めなければならない。戦略的に先端技術分野への高度の質と審査の適時性を確保すべく、練達な審査官の採用を要する。

2-2-1-2 今後5年間に、少なくとも毎年1000人以上の審査官を採用すること、地方事務所を設けること、大学と連携すること、審査官一人当たりの審査目標数を達成した審査官には、ボ-ナスを支給すること、審査能力向上のため最先端の電子装置を具備すべきこと。

2-2-2 商標について

2-2-2-1 ブランド戦略のため、出願後3月以内にファ-ストアクションを行うものとする。

2-2-2-2 商標の登録に至る全過程を、完全に電子化する。

2-2-3 IPの国際化に即応する。グロ-バルな知財制度の調和、マドリッド条約の改正、全世界のIP出願処理の電子化を期する。

3.代替的審査システムの必要性

3-1 今年度(2006)の特許出願予測数40万件は、逐年増加する。米国特許商標庁としては、ここで、出願者の意図に応じて対応する、従来と異なる対応についても考慮しなければならない。すなわち、代替的審査システムの必要性(Need for Alternative Examination System)を認識しなければならない。

3-2  これを考えるに際しての一つの要素は、出願者によって異なる事情である。すなわち、全ての出願人が直ちに審査の最終決定を必要としているのではないということである。

    もちろん、ある出願人は発明を市場化するための早期資金調達を要し、ある出願人は市場変動が高速な商品の発明であるため迅速な審査決定を要するであろう。他方、商業的選択肢が多いため、商品化を熟慮すべき出願人もいる。訴訟力の保証(実質的)を望む出願人もおり、ライセンスを予定している出願人もいる。

    これらの特異性に応じて処理することを、一律な高速処理に代替する対応として計画すべきである。

2006年8月29日 (火)

内閣府のニセモノ・コピ-意識調査(2006-8-24公表)

ニセの個人購入容認率が50%未満で微減

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.「模倣品・海賊版」対策の舞台

1-1 知財の保護分野である「模倣品・海賊版」対策は、外国市場、水際、インタ-ネット・オ-クションの3つの場を主要舞台としている。それぞれの舞台特有の課題を解決すべくシナリオが描かれ、実践されつつもあるが、足元の国民意識が先ず問題として継続している。

1-2 内閣府の「知的財産に関する特別世論調査」結果については、例えばasahi.com 2006-8-25は、「偽ブランド品購入、成人の45%が容認・内閣府調査」という見出しで速報した。

1-3 知財推進計画06の策定するに当たり、内閣知財戦略本部は、「今後の取組」として次のように疑問として提起していた(「知財サイクルに関する課題」2006-1-10)。

「模倣品・海賊版の個人輸入や個人所持は、現状では法律で禁止されておらず、国民の意識も低いことから、個人輸入・個人所持の禁止についても、新法の制定を含めて制度の整備が必要ではないか」。

2.        結局、知財推進計画06(2006-6-10)は次のように述べるにとどめた。

「模倣品・海賊版を撲滅するためには、模倣品・海賊版が社会悪であることを国民に広く認識してもらうことが重要であり、消費者基本法に知財権等の適正な保護が消費者の責務」であると規定していることを踏まえ、2006年度も引き続き、国民への啓発活動を強化すると共に、学校教育を通じ適切な消費者行動についての教育を推進する」。

3.     上記1-3の「国民の意識も低い」という内閣知財戦略本部の記述は、上記1-2の特別世論調査05版の結果に依拠している。すなわち、2005調査では、「あなたは、ニセモノであることを分かった上でニセモノを購入することについて、どう思いますか」という問に対し、「正規品よりも安いので、購入するのは仕方がないと思う」、「正規品にはないデザイン・仕様の品もあるので、購入するのは仕方ないと思う」、「公然と売っているので、購入してもよいと思う」との回答(約2千名)が各29.9%、10.3%、6.7%で、計46.9%(不明等を除いた残数に対しては54.3%)に達したことに基づいている。

    今次18年調査では、上記46.9%が45,2%(同じく54.3%が48.9%)に漸減しているものの、17年調査結果と大差はない。

4.     今次内閣府調査結果についてのSANARI PATENT考察

4-1        先ず、「模倣品・海賊版」の語義を示さずに政策論議を始めていることが問題である。模倣品には、模写画・リトグラフその他の合法なものも多く、ニセモノの語義とは一致しない。海賊版は、コピ-と別称されているが、コピ-はおおむね合法で、海賊版は「違法コピー」と訳さなければならない。

4-2        特に、模倣品・海賊版の個人輸入・個人所持の違法性を、法的にはそのこと自体に直接的に求めず、「模倣品・海賊版は社会悪」という認識に転嫁した観がある。知財推進計画06にいう社会悪とは、模倣品・海賊版が暴力団の資金源になったり、健康を損なう医薬品であったりすることを指しているが、これらに該当するような場合がどの程度であるのか、示していない。

4-3        内閣府調査に対する回答国民の容認対応は、「模倣品」のうちにも生産国を明示したブランド品(例えばK国製Hネクタイ、Rス-ツケ-ス)で極めて品質が優秀、価格は4分の1というものがあったが、知財推進計画05の「消費者の企業ブランドへの信頼を低下させ」に十分には該当せず(産地国は明示しているから)、価格面では、消費者基本法の「自主的・合理的行動の義務」規定に即するものとの誤認も含んでいると考える。消費者基本法の「事業者の責務」に、「安価かつ良質・新規」といった価格面の配慮を欠くことも問題で、価格著差が、違法グル-プの資金源化している原因となる場合もあり得ることにも、少なくとも言及が望ましい。

4-4        内閣府調査は、成人のみを対象にしているが、模倣品・海賊版容認は、小遣いが常に不足な未成年者に多いことにも注目すべきである。

    

2006年8月28日 (月)

農水産省知財戦略本部の有識者討論

育成者権の法的特徴と侵害訴訟の実際

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 農水産省知財戦略本部では有識者との意見交換が進められている。

ビジネスモデルの革新は農工共通の課題である(1-1-1)。また、農業改良普及員の高度化による知財への対処(1-1-2)は、中小企業経営改善普及員の高度化による知財への対応と軌を一にしている。

育成者権が、創作権と識別子権の融合権であること(2-1-2)にも、理解を深めることが必要である。

1.農業分野の知財開発

1-1 千葉大学環境健康都市園芸フィ-ルド科学教育研究センタ-・安藤敏夫センタ-長の説明

1-1-1 農業分野における知的関連技術の発達、特にビジネスモデルの確立が遅れている。

1-1-2 危機に対処する新しいビジネスモデルとして、種苗会社と生産者との共    栄(遺伝資源の確保)、市場とに共栄(流通チャンンネルの変動への迅速な対応)、生産者育種の指導人材の確保(農業改良普及員の活用)を提案する。

1-1-3 伝統文化を尊重しつつ新技術を開発し、海外へも提案することが重要である。

1-2 安藤センター長と農水産省の意見交換:

1-2-1 農林水産省:種苗界の現状は、種苗会社が圧倒的影響力で生産者を支配しているが、生産者による新品種育成は可能か。

   安藤:種苗会社所有の遺伝資源が生産者に供給される状況が生まれており、生産者による新品種育種は可能であり、規模は小でも国内需要に十分対応できる。

1-2-2 農林水産省:種苗生産で、生産者と種苗会社は棲み分け可能か。

   安藤:期間限定の契約で、「生産者は国内で独占的に種苗を流通させる」契約を締結し、生産者は広大な海外市場に流通させる仕組みを構築すれば、可能である。

1-2-3 農林水産省: 様々なビジネスモデルを普及するため、国がなすべきことは何か。

   安藤:: 私が設立した生産者団体で、サポ-タ-と呼ぶ人達が、広い視野と異なる視点から市場動向を検討し、斬新なアイデアを提案している。本来は農協等がなすべきだが、国が主体的に行ってもよい。 

2.育成者権の性格:

2-1 土肥一史一ツ橋大学院国際企業戦略科教授の説明:

2-1-1 知財訴訟中、育成者権関係は少ない。

2-1-2 知財権としての育成者権の性格は、創作成果保護制度と標識保護制度を兼ね、さらに、権利保護法と行為規制法の両性格を備えることである。

2-1-3 育成者権の侵害容疑の場合、種苗法では被疑者に警告を出すことを認めているが、これは逆に相手側から訴えられる危険性が高い。大手の会社が権利行使するときは、複数専門家が検討するが、一農家の事実確認能力には限界がある。農水産省知財戦略本部は、警告が警告ととられないよう権利を行使する方法を考えるべきである。

2-2 土肥教授と農林水産省の意見交換:

2-2-1 農林水産省: 加工品における品種の識別は非常に困難で、唯一の手がかりはDNAの塩基配列を読むことだが、マ-カ-充実度により権利侵害推定の確率が変動する。どこまでの確率を確保すれば、法律上、育成者権侵害を認定できるか。

  土肥; 権利侵害被疑加工品を水際阻止する税関が、確立された検査方法で判定した場合は問題を生じない。

2-2-2        農林水産省; 種苗法を今後、どう発展させるべきか。

    土肥:: 特許法と比べて育成者権者救済規定が少なく、その拡充を要する。また、 零細な育成者権者でも侵害事実を容易に確認できる仕組みを整備すべきである。 

1.        所見

3-1        工場野菜・養殖魚類生産の大規模化が、野菜需給の安定、グロ-バルな食用魚類需要の著増に対処して急務とされ、品質の均一化が進む一方、品質の地域特性・企業ブランドによる差別化が進められている。種苗法や地域団体商標制度との総合調和が必要と考える。

3-2        食糧の世界需給を均衡させるためは、合成蛋白質・遺伝子組替植物の大規模生産体制を樹立すべく、知財の開発、安全性認識の徹底を図るべきであると考える。

2006年8月27日 (日)

特許等のインタ-ネット出願

個人企業にも優しいシステムを望む

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

  特許庁はインタ-ネット出願ソフトのバ-ジョンアップを来る9月10日に予定しているようであるが、このこと自体は、従来の方向性の延長として、同庁の御尽力に先ず敬意を表したい。

  しかしながら、内閣知財戦略本部の知的財産推進計画が強調するベンチャ-企業・中小企業・個人・大学を含む「知財民度」の向上のため、特許・商標等の本人出願(弁理士代理を用いない)を容易にする見地からは、システムの一層の平易化が必要である。弁理士急増の要請と、その強行に伴う弊害も緩和されよう。

1.        アクセスの簡易化

  インタ-ネット出願のシステムが供用されてから、約1年を経たが、その発足に際し、個人・大学・中小企業等が、「インタ-ネット出願」の語感から、本人出願の簡易化を期待したとすれば、期待は外れた現状であると推察する。

 中小企業や個人企業者も、金融機関のインタ-ネットバンキングシステムや証券会社のインタ-ネットトレードシステムは利用していると考えられるが、その程度のインタ-ネット利用水準にある中小企業等が、これらシステムと同一のIDPW・暗証番号(第1、第2)システムをもってアクセスできるよう特許庁のシステムを構築すべきであると考える。

商工会議所等の有料認証システムに、なぜ依存する必要があるのか(預金や証券資産の設定と移動が、これらへの依存なくして守秘できるのに、知財の設定・移動は同一システムではなぜできないのか)理解し難い。参入障壁の観がある。

 アクセスシステム合理化の配慮を欠くと、大企業と中小企業等との間のシステムデバイドは、現状よりも一層拡大し、内閣知財戦略本部の知財立国・中小企業等振興の本旨に沿わない結果になると考える。

2.        具体的提案

先ずアクセスのシステムを次のように再構築する。

2-1        インタ-ネット出願システムを利用する要件として、金融機関や証券会社の場合と同様、特許庁が業界団体・中小企業団体等を通じて、または申込者に直接頒布する「インタ-ネット出願システム利用申込書」に、申込企業名(または、個人名、大学名)、担当者名、メ-ルアドレスを記入して、特許庁に申し込む。

2-2        特許庁は、IDPW、暗証番号のリメ-ルを求め、第2暗証番号表を申込者に交付する。

2-3        申込者は、上記IDPW、第1暗証番号、第2暗証番号を入力すれば、インタ-ネット出願にアクセスできるシステムとする。

2-4        特許庁の初期画面から、特許、商標等のアイコンを選択し、画面上に表示される様式に従って入力し、送信クリックにより出願が完結する。

2-5        特許庁に対する申込者からの手数料振込は、金融機関と申込者の自動振込契約(既存)により、特許庁からの請求により自動的に実行される。

2-6        様式不備の出願の処理結果を即時に電子的に出力するソフトを導入する。

3.        本人出願拡大の必要性

   上記提案は、本人出願の拡大を目的としている。現在、特許権15%、商標権35%程度にとどまる本人出願率の向上を促進し、出願経費の合理化、弁理士急増の要請の緩和を実現すべきであるとの考え方に基づく。このことは、知財民度の向上に直結する重要性を持つ。大学の研究者すら本人出願の実務能力(自己の発明・考案の的確な表現能力)を欠くという、「不完全な大学教育課程」を矯正するためにも役立つ(弁理士はその教師となる)。       個人や中小企業が、本人出願の入力文書の案の作成を弁理士に依頼すること、出願全てを弁理士に依頼することも、当然、選択の自由に任されるが、本人出願の実質的自由を確保することが、政策として妥当と考える。これに付帯して、知財推進計画06が強調する「出願文書の特殊な構文や独特な表現の極力普通化も達成されなければならない。

  

2006年8月26日 (土)

植物新品種の保護活用と知財制度

農林水産省知財戦略本部の制度分科会2006-8-2

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        下記の検討状況が報告されている(要旨)。

