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2006年7月31日 (月)

三菱電機の電気掃除機特許(7-26判決)

知財高裁が特許取消決定取消請求を認容

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        特許取消の取消の一態様:

 付与された特許権が異議申立により取消され、この取消決定を取消す判決により特許権の維持に至った事例も多く、その過程も多様である。

 平成18年(行ケ)第10082号 特許取消決定取消請求事件に対する知財高裁の認容判決(2006-7-26)は、次項の経緯に見る類型であって、従って、訴訟費用は、原告(三菱電機と三菱電機ホ-ム機器『以下・三菱電機』、と被告(特許庁長官)の「各自の負担とする」と判決している。

2.        経緯

2-1        三菱電機は、発明「電気掃除機」特許(2003-5-2設定登録:以下「本件発明」)特許権者である。

2-2        本件特許の請求項1(以下「本件発明」)の特許に、異議申立があり、三菱電機は、請求範囲の訂正を請求したが、特許庁はこれを認めず、本件特許権の取消を決定した(2006-1-23謄本)

2-3        本件発明の内容は、次の構造と特徴を有する「電気掃除機」である(要旨)。

2-3-1掃除機の本体に、蓋(ふた)で開閉される集塵室を設け、その内に、『平らな板状の口板を付けた集塵袋』を入れる。

2-3-2 集塵室の吸込み口の周りに設けたシ-ル部材と口板の前面を合わせる(以下「当接」という)。この当接状態を、クランプ部材で弾性保持する。

2-3-3 クランプ部材に、「口板側との係止部から延ばして、その先端部から、口板前面の周辺側と当接し、口板側からの接触圧力に従動しながら、前記係止部まで摺動案内する当接面」を設ける。

2-3-4 蓋(ふた)の内面に、蓋を閉めたとき口板後面の周辺側に当接し、これをクランプ部材から離れた位置から、クランプ部材の当接面と当接可能な位置を経て、クランプ部材の係止部まで摺動案内することが可能な当接部を有する案内部材を設ける」。

2-4 特許庁による本件特許の取消決定の事由は、従来技術からの想到容易性である。

2-5 三菱電機はこの取消決定の取消を求める本件訴訟を提起し、その係属中に、

  請求項の訂正審判を請求したところ、特許庁はその容認を審決し(2006-6-14)、確定した。訂正後の発明の内容は、次の構造と特徴を有する「電気掃除機」である(要旨)。

2-5-1 掃除機本体に、蓋で上部を開閉する集塵室を設ける。

2-5-2 集塵室内の前壁下縁に設けた載せ台に、平板状の口板を付けた集塵袋の口板を載せて、集塵袋を収納する。

2-5-3 集塵室前面に形成された吸込口の周りに設けたシ-ル部材と、口板の前面を当接させ、この状態を、クランプ部材の係止部により、口板の裏面から弾性保持させる。

2-5-4 クランプ部材に、口板側との係止部から延ばして、その先端部から口板の前面側上辺と当接し、口板側の接触圧力に従動しながら、口板の前面側上辺を係止部まで摺動案内する当接面を設ける。

2-5-5 蓋の内面に、蓋を閉める動作時に、口板の裏面側上辺と当接し、この上辺を摺動させながら、口板の前面側上辺をクランプ部材から離れた位置から、クランプ部材の当接面と当接可能な位置を経て、クランプ部材の係止部まで摺動案内することが可能な複数の片からなる当接部を有する案内部材を設ける。

2-5-6 蓋を閉める動作時に、口板の前面即上辺がクランプ部材の当接面に当接した後、口板の裏面側上辺が案内部材の当接部に、口板の前面側上辺がクランプ部材の当接面に、それぞれ当接し、案内部材の複数の片の間にクランプ部材の当接面が嵌まり込んだ状態で、複数の片はクランプ部材を押しやりながら、口板の前面上辺をクランプ部材の当接面の下端部まで摺動案内する。

3.        知財高裁の判決(要旨):

  2-5の訂正審決確定により、特許庁の特許取消決定が前提とした本件発明の無効認定は誤りに帰したので、本件特許取消決定取消請求を認容する。

4.        所見:

  2-3は、従来技術から想到容易であり、2-5は想到非容易と判断された。これら多数具体例の判示を集積・解析して、想到容易性の構造が一層明確にされてゆく(組合せと結合の異同、動機付け、想到阻害事項、二次的考慮事項等)。

2006年7月30日 (日)

日米特許審査ハイウエイ

商業的成功基準について

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

 SANARI PATENTは標記について、内閣知財戦略本部に下記の要望を送信した(2006-7-29)

 記

日米特許審査ハイウエイにおける商業的成功基準に関する要望

 知財推進計画06において、世界特許システムの構築を目指し、「先ず日米間で特許審査ハイウエイを構築する」ことが計画されましたので(p54)、審査結果の相互承認制度を実現する具体的検討を通じて、日米審査基準の対比も益々深耕されることと推察いたします。

 特に特許性の要件である進歩性の審査におきましては、容易想到性の有無の判断が核心をなしておりますところ、日米共に、「商業的成功基準」をその第二次配慮事項として、それぞれの審査基準に示しておりますが、米国のそれ(USPTO/MPEP)の方が、特許の「有用性」重視の立場から、積極的に配慮され得る表現と考えます。

 容易想到性の当業者判断の主観性に対して、商業的成功基準は客観的であり、他社が特許出願に至らなかったのに、一社のみ商業的成功に至ったことは、容易想到性の不存在を立証するものと考えるべきであると存じます。

 このたびの縦型構造電界効果トランジスタ特許に関する知財高裁判決(2006-7-26)(下記)では、原告(松下電器産業)の特許が、従来技術からの容易想到性を理由として無効と判決されましたが、商業的成功基準による原告の主張は、比較的軽微に評価されたように考えます。

 日米間に審査の寛厳(緩厳)の差が発生しませんよう、商業的成功基準につきましても更にご検討いただきたく、今次判決についての所見を下記いたしまして、要望申しあげます。

  記(省略。SANARI PATENT TRENDS 7月29日記事を御参照)。

(注1)    わが国の審査基準:「商業的成功は、進歩性の存在を肯定的に推認するのに役立つ事実として参酌することができる。ただし、その成功が発明の特徴に基づくものであることとの心証を得られた場合に限る」。

(注2)    USPTO-MPEP(MANUAL OF PATENT EXAMINING PROCEDURE)は、Secondary Considerationsとしてcommercial successunexpected results(such as)としているが、long time felt need licensesfailure of otherscopying等が、米国最高裁の「非自明性」(nonobviousness)関係判決で例示されている。これらの存在は、「非自明性」(わが国の「進歩性」と全く同一ではないが)を客観的に示すものとして配慮され得る。ニ-ズが永きにわったて充足されなかったこと、発明しようとしても失敗したこと、他社がライセンスを受けていたことなどは、想到容易性を客観的に否定するもの(自明でないもの)と解すべきであると、SANARI PATENTも考える。

2006年7月29日 (土)

縦型構造電界効果トランジスタ・知財高裁

松下電器産業の請求を棄却(2006-7-26)

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        事案の概要 [平成17年(ワ)第8874号・第15841号 不当利得返還請求事件 知財高裁判決(2006-7-26)]

1-1        原告・松下電器産業は、発明「縦型構造電界効果トランジスタ」の特許権者である。

1-2        「被告・菱電商事等が、1-1の特許権を侵害した」として、原告は被告に対し、不当利得の返還を求めた。

1-3        被告は、構成要件の非充足・1-1の特許権の無効等を主張した。

1-4        知財高裁は、1-1の特許権を無効と判断し、原告の請求を棄却した。

2.電界効果トランジスタの現況:

  トランジスタは、バイポ-ラトランジスタ(電子・正孔の両方を利用する)と、電界効果トランジスタに大別されるが、電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor)は、電子・正孔のいずれかのキャリアを利用するトランジスタである。その構造により、接合型電界効果トランジスタ(JFETJunction Field Effect Transistor))と、MOS型電界効果トランジスタ(MOSFETMOS Field Effect Transistor))に分けられる。

NチャネルMOSとPチャネルMOSを組合せて回路を構成したデバイス(CMOS)は、消費電力が低く、低電圧でも動作する特徴を有し、半導体デバイスとして最も多く使用されている。

3.        本件特許請求の範囲:

  「(100)面を有するシリコン基板の表面に、長手方向が〈110〉方向と45°の角度をなす矩形状の凹部が形成され、この凹部の側面(010)または(001)面をチャンネルとして用いる縦型構造電界効果トランジスタ」

4.        知財高裁の判断:

4-1        従来技術(引用刊行物)の「IMOSFET」は、「(100)面を有するシリコン基板の表面に、矩形状の凹部を形成し、この凹部の側面をチャンネル面として用いる縦型構造電界効果トランジスタ」と解される。

4-2        本件特許発明と4-1従来技術との相違点は、「本件特許発明は、凹部を形成する方向が〈110〉方向と45°の角度であるのに対し、従来技術には、その点の記載がないこと」等である。

4-3        従来技術には、「チャンネル層として(100)面を用いるMOSFETにおいて、(100)面は(111)面・(110)面より電子移動度が大きく、ゲ-ト電圧の変化に対するコンダクタンス変化が大きい(MOS型電界効果トランジスタの製造に有利)ことが開示されている。

4-4        従って、当業者がこの知見を縦型MOSFETに適用することは、容易に想到できた。

4-5        松下電器産業は、「本件特許発明が、高電圧・大電流を制御するパワーMOSFETのチャンネル抵抗を小さくすることを目的とするのに対し、従来技術においては、チャンネル抵抗低減の技術課題は生じない」と主張するが、本件特許発明は、明細書に記載されているように、パワ-MOSFETに限定されていないし、従来技術においても、チャンネル抵抗低減により素子の動作速度を高めることは当然の技術課題であった。

4-6        松下電器産業は、凹部の形状は〈110〉方向と平行とするのが技術常識であったと主張するが、これは、製造上容易であったというに過ぎず、別の選択を妨げる事情ではない。

4-7        松下電器産業は、シリコン基板面に垂直な結晶面は無数にあり得ると主張するが、チャンネル抵抗低減の解決手段を求め、従来技術に接した場合に、本件特許発明記載の選択を妨げる事情にならない。

4-8        その他、電子移動度等に関する松下電器産業の主張は、従来技術に現れた技術常識を組合せることの阻害事由ではない。

4-9        松下電器産業は、商業的成功を主張するが、商業的成功が仮に認められても、発明の困難性と別の要素による場合もあり、二次的考慮要素として認めても、上記結論を左右しない。

4-10    上記により、本件特許発明は、従来技術の技術常識の組合せによって当業者が容易に発明できたものであり、特許は無効である。

4-11    よって、その余の点については判断するまでもない。

5.        所見:

5-1  知財高裁判断4-10は、「単なる寄せ集め(aggregation)には進歩性なく、結合(combination)には進歩性あり」とする基準の適用結果である。

5-2  知財高裁判断4-9は、米国特許商標庁(USPTO)の米国特許審査基準(MPEP)と同様に、商業的成功を、二次的考慮要素としては認める場合があることを示している。

5-3  知財高裁判断4-1に至る検討においては、語義、例えば、「矩形状の矩形とは長方形を意味し、『ある形』プラス『状』という表現は、『厳密にはある

形状ではないが、ある形状のような、ある形状に類する形』を意味する」といった検討がなされている。このような一般慣用表現の検討と、先端電子技術の新たな表現の検討が並存する判決である。

5-4 松下電器産業の詳細・緻密な論旨展開に敬意を表する。

2006年7月28日 (金)

元特許庁審判官の知財訴訟費等提言

弁護士・弁理士報酬の適正

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        知財訴訟費用への関心:

  特許庁の元審判官・生越由美氏(現・東京理科大大学院教授)が、「知的財産訴訟等における弁護士等の報酬」の透明性について、朝日新聞(2006-7-27)紙上に疑問を述べられたことは、内閣知財戦略本部でも未だ真正面からの検討に至らなかった「知財戦略のコスト論」の一端を開く意義もあり、極めて注目すべきで提言と考える。

2.        元審判官の論旨(SANARI PATENTが抜粋かつ要約)

2-1 現職の関係で、中小企業・大学等から知財についての様々な窮状を聴く。

 内容の一つは、弁護士・弁理士報酬について、依頼案件の段落後に、法外と思われる報酬を請求されたという。事例として、

2-1-1      特許権侵害訴訟の成功報酬として賠償金の4割を請求され、弁理士費用等、その他の費用を差し引いて(勝訴であったのに)、赤字になった。

2-1-2      「和解条件不公表」の旨を契約したので、和解報酬額について訴訟できない結果となった。

2-1-3      弁護士依頼契約に、着手金の記載あるのみで、多額の報酬を事後請求される。

2-1-4      地域団体商標の出願で、実費数千円の書類コピー代を、弁理士からは10万円と請求された。

2-1-5      大学で弁理士に依頼したところ、請求項数を(故意に)増やして、報酬を多額に請求された。

3.        反論も必要:

  上記の内容は、新聞紙上に公開され、一般に与える心証・影響も重大であるから、事実と異なる場合については、問題視された側(弁護士・弁理士)から、明確に反論すべきである。

4.「透明性」についての一般論:

4-1 報酬に関する公定料金表や協定報酬表を掲示することは、規制緩和・公正競争の見地から廃止されたので、逆行はこの際、不適切である。

4-2 中小企業や大学も、ビジネスとして知財業務を行うのであるから、依頼するからには、見積請求するのが当然である。見積違反の請求に対しては、本年度から、「中小企業知財駈込み寺」の制度が全国に施行されるなど、自助救済の手段は有るはずである。

5.「透明性」以外の問題点

5-1 本人訴訟能力の涵養

   簡裁訴訟では、事件の約3分の2が弁護士代理を用いていない。認定司法書士に、簡裁訴訟単独代理権を3年ほど前から認める法改正が施行されたので、身近かつ軽費な代理委任もできるようになった。地裁訴訟でも、原告・被告共に弁護士を付さない事件数と、一方が付さない事件数を合算すると、4割以上が本人訴訟である。本人訴訟は、簡裁では訴状に代えて口頭陳述が認められ、地裁でも、訴状の作成を司法書士に委ね得る。

   中小企業の場合、先ず経営者が、本人訴訟能力を養う「心構え」が必要である。

  国は、教育制度において、法律実務を重視すべきである。

5-2        本人出願能力の涵養

   特許出願の約85%が弁理士代理出願である。大学に至る教育の過程に知財実務を欠くためである。取消出願書類の構文や用語の難渋を、本人出願の阻害理由とする発言もあるが、少なくとも大学における発明については、術語の難解は本人出願不能の理由にならない。学位論文の執筆は可能で特許出願書類の執筆は不能というのは、一般の納得を得難い。

   商標については、6割強が弁理士代理の登録出願によっている。商標権は、特許権や意匠権と結語してブランド戦略を構成する場合が多くなるから、弁理士依存が適切な場合が増大する。

   しかし、地域団体商標の登録のうちには、その商品の知名度等、出願団体自身熟知すべき事項が多く、本人(中小企業協同組合等)登録を先ず努力すべき場合もあると考える。

5-3        弁護士数・弁理士数とサ-ビスの質:

   通常の需給関係の考え方では、弁護士・弁理士についても、その数が多い方が依頼し易く高額報酬が緩和されると考えられがちである。報酬が高額か否かは、第一次的には、代理依頼によって得られる経済的利益との対比により評価されることが合理的である。第二次的には、代理者のキャリアの形成と維持の所要経費等、すなわち、知財専門家サ-ビスのコストを、報酬が償うものでなければならない。

   内閣知財戦略本部の知財推進計画は、米国の弁護士数が約100万名でわが国の50倍に達すると述べている。米国には司法修習生の過程がないから、その分は、キャリア形成の費用が軽減されているが、質の及ぼす影響の比較は別論である。

   一方、知的財産推進計画は知財弁護士に期待しているが、米国での特許弁護士(米国弁護士資格と、わが国の弁理士相当専権資格、厳密には米国の特許出願代理士資格を併有する者)約2万3千名に「厳密に」相当する資格者は、わが国では、「弁護士の弁理士登録者」363名(2006-5-31)に過ぎない。 なお、米国では、商標出願代理士の制度が別途存在する。

6.        弁護士数・弁理士数についてのSANARI PATENTの見解:

   弁護士は、「社会正義の実現」を使命として全国に遍在するマン-パワ-を有することが望まれる。

  弁理士は、先端分野の高度化に伴い、サイバーパワ-として一体的に機能することが国の人材育成とその活用上、質的・コスト的に合理性を持ち、国際競争力強化のため有利であると考える。繰り返すが、国際競争力培養の見地からは、大学教育における知財実務課程の充実が最も重要である。

  この見地からは、弁理士数6759(2006-5-31)は、必ずしも過少とはいえない。弁理士の業務の9割(収入ベ-ス)が出願代理であり、米国の特許出願代理士が約7000名であることも、これを裏付ける。

  他方、弁理士に、知財戦略、著作権、相談等の業務が付加法定されたことから、増員の緊急性を唱える向きもあるが、これらの付加業務は資格標榜業務であるから、弁理士増員の必須性には直結しない。知財に関係する他の資格者等の増員によっても需要に応じ得るはずである。

  上記のSANARI PATENT見解は、しかし、内閣知財戦略本部を始め、大方の見解と齟齬しているようである(例えば、知財推進計画の弁理士全国駐在的計画)。

2006年7月27日 (木)

文化基本法におけるコンテンツ

知財基本法と文化基本法

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        文化基本法の基本方針見直し:

1-1        文化基本法(文化芸術振興基本法)の第一期基本方針(2002-12閣議決定)は、平成18年に5年を経過し、法定の見直し時を迎える。この5年間に、コンテンツ振興法が制定され、知財基本法に基づく知的財産推進計画では、コンテンツの振興がその主要な骨格とされた。従って、文化基本法と知財基本法と、両基本法のもとで、わが国コンテンツの発展をどのように進めるか、極めて重要な調整課題である。

1-2        第二期基本方針策定のため文化審議会文化政策部会は、「文化芸術の振興に関する基本的な方針の見直しについて」(中間まとめ素案)(2006-7-14)(以下「文化振興素案」)を公表したが、「コンテンツ」という用語は全く用いていない。従って、文化振興素案におけるコンテンツ振興政策の実質的・潜在的ないし間接的在り方を検出することが先ず必要である。

1-3 コンテンツ振興法の「コンテンツ」は、デジタルコンテンツ・アナログコンテンツ・ライブコンテンツを含み、教養・娯楽に関するものと規定しているが、文化振興素案の対象は、今後創造されるコンテンツのみならず、既存の歴史的文化芸術・自然・人間関係を含むと解する。他方、コンテンツには、食文化・ファッション・地域ブランドも包摂されつつある。

    なお、コンテンツに近い用語として、文化振興素案には、「アニメ・漫画等の『Japan Cool』と呼ばれる分野も、対海外の文化発信の上で重要な役割を担うことから、メディアなどの新しい文化芸術の国際的な拠点を形成することも検討すべきである」(p13)という記述が見られる。

2.        文化振興素案の要旨:

2-1        文化芸術振興の今日的理由:

2-1-1        文化振興素案: 「第一に、文化は、経済活動において新たな需要や高い付加価値を生み出す源泉ともなっており、文化と経済は密接に関連しあうことにより社会に活力を生み出す。第ニに、文化力(文化の魅力と影響力)が国の力として世界的に認識されつつある」。

2-1-2        所見: コンテンツが文化財と経済財の両性格を併有し、文化政策と経済政策の共管分野として、その振興が、諸国政策の基幹とされつつある。両基本法に基づく認識が一致するところである。

2-2               文化芸術立国:

2-2-1        文化振興素案: 「わが国は今後、文化芸術の振興により、心豊かな国民生活を実現すると共に、活力ある社会を構築して国の魅力を高め、文化力により世界から評価される国へと発展してゆくこと、換言すれば、文化芸術で国づくりを進めるという『文化芸術立国』を目指すべきである」。

2-2-2        所見; 知財推進計画06は、「コンテンツを活かした文化創造国家づくり」の章を設けたが(p89)2-2-1の「文化力」については知財推進計画05が既に、「世界から愛され尊敬される日本となるためには、わが国の文化力を一層向上し、魅力ある日本ブランドを確立・強化してゆく必要がある」(p105)と述べている。この文化力には、食文化・ファッションを含んでいる。

2-3- 第一次・文化基本方針に対する評価:

2-3-1 文化振興素案:: 「第1に、芸術家達の地位の向上が不十分である。社会経済・科学技術の進展に対応して芸術家等の権利が十分保護されて創造へと結びつく循環が可能な状況といえない。第2に、地域による文化享受機会の格差が残存している。第3に、地域文化の担い手育成や継承が不随意である。第4に、文化の国際交流は急速に拡大している。第5に、文化政策の成果が国民に還元された実感が持たれていない。第6に、次世代への文化芸術継承のためには、子供がインタ-ネットやゲ-ム機等バ-チャルな世界に閉じこもらず、広く文化的感性を養わせる必要がある」。

2-3-2 所見: 知財推進計画06では、第1に、クリエ-タ-等への配慮が掲げられ、「循環』と同義の「サイクル」の拡大が強調されている。第2に、地域文化格差の解消は、ITの遍在によるデジタルコンテンツの国内外を問わない普及で大幅に改善される。また伝統的文化の尊重は、WIPOを含む国際知財政策の一環である。第3に、地域文化の継承にも、デジタルコンテンツとしての保存が必要である。第4に、文化の国際交流におけるコンテンツ(放映素材等)の無償供与(ODA)と、模倣品の取締(押収・破棄)の現実を調整すべきである。第5に、文化政策が、ファイル交換システム禁圧や、安価CD取締の意義等、国民に十分理解されず、他方、著作権ビジネス業者の利益擁護に偏しているという見方がある(知財推進計画06へのパブコメ)。第6に、バ-チュアル世界の文化的意義を尊重しつつ、自然との接触や人間関係の深化を期するべきである。

3.        第2次・文化基本方針策定の方向性

3-1 文化振興素案: 「第1に、文化芸術活動に、短期的な経済的効率性を一律に求めるべきではない。第2に、文化芸術活動の東京一極集中を緩和し、全国のどこでも、それぞれの地域の特性に即した形で文化芸術が存在することが必要である。第3に、国は、地方公共団体による文化芸術活動を支えるべきである。

3-2 所見: 第1に、コンテンツは経済財であると共に文化財であり、国民の心情や国風の海外評価に直結するから、単純な商業主義に偏してはならない。第2に、地域文化の振興を地方公共団体の活動に期待しつつ、国は、全国、延いてはグロ-バルな文化芸術の浸透を、IT技術のユビキタスな発達によって実現すべきである。第3に、国は、地域文化を全国民が享受できるよう施策することにより、地域の居住価値・観光価値を向上し、さらに、地域ブランドの全国普及・海外広報を通じて、地方公共団体の活動を支援すべきである。

4.        今後5年間の重点事項:

4-1 文化振興素案: 「第1に、日本の文化を継承し、創造する人材(芸術創造者・伝統文化継承者・文化芸術活動の仲介者)の育成と支援、第2に、子供の文化芸術活動の充実、第3に、地域文化の振興、第4に、文化芸術活動の戦略的支援(芸術文化振興基金等)、第5に、日本文化の海外発信・国際文化交流の推進を重点とする」。

4-2 所見: 知財推進計画06のコンテンツ人材育成計画等が、素案の内容の大きな分野を占めるものと考える。

    知財推進計画06は、その成果編「コンテンツを活かした文化創造国家づくり」(p131)と、「ライフスタイルを活かした日本ブランド戦略の推進」(p132)において、第一期計画の成果を具体的に列挙しているが、文化振興素案にもこのような成果編を付することにより、両基本計画の整合と協調が、具体的に、一層明確になると考える。

2006年7月26日 (水)

三洋電機の冷凍装置と知財高裁

特許取消決定の取消請求

弁理士 佐成 重範(Web検索SANARI PATENT

1.        特許取消の要件:

  特許異議申立により特許庁が行った特許取消決定が、知財高裁判決により維持されるために、どのような要件が判示されたか。標記判決(2006-7-12)を事例検討の対象として採り上げる。

2.        事案の概要:

2-1        原告三洋電機は、発明「冷凍装置」の特許権者(設定登録2001-8-10)であるが、特許異議申立により特許庁が、この特許の請求項1(請求項の数は一個である。以下「本件発明」)に係る特許を取消したので(2005-4-20謄本)、特許庁のこの決定の取消を、三洋電機が知財高裁に請求した。

2-2        本件発明の要旨は、以下の通りである(要約)。

  「次の特徴を有する冷凍装置。

2-2-1        圧縮機・凝縮機・減圧装置・蒸発機を有する冷凍サイクルを備える。

2-2-2        弗化炭化水素系冷媒を用いる。その純度は99.95重量%以上。塩素系冷媒の混入が80ppm以下。

2-2-3        圧縮機に用いる冷凍機油は、「ポリオ-ル」と「直鎖または側鎖のアルキル系脂肪酸」を無触媒で反応させたポリオ-ルエステル油を基油とする。この冷凍機油の流動点は-40℃以下、二液分離温度は-20℃以下、全酸価は0.02mgKPOH/g以下、粘度は40℃で8~10cst、粘度指数は80以上。」

2-3 特許庁による「特許取消」の理由:

  「本件発明は、日本電機工業会『冷蔵庫フロン対応研究技術発表会』資料等に記載された発明(以下「先行技術」。この判決では「従来技術」)に基づいて、当業者が容易に発明できたものである」。

3.        三洋電機の主張(要旨)

 特許庁は、本件発明と先行技術との相違点について判断を誤った。すなわち、

3-1        特許庁が先行技術の一つとした2-3の発表会は、冷蔵庫を扱うごく限られた業種の会社の会員に向けて開催されたものであるから、「その資料に記載された発明が、本件出願前に公然と知られていた」とする認定は誤りである。

3-2        特許庁が、「塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒」について、本件発明で塩素系冷媒の混入率を80ppm以下と限定していることが、格別意味ある数値を示したと認めないことは、誤りである。

3-3        特許庁は、「塩素系冷媒の混入が少なければ、酸の生成、エステル油の分解が少なくなり、スラッジの生成も少なくなることは想到容易」としているが、先行技術では、レベルが著しく異なる80ppm以下とすることまでは示されていない。

3-4        特許庁は、全酸価がコンタミ量の間接的指標であることから、三洋電機の80ppmという限界数値を意味ある数値と認めないが、三洋電機のこの試験は、当業界で認められたもので、塩素系冷媒混入量とコンタミ量の相関を十分明らかにできる。

3-5        本件発明は、3-4ppm値を定めたことにより、徒に冷媒の高純度化を追求せず、機器の信頼性・能力・コストが適正な冷凍装置を実現し得た。

3-6        本件発明では、冷凍機油の流動点等を規定しているが、先行技術のそれは、カ-エアコン用冷凍機油に関するもので、冷蔵庫用冷凍機油と、通常、異なる。

4.        特許庁の反論(要旨):

4-1  日本電機工業会の3-1研究発表会は、同工業会の「主催」により、委員会メンバ-以外の者をも対象としたと認めることが妥当である(公知性の取得)。

4-2  三洋電機の「80ppm」という数値(3-2)には、臨界点としての意味が認められない。

4-3  冷凍機油としての好ましい全酸価の値が変わるものではなく、三洋電機の限界数値に特性は認められない。

4-4  三洋電機は、本件発明の「特定冷媒と特定冷凍機油の組合せ」により、先行技術と比べて、具体的にどの程度の冷却性能の向上とコスト低減が実現されたか、一切示していない。

5.        知財高裁の判断:

5-1        研究発表会(3-1)は、その開催の態様(主催者名義・会場・資料配布)に徴して、参加者が発表事項につき守秘義務を負うものでなく、その資料に記載された発明は、本件発明の先行技術である。

5-2        本件明細書には、本件発明の効果に関する記載または示唆がないから、三洋電機の主張3-5は採用できない(本件発明が必要以上に冷媒純度を高めることなく、最小限の価格アップに抑えるという事項は、明細書に記載がない。のみならず、「純度が99.95重量%以上で、塩素系冷媒の混入が80ppm以下である」とする本件発明の構成上、冷媒について、純度を100重量%、塩素系冷媒の混入量を0ppmに極力近づけたものも本件発明に含まれるから、三洋電機の3-5主張は、このことからも失当である)。

5-3        本件発明の冷凍機油の特性の限定は、先行技術から想到容易である。

6.        所見:

  企業の知財戦略から見て、今次知財高裁判決は次の事項を示していると考える。

6-1        三洋電機の立場から見れば、特許庁が審査基準に基づき「審査」して特許付与した発明について、特許庁が同じく審査基準に基づき特許性否定の「審決」をしたことは、知財権の法的安定性を毀滅されたことになる。他方、異議申立者の立場から見れば、その法的立場を回復し得たこととなる。知財権には本質的にこのようなリスクが伴い、このリスクを「取りつつ」、企業の活動が営まれる。法的安定性のために、知財権付与の具体的当否を争う制度・機構を縮減すべきではない。

6-2        今後、国際標準化戦略等に関連して、業界の研究会が産業官庁唱導のもとに活発化する。企業の秘密(出願前の技術)の非公知性保持に、細心の留意を要する。

6-3        数値限定請求項においては、その数値の臨界性を実証的に記載することが必要である。

6-4        発明の効果は、明細書に実証的に明記すべきである。

2006年7月25日 (火)

東洋紡意匠権の知財高裁判決

意匠の類否判断について判示(7-19)

弁理士 佐成重範(検索SANARI PATENT

1.        知財戦略における意匠権の機能:

  意匠権は特許権と融和して、製品の市場をグロ-バルに拡大し、商標権と融和してブランドを確立する。コンテンツの分野では、情報機器におけるデジタルコンテンツの表示画面の美感を高めつつ識別権としての機能を営み、ライブコンテンツとしてのフアッション創造の核心をなす。

2. 知財高裁による意匠権判決の意義:

  「意匠の類似の範囲」という概念は、意匠審査における新規性の判断(公知意匠や既登録意匠と類似の意匠は登録されない)、および、意匠権の効力(意匠権の権利が登録意匠と類似の意匠に及ぶ)において重要であるが、類否判断の手法や基準が必ずしも明確でないという指摘も見られた。従って、基準の形成を、判例の集積にも依存する。

  

3.        原告東洋紡の審決取消請求を棄却:

  今次、平成18年(行ケ)第10004号 審決取消請求事件の知財高裁判決(2006-7-19)に至る経緯は、次の通りである。

3-1        東洋紡は、物品「上着」(手続補正書で「スポ-ツ用シャツ」に補正)の部分意匠登録を出願し(2004-1-9)、拒絶査定を受けたので、不服審判請求をした(2004-11-16)

3-2        特許庁は「請求不成立」の審決をした(2004-12-12謄本)。その理由は、

3-2-1 本願部分意匠は、ドイツ特許庁意匠公報所載の「セ-タ-」の部分(以下「引用意匠」)に類似している。

3-2-2 両意匠には差異点もあるが、共通点が類否判断に及ぼす影響を凌駕するに至らないので、全体として類似する。

3-2 東洋紡の主張(抜粋)

3-2-1 特許庁が、3-2-2で認めた差異点のほかに、袖口の「おしゃれ」な新規デザイン等を看過している。

3-2-2 本願部分意匠において袖口伸縮自在領域が極めて重要な要部であるのに、特許庁は、「極めて局所的な差異であって、審決がこれに言及しなかったことは、審決の結論に影響を与えない」としているが、失当である。

3-2-3 特許庁は、ダイヤモンド社発行の文献を引用して、3-2-1の差異点を「格別特徴的でない」としているが、引用意匠以外の証拠の提出は許されず、また、この文献の意匠と本願部分意匠とは類似しない。

3-2-4 特許庁は、本願部分意匠の袖の形状が与える「美感」の特徴を看過している。

3-2-5 類比判断は、看者の注意を引くか否かにより決せられるべきであるのに、特許庁は、注意を引かない部分の共通点を類似判断の理由としている。

3-2-6 スポーツ用シャツはスポ-ツ品売場で販売され、セ-タ-と売場が異なるから、一般需要者に混同させるおそれはない。  

4.        被告特許庁の反論(抜粋)

4-1  東洋紡が主張する「特許庁の看過差異点」は、いずれも軽微なもので、意匠の類否判断に影響なく、その看過は審決の違法を結果しない。

4-2  伸縮自在領域の差異は、全体としては、極めて局所的な差異に過ぎない。

4-3  引用意匠との共通点が圧倒的に大面積を占め、全体の基調を形成している。

4-4  製品の用途はスポ-ツに限定されない。

5.        知財高裁の判断(抜粋)

5-1  審決取消訴訟においては、手続上の瑕疵が、審決の結論に影響を及ぼさないことが明らかと認められる特別の事情があるときは、その瑕疵は、審決の取消原因とならない。

5-2  意匠法において、全体意匠の類否判断は、その物品について一般需要者の立場から見た美感の類否を問題とするものであって、公知意匠からの創作容易性を問題とするものではない。

5-3  部分意匠の類否判断も、基本的には全体意匠の類否判断と同じである。

5-4  本願部分意匠と引用意匠は、両意匠の形態を総合的に観察すると、一般需要者の立場からみて、異なる美感を与えるものではなく、全体として類似する。

5-5  部分意匠の物品の類似判断において基準となるのは、物品の部分ではなく、物品全体の用途および機能である。

6.        所見:

  意匠権の存続期間を特許権と同じ20年に延長し、侵害に対する懲役刑の限度も10年に揃える平成18年意匠法改正が成立して、意匠権が益々重要な知財戦略の顕在的要素になるが、それだけに、意匠権の構成要件の明確化が法的安定性のためにも、国際競争力(国際訴訟力)確保のためにも、重要である。

例えば、「美感」という主観的基準についても、審査官の判断の斉一を期することが、今次法改正の国会で答弁されている。

2006年7月24日 (月)

異語同義の検証

日本情報サ-ビス・審決取消請求事件

弁理士 佐成重範(検索SANARI PATENT

1.        知財高裁2006-7-19判決:

1-1        原告・日本情報サ-ビス㈱(訴訟代理人・鮫島正洋弁護士ほか)、被告・特許庁長官「平成17年(行ケ)第10485号 審決取消請求事件」の知財高裁判決(2006-7-19)は、原告の請求を棄却したが、以下この事件の概要を見る。

1-2        本願(本件特許出願)は、発明「通信回線を利用する広域購買方法・装置・ユ-ザ-端末」(内容は2)について、当初、()ア-キスケ-ブによりなされ、出願人の名義変更を経て㈱イ-スタンイ-ストに拒絶査定され、同社は不服審判を請求した。

1-3        同社の「特許を受ける権利」は、日本情報サ-ビスに譲渡され、特許庁は、本件審判請求不成立の審決謄本を日本情報サ-ビスに送達した(2005-3-16)。審決の要点は、「本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものである」。

2.        本願発明(請求項1)(要旨)

 (1)「中央サ-バ」、(2)「中央サ-バ・決済サ-バと専用回線で接続され、ユ-ザ-端末と接続されている複数の地域サ-バ」の2要素を具備し、地域サ-バは、ユ-ザ-端末から送信される購買者情報のうち、(A)既存システムに同時反映させる必要がない情報は、通信回線の負荷が少ない時間帯にバッヂで、専用回線を通じ中央サ-バに送信し、(B)決済情報は、専用回線を通じて決済機関サ-バに送信することを特徴とする「広域購買システム」

3.        異語同義の検証

  特許庁の審決と知財高裁判決の論旨の骨格は、「本件出願の用語が、引用発明のそれと異語であっても、実質同義であること(相当すること、共通すること、ないし、包摂すること)である。すなわち(以下、前掲が引用発明の用語)、

3-1        「センタ-サ-バ」は「中央サ-バ」に相当

3-2        「専用線網」は「専用回線」に相当

3-3        「ロ-カルサ-バ」は「地域サ-バ」に相当

3-4        「試聴端末およびレジスタ」・「ユ-ザ-端末」は「サ-バに接続される端末」概念に包摂

3-5        「試聴デ-タの配信要求および売上情報」・「購買情報」は「端末から送信される情報」概念に包摂

3-6        「売上情報」・「既存システムに即時反映させる必要がない情報」は「一部の情報」概念で共通

3-7        「音楽記録媒体試聴販売システム」・「広域購買システム」は「広域購買システム」概念で共通

4.        今次判決の要点(特許庁と知財高裁の判断):

4-1        システム設計は、通常、種々の業務システムについての知識・経験や、システム技術についての知識を豊富に有する技術者、すなわち当業者が行うから、進歩性判断は、当業者の視点で、引用例に直接記載された技術事項のほか、引用例技術の背景、関連社会常識、慣用技術、周知技術等を斟酌して、広い視野から総合して行う必要がある。

4-2        引用発明の端末購入を、販売店購入と並行して実施し、試聴販売端末部から送信することは、当業者が容易に想到できた。

4-3        省力化は販売の共通課題であるから、引用例に接した当業者がクレジットカ-ドの使用が可能な試聴販売端末を導入し、店舗内の端末を総括するロ-カルサ-バを介してセンタ-サ-バ・クレッジトカ-ド照会部とデ-タ送受信できるよう構成することは、格別の考案力を要せず想起できた。

4-4        接続の選択肢のうち、セキュリティに優れる専用線網を採用することは、当業者の設計的事項に過ぎない。すなわち、セキュリティの観点からロ-カルサ-バとセンタサ-バ、ロ-カルサ-バとクレッジットカード照会部を専用回線で接続する構成は、引用例に特段の記載がなくても、引用例に接した当業者が、技術的背景、社会常識により容易に想到できた。

4-5        日本情報サ-ビスは、「引用例には、本願発明のように、地域サ-バと中央サ-バ、地域サ-バと決済サ-バの専用回線接続が開示されず、また、引用例には、セキュリティとコストを両立させるという本願発明の着想は開示されていない」と主張するが、引用例から本願発明の構成は容易に想到でき、効果を奏するから、上記主張は失当である。 

5.        所見:

   特許の拒絶査定、無効判決等においては、進歩性の欠如をその判断理由とするものが多く、先行技術との同一性・先行技術からの容易想到性が判断の要素である。その前提作業としての、先行技術と当該発明における「異語同義」検証の実地例を、この判決は示していると考える。

2006年7月23日 (日)

武田薬品工業の特許取消決定取消請求を認容

知財高裁・特許取消決定取消請求事件判決2006-7-18

弁理士 佐成重範(検索SANARI PATENT

1.        特許請求範囲の減縮→武田薬品工業の本件請求を認容:

  平成17年(行ケ)第10670号・特許取消決定取消請求事件判決(知財高裁2006-7-18:

  標記判決(被告・特許庁長官)に至る経緯は、企業が特許権を成立させる実地例として考察できると考える。すなわち、

1-1        原告・武田薬品工業は、発明「生体内分解型高分子重合物」の特許権者である。請求項数6(以下「本件特許」。

1-2        本件特許について特許異議の申立てがあり、その審理の係属中に、武田薬品工業は、本件特許に係る明細書の訂正を請求した。

1-3        特許庁は、上記訂正を認めず、1-1の請求項(6項)に係る特許の取消を決定して、その謄本を武田薬品工業に送達した(2005-8-8)。請求項1~3は既刊行物記載の発明により公知、請求項4~6は既刊行物記載の発明から想到容易としたものである。

1-4        武田薬品工業は1-3の決定の取消を知財高裁に求める本件訴訟を提起し,

その係属中に、特許請求範囲の減縮等を目的として、請求項1の訂正等を内容とする訂正審判請求をした(内容2-2(2005-10-14)

1-5        特許庁は本件訂正を認める審決をした。

1-6        知財高裁は次のように判断した。

1-6-1 本件訴訟係属中に、1-5の審決が確定し、特許請求範囲が減縮された。

1-6-2 そこで、1-3の特許庁決定は、結果として、判断対象の発明の要旨の認定を誤ったことになり、この誤りは、1-3決定の結論に影響する。

1-6-3 従って、1-3決定を取消す。

2.        武田薬品工業・本件特許の請求項1

2-1        設定登録時: 「分子量1,000以下の低分子重合物の含有量が3.0%未満である生体内分解型脂肪族ポリエステル。」

2-2        本件訂正: 「2-1の『ポリエステル』以下を次のように改める。

「ポリエステルであって、当該生体内分解型ポリエステルは、ポリ乳酸またはポリ乳酸とグリコ-ル酸との共重合体であり、その組成比が、乳酸 100~50モル%、残りがグリコ-ル酸である、生体内分解型脂肪族ポリエステル。」

3.        所見

3-1        内閣知財戦略本部の知財推進計画06は、「広く強い特許」を指向しているが、同計画の策定過程では、「広く」は「不明確」を結果する場合があるとの指摘がなされていた。

    武田薬品工業は、請求範囲の減縮により、本件特許を成立させた。

3-2 上記の本件訴訟経過にかんがみ、「訴訟費用は原告負担が相当」と、知財高裁は判示している。 

2006年7月22日 (土)

ミサワホ-ム・住友林業:知財高裁判決

特許無効審決取消請求を棄却:2006-7-20

弁理士 佐成重範(Web検索SANARI PATENT

1、        「蔵型収納付き建物」特許

1-1        ミサワホ-ムは、発明名称「蔵型収納付き建物」の特許権者であるが、住友林業はその無効審判を特許庁に請求し(2005-6-7)、特許庁は無効審決した(2005-9-29)

1-2        ミサワホ-ムは、この無効審決の取消を知財高裁に請求したが、知財高裁は「平成17(行ケ)10803号事件判決」(2006-7-20)をもってミサワホ-ムの請求を棄却した。 

1-3        ミサワホ-ムの標記特許明細書の「請求項1,2」(本件発明)(要旨)は、

1-3-1 「上下階に亘って複数の室を配置した建物において、

1-3-1-1 天井の高さに差をつけた室を下の階に配置し

1-3-1-2 この差に応じて床面の高さに差をつけた室を上の階に配置し

1-3-1-3 その高い方の床面から屋根裏までを蔵型収納空間としたことを特徴とする蔵型収納付き建物」

1-3-2  低い方の床面の室に面して、蔵型収納空間(室)の出入口と、低い床面・出入口間の階段を設けたことを特徴とする1-3-1の蔵型収納付き建物」

 である。

2.特許庁の無効審決の理由(要旨)

2-1 「本件発明は、先行発明(引用発明:居間とアトリエに関する)と周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである」。すなわち、先行発明と本件発明との一致点は、「上下階に亘って複数の室を配置した建物において、天井高に差を設けた室を下階に配置し、室間の床面に高低差を設けた室を上階に配置した建物」である点である。

2-2 相違点は、

2-2-1本件発明では、上階の室間の床面高低差が下階の室の天井高差に応ずるが、引用発明では、そのような構成ではない。

2-2-2 引用発明では、蔵型収納空間としたか、不明。

2-2-3 出入口と階段についても不明。

2-3 天井高を基準とするか、天井の位置を基準とするかに、技術的な意義はなく、また、天井と床面の間の高さが若干異なるとしても、単なる設計事項に過ぎない。

3.ミサワホ-ムの主張(要旨)

 「本件発明の構成は、下階の室の床高の同一を必須要件とするから、引用発明の『アトリエの床が居間の床より低い』とは全く異なる。その他、審決は本件発明の進歩性について誤った判断をしている」。

4.住友林業の反論(要旨)

   審決における本件発明と引用発明との異同の判断に誤りはなく、また、下階の床高の同一については、ミサワホ-ムの主張は、特許請求の範囲の記載に基づかないものである。

5.知財高裁の判断(要旨)

5-1 「ミサワホ-ムは、『無効審決は、本件発明と引用発明との相違点を看過し、本件発明の進歩性を誤って否定した』と主張している」。

5-2 「しかし、出願に係る発明の要旨の認定は、特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは一見してその記載が誤記であることが明らかであるなど、発明の詳細な説明の記載を斟酌することが許される特段の事情がない限り、特許請求の範囲の記載に基づいてなさるべきである(最高裁昭和62年(行ツ)第3号・平成3-3-8第2小法廷判決)」。

5-3 「従って、審決が、3.の事項について引用発明と対比しなかったことに誤りはない」。

5-3 「その他の、ミサワホ-ムが引用発明との相違点として挙げた事項も、容易想到性または設計事項の範囲内に属し、本件発明の進歩性を否定した無効審決に誤りはない」。