特許法や著作権法の規定に、種苗法の特質を対比しつつ、制度改正を検討中の模様である。

1-1 制度改正の方向性

1-1-1 知財権に対する一般の認識が高まり、育成者権侵害の事例が急激に顕在化している。種苗法についても、他の知財権法と同様に侵害訴訟に対する制度が必要である。

1-1-2 特許権侵害訴訟において特許権者は、侵害の具体的事実を主張・立証しなければならないが、侵害に係る物・方法の具体的態様を特許権者が知り得ない場合も多く、相手方が侵害の事実を否認し、自己の行為の具体的態様を明らかにしない場合、特許権者からの立証は困難である。そこで特許法第104条の2は、民事訴訟規則第79条第3項の特則として、訴訟の相手方が侵害行為を否認する場合、原則として、自己の行為の具体的態様を明示しなければならないとしている。

1-1-3 育成者権侵害訴訟においても、訴訟の相手方(行為者)が請求原因(育成者権侵害の事実)を否認する場合、品種利用の具体的態様の明示を義務づけることを検討することが考えられる。

1-1-4 現在の育成者権侵害訴訟においては、種苗法に、「侵害行為について立証するため必要な書類」に対する提出命令の制度が規定されていないことから、民事訴訟法に基づく申立によることとなる。種苗法第36条を改正し、「侵害行為立証に必要な書類」を提出命令の対象にする等の対策が考えられる。 

1-1-5 特許法に倣い、育成者権侵害訴訟においても、損害額推定の選択肢を複数規定し、損害額の立証を容易にすることが考えられる。

1-1-6 育成者権侵害訴訟においても、特許法と同様、計算鑑定人に対する当事者の説明義務、裁判所による相当な損害額の認定に関する規定を設けることが考えられる。

1-1-7 特許法と同様に、育成者権侵害訴訟においても、侵害訴訟において、準備書面・証拠に営業秘密を含む場合、申立により裁判所が秘密保持命令を発する制度を設けることが考えられる。

1-1-8 育成者権侵害訴訟において、当事者尋問・証人尋問により品種育成方法の秘密が漏洩することを恐れて、当事者が訴訟提起をためらうことがないよう、特許法と同様の公開停止規定を設けることが考えられる。

1-1-9 育成者権の侵害や「詐欺による品種登録」について、特許法と同様に法定刑を引上げることが考えられる。

1-2        制度分科会での論点(抜粋)

1-2-1        切花についての侵害事件の場合、特性が非常に多く約90に及び、同一品種であることの立証には栽培や公証人立会い等を要して、訴訟提起までに3年を経た例もある。

1-2-2        植物学的には非常に細かい特性区別がなされるが、経済的な利用の面からは、一体この新しい品種がどういう特性に着目して区別されるかにより侵害判断できるようにしないと、例えば同一名称で販売されているのに、栽培してみると必ずしも特性が一致しないというケ-スが多くある。施肥の方法により葉の枚数や出方も変わる。また、「花が一つ」という菊の特性の定めは、遺伝的性質ではなく経済的利用に即した立て方が実際で、そうすると、特性とは何かが分からなくなってくる。

1-2-3        対象品種等、種苗法の適用範囲が拡大し、特に個人農家では関係知識・認識が不十分であるから、罰則の適用等よりも先ず、周知徹底が必要である。

1-2-4        キノコの場合、オリジナルの種菌と、侵害被疑キノコからの分離培養菌

を比較するのではなく、先ず同一培地で種菌を作らなければならない。種菌を作る条件が異なると、侵害被疑のものと、オリジナルなものとが変わってきて、同一性の証明は困難になる。

1-2-5        特許権についても無効率が5割近い(SANARI PATENT 注:委員発言)。育成者権について、権利行使を容易にする以上は、その行使される権利が確実であることを期待できないと、無用な混乱を農家にもたらす。

2.所見

   育成者権について、特許法に準ずる権利の保護制度を検討しているが、権利の安定性・確実性は、特許付与後の無効率が相当高い特許権と比べてどうか。先ず論点を此処に集中しないと、内外に紛争を惹起するおそれがある。

2006年8月25日 (金)

イト-ヨ-カ堂の食品知財戦略ほか

農水産省知財戦略本部の視点

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        押久保清志・イト-ヨ-カ堂食品事業部青果部チ-フディストルビュ-タ-の有識者発言:

1-1 押久保氏の説明: 「地元野菜」「地元果物」は、青果市場でどのようにあるべきか(それらの役割)、について、:

1-1-1 鮮度感と地域感の演出、地元品が並んでいることによる親近感の醸成、流通コストの削減が、それらの役割である。

1-1-2 そのための重点行為は、産地の拡大とリニューアル、産地情報の共有化である。

1-1-3 その具体策は、地場産地デ-タベ-スの作成と商品開発である。

1-2 農林水産省の質疑と押久保氏の応答

1-2-1 質疑:: イト-ヨ-カ堂のPrivate Brand商品について、IDを持っていれば、商品の詳細な情報が見られるとのことであるが、トレ-サビリティ-等の情報開示はどの辺りまで進むと考えるか。

   応答: イト-ヨ-カ堂の締約農家数は約6000で、全ての情報を把握することは不可能だが、PBに関する情報は、PB品質保証のため全ての情報を把握している。

1-2-2        質疑: 産地の開発はどのような方策によるか。

   応答: 産地開発が進まない原因は、農家の多様な経営指向である。消費者の満足を追求する農家もあり、手をかけたくない農家もある。イト-ヨ-カ堂は、消費者のPBに対する信用を損なわないよう、一定水準の品質を求めるが、これには農家の協力が不可欠である。イト-ヨ-カ堂の社員が説得力を持つためには、農業知識が不可欠であるから、産地形成の基礎は社員の教育である。

1-2-3 質疑: PBは、どのようにして形成するか。

   応答: 先ず、必須要素である窒素・リン酸・カリウム・pH等の土壌診断を行う。また商品の評価は、糖度測定等の限定された項目に限らず、実際の食感で判断する。

1-2-4 質疑: 地域ブランドとPBとは、どのような関係か。

イト-ヨ-カ堂PBの魅力の中に、地域ブランドの魅力を取り込んでいるか。

   応答: PB商品は、イト-ヨ-カ堂が生産から販売までの全てに責任を持つ。一方、地場商品は、イト-ヨ-カ堂でなくても買えるものである。

    イト-ヨ-カ堂では、従来と仕入れ方法を変えて、従来は、売れ筋のA品しか販売しなかったのを、全ての商品を仕入れて、高価でなくても身近なものとして販売することにより、従来は規格外として廃棄されていた産品を商品化することにより、イト-ヨ-カ堂・農家双方のメリットとなっている。

2.        金子一夫・日本総研事業本部地域価値創造クラスタ-長との意見交換:

2-1        金子氏の説明:

    地域ブランドの創り方について(抜粋)、

2-1-1      地域ブランドが注目を浴びている背景は、安全・健康等の消費者ニ-ズ、経済のグロ-バル化、宅配便等の物流革命、インタ-ネット等の等の情報革命である。

2-1-2      ブランドの効果は、商標権等によるユニ-クな商品特徴の保護、他生産者の商品との差別化、市場における位置づけの明確化、競争相手に対する優位性確保、値引き販売の回避、長期的志向性が高い顧客の確保、売上高の安定と利益率の向上、である。

2-1-3      地域ブランド創りを形成する要素は、地元学、地域ブランドの情報発信、外部評価の向上、住民の誇りや愛着の醸成、地域資源を活かした多様な商品・サ-ビスの提供である。

2-2        農林水産省と金子氏の質疑応答

2-2-1 小村の地域ブランド形成

質疑; 人口1200人の小村で、地域ブランドの形成はできるか。

応答: 

高知県馬路村

の場合は、電源地域振興センタ-から年800万円を2年間にわたり支援されたが、消費者のニ-ズを敏感に感じ取る外部のコ-ディネ-タ-を活用し、高付加価値商品に変貌させることが必要である。

2-2-2 質疑:「道の駅」は、地域ブランドの3大機能の全ての要素を満たしているが、どのように活用するか。

  応答: 伊藤忠商事と日本総研が「未知倶楽部」というブランド名で道の駅活性化の支援事業に着手している。商品の高度化の推進、中山間地域の現金収入源、都市住民との交流の場などの優れた機能を有するから、緑地旅行・Web立上げ・企業との連携により、潜在力を発揮させ得る。

3.所見

   本年4月に施行された地域団体商標制度に基づく登録出願件数の6割が農林水畜産製品である。品質保証・産地保証・遺伝保証等の地域保証と、個別企業商品の識別機能、また、地域の細分、複数地域の由来複合などが輻輳し、さらに、育成者権・特許権・ブランドが重合して、相克をもたらす場合も予想される。相克の具体的解決を集積して、農林水畜産業の知財戦略が確立に向かうことが期待される。

 

2006年8月24日 (木)

安倍官房長官の「改憲と教育」公約

知財改憲と知財教育

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        知財改憲の方向性

1-1   政権公約として安倍官房長官が、「改憲と教育」を掲げたこと(asahi.com.2006-8-23)は、自民党の改憲案(2005-10-28決定)の内容から考えて、知財改憲実現の方向性を強めたと考える。

1-2   自民党改憲案は、憲法第29条の2として、「財産権の内容は、公益及び公の秩序に適合するように、法律で定める。この場合において、知的財産権については、国民の知的創造力の向上及び活力ある社会の実現に留意しなければならない」と定めるものである(以下「知財留意条項」)。

   成分憲法の知財条項に基づき特許法と著作権法が制定された米国において、昨年来、イノベ-ション・イニシアティブによる「創造と活力」の見直しが前面に登場し、わが国でもプロイノベ-ションの声が高い現在、知財サイクルの新しい在り方を志向する意図を含めて、知財留意条項を読取ることが適切と考える。

  従ってSANARI PATENTは、知財推進計画06の決定に先立ち、内閣知財戦略本部としての、知財改憲案条文の「読取り方」を明示し、解釈に齟齬を来たさないよう、要望してきた。

2.        知財留意条項と知財推進計画06

2-1        知財立国

   憲法制定により米国国家を形成するに当って、米国では知財立国が立国の柱とされ、プロパテントによる国際競争力の維持が図られてきたが、パテントによる独占等の弊害を抑制しつつイノベ-ション最優先を実現することが、現時点の米国の政策と考える。すなわち、単なるプロパテントではなく、パテントはイノベ-ションの一つの要素として評価される。

 わが国の知財留意条項も、知財推進計画06が解説する「知財立国・知財戦略の本義」を基礎づけるものである。従って、知財推進計画06は次のように述べた(要旨)。

「知財立国は、わが国の将来を見据えた総合戦略である。価値ある情報のサイクルを通じて国富を増大すると共に、わが国の知財への取組が世界に評価されることにより、深い信頼を勝ち取り、世界の文化・文明への貢献により国際社会での名誉ある地位の獲得を目指す」。

2-2        知財全体の円滑な開発

  改憲案の条文は、「知的創造力の向上に留意する」としているが、知財全体の円滑な開発を図る見地から、知財推進計画06は次のように述べている(要旨)。

2-2-1 「IT技術の急速な発展は、知財という高価値情報のサイクルの各分野において新たな課題と機会をもたらしている」。

2-2-2 「コンピュ-タ-グラフィクスによる映像のように、技術と芸術の融合が進み、特許権と著作権の重なり合いが拡大している」。

2-2-3 「ITの進歩は技術の侵害やコンテンツの無断複製の加速という負の効果も生む」。

2-2-4 「インタ-ネットを通じたコンテンツの再利用や共同制作が容易になった」。

2-3 知財権と他価値とのバランス

   改憲案29条本文の「公益に適合するよう」は、当然、知財権を含む。従って、知財推進計画06は次のように述べている(要旨)。

2-3-1 「知財権の強化は、公正・自由な競争、学問・研究・表現の自由、公共の利益等、現代社会が有する基本的価値と抵触する可能性があり、これらとバランスがとれた知財制度を目指す必要がある」。

2-3-2 「知財権の独占効果に伴う競争上の弊害の除去については、独禁法等の競争法の強化も欠かせない」。

2-3-3 「知財政策の立案に当っては、企業活動への影響等を多面的に分析し、総合的な政策を遂行する」。

3.        所見

3-1  標準化における必須特許権の調整、デジタルコンテンツの円滑なサイクル拡大のための著作権処理、必須医薬のグロ-バルな普及のための「特許権の強制実施制度」の整備など、わが国の知財立国が内外の公益と円滑に両立して進むことを、改憲案は予定していると考える。

3-2  政権公約の「教育」については、安倍官房長官談で「公意識の育成」が謳われているが、「教育基本法を改正し、知財教育を位置づけること」、「学校教育法を改正し、大学の課程に知財実務を入れること」を、SANARI PATENTでは要望してきた。知財改憲と対応させるためである。

2006年8月23日 (水)

知財専門家間の競争(12万円で特許出願代理の広告)

米国弁護士数は百万名(わが国は2万名)の意味

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

  インタ-ネットのブログでは多様なニュースに接するが、「Googleの広告」として標記の広告が出た(2006-8-21)(本稿末尾に引用)。同業者の広告であるから、「競争」の評価は、各位のご判断に委ね、競争の公式論を要約する。

1.        知財専門家の量も質も増強:

  この標記は、内閣知財戦略本部が繰り返し掲げてきた重要政策の一つの柱である。士業者の団体は、量の著増は質の低下を招くとして、単なる「著増」に反対してきた。弁護士・弁理士、また師業の医師も同様である。

2.「量増大=質向上」論:

  量の増大と質の向上を背反命題的に考える立場と対蹠的な立場が、「量の増大=質の向上」とする立場で、政府関係委員会のN委員(大学)(知財学界の最重鎮・知財関係政府委員会の主宰者的地位)がこの立場に立たれていることは重要である。 下記に同氏の発言を見る(要旨)。

「大学は基本的教育を充実し、その課程修了後は基本的に、競争と自己研鑽あるのみである。競争の中で如何に有能になってゆくか、それ以外にない。いかに優秀な軍備を備えても、実戦経験のない部隊は弱いのと同様である(SANARI PATENT注:この「実戦経験」の取得方法が現在、課題とされている。比喩的には、兵員資格を与えて直ちに実戦に投入し、実戦経験で質を確保するか、実戦を見習ったことを条件として兵員資格を与えるか、の選択である。後者は、結果として参入規制になるという見方と、見習参入者(試験合格者)の量を増やせば参入規制の弊害はないとする見方がある)」。なお、SANARI PATENTにおいては、「大学は基礎教育」のみではなく、改正学校教育法に則り、知財実務を課程とする職業教育であるべきである、と主張してきた。

3.「弁護士も弁理士も同じ」論

  上記N委員の発言は続いて、

 「要は、どうやって競争の環境を作るかである。弁護士や弁理士についても同様である。弁理士について言えば、出願だけでなく、知財サイクルと知財戦略全般について活動が要請されているが、出願だけでも生活できるなら、そのような広汎な活動能力を自ら修得しようとはしない。企業も弁護士も同じで、競争状態に置かれれば、生活のために、自らトレ-ニングせざるを得ない」。

4.弁護士への期待:

   知財サイクルの国際競争力は、知財訴訟の国際競争力である。そして、知財の国民および世界市民による利用は、知財紛争処理の法的秩序により維持される。従って、知財推進計画05が、米国の弁護士数百万人とわが国の2万人を対比して、弁護士数の増大と、その知財弁護士化の促進を掲げたことは、一般の認識を新たにした。

  米国弁護士のうち、米国特許代理士資格を併有する者が米国特許弁護士であるが、わが国の弁護士が弁理士登録した者と比べると、米国の場合は学歴要件で科学技術能力が担保されると共に、知財法知識が代理士試験で担保されている点で、米国の方が制度的にはグレ-ドが高い。米国特許弁護士数2万3千人の国際競争力をどのように評価し参考とすべきか、またその母体である米国弁護士には、わが国のような司法修習生制度がなく、競争によりスキルアップがなされていることを、どのように評価するか、当面の課題とすべきである。わが国制度の利点も、十分認識しなければならない。

5.競争の質と地域分布:

   弁護士・弁理士とも、都内等で事務所間の競争そのものは現存し、所得格差も当然発生しているが、「競争の質的激しさと、競争の地方拡散」が課題である。この二つは士業者のスキルアップと顧客対応の態様によって客観的に評価が可能であり、中立者と、代理委託検討者の判定に俟つほかない。

  なお、弁理士数の統計は、特許庁公表の「特許等統計2006年版」等に詳しいが、2006-6-30現在の弁理士数は6774名で、2004-11-30現在の5769名より約1000名増加している。しかし、東京都23区内に3627名(62.9%)であったのが、4206名(62.1%)に増加(23区率は0.8%減)し、増加総数(1005)のうち579名(57.6%)が東京都23区で増加しており(上記17ケ月間増加率16.0%)、都心等の競争は著増していると考える。

(注)GoogleによるK特許事務所の広告:「通常30万円かかる特許出願を12万円で行うことができます。もちろん、特許事務所による合法的なサ-ビスです」(以下引用略)。

この広告は、サ-ビス内容を詳述(例えば、発明説明書と図面を、依頼者が同特許事務所に提出すべきこと。そのフォ-ムも示している。)しているので、その点では明朗であり、本人出願(1万6千円と実費)に比べての得失も、丁寧に解説している。

2006年8月22日 (火)

家畜の遺伝資源保護

黒毛和牛等・農林水産省案2006-8-3

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        家畜の遺伝資源保護の国内国際重要性:

  和牛のブランドを始め、BRICs諸国の生活水準向上に伴う畜産品流通のグロ-バル化によるブランドの多様化に対応して、内閣知財戦略本部の知財推進計画06(2006-6-10)は、次のように計画した。

2006年度から、国際的に確立した直接的な保護制度が存在しない黒毛和牛等の家畜の遺伝資源の保護について、農水産省知財戦略本部の下に検討会を設置し、知財制度の活用も含め、遺伝資源の保護と活用の可能性について明らかにする」。

2.        家畜の遺伝資源保護第5回検討会;

2-1        上記(2006-8-3)では、次の案が合意された。(要旨)

2-1-1        和牛について知財制度の活用

2-1-2        精液の流通管理の徹底

2-1-3        「和牛」表示の厳格化

2-1-4        和牛の改良・生産体制の強化等

2-2               今次案に至る検討会における問題点(委員の質疑と農林水産省の答弁)

2-2-1        パテントプール

 質疑: 知財戦略的マネージメントの仕組みとしてパテントプールについては、独禁法上の問題に注意を要すると共に、戦略的マネージメントの一つとしてパテントプールを位置づけるよう計画すべきではないか。

 答弁: ご指摘の通りである。

2-2-2 和牛はわが国の固有財産

 質疑: 和牛が、どういう経緯をもって、産官民で生み出してきた国民共有の財産であるのか、従って、それを積極的に使って、更なる豊かな国民生活に貢献するのかという意義を、明示すべきではないか。

 答弁: 「和牛はわが国固有のものであり、改良期間の長年の努力に成るわが国の固有財産といえる」と表現したい。

2-2-3      識別表示

 質疑:: 「和牛」を「WAGYUU」と表示した場合に、混同を生じないか。

 答弁: 公正競争規約を見直す際に、紛らわしい表示を防ぐ工夫をしたい。

2-2-4      外国産の和牛

  質疑: 「国内で生まれ育ったもののみを和牛とする」と、国内で生まれ育ったことが確認できない「和牛らしきもの」は何と書くか。「外国産黒毛何」とか書くのか。

  答弁: 産地名の表示を要するが、「和牛」と書いてよいか、決めていない。

2-2-5     交雑種

  質疑: 過去に輸出された和牛の遺伝資源を利用し、外国種との交配により交雑種が生産されて、わが国に輸入されている。交雑種について、いかに配意するか。

  答弁: 優れた和牛は、交雑しても優れた肉を生産できる。和牛の保護により、交雑牛も優性が保たれる。

3.        所見:

  今次案では、「和牛の遺伝資源保護のための遺伝子特許等の活用」の項は、「和牛の遺伝資源の保護・活用を効率的に進めるためには、特許権等の融通、国民サ-ビスの向上のための活用等、知的財産の戦略的マネージメントの仕組み(「パテントプール」等)が必要」という記述とされた。

「特許権等の融通」「パテントプール」の具体的構成が、農林水産省と和牛業界によって提示されることが、対策樹立の前提となる。

 

2006年8月21日 (月)

キリンビ-ルの農産知財戦略

農水産省知財戦略本部・有識者招致第1号

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.㈱キリンビ-ルアグリバイオの松島嘉幸社長(キリンビ-ル執行役員)が登場:

1-1 本年新たに発足した農水産省知財戦略本部(本部長・農水産大臣)は、先ず、企業や学会から有識者を招致し、意見を交換する方法を採っている。

  その第1号がキリンビ-ル(ビ-ルシェア2位:発泡酒はトップ)在勤者(現在、バイオ担当)であるが、同社の連結事業構成(05)は、酒類63%、飲料23%、医薬4%、種苗・花等10%で、ビ-ルシェア1位のアサヒビ-ルに比べて、バイオの多角経営化を実現している。海外比率は既に14%に達し、海外への積極投資を企業戦略の一環として強化している。象徴的には、「キリンビ-ル」からグロ-バルな「キリン」ブランドの「花商品」へと発展している。

1-2        松島社長は次のように説明した(要旨)。

1-2-1        ビール事業で培ったバイオ技術により多角化している。

1-2-2        途上国で種苗を生産し、日本・欧州で販売している。

1-2-3        花卉育成事業をバイオブ-ム時に開始し、企業買収を重ねて事業環境を整備した。

1-2-4        わが国では花の消費が少なく、キリンブランドを確立しつつ需用を喚起する。

1-2-5        最近、安価な輸入花卉が進出し、育成者権者の保護強化を要する。

2.キリンビ-ルと農水産省の意見交換(要旨)

2-1 農林水産省: キリンビ-ルの種苗戦略の要旨は何か。

   キリンビ-ル: 育種は消費者ニ-ズを把握し易い日本国内で行い、種苗生産は生育環境が適する海外で行う。

2-2  農林水産省: 種苗の不法増殖に対抗する技術、例えばコピープロテクトの仕組みを備えた種子を開発しているか。

キリンビ-ル: 植物には、種子繁殖性と栄養繁殖性の2種があり、種子繁殖性のものではF1品種(SANARI PATENT 注:第1世代品種)で対応できるが、栄養繁殖性のものについては、生物学的な不法増殖を阻止する方法を開発することが困難である。

2-3 農林水産省: 日本国内でのキリンビ-ル育成品種大規模生産地の立地選定・契約締結・生産地育成は、どのように行っているか。

  キリンビ-ル: 国内開催の品評会・内覧会等で有用な生産地を見出し、消費者が安心するブランドを確立して品質を維持する。

2-4  農林水産省: 育種事業の要諦は何か。

   キリンビ-ル: ビール事業由来のバイオ技術、世界の種苗生産会社の買収、マ-ケッティング重視(新品種の育成が完了しても、直ちには出荷せず、市場動向を見て最適時期に出荷する)。

2-5 農林水産省: 上海アグリバイオ設立に伴う育成者権堅持の方策は何か。

   キリンビ-ル: キリンのブランドを守るため高品質の種苗を作ることである。キリンでは植物ごとに部会を設けている。侵害発生時には、警告ではなく、説得により、「契約を結んで正しい取引をすること」が発展的であると理解してもらう。

2-6 農林水産省: 有用品種の流出を防ぐ手立てはないか。

   キリンビ-ル: 法的拘束力への依存は、必ずしも有効的でない。植物が持つ商品価値と特性に応じて、種苗の流通先を変えるなどの自衛手段を採っている、なお、栄養繁殖性植物については、手段が全くない。

    民事訴訟の提起は経済的に非効率的である。

2-7 農林水産省: 攻めの農政として農産物輸出を拡大させるため所要の対策は何か。

  キリンビ-ル; 輸出に際し、市場調査を充分行い、ターゲットを絞ることである。良品は売れるから、輸出環境の整備で輸出量は伸びる。堂々と、文化を輸出するという考え方を堅持されたい。 

3.所見:

  遺伝子組替技術の応用に論及されていないことが惜しまれる。

      

2006年8月20日 (日)

特許審査待ち件数著増の評価

制度・運用・考え方、どれが問題か

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        淵源は特許出願大国:

 審査対象特許出願件数について、特許庁統計06版の下記比較表は、わが国の出願数(2005427,078件)が米国の30万件余をも大幅に上回り、下記抜粋の諸国を遥かに上回ることは、顕著な事実である。観光立国の国も別段、特許立国をトップには掲げず、欧州特許庁の数値もわが国の3分の1を下回る。

 従って、わが国特許出願数に対する評価が先ず必要であるが、取敢えずは知的立国の熱意の反映と評価されている(わが国の出願数値推移はSANARI PATENT816日記事)。

諸国特許出願件数(国コ-ド順)(抜粋):

2001年    2004

オ-ストリア   2,071         2,514 

オ-ストラリア  29,788         30,206

ブラジル     19,992         18,692

カナダ      39,716         37,277(03) 

スイス      2,453          2,293(02)

中国       82,435        102,889(02)

ドイツ      58,967         59,234

デンマ-ク    1,945          1,925(03)

欧州特許庁      110,027        123,071

スペイン          2,999          3,184

フランス         17,104         17,290

イギリス         32,081         29,954

イスラエル       11,539         10,258(03)

インドネシア     10,592         10,671

韓国            121,298        140,115

ロシア           34,090         30,190

2.        わが国特許審査請求および「待ち件数」の増大:

  特許庁統計06版には、審査請求件数が、1996202,442件、1997217,038件、1998224,458件、1999173,976件、2000156,541件、2001ND2002258,375件、2003147,585件、200475,742件と推移して2005年は6,555件と表記されている(ミスプリントでないとすれば)。

  数値の変動が著しく、審査請求期限や手数料改正の影響も含めて、変動原因の解析を明示することが、特許予算・要員増加の国民的納得を得る上に、先ず踏むべき過程と考える。

 一方、「審査順番待ち件数」は、1998352,566件から、1999364,829,2000433,419,2001488,656,2002508,122件、2003522,285件、2004605,949件を経て、2005755,138件(各年末)に至っており、その影響をいかに理解し、対策を制度改正と運用改正のいずれか、または双方に求めるべきか、討論は様々になされているが、着地点が見えない。

2006年8月19日 (土)

特許強制実施権制度の国際比較等

特許庁2006年版統計の有用性と不足性

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.特許庁の多項目統計に表敬:

 「出願等統計2006年版(2006-8-15 公表)は、特許(出願、審査請求、ファ-ストアクション(SANARI PATENT: 第一次の特許査定・拒絶通知等)、特許査定、登録の各件数)、新実用新案(出願、登録、技術評価書請求の各件数)、旧実用新案(出願、審査請求、ファ-ストアクション、登録査定、登録の各件数)、意匠(同)、商標(出願、ファ-ストアクション、出願公告、登録査定、登録の各件数)、審判と異議申立(拒絶査定不服審判、補正却下不服審判、無効審判、訂正審判、取消審判、判定、異議申立)から成る「総括統計」、審査・審判の各期間、審査請求の推移、特許の審査順番待ち件数、内外国別統計、分類別統計、個人・法人・官庁別出願件数、代理人有無別出願件数、大学別特許登録公開件数、承認TLO別特許公開件数、都道府県別出願・登録件数、審決・決定取消訴訟件数(出訴件数、判決結果、上告申立・受理件数と判決結果、早期審査・審理、現存権利関係(内外国人別現存権利件数・現存率)、登録した権利の変動、国内企業特許出願上位300社の業種別出願・登録状況から成る「主要統計」、国際出願・国際予備審査請求件数、PCT国際出願に係る国際公開公報掲載の上位100社までの出願人などから成る「国際出願関係統計」、「主要国機関に関する統計」などで構成され、特許庁の労に表敬する向きが多いと考える。

2.不足性:

  一方、実務的に見て、内容の不足が指摘される。例えば、

2-1        特許権の強制実施権制度の各国別一覧表に、実際の発動件数の記載がないこと、および、このことに関連して、サミット先進国以外の諸国の制度比較が示されていない。

    わが国では特許法に、「不実施の場合の強制実施権制度」「利用発明のための強制実施権制度」「公共の利益のための強制実施権制度」の3つの場合が規定され、米国以外の先進国は、ほとんどわが国と同様の規定であるが、わが国では、3類型の強制実施権制度とも、発動された実例がない。    「実例がないこと」の記載、また、「他の先進国についての発動実例」の有無の記載が望まれる。

   このことが政策と直結するのは、「国際標準化についての国際協調が、市場制覇の企業戦略と並行して強調されるが、非同調的な必須特許権所有企業に対して、強制実施権制度の適用は本当に考えられるのか」。また、「グロ-バルなエイズ・鳥インフルエンザ等のウイルス拮抗医薬品について、人類福祉のための強制実施権制度適用が普遍的に考えられるのか」などの極めて重要な国際経済社会問題についてである。

途上国等では、TRIPS条約等を踏まえて、強制実施権制度を発動している例も多く、これらの国際的課題に直結する事項を欠かないように、07年版には望まれる。

2-2        各国産業財産権法一覧表や、各国特許出願政府費用等一覧表は、多数の国についてかなり精細に整備されているが、各国の知財サイクルを担う知財専門家制度の対比が全くなされていない。Patent Attorneyと英語標記しても、日米間でその資格内容がかなり著しく異なることを始め、欧米・中国等、人的接触が知財について激増するのに、権限や職能の画定が相互にできないのでは、極めて不自由で、ビジネス面での誤解をも招きかねない。先ず諸国の知財専門家制度の異同を、07年版には付加されることが望まれる。

2006年8月18日 (金)

日本発?の表現形式「マンガ」

内閣知財戦略本部計画における「マンガ」

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        知財推進計画06のマンガ政策:

  同計画の第4章「コンテンツを活かした文化創造国家づくり」(p97)の「優れたコンテンツを顕彰し、制作を促進する」の項は、「マンガという日本発の表現形式の国際的ステ-タスを高め、」という書き出しで始まっている。

 しかし、「日本発」という評価には、日本人自身が先ず疑問を持つはずである。政治や社会を風刺する漫画はグロ-バルに諸国新聞紙上で注目を浴びているし、ペレストロイカ以前のソ連共産党政権下でも、政治のトップへの非難・批判・反発の眼を行政官庁の非能率や怠慢に向けて反られせる手法として、行政風刺の漫画が共産党機関紙に掲載され続けたことが知られている。

 四コマ漫画に限定しても、例えば、終戦後の米国産「ペッティ-」四コマ漫画の邦訳四コマが新聞紙上に連載され、米国サラリ-マン家庭の近代化に、敗戦国民が憧憬した面もあった。

 従って、内閣知財戦略本部のいうようにマンガが「わが国発の表現様式」であるためには、マンガを「漫画」や「四コママンガ」から区別して、「マンガストーリ-本」と定義することが適切と考える。「本」と限定しないと、米国のミッキ-マウスやポパイ映画が想起され、「わが国発」に再び疑問が湧くからである。

 アニメがマンガを原本としてグロ-バルに評価され、マンガも日本優位が認められるに至ったので、内閣知財戦略本部の計画は、「マンガという日本発の表現様式の国際的ステ-タスを高め、諸外国において市民権を獲得するため、2006年度から、新進気鋭の外国人マンガ家を顕彰するための取組を推進し、現地の作家がマンガという様式を用いて表現を行うことを奨励する」と計画した。

2.        わが国マンガの海外盛況:

  欧米諸国でわが国マンガ本の翻訳本が広く好まれ、昨月のパリ・オタク展(フランス人が企画・開催)でも販売の盛況が報道されたが、アジアでの著作権無視や、マンガという商標を現地登録する逆手商法も用いられて、多様な対策が必要になっている。

3.        マンガの定義と性格の再考:

3-1        大流行しているシャ-プの電子辞書最新版には、マンガでなく漫画の項目があるが、「大胆に省略・誇張して描き、笑いを誘いながら風刺や評価や批評をこめた絵。戯画。カリカチュア-」の次に、「絵または絵と台詞(せりふ)によって表現される物語」とあって、後者が、内閣知財戦略本部計画のマンガに該当する。

3-2        Wikipedia百科事典の「マンガ」解説:

その内容はすこぶる豊富であるが、例えば、マンガとアニメを同一視した「マンガ物理学」を掲載している。通常の物理法則がユーモラスな方向で無視されているという事実を次のように色々指摘している。ただし、これらは米国起源の古いもので、「わが国発」への抵抗資料と考える。

3-2-1        宇宙空間は真空で音の伝達物質が存在しないが、爆発音や衝撃音が互いに伝達される。

3-2-2        悪玉の人数が多いほど、また悪玉側の火力が高いほど、主人公に命中させる確率は下がる。

3-2-3        ドラマチックなシ-ンは時間が捻じ曲がり、時間の流れが遅くなる。

4.        所見:

4-1  内閣知財戦略本部の政策立案者各位には、あまりマンガには親しまずに過ごされてきた人材が多いのではないか。マンガの歴史と性格についての究明は不十分のようである。

4-2 一方、今秋には、

京都市

と京都精華大学の共同事業として建設中であった、京都国際マンガミュージアムが竣工し、博物館機能と図書館機能を総合発揮する。

4-3 マンガのキャラクターの利用をめぐって、知財専門家にとっては著作権関連の問題(サザエさんのバス車体利用事件を代表例として)が多い分野である。

2006年8月17日 (木)

特許出願等統計2006年版

特許庁公表(2006-8-15)の解析

2006-08-16 弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        特許出願件数の増加、特許審査請求件数の著増:

1-1        2005年の特許出願件数は、427,078件で、1996年の376,615件に比べ、    13.4%増である。2004年の423,081件に比べ、0.94%増である。

1-2        2005年の特許審査請求件数は、396,933件で、1996年の186,415件に比べ、112.9%増、すなわち、2.13で倍である。2004年の328,105に比べ、  21%増である。

1-3        2005年のファ-ストアクション件数(審査結果の最初の通知(特許査定・拒絶理由通知等)の発送件数)は、243,548件で、1997年(1996no-data)の183,744件に比べ、32.5%増、2004年の234,109件に比べ、4%増である。

1-4        2005年の特許査定件数は、111,179件で、195,846件に比べ、43.2%減、2004年の112,221件に比べ、1%減である。

1-5        2005年の特許登録件数は、122,944件で、1996年の215,100件に比べ、    42.8%の減、2004年の124,192件に比べ、1%減である。

2.特許拒絶査定不服審判請求

2-1 2005年の特許拒絶査定不服審判請求件数は、22,444件(200016,324件、200423,284件)、請求成立件数は、5,384件(2000 5,439件、20045,449件)である。

2-2 2005年の審判請求不成立・却下件数は、5,781件(20002,485件、20044,581件である。

2-3 2005年の特許無効審判請求件数は、343件で、2000年の296件に比べ、     15.9%増、2004年の358件に比べ4,2%の減である。

2-4 2005年の特許無効審判請求成立件数は、一部成立を含めて、211件で、2000年の77件に比べ、2.74倍、2004年の133件に比べ、58.6%増である。

3.        本人出願・代理出願:

3-1        特許出願

2005年の特許出願 381,502件(1-1と異なる数値が示されている)のうち、本人出願は46,401件で、12.2%。1996年の本人52,808件、14.0%、2004年の本人50,806件、12%に比べて、代理人依存率は、ほぼ横ばいで推移している。

3-2        商標登録

   2005年の出願125,807件のうち、本人出願は、40,755件で32.1%。

   1996年の47,121件・25%、2004年の39,550件・32.5%に比べて、本人出願率が漸増後、横ばいを示している。

4.        解析:

    特許出願件数については、本年の件数程度で横ばい推移するという見方が有力と見受けられる、

    特許審査請求件数は、特許法の改正に伴う過渡的現象により加重されている。

   無効審判の成立件数・比率の著増は、特許性の要件についての厳格化を示すと見る向きが多い。

   特許・商標の本人出願率が増大していないが、技術の高度化による専門化と、識別子・ブランドの総合性による商標出願技術の高度化が、本人出願による知財経費節減効果を上回る代理人メリットを認識させていることによると考える。

2006年8月16日 (水)

国内花粉症緩和新米・輸出食周り品

農林水産品・食品の知財開発

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        農林水産の新分野:

  「技術と知財の力で新産業分野を開拓」という農林水産政策の柱は、次の内容を含んでいる。

1-1 革新的技術により、潜在需要に合致する新食品・新素材を開発すると共に、

技術移転・地域ブランドなど知財活用の施策により、新ビジネスの構築・産地形成を進める。

1-2        新技術による機能性農産物等の、新食品・新素材の市場規模は、現在約200億円であるが、開発中の花粉症緩和米等を含めると、潜在市場規模はその25倍~30倍と予測され、当面は5年後に3倍超、700億円の市場規模を目標とする。

1-3        林産分野では、バイオマス・ニッポン総合戦略に基づき、バイオエタノ-ル利用を創出する。

2.        農林水産食品の知財権化:

2-1 「ピンチをチャンスに」「守りから攻めへ」という農政の発想転換の一環として、「わが国の優れた農林水産物・食品を知財として権利化し、国際競争力の強化や収益性の向上に向けて知財権を積極的・戦略的に活用する」としている(2006-8-10 農林水産省「食料・農業・農村基本計画の具体化のための施策の実施状況」)

2-2 上記により、わが国農林水産物・食品の輸出額、平成122351億円、平成173310億円を、平成21年には6000億円とする。

2-3 その代表例として、鮭・鱒(平成17年輸出額147億円・対平成12年比1796%: 以下のカッコ内同)、帆立(109億円・147%)、リンゴ(53億円・878%)、緑茶(21億円・182%)、長薯(12億円・193%)、梨(8億円・90%)、蜜柑(5億円・105%)が示されている(SANARI PATENT: 帆立は最近、わが国産品が欧州で高く評価され、輸出が急増しているようである。わが国リンゴが中国高所得階層に好まれ、「青森産」等の擬似表示が周知の問題となった)

2-3 種苗法改正(2005)により、加工品への権利の拡大や、育成者権存続期間の延長(20~25年間→5年間延長)がなされ、わが国農産品加工業界の一層の活用が期待される。

3.        内閣知財戦略本部計画に対応:

 上記諸政策は、知財推進計画06の次の計画横目に対応する。

3-1        知財を活用した競争力の高い農林水産業を振興するため、農林水産知財戦略本部(2006-2設置)を中心として、2006年度から、農林水産分野の知財保護を強化し、地域ブランドの活用を含めて農林水産知財サイクルの好循環を生み出す。

3-2        植物新品種の保護制度の実効性を高めるため、2006年度から、種苗法関連対策を多面的に検討する。

3-3        農業者が自家増殖のため育成者権者の許諾を要する植物の範囲の拡大を検討する。

3-4        収穫物とその加工品の侵害品を判定するDNA品種識別技術をさらに開発し、その標準化を支援する。

3-5        農業者等の意図しない権利侵害を防止するため、登録品種表示マ-ク(PVPマ-ク)の普及を支援する(SANARI PATENT:「意図しない」の内容が問題である。北米大陸で、有権利品種の種子が気流で拡散し、無権利者の農地で混合繁殖した事例が放映された)

3-6        家畜の遺伝資源の保護を検討する。

4、所見:

4-1農林水産省の政策に、「食品および食周り品」として、「食周り品」を含めた輸出振興が強調されていることは、政策効果の波及を期するものとして注目される。「周り」の外延を極力拡大し、食器のみならず食品の造形・温冷調節・成分分析表示等の機器に及ぶことが望まれる。

4-2 中国を始め、欧米諸国で鯖・鮭等の消費が著増しており、わが国の消費可能率(分配率)が急減していると報道されている(TV東京:2006-8-14)。養殖の振興とその技術開発が急務と考える。

2006年8月15日 (火)

パリ「オタク展」のコンテンツ力

本年7月開催されたオタク展の反響

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        野村総研(NRI)のオタク市場予測以降:

 ITmedia.comが、HRIを「オタク分析のパイオニア」と名付けて、そのオタク市場予測を紹介したのは昨秋(2005-10-6)が最初であったが、その内容は、国内のオタク人口やオタク市場が、一般の認識を遥かに超えることを示したものとして注目された。

 しかし、オタクはむしろ海外で、国内以上に顕著なコンテンツ力を発揮してきたと見られる。すでに昨年のベネチアビエンナ-レの「JAPAN  OTAKU館」の盛況が、今次パリ・オタク展の活況を予告していたようである。

2.        NRI分析からベネチア館を経てパリ展へ:

2-1 NRIの上記分析は、

2-1-1 オタクの行動と消費の特性を分析して、先ず「オタク」を3分類した。

2-1-1-1 消費性オタク: こだわりの対象に対し、所得や余暇時間のほとんどを費やす。

2-1-1-2 心理性オタク: 創造活動をしつつ自分の趣味を周りに広げることを指向する。

2-1-1-3 真のオタク: 上記両性格を兼ね持つ。

2-2 従って、従来のオタク主要5分野(アニメ・アイドル・コミック・ゲーム・自作PC)より広い分野でオタク人口とオタク市場規模を予測している。

2-3 NRIの市場予測が上記時点では国内を対象としたのに対し、ベネチアでは全世界の観光客・コンテンツ専門家を集めたが、オタク館そのものは、わが国の主催によった。

  今次パリ・オタク展は、フランス人によるフランス人のためのオタク展であったことに、極めて大きな意義がある。

3.        ベネチア・オタク館の回顧:

昨秋、ベネチアでGIAPPONE OTAKU(日本館)が最高に人気を集めたと報道されたが(TV東京等)、確かに、ノルディック館のOur Natureや米国館のTranscending Types(彫刻群)よりも、文化的創造の革新性に富むと見受けられた。すなわち、「人格・空間・都市」の文化に変容をもたらす衝撃的な「現実と仮想の融合」として、また、「特殊な遠近法」・「少女や同性間の

 性感覚の自由な芸術的表現」・「都市を支えるポップカルチャー(SANARI PATENT: 「日本ポップカルチャ-委員会」には、中央諸官庁・主要企業所属の委員が数十名参加しているが、その報告を見ると、ポップとオタクはおおむね重なっている)」「個体内の個体」・「食品玩具」など、世界の入場者のインタビューで、ひとしく感銘されていた。

4.今次パリ・オタク展のコンテンツ力:

  フランス高校生の日本アニメファンの自主企画に始まるというジャポネエキスポ7回目が昨月パリで開催され、asahi.com等の報道を見ると、内閣知財戦略本部の知財推進計画が計画した「コンテンツ力の発揮」がすでに実践されている観がある。すなわち、

4-1        出店ブ-スは前回より6割増。

4-2        アニメ・マンガ・ゲーム等の本来オタクないしデジタルコンテンツのほか、デジタルコンテンツに登場する剣道・空手の講習コ-ナ-や茶道の体験コ-ナ-も賑った。すなわち、非デジタルコンテンツ(アナログ・ライブ)にデジタルコンテンツ力が及んだ。

4-3        メイドカフェには、高いコ-ヒ-にも行列ができた。

4-4        ゴスロリルック等の東京ルックが、パリにも進出した。

4-5        日本ファション・アルバロ-ザ等のショ-に歓声が沸いた。

5.所見:

   ロンドンでは、回転寿司や納豆料理の店の盛況が放映され、またバンコックでは甘茶から日本緑茶への嗜好転換が放映されている。わが国コンテンツ力の波及効果(4-2)が、どのように展開するか、グロ-バルな観察を要する。

2006年8月14日 (月)

コンテンツ証券の成功

知財ビジネスの多様化

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.「コンテンツ力」が合言葉に:

   内閣知財戦略本部の知財推進計画も、文化庁の文化芸術基本計画も、わが国のソフト力としてコンテンツ振興の国際的意義を強調している。「コンテンツ力」増強の掛け声はアジア諸国を含めて内外に高まっている。

 国内でのコンテンツ振興が先ず先行しなければならないが、TV東京(2006-8-12)は、外国映画優位のわが国映画興行界が、最近は日本映画に急速に傾斜し、「海猿」「有頂天ゴテル」「男たちの大和」等のヒットにより、興行収入が外国映画の下降と邦画の上昇で、共に1000億円近までカーブが接近している模様を伝えた。邦画の海外販売額は、年間2割増の趨勢のようである。

2.映画フアンドの成功:

  映画にも「当り外れ」があることは経験的事実であるが、複数の映画プロジェクトを包含するファンドにおいては、リスク分散により投資意欲を高め得る。

他方、特定企画の自信作映画の場合には、高利益を分散させずに配分できる可能性がある。

上記12Chでは、TDC信託による一口1000万円の証券式信託の成功が放映された。IDCweb-siteでも、「シネマ天国・天使」の投資証券募集は、先日の締切日までに、当初予定通り1億8千万円全額を達成したと発表している。

3.JDC信託の事業内容:

  JDC信託(ジャパン・デジタル・コンテンツ信託株式会社:本社・虎ノ門)は、1999-3-3設立、東証マザ-ズに上場(2000-12-5)、信託免許を取得してその業務を開始した(2005-6-13)。現在の資本金は227291万円(SANARI PATENT: 免許信託会社の資本金要件は最低1億円)。主要株主に、トヨタ、ビクター、NTTデータ等が名を連ね、経済産業省傘下の政策機関的な東京中小企業投資育成会社も出資している。

 JDCは、デジタルコンテンツ投資関連業務(東京マルティメディアファンド)に先立ち、次のような知財関係業務を行っている。

3-1 コンテンツ流通に係るプラットフォ-ム事業の組成のサポ-ト、デジタルコンテンツ業界の支援組織に対する基礎調査の受託、著作権管理に対するアドバイス

3-2 マ-ケティングミックス手法・プロモ-ション手法を考案・実践するコンサルティング

3-3 著作登録とその権利保全のサポ-ト、著作者と利用者のマッチング、著作権処理のアドバイス(文化庁に、著作権管理事業者として登録している)。

4.        大手商社の動向:

  三菱商事ほか大手商社のデジタルコンテンツ事業への進出は、しばしば報道されてきたが、JDCでは、その影響について次のように述べている。

「コンテンツ資金が他の業界からも流入し始め、また、海外進出についても、国内コンテンツの海外販売に伴う市場拡大が見込まれる。JDCにとっては、コンテンツ市場拡大の利益の方が大きい」。

5.        新たな知財関連業態の続出:

 デジタル放送関連の特許管理会社を、松下電器・ソニ-・三菱電機の3社が均等合弁で設立したこと(特許権の共同管理でメ-カ-サイドの手続を簡素化する。)、上記3社のほか日立製作所・東芝・ビクタ-・NHK等が加わって地上デジタル放送受信機に関する特許共同管理(特許ライセンス処理の受委託等)の共同出資会社を設立することなど、管理型信託会社の実働も見込まれ、信託行法改正の効果が実ってゆくものと期待される。

6.        所見(信託会社の法定7種類):

6-1  新設信託会社で知財に関する信託業務を行う場合、信託業法およびその施行令・施行規則・業務方法書等の所定水準の知財専門人材が配置され、業界・知財関係者・投資者等が共に受益を確保できる体制が構築されつつあると考える。この場合「信託」名称の会社に7種類あり、それぞれの特殊性に応じて、上記知財専門人材の機能が多様であることを認識しなければならない。

 すなわち、信託業法の信託会社には、信託兼営金融機関、免許信託会社、管理型信託会社、グル-プ企業内信託会社、承認TLO、信託契約代理店、信託受益権販売業者の7種別があり、業務内容と性格の多様性に応じて規制の態様にも多様性が見られる。

6-2 「信託会社の業務をサポ-トする会社」もApplication Service Providerとして設立され、活動している模様である(日本ユニシス等)。信託制度応用範囲の拡大が制度上達成された今日(英米に比べて頗る遅延)、信託制度全体の発展に期待する。

2006年8月13日 (日)

沖縄の古武道「躰道」の商標判決

母子間の宗家承継に知財高裁8-9

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        知財高裁対象「社会現象」の拡がり:

  母Y(被控訴人・原審原告)と、その娘X(控訴人・原審被告)との訴訟に、知財高裁が人情の機微にも触れた判断を示したのが、平成18年(ネ)第10033号 商標権移転登録抹消登録請求控訴事件の知財高裁判決(2006-8-9)である。

 沖縄の古武道「躰道」の現宗家・母Yは3人の子を持つが、宗家の継承を躰道」の団体に委ねたいと考えてきたと推考されている。娘の一人Xが躰道」商標の移転登録を、母Yに無断でしたのに対し、母Yは、原審東京地裁で、この移転登録の抹消登録を求め、勝訴したので、娘Xがこの原審判決の取消を求めたという事案である。

2.        知財高裁の判断:

2-1        母Yは、「沖縄に古くから伝わる「躰道」という武道を普及・体系化した亡夫A」の妻であり、Aの死亡後、その宗家を承継した。娘X母の長女で、別々の市町に住んでいる。

2-2        本件商標は「日本躰道協会」「NIHON TAIDO KYOKAIの文字で成り、母Yを商標権者として登録された(2004-6-4)

2-3        娘Xは、母Yが「日本躰道協会」に本件商標権を譲渡する意向であると知り、娘Xが保管していた亡父A名義(2-1)の印鑑で商標権譲渡証書・移転登録申請書を作成提出し、移転登録がなされた(2004-7-2)

2-4        娘Xは、母Yの信金口座に譲渡代金として6万6千円を振込んだが、母Yは、「娘Xに譲渡する意思がない」と内容証明郵便した(2004-7-12)

2-5        上記のことは、日常的に往来ある母娘間の行為として不自然で、本件商標権の譲渡を母Yが承諾しているとは認められない。

2-6        その他の、娘Xの反論は、何れも採用できない。

2-7        よって原判決は相当であり、娘Xの控訴は理由がないから、棄却する。

3.        所見:

  判決文には、宗家制度で維持される文化芸術の社会に特有の親族関係・団体関係の機微が具体的に明細に描かれている(Yの亡夫Aの男系尊重、Yの子の息子と娘の間柄等)。娘Xは、「特許庁に手続を照会して」移転登録したと述べているが、「特許庁」を仮に「弁理士」と置き換えて読むと、弁理士の注意範囲はどうかと、思いを馳せざるを得ない。

2006年8月12日 (土)

原告トップツア-(旧・東急観光)の商標

知財高裁は原告の審決取消請求を認容8-9

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        商標登録の不使用取消の取消請求:

  平成18年(行ケ)第10105号 審決取消請求事件:

1-1        本件は、商標登録を不使用取消した審決の取消を求める事件で、原告はトップツア-(旧・東急観光)(訴訟代理人・員見正文弁理士)、被告は取消審判の請求人Y(訴訟代理人・中島 淳弁理士ほか)である。

1-2        トップツア-(旧・東急観光)は、商標「TEAM」(指定役務第39類:旅行・プログラム関係)(以下「本件商標」)の商標権者である(2001-10-19設定登録)

1-3        Yは、本件商標のうち、「電気計算機のプログラムの設計・作成・保守」について登録取消審判を請求し、特許庁は取消審決した(2006-1-31謄本)。審決の理由は、「トップツア-(旧・東急観光)が、本件審判請求登録(2005-4-7)前3年以内に日本国内で「電気計算機のプログラムの設計・作成・保守」について本件商標を使用していない」ことである。

2.        トップツア-(旧・東急観光)の主張(要旨):

2-1        トップツア-(旧・東急観光)は、2006-7-1以降、「電気計算機のプログラムの設計・作成・保守」のプログラムを「旅費精算・管理システム」と称し、トップツア-(旧・東急観光)のホ-ムペ-ジにその内容等を掲載し、また、その提案書等を顧客に頒布している。

2-2        本件商標の通常使用権者として、東急ストリームライン、日本ケイデンス、三井情報開発は、争点期間内に「電気計算機のプログラムの設計・作成・保守」役務につき本件商標を使用している。

3.        Yの反論(要旨):

3-1        上記2-2の通常使用権許諾契約の存在を示す証拠方法が提出されていない。

3-2        「システム」は、商品に当たるとしても「役務」には当たらない。

3-3        上記2-2の事項中、ホ-ムペ-ジでは「旅費精算・管理システム」の名称として本件商標を使用するに過ぎず、説明書等は商標法2-3-8の「取引書類」に当たらず、さらに、特定一企業に提示されただけであるから、「頒布」に当たらない。

4.        知財高裁の判断(要旨):

4-1        諸事実によれば、トップツア-(旧・東急観光)の旅費精算・管理システムとは、従来の出張申請・手配・精算・支払等の業務で重複していたプロセスを見直し、Web上で電子的に処理・管理するプログラムで、顧客の需要に応じカスタマイズされるシステムの提供であるから、「電気計算機のプログラムの設計・作成・保守」に当たる。

4-2        トップツア-(旧・東急観光)は、上記4-1の役務を争点期間内(1-3)に提供するに際し、本件商標を使用していた。また、このシステムを「TEAMS」と称して、これを記載した提案書を顧客に交付していた。

4-3        東急ストリームラインも、トップツア-(旧・東急観光)から通常使用権の許諾を得て、TEAM情報をホ-ムペ-ジに掲載している。

4-4        通常使用権の許諾は、契約書等の書面がなくても、できる。

4-5        従って、本件審決は誤りであり、トップツア-(旧・東急観光)の主張は理由があるから、その請求を認容する。

5.        所見:

5-1        商品と役務の区別、通常使用権許諾の成立要件など、商標実務の参考になる。

5-2        商標等のパテントが権利付与後に審決で取消され、さらにその審決が知財高裁で取消されることは、パテントの法的不安定性の側面を示すが、企業の立場からは、この不安定性は、パテント制度に本質的に内在するものと認識し、パテント関連投資のリスク評価とリスク対策を適切に行うことが、知財戦略の要諦と考える。