6.所見

 今次知財高裁判決が引用した最高裁判決を、実務上、十分に考慮することが必要である。

進歩性が仮に些細であれば、特許を付与しないことが妥当か、これは別途の課題である。

2006年7月21日 (金)

ヒトES細胞

ヒトES細胞の使用について、内閣知財戦略本部に、下記要望を送信しました。

       記

ヒトES(Embryonic Stem)細胞に関する知財戦略、および、遺伝子治療方法の特許性についての要望

 佐成 重範(検索SANARI PATENT

  ヒトES細胞の使用が米国で政治問題として顕在化しましたが、知財推進計画06の「先端医療」関係記述にかんがみ、ヒトES細胞使用を含む 遺伝子治療・臓器移植等について、下記の認識から、知財戦略からのお示しを要望申しあげます。

         記

1.        わが国科学技術会議の基本的考え方

 「ヒトES細胞を中心としたヒト胚研究に関する基本的考え方」(科学技術会議生命倫理委員会・ヒト胚研究小委員会:2000-3-6)は次のように述べている(要旨)。

1-1 「199811月に、身体を構成するあらゆる細胞へと分化が可能な胚性幹細胞が、ヒトの初期胚(受精卵)から樹立されたことが、米国ウィスコン州大学により発表され、医療応用の可能性が期待されると共に、ヒト胚をどこまで利用することが許されるか、課題とされてきた」。

1-2 「すでに1953年に、英国でヒトの体外受精の成功を見たが、この成功は、『余剰胚』と呼ばれるヒト胚を産生し、その一部はわが国においても、生殖医学の基礎研究に、学会登録を要件として使用されてきた」(SANARI PATENT注:次項「樹立」前の胚に関する)。

1-3 「ES細胞の樹立(試験管内で長期にわたり性質を安定的に維持して培養することが可能な状態で取り出すこと)は、それが、神経・皮膚・筋肉・骨・消化管・生殖細胞のいずれにも分化できる性質を有すること、分裂回数に限界がないこと、染色体数の異常を発生しないこと、などの特徴を持つため、各種の研究分野で非常に有用な研究材料である」。

1-4 「ES細胞のうち、ヒトES細胞以外の動物ES細胞は、遺伝子操作のため広く利用されている」。

1-5 「ヒトES細胞については、現在、移植医療において、移植用の組織・臓器が不足し、その対策として期待が大きい」。

1-6 「一方、人の生命の萌芽を操作するという、人の尊厳に抵触する危惧がある」。「従って、ヒトES細胞については、樹立機関・医療機関の責任を明確化するなど、使用計画の審査・透明性・提供者の同意に関する体制を確立することが必要である」。

2.        米国におけるヒトES細胞論争:

 米国上下院を通過した「ヒトES細胞研究への連邦助成拡大規制緩和法案」に対し、米国大統領が署名拒否したことは、内外の関心を集めたが、2007年に同法案の再提出も予想されている(asahi.com 2006-7-20)

3.        遺伝子治療との関係:

  特定遺伝子の異常が原因で疾病が発生している場合、その遺伝子を正常化して治療するという発想は、すでに1990年に米国で実行されたが、この場合は免疫不全により奏功しなかったとされている。

 ヒトES細胞の利用は、遺伝子治療の一環としても、その研究が進められると考える。

4.        知財推進計画06との関係:

  医療行為に対する特許性の付与については、法制の相違が日米欧に見られるが、独占権・差止め請求権の排除等の「公益保護の立場」は共通している。倫理的考慮について、国内・国際の調和は、今後の知財推進計画に俟つところと考える。

  

2006年7月20日 (木)

日本鋼管・川崎製鉄の全社知財融合:JFE

日本電気と日立製作所の部門知財融合:エルピ-ダ

 佐成 重範(検索SANARI PATENT

1.         知財権戦略の潜在:

経営安定のためには、会社IR(対投資家広報)と会社SR(対株主広報)の双方に軸足を均等させることが必要とされる産業界の現状であるが、広報のいずれにも、知財権の具体的開示がなされることは、未だ極めて少ない。内閣知財戦略本部が唱導する知財報告書を財務報告書と別立てに公表する会社も、上場会社の1割に満たない。

しかし、製品開発戦略の基盤は知財戦略(特許・ノウハウ・ブランドの総合)であり、会社の合併も、知財の相乗効果によりその効果が発現する。

2.        数土(すど)文夫JFE社長のweb-site出演:

  JFEの「オンリ-ワン」「ナンバ-ワン」戦略を展開する知財基盤について、JFEのweb-site(2006-7-20)では、社長出演のmovieにより次のように説明された。

2-1 「合併後、4年近くを経たが、『高級品市場における世界最高の技術』を目指し、研究・技術の融合を果たしてきた。当社では、業界唯一の技術を活かした製品をオンリーワン製品、業界首位の技術とシェア-を有する製品をナンバ-ワン製品と呼んでいるが、合併前、オンリ-とナンバ-ワン合計の対全社売上比率が6%に過ぎなかったのを、2005年度には21%に急増させている。」

2-2 高度技術開発の具体例を見ると(抜粋)、

2-2-1 ナノメ-トルレベルでの材料組織解析技術により、超高強度鋼板を開発している。

2-2-2 優れた有機被覆鋼板開発のため、有機皮膜構造解析技術を開発している。

2-2-3 鋼中元素・介在物の迅速分析、表面処理層オンライン分析等、プロセス制御にフィ-ドバックして高品質製品を製造するための分析技術を開発している(酸素定量の連続化、スパ-ク放電発光分析による介在物組成・粒径分布検出の迅速化等)。

2-2-4 電動機・変圧器材料として、低鉄損・高磁束密度の方向性珪素鋼板を開発している。

2-2-5 開発素材を使用した実機性能を評価する探針法局所磁気性能評価装置等を開発している。

3.        旧NEC日立メモリ-㈱・現エルピ-ダメモリ-株のDRAM技術:

3-1        日立製作所と日本電気が1999末に設立したエルピ-ダメモリ-㈱は、DRAM(随時書込み読出し可能メモリ-)技術の両社知財を融合して、「直径300mmのウエハを使った最先端DRAM」を開発したが、2003年には更に、三菱電機からDRAM事業を譲り受け、開発エンジニアを受け入れているから、知財融合の要素がさらに拡大している。

3-2        デジタル家電・モバイル機器の分野では、製品の高機能化とダウンサイジングが進み、それらに搭載するDRAMにも低消費電力・低電圧・小型化等が要求される。パッケ-ジ技術やモジュール化ノウハウを開発しつつ、需要先とのパ-トナ-シップを強化している。

4.        所見:

  企業全体の合併または企業の特定部門の合併による知財の融合は、わが国知財戦略の核心をなすものと考えられる。かつそれは、海外市場における主導的地位を築くための基盤である。

 JFEは、アジアを中心とする海外鉄鋼メーカ-との幅広いネットワ-クを持つ。

 エルピ-ダメモリ-㈱も、海外に5子会社を有するなど、米欧アジアに製品供給しているが、朝日新聞朝刊(2006-7-20)が第1面トップ記事で報道した{新工場を台湾に}の内容については、同社は即日、「具体的な決定は一切ありません」と発表した。これほどにマスコミの注目も集める「知財融合」と認識される。

2006年7月19日 (水)

諸分野士業の現況

弁理士・弁護士・税理士・司法書士等

 佐成 重範(検索SANARI PATENT

  産構審知財政策部会の本年度審議が進み、資料も整備されつつあるが、2006-7-12付けの諸表で要点を見る。

1.        士業登録者(個人)数と士業法人数

  (2006-04-01)

      登録者数(名) 同士業法人数   

弁理士   6、695      54   

弁護士  22,056      194     

税理士  69,243    1,079     

公認会計士 16,379     162     

司法書士  18,060     157     

SANARI PATENT注: 弁理士数 6748名(2006-04-30)のうちに、「弁護士が弁理士にも登録した者」363名を含む。弁理士のうち、税理士登録者数は数名程度であるが、著作権等の知財権の課税対象価額評価等にも寄与している。司法書士のうち認定司法書士は、簡裁における単独訴訟代理権(知財事件を含む)を有する。

2.        諸士業法人の主たる業務の範囲

 弁理士: (1) 特許・実用新案等、特許庁における手続の代理、異議申立等、経済産業大臣に対する手続の代理、鑑定。 (2) 関税定率法に基づく税関長への手続、(3) 特許・特定不正競争・著作物等の仲裁手続、(4) 知財取引の契約の代理、(5) 特許等の訴訟における補佐人、(6) 特許権等の特定侵害訴訟業務

 弁護士: (1) 訴訟事件、(2) その他一般の法律業務

 税理士: (1) 税務代理、(2) 税務書類の作成、(3) 税務相談、(4) 税務訴訟における補佐人

 公認会計士:(1) 財務書類の監査・証明、(2) 財務書類の調製・財務に関する相談

SANARI PATENT注: 各士業法人の業務には、各士業の専権業務と資格標榜業務とが含まれている。専権業務について、各士業者は無限責任を負担すべきものと考えられ、従って、例えば特許業務法人には合名会社の社員責任規定が準用されている。同様の理由で、わが国では、有限責任業務組合(LLP)制度も、士業の専権業務には認められていない。英国等と同様、LLPを専権士業業務にも認めるべきか、国際競争力の見地からお、別途検討課題とすべきである(中国等で、英国弁理士LLPの活躍が見受けられる)。

3.      士業団体への強制加入制度

3-1        専権業務資格者を会員とする団体で、強制加入規定がないものは、医師、歯科医師、薬剤師、不動産鑑定士等である。

3-2        強制加入が規定されているのは、弁理士、弁護士、税理士、公認会計士、司法書士、行政書士、社会保険労務士、土地家屋調査士の8資格である。

SANARI PATENT注: 上記の区別は、登録業務を国が行うか否かに、結果として見合っている。米国では、特許弁護士(US Patent Attorney)や特許代理人(US Patent Agent)・商標代理人(US Trade Mark Agent)の登録を米国特許商標庁が行うので、日本弁理士会に見合う制度の規定がない。

2006年7月18日 (火)

産構審知財政策部会の「進歩性」検討

特許庁は「バイオ進歩性判例集」を公表

 佐成 重範(検索SANARI PATENT

1.経済産業省産構審知財政策部会

1-1 同部会の資料「発明の進歩性判断に関する検討について」(2006-6-16)は、次のように述べている。(要旨)

1-1-1 進歩性とは、新しい技術が、先行技術から見て当業者が容易に思いつく(発明することができる)程度のものではないことを意味し、新しい技術が特許を受けるためには、進歩性があることが要求される。

1-1-2 進歩性の判断については、国内外において論議が高まっているが、特許庁においては、国際的な制度・運用の調査・研究を行うとともに、個別事件ごとの事例研究を通じて、わが国における進歩性判断の問題点を整理し、進歩性判断に関する検討を行う。

1-1-3 わが国の進歩性判断が欧米と異なるため、その国際調和の必要性、また、特許庁・裁判所の進歩性判断の厳格度が課題視されている。

1-1-4 欧米では、進歩性微少な特許によるイノベ-ション阻害が懸念されている。

1-2 同部会での検討状況

1-2-1 特許庁(審判課長)「検討の場を二つ設けた。一つは個別事例の検討。一つは国際的な制度・運用の検討(日米から三極に及ぶ)」。

12-2 諸石委員(住友化学):「進歩性判断については、予測可能性(SANARI PATENT注:想到容易性と同義か?)等の判断の一致が必要である。特許庁が策定する統一基準と、裁判所の考え方の整合が課題」。

1-2-3 森下委員(大阪大学)「進歩性について、特に米国との間で違和的な感触が増大している。明細書の書き方を含めて、統一への方向性を明確にされたい」。

2.特許庁審判部によるバイオ進歩性事例集:

2-1 すでに特許庁審判部は、「生物関連発明の主な判決事例集」(2006-3)において、進歩性に関する判決を、記載要件に関する判決等と併せて、まとめている。それは、「生物関連発明の特殊性」に対処するものである。

2-2 上記事例集の進歩性関係(抜粋)(要旨)

2-2-1 「ある生物の遺伝子から得られた組換サイトカイン(SANARI PATENT注:サイトカインは、細胞が産生する蛋白であって、それに対する受容子を持つ細胞に作用して、細胞の増殖・分化・機能発現を行うもの)が、複数の生物活性を有することが確認されていれば、配列公知の他生物種の対応遺伝子から組換サイトカインを取得することは容易であり、またそれが、類似多能性サイトカインが有する別の生物活性を有することも、予測容易である(従って、進歩性否定)」。

2-2-2 「『古細菌からの組換熱安定性DNAポリメラ-ゼ』に係る発明について、請求項から引用文献の記載事項を『除くクレ-ム』形式で除いても、残余の部分が、引用文献の記載から、依然として、容易に想到し得る(従って、進歩性否定)」。

2--3 「出願日前に、あるタンパク質のある機能の存在が期待され、その確認に強い動機付けがあった場合、周知手段によりその機能の存在を確認しても、進歩性がない」。

3.所見:

3-1 わが国の進歩性と、米国の有用性との相違を明確にする必要がある(特技懇誌上で、審査官間の討議がなされたことがある。『わが国における進歩性判断に、米国特許法の有用性の要素を加えるべきか』という問題提起でなされた)。

3-2 進歩性判断に「商業的成功」をどの程度重視すべきか。米国では、容易想到性の判断基準として、審査基準に明示されている。

3-3 容易想到性・動機付け等の判断基準は、審査・判例の集積・解析により明確化するほかないと考える。その際、日米欧の調和が課題として加重される。

3-4 「価値の少ない」(=進歩性が微小な)特許がイノベ-ションを阻害するという欧米での論議に、実証的検討を加えるべきである。

2006年7月17日 (月)

弁理士試験受験志願者1万人超

合格者の数と質の両立要件

 弁理士 佐成重範 patent@sanari.name 

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1.        産構審知財政策部会の検討活発化

  同部会に弁理士制度小委員会を設置し(2006-2-15)、本月12日の第3回会議に至る同小委員会の議論で、課題の核心に迫りつつある。

1-1        これまでの弁理士法改正の要点と、諸団体の意見例

1-1-1        平成12年改正: 弁理士業務規定に、裁判外紛争処理、ライセンス契約等の資格標榜業務を付加。登録後手続に関する独占業務を縮減。

1-1-2        平成14年改正: 侵害訴訟代理権規定の付加(付記弁理士・現1479名)、試験内容の簡素化合理化等(他方、著作権法・不競法を追加、試験の一部免除)、特許業務法人制度(現54)新設、地方支所(現296)許容、標準報酬表廃止、弁理士職責規定新設

1-2               諸団体等の意見(抜粋)

1-2-1        日本弁理士会: 試験・研修制度を一体化した制度の導入を目指す(2005-12)、国家戦略としての国際競争力の強化を目指し社会全体の利益の観点から弁理士制度を考える。条約・実務能力の重視、不競法・関税定率法関係業務拡大、一人法人・指定社員無限責任制度導入、法の目的規定改正、弁理士へのアクセス手段強化等。