2006年8月11日 (金)

「特許侵害警告書」判決8-8

東京地裁「警告の違法性阻却」

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        特許侵害警告書の多発予想と今次判決:

  内閣知財戦略本部の知財推進計画は、知財弁護士等の著増を必要としており、その実現による知財権保護の充実が期待されるが、この趨勢に伴って、訴訟提起の前段階における特許侵害警告書の適切な発出が、知財戦略の一つの要めをなすこととなる。

 平成17年(ワ)第3056号 損害賠償請求事件の東京地裁判決(2006-8-8)は、原告・日本コパック㈱(以下「コパック」)が、被告・ミスミ㈱とその代表取締役甲(以下「ミスミ」)に対して、「ミスミはコパックの取引先(カルフ-ル社)に、コパックの製品がミスミの特許権を侵害しているとの虚偽の事実を告知する警告書を送付し、コパックの信用を毀損した」として、不正競争防止法に基づく損害賠償等を請求した事案である。

 東京地裁は、ミスミの「合成樹脂製クリップ」特許権の無効に至る経過等を示した上で、ミスミの特許侵害警告行為は違法性が阻却される正当行為であるとして、コパックの損害賠償等請求を棄却した。

2.        東京地裁の判断の諸要素:

  下記の2-12-22-3でコパックの主張を認める趣旨の判断を示しているが、2-4により、ミスミの行為は、違法性が阻却されるとして、コパックの請求が棄却されたものと解する。

2-1        「信用の毀損」の要件について:

「特許侵害警告書の受取者(第三者:本件ではカルフ-ル)に、特定の者(想定侵害者:他人:本件ではコパック)の商品等を想起させる記載があれば足り、特許侵害警告書に他人の氏名・名称が明示される必要はない。商品について事実に反する受け止め方を生じさせるのみでも、他人の営業上信用の毀損が発生するおそれがある。

    ミスミは、カルフ-ルが他社から仕入れているハンガーが特許侵害品であると指摘し、仕入先の名称を示すよう求めた」。

2-2 「競争関係」について: 

    「競争関係とは、双方の営業につき需要者・取引者を共通にする可能性があることで足りる。具体的競争関係の存在は必要でない。

    しかし、少なくとも、コパックもミスミも西友と取引関係があった」。

2-3 「虚偽の事実」について:

   ミスミの本件特許権については、無効審決が確定しているから、本件特許侵害警告書は虚偽の事実に関するものである。ミスミは、特許侵害警告書を送付した時点ではこの特許権は有効に存続していたから、虚偽でないと主張するが、本件特許侵害警告書は、その当然の前提として、本件特許権が無効理由を有しないことを主張しているものであるから、『本件特許権は無効理由を有しない』との点において虚偽であった」。

2-4 「違法性阻却」について:

  「競業者が特許権侵害を疑わせる製品を製造・販売している場合に、特許権者が競業者の取引先に対し、その製品が自己の特許権を侵害する旨を告知することは、後日その特許権の無効が確定した場合、競業者との関係で、『その取引先に対する虚偽事実の告知』に一応該当するが、告知行為がその取引先自身に対する特許権の正当な権利行使の一環と認められれば、違法性が阻却される」。

3.        所見:

    特許侵害警告書の実務上、今次判決における次の判示にも、十分注目すべきであると考える。  

 「競業者の取引先に対する告知行為が、特許権者の権利行使の一環としての外形を取りながらも、社会通念上必要と認められる範囲を超えた内容・態様となっている場合には、もはやこれを正当行為と認めることはできない」。

   特許侵害警告書業務が、知財専門家にとっても、リスクを意識すべき分野であることを示唆する判決と考える。本件における関与弁理士としての諸氏の適切な措置は、判決文に詳しいと考える。

2006年8月10日 (木)

文化芸術基本計画案とコンテンツ

日本食文化もフアッションもオタクも

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

文化芸術振興基本法に基づく第2次基本計画案への意見を、文化庁長官官房政策課あてに、つぎのように発信した。

文化審議会文化政策部会「文化芸術の振興に関する基本的な方針の見直しについて(中間まとめ)」(2006-8-4)について

1.        意見

1-1 「文化芸術振興第1次基本方針」の評価(p.2)について

  文化芸術振興法に基づく第1次基本方針が、平成1412月に閣議決定された後、この方針をも踏まえて、知的財産基本法に基づく知的財産推進計画に、コンテンツの創造・保護・活用が掲げられ、また、コンテンツ振興法が制定されました。

  コンテンツ振興法に定めるコンテンツの定義は、教養・娯楽に関するデジタルコンテンツ・アナログコンテンツ・ライブコンテンツとその相互変換を包含し、文化芸術振興法の文化芸術の範囲とほぼ等しいと考えます。

 また、知財推進計画が計画するコンテンツ振興の対象も、現在、著作権法の保護対象にはなっていない日本食文化やフアッション文化を含み、文化芸術の範囲とほぼ等しいと考えます。また、食育基本法も新たに制定されました。

  従って、国内外に、わが国文化芸術振興政策の意義を統合的に顕示するため、第1時基本方針ご策定後に制定・決定された上記諸新政策との総合評価を、統合性を明示されて記載されますことが望ましいと考えます。

1-2 「第2次基本方針」の基本的方向について

1-2-1  「文化力の時代を拓く」(p.6)について

   「文化芸術の振興に資する施策は文化庁だけでなく、他の省庁でも実施されていることから、関係府省間の連携・協力を一層推進しなければならな  い」と記述されましたが、例えば、日本食文化における食材を創造する育成者権や農水産品地域ブランド権、プログラム著作権と並存するプログラム特許権、フアッション文化を支える意匠権・商標権、オタク文化を演出するノウハウ等々、知的財産政策や食育基本法政策との連携を、なるべく明示的に記述され、国民の総合的理解を深められたいと願望いたします。

1-2-2 「地域文化を豊かにすること」(p.7)について

   「地域で住民が文化に触れ、創造に関わることは、個人がその個性を発揮し元気になるだけでなく、他者への発信や協働を通じて多くの人々を元気にする力ともなる」と記述されましたが、全国さらにはグロ-バルに、優れた地域文化の享受を効率的に可能とするためには、文化芸術をデジタルコンテンツ化して送信する技術の一層の発達が必須と考えます。IT振興基本法の文化芸術的意義とその実用が、地域文化芸術においても発揮されるべきことに言及していただきたいと考えます。

1-3 「第2次基本方針」における施策の見直しについて

 「著作権等の保護および利用」の項(p.15)には、「知的財産推進計画等に基づき、情報通信技術の進展など社会の変化に対応した著作権の法制度の在り方を検討する」、「著作権等の権利の適切な保護や、著作物の円滑な流通の促進、著作権教育の推進を図る」という記述が全てで、著作権以外の知的財産は「等」の一字に示されたに過ぎません・文化芸術基本法に基づき閣議決定される基本方針ですから、文化芸術と知的財産・科学技術との関わりを、もっと幅広くお示しいただきたいと考えます。

2.        貴「中間まとめ」への賛意

  文化芸術の振興の今日的意義について、次の記述をされたことには、知的財産推進計画の「コンテンツ振興の意義」の記述とも呼応し、深く賛意を表します。

2-1 「文化には、人々を惹きつける魅力や社会に与える影響力があり、このような『文化力』が『国の力』であることが世界的にも認識されている」(p.2)

2-2 「近年の産業構造の転換に伴い、文化が新たな需要や高い付加価値を生み出す源泉にもなっている」(p,2)

2-3  「文化政策における国際競争が展開されてきている」(p.2)

 

2006年8月 9日 (水)

フジテレビの著作隣接権仮処分命令申立

東京地裁が申立却下判決(2006-8-4)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        平成18年(ヨ)第22022号 著作隣接権仮処分命令申立事件:

1-1        フジテレビの申立は、「永野商店は、同社が運営する放送番組送信サ-ビス「まねきTV」において、目録記載の放送(本件放送)を送信可能化してはならない」というものである。

1-2        永野商店は、「コンピュ-タおよびコンピュ-タ付属機器の製造等」「放送設備の開発・運用等」「電気通信事業法の一般・特別第二種電気通信事業」等を事業目的とする。

1-3        フジテレビは、本件放送につき、送信可能化権等の著作隣接権を有する。

1-4        永野商店は、「まねきTV」という名称で、利用者がインタ-ネット回線を通じTV番組を視聴できるサ-ビス(本件サ-ビス)を提供している。

1-5        本件サ-ビスは、ソニ-のロケ-ションフリ-TVの構成機器であるベ-スステ-ションを用い、インタ-ネット回線に常時接続する専用モニタ-・PCを有する利用者がTV番組を視聴する。

1-6        フジテレビは永野商店に対し、本件サ-ビスがフジテレビの送信可能化権を侵害しているとして、その差止めを求めた。なお、フジテレビのほか5TV会社も同様の申立をしている。

1-7        争点は、「本件サ-ビスにおいて永野商店が本件放送の送信可能化行為を行っているか否か」および「保全の必要性」である。

2.        フジテレビの主張(要旨)

2-1        著作権法2-1-9-5の「自動公衆送信装置」は、「公衆による直接受信を目的とする有線電気通信の送信のうち、不特定の者の求めに応じ自動的に行うもの」である。

2-2        従って、「自動公衆送信する機能を有する装置」とは、客観的機能として、この装置で人が送信した場合に、自動公衆送信に当たる機能をもつ装置である。

2-3        著作権法の「公衆」は、「不特定」ないし「特定多数」者であるが、本件サ-ビスの利用者は、不特定者に当たる。従って、ベ-スステ-ションは、「自動公衆送信機能を有する装置」である。

2-4        永野商店は、物理的にベ-スステ-ションをアンテナ端末・インタ-ネット回線に接続し、放送波を入力しており、送信可能化の実質的主体となっている。

3.        永野商店の主張(要旨)

3-1        永野商店は、本件放送の送信可能化行為を行っていない。利用者が自らTV放送をデジタル化しているに過ぎず、それは違法な著作隣接権侵害行為ではなく、永野商店がこれに関与しても違法でない。

3-2        永野商店は、利用者が入手したベースステ-ションの預託を受け、必要に応じメインテナンスしているに過ぎない。

3-3        利用者AとBの各ベースステ-ションは、独自の完結した機能を発揮でき、また、複数のベースステ-ションの全体を不可分一体の装置とは考え得ない。従って、永野商店が預託を受けたベースステ-ションは、「公衆」に対し送信するものではない。

3-4        ベースステ-ションの所有権は利用者にあり、番組転送の決定に永野商店は関与できない。

4.        東京地裁の判断(要旨)

4-1        本件サ-ビスにおいては、特定の利用者が所有する1台のベースステ-ションからは、その利用者が選択した放送のみがその利用者の専用モニターまたはPCのみに送信され、この点に永野商店の関与はない。

4-2        機器の中心をなすベースステ-ションは、名実ともに利用者が所有し、その他は汎用品で、特別なソフトウェアも使用していないから、放送波は、利用者が各自所有するベースステ-ションで受信しているといわざるを得ない。

4-3        本件ベースステ-ションでの放送デ-タ送信は、1主体(利用者)から特定の1主体(その利用者自身)に対してなされ、公衆に対する送信に当たらない。

4-4        従って、本件サ-ビスにおける個々のベースステ-ションは、「自動公衆送信装置」に当たらない。

4-5        永野商店による継続的な管理行為も、利用者の管理行為の代行と評価される。

4-6        著作隣接権侵害に関するその他の点についての判断を含めて、フジテレビの本件仮処分申立には理由がないから、これを却下する。

5.        所見

5-1        技術的・機器的には、「放送と通信」の融合過程の一態様として見ることができる。換言すれば、「対公衆と特定者間」の電気通信技術・機器の融合過程の一態様でもあると考える。マスコミが、「TV番組を専用機器で受信し、インタ-ネット経由で海外でも視聴できるサ-ビスの著作権法違反事件」という表現で報道したのも、「専用」の特定者間性と「インタ-ネット」の公衆性の融合態様に着眼したものと見られる。特定者間が多数複合すれば公衆性に接近するという観点からも考察すべきである。なお、上記「海外」は、フジテレビの主張「本件サ-ビスの本質は、単なるベースステ-ションという物の寄託にあるのではなく、海外または放送区域外に居住する、本来その放送を視聴できない利用者に対し、フジテレビ等の放送を再放送して視聴可能にすることを本質としている」に依拠すると推察するが、一般人は先ず、そのようなサ-ビスを有意義な価値あるものと受け止めると推察され、本件の最終決着と併せて、このような便益の確保にも政策考慮が及ぶべきであると考える。

5-2        一方、著作権・著作隣接権の制限ないし限界を画定する一つの局面を示すものとして、今次判決を評価する向きも見られる。

5-3        TV側は知財高裁に即時抗告すると、マスコミに伝えられたが、現時点では、成り行きを注視するほかない。

2006年8月 8日 (火)

弁護士の一人法人・監査法人の指定社員

士業法人制度等の検討進む

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        パテントビジネス関与士業者の多様化

1-1 「パテント」「ブランド」「コンテンツ」等を含む「知財」概念の拡大に伴い、知財関与士業者も弁理士を始め、弁護士・公認会計士・税理士・司法書士等、益々多様化している。

 従って、経済産業省産業構造審議会知財政策部会の弁理士制度審議も、士業間の対比が課題の一つとなっている。

1-2        先ず特許業務法人の在り方に関連して。

士業法人の社員の責任制度は全て無限責任負担であったのが、弁護士法人と監査法人には、「特定事件について社員を指定した場合、その社員のみが無限責任を負う」という、指定社員無限責任制度が導入された(20042004-4から)