1-2-2        日本知財協出身委員: 弁理士に望む付加能力として、高度な紛争解決能力、経営にアドバイス。弁理士に競争原理の導入には賛成だが増員のみ急速では不安。

1-2-3        日本商工会議所: 522会議所で業者450万。組織率3分の1.中小企業の諸ニ-ズに適合する弁理士を求める。

2.        産構審知財政策部会の検討項目

2-1 試験・研修制度(科目、選択科目免除、実務能力担保、新法)

2-2 業務(外国出願、不競法、訴訟代理、水際措置)

2-3 特許業務法人制度(一人法人、有限責任)

2-4 弁理士情報公開

2-5 日本弁理士会の強制加入制度

2-6 知財部門の分社化

2-7 弁理士事務所の補助員

2-8 利益相反事件

3.        日本弁理士会発言以外に、多様な委員発言(抜粋)

3-1 「平成12年改正の際、専権業務を止めて標榜業務にすべしとの論に対し、合格者の多数化により規制緩和するから、その成果を見て再検討、という経緯があったことを踏まえるべきである。また日本弁理士会への現行強制加入制度についても検討すべきである」。(相沢委員:一橋大学教授)

3-2 「グロ-バルな観点から議論すべきである」。(沢井委員:経団連)

3-3 「中小企業が容易に知財権を取得し、侵害に対抗できる環境を整備すべきである」。(坪田委員:日本商工会議所)

3-4」「弁理士制度に関連する諸制度も含めて総合的に検討すべきである」。(大渕委員:東京大学教授)

3-5 「合格者の平均年齢が34歳という現状にかんがみ、若い人材を幅広く求めるには、試験制度や科目は今のままでも良いのではないか」。(野坂委員:読売新聞)

3-6 「日本弁理士会は強制加入制度を採っているから、ここで登録前の義務研修をすると、参入規制のためと見られるおそれがある」。(相沢委員:一橋大)

3-7 「単独訴訟代理権については、実績の集積状況から見て、時期尚早と考える」。(清水委員:東京地裁総括判事)

4.        所見

  弁理士の適切な数について、本格的な論議が未だなされていない。質について、弁理士間の競争に委ねる考え方、弁理士の自己責任(職務責任)とする考え方、研修費用を司法修習生と同じく全額国費とすべしとする考え方などがあり、特に、登録前研修と参入障壁との関係については、上記抜粋以外にも発言が見られた。

 上記3-7の意見は、日本弁護士連合会が「単独訴訟代理権の必要を認めない」としているのと、発言の根拠に相違が見られる。

 基本的に重要なのは、上記3-2の「グロ-バルな観点」であって、知財専門家の資格付与に至るコスト、員数、専門家間競争による質の向上の諸見地から、米国の制度等と比較しつつ、国際競争力基盤としての弁理士制度を、知財弁護士制度を含めて、考察すべきであると考える。

 さらに基本的に重要なことは、本稿表題の〔弁理士試験受験者1万人超〕に及ぶ受験者の質が、大学課程の知財実務や関連法・条約の充実によって向上することである。7%程度に精選された合格者に、能力不足の著しい場合があるとされることは、大学課程の欠陥を示すものと考える。

2006年7月16日 (日)

知財推進計画06の発進状況

どのように実施されつつあるか

 弁理士 佐成重範 patent@sanari.name 

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内閣知財戦略本部知財推進計画06の決定(2006-6-8)に基づき、経済産業省では、目下、次のように実施を進めている(産構審知財政策部会議事録2006-7-13公表)。

1.        平成18年度に、特許の一次審査件数目標を29万6千件以上とする(17年度実績は24万5千件。また、先行技術の登録調査機関を1機関増、4機関に:2006-6-5)。

2.        日米間で特許審査ハイウェイの試行を開始した(2006-7-3)。日米を日米欧の3極に、さらにはアジア諸国等に拡大したい。

3.        先使用権制度のガイドライン事例集を充実する(『事業の準備』の有無の判断基準等)。

4.        審査官の先行技術調査ノウハウを民間に移転する(2006-6-26 研修開始)。特許検索ガイドブックの公表を続行する。

5.        ビジネスおよびバイオ関係等の分野別判例集を作成・公開しつつある。

6.        審査請求後にこれを取下げた場合の請求料半額返還制度を、全額返還に改めるよう、検討中である。

7.        審査着手前の取下げ・放棄件数は、昨年同期の1.5倍に増加している。

8.        中小企業支援事業のパンフレットを商工会等に百万部配布する。

9.        資力の乏しい中小企業に対して、特許手数料を減免する制度について、設立後10年以内という限定を緩和するよう、検討中である。

10.中小企業知財駆け込み寺の設置を、7月中を目途に準備している。

11.中小企業支援の懇談会察知を準備している。

12.進歩性判断の国際調和を進める(個別事件に基づく判断手法の分野別研究と、主要国の制度・運用等の実態調査)。

13.意匠法改正により、情報家電等の画面デザインを保護する。

14.模倣品の輸出入差止め手続について、パブコメの結果を踏まえて検討中である。

15.本年4月に施行された地域団体商標制度は、6月までに465件の出願があり、その7割が農水産等の食品を指定商品としている。現在、関係省庁と連携しつつ審査中で、今秋、順次、審査結果を出す。

2006年7月15日 (土)

「三浦葉山牛」商標の知財高裁判決後

インタ-ネット販売も益々盛大(7-15)

  弁理士 佐成重範 patent@sanari.name 

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1.        三浦葉山牛の検索ヒット数:

  楽天のインタ-ネット通販「人気の三浦葉山牛」を始め、6380件のヒット数を数える(2006-7-15 Google検索)。三浦葉山牛カレ-、三浦葉山牛カルビなどの加工品のネット通販も活発で、今次、「三浦葉山牛」商標出願拒絶に対する不服審判の審決(請求不成立)の取消請求の棄却と、出所を識別する消費者利益の保護(酪農行政・地域ブランド制度等と総合して)との関係に、今後、益々関心が持たれる。

2.        知財高裁判決(2006-6-12)に至る経緯:

2-1 「平成18年(行ケ)10054号 審決取消請求事件」の経緯は次の通りである。

2-1-1 法人格なき社団である「三浦半島酪農組合連合会」の代表者2名が、「三浦葉山牛」(毛筆)商標を、指定商品「牛肉」として登録出願した。

2-1-2 特許庁の拒絶査定を受け、不服審判を請求したが、請求不成立の審決(2005-12-27)を受け、その取消を知財高裁に請求した。知財高裁は標記判決で、この請求を棄却した。審決の要旨は次の通りであった。

2-1-2-1「『三浦葉山牛』という商標を『牛肉』について使用するときは、『三浦半島の

葉山町

産の牛肉』を表すものにとどまるから、「その商品の産地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」(商標法3条1項3号)に該当する」。

2-1-2-2 「『三浦葉山牛』という商標の使用により、三浦半島酪農組合連合会が、自他商品識別力(特別顕著性)を取得したものと認めることはできず、商標法3条2項の要件(2-1-2-1該当であっても、特別顕著性を取得している場合)を具備するに至ったと認められない。

2-3 原告(連合会)は2-1-2-1については争わず、2-1-2-2が争点となった。

2.        争点に関する知財高裁の判断(要旨):

2-1 「商品の産地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」が登録を受け得ない理由は、このような商標は、取引に必要適切な表示としてなんぴとも使用を欲するものであるから、特定人による独占的使用を認めることは公益に適さず、また、多くの場合、自他商品識別力を欠くからである」。

2-2 「一方、上記の例外として、特定人が、その商標を自他識別標識として長年独占的に継続使用した実績を有する場合は、独占が事実上容認されている以上、他の事業者にその商標の使用を開放しておく公益上の要請は薄いので、『使用により自他識別力を有すること』および『出願商標と使用商標の同一性が認められること』を要件として、登録を認めていると解する。商標権は権利が全国に及び、かつ更新可能な強い独占権であるから、この例外適用の条件は厳格に解すべきである」。

2-3 前項の例外要件について、原告は数多くの証拠を示したが、要件の充足を認めるに足らない。

3.所見:

 食品の流通秩序、表示の公正、出所識別、地域ブランド振興等の諸必要性を総合的に充足できるよう、諸権利の要件の厳格性保持と併せて、一層の検討を要する。生物由来食品の生産方式の工業化(全国均一化)や、インタ-ネット通販に伴う「全国周知性」の変遷への対応についても、同様である。

2006年7月14日 (金)

松下電器産業の審決取消請求事件判決(7-12)

アクティブマトリックス型液晶表示装置

 弁理士 佐成重範 patent@sanari.name 

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1.        液晶表示装置業界の状況:

  液晶表示装置の開発・市場制覇を競うグロ-バルな動きが活発化し、例えば、中国・龍騰光電(昆山市)TFT(Thin Film Transistor)液晶表示装置の中国3番目のメ-カ-として、新世代方式製品の生産を開始したと報じられている(日中グロ-バル通信2006-07-03)。

 わが国内でも開発競争と共に、クロスライセンス等の企業連携も活発な分野であり、特に、薄膜状のトランジスタ(ガラス等の基板上にアモルファスシリコン等で構築)を利用するTFT液晶表示装置は視認性等に優れるとされてきたが、さらに、反射率を高めた反射型TFT液晶など、透過型TFT液晶に比べて鮮明制度・電力節減度においても優れているるとされる新開発製品も続出しつつある。

2.        事案(要旨):

2-1        松下電器産業は、名称を「アクティブマトリックス型液晶表示装置」とする発明につき特許出願したが、拒絶査定を受け、これを不服として審判請求したところ、この発明の容易想到性等を理由として「審査請求不成立」の審決がなされたため、その取消を東京地裁に求めた。

2-2        東京地裁は、「平成17年(行ケ)10666号 審決取消請求事件」判決(21006-7-12)により、松下電器産業の請求を棄却した。

2-3        本願発明は、「従来TFT-アクティブマトリックス型方式の液晶表示モ-ドとして、Twisted Nematic方式のNormally Whiteモ-ドが用いられているが、入射方向に対応して光透過率が異なるため輝度の逆転現象を起こす。また、横電界方式にも画像品質上の課題がある」のに対し、「広い視角で良好な多諧調表示を実現すると共に、簡易な構成で高品質の画像を表示する横電界駆動式アクティブマトリックス型液晶表示素子を提供すること」を目的とする。

3.        引用発明との異同についての争点に対する東京地裁の判断(抜粋):

3-1        引用発明における「他方の対向基板」は、「マトリックス状に配置された複数の信号配線および走査配線」と、「それらの各交差点に設けられたスイッチング素子と、これに接続された画素電極」と、「共通電極」とを有するので、本件補正発明の「アレイ基板」と同一の構成をなす。

3-2        引用発明の「他方の対向基板」に形成される電極対として、刊行物の図の一を採用すれば、一方の偏向軸が「一方の基板」の電極対と平行になるよう配置できる。

4.        引用発明における「阻害要因」の存否についての争点に対する東京地裁の判断(抜粋)

    引用発明の電極Aをソ-ス電極とし、電極Bをコモン電極とすれば、松下電器産業が主張するようにリーク電流が増大するが、逆の電極対を採用すれば、その増大を避け得る。

5・ 容易想到性に関する東京地裁の判断(抜粋)

    引用発明において電極Aをコモン電極、電極Bをソ-ス電極とし、さらに、電極対の対称軸を90度回転させれば、リ-ク電流の増大を避け、寄生容量の発生を減少できることは、当業者が容易に想到できる。

5.        所見:

    争点としては、上記のほか「審判手続の法令違背」があったが、「審決ひおける拒絶理由は、既に拒絶査定の段階で松下電器産業に示されているから、「拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合に当たらない」と判示している。

 先行技術に示された技術の範囲の判断手法や、「動機付け」等の容易想到性判断の要素について、具体的に即し、考究を積み重ねる必要性を再認識する。

2006年7月13日 (木)

パラマウントの申立却下東京地裁7-11

一昨日のパラマウント事件東京地裁判決は、文化庁見解を東京地裁が否定したこと、知財権保護と公正な利用のバランスに言及したことなど、注目されます。

     記

文化庁見解を否定「ローマの休日」判決(7-11)

パラマウントの申立を東京地裁が却下

 弁理士 佐成重範 patent@sanari.name 

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1.        平成18年(ヨ)第22044号 著作権仮処分命令申立事件:

1-1        債権者: 米国カルフォルニア州パラマウント ピクチャ-ズ コ-ポ

1-2        債務者: ファ-スト トレ-ディング(保護期間満了映画のDVD製造販売業者)

1-3        事案の概要(判決では年は昭和・平成で表示)

1-3-1        パラマウントは1953年に映画「ロ-マの休日」「第17捕虜収容所」を制作・公表・著作権登録した(米国にて)。

1-3-2        米国は「著作権に関する日米暫定協定」を締結し1952-4-28に発効した。

1-3-3        わが国について万国著作権条約が1956-4-28に発効し、同日、著作権万国特例法が施行された。

1-3-4        本件映画は「独創性ある著作物」として、旧著作権法で公表から38年、その改正著作権法で公表後50年とされ、終期は、公表日が属する年の翌年1954年から起算するとされた。

1-3-5        改正著作権法が2004-1-1に施行され、「映画の著作物の著作権は、その著作物の公表後70年」とされた。経過措置規定により、

1-3-5-1           施行の際、改正前の著作権が存する映画には70年を適用

1-3-5-2           消滅している映画については不適用

 定められた。

1-3-6               ファースト トレーディングは、2005-10ころから、本件映画のDVDを製造販売している(保護期間満了のパブリックドメイン価格)。

1-3-7               パラマウントは、ファースト トレーディングの「1-3-1著作物のDVD製造・頒布」を禁止する仮処分命令を申立て、東京地裁はこれを却下した(2006-7-11)

2.        争点:

2-1        パラマウントは、1-3-5-1により70年存続、ファースト トレーディングは、1-3-5-2により本件著作権は既消滅と主張した。

2-2        パラマウントの主張(要旨):「改正法付則2条により、本件映画の著作権は、平成151231日午後12時の経過により50年の存続期間が満了すべきところ、改正法の施行は1-3-5により平成16年1月1日午前零時である。

両者は同時点であり、施行時点に規定により、保護期間は70年に延長された(平成351231日まで)」。文化庁の見解(著作権課刊行文献等)も、パラマウントの主張を支持するものである。

2-3        ファースト トレーディングの主張(要旨):

「本件映画の著作権は平成151231日に、50年満了で消滅し、翌日の改正法施行日には消滅している。前日に消滅して翌日に存在することは法律の自然な解釈に反する」。

3.        東京地裁の判断(要旨):

3-1        本件改正法附則2条の適用関係に関するパラマウントの解釈、および、文化庁の見解は、文理解釈上、採用することができない。

3-2        著作権法を所管する文化庁が、パラマウントの解釈と同一の見解を表明してきたこと、および、これに対するパラマウントの期待は十分に理解することができる。著作権法に限らず、あらゆる法分野において、一国の法制度として、事前に権利の範囲や法的に保護される利益が明確であって、これらの侵害に対して確実に事後の救済がされるような法的安定性と具体的妥当性が確保されていることが望ましい。

しかし、文化庁の見解が法的に誤ったものである以上、これを前提とする運用を将来においても維持することが、法的安定性に資することにはならない」。

4.        所見:

    東京地裁は上記判示に加えて、次のように述べているが、「権利の保護と公正な利用のバランス」にも意を用いようとする内閣知財戦略本部の意向、および、これを支持するコンテンツユ-ザ-等のパブコメ等にも適合するものと考える。

「パラマウントは、知財保護を重視する時代の要請を指摘する。しかしながら、著作権法は、著作者の権利を定め、その文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作権者の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的とした法律である。70年への改正規定の適用の有無は、経済的利害に加えて、侵害差止・損害賠償・刑事罰等の該当性の有無を考えれば、文理上明確でなければならず、利用者にも理解できる立法をすべきであって、著作権者の保護のみを強調することは妥当でない」(要旨)。

2006年7月12日 (水)

知財専門家に対する「親切要請」と「料金要請」

米国特許商標庁の弁理士制度解説記事      

2006-7-11 弁理士 佐成重範(Web検索SANARI PATENT

1.        内閣知財戦略本部の知財専門家計画:

 知財推進計画06の「知財人材育成総合計画」にいう「知財人材」のうち、「業として知財サイクルの運用に関与する者」が「知財専門家」である。

 知財専門家は、次のように分類される。

1-1        弁理士、知財弁護士(弁理士登録した弁護士および知財事件を専門とする弁護士)等、国家資格を法定された知財専門家。

1-2        知財人材の民間資格者(知財推進計画06は、「知財人材に関する民間の資格など、評価指標の充実を図る」として、「知財専門人材へのインセンティブを高めると共に、知財人材を求める側のニ-ズに応えるべく、民間の自主的取組を奨励する」と計画している。これは1級に至る「知財検定」等を意味すると解する)。

1-3        知財コンサルタント、および、知財の課税価額を評価する税理士、簡裁の知財訴訟代理を単独受任する認定司法書士、著作権処理を行う行政書士等の副業的知財人材の一部。

2.        知財推進計画06の中小・ベンチャ-企業対策における弁理士:

  弁理士の職能発揮に関し、知財推進計画06は中小・ベンチャ-企業の知財対策として特に、次のように計画している。

2-1 「日本弁理士会等とも連携して、中小企業に親切な弁理士や、個別の技術分野に詳しい弁理士を紹介する」(p.79)

2-2 「日本弁理士会に対し、費用やサ-ビスその他の面で中小企業個別の事情を考慮して適切な配慮を払うよう促す。特に中小企業等支援のための弁理士料金等については、手数料の延払い、成功報酬型支払い、ストックオプションなど多くの選択肢について研究することを促す」。(p.81)

3.        弁理士に対する「親切要請」と「料金要請」

  知財専門家に対する全般的要請に加えて、前項の2つの要請は弁理士に対して特段に計画されている。その内容から、弁理士に対する「親切要請」と「料金要請」と解する。

3.        親切要請について:

3-1        弁理士に対するユ-ザ-の感謝の声は、web-site上でも見られる。例えば2006-6-20の「弁理士さんに会ってきました」と題するweb-site記事は、「先日、現在企画している事業計画の特許の相談で、弁理士の方にお会いしてきました。今まであまり弁理士の方とはお付き合いがなかったので、少し緊張していたのですが、非常に親切な先生で、色々相談に乗っていただきました。私のアイデアに関しては、ビジネスモデル特許の範疇に入るとのこと。ただし、アイデアだけでなく、新しい技術がないと特許取得は難しいといわれました。その弁理士さんが言うには、アイデアは面白いので、商標権の登録が良いのではないか、コストも安いというのです。もっと真剣に検討する気になりました」。

このweb-siteには、「親切な弁理士さん」の実名とそのweb-siteも紹介して感謝の意を表している。

3-2        その他のweb-siteには、

3-2-1 業者のweb-siteで、「特許出願の代理を依頼し、「特許庁から拒絶査定」の旨の連絡をうけたが、審査請求には更に「40万円の手数料」を要すると言われ断念した」。

3-2-2 弁理士のweb-siteで、「依頼を検討したいので、とのことで出掛けたところ、弁理士として先方から説明を受けるつもりであったのに、先方から、『先生はこの内容をどのように理解・表現されますか』と、先ず質問され、要するに弁理士能力のテストをされたわけで、こちらから受託を辞退申しあげた」。

 上記3-2-2は、依頼者の行為としては極めて適切と考える。

3-3        弁理士に対する不評の例も、パブコメや、特許庁が産構審知財政策部会に提出された資料(2005-4-21)に詳しい(例えば特許庁資料では、非弁理士である事務所員に、実質的代理業務を行わせている、相当数の先行文献があるのに先行技術は無いと記載する、法規違反が明白な手続補正書を提出する、手続補正指令を放置する、予納残高不足を発生させるなど)

3-4        米国のPaten Agentの公告web-siteを見ると、手数料を明示するほか、業務実績として代理取得できた特許許可書のコピ-をweb-site上に表示するなど、弁理士個々が、親切と実力を表明している。

4.「料金要請」について

4-1 中小・ベンチャ-企業にとっては、弁理士のみならず多くの知財専門家の知的サ-ビスを受ける必要があり、全ての知的サ-ビスを包括して、料金要請をされることが適切と考える。知財専門家自身の資金繰りの健全を維持することも極めて重要で、このため信用保証等の新制度を提案する場合にも、知的サ-ビス全般の広い見地から進めることが、実現性を高くすると考える。

4-2 米国特許商標庁のweb-siteには、US Patent AttorneyUS Patent Agent

と題するペ-ジがあるが、「これら知財専門家とユ-ザ-との手数料協定には、米国特許商標庁は関与しない」、と明言している。「ただし、余りにも高額な対価をユ-ザ-が要求されたといった場合は別」と付記している。米国特許商標庁と調子を揃えることの妥当性がどうかを確認しつつ、料金要請に即応する態様を考究することが適切と考える。

2006年7月11日 (火)

鍛造事業の高度化と溶射

その5 川上・川中・川下(その4は7-10記事)

 弁理士 佐成重範 patent@sanari.name 

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1.        川上中小企業者としての鍛造事業者

  経済産業省の「ものづくり高度化計画」において鍛造事業者は、自動車製造業等の川下製造業者のニーズを的確に把握し、これまで培ってきた技術力を最大限に発揮するのみならず、新たな高度化目標に挑むことを要請されている。

2.        自動車製造と鍛造

2-1        鍛造製品について。軽量化・短納期化・高機能化・コスト低減・供給品質と量の安定が要求される。

2-2        低燃費の新エンジンに適する新素材・新構造鍛造技術の開発が必要である。

2-3        鍛造部品の小型化・複合一体化による機能の向上を要する。

3.        土木建設機械等製造と鍛造

3-1        機能材料の鍛造応用・複合一体化・組織微細化等の技術開発が要求される。

3-2        高精度化による後処理廃止が目標の一つとされる。

4.        鍛造事業者の課題

4-1 高機能化(高精度化・小型化・複合一体化)への対応(例えば、形状精度の自動制御が可能な金型システム、鍛造性良好で高強度な鋼の開発)

4-2 軽量化(Al鍛造品の一貫製造システム、Ti合金・Mg合金の鍛造、薄肉成形、中空化)

4-3 コスト低減(高精度美肌切断・金型表面皮膜処理・ロボットによる省人力)

4-4 短納期化(グロ-バルネットワ-クによる統合システム、製造プロセスの最適化)

4-5 品質・量の安定供給(製品特性の厳密な限度値内制御)

5.        鍛造事業者の知財戦略

5-1        自社知財を権利化するか営業秘密として保持するかの選択を、両者の得失を考究して決定すべきである。

5-2        川下製造業者と連携して特許等を出願・管理することも、必要に応じ検討すべきである。

5-3        川下製造業者との共同研究開発においては、発生すべき権利の帰属を事前に明確にすべきである。

6.        川中事業者に注目

  経済産業省の「ものづくり業高度化政策」では、中小企業振興の見地から、金型等の中小企業業界を川上製造業者、自動車等の大企業界を、川上製造業者の製品を需要する川下製造業者と位置づけて、両者の高度化を計画している。「親・下請け」の呼び名に慣れた立場からは、用語として直ぐには馴染み難いが、川の一体性と上・下の利害調節の双方に配慮している。

 しかし、実態的には、川の流れと同様、川上・川下の間に川中がある。川中事業者の実例として、平成17年年度の事業報告書が到着したトーカロ㈱(東証一部上場)について事業内容を見る。同社は、「溶射を核に、先進の表面改質技術で先端分野のニーズに応えている」。

 溶射は、高硬度・高融点の金属やセラミクスを高温で溶かして高速で吹きつけ、対象機器に新しい高機能皮膜を形成する技術である。エネルギー装置・輸送機器・医療用具など広汎な分野において川上・川下製造業者間に介在し、両者の製品品質を高度化する。規模も、従業員数については大企業と中小企業の中間に位する。

 川上・川下製造業者の中間にあって、知財の共有に至る場合も多発する重要製造業者と考えられ、経済産業省の新たな振興政策対象とされることが望まれる。

2006年7月10日 (月)

プラスチック成形加工事業者の知財戦略

高度化目標と新事業分野の開拓

 弁理士 佐成重範(Web検索SANARI PATENT

1.        川下製造業者の課題

 わが国のプラスチック成形加工業は第2次世界大戦後、数年を経て、射出成形機の輸入と石油化学工業の創業によって急速に発展してきたが、50数年の成果を基盤として、新たな展開を見せつつある。それはプラスチック成形加工品を需要する川下製造業者の技術革新と相俟っている。中小企業庁は、次のように述べている。

「わが国製造業の国際競争力の強化および新たな事業の創出を図るためには、プラスチック成形加工技術を有する川上中小企業者が、川下製造業者等のニーズを的確に把握し、これまでに培ってきた技術力を最大限に活用するとともに、これらニーズに応える研究開発に努めることが望まれる」。

2.        情報家電部門のプラスチック成形加工事業について

2-1        ケイタイ・デジカメ・カ-ナビ・ノ-トPC等、「軽量・頑丈・新デザイン」が求められ、開発経費を要する一方、大量消費型汎用製品は中国産品の影響で、価格の大幅な下落に直面している。

2-2        従って、情報家電の主要部分を担うプラスチック成形加工事業者は、川下製造業者と協力して、生産性の向上・環境対応・高付加価値を実現してゆかなければならない。細説すれば、その高度化目標項目は、次の通りである。

2-2-1        プラスチック成形加工に用いる樹脂材料・成形条件の選定技術

2-2-2        製品設計に応ずる金型設計技術およびシミュレ-ション技術

2-2-3        品質検査技術・完全自動化ロボット技術

2-2-4        リサイクル・自然由来プラスチック・生分解性ポリマー・添加染料・可塑剤の開発

2-2-5        ガスアシスト成形、微細気泡含有成形、複合成形(多色一括成形・多層一括成形等、エネルギ-節減にも寄与)

2-2-6        Mg合金・Al合金同様の性能を有するプラスチック成形

2-2-7        高強度液晶ポリマ-、ナノコンポジット等に適する金型および成形方法の開発。その材料のデ-タベ-スの構築

2-2-8        成形機内の挙動を模擬できる樹脂流動シミュレ-ション

3.        自動車部門のプラスチック成形加工事業について

3-1        プラスチック部品は自動車の重量の1割を占め、軽量化、耐熱性・剛性の向上(従来は金属に依存してきたエンジンルーム内の環境への耐性)が要求されている。

3-2        従って、自動車用プラスチック成形加工について次の課題がある。

3-2-1        ハイブリッド車の2次電池(Ni-H電池、Li電池)のプラスチックケースの薄肉化、対電解液耐食性の向上

3-2-2        燃料電池車の水素貯蔵タンク・電解質膜・セパレ-タのプラスチック部品の導電性・耐酸性の向上、精密成形

3-2-3        耐バイオ燃料性の向上、ポリ乳酸系植物由来プラスチックと既存材料の複合、それらの射出成形

3-2-4        衝撃吸収構造、電波透過性、機密・放熱構造

3-3               光学機器部門のプラスチック成形加工事業について

3-3-1        プラスチック成形加工技術は非球面レンズの製造に適し、レーザ-プリンタ-・カメラ・眼鏡・医療機器等の光学分野の発達に対応(形状の複雑化)してゆくことが要求される。

3-3-2        従って、光学機器用プラスチック成形加工について次の課題がある。

3-3-2-1           ナノレベル精密度の自由曲面(非軸対称・非球面形状)のガラス・プラスチック複合製品の量産・切削・研削

3-3-2-2           機能性微細プラスチック成形加工

3-3-2-3           光学部品の支持部品の開発

3-4                      プラスチック成形加工事業者の知財戦略

3-4-1 知財の権利化に際しては、権利化により自社技術・製品の優位性を保ち得ること、ライセンス料収入を見込み得ることなどの利点と、特許公開情報から独自技術流出のおそれがあること、他社による権利侵害判断の困難性があることなどの不利な点を総合勘案し、権利化と秘密保持の選択肢を考究すべきである。

3-4-2 いわゆる「預かり金型」の慣習を改善する。

3-4-3 川上・川下製造業者間で、プラスチック成形加工事業者が不利にならないよう配慮しつつ、企業連携体としての知財戦略を構築する。

2006年7月 9日 (日)

製造業・ものづくり業・サ-ビス業

その3 組込みソフトウェア(その2は7-8記事)

 弁理士 佐成重範 patent@sanari.name 

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1.        ものづくり業

 中小企業基本法の「中小企業者の定義」では、製造業・卸売業・小売業・サ-ビス業に業種を分けて規定し、この4業種に属さない業種を「製造業その他の業種」という形で製造業に含めている。

 従って、ものづくり業という、ここ数年来の用語は、同基本法には見受けられないが、ソフトウェア・プログラム等、無形製品性が有形製品性より濃厚な製品を含めて「ものづくり業」の対象が規定されることになったと解される。    サ-ビス業との境界が不明な分野の出現も予想される。

中小企業基本法の「中小企業の定義」、すなわち、製造業その他は300人・3億円、卸売業は100人、5000万円、小売業は50人・5000万円、サ-ビス業は100人・5000万円という、従業員・資本金の「以下限定」も、各業種の実体の変化によって、現実に即さない場合が現れつつある。

 組込みソフトウェア業者は、ものづくり業の「もの」である組込みソフトウェアの創造・製作・供給を行う川上製造業者と位置づけられているが、下請中小企業・系列中小企業である場合もあり、またコンサルティングやセキュリティのサ-ビス業者である場合も考えられ、業態は多様である。