1-3        また現在、士業のうち弁護士についてのみ、「一人法人」が認められている。わが国弁護士の半数以上は複数弁護士を擁する法律事務所に所属しているが、一人の弁護士が経営している事務所でも、いわゆる「親弁」「イソ弁」関係により実質は複数という実態にあることから、一人法人を認めても継続性の観点からの問題は少ないと判断された結果と考えられる。

    なお、個人経営から一人法人化することには、個人資産と法人資産の画定というメリットが一般的に考えられている。

1-4        弁理士についても、指定社員制度と一人法人制度の導入が、特許業務法人制度活用のために、望ましいと考えられている。

1-5 一方、一人法人では、総合的サ-ビスができないのではないかという反論もあるが、「社員」が一人でも、所員は複数で対応できると考えられる。また法人の合併が促進されることも考えられる。

2.        士業者・師業者団体の強制加入制度

2-1  内閣の規制改革会議等から、これらの団体全般的に、非強制化の提案がなされてきたが、現在わが国では、強制加入制度を採っていないのは医師・薬剤師・不動産鑑定士等であり、弁護士・公認会計士・弁理士等の8士業については、各士業団体への強制加入制度を採っている。

2-2  外国では、米国・英国は強制加入制度を採らず、ドイツ・フランスはこれを採っている。

2-3  士業団体が報酬の統一をすれば、競争制限をもたらすといったディメリットを考える向きもあったが、既にこのような統一は廃止されており、士業者の研修確保等による質の維持向上と、士業者規律の保持のためにも、強制加入制度のメリットを認める意見が多いと見受けられる。

2-4  なお、前項の「強制加入制度に伴う競争制限的効果のおそれ」については、当該士業者の増員により対応できるとする意見が有力と見受けられる。

3.        所見

3-1                知財戦略のため、諸士業者の連携も必要性を増すので、各士業の特殊性に応じつつも、統一された理念のもとで今後の審議の進むことが望まれる。

3-2                韓国で、強制加入制度を廃止してまた復活した実例があるように、諸外国の多様な制度については、国情の相違を踏まえた確たる得失比較が必要と考える。

2006年8月 7日 (月)

本年初来の日本政策投資銀行知財融資

TV(12ch.8-3)紹介事例以外にも

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        プログラム著作権担保融資

1-1        年初来の知財担保融資事例として、先ず日本政策投資銀行は、福井銀行との協調融資により、「仕入・在庫管理に係るコンピュ-タ-プログラムのプログラム著作権」を担保とする融資を行っていると述べている。融資先は、本社を福井市に置く㈱春うららかな書房で、同社は、中古書籍卸売専業モデルを展開するベンチャ-企業であるが、具体的には、「独自のコンピュ-タ-プログラムを利用した仕入・在庫管理手法により、良質なモミック本を効率的に仕入れて、最近成長が著しい複合カフェ店やコミックレンタル店に販売すると共に、中古本のネット通販、さらには新刊書の卸売にも参入して、新たな事業モデルを構築している。

1-2 上記協調融資で、高度な仕入・在庫管理システムの基幹をなすコンピュ-タ-プログラムの拡大開発と、同システム構築の設備資金が供給されつつある。

2.        セラミック発光管利用関連パテント担保融資

2-1  日本政策投資銀行は本年6月から、大垣共立銀行と協調して、本社を安城市に置くメトロ電気工業㈱に特許権担保融資を行っている。セラミックメタルハライドランプ研究開発棟の設備資金を提供するものである。セラミック発光管を使用するセラミックメタルハライドランプは、通常の石英管発光管ランプより高い内部温度が可能で、効率性・演色にが優れ、新たな市場が期待されている。

2-2 パテント担保融資は、その直接対象事業に止まらず、事業化提案等による経営全体の高度化を支援して、融資の健全性をも確保することにより、企業・銀行の双方が受益する。

   メトロ電気工業の場合、速暖高効率による省エネ効果が優れた「高純度炭素繊維フィラメントを不活性ガスと共に石英管に封入したピュアタンヒータランプ」の開発を、上記提案等により進めている。

   ピュアタンヒ-タ-は、曲げ強度が大で、ランプのみならず多様な新分野への応用を通じて、同社の発展に寄与することも予想される。

3.        所見

3-1   パテント担保融資による地域産業活性化の意欲が高まり、TV東京は、日本政策投資銀行や中小企業金融公庫による地方企業へのパテント担保融資の実例を詳細に放映した(2006-8-5)。事例には、農産品の育成者権担保融資も含まれ、対象知財の一層の拡大が望まれる。

3-2  日本政策投資銀行や中小企業金融公庫の場合、知財担保の評価は、機関の性格上、現在は、主務官庁認可の業務方法書に依拠していると考える。将来収益想定額の現価還元方式等が一応適用されていると推察するが、総合経営力の要素としての知財価値地評価商法が高度化し、普通銀行にも広く普及するよう、期待する。

2006年8月 6日 (日)

活況の台湾知財情報

聯合専利商標事務所からパテント情報

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.台湾の弁理士事務所の活躍

  台北市に本拠を置く「聯合専利商標事務所」から、パテント情報の新刊号を御送付いただいた。内容が充実し、台湾ほかアジアのパテント動向(PATENT TRENDS)を知るために貴重な資料として、感謝に堪えない。

 例えば、

1-1 台湾・経済部知財局発表の2005年・特許出願件数は、79,437件で、この10年間に、68.82%の増加を示した(SANARI PATENT注:ここで「特許」は、発明・実用新案・意匠を含み、米国特許法の範囲と同一である)。

1-2 発明特許出願は、1-1のうち47,839件で、台湾本国人の出願がその42%を占める。外国法人出願件数の上位は、フィリップス、サムソンに次いでソニ-、松下が続き、インテル、エプソン、IBM,IDTの後に東芝、三洋が続いている。

1-3 わが国では特許権の裁定実施の例がないが、台湾・知財局が、「タミフル特許の強制実施に関するポジションペーパーを公表したことについて、上記1の資料は詳細に記載しており、国際社会が参考とすべきものと考える。TRIPS協定との関係を懇切に説明している(SANARI PATENT注:鳥インフルエンザウイルス拮抗薬としては数種類開発されているが、タミフルは錠剤で、注射剤に比し、配布・経口投与の便益性が高い)。

1-4 台湾・知財裁判所の設立が計画されている。

1-5 台湾・特許法の改正がつぎのように計画されている。

1-5-1 特許を付与しない発明を、「人体・動物の疾病の診断・治療・外科手術の方法」と「公序良俗・衛生を害する発明」の2項目に限定する(SANARI PATENT注:前者は、欧州特許法に類似する。米国特許法にはこの項がない。わが国にもないが、産業上利用可能性に非該当として、「人体」に関しては審査基準により現在は、特許性を認めていない)。

1-5-2 特許権の及ばない事由を、「個人の非営利目的行為」と「研究・実験のためのその発明の実施」に修正する(SANARI PATENT注:後者の具体的適用が、わが国で課題となっている)。

1-5-3 その他、動植物特許の権利消尽、農業者の免責、強制実施・交互実施に関する規定等を整備する。

1-5-4 専利士法(特許弁理士法)の制定案を台湾・立法院で審議中である。試験科目として、審査基準や英語が提案されている(SANARI PATENT注:特許代理人制度も存続するとのことなので、米国の特許代理人・特許弁護士の並存に類似する面と、わが国の弁理士に類似する面が共存する。課目は、わが国より実務的となる)。

2.台湾経済の発展

2-1 わが国外務省の情報(2006-4更新)によれば、台湾は、わが国の九州よりやや小の面積に、2278万5千人の人口を擁し、GNP3550億米ドルに達しているから、国土の利用効率・付加価値額は世界的に極めて高水準と考えられる。

 一人当たりGNPが15,676米ドルに達し、サミット先進国平均の80%に近づく。失業率は3.92%で、先行先進国を凌ぎ良好である。

2-2        輸出先の首位は中国、輸入元の首位は日本。主要産業は、電子・電気機械、鉄鋼金属製品、繊維、プラスティック製品である。

3.所見

  中国・韓国・インドも合わせ考えると、東アジアの知財パワ-は急速に強大化し、先般の先進国サミットの知財合意にも、大きな影響力を持つと考える。

2006年8月 5日 (土)

特許審査迅速化の意義と方策

高価値特許出願の活発化とノウハウ蓄積の総合戦略

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.「特許審査迅速化・効率化のための行動計画」(2006-1-17)への協力:

1-1 同計画によれば、「平成16年度以来、特許審査請求件数が急激かつ大幅に増加し、17年度末の審査待ち件数は約80万件に達する」見込みであるが、わが国産業の発展のためには、「高価値特許出願の活発化とノウハウ蓄積の総合戦略」をもって対処すべきであり、出願と審査請求の著増は、先ず、知財創造の活発を顕示する指標として積極的に評価すべきである。

1-2 一方、同計画が数値目標をもって特許審査迅速化計画を示したことは、産業界を始め各界が挙って評価するところである(例えば、経済産業省特許戦略懇談会2006-7-11の参加者発言)。

1-3  翻って、企業経営の経済性・合理性の見地から、知財戦略のコストも重要な要素である。特許出願件数のうちわが国特許付与に至る件数が約半ばに止まり、外国特許を得る件数は数十分の一に過ぎないこと、また、わが国特許を取得しても、特に中小企業の場合、その特許権の事業化価値想定が未熟であることから、経費負担を来たしたに止まる事例も多い(朝日新聞毎週連載の「休眠特許事例」等)。また、取得特許権に訴訟力を欠くため、大企業や競争企業からの特許無効訴訟提起によって、困憊・疲弊に至る場合も多い(対内閣知財戦略本部パブコメ)。

 従って、特許出願の質的選択は、企業自体の経営合理化のため必須であり、弁理士はコンサルティング業務として企業の選択を誘導し、ノウハウとしての蓄積を選択することを含め、依頼企業の経営に寄与することによって、企業からの信頼と対価を享受することが在るべき姿と考える。

2.制度的提案:

2-1 先使用権制度:

 先使用権制度ガイドライン(当初2006-6-16)は、今次更新(2006-8-4)を経て事例が一層充実し、弁理士が熟知した上で企業の出願行動を誘導することにより、出願の合理化と経営秘密の秘匿に資するところが大と考える。制度内容や各種立証手段の周知に、弁理士がその業務の一環として当たり得るよう、公証人手続の代理等を含め、諸官庁通達の整備が必要に応じなされるべきであると考える。

2-2        早期審査制度の拡充

  特許出願のうちには、いわゆる防衛出願等、必ずしも早期審査を要望しないものも多いことは、1-2の懇談会発言からも推考できる。

 従って、特許審査迅速化という場合に、審査の迅速を必要とする件数を「実質的審査迅速化案件」(当然、審査待ち案件の一定%)と考え、迅速化すれば足りると考える。

 このため、早期審査制度の適用対象企業等の限定を撤廃し、審査迅速化の経営上必要性が明示された出願を第一次的に特許審査迅速化計画の対象とすることが適切と考える。

 現在、この制度の申出件数は年間1万に満たず、拡充の余地は十分あると共に、企業規模等を問わず、弁理士の申出代理を促進すべきである。

2-3        特許審査ハイウェイの早期構築

 審査結果の相互承認が先ず、早期に実現されなければならない。このため、審査基準の可及的統一も並行することが望まれる。例えば、米国の特許性要件「新規・非自明・有用」は、「自然法則・高度・医療行為除外」等でわが国と異なるが、弾力的運用と審査基準改訂により、結果としての特許付与の同一性を期していると考える。相互承認の便益実現は、弁理士の知見を発揮する適切な場と考える。

2006年8月 4日 (金)

多極型モジュラジャック判決7-31

審査基準の国際比較がすでに活発

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

日米欧特許審査結果の相互承認に向けて、審査基準の比較も検討されておりますが、多極型モジュラジャック知財高裁判決(2006-7-31)には既に、3極審査基準の進歩性・非自明性・有用性に関する詳細な比較がなされておりますので、所見をまとめてみました。

1.        知財推進計画06後発の惧れ:

1-1 「日米欧三極間で特許の相互承認の実現を図る」ため、知財推進計画06は、「2006年度から、日米欧三極特許庁相互に、第1庁で特許となった出願について、第2庁において簡易な手続で早期審査が受けられる『特許審査ハイウエイ』の構築に向かう」として、審査結果の相互利用の制度的担保(審査基準比較等)を検討するとしている(p51)

1-2  しかし既に、先端分野のグロ-バル市場製品、例えば「多極型モジュラジャック」発明の特許性について、原告・松下電工と被告・タイクエレクトロニクスアンプの争点をめぐり、進歩性・非自明性・有用性の三極審査基準の比較がなされ、1-1の検討に先行した観がある(平成17年(行ケ)第10744号 審決取消請求事件 知財高裁判決 2006-7-31)。

    

2.        引用された審査基準(要旨)

2-1        米国審査基準

2-1-1        従来技術から自明というためには、当該発明の全ての構成要件について、第1に、従来技術の変更・組合についての示唆・動機付けがあり、第2に、変更・組合せへの合理的な到達可能性があること、が要件である(MPEP2141.01.) SANARI PATENT注:Manual of Patent Examination Procedure)。

2-1-2        当該発明を見てからの後知恵を避けるため、審査官は、従来技術のみに接し、かつ、発明がなされた時点での当業者の視点で判断するために、出願された発明により教示された内容を忘れ、発明された当時の意識に戻って判断しなければならない(MPEP2141.01.)

2-2               欧州審査基準

2-2-1        技術課題に直面した当業者が、従来技術の改変・適合に到達可能だけでなく、到達したであろう何らかの教示が存在しなければ、自明ではない。換言すれば、審査すべきことは、当業者が従来技術の改変・適合により当該発明に到達可能であったかどうかではなく、技術的課題を解決すべく従来技術が当業者を駆り立てるが故に、当業者が到達し得るかどうかである(SANARI PATENT注:「換言すれば」以下は「動機づけ」要件である。従来技術に動機づけが強いと、進歩性・非自明性は弱く判断される)(C-N, 9.8.3)(SANARI PATENT注:Guidelines for European Patent Examination)

2-2-2        一見、自明と見られる発明が実は、進歩性を有する可能性がある。いったん新しい思想が創作された後に、既知のものから出発して一連の一見容易なステっプにより、その創作への到達を証明できることがあるが、審査官は、このような「事後証明」ではなく。「実生活的」判断を行わなければならない(C-N, 9,10,12)

3.所見

3-1 今次判決には、「商業的成功」についても詳論されている。

3-2 わが国の「進歩性」と、米国の「非自明性」「有用性」を比較し、審査基準における特許性記述の比較の基盤とする必要がある。

3-3 「後知恵」排除は、審査官にとって、特に必要と考える。

2006年8月 3日 (木)

プロ野球選手の肖像権判決(8-1)

東京地裁120ペ-ジにわたる詳論

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

コンテンツ振興は、内閣知財戦略本部知財推進計画06の基幹の一つであるが、コンテンツ事業者と所属タレントとの契約関係について、一昨日の「プロ野球選手の肖像権に関する球団との契約関係」東京地裁判決(2006-8-1)が、示唆するところ多大と考え、所見をまとめてみた。

1.        コンテンツ政策における「タレントとコンテンツビジネス事業者」:

  平成17年(ワ)第11826号・肖像権に基づく使用許諾権不存在確認請求事件・東京地裁判決(2006-8-1)は、プロ野球選手と球団との法律関係に関する判決として、広くコンテンツタレントとコンテンツビジネス事業者との法律関係の適正のため、参考とすべき内容を含むものと考える。

 わが国コンテンツ振興法の定義規定では、コンテンツは、デジタルコンテンツ・アナログコンテンツ・ライブコンテンツの教養・娯楽に関するもの全てを含み、プロ野球等のプロスポ-ツ、演劇、映画、ゲ-ム等の、実演・デジタル電送・ゲ-ムソフトやカ-ド化(今次訴訟内容の一つ)等がコンテンツ事業に含まれる。

 プロ野球選手もタレントの一類型であり、球団もコンテンツビジネス事業者の一類型であると解するとき、肖像権の帰属に関する両社の法律関係の適切な解釈は、タレントとその所属コンテンツビジネス事業者との適正な法律関係を維持するためにも、裨益するところがあると考える。また本件は、ライブコンテンツのデジタルコンテンツへの変換ビジネスに伴って派生する「所属タレントとコンテンツ創造集団との法律関係」の整序に関しても示唆するところがあると考える。

2.プロ野球選手の肖像権に関する紛争

  今次判決に係る事案(以下「本件」)は、原告・プロ野球選手らが、被告・所蔵球団との間において、プロ野球ゲ-ムソフトおよび野球カ-ドにつき、球団が第3者の対し、原告の氏名・肖像の使用許諾権を有しないことの確認を請求した事案である。巨人・ヤクルト・ベイスタ-ズ・ドラゴンズ等々を含む。

 被告らは、野球興行等を目的とする株式会社として、プロ野球球団を運営している。

2.        本件契約条項(要旨)

 「球団が指示する場合、選手は写真、映画、TVに撮影されることを承諾する。選手は、これら肖像権、著作権等のすべてが球団に属し、また球団が宣伝目的のためこれらを利用することに異議を申立ない」。

 「選手は球団の承諾なく出演・TVプログラム参加・新聞雑誌記事執筆・商品広告関与をしない」。

3.        争点

3-1        本件契約条項は、不合理な附合契約として無効か。

3-2        また、独占禁止法違反として無効か。

4.        原告・選手の主張(要旨)

4-1        選手の氏名・肖像に係る本件契約条項は、法律上選手個人に帰属する肖像権を一方的に奪う不公正・不合理な附合契約であり、民法90条違反で無効である。

4-2        球団が選手の肖像権を奪うことは、独禁法の「優越的地位濫用行為」または「拘束条件付取引」である。

4-3        プロ野球選手契約は、極度に選手の交渉力が奪われた状態でなされたもので、球団の優越的地位を利用した契約であるから、選手にとって不当に不利益な場合にこの契約の条項の効力を主張することは、信義則に反する。

5.        被告・球団の主張(要旨)

5-1 原告選手の氏名・肖像の商業的利用権(パブリシティ権)は、本件契約条項により球団に譲渡または独占的に使用許諾されており、このことは長期にわたり原告選手も認識している。

5-2 プロ野球選手の肖像権の価値は、球団の莫大な投資とリスク負担の結果として生じたものであるから、球団がそれを管理することには合理性がある。

5-3 選手は「適当な分配金」を受けるなど、公序良俗違反でない契約内容である。

6.        東京地裁の判断(原告・選手らの請求を棄却。2項目付言)

6-1        本件契約条項が公序良俗に反し、民法90条により無効であるとの原告・選手らの主張は理由がない。

6-2        独禁法を根拠とする原告・選手らの無効主張は理由がない。

6-3        長年にわたり変更されていない本件契約条項は、時代に即して再検討する余地がある。

6-4        分配金について、球団と選手が協議し、明確な定めを設ける必要がある。

7.        所見

  東京地裁判決に対する原告・選手らの対応は未知であるが、判決の付言2項目については、コンテンツビジネスの他の分野においても、自省すべき場合があり得ると考える。

2006年8月 2日 (水)

営業秘密・知財高裁判決7-31

製品の共同開発契約と営業秘密

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        営業秘密紛争の類型

 知財を知財権として開示せず、営業秘密として企業戦略の要具とする傾向は、急速に高まると考えられている。これに伴う課題は、営業秘密保全の実効ある手段であり、また、保全が全うされなかった場合の措置である。

他方、営業秘密漏洩の類型は多様化する。退職従業員による漏洩のように、訴訟化の実効に乏しい類型、産学連携開発における参加学生等による漏洩のように、秘密保持契約の当事者性が不明確な類型、複数企業や個人発明者の共同開発における秘密保持契約が多数当事者間の紛争化する類型等である。

2.        今次知財高裁判決の概要

2-1        平成17年(ワ)第8362号 不正競争行為差止等請求事件・知財高裁判決(2006-7-31)の原告Aは、JCN㈱の代表取締役、被告は、㈱トリニティーセキュリティシステムズである。

2-2        原告の主張と請求:

2-2-1        被告は、原告と「ネットワ-ク環境での認証システム等」を共同開発している会社から、原告の営業秘密を取得し、これを利用してコンピュ-タ-機器とプログラムを製造販売した。

2-2-2        よって不正競争防止法に基づき、営業秘密の使用差止と損害賠償を求める。

2-3               前提事実:

2-3-1        JCN(Aが代表取締役)とNSHは、「NSHが開発した認知システム技術に基づき、両社共同でP2Pネットワ-ク(SANARI PATENT注:不特定多数の個人間で、サービスプロバイダ-を経由せず、直接、情報を授受するインタ-ネットの利用システム)環境における認識モジュ-ル製品(SANARI PATENT注:認識機能を構成する電子部品の複合構造製品)を開発するに先立ち、NSHがJCNに本件技術を開示する契約を締結した(2002-6-30)

2-3-2        原告A、NSH、JCN(Aが代表取締役)は、「Aが考案・設計し、JCNが管理する認証システム技術を基に、NSHの技術を利用し、3者共同で製品開発する」ための第一次開発契約を締結した(2002-9-1)

2-3-3        A、NSH、NAD(㈱NAD研究所)は、「Aが発明・考案・設計し、NADが管理する認証システム技術を基本とし、NSHの技術を加えて、3者共同での開発」を契約した(第2次共同開発契約)(2003-7-30)

   この契約には、「契約3者は、技術情報・営業情報等の機密情報を契約の目的外に使用せず、契約終了後も秘密を保持する」と定めた。

2-3-4        被告(2-1)は、NSHを吸収合併した(2004-1-5)

2-3-5        被告はその製品を販売し、販売準備し、販売予定している。

3.        争点

3-1         次の3点であった。

3-1-1        本件営業秘密が不正競争防止法2条6項の営業秘密に当たるか。

3-1-2        被告が不正競争防止法2条1項8号の行為を行ったか。

3-1-3        原告の損害はいくらか。

4.        争点についての原告・被告の主張と、知財高裁の判断

4-1        争点3-1-1

4-1-1 原告の主張: NADは原告の個人会社で、本件営業秘密は原告のみがアクセスできるから、秘密管理性を有する。また本件営業秘密は、これにより、イニシアルコストとランイングコスが安く、双方向性認証により認証管理サ-バ-を不要とし、P2P対応ファイル配信ビジネスにも適応するという有用性を有する。

4-1-2 被告の反論: 本件技術は全て、従来技術により公知であるから、秘密管理性がない。

4-1-3 知財高裁の判断: 不正競争防止法における営業秘密は、公然と知られていないものであることが要件とされる。本件営業秘密の内容である認証技術が、原告自らが出願した本件公知例にすべて開示されている公知のものであるとの被告の主張に対し、原告は争わず、そのほか、営業秘密性についても主張・立証をしていない。

4-2  その他の争点:: 上記4-1-3により、知財高裁は、「その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない」と判断し、原告の請求を棄却した。

5.        所見

    原告が営業秘密性を立証できなかった例であるが、個人発明者・考案者である原告と、原告が代表取締役である会社、原告の個人会社である別会社、原告が代表する会社に技術開示した会社を吸収した被告会社との、複数当事者間の技術開示関係が訴訟の契機となっている。

  営業秘密を含む技術の共同開発を契約する場合、特に関係当事者が多く、相互の関係が輻輳する場合に、営業秘密性の確認と保持を全うするスキルが、今後益々重要と考える。

2006年8月 1日 (火)

特許庁の特許戦略(行動計画)懇談

第1回特許戦略懇談会(7-20)の結果

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        特許戦略懇談会の性格

1-1        経済産業省の産業構造審議会知財部会が多くの分科会を擁して、特許の制度と戦略を検討し、内閣知財戦略本部と相俟って政策を進めてきたので、新設された懇談会には、更に実務的な戦略(行動計画)の決定・実行が期待される。

1-2        懇談会の設置者は経済産業省であり、経済産業省大臣が発足の挨拶をしたが、官庁側の他の出席者は、特許庁長官と特許技監のみであることから見ても、1-1の期待が裏づけられる。

1-3        民間出席者の7名は、内閣知財戦略本部有識者本部員の下坂弁理士のほかは、三菱電機・JFEスチール・本田技研・根本特殊化学・㈱ナベル(卵の選別包装機械等を生産)・JSR㈱(夜光塗料等を生産)の会社役員で、特許制度のユ-ザ-の立場からの活発な実務的発言が期待される。

2.主要な発言(本稿では所属企業名で記載)(要旨)

2-1 三菱電機

2-1-1 特許出願の質の向上、海外への出願を進める。

2-1-2 経済産業省が特許実務の具体的数値目標を掲げたことを評価する。

2-1-3 審査の「迅速化」を基本として、国際標準化に係る技術の権利化のタイミング等、柔軟な対応も必要である。

2-2 JFE

2-2-1 鉄鋼分野では、世界でわが国の出願が抜群に多い。

2-2-2 日本鋼管・川崎製鉄が3年前に合併してJFEとなったが、特許出願数の合計は2割減少し、合併による効率化の一環をなしている。

2-2-3 特許出願せず、ノウハウによる管理も活用している。関連して、先使用権制度活用のための証拠保全にも着手している。

2-2-4 退職者による技術の海外流失に苦慮している。

2-3 JSR

2-3-1 コア技術については、特許群・特許網による多面的対応も必要である。

2-3-2 質の高い権利設定に期待する。

2-3-3 技術分野ごとの特殊性に対応する審査基準が必要である。

2-4 本田技研

2-4-1 ノウハウと特許を峻別する。ブランド管理も知財部で行う。全体のビジネスユニットを包括的に知財に連携させている。

2-4-2 生産の70%、売上の80%が海外だが、研究開発は90%が国内であり、海外比率を高める。

2-4-3 海外で、訴訟力とノウハウ戦略が重要である。

2-5 ナベル

2-5-1 特許出願自体が従業員の励みになる。

2-5-2 海外での訴訟力は、中小企業の弱点である。

2-6 根本特殊化学

2-6-1 模倣品により価格が下落する場合があるので、迅速な権利付与が必要である。

2-6-2 訴訟保険の必要性が高まる。

3.        所見

  実務での適切な対応が、具体的に開示されてゆく懇談会であることが望まれる。例えば、早期審査のQ&Aを特許庁が示されたが、その第1問「手続に費用はかかりますか」の答えは、「特許庁に対しての費用はかかりませんが、弁理士などに依頼すると手数料等が必要となる場合が多いようです」と示されている。

3-1 「弁理士など」の「など」の存在は、専権規定との関係で疑問がある。

3-2 特許出願代理の一連の行為として弁理士の業務となる場合が多いと考えられ、「弁理士への手数料等が必要になる場合」と「必要でない場合」のけじめも考慮するべきではないか。

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