2.        組込みソフトウェア中小企業者

 中小企業庁では、組込みソフトウェア技術を有する中小企業者を「組込みソフトウェア事業者」と呼び、川上事業に位置づけて、川下事業者である携帯電話・ロボット・情報家電・自動車製造の各業界の高度化に即応するための課題を指摘している。

3.        川上・川下の対応

3-1        携帯電話

3-1-1        川下における市場競争の激化、情報通信技術の革新、高品質・高機能・低価格についての利用者のニーズに即応して、携帯電話製造業では、組込みソフトウェアの開発について、大規模化・開発期間の短縮・品質管理の徹底・コスト削減を課題としている。

3-1-2        従って、川上の組込みソフトウェア事業者は、次の課題に直面している。

3-1-2-1           発受信および端末機能のレスポンス性能の強化、省電力・省メモリの開発

3-1-2-2           セキュリティ-およびフェイルセ-フ機能の向上

3-2                      ロボット

3-2-1        川下業界における用途別特注機種へのニ-ズの拡大、異業種間ネットワ-クの進展、セル方式による多品種変量生産方式の採用とこれに伴う変更時段取り合理化のためのリアルタイム性の向上・産業機械間ネットワ-ク化の推進・機能安全の確保が、内容の新たな課題となっている。

3-2-2        従って、川上組込みソフトウェア業者は、次の課題に直面している。

3-2-2-1           機能安全の確保

3-2-2-2           高品質・省エネルギ-

3-2-2-3           レスポンス性の向上

3-2-2-4           開発期間の短縮

3-3                      情報家電

3-3-1        川下業界では、家庭・オフィスともに、相次いで設置される多様なデジタル機器の相互接続性・相互運用性を円滑に確保すると共に、安全性・ヒュ-マニンタ-フェイス・ユニバ-サルデザインの視点からの要請が高まっている。

3-3-2        従って、川上業界は、次の課題に直面している。

3-3-2-1           情報家電の特性であるネットワ-クを高度に発揮させるため、インタ-ネットプロトコルを高度化する。

3-3-2-2           マルチモ-ダル(文字・音声・表情の組合せ)対応で柔軟にメッセ-ジを伝達する組込みソフトウェアを開発する。

3-3-2-3           家電評価に直結するユーザビリティに対応する。

3-3-2-4           製品の短期ライフサイクルに対応し、複雑化かつ大規模化する組込みソフトウェアを、短期間に開発する。

                                                                                              

3-4                      自動車

3-4-1        川下業界においては、自動車に組み込まれたシステムに対してユ-ザ-が求める機能がAV・交通ナビ・通信への適応に急速に拡大するので、リアルタイム性の向上、電装部品間のネットワ-ク化、機能安全の確保を達成することが課題である。

3-4-2        従って、川上の組込みソフトウェア業者は、次の課題に直面する。

3-4-2-1           障害対応の設計

3-4-2-2           ユニバ-サルデザイン

3-4-2-3           外部ネットワ-クとの接続

3-4-2-4           開発期間の短縮

4.        組込みソフトウェア業者の知財対策

4-1        自社が有する組込みソフトウェア技術に関する知財を認識し、最重要な経営基盤として位置づける。

4-2        川下業界との知財取引慣行を再検討し、取引価格の設定においてソフトウェアの価値・エンジニアの技術力を評価すると共に、知財の権利関係を明確にする。すなわち、組込みソフトウェアに関する共同研究開発を行う結果となる場合が多いと考えられるので、事前に知財の帰属や使用範囲を明確に協定する。

4-3        川上・川下ともに企業秘密が多い業界であるが、情報の非対称性が過度になる場合は、ミスマッチによる対社会的弊害も大となるおそれがあるので、知財に関する双方のコミュニケ-ションを緊密かつ公正に行う。

2006年7月 8日 (土)

電子実装事業者の知財課題

製造中小企業その2(その1は7-7記事)

 弁理士 佐成重範 patent@sanari.name 

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1.        電子実装事業者の課題

  平成18年に中小企業対策新法として施行された「ものづくり基盤技術高度化法」に基づく行政では、「電子部品・デバイスの実装に係る技術を有する中小企業」を「電子実装事業者」と呼んでいる。その技術を需要する広汎な川下業界に対して、電子実装事業者は、川上中小企業者として位置付けられている。川下が抱えている課題に対応することが川上の課題であるから、次項に先ず川下の課題と、川上の対応として中小企業庁が指摘するところを見る。

2.        川下事業者の課題と、電子実装事業者の対応

2-1        情報家電業界

2-1-1        機器の高機能・多機能・小型化のニ-ズに対応して、電子部品・プリント配線板・半導体デバイスを高密度に整合させ、大容量高速情報処理を達成することが課題である。

2-1-2        従って、電子実装事業者は、次の事項を課題とする。

2-1-2-1           複数LSIチップのワンパッケ-ジ化に伴う半導体パッケ-ジ基板の高機能化(3次元実装・部品内蔵エンベデッド技術)の開発

2-1-2-2           材料からシステムまでの統合設計、信頼性向上のためのシミュレーション技術の開発

2-1-2-3           電気特性、デジタルノイズ対策の向上

2-2 自動車業界

2-2-1        搭載する電子機器が、-30℃以下から80℃以上に及ぶ環境下での動作を保証し、かつエンジンや走行による4Gに及ぶ振動の影響を吸収しつつ、人命に直結する安全性確保のための高信頼度を具備することが要求される。

2-2-2        従って、電子実装技術について、次の事項を課題とする。

2-2-2-1 耐振動性が高度な能動・受動素子部品の内蔵化

2-2-2-2 高速・大電流基板の実現

2-2-2-3 耐熱・高信頼性解析技術、電波雑音制御のためのEMI/EMC実装技術の確立

2-2-2-4 車内外通信技術および高信頼性高速デ-タ処理技術の開発

2-2-2-5 放熱・冷却構造、低抵抗配線化、高電圧化対応技術の実現

2-2-2-6 環境負荷物質低減技術の開発

2-2                      ロボット業界

2-3-1        用途が産業用から家庭用・看護用に拡大することに伴い、多様なセンシングデバイスから得られる多量の情報を高速処理・判断し、姿勢制御されたスム-スな動作を行う機構を開発することが課題である。

2-3-2        従って、電子実装技術について、次の課題がある。

2-3-2-1           システムオンチップ・チップオンチップ実装技術、3次元形状・回路パタ-ンから成る樹脂成形品技術の開発

2-3-2-2           マイクロ電子デバイスの多用化と接続技術の開発

2-4                      バイオ・医療業界

2-4-1        高分子材料・有機材料の使用に伴う低温実装、滅菌処理・生体親和性に資する実装、オ-ダ-メ-ド医療に対応する少量多品種生産品の実装が課題である。

2-4-2         従って、電子実装について、次の課題がある。

2-4-2-1           統合実装設計に資する電子実装

2-4-2-2           ウェ-ハ研磨、異種材料積層、接続歪緩和

2-4-2-3           貫通電極・一括積層多層プリント配線板の製造

2-4-2-4           ファインピッチ接続

2-4-2-5           部品内蔵基板技術に資する電子実装

2-4-2-6           ナノ構造成形技術

2-4-2-7           光電気実装技術

2-4-2-8           多端子電極ベアボ-ド電気検査技術

3.        電子実装事業の知財課題

 上記の川上・川下課題に見るように、両者の課題は密接不可分に融合しており、共同研究開発すべき場合が極めて多いと考える。このような場合、両者は事前に知財の帰属・使用範囲について明確に約定し、紛争を完全に予防することが必要である。

2006年7月 7日 (金)

中小製造企業の分野別知財課題

その1.金型製造中小企業

 弁理士 佐成重範 patent@sanari.name 

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 「中小企業に優しい弁理士」を内閣知財戦略本部の知財推進計画06は求めていますが、「どういう弁理士が『優しい』のか」、詳しくは述べていません。先ず「中小企業、特に特許権と関係深い製造業に属する中小企業」の、分野別課題を理解し、対応する知財戦略を、その中小企業と共に考究できる弁理士であることが要件と考えます。

1.中小製造企業の地位

わが国製造業企業の99%以上、すなわち、約55万社以上が中小企業に属する。その従業員数は約660万人に達し、特定の部品製造に特化した企業、特定加工に特化した企業、完成品生産型の企業、研究開発型の企業等、多様な類型に分化または変容しつつ、高度な技術を展開・供給している企業も多い。

以下、中小企業庁の「ものづくり中小企業振興対策」関係資料に即しつつ、SANARI PATENT所見を加えて、分野別に考察する。

2.        金型製造業中小企業について

2-1        わが国製造業全般の国際競争力強化のためには、金型製造企業が需要企業のニ-ズを適格に把握することを要する。すなわち、

2-1-1        自動車製造関係については、各国において燃費規制、排気ガス規制等が強化されつつあり、車体の軽量化、エンジン効率の向上、燃料電池のコスト低減、ハイブリッドシステムの効率向上、電気・電子部品の効率向上、衝突安全性の向上、リサイクルへの配慮等が必須となっている。

従って、自動車製造関係の金型製造中小企業においては、

2-1-1-1 高張力鋼板等の難加工材に対応する金型および成形技術の構築

2-1-1-2 複雑な3次元形状等を創成する金型および成形技術の構築

2-1-1-3ハイサイクル成形を可能とする金型および成形技術の向上

2-1-1-4 工程短縮を可能にする金型技術の開発

2-1-1-5 金型仕上げ工程および成形品後工程の低減化

2-1-1-6 金型の低コスト化と製造期間短縮を可能とする新素材・新製造技術の開発

2-1-1-7 モデリング技術および計測技術の高度化

2-1-1-8 ITの活用

   

2-1-2        ロボット製造関係については、ロボット分野で高度なソフトウェアやネットワ-ク技術、分散システム技術、センシング技術等の情報技術活用が高度化し、安全性・信頼性・利便性の高精度化が益々要求される。従って、ロボット構成部材のうち金型が用いられる構造部材、駆動部品、半導体電子部品、インタ-フェイス部品を生産する生産財としての金型についても、2-1-1と同様の課題がある。

2-2               金型製造中小企業の知財課題

   上記の自動車・ロボット関係を例示として、要求課題に即応する金型技術知財項目としては、次のように考えられる。

2-2-1        成形品の高精度化、微細化、3次元形状化への対応

2-2-2        高速・高精度のハイサイクル成形(温度制御の工夫等)

2-2-3        難加工材成形(AlMg等)

2-2-4        2工程成形を1工程に短縮するなどの複数同時処理

2-2-5        被加工品の磨き処理の不要化

2-2-6        表面処理・材料技術による金型の耐久性向上(加工品との摩擦低減、離型性の向上)

2-2-7        複雑形状の多軸加工

2-2-8        高精度補正

2-2-9        放電加工と切削加工等の複数同時加工

2-2-10    金型鋼材改質夏処理

2-2-11    成形時挙動解析によるバリ発生抑制

2-2-12    ナノ精度計測

2-2-13    高速おいび無接触計測

2-2-14    雌雄型のクリアランス計測

2-2-14.1       Rapid Prototyping

2-2-14.2       技能・暗黙知の形式知化

2-2-14.3       加工および工程シミュレ-ション

2-2-14.4       センサ-による不良現象感知とその自動補正

3.        金型製造業中小企業の知財戦略

3-1        知財の権利化による独自技術の流出、他社による権利侵害判断の困難性と、権利化による優位性の取得、ライセンス料収入を対比し、特許取得・技術秘密保持の選択をすること。

3-2        、自動車・ロボット等を製造する金型需要企業の技術開発情報と、自己の技術情報を、相互裨益的に授受すること。

3-3        金型図面の著作権による保護等、諸知財権の総合的活用を考究・実行すること。

3-4        知財保護のため、地方自治体等の公的機構を活用すること。

2006年7月 6日 (木)

ソニ-の請求を認容:知財高裁7-3判決

情報記憶カ-ド関係の審決取消請求事件

 弁理士 佐成重範 patent@sanari.name 

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1.        この事件の意義

  知財専門家や知財出願企業は、インタ-ネット出願システムの発足に伴って、PINという用語に馴染んだが、訳せば「個人識別情報」である。一般消費者は、PINの用語を知らなくても、銀行や郵便局のATMで、自分が入力したPINと、システムに記憶されたPINが照合されており、カ-ドの使用者が正当な所持者であることが判定されて、預金の引出し等が行われている。

 標記の事件は、この仕組み等に関係する発明の、周知技術との同一性や、想到容易性について、特許庁と知財高裁の判断が相違した例であって、国民生活・経済活動に直結する分野に、広く関係している。

 しかし今次判決で、「本件発明は特許付与対象でない」旨の審決の取消しが判決されたことが、ATM等のシステムの知財体系全般に直ちに影響するものではないと考える。ITによる取引分野は、包括的クロスライセンス等で構成された業界により運営されているから、おそらく、一部企業の特許独占性が影響するところは多くないと考える。一方、ソニ-の発明の創造性が、第1次判決の引用により判示されていることは、もちろん、評価すべきである。

2.        事件の最簡単な要約

  知財高裁2006-7-3判決「平成17年(行ケ)10683号 審決取消請求事件」の原告ソニ-は「情報記憶カ-ド」発明について特許出願し、名称を「情報記憶カ-ドおよびその処理方法」とするなどの補正をしたが、拒絶査定を受けたので不服審判請求し、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の変更補正(本件補正)をした。特許庁は「本件審判請求は成り立たない」旨審決し、ソニ-は東京地裁にその取消を求めた。東京地裁は審決を取消し、特許庁は再びこの審判請求は成立たないと審決したので、その取消をソニ-が知財高裁に求めた。

3.        本願発明(争点である請求項2の発明)の内容(要旨)

 「カ-ド識別装置と無線で情報を授受することにより情報記憶カ-ドを処理する方法で、カ-ドに在る固定情報を読取ってその適正性(本人であること)を判定した上で、固定情報以外の情報を読出し、この情報を処理して、カ-ド使用の履歴情報に含めて記憶させるとともに、この新しい履歴情報と同一または所定部分の抽出情報を、無限ル-プ状に記憶させる工程を有する情報記憶カ-ド処理方法」

4.        争点および知財高裁の判断(要旨)

  今次知財高裁判決は、第1次判決(2005-5-12)の内容について、下記のように述べている。

        記

  審決は、本願発明が公知技術と同一または公知技術から想到容易であるとして、特許性を否定したが、次のような誤りがある。

「審決は、公知技術においても、自動取引装置で出金額を指定すると、出金後、取引内容はICメモリ-に書き込まれる。その際、残高を読取り、出金後にそれを更新するとの記載はないものの、そのような動作を行っているとするのが自然であり合理的である。また、履歴情報の更新とその記憶についても、本件出願は公知技術と格別な差異がない、と判断して、本件出願の特許性を否定した。

 しかし、公知技術である銀行ATMにおいて口座残高は、カ-ドのみから読取ることはできず、銀行センタ-のホストコンピュ-タ-が口座ファイルから読取り、取引に関する処理を行った後、処理後の残高をATMに送信するものであることが明らかである。

 従って、上記審決の判断は誤りである」。

 その他の争点についても、審決の判断に誤りがある。

  

5.        所見

  今次知財高裁判決主文は、「特許庁が不服2003-14440号事件について平成17年8月1日にした審決を取消す」(請求と同旨)と示されたが、判決の結びには、「なお、本判決は、主として本件審決の手続上の違法を理由に取消したものであり、本願発明の要旨認定の誤りの有無等の実体上の事由については何ら判断しておらず、今後特許庁において適切な手続運営の下で、他の引用例の有無も含め、改めて審理されるべきものと考える。よって、その余について判断するまでもなく、原告ソニ-らの請求には理由があるからこれを認容する」と述べている。

 本件の経緯全体を通じて、行政・司法を含む特許性画定の法体系に複雑さが見受けられ、国民が理解し易い制度構築の検討が望まれる。

2006年7月 5日 (水)

シャ-プ㈱の知財戦略史

知財権の総合戦略

 弁理士 佐成重範 patent@sanari.name 

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1.        戦略的知財経営

 内閣知財戦略本部の知財推進計画06は、権利の態様を異にする諸知財について、その総合力発揮の重要性を強調し、次のように述べています(要旨)。

1-1 「特許、意匠、ノウハウ、ブランド、コンテンツ等の知財戦略の策定について、経営トップ自らが技術・研究開発部門や知財部門を主導し、統一的な見地に立った経営戦略を推進するため、企業における最高知財責任者や知財担当役員を設置することを奨励する」。

1-2 「事業戦略と研究開発戦略と知財戦略とに、三位一体で取組むことが重要である」。

1-3 「特許動向等の技術動向や市場動向等を踏まえて、技術戦略マップの改訂を行うことを推進する」。

2、権利保護における知財総合戦略

 上記各項目は、自社知財の防衛的保護の局面、すなわち、模倣品等排除の戦略についても、諸知財の総合的戦略が必要であることには、直接的には言及していませんが、総合戦略が知財サイクルの全局面において発動されるべきことは、具体的事例に即して考察するとき、最も明確に認識され得ます。

3.シャ-プ㈱の具体例

  上記の「具体例」は、個々の企業の戦略内容ですから、容易に多数例を把握できるものではありません。この意味で、例えば内閣知財戦略本部の権利保護基盤強化専門調査会で開陳されたシャ-プ㈱の次のご説明(要旨)は、熟考すべき貴重な資料と考えます。

1998年に就任したシャ-プ㈱の新社長は、液晶への特化と共に、女優の吉永さんを使い、かつ外部のデザイナ-を使って、インパクトの高い作風のカタログを作り、液晶を用いた製品をPRしました。

 三重県亀山で、液晶パネルとテレビの一体構造型の37インチ液晶パネルの生産を開始するに際しては、国内での秘密を守ることを強く意識しました。

 およそ製造業の企業が生き延びるためには、次の3つの要件を充足する必要があります。すなわち、

3-1        特に特許を含めて、日本での模倣品。侵害品を阻止すること

3-2        技術流出を阻止すること

3-3        海外での模倣品に対応すること

 このうち3-2については、亀山工場全体をブラックボックス化しました。定年退職者の秘密漏洩に、どのように対処するかも、大きな問題とした。

 権利保護のうち、商標や意匠の侵害は、外見からの判断が比較的容易ですが(SANARI PATENT注:商標については、商標表示部分と本体を別々に輸入し、通関後、両者を接着する態様への対応が法的のも課題ですが)、特許の侵害は、訴訟確定に時間を要し、水際阻止がかなり困難です。

 意匠権侵害への対応では、改正関税定率法の適用を初めて受けました。

 シャ-プ㈱製品について、中国・韓国を中心に東南アジアでの模倣品が、意匠侵害と商標侵害という形で多発してきました。国内でエアコンに液晶を用いた新製品を初めて出したその年内に、中国で同様の製品がでています。複写機のト-ナ-についても、外見ではほとんど差がない模倣品が、香港やシンガポ-ルにでています。

 特許侵害では対処困難で、意匠侵害で対処できた例(液晶の意匠関係では、改正関税定率法の初モデル)もあります。

 このような諸知財権の総合的発動と共に、海外では、日本各社の総合力の発揮が必要です」。

4.所見

  模倣品対策は、知財推進計画06において27項目にわたり計画されていますが、「必要に応じ法改正等、制度を整備する」事項が多く、逆にいえば法体系上、直ちに新法または法改正に踏み切れなかった内閣知財戦略本部および産構審知財政策部会の事情が読み取れます。例えば、「税関長は、侵害認定手続期間内に裁判所の仮処分命令があった場合には、特段の事情がない限り当該命令における侵害判断と同一の侵害判断に基づいて侵害認定が行われていること、および、水際における迅速な救済の必要性にかんがみ、裁判所には、仮処分命令が迅速になされるよう訴訟運営面での対応が望まれる」という「計画事項」の内容は、議事録に即して委員間・官庁間の発言の法的含意(司法と行政の相関)を知悉しなければ理解し難いところです。

 知財総合戦略が訴訟力の具備を要件として、創造の段階から始まることは、サイクルの起点として当然ですが、同時に、模倣品排除力の具備を、サイクルの当初から要件とする戦略が必須と考えます。

2006年7月 4日 (火)

「発明」の本質

特許制度検討の起点

 弁理士 佐成重範 patent@sanari.name 

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1.        発明の定義

 U.S.A. Patent LawPART 2Patentability of Inventions and Grant of  Patents」第100条「Definitions」には、「The term “invention” means invention or discovery」と定めていますが、先発明主義のもとで特許付与の対象となる発明がどのような発明であるかは、第102条g項により、conceptionreduction to practice, reasonable diligence等の要素により決定されます。

 わが国特許法第2条では「発明の定義」を「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定めていますが、米国特許法と比べて「自然法則」「高度」の限定が、ソフトウェア特許、ビジネス方法特許、進歩性・有用性判断等をめぐり、日米特許制度の調和を審査基準改正の方法により実現する必要をもたらしてきたことは周知の通りです。

2.「発明」の意味を再考する必要性

 内閣知財戦略本部の知財推進計画06は、先使用権制度の活用を強調していますが、この記述に到達するまでには、発明のどの段階を権利化すべきかについて、多くの議論が見られました。

 発明を、発明のどの段階において保護対象となすべきかは、特許制度の構築と改正の最も基本的な課題であり、また、発明に基づく対価配分の享受適格者性、換言すれば、発明への寄与者とその寄与率を画定するための前提です。

3.        発明の本質論

  上記の重要性にもかかわらず、発明の本質論は、内閣知財戦略本部や産構審知財政策部会の議事にも、ほとんど見受けられません。この意味で最近、特許庁審判官・柴田和男氏が日本弁理士会パテント誌(Vol.59)上で表明された次の見解(要旨)は、極めて貴重であり、制度検討において参考とすべきであると考えます。

「発明について特許を受けることができるといっても、意匠や商標と異なり、保護の客体である発明は、その実体が明らかでない。個別具体的なものとしても、普遍抽象的なものとしても、また、その中間にも、段階的な把握が可能であって、発明を、明細書中にいかに詳細に開示したとしても、発明自体が一義的に定まるものではない」。

 この見解の意味を真に理解するためには、同氏論説の全文を熟読する必要がありますが、業界・行政・司法・知財専門家のすべてが、先ずこの見解の要旨に立脚する必要があると考えます。

2006年7月 2日 (日)

今次会社事業報告書の知財事項

知財報告書は事業報告書と別立で:

 弁理士 佐成重範 patent@sanari.name 

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1.        株主総会集中の後:

 6月末の株主総会集中日に続行して、各社の事業報告書が集中して配達されますが、知財の未来志向と展開限度の予測困難性から、企業会計原則による金額価値の財務諸表項目計上に知財が適合しないことは明白であり、知財報告書が企業報告書と別立てで発行されていることは当然と考えます。

 しかし、両者のそれぞれに、架橋がなされるべきことも、当然です。この架橋の態様例を、6月末株主総会承認の今次事業報告書に、瞥見してみます。

2.        技術クラスタ-による組織再編:冠ブランド-[東洋紡]

 (要旨)「重合・変性・加工・バイオのコアテクノロジ-を駆使し、新しい価値を創出し続ける高機能スペシャリティ事業の集合体を目指します。このため技術クラスタ-に基づき事業部を再編し、化成品、機能材、バイオ、繊維の各部で技術の融合とコア技術の強化を促進する体制を整えました。」

 「阪大発のベンチャ-が進める糖尿病合併症リスク診断のため、百種類の遺伝子多型(体質の指標になるマ-カ-:SNP)を同時に測定する受託サ-ビスを本格的に

開始しました。」

「心理状態を生理デ-タで評価する計測技術を開発しました。膨大なデ-タを多変量解析し、心理・生理マップから多様な製品を『メンタルバランス』の冠ブランドをもって展開します。」

3.        ホ-ルガ-メントブランド新機種の世界トップアパレル進出-[島精機]

  (要旨)「ホ-ルガ-メントは、マックスマ-ラやグッチ、エルメスなど世界のトップブランドを始め、レディスのみならず、ペネトン、ナイキなどカジュアル・スポ-ツブランドでも採用が進み、その人気は世界最大の国際ニット機械見本市IKME(2005-11-18~22:ミラノ)で裏付けられました。着心地は、第二の肌(セカンドスキン)と絶賛されています。」

SANARI PATENT注:内閣知財戦略本部知財推進計画が強調するわが国ファヨンコンテンツの世界進出を、ニット革新技術の機器の知財で支えるものと考えます)。

4.「選択と集中」「物への投資から時間への投資に」-[新電元]

(要旨)「薄型TVと地上デジタル対応で高速整流ダイオ-ドを、二輪と車載エレク対応で小型面実装ダイオ-ドを、光化と新世代ケイタイ対応で基地局電源システムを選択・集中し、その成否を時間との勝負と見て、『時間への投資』に、発想を切替ます。」

4.        中華料理関連特許-[ニチロ]

(要旨)「新商品『中華炒飯』は、『赤坂璃宮』の譚総料理長の指導のもと、その製法を完全に再現した商品で、製造機械については、特許出願中です。」(SANARI PATENT注:内閣知財戦略本部知財推進計画では、日本料理を日本ブランドの主役として世界に普及、と強調していますが、上記の特許が付与されれば、「日中融合ブランド食」になるものと考えます。)

5.        所見

 知財のうち財務諸表項目として計上されているのは、ソフトウェア購入費を取得価額評価として無形資産欄に示しているのが一般的ですが、ライセンス料を事業収入項目として金額表示している例も見受けられます。しかし、大手電気機器メ-カ-のように包括的クロスライセンス契約が一般的な業界では、収支相殺で記載していないようです。

 国際的知財訴訟の和解経過を記述している例もありますが、投資家向けには、知財関係を含めて主要な法的紛争内容を事業報告書に開示することが、欧米では一般的と考えます。

2006年7月 1日 (土)

カズノコ・タラコ等の魚卵包装

魚卵包装発明について知財高裁判決(6月30日)

 弁理士 佐成重範 patent@sanari.name 

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1.        原告ニチモウ㈱の審決取消請求を棄却:

 原告ニチモウは、「魚卵の包装方法および包装体」(以下「魚卵包装」と略称します)という名称の発明につき特許出願、さらに手続補正しましたが拒絶査定され、審査請求および補正を行いました。特許庁が「請求不成立」と審決したので、ニチモウがその取消を請求し、知財高裁が「平成17年(行ケ)10593審決取消請求事件」判決(2006-6-30)をもって、ニチモウの請求を棄却した事案です。

2.        本件「魚卵包装発明」の内容(要旨):

 魚卵を入れた容器と、脱酸素剤・魚卵の一部をフイルム内面に密着させて、密封し、内部の空気を窒素ガス等で置換し、密封容器内の残存酸素量を極微量に抑制することを特徴としています。

3.        争点と知財高裁の判断(その1):

 ニチモウの本件発明が、引用発明並びに周知事項(以下「先行技術」と略称します)に基づく、「当業者の想到容易」なものであるかが争点とされました。

 ニチモウの発明と先行技術の一致点は、「魚卵を内部に入れた容器と脱酸素剤とを密封した容器であって、残存酸素量を極微量とする魚卵包装」であると、知財高裁は認識しています。

 ニチモウは相違点の一つとして、つぎのように主張しました(要旨)。

「先行技術では、包装体内の酸素濃度について『包装体の密封後12時間以内に包装体内部の雰囲気中の酸素濃度を0.1%以下とする』としているから、12時間を経過するまでは、包装体内の酸素濃度が高く、魚卵の酸化による色の劣化変色が発生する。

 本件発明では、包装体内の空気を窒素ガス等と置換して密閉するので、密封直後から、残存酸素量が極微量である。」

 知財高裁は、「ニチモウの補正後請求項には、『密封容器内の残存酸素量が密封後のどの時点から極微量に抑えられるかの記載がない。また、残存空気量の許容限度の具体的記載もない』と指摘し、ニチモウが主張する「先行技術との相違点を認めなかった審決の誤り」を否定しました。

4.        争点と知財高裁の判断(その2):

 ニチモウは、「本件発明では、魚卵は容器底部と、ガスバリア性が高度なフイルムを材料とする密封容器の内面に、圧迫状態で挟持されるので、魚卵が密封容器内面に密着するが、これを、『先行技術から想到容易とする審決の判断は誤り』である」と主張しました。

 しかし知財高裁は、「このような相違点が請求項に記載されていないので、ニチモウの主張は特許請求の範囲の記載に基づかないものであり、採用できない」と判示しました。また知財高裁は、カズノコ・タラコを例示して、その密封包装体が、本件出願前に周知であったと指摘しました。

5.        争点と知財高裁の判断(その3):

 ニチモウは、「本件発明の技術内容である『魚卵内含有酸素が外部に滲出するのを脱酸素剤により吸収することは、先行技術に開示されておらず、脱酸素剤に加えて、不活性ガスで密封容器内空気を置換すること』は、想到容易ではない」旨を主張しました。

 知財高裁は、「魚卵包装体の製造に際し、脱酸素剤の装填のみならず窒素等を空気と置換・密閉することは当業者が適宜行い得ることであった」として、特許庁の想到容易性判断に誤りなしと判示しました。

6.        争点と知財高裁の判断(その他)」:

 ニチモウは、審決が本件発明の顕著な効果を看過していると主張しましたが、知財高裁は、「先行技術を超えて優れているとはいえない」と判示しました。

7.        所見:

 ニチモウ製品の品質は、需要者に高く評価されており、明細書の記載をさらに精密にできるノウハウの存在も考えられます。

 別論ですが、本件知財高裁判決と、これに引用された特許出願文書は、内閣知財戦略本部が唱導される「知財権文書を書き易く・読み易く」に適合し、関与された中尾俊輔・伊藤高英・両訴訟代理人弁理士の御心遣いが偲ばれます。

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